ようやくのことで、由乃は『アドベンチャーフロンティア』から『ファンタジーランド』に近い場所にやって来ていた。
時間を確認すると既に午後の三時を過ぎ、禁止エリアがまた広がっていた。地図とメモで禁止エリアを再度頭の中に叩きいれ、問題ないと判断して足を動かす。
その時、頭上から何か音が響いてきた。その音は遠い場所から、徐々に近づいてくるようで、どんどんと大きくなっていく。思わず見上げると、どうやら遥か上の方をヘリコプターか何かが飛んでいるようだった。
こんなところに連れてこられて殺し合いをしているということを、もしかしたら誰かが気づいてくれるんじゃないか、なんてことも一瞬、考えもしたが、あまりに甘い考えであり、すぐに捨てた。どうせその辺はきちんと管理して、関係者以外の飛行物体であるはずがないのだ。
他の誰かは、甘い期待に胸を躍らせているかもしれない。またすぐに遠ざかっていく黒い影を目で追い、やがて消えていったところで視線を下ろす。
余計なことに気を取られている場合ではない。『ファンタジーランド』は近くなったが、まだジャングルを抜けたわけではない。足場も悪いし、下手に転んで怪我でもしたら、笑い話にすらならない。慎重に、歩いていく。
次の瞬間、不意に斜め前方に黒い影がいきなり飛び出してきて、体が硬直する。迂闊だった。余計な飛行物体に気を取られている間に、誰かが近づいて来ていたというのに、気がつかなかったのだ。
飛行音もあったし、注意力も散漫になっていたから、分からなかったのだ。
だが、驚いているのは相手も同じようだった。結構な勢いがあったから、走っていたのではないかと思う。由乃のことに気が付いていれば、わざわざ由乃の前方に姿を見せるなんてことはしないだろうから、やっぱり想定外の遭遇なのだろう。そのことに、少しだけ由乃は内心で安堵した。
もしも相手がその気だったら、由乃が気がつかないうちに仕掛ければ良かったのだから。
「由乃、さん」
その相手、逸絵は、かすれたような声を出した。
軽部逸絵。陸上部員。気が強い逸絵は、やはり気の強い由乃と微妙に合わないところがあった。普段、異なるグループで行動しているため、特に接する機会も多くないのだが、もしも一緒に行動したら衝突しそうなタイプだと感じている。
「逸絵さん、大丈夫? 走っていたみたいだけど、誰かに追われていたとか?」
話しかけながら、逸絵の様子を見る。髪の毛や服が汚れているのは、由乃も同じだろうから別に変ではない。それ以上に目が吸い寄せられるのは、逸絵が手にしているもの。何かの映画で見た記憶があるが、あれはボウガンというものではないだろうか。
由乃と逸絵との距離は、10メートルくらいか。ボウガンで狙われたら当たる距離なのかどうか、良くわからない。だが、同じ素人が撃つならば、拳銃よりもよほど狙いが定めやすい気がする。
「大丈夫? ええ、大丈夫よ、私は、大丈夫」
返事をする逸絵だが、どこか口調がおかしい。殺し合いという状況に放りだされているわけで、仕方ないとも思えるが、本当に大丈夫だろうなのかと不安になる。精神的に参ってもいる相手というのが、一番やっかいだと思うから。そういう相手にはきっと何を言っても通じないだろうから。
距離を置いたまま、慎重に由乃は相対する。
「私はお姉さまを探しているんだけれど、逸絵さんは見なかった?」
「令さま? 見て……いないわ」
「そう、ありがとう。それじゃあ、私は探しに行くから」
刺激しないよう、極めて冷静さを保つようにして、平易な口調で告げる。逸絵から視線を外さないようにしつつ、ゆっくりと移動をしようと足を動かす。
