書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

マリア様がみてる 中・長編

【マリみてSS】BATTLE LILIAN ROYALE <18.加護>

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 二度目の夜が来て、江守千保は怯えながらも懸命に自分の気持ちを奮い起こしていた。千保が位置しているのはウォーターゲートからファンタジーランドに差し掛かろうとしている場所。
 ウォーターゲートでミッションをクリアした後、どうにかその場からは離れたものの、疲労のためそれ以上を移動する気にならずに隠れていたのだ。千保がミッションをクリアしたのは随分と後になってからだったためだろうか、他にウォーターゲートでミッションに参加している生徒は見かけなかった。
「はぁ……」
 何度目か数える気もないため息を漏らし、空を見上げる。天気はよくて星もよく見えるが、優雅に鑑賞することもできない。ちらりと視線をずらせば、竜を模したアトラクションの乗り物が目に入る。
 他にもペガサスやら幻想の泉やら、ライトアップされて非常に幻想的で美しい姿を見せているエリアなのであるが、その下で繰り広げられているのは血なまぐさい殺し合いなのであるから皮肉なものである。
 かつて来場したこともある千保は、とりわけここファンタジーランドが好きだった記憶がある。それはやはり、子供心にファンタジーの世界に憧れ、楽しいと思ったからに他ならない。
 しかし現在においては、本来なら心躍らせるようなアトラクションやオブジェも不気味な様相を浮かび上がらせているようにしか見えず、せっかくやって来たのにむしろ怯えることになってしまっている。
 井川亜美は既に死んだ。他にも沢山の人が既に死んでいる。自分も近い将来、同じような運命をたどるのかと考えると、無性に怖い。夜の闇は恐怖をさらに倍加させる。誰かと一緒にいられたら恐怖を分かち合えそうだが、誰なら信じられるのかも分からない今、気安くそんなことも出来ない。
 体も心も疲れて寝てしまいたいが、気持ちが昂って簡単に眠れそうもないし、そもそも寝ること自体が怖い。だから、とりあえずこうして身を隠しながら座って体力を使わないようにしているわけだが、いつまでそうしていればよいのか。
 体を丸くして膝を抱くようにしてうとうとする、その耳にふと届いた違和感。特別に勘が鋭いというわけではないが、夜になって周囲も静かになり、神経がささくれ立って過敏になっている。だからこそ、ちょっとしたことにも違和感を抱いて気付いた。
「誰っ!?」
 叫んでから後悔する。これでは、自分の居場所を自分で白状してしまっているようなものだ。聞こえた音が、誰かが近づいている音だったのだとしたら、千保はまだ相手の場所を特定できていないというのに。
「きゃっ」
 しかし、天は千保を見放してはいなかった。
 実際に誰かが近くまで来ていたようだが、千保がいたことには気が付いていなかったようで、千保の叫び声に驚きの声をあげた。慌てたのか何かを取り落とし、地面にぶつかる重い音が聞こえた。
 隠れていた物陰からそっと顔を出し、声がした方を見てみると。
「あっ……志摩子さま?」
 照明から少しずれた場所に、落ちたものを拾おうと腰を曲げて前かがみになっている志摩子の姿があった。有名人であり、千保自身もファンである志摩子のことを、薄暗い場所とはいえ見間違うはずはなかった。
 見知った人間に出会えてホッとしたのだろう。また、思っていた以上に心が張りつめていたのだろう、千保は自分でも思っていなかったほど安心し、志摩子に近づこうとして動きを止める。目に入ったのは、志摩子が手を伸ばして触れようとしている、地面に落ちている物体。
 照明の光を僅かに受けて鈍く光るソレは、名前は知らないがどう考えても銃にしか見えなかった。
「あっ……ち、違うのっ」
 千保の表情が強張るのを見た志摩子が、逆に狼狽えた様子を見せる。曲げていた腰を伸ばし、慌てて両手を上に広げて何も持っていないことをアピールする。実際、銃は地面に落ちたままだった。
「わ、私、驚いてしまって、別にこれでどうこうしようなんて思って……」
