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ギャグ・その他 マリア様がみてる

【マリみてSS(色々)】パラレル オルタネイティヴ 6.伊隅ヴァルキリーズ

更新日:

 

~ パラレル オルタネイティヴ ~

 

6.伊隅ヴァルキリーズ

 

 

 みちると水月に散々にどつかれた後、着替えてブリーフィングルームへと向かう。シミュレータでの訓練を行う前に、新OSについての概念と有効性をまずは説明しようというものである。言葉で説明するよりも、実際に経験した方が早いとは思うが、考えをきちんと頭に叩き落としておくことは重要だし、納得したうえで訓練しなければ効果は薄い。
 更に言うなら、みちると水月以外のメンバーとの顔合わせの意味もあるとのこと。何でも、彼女達の部隊は夕呼の直属でA-01中隊、別称『伊隅戦乙女中隊(イスミ・ヴァルキリーズ)』というらしい。
 全員が女性ということで、さすがに緊張する。
「おい、もっと堂々としていろ。大尉なんだ、隊長である私と同格なんだろう」
「そう言われましても、指導教官なんて初めてですから。うまくいくかどうか」
「うまくいかせるんだ。部下に対して情けない姿を見せるな」
 歩きながら、色々とみちるに叱られる。水月は一足先にブリーフィングルームに向かっており、祐麒がやってくるのを待ち受けているはずだ。それを考えるだけでも不安になってくる。
 内心が表情に現れたのか、部屋を前にしてみちるに背中を叩かれ、気合い注入された。
「私と速瀬の二人を相手に完勝したのだ、もっと自信を持ってほしいものだな。そうでなければ、私も速瀬もそれ以下ということになってしまうのだぞ」
「そうですね、分かりました」
「ふん、それでは行くぞ」
 みちるが扉を開けて中に入り、祐麒もその後に続く。中にいた者達が素早く立ち上がり敬礼してくるので、祐麒も敬礼を返す。
 そして。

