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ノーマルCP マリア様がみてる 由乃

【マリみてSS(由乃×祐麒)】怒っていたはずなのに?

更新日:

 

~ 怒っていたはずなのに? ~

 

 

 学園祭の準備が始まり出した。
 各クラスで出しものを考え始め、各部活動、特に文科系の部活では学園祭に向けたアイディアを出したり、早いところでは制作にもとりかかったりしている。
 様々な情報が錯綜し入り乱れる中、それらの交通整理を行うのは山百合会の仕事となる。
 出しものの案の提出期限はまだもう少し先だが、それでも現時点で幾つか重複しているものもあり、今後の調整に悩みそうだった。単に重複だけでなく、予算であったり、設備であったり、什器であったり、要望されているものも取りまとめないといけない。
 三年生の祐巳、由乃、志摩子にとっては過去に経験した作業であるとはいえ、楽な作業ではなかった。
「あーもー、どこもかしこも喫茶店ばっかやりたがるなーーっ!」
 由乃がそう言って机に突っ伏した。
「今年は去年に比べても多いね」
 書類に目を落としながら祐巳も追随して言う。
「本当ならどこのクラスにも希望することを実施させてあげたいけれど」
 志摩子も少し困ったように眉をひそめている。
「お姉さま、文句ばかり言っていないで手を動かしてください」
 クールに突っ込む菜々。
「菜々は気楽に言うけれど、これを調整することが考えるだけで頭が痛くなるのよ」
「去年まではどのように調整されていたのですか? 今年ほどではないとしても、出しものが重複することはあったのでしょう?」
 冷静に過去経験を知ろうとする瞳子。
「昨年は祥子さまと令さまがそれぞれ出張って説明したら、どのクラスも素直に納得していたよ」
 手を止めること無く答えるのは乃梨子。
「ああ……あのお二人なら……」
 瞳子はわずかに苦笑いしつつ納得する。
 生まれながらのお嬢様で上に立つ者オーラを放っている祥子、ミスターリリアンと称され多くの子猫ちゃん(ファン)を有していた令、この二人ならあらゆる生徒達に対応できただろうし、反論もなかったであろう。
「一昨年のことはさすがに知らないけれど」
「一昨年は蓉子さまがいたから」
 由乃が机に突っ伏したまま言うと、志摩子は穏やかに微笑みを浮かべ、祐巳はなぜか自分のことのように自慢げな笑みで頷いた。
「ならば、今年はお姉さまたちの腕の見せどころでは?」
 菜々が小首を傾げながら問うと、由乃はむっくりと顔を上げてからジト目で妹のことを見据えた。
「あのね菜々、私達三人がその手のこと、得意そうに見える?」
「いえ、全く見えません」
「そうでしょう、その通りってうぉい! 即答!?」
「あ、申し訳ありません、紅薔薇さま、白薔薇さま」
「お姉さまの私に謝罪はないのっ?」
「え、だって事実ですし」
「冷静かつ冷徹な妹ねっ」
「ありがとうございます」
「褒めてないわよ!?」
「あはは、相変わらず面白いね由乃さんと菜々ちゃんは」
「ええ、仲が良くて」
「祐巳さん志摩子さんも菜々を甘やかさないで、ちゃんと叱ってよ」
「え、でも……」
「菜々ちゃんの言ったのは本当のことだから」
 祐巳と志摩子は顔を見合わせてから言った。
 由乃は力が抜けて再びテーブルに突っ伏した。