 あたふたと狼狽している姿は演技なのかどうか、千保には判断がつかなかった。本心で言うなら志摩子を疑いたくないし、今見せている姿も本物だと思いたい。だけど、銃を持っていたということがどうしても引っ掛かってしまう。
 驚いて取り落したということは、それまでは手に持っていたということであり、それ即ち、いつでも撃つことが出来る状態になっていたとも考えられる。千保を見つけ、そっと近づいて撃とうとしたがその前に千保が気付いた、その可能性だって捨てきれない。
「大丈夫です、志摩子さま、落ち着いてください」
 それでも、そのような内心を見せないように注意して千保は志摩子に近寄っていく。志摩子は両手をあげたままだし、不審な動きを見せたらすぐに逃げられるよう心の準備をして足を進める。
「……この、銃は?」
 志摩子まであと2メートルというところで足を止め、訊いてみる。
「あ、最初に支給された鞄に入っていたの……怖いけれど、捨てるのも怖くて」
「……拾っても、いいですか? 別に、志摩子さまを撃ったりなんかしませんから」
 いくら志摩子といえど、そんなことを簡単に信じて銃を持たせたりなんかしないだろうと思う千保だったが、志摩子はあっさりと頷いた。
「え、ええ、私が持っていても役に立ちそうもないし、千保さんは私を撃ったりなんかしないって信じてますから」
「あれ、私のことを知っているんですか?」
「ええ。だって、前にクッキーをくれたことがあるでしょう、家庭科の授業の」
「お、覚えていてくれたんですか」
 他にも沢山の女子からクッキーをもらっていたはずで、そんな中の一人でしかない千保のことを覚えていてくれたなんてと感動する千保だが、それでも先ほどの言葉通りに銃を拾いあげて手に取る。
 ひんやりとした金属の質感、そしてずしりと感じる重み。銃そのものの重みだけではない、これを使えば人を殺すことが出来るという、心に感じる重さがある。
 魅入られそうになるのを堪え、スカートのポケットに入れる。
「志摩子さまは、今までどうされていたんですか? 誰かほかの人に会いましたか?」
「何人か見かけたりはしたけれど……知らない子だったので、声をかけることができなかったわ。私に勇気があれば……」
「私も同じようなものです。仕方ないですよ、この状況では」
 千保も実際、全く誰も目にしていないわけではないが、親しい相手ではなかったり、武器を手にしているのを見て怖くなったりして、スルーしてきた。
 千保は先ほどまで身を隠していた場所に志摩子を連れて行き、ひとまず息を吐いて力を抜く。
 隣にいる志摩子からは殺気など感じないし、武器も取り上げ、さしあたっての脅威はないだろうと判断する。
「志摩子さま。もし、良かったら、私と一緒に行動しませんか?」
「千保さんと?」
 軽く首を傾げる志摩子。
「はい。二人一緒なら交代して休みをとることも出来ますし。志摩子さま、顔色も優れていないですし、随分と疲れているご様子です」
「それは……千保さんも、同じことよ?」
「だから、です。言われる通り私も疲れていますから」
「そうね、確かに千保さんの言うとおりね。それじゃあ、よろしくお願いするわ」
「はい、それではよかったら志摩子さまから休んでください。私、見張りをしています」
「え、でもそれでは千保さんが……」
「志摩子さまが休まれた後、私も休ませてもらいますから、遠慮なくどうぞ」
 その後、何度かやり取りをした後、ようやく志摩子は先に休むことを納得してくれた。外だし、ベッドのように柔らかく寝心地の良い場所などではないが、それでも疲労が勝ったのであろう、横になると志摩子はやがて安らかな寝息を立てはじめた。
 先に志摩子を休ませたのはもちろん、意味がある。最初に自分が寝て寝首を掻かれるということを避けるためであり、また志摩子が寝ている間に持ち物を確認するためだ。
 寝ている志摩子の様子を窺いながら、そっとリュックの中を確認してみたが、千保に支給されていたリュックの中身と異なるものは特に入っていなかった。続いて、寝ている志摩子の制服の上から手を触れて探る。志摩子の温もりを感じ、何やら背徳的な、いかがわしいことをしているような気がして頬が熱くなるが、気にしている場合ではない。その結果、制服にも特に変わったものは無かった。
