書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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【マリみてSS(女性陣×祐麒)】3F! 3.我が家の特製?

更新日:

~ 3F! ~
The fashion of Fukuzawa family!
<福沢家の流儀!>

 

『3.我が家の特製?』

 

 福沢家の敷地には庭がある。
 さほど広いというわけではないが、それでもある程度の広さはあり、植物などが植えられている。幼い頃は大きく感じた庭も、育って大きくなった今となっては、中途半端な広さを持った空きスペース、といった感じだ。
 祐麒はそこで、庭の植物に水を与えていた。
「大きく元気に育ってねー」
 すぐ目の前では、令が楽しそうにじょうろで水をまいている。福沢家では、大抵の面倒くさいことを、令と祐麒で分担している。
「庭の手入れは俺がやるからいいのに。令ちゃんはただでさえ、家事で忙しいのにさ」
「大丈夫、私も園芸とか好きだし。それに、こうやって、ふ、二人で……」
 言葉の最後の方は、声が小さくなって祐麒には聞きとれなかった。
 元は、家庭菜園ができれば、食費も多少なりとも浮くのではないか、なんていう理由から始めて、最初こそ他の姉妹もそれなりに世話をしていたのだが、今となってはたまに乃梨子や祐巳が手伝ってくれるくらいである。
 自分が育てている植物が成長していく様を見ているのは、とても楽しいのだが、手間も暇もかかるのは事実である。とはいっても、さほど手間のかかるようなものは育てていないのだが。
「それじゃあ私は、そろそろ夕飯のお買い物に行って来るね」
「うん、気をつけて」
「祐麒くんは、何が食べたい?」
「令ちゃんの作ってくれるものなら、何でも美味しいからなぁ、そう言われても困るかも」
「じゃあ、特製冷しゃぶと特製回鍋肉、どっちがいい?」
「うをっ、どっちも大好物! 令ちゃんの美味しいから……でも今日は冷しゃぶの方で」
「分かった、とびっきりのを作ってあげるからね」
 笑顔で手を振りながら、令は家の中に戻っていった。令の姿が消えるまで見送り、さて改めて水をやろうと気合いをいれなおす祐麒。
「なるほど、今晩は特製冷しゃぶか……うまそうだな」
「うおぉうっ!? い、いきなり人の家の庭に現れないで下さいよっ!」
 突然の背後からの声に、本気で飛び上がる祐麒。振り返った先に立っていたのは、近所に住んでいて馴染みでもある、柏木優であった。
 容姿端麗、頭脳明晰、運動神経もよく、さらに家もお金持ちと、何でも揃っているスーパー人間だが、ただ一つの欠点は少々変態だということ。性格は悪くないし、友情にも厚いのだが、とにかく変人なのである。
「時にユキチよ、祐巳ちゃんは在宅か」
「……祐巳に何か用ですか?」
「決まっている。プレゼントを持ってきたのだ、これを受け取ってもらいたくてな」
 にやりと僅かに唇を歪め、前髪を手で払う。そんな仕草が様になるのだが、手に持っているのが大きなカピバラのぬいぐるみなので、格好良さ半減である。
 優はなぜか祐巳にご執心で、こうしてしょっちゅう祐巳目当てで訪れるのだが、祐巳本人を目の前にすると緊張でまともに喋ることができなくなり、支離滅裂なことを口走った挙句に、プレゼントを投げ捨てるようにして逃げていく。そのため、祐巳には色々と誤解されている。
「あいにく、祐巳は出かけていますよ。たく、よく毎度、懲りずにやってきますね」
「当たり前だ、祐巳ちゃんは僕の天使だからな」
「恥しげもなく、よくそんなこと言えるな……」
「人を愛するのに恥しいことなど何もない。そういうユキチの方こそ、本命はいったい誰なのかな?」
「は? 何を言っているんスか。そんなの別に」
「果たしてそうかな?」
「……何を言いたいんですか?」
 空になったじょうろを置いて、訝しげに優を見ると、優は余裕たっぷりに祐麒のことを見下ろしてくる。
「同学年である祐巳ちゃんと妹達のことは名前で呼び捨て、上の姉達には"姉さん"とつける。しかし、ただ一人、その法則から外れた呼び方をする姉妹が一人」
「なっ……そ、そんなの、俺だけじゃなくて、みんなもそう呼んでいるからっ」
「ふっ、そうなのかな」
 余裕の笑みを浮かべる優。
「大体、姉弟だし、馬鹿なこというなよ」
「血はつながっていないわけだし、問題ないだろう。むしろ、10人同時攻略を目指してもいいのではないか、男なら。いや、祐巳ちゃんだけは譲れないが」
「アホなこと言ってんなよ、祐巳はいないんだから帰った、帰った」
 カピバラのぬいぐるみを小脇に抱えた優の背中を押し、庭から追い出す。未練ありそうな顔をしていたが、知ったことではない。
「ったく……」
 颯爽と去っていく後ろ姿を、舌打ちをこらえながら見送る。
「本当、頭がいいんだか、悪いんだか」
 再びじょうろを手に取り、ため息。
 鉢から伸びる、祐麒のよく知らない花は、何も知らずに元気よく咲いていた。