「待って」
それを、逸絵の声が止めた。
「何か?」
「何か、じゃないわ。なんで、そんなあっさりしているの。おかしいじゃない」
逸絵の言葉に、首を傾げる。
「何が、おかしいの?」
「だって由乃さん、私のこと嫌っていたでしょう? それなのにどうして、そんな簡単に流していこうとするの。分かっているわ、私のことを見下しているんでしょう」
「は? 何を言っているの、だからさっき言ったでしょう、私は令ちゃんを捜しているの。だから、無駄な争いをしたくないだけ。あと、別に逸絵さんのこと、嫌ってなんかいない」
これは本心だ。確かに、逸絵とは相性がよくないかもしれないが、それだって由乃が今のところそう思っているだけで、話しあってみたら意外と気が合うかもしれない。好きか嫌いかと問われたら、別にどちらでもない。現時点ではそこまで深く付き合っているわけではないのだから。むしろ、普段の接し方からして、逸絵の方が由乃を嫌っているだろうと思っていた。
争いだって、したくはない。相手にやる気がないなら、戦わない方が良いに決まっているのだから。
「そんなの信じられないわ。どうせ嘘でしょう、分かっているのよ、由乃さんが私を見る目は、いつもそうだもの」
逸絵は目を見開き、糾弾するように由乃を責める。由乃にとっては身に覚えのないことだが、精神的に参ってきている逸絵には関係ない。
逸絵はボウガンを持っていない方の手で髪の毛を掻きむしり、由乃のことを無視して一人、続ける。
「そうよ、どうせ黄薔薇の蕾様にとって、一般人の私なんかどうでもいい対象でしょう。ちっぽけなゴミみたいなものなんでしょう」
由乃は、逸絵の方こそ由乃のことを嫌っているんじゃないの、と思ったが、口には出さない。それくらい、目の前の逸絵の様子は、普段と全く異なっていた。
「そうなのよ、私が、どんなに私が」
ふらりと逸絵の上半身が揺れ、血走った目が由乃をとらえる。
「どんなに私が――由乃さんのことを、好きだとしても――――っ」
「――えっ?」
逸絵の言葉に、そして逸絵の次の行動に、由乃は反応できなかった。
突然、由乃に向かって走り出してきたのだ。距離にしてみれば10メートルほど、おまけに逸絵は陸上部ということもあって、あっという間に逸絵が目の前に迫ってきた。
腕を掴まれ、突っ込んできた逸絵に押し倒される。お尻を地面に強打して、痛みに顔をしかめるが、それ以上何かをする前に逸絵に組み敷かれて自由を奪われる。
「な、何をするつもりっ?」
「ああ、やっぱり綺麗、由乃さん……」
由乃の肩を地面に押し付けたまま、上から見下ろしてくる逸絵の顔は、どこか興奮した面持ちをしていた。
「な、なんなのよ」
「大きな瞳に真っ白い肌、少し茶色い長い髪の毛をお下げにして、ちょっと病弱で、腕も腰も足もすごく細くて、それこそおとぎ話のお姫様みたいで、そんな由乃さんがどれだけ羨ましくて、愛しくて、私は本当は、あなたみたいな女の子に生まれたかった」
意外な告白だった。
ずっと嫌われているものとばかり思っていただけに、全く逆に思われていたと知って、素直に驚く。
「病弱の体なんて、いいことないわ。私はむしろ、逸絵さんみたいになりたかった。自由に外を駆けまわりたかった。あなたみたいに速く走れたらどんなに素晴らしいだろうって、何度も思った」
由乃の言葉に、逸絵の口の端が上がる。笑っているのだろうが、今の逸絵からは常軌を逸した何かを感じる。
荒い息遣いで、顔をさらに近寄せてくる。
「そ、それなら、私達はお互いがお互いを羨んでいたということね」
