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ノーマルCP マリア様がみてる

【マリみてSS(景×祐麒)】Yes,I’m your "Key" <第二話>

更新日:

 

~ Yes,I’m your "Key" ~
<第二話>

 

 

 デートとは、恋愛関係にある、もしくは恋愛関係に進みつつある二人が連れだって外出し、一定の時間行動を共にすること。逢引き、およびランデブーともいうらしい。逢引きなどというと、なんだか物凄く悪いことをしているような気もするが。
 そして祐麒は今、人生初のデートというものに緊張をしていた。前に聖や景と遊んだ時は約束をしていたわけではなく、たまたま街で出くわして遊んだだけでデートとはいえない。だから、今回が初めてで、しかも相手は年上。昨日誘われての今日なので、プランも何もあったものではない。それでもOKしたのは、相手に押し切られたからというのもあるし、暇だったというのもあるし、やっぱり綺麗な女性とのデートに男として惹かれないわけがない、ということ。
 しかし、景に対する想いで悶々としていたというのに、あっさりと他の女性の誘いに乗って良いのかという気持ちもある。その辺はまあ、臨機応変にというか、聖とて本気で祐麒のことを好きでデートに誘っているとも思えないし、色々と自分に言い訳をして、こうしてデートの待ち合わせ場所にやって来ている。要は流されているだけなのだが。
 自分自身の流されやすさをそんな風に思い悩んでいると、不意に視界が暗黒に閉ざされた。一瞬、びっくりするが、目を覆う肌の感触、そして。
「だ~れだ?」
 という声。
 またか、どうしてこの人は懲りずに繰り返してこんな子供っぽいことをしてくるのだろうか。うじうじしていた自分自身が阿呆らしくなってくる。
「ああもう、佐藤さんでしょうがっ?」
 逆に少し驚かせてやろうかと、目を覆っていた手首を掴むと、体を捻りつつ、強めに腕を引っ張る。
「きゃあっ!?」
 意外というか当然というか、軽い手応えで相手がよろめくのが分かった。同時に、違和感も覚える。
 なんか違くないか、と思った次の瞬間、よろけた相手が軽くもたれかかってきた。視界に飛び込んできたのは、驚きに目を丸くした黒髪眼鏡の女性。即ち、景だ。

「えっ、ちょっ、わっ!?」
 感じるのは景の重み、景の温もり、景の匂い。混乱、戸惑い、驚愕といったものに襲われながらも、しっかりと顔は熱く赤くなっていく。
「ごめんなさい、びっくりしちゃった」
 景の方はといえば、すぐに冷静さを取り戻し、そっと祐麒から身を離した。
「あははーっ、見事に引っ掛かったけど、予想外のことしてくれるね、さすがは祐麒」
「ちょっと佐藤さん、笑ってないの。あなたのせいなんだから」
 呆然としていたが、どうにか事情は呑み込めた。祐麒の目を覆ってきたのは景で、声を出したのは聖ということで、二人で祐麒を騙したということだ。それは分かったが、なぜ景がこの場にいるのかは、やはり祐麒には不明であった。
「ごめんね祐麒クン、佐藤さんじゃなくて残念だったでしょう?」
「え?」
「いやー、祐麒は意外とそう思ってないんじゃない?」
「何よ、佐藤さんだと思ったから、あんなことしたんでしょう?」
 何が、と思ったが、どうやら抱きつく格好となったことに対しての発言と悟る。慌てて否定しようとするが、それはそれで聖に失礼かとも思い、結局は何も言うことが出来ず、赤くなってあたふたするだけであった。
「まあいいや、面白いもんも見られたし、そろそろ行こっか」
「え、ど、どこへですか」
「どこって、デートだよもちろん。昨日、言ったでしょうが」
 確かにそれは聞いた。しかし、景がいるとはどういうことなのか。疑問が表情に出ていたのか、景が聖に対して疑問を口にする。
「佐藤さん、あなた本当にちゃんと説明してあるの?」
「してあるよー、ねぇ祐麒、あたしとデートの約束したじゃんね?」
「で、でーとって、あ、まあ……え、でも加東さんは」
 落ち着きなく、聖と景のことを交互に見る。
「ほら、やっぱり私が来るって知らなかったみたいじゃない。ごめんなさいね、祐麒クン、お邪魔なら私はここで」
「やややっ、邪魔だなんてとんでもない! いえその、加東さんもいらっしゃるって聞いていましたよ、勿論。ただ、遅れて来るって聞いていたから驚いただけでして」
 景が帰りそうな雰囲気を醸し出していたので、咄嗟に嘘をついて引きとめようとする。しかし、これでは聖に対しても嘘をついたことになり、やばいと思って聖の方を見てみたが、なんだか楽しそうな顔をして口の端を上げているだけ。当然、祐麒が口にしたことなど嘘八百であると分かっているわけで、これはネタにして何か変なことを頼まれたりするかもしれないと、心の中で覚悟する。
 完全に納得した様子ではなかったが、聖がテキトーな感じで、「ああ、そうだった、そんなこと言っちゃってたねー」などと言っているのを聞いてとりあえず景も帰るのを取りやめ、この場にとどまった。