 

 翌日の土曜日。
「ただいまーっ」
 元気よく帰宅の挨拶をして玄関の戸をくぐったのは、小さい体を弾ませるようにして駆ける菜々。脱いだ靴をきちんと直すのは、もはや習慣。何せ、姉妹が10人もいるのだ、出しっぱなしにしていたら、すぐにぐちゃぐちゃになって分からなくなってしまう。
「菜々ちゃん、お帰り。今日は、部活?」
 出迎えたのは、令。大学生の令は、講義が少ない日は帰宅も早い。何せ、家族の夕食を作らねばならないので、部活もサークル活動も行っていない。他の姉妹は、そこまで気を遣わなくてよいと言ってくれているが、そうもいかないのが事実。
「うん、お腹ぺこぺこーっ」
 菜々は、令の影響を受けてか、中学から剣道部に入った。まだ本格的な打ちこみはさせてもらえないだろうが、楽しく部活動に打ちこんでいるようだ。
 ばたばたと二階に駆けあがっていく菜々を見て、令は苦笑する。令も高校まで部活動で剣道をやっていた。大学でも続けろと姉達は言ったが、大学に行かせてもらっているだけでもありがたい。これだけの大家族、上の方の姉妹は早く職についてお金を稼ぎ、生活や下の子達の学費を稼ぐ必要がある。高校を卒業したら働こうと思っていた令を、他の姉妹が説得して大学まで行かせてくれたのだ。他の姉達も大学に通っているし、令だけ高卒で働く必要はないと。
 ならばせめて、家事くらいは自分の責任でやろうと決心した。剣道は、土日などに、子供のころからお世話になっている道場に稽古に行けるので、充分だ。
「景姉さんばかりに負担をかけるわけに、いかないもんね」
 台所に入ると、菜々のために簡単なものでも作ってあげようと、冷蔵庫を開ける。夕食まで多少、時間があるとはいえ、食べ過ぎさせてもいけない。
 リビングでは、乃梨子と笙子の双子が仲良くテレビを見ている。瞳子は部屋で勉強、景もまた部屋で仕事をしている。他の姉妹は、今日はまだ帰ってきていない。
 夕食の時間は、どうしてもバラバラになってしまうが、それでも半分以上の姉妹は顔をあわせる。時間があわないのは、主に上の姉妹達だ。
「うーっ、汗かいちゃった、シャワー、シャワー」
 どたどたと階段を駆け下りてくる菜々の声を、苦笑しながら聞く。騒がしいが、令は末っ子の菜々にはやっぱり甘いし、自分にあこがれて剣道を始めてくれたというのも嬉しいので、怒る気にはなれない。
 しかし。
「……あれっ? 今、お兄ちゃんがお風呂、入ってなかったっけ?」
 リビングから聞こえてきた笙子の声に、思わず包丁を取り落とす。
 そういえば確かに、学校帰りに買ったドクターペッパーを飲もうとして蓋を開けたら噴射して、体が大変なことになったから流すと、しばらく前に浴室に向かったはず。
「な、なな、菜々ちゃんーーーーーっ!!!!」
 絶叫しながら、令は洗面所に飛び込んだ。
 そこでは、今まさにすっぽんぽんになり、浴室の扉を開こうとしている菜々の姿が。
「だっ、だめーーーーーーっ!!!!!!!!」
 叫びながら、令はダイブした。