「………………っ」
 ヴァルキリーズと呼ばれる面々を見て、祐麒は思わず声を上げそうになった。
「あれっ?」
 かろうじて抑えた祐麒とは反対に、声を上げた者もいた。
「どうした柏木」
「い、いえ、なんでもありません」
 祐麒の姿を見て驚く晴子だったが、すぐに平静さを少なくとも表面上は取り戻す。この辺はさすがに衛士といったところか。だが、祐麒は感情が乱れるのをどうにか抑えるので精いっぱいだった。
「こちら、福沢祐麒大尉。本日付で我がA-01中隊の指導教官として配属された」
 A-01とは第四計画、すなわちオルタネイティヴ計画における第一戦術戦闘攻撃部隊を意味する。夕呼直属であり、オルタネイティヴ4を完遂させるために特化した作戦、任務を遂行する専任即応部隊となる。
 過酷な任務内容から人員損耗率が激しく、当初は連帯規模を誇っていた部隊も、今では伊隅みちる率いる中隊を残すのみとなっている。残ったメンバーが全て女性ということもあり、通称『伊隅ヴァルキリーズ』と呼ばれているわけである。
「ご紹介いただきました福沢祐麒です。後でご説明しますが、皆さんには新OSと、新OSにより実現する機動を教えることとなります……それから、ええと」
 ちらりと、みちるの方を見る。
「何かあれば、今のうちに」
 頷くみちるに押され、思っていることを口にする。
「階級としては皆さんの上官となるわけですが、その辺は気にしないでください。というか、むしろ敬語とか必要ありませんので。見ての通り、俺は皆さんより年下か同い年になりますので、年相応に接していただきたいと思っています」
 一礼して顔をあげると、戸惑いが場を覆っていた。
 それはそうだろう、上官として着任したのに、上官として扱うなといっているのだから、軍隊としては考えられないような発言だ。
「――福沢大尉は涼宮や柏木たちと同い年らしいからな、上官命令ということで望みどおりにしてやれ。もっとも、公式の場ではわきまえるように」
 みちるが横から助けの手を出してくれたので、祐麒としてもとりあえずほっとする。隊長であるみちるが言ってくれた方が、彼女達も聞きやすいだろう。
 続いてヴァルキリーズの面々の紹介をするというみちるの声が耳に届く。
 みちる自身についてはごく簡潔に、中隊およびA小隊の隊長であることと迎撃後衛のポジションということだけが告げられる。
「続いて涼宮遥中尉。我が隊のCP将校、コールサインはヴァルキリーマム」
「よろしくお願いいたします、福沢大尉」
 穏やかで優しそうな雰囲気を放っている遥だが、静かな中にも強い意志を感じさせる。
「……こう見えて、うちの隊の中で一番恐ろしい女だからな、気をつけろ」
「ちょっと伊隅大尉?」
 文句を言いたげな遥の言葉を遮るようにして、みちるは続ける
「続いて中隊の副隊長でありB小隊小隊長、速瀬水月中尉。我が隊のエースで突撃前衛長。コールサインはヴァルキリー2」
「ほほほ……よろしく」
 ギラギラと睨みつけてくる水月。
「C小隊を率いている宗像美冴中尉、ポジションは迎撃後衛。コールサインはヴァルキリー3だ」
 続いて紹介されたのは、どこか中性的でミステリアスな感じを漂わせた美女。祐麒のことを値踏みするかのように見つめてくる瞳が、どこか妖しい。
 容姿は全く異なるが、どこか聖を思わせる雰囲気で、瞳の放つ光に吸い込まれそうになる。
「随分と見惚れているな、福沢」
「なっ!? そ、そういうわけじゃないですよっ」
「宗像は男嫌いだからな、軽い気持ちで手を出すと痛い目を見るぞ」
「それは違います隊長。わたしはただ、気持ち良ければなんでもいいだけです」
「そうか。ならば福沢にもチャンスはあることだろう」
「ちゃ、チャンスって、ちょ、あの」
「……なかなかいじりがいがありそうですね」
 面白い玩具を見つけた子供のような表情をする美冴。
「続いて風間祷子少尉。ポジションは制圧支援、コールサインはヴァルキリー4。物腰柔らかく、我が隊の中でも潤滑油的な役割を担ってくれている」
 綺麗な黒髪のストレート、良いところのお嬢様、あるいは大和撫子といった言葉を連想させる女性。
「よろしくお願いします、福沢大尉」
 見た目通り物腰柔らかにお辞儀をする祷子に、祐麒も深々と頭を下げて応じる。