 ほっと胸を撫で下ろしているところ、聖が近づいてきて楽しそうに祐麒のことを見つめてくる。
「な、なんですか聖さん。加東さんが来るなんて、聞いていないですよっ」
 小声で文句を言うが、聖はそんなのどこ吹く風。
「おやおや、そんなことを言っていいのかな? むしろ、あたしに感謝してしかるべきじゃないのかにゃあ? あたしはデートをしようと言ったけれど、あたしと祐麒、二人きりでなんて言っていないし。むしろ、嘘をついたのは祐麒の方じゃない」
「そ、それは」
 屁理屈もいいところだと思ったが、景もすぐ近くで見ている手前、強く言い返すこともできない。
「さあさ、そんなことよりせっかくのデート、楽しくいこうよ」
 言いながら、聖がなんと祐麒の腕を掴んできた。即ち、腕を組んでいる状態となる。
「ななななっ、な、何をするんですかっ!?」
「ちょっと腕を組んだだけじゃない、嬉しいでしょう?」
 悪戯な笑みを浮かべてくる聖。
 祐麒はといえば、間近に感じる聖の温もりや匂い、そして感触といったものにドギマギして、体温が上昇するのを避けられない。すぐ側に景の目があるのに、そんな姿を晒してしまうなんてと思うが、自分の意思でどうにかできるものでもない。
「あはは、祐麒、赤くなってる。照れてんの?」
 顔を寄せてくる聖の吐息が耳にかかる。
「そそそっ、その、佐藤さん、あた、あたって」
 左の肘に、柔らかなものが。
 涼しくなってきて夏ほどの薄着ではなくなり、服の生地も厚みを増してきているけれど、それでも感じることのできるソレは、女性特有の柔らかい物体。家で、ふとした偶然から祐巳のを感じたこともあったけれど、なんというか、ボリューム感が違う。どう違うかといえば、祐巳のよりも、大きい。
「あててるんだよー、って、にひひ、一度こうゆうの、言ってみたかったんだよねー」
「さ、佐藤さん、ちょっと、こ、こんなことしていいんですかっ」
「んー? まあ、祐麒相手ならなんとも思わないし、別にいいんじゃない。祐麒だって、嬉しいんでしょうに?」
 赤面しながら焦っている祐麒を見て楽しんでいるのか、聖は更に強く腕を抱きこむようにしてきて、押し付けてくる。
「ほらほら、カトーさんもそんなところで澄まして立っていないでさー。反対側、空いているんだから」
「うぇっ!?」
 聖の言葉に、驚きの悲鳴をあげるのは祐麒。
 呼ばれた張本人の景は、それまでは特に無関心な顔で腕組みをして、どこか違う方向に目を向けていたのだが。
 腕を組んでいる聖と祐麒を見て、小さく首を傾げる。
「いやっ、ここっ、これは違うんですよ、加東さんっ!?」
 祐麒と聖は、景に背を向ける格好になっているので、景がどのような表情をしているのかはよく読みとれない。腕は聖にホールドされて体は自由に動かせず、首を捻っても限界はある。
 こんなみっともないところを見せたくないと思っている中、景が背後から近づいてくる気配を感じる。
「これは、佐藤さんがふざけてですねっ」
「えー、何それ、ひどいなぁ祐麒」
 そうこうしているうちに、景が隣の位置まで歩いてきた。