 

「……むーっ、なんで一緒に入っちゃダメなのさー?」
 リビングのソファの上で、菜々がぶーたれている。
 危機一髪のところで、菜々の浴室への侵入を防いだ令は、心の中で冷や汗を拭いつつ菜々と対面していた。
「当たり前でしょう、祐麒くんは男の子なんだし、菜々ちゃんは女の子だし」
 諭すように優しく言うが、菜々は首を傾げる。
「どうして? だって、ついこの前までだって一緒にお風呂入っていたし」
 その爆弾発言に、令だけでなく、笙子や乃梨子の表情も凍りつく。
「そ、そ、そ、それは本当なの、菜々ちゃんっ?」
「え? うん、まあ、そんなにしょっちゅうじゃないけれど、たまにね。おにぃだって、嫌がらずに入ってくれるし」
「え、お、お、お、お兄ちゃんのが、菜々に入った!?」
「誰もんなこたぁ言ってないでしょ笙子」
 衝撃のあまり壊れかけている笙子の発言に、乃梨子が突っ込む。
「一緒に洗いっことか、楽しいしー」
「あ、泡踊りっ!?」
「だから落ち着け笙子」
 笙子にチョップをかます乃梨子。
 しかし、笙子に劣らず令もショックだった。一緒に暮らしていて、まさか祐麒と菜々が一緒に風呂に入っていることに気がつかないとは。おそらく、菜々も姉達のプレッシャーを感じ、無意識のうちに気づかれないようなタイミング、日時で入っていたのだろう。誰かが気がついていたなら、絶対に邪魔をしているだろうから、なんたるステルス入浴。
 そこへ、風呂から出てきた祐麒が、タオルで頭を拭きながらやってきた。
「あれ、どうしたのみんな、妙な雰囲気だけど」
「ああ……ええと兄さん、一つ確認したいのですが」
 皆を代表して、乃梨子が口を開く。
「兄さんと菜々が時々いっしょにお風呂に入っているというのは、本当ですか?」
「え、ああ、うん」
 至極あっさりと、祐麒は頷いた。
「ど、どういうつもりなんですか、兄さんは?」
 感情を押し殺した声で、乃梨子が尋ねる。
「どういうって、菜々が一緒に入りたいっていうし、あとシャンプーが目に入るから頭を洗ってやったり」
「んな馬鹿な!」
「なに、そんなに目くじら立てるようなことじゃないだろ。菜々はまだ子供なんだから」
「そうだよー、いいじゃんねぇ、おにぃ?」
 菜々に甘えられて、祐麒はまんざらでもない顔をする。完全なる兄馬鹿である。
「駄目です、親しき仲にも礼儀ありっていうでしょう。私だって祐麒くんと一緒にお風呂に入ったことなんて、ないのに」
「ん?」眉をひそめる乃梨子。
「ほえ?」目を丸くする笙子。
「じゃあ今度、令ちゃんも一緒に三人ではいろーよ」無邪気に提案する菜々。
「いや、な、なっ、なんでもないからっ」真っ赤になって発言を打ち消す令。
「ああ、でも前は令ちゃんと一緒にお風呂、入ってたよね」
 そして、空気を読まない発言をする祐麒。
「え、そうなの? お兄ちゃんをお風呂にいれるのは、景お姉ちゃんじゃなかったの?」
 微妙に頬を引き攣らせた笑みで尋ねる笙子に、令は少々、びびる。
「やだな、子供の頃の話だよ。笙子ちゃん達だって、一緒に入ったでしょう」
「そりゃまあ、あるけれど……」
「でしょう? 私だって高校に入る前だったし」
「えええっ!? 私達一緒に入っていたのって、小学校の3,4年くらいまでだよ!?」
「え、あ、あわわっ」
 余計なことを言ってしまい、藪蛇となってしまう。確か、最後に一緒に入ったのは中学を卒業する前で、さすがに高校に入ってまで弟と一緒にお風呂はないだろうと思って最後にした記憶がある。が、それでも遅すぎたのだろうか。祐麒は4月1日生まれということもあり、同じ学年の子達の中では一番、生まれが遅い。もうひとつ下の学年でもおかしくないわけであり、そのためか、発育は比較的ゆっくりだった。そういったこともあり、さほどおかしいとは思っていなかったが、変だったのか。
