書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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【マリみてSS(蓉子×景)】私の心の奥底の

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~ 私の心の奥底の ~

 

 映画を観て、食事をして、最後に軽くお茶をして。いつもと同じような展開で一日を過ごしての帰り道。店を出て歩き出すと、水野さんの方からごく自然に手を握ってきた。今では、手をつなぐというのもいつものことになったのだが、それでも少し恥しい。勿論、嬉しいほうが圧倒的に大きいので、私もそっと握り返す。
 今日は、指と指を絡み合わせる、いわゆる『恋人つなぎ』であったから、より一層深く繋がっているように感じる。
 こんなに幸せでいいのだろうかと思う気持ちと、これだけではまだ物足りない、もっと、もっと水野さんのことを感じたいという気持ちが同時に存在する。

 だけど―――

 水野さんは、果たしてどのように思っているのだろうか。こうしてデートして、手をつないでいるくらいだから、私のことを嫌いでないことは確かだろう。むしろ、好意を持ってくれていると解釈するのも、決して間違ってはいないと思う。
 しかしその好意が、どこまでのものか。
 普通に考えれば、同年代の友人に向けるごく普通の好意。友達として好きだという、一般的な気持ち。
 比べてみて私は、既に友達以上の想いを、水野さんに対して抱いている。はっきり言ってしまえば、恋心である。
 その差は、大きい。
 これが例えば男女間であるならば、私が好意を告白することにより、相手もまた私を友達としてではなく、一人の異性として意識し始め、友情から愛情へと移り変わっていくということもありえるだろう。
 だが私たちは、二人とも女だった。
 それだけに、想いの差、隔たりは、断崖絶壁にも等しい。
 私はここ数日間、本やネットで同性愛者に関する苦悩や悩みに関して色々と読み、調べてきたけれど、彼ら、彼女らの気持ちが痛いほどに良くわかるような気がした。
 佐藤さんは、いつまでもこの状態でいいのかと言っていたけれど、むしろ今の状態がベストではないのだろうか。こうして二人で仲良く出かけ、手をつなぎ、水野さんも私もお互いに好意を抱いている。なぜそれを、危険を冒してまで新たな動きを求めようとしなければならないのだろうか。
「―――加東さん?」
「え―――あ、ごめん。な、なに?」
 不意に、下から顔を覗き込まれてびっくりする。
 水野さんはちょっと不満そうな、それでいて少し心配するような顔をしていた。
「なんか、難しい顔していたけれど……悩みでもあるのかしら?」
「え? い、いえ、ごめんなさい。ちょっと、ぼーっとしていただけ」
「そう……ひょっとして、私と一緒に居るの、楽しくないかしら」
 寂しそうに、水野さんがとんでもないことを言ってきた。
 今の私にとって、水野さんと一緒に居ること以上に楽しいことなどないというのに……ってああ、こんなことをすらりとごく普通に思ってしまうなんて、私も本当に水野さんにイカれてしまっている。
「だって、ここ最近の加東さん、時々、そんな風になっているから」
「ご、ごめんなさい。その、ちょっとレポートで行き詰っているところがあって」
「あ、そうなの。それじゃ、こんな私とのんびり遊んでいる場合じゃ」
「そ、そんなことない! むしろ水野さんと一緒にいると気分転換できるし、楽しいし、むしろ会えなくなるとレポートなんか手につかなくなるというか」
 ……って、私は何を口走っているのだ。
 慌てて、水野さんの表情を窺ってみると。
「くすっ、やだ加東さんたら大げさね。でも、私が迷惑になっていなければ良いのだけれど」
 と、笑いながらも、わずかに不安を残したように聞いてくる。
 とりあえず、先ほどの発言について細かく取られなかったようで安心する。最近、自分自身の気持ちが不安定で、言動もおかしくなりがちだ。
「迷惑だなんてそんな。む、むしろ、私の方こそ水野さんの迷惑になっていないかしら……?」
 おそるおそる、聞いてみる。
 すると水野さんは、きょとん、とした顔をして。
 すぐに笑い出した。
「いやだわ、加東さんたら。加東さんのこと、迷惑だなんて思うわけないじゃない。だって私、加東さんのこと大好きだもの」
「っ! だっ、だっ、だいす……っ!!」
 分かっている。
 水野さんは、友達として私のことを好きだと言ってくれているのだ。それは、分かっているというのに。