 現在の三薔薇さまである祐巳、由乃、志摩子は、一昨年の紅薔薇さまである水野蓉子の悲願であった『親しみやすい山百合会』を見事に作り上げた。しかしながらそれは、薔薇さまとしての圧倒的オーラやカリスマといったものが少ないということでもある。
 そういうことを求めているわけではないが、こういう時には先代、先々代の凄みとでもいうようなものが欲しいと思えるのだ。
「特にオーラやカリスマなど必要ないのではないですか? 必要なのはだしものに対して基準を定め、各クラスの話を聞いてその基準にあてはめ、優先度に応じた調整を行うことかと思います」
「えーえー分かっているわよその正論! その調整が苦手だから言っているんでしょー」
 じたばたともがく由乃。
 とても薔薇さまには見えない、みっともない姿である。
「調整能力は必要ですが、やはりそれ以上に『薔薇さま』が調整に出ることが大きいと私は思いますわ。調整能力といえば、リリアンきってのバランサーである乃梨子さんが適任ですが、それだけで調整できるものではありませんわ」
「え、ちょっと瞳子、何それ、初めて聞いたんだけど? あー、でも瞳子の言いたいこと分かります。私や瞳子が出しゃばっていっても、言うことをきかない人、口には出さなくても不満を抱える人が一定数以上出ることは間違いありません」
 乃梨子が瞳子を横目で睨みつけてからとりなすように言う。
「ましてや最下級生でありキャリアも浅い私が言ったところで説得力がありません。ここはやはりお姉さまの力が必要かと」
「そりゃまあ、そうかもしれないけれど」
「何せ山百合会のお局……最もベテランであるお姉さまですから」
「菜々、あんたいま『お局』って言った!?」
「いえ、滅相もない、あの窓際の物体が目に入り、『お、壺ね』と呟きが漏れただけで」
「あれは花瓶! あーもー、どうして私の妹はあーいえばこーいう、口が達者な!」
 きーっ! と歯噛みをする由乃。
 そんな二人を見ていた祐巳が笑いながら取りなしに入る。
「まあまあ由乃さん、可愛いじゃない、菜々ちゃん」
「どこがよー、お姉さまに対してこの口の聞きようよ。お姉さまに立てついてばかりなんて、どう思うのよ」
 それを由乃が言うのかと、祐巳、志摩子、乃梨子の三人は心の中で同時に突っ込んだ。
「菜々ちゃんは、由乃さんと沢山お話がしたくて、でもちょっと素直じゃないから、ああいう風に由乃さんが反応するような言い方しちゃっているんじゃない」
「はぁ? 菜々がそんな可愛らしいこと考えているわけが」
 そう言いながら由乃が菜々に目を向けると。
 菜々は、祐巳の言葉を受けて顔を赤くしていた。
 え、本当に。そう思って菜々を見つめる由乃と目が合うと、菜々は恥ずかしそうに目をそらしてしまった。
 妹の微笑ましい反応に、思わず由乃の頬が緩む。
 なんだかんだいって、ずばずばと言ってくる菜々のことを好ましく思っているのだ。これでもし、自分の言いたいことも言えず由乃の顔色ばかり窺って忖度してくるような子だったら、妹になどしていない。
「と、とにかく。私達は精一杯、お手伝いしますので」
 まだ頬をほんのりと桜色にしながらも、菜々は取り繕うように言う。
 そう、分かっている。
 これは薔薇さまの役割であり責任であることくらい。
 今までの山百合会の活動を、この六人の中で誰よりも見てきたのは由乃なのだから(まあ一年生の時は病欠も多かったが)
 苦手だかとしり込みしている場合ではない。
 祐巳は親しみやすく多くの生徒からも慕われている。志摩子も二年生の時から白薔薇さまでもあり、その落ち着きと流麗な所作でファンが多い。だが、二人とも押しが強い方ではないから、文句や不満を持つ生徒から強く反抗された時に柔らかい対応になりがちだ。
 強気で出るのは、三人の中で由乃だと由乃自身が意識している。
 短気で気が強く、負けず嫌いで、敵を作りやすいかもしれない。でも言いたいことはビシッと言いたいし、だからこそ祐巳や志摩子の柔らかさが引き立つという部分もある。
 これは性格でもあり気質でもあり、また学園生活で培われてきたイメージでもあるから、由乃でなければならないのだ。
「よーしっ、再び気合を入れ直すわっ!」
 と言いながら腕まくりをするフリをする由乃。
「あ、現時点で提出済の申請はとりまとめ終了しました」
「こちら、カテゴリーごとに予算と貸し出し資材をまとめています」
「昨年との比較と、昨年に使用した資材やご協力いただいた業者のリストも整えました」
 優秀な妹たちが次々と報告をあげてくる。
 特に乃梨子と菜々によって山百合会にもPCが導入されたことにより、生産性は著しく向上している。
 その辺、現在の薔薇さま三人はあまり長じておらず、由乃もネットなどは利用するがエクセルやワードといったソフトを普段使いすることなく、ほぼお任せ状態である。
「リリアン学園のLANはさすがにセキュリティも強いですね、これなら不埒な輩が侵入してくることもそうそうないでしょう」
「そうだね、古いお嬢様学校だからどうかと思ったけれど、FWもしっかりしているし、定期更新、メンテナンスもされている。まあ、専門の業者を雇っているのかな」
「おそらくそうでしょう。私も一度、ネットカフェから侵入しようと試みてみたんですけど、手強かったです」
「まあね、でも先生たちのパスワード、分かりやすいし殆ど更新していないから、それで簡単に入れちゃうじゃない。システムがしっかりしても、運用する方の意識がね」
「そりゃあ内部からなら簡単に入れますけれど、やはり外から侵入してこそのロマンじゃないでしょうか」
「菜々ちゃんの言いたいことも分かるけれど、労力とリスクを天秤にとるとね。日中の時間帯なら、ログを追われても殆ど疑われないだろうし。そもそもログの突き合わせや階席まではしていないじゃない?」
「乃梨子さまは効率派なのですね。私はどちらかというと仕掛けとかの方が楽しく……って、どうされました、皆さま?」
 ブラインドタッチで絶え間なくビシバシ入力を続けながら会話する乃梨子と菜々を、他の四人は奇異の目で見つめていた。
「いや、菜々、あんた……」
「あ、犯罪はしていませんよ? ねえ、乃梨子さま」
「もちろん。ネットを使う上で事前にセキュリティの確認をしただけです。リリアンの情報ということで、アングラでは高く取引されることもありますからね。クラウドも考えたのですが、データは外付けのSSDに保存して業務終了後は取り外して鍵付き袖机に格納することにしました」
「リリアンなら校内の方が安全だろうと、乃梨子さまと私で判断しました。念のため、ネットワークフォルダにはダミーデータを置いてありますが」
「ああもうっ、そういうのはいいからっ」