「そう……なのかもしれないね」
こんな状況で分かる、意外な事実だが、そういうものなのかもしれない。人は自分が持っていないものを他人が持っていると、羨ましいと思うと同時に、憎いとも感じる。由乃と逸絵も、そんな関係だったのかもしれない。
「ね、由乃さん」
肩を掴む逸絵の手にさらに力が入り、由乃は顔をしかめる。
逸絵は興奮した面持ちで、続ける。
「由乃さん……ねえ、あ、貴女を抱かせて」
「――はっ!?」
「いいでしょう、どうせ、私達、死ぬんだし。一度でいいから、貴女の細くて、白くて、華奢な身体を抱きしめて、私のものにしたかった。ねえ、いいでしょう? 貴女だって、私にあこがれていたんでしょう?」
由乃の返事を聞かずに、逸絵は由乃の胸に触れてきた。制服越しだが、逸絵の手の平が、由乃の小さな乳房を包む。
その瞬間、由乃に訪れたのは、痛みでもなければ恐怖でもない、ましてや快感などでは絶対にない。圧倒的な『おぞましさ』だけが、由乃を襲った。
「やめて逸絵さんっ、ちょっと、何考えているのよっ!」
暴れるが、体格的にも体力的にも逸絵の方に圧倒的に分がある。下に組み敷かれている由乃の抵抗にも、さほど揺るがず、むしろ更に積極的に出てくる。逸絵の手が由乃のスカートの中に侵入し、太腿を撫ぜる。
「そ、それ以上はやめてっての!」
「どうして? 気持ちいいわよ。だって私、よく自分でしているから分かるの。由乃さんはどう? 週に何回くらいしているの? それともまさか、知らないなんてことはないわよね。私はいつも、由乃さんが私の指や舌で感じてくれることを想像して、嗚呼」
明らかに、逸絵は精神の均衡を崩していた。
顔をしかめる由乃を見て、むしろ嬉々として由乃の体をまさぐろうとしてくる。
「ま、待って。じゃあ、一つ質問に答えて。そうしたら、暴れないから」
「…………何?」
逸絵の手が止まる。
仰向けの体勢のまま、由乃はじっと逸絵を見上げる。
そして。
「……セーラーカラーについているその血は、どうしたの?」
由乃が示しているのは、逸絵のセーラーカラーの左側についている黒い染み。遠くから見た時は、単に汚れているだけだと思った。由乃の制服自体が埃まみれであり、違和感は覚えなかったのだが、こうして目の前につきつけられて判明した赤黒い染みは、まず間違いなく血が付着したものだった。
血かそうでないかくらいの判別は出来る。伊達に、十何年も病院通いをしていたわけではないのだ。
逸絵を見てみれば、疲労はしているようだし、汚れてもいるが、どこにも怪我をした様子は見えないし、怪我をしている個所もない。
となると、一体、『誰の』血が『なぜ』、『どこで』付着したのかが疑問だった。
「こ、これは……べ、別に」
逸絵の動揺した様子、そして今までの挙動から、由乃はヤマをかけた。
「……誰かの、返り血?」
その言葉を聞いて、逸絵の体が痙攣した。
目を大きく見開き、頭を抱え、ガタガタと震えだす。
「違う、これは、私じゃない、私のせいじゃないっ」
「誰かを……殺したの?」
聞きたくないけれど、思わず口にせずにはいられなかった。由乃だって、信じたくはないのだ、クラスメイトが誰かを殺したなんてことを。しかも、目の前で、本人の口から告げられるなど。
逸絵はイヤイヤをするように首を大きく左右に振り、口を開く。
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うあれは私じゃない私のせいじゃないっ! 仕方なかったのよ、いきなり目の前に飛び出してくるから驚いて撃ってしまっただけなの殺す気なんかなかった私が殺されると思ったから、だから、撃たないと殺されると思ったから撃っただけ。そう、あれはあの人が悪いのよ私は悪くない私のせいじゃない」
