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ノーマルCP マリア様がみてる

【マリみてSS(聖×祐麒)】Please "Say" Yes … <第三話>

更新日:

 

~ Please "Say" Yes … ~
<第三話  始動>

 

 

 我ながら、単純だとは思う。
 一回くらい頬にキスされたくらいで、気になって気になって仕方がないのだから。だが、女性に免疫の少ない男子高校生からしてみれば、綺麗な女性から、たとえ頬とはいえキスをされたら、意識するなという方が無理だと思う。
 あの日以来、いまだに頬に熱が残っているような気がしてならず、時々、無意識のうちに頬を指でいじるようになっていた。聖のぬくもりをおいかけるようにして。
 もちろん、聖の方は祐麒のことなどきっと相手にしていないだろう。せいぜい、かわいい後輩のそのまた弟、というところで、それ以上でもそれ以下でもないことは、祐麒自身わかっている。この後どうなるかは、祐麒の行動次第というところか。惜しむべきは携帯電話の番号を交換していなかったので、連絡をとれないということ。
 祐巳に頼めば連絡先を教えてくれるかもしれないが、何のために、という理由を説明しなければならない。特に理由もなく、気になる女性だから会いたい、なんて言って、果たして教えてくれるものか、姉とはいえ分からない。
 だからといって簡単に諦められるほど、聖に対する執着心が弱いわけではない。むしろ、機会さえあればもっと近づきたい、親しくなりたいという思いの方が圧倒的に強い。聖とはいまだ、ほんの数回だけ会っただけであるが、激しく惹きつけられているのは事実であり、おそらくそれこそ恋心なのではないか、などと思ってしまう。
 気さくで、頼りになるお姉さん、といった感じの聖。だけど、どこか本心がどこにあるのか分からないような、本当の自分を隠しているのではないかと思えるような、そんな言動であり表情を持っているようにも受ける。
 結局のところ、今の祐麒は聖のことを何も知らないのとほぼイコールである。そして、知らなければ知らないほど、知りたくなるというのが人間である。興味を抱いている相手なら、なおさらである。
 電話番号も知らない、住所も知らない、そうなると、祐麒として出来ることはただ一つしかなかった。

 

 言わずもがなだが、リリアンはお嬢様学校である。大学は、高校までに比べれば外部生も圧倒的に多いし、開かれているイメージもあるが、それでもやはり世間から見ればお嬢様大学であることに変わりはない。
 そのリリアン女子大の門の前で、祐麒は人の出入りを見つめていた。女子大の前で、花寺の学生服姿で立っているというのも微妙に目立つようで、通り過ぎながら祐麒のことを見てくる女子大生がちらほらといる。恥ずかしいけれど、致し方ない、人待ちに都合のよさそうな場所がなかったので、馬鹿正直に門のすぐ近くに立っているしかなかったのだ。
「しかし、失敗したかな」
 学校の授業が終わってからすぐにやってきて、既に一時間近く待っているが、目当ての人は姿を見せない。
 そもそも、今日の講義はいつ終わるのか全く分からない。同じ高校生であれば、午後の授業が終わる時間というのは大体、想像がつく。しかし大学となると、どのように講義を選択しているかによって、下手したら午前中で終わりという可能性もあるし、逆に夕方遅くまでの講義もあるだろう。講義が終わったとして、部活動やサークル活動を行っているかもしれないし、今、祐麒の視線の先にある門から姿をあらわすかなんて、まったくわかっていないのだ。
 どうするべきか迷っているうちに、ばらばらと女子大生たちが門から溢れ出てくる。どうやら、何限目かの講義が終わる時間のようで、結構な数の学生たちが連続的に姿を見せる。現れるならここだろうと思い目を凝らすが、結局、人の流れが途絶えても聖の姿は見えなかった。
 ひとつ息を吐き出し、今日のところは諦めて祐麒は帰宅した。

 

