ノーマルCP マリア様がみてる 清子

【マリみてSS(清子×祐麒)】真冬の夜の夢

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~ 真冬の夜の夢 ~

 

 柏木優に連れられてやってきた小笠原家。その場に祐巳までいることには驚いたけれど、なんとなく、なぜ柏木や、あるいは佐藤聖が祐麒と祐巳を引き連れて小笠原家にやってきたのかは分かった気がした。
 正月のこのとき、小笠原家は極端に人が少なくなる。使用人達には正月休みをとらせ、そして家の主人はといえば愛人のもとへと行ってしまう。残されるのは、清子と祥子という母娘になる。
 正月だというのに、それは寂しいではないかと、せめて賑やかに楽しく過ごせるようにと連れて来たのだと、なんとなく想像がついた。
 もちろん、そんなことを口に出したり、態度に出したりするようなことはしない。あくまで、単に先輩と一緒に遊びに来たんだと、無邪気に騒ぐのが一番だと理屈抜きに理解できる。実際、小笠原家の中は凄くて、庶民でしかない祐麒は、その豪華な家のつくりを含めた様々なことに内心で興奮している。
 祐巳達がお祭りの屋台で購入してきた焼きそばやらお好み焼きやらを楽しみ、皆でゲームをして、おしゃべりをして、楽しい一日は過ぎてゆく。
 大きなお風呂で体を温め、出てきたところで伸びをする。温泉でもないのに、個人宅でこんな広い風呂に入ることができるなんて、思ってもいなかったと、小笠原家に来て何度目かの感嘆の息を漏らす。
「祐麒さん」
「はい……あ、さ、祥子さん」
 声をかけられて振り返ると、祥子が立っていた。楽な部屋着姿となっているのに、それでも上品な立ち姿はさすがお嬢様といったところか。さらに、祥子も風呂上がりなのか、頬や首筋が血色良く、肌がほのかに桜色を帯びているのがなんとも色っぽく感じる。長い黒髪も、つややかに光り輝いている。
「今日は、ありがとうございました」
 目の前で祥子が、頭を下げる。
「え、あの、そんな俺の方こそ今日はいきなり押しかけてしまって、それなのにありがとうございます」
 と、慌てて深々と頭を下げる。
 しばらくして顔をあげると、わずかに笑ったような表情をした祥子が、祐麒のことを見つめていた。
「いえ、本当に私の方こそ。おかげで、とても楽しい一日となりました。母も、本当に楽しんでいます」
 祥子のことは、祐巳から色々聞いてはいたが、こうして二人きりでまともに話すのは初めてである。
 目の前にして、その気品漂う立ち居振る舞いと、言葉で表現するのが難しいような美貌に、圧倒されそうになる。
「それでは、湯ざめなどされませんように」
 軽く頭を下げて、祥子は去っていく。
 その後姿を、ぼーっと眺めていると。
「おー、なんだなんだ、祐麒は祥子狙いかー?」
「うわっ、わ、せ、聖さんっ!?」
 横からいきなり現れた聖に、肩を抱かれる。
 そして横から、人の悪い笑みを浮かべて祐麒を見つめ、指先で頬をつついてくる。
「姉弟そろって、好みは同じか? まー、祥子くらい美人だと、気持ちも分かるけどね」
「あの、ちょっと、聖さん」
 聖もまた湯上りなのであろう、すぐ横からほんのりと良い香りがただよってきて、祐麒をくすぐる。
 そして何よりそれ以上に、身を寄せてきている聖の胸が、腕にあたっている。
「あれ、何、真っ赤になっちゃって、可愛いなあ、こいつめっ」
「うわっ、や、やめてくださいよっ」
 頭の上に手をおかれ、ぐしぐしと髪の毛を掻きまわされる。
「いやー、それにしてもやっぱり祥子、おっぱい大きいなー、形もよかったし」
 祐麒から体を離して、真面目な顔をして聖が論評し始める。上下スウェット姿であるが、容姿が日本人離れして整っているので、そんな格好でもサマになるのが、ある意味凄い。
「祐巳ちゃんは、まだまだこれから、発展途上って感じだね。でも、そのまだ未成熟な身体というのが、なんともたまらないというか、これからの成長を見守っていくのが楽しみというか」
 発言が完全にエロ親父になっている。しかも、本心で楽しそうに言うのだから、この人は何なんだろうと思ってしまう。
「だけど、一番驚いたのは清子さんだね。祥子を生んだとは思えないほどの、整ったプロポーション」
「え」
 顎に手をあてて唸っている聖。
「お肌もすべすべで張りがあったし、腰のくびれも文句なし、20代のお肌だよ、あれは。あと、胸も大きいうえに形が良い。祥子は、清子さんの良いところをすべて受け継いでいるね」
「はあ」
 確かに、清子は見た目にも若いと思っていたが、聖がそこまで褒めるほどのものだったとは。思わず、清子の肢体を思い浮かべそうになり、赤面して慌ててその邪な想像を打ち消す。
「だけど今日は諦めな、祐麒」
「な、何をですか?」
 にやにやと笑っている聖を、訝しげに見返す。
「今日はあたし達、一緒に寝るから、祥子に夜這いかけようとしても無理だから」
「よば……って、な、何を言ってるんですかっ!」
「あっはっは、じゃあね~」
 逃げ脚素早く、聖は祐麒のことをからかうだけからかって、さっさとどこかへ行ってしまった。
 夜這いだなんて、考えたこともないというのに、聖に言われて変に意識をしてしまいそうになる。無論、祐麒とて年頃の男であるから、色々とその手の想像をするとか、興味なんかは人並にあるけれど、だからといって無節操に行動に移すわけもない。
 要するに、普通の青少年として、頭の中だけの妄想にとどめておくわけだ。その妄想もあまりに過激だと、精神を疑われるかもしれないが、幸いのところ祐麒はそこまでは病んでいないのであった。