うなされるように、呪いを吐くように、言葉を散らす逸絵。いまだ由乃の上に跨ってはいるが、腕を掴んでいた手は離れ、意識も離れていることを見た由乃は、力を込めて上半身を起こし、逸絵の体を押しのける。
バランスを崩し、地面に腕をつく逸絵。
ばたばたと、四つん這いの格好で逸絵から離れる由乃。慌てて、足がもつれてうまく立ち上がることが出来ない。
一方、転ばされた逸絵は目を吊り上げ、凄まじい形相で由乃のことを睨みつけた。由乃に掴みかかった際に落としてしまったボウガンは、二人が組み合っていたところから少し離れた場所に落ちている。逸絵は起き上がり、一気にダッシュしてボウガンを掴む。
「逃げるなっ!!」
逸絵の叫びに思わず振りかえった由乃。その、1メートルほど横を、風が突き抜けていった。
背後で鈍い音がする。
目を向ければ、太い木の幹に一本の矢が刺さっていて、痙攣するように揺れていた。撃たれたと由乃が気がついたのは、更にそれから2,3秒遅れてのことだった。
突然のこととはいえ、飛んでくる矢を視界にとらえることなど全くできなかった。あんなものを撃たれたら、避けることなんて不可能だし、当たりでもしたらただではすまない。
二人の距離は、まだそれほど離れていない。次に狙われたら、今度は当たるかもしれない。逸絵は、次の矢を取り出してボウガンにセットしようとしていた。
悩んでいる暇はない。由乃は銃を取り出そうとポケットに手を突っ込んだが、制服の生地に引っ掛かってか、すぐに取り出すことが出来ずに焦る。
「動かないで」
銃を由乃が取り出すよりも先に、逸絵の声が由乃の動きを止めた。見れば、既に次の矢を装着したボウガンを、由乃に狙いを定めるようにして向けてきている。銃を取り出そうとした格好のまま、動きを止める由乃。
「由乃さん、あなた、私を殺すつもりなのね! そ、そうはいかないんだからっ」
「逸絵さんの方から撃ってきたんじゃない!」
「よ、由乃さんが私を突き飛ばすからっ。そ、それで、私を殺そうとするから」
「落ち着きなさい、私はそんなつもりはないから」
逸絵の腕はぷるぷると震えているが、由乃だって怖くて震えている。ボウガンの切っ先が、由乃を正面からとらえ、動くのを阻んでいる。額に嫌な汗がにじみ出る。
「駄目よ、そんなの信じられない。その手に握っているのはなんなの。それで私のことを殺そうとしたのね」
「こ、これは」
「しょ、しょうがないわよね、由乃さんが私を殺そうとするのだもの、これは正当防衛だわ。そうよ、さっきのだってそう。私は悪くないの。ごめんなさい由乃さん、私だって死にたくないの、だからごめん、あなたが悪いのよ、私のことを殺そうとするから。私だってあなたのことを殺したくなんかないけれど、私のことを受け入れてくれないし、エッチもさせてくれないし、仕方ないじゃない」
口に出すことで、逸絵は自分自身を納得させているのかもしれない。だが、勝手なことばかり言われている由乃は、納得できるものではない。とはいえ、今の状況では由乃の方が圧倒的に不利だ。変な動きをしようとすれば、すぐにボウガンの矢が放たれるだろう。今の逸絵の精神状態なら、由乃に向けて撃つことだって、きっと躊躇うまい。
銃のグリップを握る手が、じっとりと汗ばんでいる。このまま、逸絵に殺されるのか。冗談じゃない。だけど、どうしたらいい?