 翌日、まったく同じことをした。
 前日より少し気を使って、多少なりとも女子大の方からは視界に入りにくい場所を選んで立つが、劇的に変わるわけでもない。女子大生の視線もやはり変わらずに注がれてくるが、二日目ともなるとそれなりに慣れてくるようで、昨日ほどは気にはならない。もちろん、あくまで昨日よりは、というレベルであり、全く平静でいられるほど神経が図太いわけでもないのだが。
 様々な女子大生が、視界の中を通り過ぎてゆく。華やかなリリアン女子大学、いろんな女の人がいて、中にはとても可愛らしい女性、綺麗な女性、スタイルの良い女性、髪の美しい女性、そんな女性達がいた。
 だけれども、どんな女性であろうとも、今の祐麒にとってみればどこか別の世界の人のよう。話したことも、触れたこともない相手は、映画のスクリーンに映し出されている偶像と同じようなもの。求めているものは、そんなのではなかった。うまく言葉にすることはできない、単なる気のせいか思い込みかもしれないが、他の誰とも違う何かを、感じたような気がするのだ。
 待ち続けること二時間ほど、講義が終わったのか、女子大生が流れるようにして正門から出てくる。この流れの中で見つけることが出来なかったら帰ろうと思いながら、失礼にならないよう女性たちの姿を見つめ続ける。もちろん、これで見つからなかったらまた明日、探しに来るだけのことだ。気をつけなければいけないのは、変質者やストーカーと勘違いされないかということくらいか。
 しばらく眺めていると、人の流れの中で、見知った顔を見つけて体が反応する。遅れて、相手の方も祐麒のことを見つけたようで、わずかに歩く角度を変えて向かってくる。
「どうしたの、こんなところで?」
 不思議そうな顔をして聞いてきたのは、景だった。
 先日とは異なり、今は髪の毛を後ろで束ねていて、雰囲気が違って見えた。シンプルなアイボリーのTシャツの上にジャケットをあわせ、インド調の鮮やかな柄がプリントされた、足首近くまで届こうかというロング丈のスカート。
「あの、ええとですね」
 理由を説明しようとして、なぜか口ごもる。
 よくよく考えてみれば、聖と会って何をしようとしているのか、何を伝えようとしているのか、具体的なことが何も決まっていなかった。とにかく、まずは聖に会わなくてはと思って、そのことだけに気持ちが集中していたのだ。
 訳もなく、ただ会いに来たというのも気恥ずかしく、素直に口に出せなかったのだが、祐麒の様子を見て、景の方が何かを悟ってくれた。
「ああ、ひょっとして佐藤さん? 残念だけれど、あの人、今日は午前中で帰ったわよ」
「え、何かあったんですか?」
「単なる自主休講。言いかえるなら、サボりね。まったく」
 右手をあげ、やれやれ、とでもいったように頭をかく景。
「確かに、午後一の講義は退屈なのだけど……っと」
 そこで景は言葉を止めて、左右にちらりと視線を向けた。つられるようにして見ると、通りかかる女子大生が時折ちらちらとこちらを見てくるのが分かった。
「とりあえず、どこか場所を変えましょうか」
「あ、はい」
 景に連れられ、リリアンを後にする。

 

 行き着いた先は、洒落た喫茶店であった。男子高であり、高校生である祐麒が行くのはせいぜいファーストフードか、コーヒーのチェーン店くらいであり、なぜか微妙に緊張をしていた。
 アイスコーヒーを注文し、正面に座る景を見る。タイミングよく景と目があい、思わずそらしてしまうと、景は苦笑した。
「ひどいわね、いきなり視線をそらすなんて」
「す、すみませんっ。いや、こういう店に入るの初めてなんで、なんか緊張しちゃって」
 顔が熱くなる。
 外観も店内も英国調で可愛らしい雰囲気、中にいる客も、どこか上品さを感じさせる婦人であったり、大人のカップルであったり、少なくとも祐麒のような学生服姿の男子高校生などは、他にいない。
「あら、そうなの? 私、ここの紅茶のシフォンケーキが大好物なの」
 淡く微笑まれても、どのような反応を返せば良いのかわからない。ケーキにも詳しくないし、紅茶にも詳しくない、まして女性との会話などもってのほか。先日の飲み屋では、アルコールが入っていたのと、聖と景、二人の方が色々と話をしてくれたが、こうして二人きりで改めて向かい合うと、困惑以外の何物も出てこない。
 人通りの多い通りから少し外れた場所にあり、閑静で落ち着きがあるが、祐麒はといえば逆に落ち着かない。
「そんなに硬くならなくても。そうそう、そういえば用事があるんじゃないの、何か。まだそれを聞いていなかったわね」
「ああ、はい、ええと、それは」
 改めて問いかけられると、やはり恥ずかしくなり、うまく言葉が出てこなかった。そんな祐麒を急かせるわけでもなく、ただ静かに見守る景。
 何も言えず焦り始めたころ、なぜか景が不意にふきだすように笑った。
「……あ、ごめんなさい。あまりに祐麒クンが可愛らしいから……佐藤さんのことを聞きたいんでしょう?」
「あ……はぁ」
 見透かされ、挙句は可愛いなどと言われ、真っ赤になる。
「そうか、佐藤さんをねぇ、なるほど、なるほど」
「あの、あんまりからかわないでください」
「別にからかっているつもりじゃ……あ、どうも」
 ちょうど、注文していた品が届けられて会話が中断する。景の前にはアールグレイの紅茶とシフォンケーキ、祐麒の前にはアイスコーヒー。
「貴方は本当に何か食べなくていいの? ここのケーキはどれもおすすめよ」
「いえ、本当に結構ですから」
 ずっと立ちっぱなしで待っていたから確かにお腹は空いているが、財布の中身が寂しいのである。祐麒はアイスコーヒーにミルクとガムシロップをいれてかきまぜる。そして、ストローに口をつけようかとした直前、いきなり、お腹の音が鳴った。
「あら、今の……」
「うわ、なんでもないですよ、えと」
 ストローに口をつけ、アイスコーヒーをすする。本当なら、アイスコーヒーを腹にいれることによって、落ち着くはずだったのだ。
「ふふ、やっぱりお腹、すいているんじゃない。すみません、えーと、ベリーのタルトを追加でお願いします」
「あの、ちょっと、それは」
「気にしないで、私が食べたいと思っただけだから。でも二つも食べると太っちゃうから、半分食べてくれるとありがたいかな」
 そう言われてしまうと、何も言い返せない。どこをどう見れば太るなんて言葉が出てくるのか、と言いたくなるくらい細身の体の景である。祐麒のことを気遣ってのことだろうから、これ以上、祐麒が何か言っても逆に失礼になるのではないかと思ったのだ。
 やがて運ばれてきたベリーのタルトは、イチゴやらブルーベリーやらが盛りだくさんにのっていたが、口に入れると甘過ぎることもなくすんなりと喉を通る。

