書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

マリア様がみてる 中・長編

【マリみてSS】BATTLE LILIAN ROYALE <04.齟齬>

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 ショッピングモールを抜けて、浅香は足を止めた。
 自分が人殺しをするなんて、今までの人生で考えたことなどない。しかし今日、ショッピングモールで真純の姿を見かけたときから、暗い炎が自らの中で燃え上がるのを感じていた。
 そして先ほど、浅香は真純を攻撃した。
 浅香に支給された武器は手榴弾1ダース。初めは持っているだけで不安だったが、安全装置もついており、心配し過ぎることはないと分かった。広い場所、相手から離れていると、爆発してもさほど威力がないことも分かった。
 既に二個を使用し、真純にも逃げられてしまったようだが、何も得られなかったわけではない。
 寧子のことについて、気にしていないなんていうことは、ありえない。あくまで、「周囲の人が思うほど」気にしていないだけだ。この状況下、生きるか死ぬかの中で真純を見かけて、驚くほど冷静に、浅香は真純に攻撃をしかけることができた。
 他の生徒に会っても、同じように行動できるだろうか、自問してみる。
 答えは得られない。実際に、その場になってみないと。
 ただ分かるのは、少なくとも先ほどよりは冷静に、状況を考えて攻撃することはできるだろう、ということ。
 手榴弾の入ったリュックを背負い、浅香の姿はテーマパークの正面入り口、ワールドターミナルへと消えていった。