 

 夜も更け、一同は就寝する。祐麒は優と同部屋、祐巳と聖と祥子が同部屋と、あたりまえの部屋割ではあるが、襖一枚隔てた隣に美少女達が寝ているというのは、ある意味刺激が強い。それでも、就寝前のちょっとしたドタバタ騒ぎと、一日の疲れから、すぐに眠りへと落ちていく。
 そのまま朝までぐっすり眠るかと思っていたが、夢見が悪くて夜中に目が覚めてしまった。その夢の中では、なぜかリリアンの制服を着ている祐麒が、優に目をつけられて執拗なまでに追われ、求愛されるという、祐麒にしてみれば最悪としかいいようのないものであった。
 もう一度寝ようにも、どうにもなかなか寝付けず、それほど行きたくもなかったがトイレに行くことにする。布団から這い出ると、さすがに冷気が体に押し寄せてくるが、我慢できないわけではない。体を少し縮こまらせるようにしながら、そっと寝室にあてがわれた部屋を出て手洗いに向かう。
 広々としたトイレを落ち着かなく利用し、さて部屋に戻ろうと歩いているのだが、どうにも見慣れぬ場所へとやってきた。暗いのと、そもそも小笠原家が広いのとで、どうやら曲がるところを間違えてしまい、どこか別の所に迷い込んでしまったようだ。
 適当な部屋に入ってみる、なんてわけにはもちろんいかず、寒さの身に染みる1月、廊下で一人佇んでいると、どんどん体が冷え込んでくる。
 このまま立ち尽くしていても仕方ないので、とりあえず歩きだす。幾ら広いといっても、限りはあるわけで、歩いていればそのうち寝ていた部屋に辿り着く筈である。音を立てないよう、そっと廊下を歩きだす。
 しばらく歩いていると、なぜかリビングに出てしまった。ここまで方向感覚がなかっただろうかと思いながらも、リビングからだったらなんとなく、方向が分かるので、それを頼りに戻ろうかと思っていると。
「……あら」
「え……あれ、祥子、さん?」
 暗がりに人影が見え、そう呼びかけると。
「あらやだ、祥子さんに見えて?」
 姿を見せたのは、清子であった。いくら親子とはいえ、祥子だと思ってしまったのはなぜだろうか。
「どうしたのかしら、こんなところに。あ、喉でも渇きました?」
「いえ、その、トイレの帰りに、恥ずかしながら迷ってしまいまして」
 取り繕っても仕方がないので、素直に白状すると、清子は可笑しそうに表情を緩める。
「まあ、実は私も時々、迷ってしまうのよ。自分の家だというのに、いやねえ。それでいつも祥子さんに呆れられてしまうの」
 屈託なく笑う。
 自分の家で道に迷うというのも凄いが、それを笑い話にしてしまうというのも、なんだか凄い。しかも冗談ではないというところが、また凄いわけだ。
「清子さんは、どうされたんですか?」
「私は……そうだわ、良かったら祐麒さん、少し付き合って下さらないかしら。体も冷えてしまったでしょう?」
「はあ……何をでしょうか」
 祐麒の問いには答えずに、清子は一人でキッチンの方に入っていく。そのまま戻ってしまうわけにもいかないので、仕方なく清子を追うようにしてキッチンの方に向かう。キッチンといっても十分に広く、キッチン内にも大きなテーブルが置いてあり、そこでも食事ができるような場所である。
 そっとキッチンに顔をのぞかせてみると、清子が何かを手にして出ようとするところだった。
「せっかくですもの、キッチンではなく、リビングでいただきましょう」
 よく分からないが、またも清子の後を追ってリビングに入り、勧められるがままにソファに腰を下ろす。
 暗いがメインの照明は灯さず、リビングのローテーブルの上に置いてあった綺麗なキャンドル型の小さなライトをつける。ぼやけたような光に照らし出される、祐麒と清子。その灯りで清子の姿を見て、思わず心臓が跳ねる。
 上品な浴衣の寝間着に身を包み、寒さのためかその上から更に何かを羽織っている清子。ライトに浮かび上がるその姿、着物からわずかに覗いて見える胸元の肌、そして髪の毛を軽く後ろで束ねていることで見えるうなじ、それらは光に照らされ濃淡を描いて見せている。影になった暗い部分は妖しく、浮かび上がるような白い肌は清純に、清子を映し出す。
「どうぞ、祐麒さん」
 清子の声に、はっとなる。
 じっと見つめていたことに、気づかれていないだろうかと不安になるが、清子の表情は何も変わった様子がない。
「ささ、遠慮なさらず。温まりますよ」
 差し出されたのは、茶碗だった。受け取って中をのぞくと、白く濁った液体が揺れており、湯気を立ち昇らせている。
「特製の甘酒です。本当は明日、皆さんと一緒に飲もうと思っていたんですけれど、つい、我慢しきれなくなって」
 言いながら清子は、自分の手にした茶碗に口をつけ、すっと飲み込む。茶碗から口を離すとき、ほぅ、というように漏れる吐息が色っぽい。
 なんだか恥ずかしくなり、つい目をそらして、とりあえず自分自身を誤魔化すかのように甘酒に口をつける。
「あ……美味い」
 甘みと、酒粕独特のツンとくる香りがバランスよく混じり合い、喉越しもよくするすると飲んでいける。一口、また一口と飲んでいく毎に、身体の奥からぽかぽかと温かくなってきて、心地よさが押し寄せてくる。
