書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

ノーマルCP マリア様がみてる 栄子

【マリみてSS(栄子×祐麒)】疑うことなかれ

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~ 疑うことなかれ ~

 

 新年になって最初の週末、肌寒い空気に包まれた中、祐麒は一人街角に佇んで待つ。あまり有名で人の多い待ち合わせスポットは使えず、だからといって待ち合わせをして目立ってしまうような場所も使えず、適当な場所を探すのに苦労したがこの辺なら大丈夫だろうという場所。
 推薦で大学も決まり、受験勉強する必要がなくなって栄子とデートをする時間を作ることができるようになったのは良いが、卒業するまでは周囲に気をつけねばならない。学校関係者に見つかってしまえばお終いだ。そう考えると卒業するまで大人しく待っている方が賢明だというのは分かっているのだが、会えないというのは辛い。気を付ければ大丈夫だろう、手を繋いだり腕を組んだりしなければ、たまたま一緒にいただけだと誤魔化せるだろう、なんて甘い目論見もある。
 何かあったら栄子にばかり迷惑をかけることになるというのも分かっている、それでも恋する気持ちは止められないのだ。
 白い息を何度となく吐き出し、時計を見て時間を確認し、そろそろやってこないだろうかと目立たない程度に周囲の人に目を向けていると。
「…………どこを見ている?」
 思いがけず近くから声が聞こえてびっくりする。まさか、見逃していたのだろうかと目を向けて更に驚く。
「うわ、保科先生」
 そこには、落ち着いた濃藍色を基調とした和装に身を包んだ栄子がいた。服装だけでなく、もちろん髪型だって着物に合った髪留めでセットされている。
「な、なんだ。言っておくが、言われたから着てきたわけじゃないぞ。正月だし、気分的に着たいと思ったから」
「凄い、可愛いです」
「かっ……ば、馬鹿者、こういう時は綺麗とか褒めるもんだろうが」
「うわっ、すみません。あの、凄く似合っていて綺麗です」
「遅い」
 いつもと変わらずどこかつっけんどんな態度を取ってくる栄子だったが、普段と違う姿のせいか、新鮮な気持ちで見ることができる。和服のせいか化粧もいつもと違うし、アップにしている髪型も初めて目にして、嬉しくて心が弾む。
「浮かれるな。ほら、さっさと行くぞ」
 栄子と並んで歩き出す。着物のせいかいつもより歩みがゆっくりで、それに合わせて祐麒もゆっくりと足を運ぶ。これはこれで、長く栄子と並んで歩けるから嬉しいかもしれない、ちょっと今の時期では寒いが。
「いやー、でも久しぶりに保科先生とこうして話しますね」
「そうか?」
「そうですよ、お正月の時は電話でちょっと話しただけですし」
「お正月の……ってそうだ、そういえばいきなり電話してきたな。あんなの、メールで済む話だったろうに」
「ああ、保科先生の声が聞きたかったんで」
「なっ……余計な電話のせいで、私の家族に彼氏がいるかもって思われたじゃないか」
「いるかもって、俺たち一応、正式に付き合っているんですよね。思われたらまずかったですか?」
「そっ、そうは言っていないだろ」
 祐麒が落ち込んだように肩を落として見せると、栄子は少し慌てたようにすぐに否定してきた。
「だから、早く彼氏を家に連れて来いとか余計なことを言われてしまったじゃないか」
「あ、一応彼氏だと認めてはくれたんですか?」
「そ、それは、まあ」
 頬を僅かに桜色に染めて小さく頷く栄子。
 高校生であることの実態は伝えていないようだが、それでも両親や兄妹に付き合っている恋人だと伝えてくれたのは嬉しかった。
「それじゃあ、今度お邪魔した時にも驚かれないですね」
「馬鹿者、挨拶とか気が早すぎる」
 向かった先は適度に有名で適度に参拝客も多い神社で、三が日を外しているとはいえ、やはりそれなりに人の出があった。
 参拝にあたっては手水で身を清めた後にお祈り。お賽銭を入れ、二拝二拍手一拝。祐麒が願ったことは、栄子が幸せになりますようにというもの。もちろん、祐麒の想いが通じるのが最高だが、例えばそれによって栄子の仕事や家族に悪い影響が出ることを望んではいないから。
 ちらりと隣を見れば、祐麒の方が先にお祈りを終えたのか、栄子はまだ目を閉じ手を合わせて祈っていた。
 ゆっくりと目を開いた栄子が、祐麒の視線に気づく。
「保科先生は、何をお祈りしたんですか?」
「それは、内緒だ。君はどうなんだ?」
「えーっと、健康と、世界平和ですかね」
「ふん、嘘をつけ」
 ニヒルな笑いを浮かべ、賽銭箱の前を離れていく栄子。
 続いて祐麒は、おみくじに栄子を誘った。当初、栄子は渋っていたが、粘っているうちに根負けしたのか諦めて引いてくれた。
「……中吉だ」
「いいじゃないですか、俺は末吉ですよ」
 気になるのは恋愛運の部分。これが当たるなんて本気で信じているわけではないが、良いことが書いてあればラッキーとは思える。
 果たして。