 乃梨子は初期位置から移動していた。進入禁止エリアとなるC-2が微妙に近かったので、念のためである。エリアといっても、境界線が引かれているわけでもないので、見た目には分からない。だからといって確かめてみるわけにもいかず、なるべく安全を得られるようにするしかない。
 なるほど、こうして居られる場所を減らし、生徒を移動させることで、生徒同士がフィールド内で顔を合わせるようにしているのだと、改めて理解する。同時に、その嫌らしさに吐き気がする。
 周囲を警戒して歩きながら、手はつい、腰のあたりにいってしまう。
 というのも、支給された武器であるデリンジャーを持っているから。小型の銃であり軽量でもあるので、ポケットの中にいれている。暴発などが少々怖いが、リュックの中に入れておいて、いざというときに使用できないのでは意味がない。もっとも、そんな時が来ないのが一番良いのだが。
 移動して、花畑と風車の見える一角にやってきた。ここはアトラクションというよりも、純粋に花や風景を楽しむための場所で、乃梨子が最初に置かれていたフューチャーパークから続いている。
 朝になって太陽も出て、本来なら季節の花が咲き誇っているはずの場所も、今は手入れもされていないため、雑草などが伸び放題になっているだけで、目を楽しませてくれるものはない。
 風車も壊れているのか、動いている気配は見えない。比較的新しいはずだが、人の手が入っていないためか、すでにどこかみすぼらしく見えてしまう。
 今のところ乃梨子は誰とも出会っていないし、人影も見かけず、気配も感じていない。本当に近くに他の生徒がいなかったのか、たまたま出会っていないだけなのかは判断がつかない。
 確実に分かるのは、既に犠牲者が出ているということ。それは即ち、乃梨子も予断を許さないということだ。
 ふと気がつくと、体に力が入り、どす黒い感情が渦巻いてきそうになるのを、慌てて抑え込む。
 ずっと気を張っていると、体力よりも精神の方が先にやられてしまうかもしれない。少しはリラックスしようと思い、ふと、かつて読んだ漫画本のことを思い出した。
 その作品の中では、小柄な女性が身にまとったマントの裏地に大量のデリンジャーを保有し、そこから早撃ちで弾幕を張るというものだった。いったい、どれだけの重さのマントなのだと、突っ込みを入れたくなる。
 今の自分が同じ状況だとは思わないが、デリンジャーという、たまたま聞いたことのある銃を持っていることで、そんなことを思い出す。どうせならついでにと、漫画の女性の台詞を真似してみる。
「……ふふっ、私は二条乃梨子。デリンジャー・乃梨子とは私のこと、なーんて」
 言いながら、銃を手にした右手をあげて構えの格好をつけてみる。誰かが見ていたら、恥ずかしくてとても出来ないようなことだ。
 ところが。
「――え」
 乃梨子が上げた銃口の先、風車の横に、人が立っていた。
 正確には、その人影に銃口が向けられていたわけではない。どちらかといえば、風車の方を向いている。近くの中で一番大きいのが風車だから、たまたまそちらに銃を向けてみただけのこと。
 だが向けられた生徒の方は事情が異なる。方向が多少ずれているとはいえ、いきなり銃を向けられたのだ、平静ではいられない。ましてや、今のような状況では。
 言葉もなく、乃梨子のことを見つめてくる少女。
 どこかで見たことがある。ショートカットが似合う、なかなかに可愛らしい少女。気の強そうな表情、その瞳、記憶の中からはじき出す。
「そう……乃梨子さん、貴女がそんな」
 うめくように押し出された声を耳にして、脳内の人名録とマッチする。確か、二年生で、剣道部に所属している田沼ちさと。由乃や令と一緒にいて話しているところなどを、何回か見かけたことがあった。
 乃梨子も、すぐに銃を手から離せばよかったのかもしれないが、疑心暗鬼は乃梨子とて持っており、護衛手段を手放す気にはならなかった。
 それが、さらに事態を悪化させる。
「……くっ!」
 どうすべきか乃梨子が逡巡している間に、こっそりとリュックに手を伸ばしていたちさとは、不意にリュックから何かを抜き取り、乃梨子に向けてきた。
 冷たく黒い穴――銃口が、乃梨子を見つめていた。
「ちさと、さま……」
「やっぱり、そうなのね。そうよね、生き残るためには、戦うしかないのだから」
 鋭い視線で睨みつけてくるちさと。
「ち、違うんです、ちさとさま。これはただ、冗談で構えたら、たまたまちさとさまがいただけで」
「それが、信じられるとでも? 私が見たのは、あなたが銃を私に向けているところ。撃つ気がないと証明したいなら、その銃をこちらに投げ捨てて頂戴」
「それ、は……」
 呟きながらも、銃を持った腕はぴくりと動こうとしない。実際に撃つ気などなかったのだから、ちさとの要求に応じてしまえば良いと思う心もあるが、それ以上に、銃を手から放した途端に、ちさとから攻撃されるのではないかという不安が頭をよぎる。
 乃梨子はちさとのことをよく知らない。名前を知っていただけでもたいしたものだ。そんな相手で、この状況で、身を守るための武器を簡単に捨てることなど出来ない。かといって、今の状態のままでいても、状況はさらに悪化していくだけだろう。
 お互いが銃を向け会ったまま、無言の時間が過ぎていく。
 重苦しい空気に包まれ、いつまでこうしていたら良いのか、どうするべきか迷っているうちに、新たな動きが起こる。
「何をしているの、あなたたち」
 乃梨子でもちさとでもない、別の女性の声が横から響いてきた。弾かれるように、声のした方に目を向けると、そこには長い黒髪をたなびかせ、雑草だらけのこの場にふさわしくない麗しさをいまだ保ったまま、小笠原祥子が立っていた。
「やめなさい、そんな風に争うのは、こんなくだらないゲーム主催者の思うつぼよ」
 鋭い視線で乃梨子とちさとを見据える。凛々しさ、優雅さに、思わず状況も忘れてしまいそうになる乃梨子だったが、ちさとは違っていた。
「う、動かないでください、紅薔薇さまっ!!」
 銃は乃梨子に向けたまま、祥子を制止する。
「ちさとさん、よね。落ち着きなさい。私は」
「山百合会のお二人で組んで、とりあえず邪魔な私を排除するつもりですか?」
「なっ……」
 ちさとの言葉に、絶句する祥子。まさか、そんなことを言われるとは思ってもいなかったのだろう、明らかに衝撃を受けている。
「落ち着いて、ちさとさん。私は何も」
「信用、できません。例え紅薔薇さまといえど、信用するわけにはいきません……もう、死んでいる人がいるんですよ。誰かが、やったんです。それが紅薔薇ではないと、どうして言えますか」
 言いながら、ちさとの言葉は震えている。銃口を乃梨子につきつけ、先輩である祥子に抗い、それでもちさとは恐怖に震えている。
 乃梨子は、ここが契機ではないかと思った。乃梨子たちが敵意がないことを示せば、ちさとも落ち着いてくれるかもしれない。見るからに武器を手にしていない祥子は誰もが憧れる紅薔薇さまだ、後輩であるちさとなら、それで言うことを聞くかもしれない。
「ちさとさま、大丈夫です。私は」
 自らの意思を示そうと、銃を下ろそうとしたのだが、銃を持った手を動かしたことがちさとを刺激してしまった。
「やっぱり、殺す気なのねっ!!」
 叫んだかと思うと、いきなり発砲した。乾いた銃声が響き渡り、血の気が引く。とりあえず自分に何も変化がないことを知り、慌てて祥子の方を見る。祥子は茫然とした体で立っていたが、怪我をしている様子はない。ちさととは距離も離れており、そう簡単に当たるわけもなかった。
 だが、撃たれたという事実の方が大きかった。心に寒風が吹きすさぶ。
 続いてちさとは両手でワルサーPPKを構え、脚を開いて乃梨子に狙いをつける。突っ立っていては危ないと、乃梨子はとりあえず駈け出した。
 またも銃声。
 走りだした乃梨子に狙いを定められなくなったのか、今度はいきなり、某立ちのままでいる祥子に銃を向けるちさと。
「危ない、祥子さまっ!!」
 咄嗟に乃梨子は引き金を絞った。狙いも何もつけない、単に威嚇するだけの発砲。二発しか装填できないデリンジャーだから、残りは一発。
「くぅっ!」
 ぐるりと身体を反転させ、再び乃梨子を狙うちさとの銃から、立て続けに弾丸が放たれる。音が響くたびに冷や汗が流れ、生きた心地もしないが、とりあえずは身体にかする気配もない。
 走りながら乃梨子も、牽制するためにちさとに腕を伸ばす。慌ててちさとも動きだす。その後方で、祥子が逃げ出す背中が見えた。
 祥子は戦意がなさそうだったし、精神的にも落ち着いているようだった。きちんと話せば協力して動けそうだったのに、離れてしまう。仕方ないことだが、残念だった。
 しかし。
 掛けながら、ちらりと背後の様子を見るように顔を向けてくる祥子。その目が、乃梨子をとらえる。
「さち……っ」
 乃梨子は衝撃を覚える。
 一瞬だけ見えた祥子の顔は、明らかに怯えていた。
 銃を持った手を見つめる。コレのせいだ。言葉を交わさなくとも、銃は雄弁に物語る。理由はどうあれ、乃梨子はちさとに向けて、撃ったのだ。
「やっぱり、撃ったじゃない!」
 目を血走らせ、ちさとが残りの銃弾を消費しながら、マジックサークルの方に走って消えていく。祥子はメルヘンメイズの区画へと逃げ、乃梨子はちさとの銃弾に追われて、いつしかアドベンチャーフロンティアへ向けて駆けていた。
 こうして、三者は怪我もなく、五体無事のまま別れた。

 だが、それ以上に重要な何かが壊れたように、乃梨子には思えた。

 

【残り 27人】

 

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