蔦子は自室で頭を抱えていた。
「蔦子さん、当日は可愛い格好してきてね」
「祐麒は蔦子さんとデートということで引き受けてくれたの」
祐巳の言葉が頭の中で何度も繰り返される。
そんなこと気にしなければ良い、祐巳だってからかい半分で口にしたに決まっている。
明日はあくまで撮影に行くのだから、アクティブで動きやすい服装で行くべきである。
そう結論づけて、汚れても良いようなシャツとデニムを取り出してベッドの上に並べる。
何の問題もないはずだ。
「……でもさあ、やっぱりその方が祐麒も喜ぶと思うし」
また、祐巳の声が響く。
「あーもうっ、なんで私がっ」
こんなに頭を悩ませなければいけないのだろう。
ため息をつきながら、ちらりと視線を横に向ける。
そこには、リボンのあしらわれたブラウスや、ホワイトデニムのミニプリーツのスカートなどが並べられていた。
横にしてみれば瞭然として、ブラウスとスカートの組み合わせの方が可愛い。
でも、こんな格好、学園の友人にも見せたことはない。
というか、可愛いからと買ったものの、今まで一度も着ること無くクローゼットの中で眠っていたものだ。
「だって、どうせ似合わないでしょ」
祥子や志摩子のような美人じゃない。
祐巳のような愛嬌もない。
そもそも、可愛く着飾るのは被写体にお願いするもので、自分がするものではなかった。
もちろん蔦子だった女子高校生だ、お洒落に興味がないわけではないが、それ以上に優先して来たものがあったのだ。
「こんなの来て、しゃがみ込んだり這いつくばったりできないじゃない」
ブラウスとスカートを手に取り、口を尖らせる。
「やっぱり、こっちよね」
自分を納得させるように頷くと、蔦子はブラウスとスカートをクローゼットにしまった。
はずだったのに。
「なんで私……」
朝、家を出る直前に部屋にとってかえし、着替え直してやってきた。
しかし、後悔した。
恥ずかしい。
なんでこんな、よりによってベアトップ!?
自分で自分に突っ込みをいれざるをえない。
もちろん、上にブラウスをあわせているけれど、胸元が気になる。
高校に上がってから、胸のサイズがアップしているのだ。
撮影するのには邪魔なんだけど……
今からでも家に帰って、いやそんな時間があるわけない。
もやもやしているうちに時間は過ぎてゆき、そして。
祐麒の視線が、蔦子の全身に注がれるのが分かる。
胸に向けられるのも分かる。
羞恥で頬が熱くなる。
だけど、祐麒の表情がわかりやすく変化し、そして顔が真っ赤になっていくのを見て。
胸の奥の方が、なんだかほんわかと温かくなったような気もして。
やった、成功!?
って、成功って何よ!?
なんて思う自分がいて。
もしかしたら今日は、いつもと違う写真が撮れるかもしれない、なんてなんの根拠もなく思ったりするのであった。
おしまい