~ 夢一夜(おまけ) ~
「……えと、ちょっと触るくらいなら、いいよ……?」
そう祐巳が言うと、祐麒は面白いくらいに目を丸く見開き、そして暗い室内でも分かるくらいに顔を紅潮させていった。
発言した祐巳ももちろん恥ずかしかったが、それ以上に祐麒の方が恥ずかしがっているように見える。
自分で口にしておきながら、いざ肯定されるとその反応とはだらしないなぁと祐巳は思う。
「え、あ、その、い、いいのか?」
「ま、まあ、ちょっとくらいなら、ね」
改めて問われて、祐巳も赤面しながら頷く。
祐麒が考えている『ちょっと』というのは、果たしてどこまでだろうか。
しばらくじっとしていると、気配を感じた。
祐麒の手がそろそろと動いているのが分かる。
向かってきているのはお腹の方だろうか。
実際に触れられているわけでもないのに、なんだか体がむずむずするような感じに襲われる。
(お腹くらいなら……胸まで伸ばしてくるようなら、さすがにつねってやろうかな?)
そんな風に考えながらじっと待っている祐巳。
祐麒の呼吸が少し荒くなっていくように感じる。
あと少し、あとわずかで、実際に祐麒の指が届く。
そういうところで。
「ば、バーカ、なんで祐巳なんかに。んなことするわけないだろ」
祐麒はそう言って、寝返りをうって祐巳に背を向けた。
なんだ、だらしないなぁと思うと同時に、やっぱり祐麒だなとも祐巳は思った。
顔は見えないけれど、精一杯強がっているのだろう。
そんな祐麒に向けて、祐巳は言った。
「……おやすみ、祐麒」
と。
「……って、本当に寝ているし」
しばらくすると祐麒が寝息をたてはじめ、祐巳は呆れたように息を吐き出した。
「祐麒、寝ている?」
声をかけても返事はない。本格的に寝てしまったようだ。
「まったく、せっかく、いいよって言ってあげたのに」
口を尖らせる。
「……そうだ。祐麒が触らないなら、私が触っちゃうよ?」
何せ今は彼氏彼女なのだから、祐麒から一方的に触るだけでは不公平である。
そっとすり寄り、背中から抱き着く。
「……あててるんだよー?」
しかも今はノーブラ、シャツ一枚を通してである。
巨乳ではないけれど、ちゃんと立派な膨らみがあるのだ。
そのまま腕をまわして祐麒の腹に触れる。
意外と引き締まっていて、程よい硬さと柔らかさが同居しているように思える。
軽く撫でると、祐麒がみじろぎをした。
「ふふ、おやすみ、意気地なしさん」
そうして祐巳も眠りに落ちた。
翌朝。
気が付くととんでもないことになっていた。
なんと祐麒が祐巳の胸を揉みつつ、尻を撫でまわしていたのだ。
え、ちょっ、昨夜はあんな及び腰だったのに、朝になったらこんな積極的に!?
そう思っている間にも祐麒の愛撫は続き、乳房が、臀部が、熱くなる。
(あ……ゆ、祐麒……あ、祐麒の……)
身じろぎした時、足が祐麒の下腹部にあたった。
更に頬が熱くなる。
このままでは、さすがに、ちょっとマズイ。
だから、祐巳は――――――
朝、起きてからの祐麒はいつもの通りに戻っていた。
まったく、人が熟睡している時に襲い掛かってくるなんて、さすがにそれはダメ。
「初めては、ちゃんとお互いに起きているときじゃないとね」
「ん、何か言ったか、祐巳?」
「別に、なーんにも」
果たして、祐麒が真に勇気を出すのはいつになることやら。
肩をすくめつつ、祐巳は朝食の準備にとりかかるのであった。