「うわ、蓉子お姉ちゃんに隠れて分からなかったけれど、令ちゃんも実は結構……?」
 変態を見るような目つきで、笙子が見つめてくる。
 頬を赤くしつつ、なんて言い繕おうかと困惑していると、先に祐麒が助け船を出してくれた。
「いいじゃん、別にさ、そりゃ少しは恥しいけれど、姉弟なわけだし。それに、最近だって景姉さんや静姉さんと一緒になったこと、あったし」
 祐麒の発言に、一瞬、静寂が訪れる。
 そしてその後、爆発する。
「えっ、えええええっ!? ななな、何それっ、最近って、最近っ!?」
「やだ、兄さん、本当にっ!?」
「あー、そうは言っても、雨に濡れて風邪引かないように急いでてとか、寝ぼけていてとか、アクシデントみたいなものだから、わざとじゃないから」
 さすがに祐麒も、恥しそうに言う。
「ん、なに、どうして笙子ねぇも乃梨ねぇも驚いているの?」
 一人、姉達の狼狽っぷりの意味が分からずに、きょとんとしている菜々。
「だ、だって、高校生にもなって、姉と一緒にお風呂なんてっ」
「なんで、別にいいじゃん。笙子ねぇも乃梨ねぇも、今度一緒に入ればいいじゃん」
 菜々が言うと。
 顔を赤くした笙子と乃梨子が何かを口にする前に、祐麒が口を開いた。
「いや、それはさすがに無理だって」
「「なんでやねんっ!!」」
 同時に、笙子と乃梨子の突っ込みが入る。なぜか大阪弁がまじっている。
「さすがに恥しいだろう、それは」
「矛盾しているじゃないですかっ! ににに、兄さんは、他の姉妹とは入れるのに、私達とは入れないと!?」
「なんで!? どうしてっ!?」
「笙子や乃梨子、それに祐巳や瞳子はさ、歳が近いから逆に恥しいっていうか。菜々や姉さん達だったら、歳が離れているせいか、そこまでって感じじゃないんだよなー」
 祐麒の言葉を聞いて、令も少し理解する。歳が近いと、自分の同級生とそう変わらないわけで、どうしても意識しすぎてしまうのだろう。その点、歳が離れていると、自分が子供のように扱われたり、相手の方が子供だったりと、相手の捉え方が異なってくるのだ。
 しかし。
 令と祐麒は学年としては2つしか違わず、瞳子との差と変わらないのに、もっと差があるように感じられているのか。令が大学生ということもあるのかもしれないが、嬉しいのか、悲しいのか、微妙なところだった。
「でも恥しいことに変わりはないから、一緒に風呂に入ろうとは――」
「何々、お風呂がどうしたの?」
 リビングの入り口から、新たな声が飛び込んできた。帰宅した江利子がリビングに姿を現したのだ。
「江利子お姉ちゃんには関係ありません」口を尖らせる笙子。
「何よー、仲間外れにしないでもいいじゃない。ああ、ちなみに私も、祐ちゃんと一緒にお風呂はいつでもウェルカムよ。なんなら、ナナッチと一緒に3のつくピーでも」
「ぴー?」首を傾げる菜々。
「うわわわっ、もうこの話題はおしまい! 祐麒くんは男の子なんだから、みんなは一緒に入ろうとしないこと、いい?」
 とんでもないことを口走ってきた江利子の登場をきっかけに、強引に締めに入る令。どうせ纏めたところで、守られることなどないのだ。菜々は喜んで一緒に入るだろうし、景は仕事明けで朦朧としたまま足を踏み入れ、静は不思議とタイミングが合ったりして。そして令は、もちろんそんなことは恥しくて出来るはずもない。
 令の掛け声で、とりあえず場はうやむやとなってお開き。令は気分転換に、外に出て庭の手入れをすることにした。
 令の後を追うようにして、祐麒も庭に出てくる。夕日が差し込み、庭の緑もオレンジがかった色合いに染まっている。
 象さんのじょうろを手にした令が、祐麒に気がついて振り向く。
「あは、また手伝ってくれるの? ありがと」