「ふふ、気にいっていただけたようで、良かったわ」
 清子もまた、美味しそうに飲んでいく。
 深夜、二人きりのリビング、さすがに何を話したらいいのかもよく分からないので、とりあえず甘酒に口をつけることで時間を稼いでいると、たちまちのうちに一杯、飲みほしてしまった。
「良かったら、おかわりいかが? まだ沢山、ありますから」
「そ、そうですか。それじゃあ」
 そう言うと、清子は立ち上がりキッチンに向かう。すぐに戻ってくると、手にしていたのは薬缶だった。
「えっと……それに、甘酒が?」
「はい、温めるといえば薬缶かと……変でしょうか」
「あ。いえ、別に」
 変な気はしたが、それ以上は口を挟まない。清子は薬缶を手にしたまま、祐麒が座っているソファのすぐ隣に腰をおろした。急接近に、思わずのけぞりそうになる。
 隣で硬くなっている祐麒のことなど気にする様子もなく、清子はテーブルの上に置かれた茶碗に、薬缶から甘酒を注ぐ。
 注ぐために前かがみになった清子の、浴衣の前の部分が少したわみ、隙間から肌の曲線が目に入って見えた。一気に鼓動が激しくなる。見てはいけないと思っても、どうしても目をそらすことが出来ない。
 滑らかな肌は、薄暗い明りの下でも、充分にその艶やかさを感じ取ることができる。風呂上がりに聖に言われたことが、頭の中でよみがえってくる。
「さ、どうぞ祐麒さん……どうかされましたか?」
「いいいえ、い、いただきます」
 下から見上げられて、慌てて視線を甘酒の方に転じ、二杯目を口につける。鍋敷きの上に薬缶を置き、清子も茶碗を手に取る。
 二人、ほとんど寄り添うような形となり、祐麒の動機はさらに速くなる。
「ふふ、やっぱり一人で飲むよりも、こうして誰かと一緒に飲む方が美味しいし、楽しいわね。祐麒さんには、こんなおばさんと一緒で申し訳ないけれど」
 甘酒を一口飲みながら、楽しそうに清子が言う。
「そ、そんなことないですよ。清子さんは、とても若々しいですよ」
 祐麒もまた、甘酒を口に含むが、今はもう味がよくわからなくなっていた。漂ってくる香りが、甘酒のものなのか、それともすぐ隣にいる清子のものなのかも、判然としない。
「あら、嬉しい……もう一杯、いかが?」
「い、いただきます」
 一杯目を飲み終えた清子は、自分の茶碗と、そして二杯目を飲みほした祐麒の茶碗にお代りを注ぐ。
「あの、本当ですよ」
 三杯目に手をつける前に、祐麒は口を開いた。
「はい?」
「清子さんは、その、本当にお若いですよ。肌だって綺麗だし、祥子さんと姉妹といっても、おかしくないかと」
「さすがにそれは言いすぎよ。でも、ありがとう、嬉しいわ」
「冗談とかじゃ、ないですよ」
「え……祐麒さん?」
 清子が、祐麒の方に顔を向ける。
 明りに照らされた清子の頬はほんのりとピンク色で、額にも眼尻にもほとんど皺など見えないくらい。
 きょとん、としたような瞳はまるで無垢な少女のようで、苦労知らずなのかもしれないが、だからこそ若々しさを保っているのかもしれない。
「あの……」
 顔が熱くなってくる。
 何をしているんだ、相手は祐巳の大事な先輩のお母さんで、当然のように結婚して夫がいるわけで、そんな女性に対してまずいだろうと思いながらも、このまま突き進んでしまいたい欲望がこみあげてくる。
 目の前の清子も、嫌がるそぶりを見せるわけでもなく、じっと祐麒のことを見つめ、まるで待っているかのよう。
「祐麒、さん……」
 清子の口から自分の名前が出るだけで、痺れる。甘酒の匂いを伴った熱い吐息が、祐麒を酔わせる。清子の細い指がのび、祐麒の頬に触れる。全身が熱をもったように熱くなり、理性が吹き飛びそうになる。
 このままいくしかない、そう、心の中で何かが振り切れそうになった時。
「……もう、祐麒さんたらこんなに真っ赤になっちゃって、甘酒で酔っちゃったの?」
 と、清子にほっぺたをぷにぷにと指で押された。
「……へ?」
「ごめんなさいね、私も調子に乗って飲ませちゃったから。祐麒さんがそんなにお酒が弱いなんて、知らなくて」
 どうやら、これまでの祐麒が、酔っ払って変なことを言っているくらいにしか受け取っていないようだった。
「いや、あの」
「それじゃあ、体も温まったし、冷えないうちにお布団に入りましょうか。あ、お部屋まで案内しましょうか」
 立ち上がり、甘酒などを片付けながら聞いてくる清子。
「いえ、だ、大丈夫です」
「そう? 立てますか?」
「はい……」
 まだうまく頭を切り替えられない祐麒。その姿を見て、立ち上がれないと勘違いしたのか清子が寄ってきて、腕を取って立たせようとしてくれる。
「あ、すみません、大丈夫です……あ」
「どうかした?」
「い、い、いえ、なな、なんでも、大丈夫ですっ」
 祐麒の腕を取った時、肘に清子の胸が当たったのだ。途端にまた、顔が熱くなる。
「あらあら、本当に真っ赤っか。やっぱり部屋まで案内しますね」
 完全に祐麒が酔っぱらってしまったと勘違いしたのか、平気だと言っても取り合ってくれず、結局、腕をとられたまま寝室に案内される。
 もちろん、案内される道中、時々腕に触れる感触に、祐麒はただ顔を赤くするしかないのであった。