"待ち人――心変わりすることなく信じて想うが吉"

「……するわけないじゃん」
「何がだ?」
「いえ、別に。あ、保科先生の見せてくださいよ、どうでした?」
「ばっ、こ、こういうのは人に見せるものではないだろう。ほら、さっさと行くぞ」
 なぜか焦ったようにおみくじの紙を折りたたみ、栄子はそれをバッグにしまい入れた。すぐに結ぼうとしなかったということは、悪いことは書かれていなかったのだろう。さすが中吉。
 祐麒も、金運などはあまりよくなかったが、恋愛運が良かったので結ばずに持ち帰ることにした。
 お参りをしておみくじを引いたら、神社ですることもあまりなくなる。どうしようかと思い栄子を見て。
「――あ、保科先生、ちょっと待っててもらっていいですか?」
 栄子の返事も聞かずに小走りに駆けていく祐麒。
 しばらくして戻ってきた時には、両手に缶を持っていた。
「どうぞ、温かいですよ」
「おお、いいな」
 嬉しそうに受け取る栄子。
 寒そうに両手を擦り合わせている栄子を見て、思い立ったのだ。神社に缶コーヒーはどうかと思ったが、まあ気にすることもないだろうと。
「温まるな……いや実際、コートがないからショールだけでは寒くてな……」
 コーヒーをちびちびと飲みながら肩をすくめる栄子。
「コート、なんで着てこなかったんですか?」
「だってコートを着たら、せっかく気合い入れて晴れ着を着てきたのに見せられな……って、べ、別に、君に見せるとかじゃないぞっ。その、多くの人の目に触れるわけで……こら、何をニヤニヤしているっ」
「あ、痛い、ちょっと保科先生、グーパンチは痛いですって」
「やかましい」
 本当は厚手のコートの上からなので大して痛くないのだが、そういった栄子とのコミュニケーションが嬉しくて、痛いように身を捩って悲鳴をあげたのだ。
「ったく……」
 ぶつぶつと文句を言いながら、再び缶コーヒーに口をつけている栄子を見下ろす。その姿はまるで小動物のようで、ついつい頭を撫でたくなってしまうのを必死に我慢する。さすがに公衆の面前でそんなことをするわけにはいかない。
 視線を感じたのか、栄子がちらりと視線をあげる。
「ん? どうかしたか?」
「いえ、なんでもないです。それより、どこか入りましょうか? 缶コーヒーだけでは寒いですもんね」
「いや、私は別にこれだけでも……」
 そう言う栄子を引っ張って甘味処に入る。正月で和服だからという理由で。店内は当然だが暖かく、席についてほっと一息つく。
「店に入るんだったら、コーヒー買わなくても良かったのにな」
「いいじゃないですか、それでもちゃんと食べられるんですから」
「あ、甘いものは別腹というだろう」
 クリーム黒白あんみつを美味しそうに口に運んでいた栄子が、わずかに顔を赤らめながら言う。祐麒はぜんざいを注文して食べている。
 どこかほっこりとした空気の漂う店内には若い女性も多く、逆に男性の姿はあまり見かけない。
「でも、今年は嬉しいなあ、願いが叶って」
「何がだ? ああ、受験のことか」
「それもありますけど……去年の初詣では、保科先生の晴れ着姿、見られませんでしたから」
 栄子は比較的目鼻立ちがくっきりとしており、涼しげな目もとをしているから和服が似合うと思ったのだが、実際に目にして間違いではなかったと嬉しくなる。栄子は無言であんみつを食しているが、耳が少し赤くなったように見えたのは気のせいか。
「これは、たまたまだからな」
「はい。それよりも……こうして、今年も一緒に初詣に来られたのが、嬉しいです。去年は、それをお祈りしたんですよね……」
 口にするのは恥ずかしかったが、それでも伝えておきたかった。栄子はまだ、祐麒に対して疑心を持っているかもしれない。それを少しでもなくすことができるなら、自分の思いをどんどん伝えたい。
「もちろん、今年も祈りましたよ。また来年も一緒に来られますように……来年以降もずっと、ずっと一緒に来られますように、って」
「えぇい、重い、重いんだよ! そう言われるこっちの気持ちを考えたことはあるのか」
「す、すみませんっ」
 時にはこうして行き過ぎてしまうこともあるが、それでも今の祐麒の気持ちとして嘘偽りを口にしているわけではない。それだけは、分かってもらいたかった。
「君はまだ若いんだ。私みたいな年の離れた女ではなく、もっと若くて魅力的な女性と出会うこともあるだろう。軽々しく今後も私と一緒に、なんて言うな。君は真面目だからな、他の女性と出会った時に、私に言ったことが足枷になりかねん」
 クールに指摘してくる栄子。それだけ、まだ祐麒の気持ちを信用しきれていないということだろう。まだ高校も卒業していない青二才がいくら口にしたところで説得力がないのは確かかもしれないが、ならばどうしたら良いというのだろう。
「大学に入ったら、それこそ周囲には若い今時の女の子が沢山いるんだ。何度も言うようだが、君が社会に出る頃は、私はもうアラフォーなんだぞ? その時に後悔したくないだろう、あの時、私に変なことを言ってしまったから別れられない、なんて」
「保科先生……」
 きりっとした表情で見つめてくる栄子。
「……口の端に、みつがついてますよ」
「っ!?」
 慌ててナプキンで口を拭う栄子。
 その様子が落ち着くのを待ってから、祐麒は口を開く。
「えと、せっかくのお正月ですし、そういう話は今はやめませんか?」
「…………そうだな、すまなかった」
 その後は、微妙に話しも弾まないままで店を出ることになった。
 帰り道も、なんとなく微妙な空気を引きずっている。既に陽は落ちて、昼間よりもずっと冷たい風が身に染みる。
「――俺」
 不意に、祐麒が口を開く。
「ん?」
 怪訝そうに眉をひそめる栄子。
「やっぱり、えーこちゃん以上に魅力的な女性に出会えるとは思えません」
「だから、それは君の人生経験がまだまだ足りないからだ。大学生になって、社会人になって、世界が広いことを知る。人だって、異性だって、こんなにも沢山いるのかって知ることになる。それからでも遅くないだろう?」
「そうかもしれません」
「………………」
「でも、今の俺の気持ちだって本当なんです。一年以上前からずっと変わってません。いえ、むしろ強くなる一方です」
「気のせいだよ。大学に行けば分かるさ」
「変わらないです……それに俺のことよりも、えーこちゃんの気持ちが知りたいです」
「わ、私の?」
「俺の気持ちは変わりません……でも、えーこちゃんの気持ちは訊いていません。それが約束でもありますし。だけど、俺が卒業したらその時には、聞かせてもらえるんですよね」
「それは……って、こ、こらっ、何をする!?」
 いきなり祐麒が抱きしめてきて、栄子は慌てる。そんな栄子の耳元で、祐麒は振り絞るようにして声を出す。
「絶対に、俺の気持ちは変わりませんから。ずっと一緒にいたい、離したくないっていうのは本当です」
「う……うぅ……」
 もぞもぞと体を動かし、手の平で祐麒の胸を押して身を離す栄子。僅かに乱れた和服の胸元を手であわせ、祐麒の視線から目をそらす。
「えーこちゃん」
「そ、それじゃあ、ここまででいいから。また、な」
 そそくさと背を向けて歩き出す栄子。
 祐麒はその後ろ姿に向けて声をかける。
「――今日は楽しかったです。また、誘いますね」
 言葉を受け、栄子はちらりと顔を祐麒に向けると、無言で去って行った。
 完全に栄子の姿が見えなくなってから、祐麒もまた家路へと向かうのであった。