「それで、佐藤さんのことだっけ? とはいっても、私もそんなに知っているわけじゃないのよね。私生活はあまり見せてくれないし」
「一緒に色々と行動しているようですけれど?」
「そうね、大学の中じゃ一番佐藤さんと仲がいいと思うけれど、それとはまた別の話よね。表面的なことなら色々と教えてあげられると思うけれど……詳しいことを知りたいなら、高校時代の友達に聞いた方が良いと思うけれど。ええと、なんだっけ。紅薔薇さまとか、黄薔薇さまとか?」
 景の言うことももっともであるが、そちらは伝手がない。祐巳がいるけれど、何をどうして紹介してもらえるというのか。
「あー、美味しい。ね、そっちの、少しもらえる?」
「あ、はい、どうぞ」
 半分ほど食べたところで景のシフォンケーキと交換する。生クリームたっぷりであったが、こちらもすっきりとした甘さで、上に乗った洋なしとの相性が抜群で、さくさくと食べることができた。
「うわ、こっちもやっぱり美味しい。それにしても、厄介な相手よ」
「え?」
 ケーキから顔をあげると、眼鏡の下に真剣な瞳を光らせた景が、正面から見据えてきていた。頬に流れ落ちる一房の髪を指ですくって耳にかけ、どこか重々しく感じる口調で言葉を続ける。
「佐藤さん。心の扉を開けるのは、容易なことじゃないわよ、きっと。特に恋愛ごとに関しては、ね」
「ど、どうしてですか」
「さあ?」
 肩をすくめる景。
「同じ女としての勘とでもいうのかな、なんとなくね。異性に興味があるのかすら、私はあやしいと思っている」
「恋愛する気がない、ってことですか」
「うーん、そこはちょっと、あくまで私の勘だから、思いこみかもしれないし。祐麒クンが自分で調べてみてくれる?」
 どうやら、粘ったところでその件に関しては教えてくれないようだと悟る。恋愛に興味がない、異性に興味がないとなると大変そうだが、良い方にとらえてみれば、今は特別な相手も、好きな相手もいないということではないだろうか。そのことを、景に尋ねてみると。
「そうね、多分。そういう話は聞いたことないし、特定の相手はいないはずよ」
 回答を聞いて、内心で快哉。これで多少なりとも可能性は高くなったのではないかと。
「それでも、道は険しいと思うわよ?」
 ケーキの最後の一欠片を口に放り、満足そうに頷く景。
 たとえ道が険しかろうとも、道がないわけではない。それならば、道を開拓し、進んでいけばいつか到着できるかもしれない。希望があるということは、何よりの活力の源となるのだ。