「一人じゃ大変だもんね」
 祐麒はホースを手に取り、水道の蛇口をひねって、令のじょうろでは届かない遠くの方に向けて散水する。
「今日もこの後お買い物に行くけれど、夕飯は何が食べたい?」
「うーん、なんか俺のリクエストばかりじゃ悪くないかな」
「祐麒くんは男の子で食べ盛りなんだから、いいの」
「そうだなぁ、あっそうだ、前に作ってくれた令ちゃん特製ニラレバ炒め、あれがいいな。凄い、ご飯が進むんだよね」
「オッケー、了解しました」
 敬礼して微笑む令。
 それからしばらく、特に何を話すでもなくそれぞれの範囲に水をまく。水滴が夕陽にきらめき、緑の葉も喜んでいるように見える。
「……ん、あれ?」
 背後で、戸惑うような祐麒の声。
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない……ん」
「水の勢いが弱くなってるね……っぷわぁっ!?」
 令が近寄っていった途端、ホースから勢いよく水が飛び出した。水の勢いで跳ねたホースの先端は、ちょうど令の方を向いていたため、思い切り正面から水をかけられる格好となった。
「うわあ、ごめん令ちゃんっ! って、こら菜々っ!?」
「わーっ」
 どうやら菜々がホースを踏むという、原始的な悪戯をしていたようだった。蛇口も全開にしたのか、水の勢いも先ほどとは段違いで、水を留める頃には祐麒まで色々と濡れてしまっていた。
「だ、大丈夫、令ちゃん?」
「うん、まあ、水だし」
 とはいうものの、春とはいえ夕方になれば風も冷たくなってくるし、体の熱を奪われる。ぶるりと体を震わせ、くしゃみが出そうになるのを堪える。
「このままじゃマズイね。令ちゃん、シャワー浴びてきなよ」
「うん……あ、でも」
「俺は、令ちゃんほど濡れてないから、大丈夫だよ」
 濡れたシャツを指でつまんで笑ってみせる祐麒を見て、ふと、令の中で小悪魔が口笛を吹いた。
「あ……よ、良かったら、私と一緒に入る……祐麒くん?」
 水で透けかけているシャツの胸元を腕で隠し、なるべく軽い口調で言ってみる。
「え、ええっ!? 令ちゃんとっ? そそっ、そんなの、絶対に無理だって!!」
 祐麒の反応は、令も予想していなかった激しい拒絶だった。喜んで頷くなんて思っていなかったけれど、恥しがるとか、照れるとか、冗談でしょうと一笑されるとか、その程度を考えていた令にとっては、ショックな反応だった。まさかそこまで、嫌がられるなんて思っていなかったのだ。
「そ……そう、だよね。私なんかと一緒に入りたくなんて、ないよ、ね」
 景や、静や、菜々と一緒に入ることはできても、令となんかは絶対に入ることはできないと、そう言われてしまったのだ。泣きそうになるのを堪えて、無理に笑ってみせる。
「ち、ち、違うよっ! 令ちゃんと一緒になんて恥しくて、それにほら、令ちゃんは特別なわけで……っ!!」
 どこか必死になって、腕をばたばたと振っている祐麒の言葉に、ぴくりと反応する。
「え……それってどういう」
 意味なのかを問おうとしたとき。
「ちょっと令、祐麒ちゃん、二人ともびしょ濡れじゃない、な、ナニをしているのっ?」
 ちょうど帰宅してきた蓉子に見つかった。
「風邪ひいちゃうじゃない、ほら祐麒ちゃん、早くシャワーを浴びてらっしゃい」
「あ、俺は大丈夫だから、令ちゃんを先に」
「でも、令はお姉ちゃんで、祐麒ちゃんは弟だから……」
「その前に俺は男で、令ちゃんは女の子だから」
 そう言って祐麒が微笑むと。
 蓉子と令は、揃って頬を赤らめる。
「か、格好いい、祐麒ちゃん……」
「うぅ、きゅ、きゅんとしちゃった……」
「ほら、いいから早く令ちゃん、お風呂に行って」
 結局、当たり前だが祐麒と令はそれぞれ別にシャワーを浴びたのであった。