 

 寝不足のまま迎えた翌朝。
 なかなかに酷い顔を優や聖、そして祐巳にからかわれながら朝の支度をする。空気は冷たいが清々しい朝、リビングに行っても昨夜の名残もなく、あれは現実にあったことなのだろうかと疑いたくなる。
 清子の様子ももちろん、変わったところなどなく、淡々と朝食を終える。そして食後のちょっとしたくつろいだ時間、水をもらおうとキッチンに入ると、そこには清子の姿があった。
 なるべく意識しないようにと思っても、どうしても昨夜の姿を思い出してしまう。今も和服姿であるが、寝間着であった夜とは全く雰囲気も異なる。夜の清子からはそう、なんともいえない色香を、ごく至近で感じさせられたのだ。
 内心でそんなことを考えながらコップに水をいれていると、清子が近付いてきて、少し小さな声で言ってきた。
「祐麒さん。昨夜のことは、二人の秘密ということで、ね?」
 どこか楽しそうに、人差し指を口の前で立てている。
 夜中にこっそり、甘酒を飲んでいたことを知られたくないのだろうか。まあ、祐麒としても、とても他人に言えるようなことではないので、素直に頷く。
「でも、祐麒さんは初めてだったのかしら? あんなに真っ赤になっちゃって」
「は、はあ、お恥ずかしい」
「別に、恥ずかしくなんかないですよ、ふふ」
 とは言われても、笑われてしまうと、恥ずかしさばかりがこみ上げてくる。赤くなったのは甘酒のせいではないのだが、あえて違うということもなかろう。と、いうか、違うと言ったところで、なぜ赤くなったか説明するのに困る。
「でも、私も嬉しかったですよ、お肌とか若々しいって言われて。すっかり、心も体も温まっちゃったから」
「わ、は、恥ずかしいから言わないでください、そんなこと改めて」
 あのときのことを思い出すと、実は本当に酔っていたのではないかと思ってしまう。
 まさか自分が、本当に思っていることとはいえ、あのような台詞を口にするなんて。
「そ、それより、俺こそすみませんでした。立つの、手伝ってもらったりして」
「いいえ、私でもお役に立てたのであれば、嬉しいわ」
「はい、お陰さまで無事に行けましたし」
「久し振りに楽しい夜だったわ」
 微笑む清子。
 そんな清子の顔を見ていると、まあ、誤解だったとしても楽しんでもらえて良かったなと思うのであった。

