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マリア様がみてる 中・長編

【マリみてSS】BATTLE LILIAN ROYALE <17.邂逅>

更新日:

 

 突然ライトアップされ、眩しさに腕で目を覆う。
 時刻は午後9時を過ぎ、これから本格的な夜になるところだが、どうやらゲームの主催者は簡単には暗闇に紛れさせてくれないようだ。
 支倉令は支給されたペットボトルの水に口をつけ、一息ついてから立ち上がる。休憩をとりながら行動しているし、これまで誰とも戦っていないので疲労度はさほど高くないが、油断は禁物である。
 戦いをしていないのは単に運が強いというだけではない、全ては令に支給された『武器』のお蔭である。
 スカートのポケットから令はソレを取り出して確認する。
「…………大丈夫、か」
 息をつく。
 令が持っているのは、片手で持つことができるくらいの円形の機械で、四角い液晶モニターの中央に一つの光点が映っているのみで他には何もない。
 当初は何かと疑ったものだが、やがてすぐにレーダーだということを理解した。おそらく首に装着されたチョーカーあたりを検知することができるのだろう。探知範囲はさほど広いわけではないが、それでもこのレーダーのお蔭で相手の接近を察知し、事前に隠れたり逃げたりすることが出来るのは大きい。
 欠点としてはバッテリーの消費があるため、常時つけているわけにはいかないということだが、夜はなるべく安全な場所で動かないようにしてレーダーを使用しないように心掛け、動いている間も適宜電源オフにしておけば大きな問題はないだろう。そもそも、最終日の最後の瞬間まで生きていられるかどうかも分からないのだ、ケチったところで意味がない。
 レーダーだと理解してからの令は、進入禁止エリアとなる場所を優先的に回るようにした。時間になったら入れなくなってしまうから、その前に探索を済ませてしまおうというものと、人が少ないだろうという思いからだった。
 その途中で何度かレーダーに光点が現れ、その都度相手が誰かを遠くから確認してやり過ごしてきた。令が求めている相手はただ一人、子供の頃から姉妹のように最も長い時間を過ごしてきた最愛の島津由乃。
 幼いころから弱かった心臓は手術によってよくなったとはいえ、体力が他の人より劣ることに変わりは無いし、運動神経だって同様であり不安は絶えない。だからこそ早く見つけ出したいのだが、スタート時から場所を離されてどこにいるかもわからず、広い園内では当て所もなく彷徨ったところで運よく出会うことも出来ていない。まだ園内放送で名前を呼ばれていないことが唯一の慰めだった。
 由乃を見つけてどうするか、具体的なことは思い描けていないが、何はなくとも由乃だけでも勝ち残らせることを第一に令は考えている。由乃がそのような、他の生徒を犠牲に自分だけ助かるなんて思考をしないことは分かっているが、それでも令にとっては由乃を残らせることが何よりも勝る。それこそが令の原動力であり、そのためならばいざとなったら誰を相手にしても、という気持ちは持っているつもりだ。
 とはいえ、その相手が見知っている人物となるとどうなるかは分からないが。
「由乃、無事でいて……」
 レーダーを頼りに園内を動いている中で、既に令は何人かの死体を目にしている。レーダーはどうやら既に死んだ者についても映してくれているようで、それを頼りにして見つけることが出来たのだ。見たのは美幸と敦子、そして鵜沢美冬の三人。衝撃を受けたし、泣きそうにもなったが、三人が安らかに眠れることを祈ることしか令にはできなかったし、それ以上のことをする余裕もなかった。
 早くしないと、由乃も同じようなことになってしまうかもしれない。
 気は急き、鼓動は速くなる。
 園内がライトアップされたとはいえ夜であることに変わりはなく、探せば暗闇で目立たないところはある。本来なら動かずにじっとしていることが賢明なのだろうが、そんな余裕は令には既にない。この夜を越せるかどうかすら、分からないのだから。
「大丈夫……近くには誰もいない」
 レーダーを確認して頷く。
 もう、電池の残量など気にしていられない。夜で視野も悪くなっていることもあるし、不意の接近を避けるためにもレーダーを消してはいられなかった。
 気合いを入れ直して立ち上がり、再び動き始める。
 現在位置は、ワールドショッピングモールとワールドターミナルの境あたり。この辺は進入禁止エリアとなっている場所が多いので移動には気を付けなければならない。明確に見える線が引かれているわけでもないので、余裕をもって動く必要がある。
 21時の放送により、23時にはB-1、E-10、J-2が進入禁止となるため、今のうちにE-10あたりを見ておこうと足を向ける。
 しかし、こうして改めて地図を見てみると、全体的に外に近いエリアから多く進入禁止となっているように思える。時間が経過するにつれ、生徒達を中央に集めて戦わざるをえない状況にしようとしているのか。