 

「――何、そんなことで揉めていたの?」
 土曜日ということもあり、久しぶりに11人がそろった賑やかな食卓では、風呂問題の話題が再燃していた。
「ま、まさか、そんなことになっていたなんて……これは、私も今度祐麒ちゃんが入っているときにうっかりミスでお風呂に」
「蓉子、本音がだだ漏れしているから」
「ていうか、景姉さんが祐麒ちゃんと一緒に入ったという方が問題でしょう」
「あ、あれは不可抗力よっ。仕事明けで、無意識化でお風呂を求めていたのだから」
「銭湯みたいにおっきなお風呂なら、みんなで一緒に入れるのにねー」
 菜々の無邪気な発言に、欲に凝り固まった一部の姉妹達は押し黙る。
「もういい加減にお風呂問題は片づけましょう。祐ちゃんと一緒にお風呂に入るのは私かナナッチということで、いいわよね。最大と最小が相手をするということで」
「いいわけないでしょうがっ!!!」
「あら、でも蓉子姉さんじゃあ、祐ちゃんを満足させられるかしら?」
「わ、わ、私だって、そ、そ、それくらい」
「ねえ瞳子、蓉子お姉ちゃんと江利子お姉ちゃん、何のことを言っているの?」
「わ、私に聞かないでください、祐巳お姉さまっ!」
 相変わらずの姉妹の会話の中、祐麒は元気よくご飯を食べている。年齢的に食欲が先にくるし、姉妹の会話が変なのもいつものことなので、話している内容は実はあまり耳に入っていないのだ。
「祐麒くん、おかわりは?」
「うん、あ、いいよ自分でやるから。ついでに麦茶、お代りの人」
「はーい、これよろしく」
「あ、私もー」
 静と笙子のコップを受け取り、キッチンに入っていく祐麒。しばらくして、お代りの入った茶碗と、麦茶をお盆に載せて戻ってくる。
「ごめんね、ありがと、祐麒くん」
「いえいえ、どういたしまして」
 その姿をじーっと見ていた蓉子が、ちょっとふてくされた様な顔をして口を開く。
「なんか最近、祐麒ちゃん、随分と令に優しくないかしら」
「ええっ? そんなこと、ないと思うけれど」
 当事者の令がうろたえたように応じるが。
「あ、それは私も感じるかもー」
「あら、ナナッチが感じるなら、確かにそうなのかもしれないわね……で、どうなのかしら祐ちゃん?」
 にっこりと、だが迫力のある笑顔で問いかけてくる江利子。蓉子や笙子もそれぞれの想いを胸に秘め、祐麒のことを見つめる。
「いや、だってほら、令ちゃんには今夜のおかずとか色々と世話になっているし」
 祐麒の発言に、蓉子の体が硬直する。
「こ、こ、今夜の、オカズっ……?」
「ああ、まあ昨日も一昨日もそうだったけど」
「さ、三連ちゃんっ!?」
「特に昨日の特製冷しゃぶは最高だったし。令ちゃんも約束を律義に守ってくれるから」
「とっ、特製っ!? 令しゃぶっ!!? そ、それってもはやオカズじゃなくて、ちょ、直接的なもんじゃっ! れれれ令っ、貴女一体、どんな特別サービスプレイをしているの!?」
「蓉子姉さん、は、鼻血っ……そ、それに誤解、すごい勘違いだからっ!」
 ダラダラと鼻血を滴らせながら、興奮状態の蓉子が立ちあがり、食卓に身を乗り出す。
「あら、令は蓉子姉さんの勘違いの内容を理解しているようね。江利子、さっぱり意味が分からないから、教えて欲しいわ~」
 妖艶な流し目を令に向ける江利子。明らかに、全て分かった上で令に尋ねているのであろう。
 ちなみに見渡してみると、景と笙子は理解しているよう。静と瞳子は、なんとなくおぼろげにわかっているという感じか。乃梨子もおそらく、雰囲気は感じ取っている。なぜなら赤面しているから。祐巳と菜々は、全く分かっていない模様。
「ゆ、祐麒ちゃんっ、今夜は私が特別メニューの"ようこそようこ"でしてあげるから、我慢しないでグハっ!」
「いー加減にしなさい、夕食の場で」
 景のチョップを延髄にくらい、食卓に顔面から突っ伏す蓉子。
 しかし、気合いですぐに復活する。
「わ、私は認めない! れ、令ばかり良い目を見るのはおかしいわ。令との約束、契約は無効にします。『特製令』を求めるわっ!」
「蓉子お姉ちゃん、意味わかんない」
「でも、これで謎が解けたわよね。ナナッチと一緒の部屋で、どのようにして処理しているのかと思ったら、令がそうやって受け止めてあげていたと」
「だ~~か~~ら~~~、食事時にその手の話はやめんかーーーーーーっ!!!!」
 景の怒声が響き渡り、話は打ち切りになったのであった。