 これだけ確認できればと、ホッと一安心する。このまま千保が何もしなければ、志摩子だって千保のことを信じるだろうし、そうすれば後から休むことになる千保も安心して休むことが出来る。
 武器を手放さないようにさえしていれば、仮に奪われそうになったとしても気が付ける自信はある。元々、眠りは浅い方だし、敏感でもあるのだ。
 それにしても、と志摩子に目を向けて思う。
 ここまで無防備になってしまうのもどうなのだろうかと。このような状況になって尚、疑うということを知らないのだろうか。いくら顔を知っていたからといって、親しくない相手を前にして信じきるのは危なすぎる。相手が自分だから良かったものの、もしも今がチャンスとばかりにその気になったらどうするつもりなのか。ライバルを一人、簡単に減らすことが出来る機会ではないか。
 そう考えた時、千保の心臓が一際大きく動いたように感じられた。
「何を、考えているの私」
 頭を振る。
 確かに今、絶好のチャンスであることは間違いないが、そんなことを考えてしまう自分が信じられなかった。
 志摩子を見つめる。ゴクリと唾をのみこむ。
 そろそろとスカートのポケットから銃――ニューナンブを取り出し、震える手で志摩子の寝顔に銃口を向けてみる。
「………………ふぅっ」
 大きく息を吐きだし、肩から力を抜く。
 馬鹿なことを考えてしまうのは、やはり余程精神的に余裕がないからだろう。自分がこんな、無防備に寝姿を晒している志摩子を殺せるわけがない。ニューナンブを戻し、落ち着くために深呼吸をする。
「…………あれ?」
 何か、俄かに違和感を覚えた。
 あるとしたら、先ほど志摩子の持ち物を検めた時だろうか。だが、確かに志摩子は変なものは持っていなかった。食料、水、コンパス、思い出しても変なものは無い。もう一度、リュックの中を確認してみるが、やはり妙なものは入っていないように見えるが。
「…………生徒手帳?」
 そこで、どうして違和感を抱いたのかが分かった。志摩子の体を調べた時、制服のポケットにも生徒手帳があったのだ。
 なぜ、二つの生徒手帳を持っているのか。リュックに入れられていた生徒手帳を手にして開いてみる。
「――――――亜美っ」

 記載されていたのは、友人でもある井川亜美の名前。さらに良く見てみれば、生徒手帳の表面に黒い染みのようなものがついているではないか。これは染みではない、血が凝固したものだ。
「……な、なんで…………」
 志摩子を見る。
 いや、単に落ちていたのを拾っただけかもしれないではないか。だが、そうだとしたらなぜ、それを口にしない。千保に気をつかったのか。それとも、もう一つの可能性か。
「…………っっ」
 気が付くと、千保は震える手で銃口を志摩子に向けていた。
 まさか、志摩子が亜美をどうにかしたのか。
 分からない。
 分からない。
 どうすれば。
「――――撃たないの?」
「っっ!?」
 不意に届いた下からの声に、ビクッと体を震わせる。目を向けると、志摩子が寝ている仰向けの姿勢のまま、千保を見つめていた。
「し、志摩子、さま」
「私を殺すなら、今が絶好のチャンスでしょう?」
「そ、そうじゃなく……」
「では、その銃はどうして、私に向けられているのかしら?」
「それはっ……志摩子さま、教えてください。これは……どうして、亜美さんの生徒手帳を志摩子さまが持っているのですか? それにこの染みは……血、ですよね。これは、どういうことなんですかっ?」
 知らず、声が大きくなる。
 地面に手をつき、ゆっくりと志摩子が上半身を起こすのを、荒くなっていく呼吸と共に見つめる。大丈夫だと自分に言い聞かせる。志摩子に武器は無く、千保は手に銃を持っているのだから。
「……亜美さんの形見として、持ってきたのよ」
「亜美さんを、殺したんですか…………?」
「殺す? どうして、私が」
「だって、それならなんで私に教えてくれなかったんですか?」
「それは……千保さん、傷つくでしょう? お友達が死んだなんて聞いたら」
 気をつかった、ということなのか。だが。
「――――既に、放送で知っていましたから」
 この"プログラム"のルール上、知りたくなくても知らされるのだ。それでも、あえて口にする必要がないともいえるが、それ以上に、千保が亜美の友人だと知っているならば、むしろ大切な形見として見せて、渡してくれる方が自然ではないか。