「続いて――小笠原祥子少尉。ポジションは強襲前衛、コールサインはヴァルキリー5。
「よろしくお願いいたします」
 烏の濡れ羽色のごとくしなやかで長い髪を腰まで届かせ、凛とした立ち姿で見つめてきているのは間違いなく祥子。
 やはりというべきか、どうしてというべきか。部屋に入った瞬間から分かっていたが、改めて紹介されて声が漏れそうになる。
「見惚れるのも無理ないな、この美貌は。だが小笠原は宗像以上の男嫌いだぞ」
 祥子は祐麒を一瞥するだけで、特に口を開く様子はない。
「涼宮茜少尉。ポジションは強襲掃討、コールサインはヴァルキリー6。名前から分かると思うが、先ほどの涼宮遥の妹だ」
「よろしくお願いいたします」
 少し硬い雰囲気で敬礼する茜。
「築地多恵少尉、突撃前衛。コールサインはヴァルキリー7。こいつの戦術機の動きは独特だ、もしかしたら福沢大尉とはウマがあうかもしれんぞ」
「よ、よろしく~」
 びくびくとした様子で茜の腕にしがみついている多恵。幼い童顔に似つかわしくない巨乳を保持している。
「柏木晴子少尉。ポジションは砲撃支援、コールサインはヴァルキリー8」
「よろしく、福沢くん。びっくりしたよ、本当にお偉いさんだったんだね」
「いや、申し訳ない。別に隠すつもりじゃなかったんだけど」
 笑いながら手を差し出してくる晴子と握手をかわし、応じる。
「ん、なんだ。柏木とは既に知り合いなのか?」
「はい、実は」
 なんと応えるべきかと思う前に、晴子の方が口を開いた。
「福沢大尉には強引に押し倒されて、胸に顔を埋められ、股に割って入られました」
「ちょおっ!?」
 とんでもないことをさらりと、僅かに頬を赤らめて恥ずかしそうにしながら口にする晴子に目を丸くする。
「な、何を言うんですか柏木さんっ!?」
「え、否定するの? あんなに二人で汗を流し、肌を触れ合ったのに……」
 今度は口元に拳を持っていき、悲しそうな素振りを見せる。
 確かに運動して汗をかいたし、バスケのせめぎあいでは本気を出し、互いの肌にも激しくぶつかり合ったりはしたが、そんな言い方では誤解を受ける。
「えええっ、は、晴子、アンタいつの間にっ!?」叫ぶ茜。
「ふむ。福沢大尉は随分と手が速いと見える。しかし、柏木を選ぶ趣味とは」
「えー、それどういう意味ですか、酷いですよ宗像中尉~」
 ふざけるようにまぜっかえす美冴に、苦笑いしながら反論する晴子。他のメンバー達も騒がしく、疑問の目で晴子と祐麒のことを見ている。
「ふ~く~ざ~わ~っ、アンタ何、柏木のこと強引に手籠めにした挙句にしらを切ろうっての? ふんっ、サイテーな男ね!」
 案の定というか、思いっきり突っかかってきたのは祐麒のことを快く思っていないであろう水月だった。ポニーテールをぶんぶん振って近づいてくるなり、指をつきつけてくる。
「ああ、速瀬中尉、大丈夫です。確かに押し倒されたのは強引にでしたけれど、汗を流したのは合意の上でしたから」
 フォローしてくれる晴子だったが、あまりフォローになっていない。というか、明らかにからかって楽しんでいるだけだと分かる。周囲のメンバーもどうやらそれを察したようで、空気が軽くなってくる。
「いい加減静かにしろ、お前たち。全員の紹介が終わらん」
 みちるの凛とした声が響くと、それまで騒いでいた声が大人しくなる。

「続けるぞ。高原千里少尉、ポジションは強襲前衛。コールサインはヴァルキリー9」
「福沢大尉、よろしく」
 ロングヘアーで気の強そうな表情を向けてくる千里だが、強気を見せることで内心の自分の弱さを隠そうとするタイプのように見えた。この手のタイプは実際の戦場では気をつけていないと危険だと、記憶にとどめる。
「麻倉一帆少尉。ポジションは打撃支援。コールサインはヴァルキリー10」
 ショートカットの一帆は何も言わず、ぺこりと頭を下げるにとどまる。
「あー、すまんな。麻倉は人見知りが強い。慣れれば普通に話すようになる」
「わかりました」
 どうやら嫌われているわけではないと分かり、ほっとする。
 そして最後だ。祐麒は気付かれない程度に深呼吸して、先ほどから意識的に見ないようにしていた少女に視線を向ける。
「最後に、二条乃梨子少尉。ポジションは制圧支援。コールサインはヴァルキリー11。ウチの中では抜群に頭がキレるやつだ」
「よろしくお願いいたします」
「――よろしく」