 

 仕事が一段落したところで休憩に入った。
 乃梨子と瞳子が紅茶を淹れ、菜々はお手洗いに出ている。
「妹が変に優秀でも疲れるわ」
 由乃がわざとらしく肩を叩きながら言うと、祐巳と志摩子は顔を見合わせて笑う。
「でも、私達が苦手なことが得意で良かったじゃない」
「そうだけど……あれは得意とかそういうレベルなのかしら?」
 山百合会が変な方向にいってしまいそうな気がしているのは自分だけだろうかと由乃は首を捻る。
「まあまあ。そんなお疲れの由乃さんに、実は良いものがあるの」
「え、なに?」
 何か美味しいお菓子でも入手したのだろうか。
 お菓子は色々とあるけれど、昨年までは祥子が高級なものや珍しいものを持ってくることがあったり、令が手作りのお菓子やケーキを持ってきたりと、お菓子事情はかなり質が高かった。
 比較するものではないと分かっているが、それでも、と思ってしまう部分があるのは否めないのだ。
「――お待たせいたしました」
 ちょうどそのタイミングで、菜々が戻ってきた。
 もしやお手洗いと言いつつ、菜々が何かしらの珍しいお菓子でも持ってきたのではないか、由乃のその想像は半分くらい当たっていた。
「失礼します」
「――祐麒くんっ!?」
 菜々に続いて登場した人物の姿を見て、由乃は思わず大きな声をあげてしまった。
「な、なんでここに、って」
 そこで由乃は、自分以外誰も驚いていないことに気が付いた。
 もしやと思い、祐巳を見てみれば。
「どう、驚いたでしょう」
 と、なぜか自慢げ。
 どうやら先ほどの発言の『良いもの』とは、このことだったようである。
「なんで教えてくれなかったのー!?」
 由乃は立ち上がって祐麒に詰め寄った。
「え、山百合会ではみんな知っているって聞いていて。由乃さん、知らなかったの?」
「知らなかったわよ! ていうか、例えそうだとしても今日来ることくらい、メールして教えてくれていてもいいじゃない!」
「ご、ごめん」
 由乃の剣幕にたじろぎながら、祐麒は素直に謝った。
 メールでのやり取りはちょいちょいしているのだし、昨日の夜にでも連絡があってしかるべきではなかろうかと、由乃は憤懣やるかたない。
「ほらほら由乃さん、痴話げんかはあとで好きなだけやって。今はお仕事」
「あう」
 祐巳に言われ、室内にいる全員の注目が由乃と祐麒に注がれていることに遅まきながら気が付き、赤面する。
 この場にいる面々は祐麒と交際していることを知っているとはいえ、油断をしすぎた。
「べ、別に痴話げんかとかじゃ……あれ、そちらの方は?」
 そこで由乃は、祐麒の後ろにもう一人男子がいることに気が付いた。
「ああ、今日は花寺の新生徒会長の紹介も兼ねて来ているので。ほら、挨拶」
 祐麒に促されて皆の前に立ったのは、なかなか体格の良い男の子。体育会系を思わせる外見だが、黒縁眼鏡が絶妙なアクセントで文化系の匂いも感じさせていた。
「は、え、今久留主一光です。よろしくお願いいたします」
 緊張しているのか、今久留主はそれだけ言ってほぼ直角に腰を曲げてお辞儀をした。
 顔をあげた今久留主は由乃のことを見て、そして祐麒に顔を向けて口を開いた。
「先輩。こちらの方が、先輩のお付き合いされている方ですか」
「そうだけど、そういうことを堂々とこういう場で言うなよ」
「はい、すみません。ですが、こんな綺麗な方と先輩がお付き合いされているなんて、現実に脳が追いつかず……」
「おい、それはどういう意味だ?」
「あらまあ、随分と正直な子じゃない。何よ、祐麒くんは文句があるの?」
 不服そうな祐麒に対し、由乃はご機嫌になった。
「いや、まあ確かに由乃さんほど可愛い女の子に俺じゃあつり合わないのかもしれないけれど」
「あ、え、ちょ、ちょっと」
「まあでも、由乃さんの可愛さを認めたところは褒めてやろう」
「あの、ちょっと、祐麒くん、やめて……」
 つんつんと、由乃は祐麒の制服の袖を掴んで祐麒の言葉を止めようとした。
「どうしたの、由乃さん……て」
 そこで祐麒も気が付いたようだった。
 室内にいるのは二人だけではないと。
「祐麒……聞いている私の方が恥ずかしんだけど」
 と、赤面しながら顔を背けて言う祐巳。
「見ました、聞きました、乃梨子さん? もしかしてこれが俗に言う……」
「バカップルってやつよ、瞳子」
「私、初めて見ました! さすがお姉さまです、人前でもブレることのないバカップルぶり、感服です!」
 瞳子、乃梨子、菜々の下級生チームは容赦なかった。
 突き刺さる好機の視線、ちょっとだけとはいえ見せてしまった二人の関係性に、由乃も祐麒も顔を真っ赤にして硬直したように立ち尽くしてしまう。
 そんな由乃に菜々が近づいてきて、小首を傾げながら言った。
「お姉さま、私達に遠慮なさらずどうぞ、いつものように熱い口づけを交わし下さい」
「なっ……」
 ちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべる菜々を見て、由乃は瞬間的に頭に血が上ってしまった。
 そして。