 

「――――ふうっ」
 慣れない和服を脱いで部屋着に着替えたところで、ようやく栄子は一息ついた。肩はこったし、足も痛いし、外にいるときは寒かったし、あまり良いことも無かった。分かっていたけれど、それでも着て行ったのは祐麒のお願いがあったから、ではなく和服になれば髪型も化粧も異なり雰囲気も大きく変わるから、万が一誰か知り合いがいてもすぐには栄子だと分からないだろうと思ったから。
 もちろん、そんなのは頭を捻って無理矢理繰り出した言い訳ではあるけれど。
 新年になって初めてのデート、それはすぐ近くに迫った決断の時を意識させた。三月には、祐麒は卒業する。約束通りなら、その時に栄子は結論を出さなければならない。
 約束をかわした時は、祐麒が本当に一年以上も栄子のことを好きでい続けるわけなどないと思っていたが、そうも言っていられなくなっていた。
 今日、理解ある大人のように祐麒を諭した思いは嘘ではない。今でも、若くて前途有望な祐麒が自分などを選ぶことはないと、一時の感情に燃え上がっているだけだと思っていることは事実だ。
 それなのに。
 栄子の言葉を祐麒が肯定したような言葉を発した時、ズキンと胸の奥が痛んだ。
 栄子の言葉を否定して、いつまでも栄子のことを思っていると、その気持ちは変わらないと真正面から見つめられた時は……内心で安堵してしまった。
 祐麒のためを思うなら、そんな風に考えてはいけないと理性では思うのだが、感情が制御できない。
 栄子自身の気持ちはどうなのかと、祐麒は訊いてきた。
「私自身の、気持ち……」
 呟きながら、神社で引いたおみくじを取り出して広げる。
 そこには、こう書かれていた。

"待ち人――今の相手が最良。疑うことなかれ"

 

おしまい

 

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