 努めて平静な顔を維持しながらも、心の中では色々な思いが渦巻く。
 何がどうなっているのかは分からないが、少なくとも祥子と乃梨子の二人はこの世界にいたということだ。こんな残酷な世界にいて残念に思うと同時に、やはり嬉しくもなる。仲間を、友人を守るために死力を尽くしていこうという気持ちが湧き上がってくる。
 乃梨子は相変わらず日本人形のような外見をしており、目つきだけが少し鋭くなっているように感じる。
 祥子と乃梨子はこの世界にも存在していた。ならば、他の皆も世界のどこかにいるのかもしれない。
 しかし、前の世界でも存在していたけれど、その時の二人は訓練兵だった。それがこの世界では既に正式に任官してA-01に所属しているということは、やはり似ているようで非なる世界なのだろう。
 色々と思うところはあるものの、ここにいる乃梨子は祐麒のことを知らないし、やるべきことは他にある。
「さて、以上が我が中隊のメンバーとなる。そしてこちらが福沢祐麒大尉。これより我が中隊に指導していただくことになる」
「指導って、どうしてわざわざ?」
「必要なことだからだ。何せ福沢大尉は私と速瀬のエレメントに対し、単機で勝利した。それも無傷で、三分とかからずに」
 みちるが告げると、大きなざわめきが室内に広がった。
 それも当然のこと、隊の中で圧倒的な技量と強さを保持している、みちると水月の二人のエレメントが単機相手に敗れたのだから。
 皆の目が祐麒に注がれる。
 驚愕、疑念、讃嘆、それらのものがないまぜになった視線。
「う、嘘よ、そんなのっ!? ありえない!」
 強く否定の声をあげてきたのは、茜だった。真っ向から鋭い目つきを祐麒に向けている。
「本当のことだ。嘘だと思うなら速瀬に訊いてみろ」
「ほ、本当なんですか速瀬中尉!?」
「ぐっ……」
 茜の視線を受けて、水月は何も言えずにただきつく唇を噛みしめるのみ。それが、答えをあらわしていた。
「そんな……」
 信じられないといった風に、呆然とする茜。
「言っておくが私も速瀬も油断をしていたわけではない。細心の注意を払い、確実に勝つつもりでいた。それを、福沢大尉はやすやすと返り討ちにしてみせた。福沢大尉の技量がずば抜けていることは勿論だが、それだけではない。我々の指導教官となられるのも、そこに理由がある。ちなみに涼宮、福沢大尉に対する態度、いくら速瀬を信頼しているとしても許されるものではないぞ。後で腕立て200回だ」
「はっ!」
「それでは、これから改めて福沢大尉に新OSについて説明していただく」
 みちるが場所を開けたので、慣れないながらもホワイトボードの前に立って説明を開始する。
 女性ばかりを前にというのは緊張するが、そんなことを言っている場合ではない。新OSに関してレクチャーを行うと、最初は戸惑っていた面々の表情も次第に真剣なものへと変貌していく。

 一通りの説明を終えたところで先ほどの模擬戦の様子がモニターに流され、実際に祐麒の戦術機機動を目の当たりにすると、メンバーの顔つきはまた一変する。
 驚き、呆れ、賞賛、そして熱意。
 祐麒に敗れ悔しさに歯噛みしている水月やみちるでさえ、改めて客観的に見せられて言葉も出てこないようだった。
「これは……確かに凄いですね」
 見終えた後の美冴の一言が、全員の気持ちを物語っていた。
「本当にあのような動きが出来たら……っ」
 ごくり、と唾を飲みこむ乃梨子。
 祐麒は全員に頷いてみせる。
「もちろん、皆さんには新OSを使いこなしてもらいます。そのために俺のような若輩者が指導教官としてあてがわれました。この新OSはまだ試作版で、今日もシミュレーションの結果を受けてデバッグ作業を行っていますので、皆さんには新OSが完成次第、使っていただきます。尚、この新OS開発に関しては現時点ではまだ極秘扱いになりますので、決して口外しないようお願いします」
 祐麒の言葉に皆が落胆するのが分かる。今すぐにでも新OSを試してみたいと思っているのだろう。祐麒としても早いところ慣れてもらいたいというのはあるが、色々と事情があるのだ。
 とりあえず今日はここまでと思ったが、新OSに触ることができないと分かるや、中隊の面々は相次いで質問を投げかけてきた。
 機動に関すること、戦いに関すること、新たな概念に関すること、数多くの彼女たちの疑問に答えているうちに時間はいつしか夕方になり、ようやく解散することになった。
 慣れないことをしたせいで疲労した祐麒は、肩をほぐすように動かしながら部屋を出て廊下を歩き出す。直後、祐麒を追いかけるようにして出てきたのは晴子だった。