 笑顔で放たれた水野さんのその一言に、私の脳はとろけて蒸発して、体中の骨はぐにゃぐにゃになってしまうのであった。

 

―――加東さんのこと、大好きだもの―――

 その言葉を脳内でリフレインしては、一人赤面して、にやけてしまう。傍から見たら変態みたいだが、止められないものはどうしようもない。何度、繰り返し再生したことだろうか。ビデオに撮っておけなかったのが、本当に口惜しい。

「……本当に、脳みそとろけちゃっているね、加東さん」
 いきなり耳に入ってきた水野さんではない声に、体を固まらせる。
「さ、佐藤さんっ?! い、いつの間にっ?!」
「いや……いつの間にって、十分くらい前から。といいますか、加東さんが扉開けて、中に招いてくれたんだよ?」
「あああ……」
 頭を抱える。
 どうやら本当に、とろけてしまっているらしい。いや、しかし仕方が無いではないか。それくらいにアレは、強烈な破壊力を持っているのだから。何といっても、私のことを大好きだなんて……
「あー、またトリップし始めている」
「―――はっ?!」
 我に返る。
「ここまで加東さんをメロメロにするなんて、蓉子も罪な女よね。で、どうなの。もう告白はしたの?」
「……できるわけ、ないじゃない」
 途端に、私の気持ちは沈みこむ。
 佐藤さんはそんな私の姿を見ながら、手にした缶コーヒーを一口喉に流し込む。そして、床に置きっぱなしになっていた本を手に取り、ぱらぱらとページをめくる。
「本を読んだって、加東さんの気持ちがどうなるわけでもないでしょう。大切なのは、自分の気持ちよ」
「わ、分かっているけれど……でも、同じくらい相手の気持ちも大切でしょう?」
「待っているだけじゃ、相手の気持ちは分からないよ。本当に想っているなら、まず自分の気持ちをぶつけないと」
「分かっている……わよ」
 爪を噛む。
 分かっているのに、行動に移すことが出来ない。自分はさっぱりとしていて、決断力もそれなりにあると思っていただけに、こんなに愚図愚図しているのが自身で歯がゆい。
「でも、世の中、佐藤さんのような人ばかりじゃ、ないでしょう」
「だけど、加東さんのような人だって、いるわけじゃない」
 本をクッションの上に放り投げ、頭の上で手を組む佐藤さん。
 あっけらかんとした彼女も、自身の性癖に思い悩んだ時期もあったと聞く。果たして、どのようにして彼女は乗り越えてきたのか。
「……相談に乗って欲しいけれど……」
「もう、ぶつかるのみよ」
「はあ……」
 相談になりはしないと、膝を抱えて頭を埋めかけて。
 日本人離れした顔の友人に、改めて視線を向ける。
「……てゆうか貴女、何しに来たの?」
 と、問いかけると。
 なぜか、どこか寂しげな表情を見せて。
「さあ……ホント、何しているんだろうね、あたしゃ」
 と呟き。
 缶コーヒーを持ち上げて、天井を見上げるのであった。

 