 

 そして夜。
「ふふ……令にばかり任せてはおけないわ。今日は、私が」
「蓉子姉さんと私とで挟んであげましょう。うふふ、祐ちゃんが悦ぶ姿が目に浮かぶようだわ」
「くっ……わ、私一人じゃ無理だし、令に対抗するには仕方ないのかしら……でも江利子、言っておくけれど私の方が先に」
「はいはい、お姉さま優先で。その代わり私には……」
「ふっふっふ~、二人で何の相談なのかしら~?」
 蓉子と江利子が祐麒の部屋に辿り着く寸前、パジャマの首根っこを掴まれて全身を阻まれる。
 振り返れば、髪の毛を蛇のようにうねらせた景が、黒いオーラをまとって見下ろしてきていた。
「あはは、景姉さん、いやこれは、ちょっと寝る前の息抜きみたいなものですから」
「そうそう、ちょっと祐麒ちゃんの部屋にヌキに」
「あほか、さっさと下に降りなさい、今夜はみっちりお説教よ」
「あ、あ、いやーっ、離して景姉さんっ!」
「あー、こりゃ駄目だよ、景姉さん、メデューサモードになったら朝までは無理」
「ゆ、祐麒ちゃーーーーんっ!」
 ずるずると廊下を引きずられていく蓉子と江利子。
 蓉子の悲痛な叫びは、階下へと消えていった。

 