「福沢くん。驚いたよ、福沢くんがそんなに凄い人だったなんてさぁ、って、あ、あたしもしかして凄く失礼? えーと、福沢大尉殿」
 いきなりかしこまって敬礼してくる晴子に、祐麒の方が戸惑う。
「何、いまさら。公式の場じゃなければ、気にしなくていいって言ったじゃないですか。今までの呼び方で全然構わないです」
「そっか、それならお言葉に甘えて。同い年だもんね、って、福沢くんの方が敬語っておかしくない?」
 階級が上だと知っても、前と同じように接してくる晴子。本来なら非常に失礼な事なのだろうが、祐麒としてはむしろ嬉しかった。
「でもさ、よくあんなこと考え付いたもんだね、やっぱ天才は違うのかな」
「そんなんじゃないって。単に不満に感じたこと、自分が実現させたい動きが出来ないことに苛立って、ちょっと提案してみただけで。実際にOSを作ったのは俺じゃないし」
「十分に凄いよ、だって福沢くんはさっき見せてくれたような動きをずっと前から実現したいと思っていたんでしょう? あたしにはなかったもん、そんな発想」
 褒めてくれるのは嬉しいが、武との共同で出したアイディアだし、違う世界からやってきたわけだし、そこまで誇れるようなことではない。
「それから、そうそう。今日さ、ささやかだけど福沢くんの歓迎会をするから、19時にPXに来てくれる?」
「歓迎会? やば、ちょっと、いやかなり嬉しいかも……」
 この世界にやって来てから、武という同志はえられたものの行動は別で、寂しく感じていたところだったので本気で嬉しかった。

 しばし自室で休憩をした後にPXに迎えると、晴子が言っていた通りA-01のメンバーに囲まれて食事会という名の歓迎会が開催された。
 十二人もの女性に囲まれての食事はさすがに緊張したが、水月や茜がつっかかり、美冴と晴子が突っ込み、多恵がボケをかまし、祷子の超速食事に驚き、気が付けば肩から力もぬけて楽しく笑うことが出来ていた。
 その間も祥子や乃梨子のことは気になっていたものの、主役として真ん中に座らされた祐麒から一番端の乃梨子は遠くて会話を出来るような距離になく、祥子はそもそも会話に加わってくることなく、触れ合うことが出来ない。
「あたしや晴子と同じ年なんでしょう? でも、あんな凄いことを考え付くようなんだから、大尉というのもおかしくないのかぁ」
「ってゆーか福沢、近いうちに絶対に一戦やるわよ!」
 斜め前の茜がどうにか納得しようと呟き、隣に座っている水月はいまだに鋭い目つきで噛みついてくる。
「なるほど、速瀬中尉は随分と福沢大尉にご執心のご様子」
「そらそうよ、あたしは納得していないんだから」
「福沢大尉、どうか一戦、相手をしてあげていただけませんか。何せ速瀬中尉はこのとおり、戦闘でしかエクスタシーを得られないという救えない性癖の持ち主で」
「ちょ、宗像ぁ~~!?」
「……と、高原が言っています」
「高原ぁ!?」
「うえぇ、あ、あたしですかっ!?」
 美冴にいきなりふられて狼狽する千里、そして柳眉を逆立てて立ち上がる水月。賑やかな食卓、久方ぶりに感じる暖かな空気に自然と頬が緩むが、その中でも視線はどうしても祥子や乃梨子に向けられる。
「ところで福沢大尉」
 場の雰囲気が相当に温まってきたところで、不意に口を開いたのは高原千里だった。
「どうです、この美女だらけのヴァルキリーズの中でずばり、好みのタイプは?」
「え、ええっ?」
 思いがけない質問に、思わず口ごもる。
 この手の質問にどのように答えるべきか分からず、思わず囲んでいる面々の顔を見る。
 ある者は興味深そうに、ある者は面白そうに、ある者は全く素知らぬ顔でいる。あちこちで会話がされていたはずなのに、ぴたりと静かになってしまった。
「どうした福沢、遠慮しなくていいのだぞ。別に、恋の告白とかそういうものではない、単なるタイプというだけの話しだ」
 隊長であるみちるが押してくる。その顔は、明らかに楽しんでいる。
「やはり、既に手を出しかけた柏木のようなのが好みなのか?」
「いや隊長、こういう顔は大抵ムッツリですから、きっと築地のような巨乳好きですよ」
「ふえぇっ、あ、あだす!? だ、駄目です。あたしは茜ちゃん一筋なんで」
「ちょ、多恵、抱きつかないでよ」
 こういうシーン、真面目に答えるべきなのか、それとも冗談にまぎれさせてしまうべきなのか、何が正解なのだろうか。
「ほらほらぁ、さっさと答えなさい。答えなかったらアンタの好みは築地で確定だからね、ほら3・2・1、はいっ!」
「えっ!? あ、えと……あ、あの」
 いきなり退路を断たれ、焦る。勝手に多恵だと決めつけられるわけにもいかない。後で思い返せば、皆悪ふざけしているだけであり、本気で多恵のことがタイプだと決めつけられるわけもないのだが、咄嗟にそこまで考えが働かなかった。
 目が、一人の女性に向く。
「え……と、そ、その。外見や雰囲気でいえば、え~、その、む、宗像中尉が……」
 口にした後で、急速に顔面が熱くなってくるのが分かる。体の内側から何か変な汗が湧きでてきそうだった。