 

 一方、そんな二人がいるキッチンのすぐ隣で、聖は立ち尽くしていた。思わず大きな声を出しそうになったところを、どうにか手でおさえたものの、頭の中はパニック状態であった。
(――え、え、今の何っ!? ゆ、祐麒のやつ、昨夜は清子さんに夜這いをかけたの!? 清子さん狙いだったってゆーの!? でも、二人だけの秘密って、そういうことだろうし、って、清子さん、受けちゃったってことじゃない。え、何、旦那さんが愛人作っちゃっているから、自分は若い男の子と……!?)
 真っ赤になりながら、聖は必死に落ち着こうとするが、ひそやかで且つ激しい会話の内容に、さすがの聖も混乱が収まらない。
(で、何、祐麒は初めて? 真っ赤になって可愛らしい? 清子さんの肌が若々しい? 心も体も熱く? うわ、うわーっ。で、タたせるのを清子さんが手伝って? そんで無事にイけて、楽しい夜だったって……ちょ、ちょっと、不倫で、しかも相手が祐麒って、いくらなんでもまずすぎない!?)
 聖の頭の中で、愛し合う二人の姿が鮮明に浮かび上がりそうになり、慌てて打ち消す。
 と、そこへ。
「聖さま、そんなところでどうされたのですか?」
 祥子がやってきた。
「キッチンで何か?」
 祐巳までいる。
「いっ――ななななっ、なんでもないよっ、うん、ちょっと、水が飲みたくて!!」
 必要以上に大きな声を出す聖。
 いくらなんでも、娘と姉に、そんなショッキングなことを知らせるわけにはいかない。
 聖の声が届いたのか、清子が顔を出してきた。
「あら、聖さん。お水でしたら冷蔵庫にミネラルウォーターが入っているから、好きなだけ飲んでちょうだい」
「は、はいっ、いただきますっ」
 会釈して、そそくさとキッチンに入る。とてもじゃないが、清子の顔をまともに見ることなどできそうもなかった。
 しかし、キッチンの中では祐麒と顔をあわせる。祐麒はキョトン、とした表情で聖のことを見ている。
「ゆ、ゆ、祐麒、あんたね~~っ!!」
 頬を紅潮させながら、掴みかかる聖。
「ぎえっ! く、苦しい、せ、聖さんっ?」
 首を絞められ、うめき声を出す祐麒。正面で、聖が怒っているのか、笑っているのか、泣いているのか、どれともとれないような難しい表情をして睨みつけてきている。
 しばらくそうしていたが、やがて聖は肩を落とし、大きく息を吐き出して祐麒の首から手を離す。離した手で自分の頭をばりばりとかきむしる。
「ど、どうしたんですか、聖さん?」
「あんた、平然とした顔して……可愛らしい顔して、意外と肝、すわってんのね」
「は?」
「ああもうっ! なんでもない。てゆうか、あたしはどうしたらいいのっ!?」
 身悶える聖。
「どうされたのですか、聖さま。祐麒、あんた何したの?」
「さあ……いきなりやってきて、この調子なんだけど」
「寒さで、体調でも崩されたのでしょうか」
「だぁーーーっ! なんでもない、なんでもないのっ、ねっ」
 誤魔化すようにして、左右の手で祥子と祐巳を抱きかかえる聖。
 そんな様子を祐麒は後ろから眺めて。
 三人の背中越し、リビングでくつろぐ清子の横顔を見て。

 真冬の夜の夢を、一人静かに思い出していた。

 

おしまい

 

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