「……なんか今、変な悲鳴が聞こえなかった?」
「ん? ゲームの音じゃない。それより菜々ちゃん、寝ちゃったね」
「あ、ホントだ」
 祐麒の部屋では、菜々と令と祐麒で一緒にテレビゲームをしていたのだが、いつの間にか菜々は安らかに寝息を立てていた。
 可愛らしい寝顔を見つめて、令は幸せそうに微笑んでいる。
「ねえ、祐麒くん。晩御飯の時のことなんだけど、ご、ごめんね、なんか姉さん達に変な誤解、されちゃって」
「令ちゃんのせいじゃないでしょう、なんか俺の発言の後からだったし。てか、姉さん達は何をいったい、あんなに興奮していたの? 何を誤解したのかな。食べる方に集中していて、よく話の内容まで理解していなかったんだけど」
「そっ……れは」
 答えに詰まる令。
 当たり前だが、とてもじゃないが口に出して説明できるようなことではない。
「いいじゃない別に、そんなこと」
「えー、そう言われると、気になるな。教えてよ」
「……し、知りたい?」
 ゲームを片づけながら聞いてみると、祐麒はこくんと頷いた。ゲーム機とソフトをしまい、座っている祐麒の肩に手を置き、ゆっくりとその手を下におろし胸に触れる。いつのまにか逞しくなった胸の厚みに、鼓動が跳ねる。
「令、ちゃん?」
「――あ、ご、ごめんっ! それより菜々ちゃん寝かせないとね、あーもう、こんなにおへそ丸出しで」
 何をしようとしていたのか、自分の行動に自分で驚き、とにかく誤魔化すようにして祐麒から目をそらす。じっとしていることもできず、寝てしまった菜々をベッドに移そうと、持ち上げようとする。
「俺がやるよ、令ちゃん」
「大丈夫、これくらいなら」
 お姫様抱っこで菜々を持ち上げる。
 ベッドの方に足を向ける。
「あ、菜々のベッドは、あっち」
「あ、そ、そか、と」
「ん~……れいちゃん……?」
 令の腕の中で、寝ぼけ眼の菜々が、むずがったかと思うと。
「うーーー、令ちゃんのぱふぱふーーっ!」
「うにゃーーーーっ!?」
 不意に菜々が、令にぎゅっと抱きつき、令の胸に顔を埋めてぱふぱふした。悲鳴をあげる令だが、菜々を落とすわけにもいかず、ふらつく。
「令ちゃん、危ないって」
「ちょ、菜々ちゃんっ、やめてっ」
「気持ちいいにゃあ~ん」
「ひあ~んっ!」
 とりあえず、さっさと菜々を置いてしまおうと、ベッドに飛び込む令。心配そうに、祐麒が手を伸ばす。
「――――ちょっと、夜にうるさいですわよっ! もう少し……静かに……」
 目を吊り上げ、室内に怒鳴りこんできたのは瞳子。
 その瞳子が見た光景は。
 ベッドの上で仰向けに寝っ転がり、おへそ丸出しどころか、暴れて胸まで見えそうになっている菜々。その菜々の上に覆いかぶさるようにして、シャツの前をはだけさせている令。令の胸を掴んでいるのは、菜々の小さな手。
 そして、四つん這いの格好の令の後ろに立ち、腰に手を置いて、背後から二人を見下ろすようにしている祐麒。
「いやあああぁぁぁぁーーーーーーっ!!! 不潔、不潔ですわっ! な、なんてみだらな、淫猥な、卑猥な行為をっ!!!」
「何よ、騒がしいわね……あら、これはまた姉妹二人に王道なプレイ体勢ね」
「しっ、静お姉さまっ、何を冷静に見ていますのっ!?」
「ぎゃああああああっ、おにっ、お兄ちゃんがあああああっ!!!!」
「うわあっ、さささサイテーよ兄さんっ、まさか本当に、ここここんな」
「え、ちょっとなに、祐麒がどうしたの、見えないよー」
「ゆ、祐巳お姉さまは見なくてよいのです、目に毒ですわっ!」
 いつの間にか押し寄せている姉妹達。
「ええっ、ちょっと、何が起きているのっ!?」
「景姉さんも気になるでしょう?」
「駄目よ二人とも、そんなこといって、私の祐くんを襲うつもりでしょう?」
「わ、私のって、景姉さんかなり酔ってる!?」
 階下からも、何やら悲痛な叫びというか、騒がしい声が聞こえてくる。

 福沢家は今日もまた、平和であった。

 

つづく……?

 

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