 場が静かになる。

「なんか、思いのほか本気の告白だったわね。ど、どうなのよ、宗像?」
「どうと言われましても……えぇと」
 なぜか僅かに赤くなっている水月、当事者の美冴も想定外だったようで困惑している。
「福沢大尉も、随分と物好きなものですね」
「そ、そんなことないでしょう。宗像中尉はとても魅力的だと……」
 思わず反論して、またも恥ずかしくなる祐麒だったが、その言葉を受けて思いのほか美冴の方も照れたように僅かにだが赤くなったように見える。
「へえ~、宗像でもそんな風に照れるんだ」
「私だって、これだけ真正面から褒められれば、照れもしますよ」
 ここぞとばかりに水月が美冴に絡む。
 なぜ、余裕をもってかわせないのか。前の世界ではそれなりの時間を生き残り、その間に女性経験もあったはずだ。戦に倦んだ世界の中、戦闘にまみれてストレスにも苛まされる最前線の兵士にとって、セックスというのは一つの息抜きでもある。また、明日がどうなるともしれない身であれば、悠長に恋愛をしている暇などない。気に入った相手が見つかり互いに意気投合すれば、知り合った当日に体を重ねることだって珍しくない。
 誰が相手とか、どういうことをしたとか具体的なことはさっぱり覚えていないが、確かに誰かと体を重ねたイメージは脳裏に残っているのだ。
「ええ~~っ、ちょっと福沢くん、私を口説いてきた時と態度が全然違うじゃない。どーゆーこと?」
 変な空気になりかけそうになったところ、タイミングよく晴子が明るく声をかけてきてくれた。
「そうそう晴子、その辺くわしく」
 茜が乗っかってくる。
 おかげで、再び明るく賑やかな様子に戻り、その後は無難に時間を過ごすことが出来た。

 歓迎会がお開きになった後、結局話すことのできなかった乃梨子を追って声をかけてみた。祥子は既に姿がなく、男嫌いということもあって後回しとした。
「あの、二条さん」
 PXから廊下に出る手前、乃梨子は足を止めて振り返る。何を考えているのか分からない表情で見返してくる。
「はい、何かご用でしょうか」
「あれ、福沢くん、今度は乃梨子に手を出すんですか~?」
「ちょ、うるさいよっ!?」
「あはは、失礼~。乃梨子、気をつけなさいよ~」
 ぺろりと舌を出して笑い、高原が麻倉を伴って逃げるようにPXを出て行く。歓迎会の間にすっかり高原は祐麒に馴染んで接するようになっていた。
「……それで、何か?」
 それでも全く様子を変えない乃梨子。クールな所は変わらないようで、思わず苦笑する。不思議そうに小さく首を傾げる乃梨子。
「あ~、いや、実は二条さんによく似た人を知っていたから、つい」
 言われたところで困るだけだろう、乃梨子は無言で立ち尽くす。
「別人だっていうのは分かっているんだけど、思わず、さ。なんか、ごめん」
「……いえ、別に…………」
 かつての世界、襲いかかってきたBETAの迎撃戦で果敢に迎え撃ち、仲間を護るために散った乃梨子のことを思い出す。
「呼び止めてごめん、それだけだから」
 ぺこりと無言で一礼し、去っていく乃梨子。祐麒のことを知っている様子はない。当たり前のことだと頭の中で理解していても。
 胸は、苦しくなる。

 

次に続く

 

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