「き、き、キスなんて、まだしたことないわよっ!!」

 と、白い肌を綺麗に朱に染めながら、そう叫んだのであった。

 

 

「由乃さん、機嫌直してよ」
「ふんだ、祐巳さんも志摩子さんも嫌いよ!」
 花寺の面々が帰宅した後、薔薇の館で由乃は一人拗ねていた。
 ドッキリのような形で一人騙されさらし者になったのだ、それはまあ、わめきたくもなるというものだろう。
「まあまあ、お姉さま」
「菜々、あんたも同罪よっ」
 あまり慰める気もなさそうな妹を睨みつける由乃。
 すると菜々は、あまり申し訳なさそうな表情ではないが素直に頭を下げた。
「黙っていたのは申し訳ありません。ですが、打ち合わせの最中は、ほぼお姉さまの自爆ではなかったかと思うのですが」
「分かっているわよっ、もう、冷静で小憎らしい妹ねっ」
 菜々の指摘通り、打ち合わせの最中、他の面々が特にからかってきたり冷やかしてきたりしてきたわけではないのだが、由乃の方が勝手に過剰反応をして余計なリアクションをとってしまったのだ。
 さらに小憎らしいのが、相手の祐麒の方は落ち着いた態度でいたということ。これで、二人で醜態を晒していたならまだここまで荒れずにすんでいたものを。
 やるせない思いを抱えながら家に帰宅したところで、祐麒からの電話を着信した。
 おそらく今日のことを改めて謝ろうというのだろう。
 着信音を聞きながら、無視してやろうかと思いつつ、結局は出てしまう。

「……もしもし、祐麒くん? 何よ、今さら謝ろうったって、そう簡単には許さないんだからねっ」
 電話に出るなり、由乃は一気にそう言いきった。

「……ん、なに、そんなこと言っても駄目よ、彼女である私に黙っていたのは事実なんだから……」
 当然、祐麒は低姿勢であるが、安易に許すわけにはいかない。

「……まあ、そうね、え、ジャディスのクレープ? それは……あ、あの新しくオープンしたお店のマカロンセット? 行ってみたいと思っていたのよねー」
 手打ちにきたかと思いつつ、それでもすぐに頷くのはダメ。

「……あっ、もうあの映画、上映始まるんだっけ! うん、観たい観たいっ、じゃあ、映画観て、クレープ、いやマカロンも捨てがたい……そこは、その日の気分で決めよっか」
 なんだかんだと電話を続けて、約束を取り付けて。

「……うん、それじゃあ、またね。楽しみにしている」
 長い電話を終え、ほんわかした気分で手にした電話に目を向けて。

「って、デートの約束しちゃった! あーもう、怒っていたはずなのに……」
 そう言って、遅ればせながら頬を膨らませる由乃であったが。

 その表情は、誰かが見ればによによしているとしか思えないのであった。

 

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