 クッキーを渡した時、亜美も一緒にいた。千保のことを覚えているということは、亜美と一緒だったことも覚えているかもしれない。その友人を殺してしまったから、無意識的に見せるのをやめていたというのは穿ちすぎだろうか。
「そう……だったわね」
 呟く志摩子の表情はあくまで穏やかだが、ざわっと背中が寒気を覚えた。
 何かおかしい、何かが危険だと本能が告げる。
 銃を持つ手に力を入れる。
「――千保さんって、勘が良いのね」
 軽く、志摩子の口の端が上がる。
 そこに浮かぶのは天使の微笑み。
 危ない、ヤバい、この人はどこかおかしい。
「う、うわあああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」
 絶叫しながら引き金を引く。
 1メートルも離れていない先に志摩子はいて、経験のない素人の千保だって外すことのないはずの一撃は、しかし。
「――――え、な、なんでっ?」
 乾いた音が空しく響くだけで、何の衝撃もなく、弾丸は放たれず、目の前で変わらずに志摩子は微笑んでいる。
「いやだわ、千保さんったら……弾の入った銃を預けるわけないじゃないですか」
 あくまで上品に、口元を手で隠しながら。
「ひっ…………ひいぃっ!?」
 銃を投げ捨てる。
 どうすればよい、このまま逃げるか、いや足が震えて思うように動いてくれそうにない。それよりも、そうだ、武器、自分に支給されていた武器があるではないか。あれならば自衛できる。弾の入っていない銃以外、志摩子は何も武器になるようなものは持っていないのだから。
 手を地面に這わせてリュックを探す。こんなことなら肌身離さず持っておくべきだったが、自分の体を傷つけてしまうかもしれないと思ってリュックに入れておいたのだ。ようやくリュックにベルトに指が引っ掛かり、慌てて引き寄せて中を探る。
「……っ、え、あれっ、なんでっ!?」
 中にあるべきものが、ない。
「もしかして、探しているのはこれかしら?」
 志摩子の声に、おそるおそる振り返ってみると。
 にこにこと笑顔の志摩子の手に、ソレは握られていた。
「い、いつの間に……っ!?」
 隙があったとしたら、千保が亜美の生徒手帳に目を奪われて混乱している時か。その時に、寝たふりをしながら千保のリュックの中に手を伸ばしていたのか。いや、そんなことより今は逃げなくては。志摩子が運動が得意とは聞いたことがない。銃の射程距離から離れることさえできれば逃げ切れる。
 震える足で懸命に地面を蹴り、前に走り出そうとする。
「あら、千保さん――」
 だが。
 志摩子が伸ばした手、更にその手に握られたモノのリーチの方が長かった。振り下ろされたソレは丁度、千保の首を巻き込むような形となり、走り出しかけた千保の勢いも重なって鋭く、喉に突き刺さった。
「――――っ」
 声も、出せなかった。
 かわりに、大量の鮮血が首から噴き出して周囲を、地面を染める。
 なんで、手放したのだろう。確かに、使い出が良いとは思えなかったが、見た目だけでも脅威になるし、それにほら、こんなに切れ味が鋭いじゃない、あたしの喉を綺麗に切り裂いているこの、鎌――
「勘が良いのも困るわね、せっかく、朝まで休めるかと思ったのに」
 地面に倒れ小さく痙攣している千保を見下ろす志摩子の手には、刃からぽたぽたと血を零している鎌。反対を向いていたから、志摩子にも血は降りかからず綺麗なままである。
 志摩子は屈みこんで千保の生徒手帳を抜き取り、その表紙に鎌の血を塗る。自分自身が手にかけたことを忘れないため、持っていくのだ。
 その後、外に隠しておいた弾丸と折り畳み傘を持ってきてリュックにしまう。千保が向かってくる前に物陰に置いておいただけだが、夜であり周囲は闇でもあるので、注意深く見ていない限り見つかることはないだろうと。
 千保に見つけられた時は驚いたが、どうにかうまいこと切り抜けられてホッとする。
「やっぱり……マリア様のご加護があったのかしらね」
 呟き、志摩子は夜空に浮かぶ月を見上げる。
 足元に、物言わなくなった千保の亡骸を従えて。

 

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