「ふぅん」
 上半身を前に倒し、祐麒と聖のことを覗くようにして見る。
 景に見られて、祐麒の羞恥と焦りは否応なしに高まる。なんで、よりにもよって景以外の女性と腕を組んで赤くなっている姿を見られなくてはならないんだと。
「か、か、加東さん、その、佐藤さんをは、離してもらえませんか?」
 どもりながら、どうにかそれだけを口にする。
 景に頼むなんて情けないが、聖の胸を感じてしまっている左の腕は、情けないことに動きそうもなかったのだ。
 景の方はといえば、眼鏡の下の目をぱちくりさせて祐麒を見て、次いで聖に視線を向ける。なぜか、聖はバチンと片目を瞑ってみせる。
「あの、か、加東さん……?」
「ああ、ごめんなさい、そうね、それじゃあ」
 言いながら、景の腕が伸びる。
 ようやくこれで解放されると、安堵すると同時に残念な気持ちが浮かびあがってくる。いや待て、残念なんかじゃないと、慌てて心の中で否定する。
「これで、いいかな?」
「あ、ありがとうござ……って、んなぁっ!?」
 なぜか、右腕を景に掴まれていた。
 聖のように抱きついてきているわけではない、軽く、手をかけてきているという感じであるが、それでも間違いなく腕を組んでいる格好にはなるわけで。
「にゃっ、にゃにゃっ、にゃんでっ」
 動揺のあまり、猫語になる祐麒。
 錆びついたロボットのような動きで首を動かし、隣に寄り添うようにして立つ景の方に、どうにかして顔を向けると。
「ごめんなさいね、私は『当てる』なんてこと出来ないけれど」
 と、にこやかに言ってきた。
 途端に、今まで以上に顔が熱くなる。
「えー、なんでさー。それくらいいいじゃない、サービス悪いなー、カトーさん」
「私はそこまで出来ません」
「腕は組んだくせに?」
「んー、だって」
 空いている方の右手の人差し指を顎の辺りにあてながら、景はちらりと祐麒に目を向けて口を開く。

「祐麒クン、なんか可愛いから」
 そんなことをさらりと言われて、爆発してしまいそうだった。顔から蒸気が吹き出ているのではないかと心配になる。右の方から感じられる景の香りに、景の体温に、景の手に、景そのものに意識を持っていかれ、魂ごと抜かれてしまいそうだった。
「おーおー、祐麒ってば、凄いことになっているよ」
「あらまホント、真っ赤ね。純情少年だぁ、か~わいぃ」
「それもそうだろうけど、それだけでもないだろうねぇ」
「ん?」
「あああああのお二人ともっ、そ、そろそろ離していただかないと、俺も身動きが取れないといいますか、移動することもままならないわけでっ」
 左右のどちらにも目を向けることが出来ず、祐麒は俯くような格好でいる。正直なところ、早い所どうにかしないと非常にまずい。今は恥しさの方でいっぱいいっぱいだが、この先、下半身がどうなるか分からない。もしも、とんでもない状態になったりでもしたら、二人にどう思われるか、想像するだけでも恐ろしい。
 祐麒の必死の言葉に、聖と景はお互いに顔を見合わせる。
 なぜか、嫌な予感がする。
「そうね、ここで突っ立っていてもしようがないし、そろそろ行こうか」
「デートだもの、ね」
 非常に、息のぴったりとあった様子で祐麒の腕を掴んだまま歩き出す、聖と景。
「わわっ、ちょっと、あのっ」
 当然、二人に引っ張られるようにして歩かざるをえなくなる。
「やー、美女二人を両脇に侍らせてデートって、凄いよ祐麒」
「ってゆうか、前もそうだったけれど、自分で『美女』とか言う?」
「あやや、でもカトーさんだって否定しないじゃん」
「突っ込むのも面倒くさいだけよ」
 祐麒を挟んでテンポよく話す二人。
 確かに、美女二人には間違いないと思うが。
 侍らせているとか、プレイボーイとかではなく、どう贔屓目に見てもお姉さんに遊ばれている弟だろうなぁと、自分のことながら冷静に考えて落ち込みそうになる祐麒である。

 そうして二人に腕を組まれたまま、ファッションビルへと入っていく。中に入るまでもそうだったが、二人の美女と腕を組んでいるという時点で、それなりに周囲から注目を集めていた。
「あの、他の人の迷惑にもなりますし、そろそろ離れた方が……」
 ファッションビルの中は開放的とはいえ、三人が横に並んで歩くとなると通路の多くを占めてしまい、邪魔になる。だから、当然の提案なのだが。
「だったら、こうしてより密着すればいいんでない?」
「きゃっ、ちょっと、押さないでよ佐藤さんっ」
「う、う、うわっ」
 聖が押してきたのだが、そのために今度は祐麒が景を押す格好となり、一瞬、景の胸が右の腕にあたった、気がした。ほんのちょっとのことだったし、胸ではなく体のどこかにぶつかっただけかもしれないが。
 そう思って、景の方を見ると。
「……こーらっ、今のは、忘れなさい」
「あ痛たたっ」
 肘でわき腹をゴリゴリとこすられた。
 痛かったが、僅かに照れた様な表情の景を見るに、やはり当たったのは間違いなかったのではないだろうか。
 にやけそうになる頬を必死に引き締める。そんな表情を見られたら、幻滅されてしまうかもしれない。
 力を入れ、真面目な顔にする。
「どうした祐麒、お腹でも痛い?」
「もう疲れちゃったとか?」
 二人には、真面目な表情とは映らなかったようだが。
 それよりも、ようやくだが両脇からの拘束が解放された。少しばかり残念な気もするが、今の祐麒にはレベルが高すぎるので助かる。