「どうやら、いい加減な気持ちではないようね。そうね、それじゃあ差し障りのない部分でよければ佐藤さんのこと、教えてあげる」
「ほ、本当ですか?」
「たいしたことじゃないわよ? 大学の講義のこととか、学食で好きなメニューとか、その程度のことだけど」
「いえ、十分です。お願いします」
 景から聞く、聖の話。
 授業態度はお世辞にも真面目とはいえないけれど、要領がいいのか頭がいいのか、成績は悪くないということ。コーヒーはブラックが好きなこと。車の運転はまださほど上手ではないこと。
 景が先に言ったとおり、たいしたことではないのかもしれないけれど、それでも祐麒にとってはどれも新鮮な情報で、聞くたびに聖の新たな姿をイメージする。
 質問を挟んだりして聞いているうちに、いつしか時間は流れすぎ、外は暗くなり夜へと移り変わっていた。
「あらやだ、もうこんな時間? 随分と長居しちゃったわね」
 時計の針を見て、驚いたように口を開く景。
「すみません、俺がなんか色々と聞いちゃったから」
「いいのよ、別に特に用事があったわけでもないから。でも、さすがにそろそろ出ましょうか?」
 言いながらさっさと立ち上がる景。慌てて追いかけるように立ち上がる祐麒だが、伝票を手に取ろうとして、どこにも置いていないことに気がつき、テーブルの上をキョロキョロと見渡す。
「どうしたの、祐麒クン」
「あ、いえ……あっ」
 声をかけられて見てみると、先に立った景が伝票を手に、レジで会計を済まそうとしていた。早足で駆け寄り、祐麒も財布を出そうとして、手で制される。
「そういうわけにはいきませんよ、俺の方が、用事があったのに」
「いいから、祐麒クンのおかげでケーキを二種類、食べられたし。ここはお姉さんに素直に奢られなさい」
 ウィンク、そしてのばしてきた左手の人差し指で、鼻の頭をおさえられる。
 美人で年上の人にそんなことをされて、祐麒は真っ赤になる。

 結局、景が支払いを済ませて店を出る。周囲はすでに宵闇に包まれており、都会の夜空が顔を見せている。
「あの、加東さん。今日は色々とありがとうございました」
 深々と頭を下げる。
「いいのよ、別にそんなたいしたことしたわけじゃないし。むしろ、これからの祐麒クンの方が重要だからね」
「はい、分かってます」
 聖には会えなかったが、色々と有益な情報を得ることができたし、何より大学で聖と一番仲が良い景と仲良くなったというのが、一番の収穫だろう。
「それじゃ、これで……っと、あの、もう一つ、聞いてもいいですか」
 大事なことを聞いていなかったことに気がつき、背を向けかけた景に声をかける。
「あの、佐藤さんの連絡先とか……訊いてもいいでしょうか」
 思い切って尋ねたのだが、景は形の良い眉をひそめ、ちょっと唸る。
「うーん、教えることはできるけれど、それは、祐麒クン自身が努力して手にいれるべきではないかな」
「そ、そうですよね」
 やはり虫が良すぎただろうかと落胆するが、仕方がない。いくら知っている相手とはいえ、若い女性。勝手に連絡先を教えるというわけにはいかないだろう。
「どうしても、必要となったら、そのときにまた訊いてちょうだい」
「はい、分かりました。すみません、ありがとうございました」
 礼を言い、帰ろうとしたところで、今度は逆に景の方に呼び止められた。
「ちょっと祐麒クン、少し失礼じゃないかしら?」
「え、な、何がでしょう」
 咎められて、狼狽する。
 女性と接し慣れていないと、こういうとき、何を責められているのか全く勘が働かずに困るし、焦る。
 すると景はわずかに口の端を緩め、バッグに手を入れて中から何かを取り出した。
「せっかく仲良くなったけれど、私の連絡先は不要かな?」
 手にしていたのは、携帯電話。ピンクゴールドの本体カラーが、街灯の光に輝いている。
「あ、でも、いいんですか?」
「別に、悪戯とかしないでしょう?」
「も、もちろんですっ」
 急いで携帯電話を取り出し、向かい合って赤外線通信で情報を交換する。
「それじゃあ、またね」
「はい、今日はありがとうございました」
 もう一度頭を下げて、景が帰っていくのを見送る。姿が見えなくなったところで、手の中の携帯電話を見つめる。
 家族以外で、初めて登録された女性の番号、メールアドレスが景のものになるなど、いったい誰が予測できただろう。
 だけど、本当に欲しいものはまだ手に入れていない。
 携帯を制服のポケットにしまい、歩き出す。

 都会の夜は、無言で祐麒を包み込んでいた。

 

 

第四話に続く

 

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