 そんなことを考えながらも慎重に足を進める。ショッピングモール、そしてターミナルはいずれも店が多く建ち並んでいるので、人が隠れやすくもある。それだけにレーダーを持っているというのは非常に有難かった。
 しばらく進んだところで、レーダー内に自分以外の光点が現れたのを見て足を止める。相手はどうやら動いていないようで、令は慎重にレーダーと実際に視界に広がる光景を交互に見つめながら慎重に足を進める。
 嫌な予感がしてきたのは、向かう先の光点があるっぽい場所がどう考えても建物の中ではないことで、ショッピングモールのストリートにあたる場所であること。そんな人の目につきやすい場所でじっと動かずにいるというのは不自然で、考えられるとすれば周囲が安全だと考えているのか、あるいは動くことが出来ないのか。
 他に光点がないことを確認し、令は目指す光点があると思われる通りを、建物の陰から顔を出して覗き見る。
「…………ああ」
 思わず声が漏れる。
 地面に倒れている人の姿を目にとらえたから。
 万が一を考え、いつでも逃げられる体勢を取りながら近づくが、やがてその用心も不要であると確信する。恐らく固まった血がどす黒く少女を中心に広がっており、とっくに生命の欠片もなくなっていることが目に見えて分かる。
 同じ三年生の伴真純だった。
 確かかなり初期の放送で名前を呼ばれていたが、その時からずっとこの場所に放置されていたのだろうかと考えると悲しくなってくるが、感傷に浸っている時間すらも令にはない。
 既に死後硬直状態となっているだろうことを考えると目を閉じていたのは幸いなことで、令は真純に向けて手を組んで祈りを捧げると立ち上がり、ワールドターミナルへと向けて歩き出す。
「………………また?」
 しばらく歩いたところで、再びレーダーに光点が現れて歩を緩める。しかも今回は重なり合うように二つの光がある。時間的に、真純を倒した生徒だとは考えづらいが、それでも用心に越したことはない。
「……動いた……死んでいる、ってことはないみたいね」
 一つの光点がわずかに動いたのを見て、頷く。もしかしたらどちらかが由乃かもしれない。誰かと一緒であるなら、少しは安心できる。
 どうやら建物の一室にいるようで、そのうちの一人が外の様子を窺うために外に出てみたというところだろうか。令にとってはありがたいことで、部屋にこもっていられると中に踏み込まないと誰だか分からないが、これなら相手を確認することが出来そうだ。
 建物の陰を移動し、光点の相手が見えそうな場所を探す。
「誰……」
 神経を集中する。レーダーのもう一つの弱点としては、高低については確認が出来ないことだ。だから建物でも二階以上の場合、どの階にいるのかレーダーだけでは判別することはできない。目を向ける建物は二階建て、逃げやすさを考えると一階か、だが視界の確保という点では二階の方が分かりやすい。
「あっ」
 動く影が視界の端をよぎる。
 場所は二階、ここは二階でも通路や下に降りるための階段はいくつかあるため、逃げやすさという点ではさほど難は無い。視界の確保を優先したようだ。
「……乃梨子ちゃんだっ」
 山百合会の仲間、知った相手であることに安堵する。もしかしたら、同行している相手も同じ山百合会かもしれない。
 とはいえ、そのまま出ていくのは危険でもある。何せ令は戦うための武器は何一つ持っていないのだから。嫌な考えはしたくないが、いくつもの死体を見てきただけに考えを捨て去るわけにはいかない。
 令はポケットに入れていた小石を取り出し、乃梨子の気を引くよう音を立てるように投げた。
「――――っ!?」
 ビクッ、と反応した乃梨子が石の落ちたあたりに目を向けつつ姿勢を低くとる。令は続けて小石を投げる。今度は、先ほどより令にほど近い場所。
「…………令さまっ」
 令の姿を認めて目を丸くするが、声はあくまで小さく、すぐに周囲に他に誰かいないか様子を窺っている。冷静なようだと判断し、令は空の両手を建物の陰から出し、武器を保有せず攻撃の意思がないことを示してみせる。乃梨子も頷き、両手を上げてみせたので安心して近づくと、そのまま二人は抱き合った
「乃梨子ちゃん、無事だったんだ」
「はい、令さまもご無事で」
「うん、大丈夫。乃梨子ちゃんは、色々と苦労したみたいね」
 制服のあちこちが汚れ、乱れているのを見て令は乃梨子のここまでの道のりを想像し、改めて乃梨子を強く抱きしめて髪の毛を撫でた。
「…………令さま、く、苦しい」
「あ、ごめん」
 令の胸に顔を埋もれる形になっていた乃梨子がもがいたので、慌てて体を離し本来の目的を思い出す。
「そうだ乃梨子ちゃん、誰かと一緒にいるでしょう、あの部屋に」
「え、なんで知っているんですか?」
 そこで令はレーダーのことを乃梨子に説明すると、乃梨子は感心したように頷いた。
「そういうものも支給されているんですね」
「そういうこと。それで、誰なのかしら。もしかしたら由乃じゃあ」
「ああ、すみません、由乃さまではありません」