 一息ついて、ふと、顔を上げると。
 目に飛び込んできたのはカラフルな布たち。
「え……こ、ここはっ?」
「今日の目的の一つでもあるんだ、祐麒も付き合ってね?」
「佐藤さん、あなたって本当に意地悪ね」
 にやにやと笑う聖に対し、同乗の視線を向けてくる景。
 そう、祐麒が今立っている場所は、女性用の下着売り場なのであった。
「いや、俺、他の場所で待っていますから」
 どう考えても場違いなコーナーにいることに気が付き、急ぎこの場を離れようとしたが、逃げる前に聖に腕を掴まれてしまった。
「ちょっと祐麒、デートなんだから一緒にいないと意味ないでしょうが。せっかくなんだから祐麒の意見も参考にさせてよ」
「えええ、む、無理ですよ、恥ずかしいですっ」
「大丈夫、いまどき彼氏連れで下着コーナーにいるなんて、珍しくないし」
「本当ですかっ!? だって俺以外にいませんよ、男っ」
「気にしない、気にしない」
「気にしますよっ。か、加東さんだって、俺と一緒なんて、嫌でしょう?」
 嫌に決まっている。
 実の姉である祐巳だって、祐麒に下着を見られるのを嫌がっている。祐巳の後に風呂に入っても、洗濯籠の中に祐巳の下着を見たことはない。いや、別に漁っているわけではないのだが。
「ん~~? そうね……ああ、でもせっかくだから男性の意見を聞いてみるっていうのも、悪くないかもね」
 困っている祐麒の顔を見てから、景はにっこりと青空のような笑顔を見せてそう言った。
 その瞬間、祐麒は確信した。
 このお姉さんたち、いじめっ子だと……

 と、いうわけで。
「ねえ祐麒、これなんてどうかな、セクシーじゃない?」
「そ、そうですね」
「あら、じゃあこれは? 可愛いと思わない」
「そ、そうですね」
 聖と景、二人に挟まれるようにして、様々な下着を物色していた。もちろん、自分で手に取るなどはしないが、それでも真正面から捉えるには恥ずかしすぎる。何せ生まれてこの方、女子の下着などとまともに向かい合ったことなどないのだから。
 気にしすぎかもしれないが、店員の女性も、訝しげに祐麒のことを見ているような気がしてならない。
 早く出てしまいたい。
 しかし、聖と景は楽しげに下着を見ては評していたりする。女性の買い物は長い、というのは覚悟していたが、この売り場では勘弁してほしい。
「ねえ祐麒、こっちとこっち、どっちのデザインの方が良いと思う? あと色はさあ」
 何度目か分からないが、祐麒に意見を訊きに来た聖に対し、祐麒は意を決し発言することにした。この難局を脱するために。
「こ……こっちのデザインの方が聖さんには似合っていると思いますっ、あと色はネイビーのが意外性があってよいと俺は思います」
 言った。
 言ってやった。
 あれだけ祐麒に尋ねてきたのだ、こう具体的に返事をしたら、それに従わないといけない、そんな気になるのではないかと思って。
「……なるほどー、ありがとね、祐麒。あたしのために考えてくれて」
「いえ、そんな、あはは」
「ということはー、あたしがこの下着をつけた姿を想像したんだよねー? そうじゃないと、あたしに似合っているか、判断つかないものねぇ」
「ぶっ!?」
「そうかそうか、じゃあ期待に応えないわけにはいかないか……ねえカトーさん、カトーさんも祐麒に妄想してもらって選んでもらえば」
「うわ、うわ、佐藤さんーーっ!」
 泣き落としで止めようとしたけれど、結局のところ景を呼ばれ、景の下着についても選ばされてしまった。
 しかも、何故かレジでの支払いは祐麒に任せられてしまった。料金は聖と景が出すのに、なぜか支払いの実担当だけ任されるという羞恥プレイ。
「だって、祐麒が選んでくれたんだから、その方が嬉しいじゃない。ねえ、カトーさん」
 なんて、訳の分からないことを言う聖に対し、景は無言で肩をすくめて祐麒に目を向ける。その目は、「諦めなさい」と言っていた。
 二人の下着を手に、店員のお姉さんに分けてラッピングするように依頼する。店員のお姉さんは、祐麒とその後ろにいる聖と景に目を向けて、いかにも物問いたげな表情をしていた。
 店を出て、二人にそれぞれの下着を渡す。
「ありがと、お疲れ様、祐麒くん」
 労ってくれる景に対し。
「んふふ、もしもあたしか景さんが祐麒とイイ関係になったら、この下着姿を見せてあげるから」
 あくまでそんな感じの聖。
 肉体的にというよりも、精神的に随分と疲労したような気がするけれど。

 デートはまだ、始まったばかりだった。

 

 

第三話に続く

 

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