「ごめんね由乃さん、私はあなたの分も生きるから」
逸絵の表情は、どこか正気を失っているようにも見えるが、そうではないことを由乃は察知した。
自己陶酔だ。
自分は悪くないと、自分こそが悲劇のヒロインなのだと思い込んでいるのだ。追い詰められて、そんな状態になってしまったのかもしれない。そりゃああ、逸絵だけが悪いわけではない。悪いのは、こんな胸糞悪くなるようなゲームに由乃達を突き落とした連中だ。だけど、由乃はそんな自己陶酔に浸っている目の前の逸絵に腹が立った。
しかし、どうすればよい。
由乃の瞳が、逸絵の背後に向く。
口が小さく開く。
「あ――令ちゃん」
目を見開き、ぼそりと呟く。
「っ!?」
咄嗟に首を捻り、構えていたボウガンを後方に向ける逸絵。
瞬間、走り出す由乃。
逸絵の視線の先には、誰の姿もない。騙されたと気づいた逸絵は、慌ててボウガンを由乃の方に再び向けようとして、驚く。
由乃は逃げ出したのではなく、逸絵の方に向かって走り出していたのだ。
一方の由乃とて、絶対の勝算があったわけではない。ただ、逃げ出したところで脚力に圧倒的な差があるだけに、追いつかれる可能性が高いと考えた。無防備な背中に矢を撃ちこまれるかもしれない。一度傷を負ってしまえば、もはや逸絵を出し抜き、状況を覆す術はないだろう。
それならば、逃げるより逸絵との距離を詰めた方が圧倒的に走る距離は短くて済むし、足の遅い由乃が逸絵との距離を広げるより、容易だ。無謀な選択かもしれなかったが、由乃は選んだのだ。
直進は避け、斜めに走るようにして逸絵の死角に回り込もうとする。逸絵が体を捻り、ボウガンを放った。
焼けるような痛みが左腕を貫きバランスを崩すが、致命傷ではない。由乃は歯を食いしばって体勢を持ち直し、逸絵に更に走り寄る。
口元を引き攣らせながら、逸絵が次の矢を装填しようとしたところ、由乃は取り出していた銃を逸絵に向けて――撃った。
「ぎゃあああああああっ!!!」
絶叫とともに、逸絵の手からボウガンが落ちる。
かなり近くまで寄っていたためだろう、由乃の射撃でも、逸絵の腕に当てることが出来た。体の中心を狙えば、ずれてもどこかに当たると読んだのはどうやら正しかったようだ。銃の反動をこらえて走り寄り、血の滴る左手を抑え痛みに咆える逸絵の頭部を銃把で殴りつけると、逸絵はもんどりうつようにして地面に転がった。
「くっ……ぎゃあっ!!」
体を起こされる前に、血に濡れた逸絵の左手を踏みつける由乃。
「っ、はぁっ、くっ、よくも、やってくれたわね」
汗で張り付く前髪を払う余裕もなく、由乃は仰向けに転がる逸絵を見下ろす。もちろん、銃口は逸絵の顔に向けられている。
「ひっ……や、やめっ」
逸絵の顔が、恐怖で歪む。
「……私は、偽善者ぶらないわ」
小さな声で、それでもはっきりと、由乃は口を開く。
「た、助けて。そ、そうだわ、由乃さん、私と協力しましょうよ。生き残ることが出来るのは二人なのだから、争う必要なんてないわ、そうでしょう?」
必死に、命乞いをする逸絵。逸絵のことを睨んで離さない黒い銃口が、恐怖をさらにおしあげる。
「仕方がない? 自分は悪くない? そんなのは全て、自分自身を騙すための、ただの言いわけに過ぎないわ」
「な、何を言っているの?」
「ごめんなさい、って謝れば罪悪感が薄れるでしょう。涙ながらに人を殺し、自分こそが悲劇のヒロインだと酔えば、心は壊れないかもしれない」
「だ、だから、なんなの一体? 由乃さんっ?」
大きな瞳で逸絵を見据え、目をそらすことなく、由乃は続ける。
お下げが、悲しそうに揺れる。
「私は、言い訳はしない。ごめんなさいも言わない。自分は悪くないなんて思わない。だって、これは全て私の意志だから」
「う、うそ、でしょう? ねえちょっと由乃さん、嘘でしょう!? まさか私を殺したりなんかしないでしょう!? だって」
「さようなら、逸絵さん。私は貴女を――『殺す』わ」
静かに言って、由乃は逸絵の顔に向けていた銃口の角度を変えて。
引き金を、引いた。
「がふっ……!?」
逸絵の体が跳ね、口から血が吐きだされる。
制服の胸部から、真っ赤な血が溢れ出している。
無言で由乃は、二発、三発と逸絵の体に銃弾を叩きこんだ。撃たれる度に逸絵の身体は跳ね、血を噴き出し、同時に瞳から光が失われていく。
「よ……し……」
何かを言おうとして、血の泡を吹いて、逸絵の目から生命が消えうせた。
魂を失った少女の体を見下ろして。
由乃は銃に替えの銃弾を装填した。
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