 申し訳なさそうに項垂れる乃梨子。令もがっかりはしたものの、都合よく由乃である可能性も低かろうと思っていたので顔には出さない。一緒にいるのは静かだと聞き、そこで一旦は静の待つ室内へと戻ることにした。
「――静さん、無事だったんだ、良かった」
 二人が隠れていた室内に静の姿を認め、令はほっとする。今まで同級生二人の死を見てきただけに、無事に生きている同級生の静を見て安堵したのだ。
 しかし静の方はといえば、なぜか不機嫌そうに乃梨子のことを見ていた。
「えーと、静さん?」
「……あ、ああ、ごめんなさい令さん。ちょっと足を痛めているけれど、私は無事よ」
 そこで三人は情報交換を行った。
 令はこれまでに見てきた死体の状況を伝え、乃梨子達は出会ってきた人たちのことを伝える。それを聞いて、令は気持ちがずんと沈み込んだ。
「そう、ちさとちゃんが……」
「この状況では、仕方ないと思いますけれど……」
 剣道部の可愛い後輩、田沼ちさとは銃を持って乃梨子に向けて撃ってきたとのこと。令のことを慕い、懐いてくれ、バレンタインデートをした相手でもある。そんな後輩の変わってしまった姿を聞くのは悲しかった。
 他にも祥子に誤解されて逃げられてしまったこと、蓉子と出会い協力したが先ほどのミッションで別れてしまったことを聞いた。二人が無事であること、蓉子がやる気になどなっておらず頼りになりそうなことは朗報だった。
 だが、令が本当に欲しかった情報はなかった。
「……由乃は、どこにいるのかな」
 もちろん静も乃梨子も答えられないし、令も答えを求めていたわけではない。ただ、口に出さずにはいられなかったのだ。
 ため息をつきそうになるのを堪えていると、ふと視線を感じた。見ると、静が令のことを見ていた。
「静さん? 何か」
「あ、いえ、なんでもないわ」
「何かあるなら遠慮なく言って。あとで後悔しないように」
 この先どうなるか分からないのだから。
「そんな、たいしたことじゃないから」
「ささいなことでもいいよ、気になるじゃない」
 再び促すと、躊躇いつつも静は口を開いた。
「…………令さんて、結構おっぱい大きいのね」
「は?」
「やっぱり、大きい方がいいわよね」
 静が何を言いたいのか理解できずに首を傾げていると、乃梨子が僅かに頬を赤くしながら横から割り込んできて静の手を取った。
「し、静さまっ、私は別に大きさなんて気にしてませんっ。誤解しないでください、先ほどのは別に……」
 そこで、ようやくピンときた。
「はあぁ……二人、いつの間に?」
「えっ、な、何がですか」
「付き合っていたんだ、乃梨子ちゃんと静さん」
「そ、そ、それは……あのっ」
 赤くなって俯く乃梨子が可愛くて笑ってしまいそうになる。クレバーでクールだと思っていたが、好きな相手のこととなるとこんなにも変わるのか。それは静かに関しても同じことではあったが。
「あははっ、ごめんね静さん、さっき乃梨子ちゃんを抱きしめたのは、久しぶりに安心できる人と出会えて嬉しかったから思わず。私は由乃一筋だから、心配しなくても大丈夫」
「わ、私は別にっ」
「ふふっ、それじゃあ私はそろそろ行こうかしらね」
 立ち上がると、乃梨子が驚いて令の制服をつまんできた。
「え、どこに行かれるんですか令さま。私達と一緒に行動しませんか、その方が安全ですよ、絶対に」
「うん、それは分かってるんだけど……ごめん、私には由乃が全てだから」
 それだけで二人とも理解してくれたようだった。
 由乃を探しに行きたい令は時間を無駄にしたくなく今すぐに出発したい。そして令の行動に二人を付き合わせるわけにはいかないし、足を怪我している静はそもそもついてこられない。ここで別れるしかないのだ。
「お気をつけて、令さま。中には凄く強力な武器を持っている人もいるはずです。何かあれば、お渡しできるのですが、こちらにもコレしかなくて……」
「ありがとう、気持ちだけで充分だよ乃梨子ちゃん。それに私はソレよりも、こっちのほうがしっくりくるから」
 デリンジャーを手に項垂れる乃梨子に向け、令は室内を漁って見つけた杖を持ち上げて見せる。誰かの忘れものだろうか、ただの杖だが剣道の腕に覚えのある令としては、適度な長さと重さが手に馴染んで心強く思える。
「それじゃあ、二人も気を付けて」
「あ、令さま……」
 出て行こうとしたところで声をかけられ振り向くと。
 真剣な表情の乃梨子、静と目があう。
「お気をつけて……そして必ずまたお会いしましょう」
「約束よ、令さん」
 二人の言葉を耳にして、令は僅かに口の端を上げる。
「……うん、また後でね。それじゃあ」
 それだけを言い残し、令は部屋を出てワールドターミナルに、戦場に足を踏み出す。レーダーに光点は無いが、それは安心を意味することでもあり求める相手が近くにいないことを意味することでもある。
「――待ってて、由乃」
 レーダーと新たに手にした武器、杖を強く握り締め、令はライトアップされた夜の園内へと駆けて行った。

 

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