「……なるほどね。それで、私に相談を」
 話を全て聞き終えてから、江利子さんはゆっくりと髪の毛を手でかきあげた。
 駅から微妙な距離にある喫茶店は、客の入りもやっぱり微妙だったけれど、店の奥のテーブルで相談事をするには適していた。
 氷が融けて薄くなったアイスコーヒーをかき混ぜながら、私は江利子さんの表情を窺ってみたけれど、彼女の表情は話をする前と変わりが無かった。
 佐藤さんに相談しても埒が明かず、かといって一人で悶々としているのも気が滅入り、私は思い切って更に別の知り合いに打ち明け、相談をすることにした。
 正直、それにもかなりの勇気を要した。何せ、自分が同性に恋してしまったこと、同性愛者であることを打ち明けるわけだから。
 そこで選択したのが、江利子さん。
 さほど親交があったわけではないけれど、水野さん、佐藤さん、二人の親友であり、佐藤さんのセクシャリティのことも分かっている彼女なら、私のことを色眼鏡で見ずに話を聞いてくれると思ったのだ。
 それにしても、江利子さんも美しい。
 水野さん、佐藤さんとはまた異なった綺麗さ。アンニュイで、物憂げな雰囲気を漂わせた、自然と色気、艶を感じさせる女性だ。おそらく本人自身が意識していることではないのだろうけれど、それが逆に人を魅入らせる気がする。
 私も、水野さんのことを好きになっていなければ、江利子さんに惹かれていたかもしれない……って、何を考えているんだ、私は。色ボケか。
「何、一人で百面相しているの?」
「ご、ごめんなさい」
 アイスコーヒーを一口飲んで、心を落ち着かせる。
 私が落ち着いたところを見計らって、江利子さんは口を開いた。
「……で、私にどうして欲しいのかしら?」
「どうして……そうね、忌憚の無い意見が聞きたい。女が、女を好きになることについて。好きになられたことについて」
「うーん。単に私個人の考えになっちゃうけれど?」
 可愛らしく、人差し指を形の良い顎に当てる江利子さん。もちろん、私はそれで構わないと先を促す。
 江利子さんはアップルティーを一口飲んで一拍置いてから、私の瞳を見つめる。
「人が人を好きになるのに、男も女も関係ないと思うわ」
「それは、一般的な意見ではなくて?」
「勿論。例えば私も、女性から好意を寄せられたら素直に嬉しいわ」
「それが友情を越えた、明らかな愛情、恋愛感情だとしても?」
「ええ。むしろ、それほど想ってもらえるなんて素敵じゃない。純粋に私のことを好きだと言ってくれる人を、同じ女性だからという理由だけで、気持ち悪いなんて思わないわ」
 江利子さんの言葉に、嘘や虚飾は感じられない。私を気遣っているという様子も見えない。おそらく本当に、そう思っているのだろう。
「……でも、想いであるうちはそう思えても。直接的行為に至るのは……嫌悪感があるのではないかしら」
 本などで経験者の声を聞いても、ここが一番のポイントだった。好きだ、愛している、同性であっても、そういう言葉に応えてくれる人は少なくない。でも、そこまでだ。こちらが一線を越えたいと望みだすと、途端に態度を翻す。
 気持ち悪い。
 女同士でそんなこと出来ない。
 私は貴女とは違う。
 言葉が、傷つける。傷つくのは、怖い。
「それは即ち、蓉子とキスをしたいとか、セックスをしたいということかしら」
「え。あ、その、えと……」
 いざ、言葉に出して言われると、物凄く恥しくなる。自分が水野さんとキスをしたり、体を重ねることを妄想、もとい想像してしまい、顔が茹だる。
「大事なことよ、答えて頂戴。加東さんは、精神的なつながりを求めているのか。それとも、肉体的なつながりを求めるのか」
 真剣な表情で見つめられる。
 私は、一つ深呼吸してから、口を開いた。
「……私は、蓉子さんと……やっぱり、好きだから。もしも想いが叶い、恋人同士になれたら……キスしたい。一つに、なりたい」
 俯き、小さな声で告げる。
 江利子さんは、小さく微笑んだ。
「別に、恥しがることはないと思うわよ。好きになれば、その人と一緒に気持ちよくなりたいと思うのは自然なことだし」
「で、でも、女の子同士だし」
「また、それを言う。あなたがそれを言い出したら、どうしようもないじゃない」
「そ、そうかもしれないけれど」
 どうしても、そんな簡単には割り切れないというか。いや、私自身が割り切れても、相手のことを考えると。
 私の優柔不断な態度に、江利子さんはため息をつくと。
「……この前私ね、実は女の子とキスしたの」
「えっ?!」
 さらりと告白した。
「えと、それって……」
「友達キスなんかじゃなくて、明らかに愛情の込められたキスをした……された、と言った方が正しいのかしら」
「その相手って、江利子さんの恋人……?」
「違うわ。今まで、そんな風に全く思っていなかった、友人。それがいきなり。私、別に同性愛者でもないけれど」
「そ、それで」
「特に、嫌じゃなかった。気持ち悪くもなかった。ただ、突然のことにびっくりしたというか」
 無意識であろうか、江利子さんの細い指が、薄いピンク色の唇をなぞる。あの唇に触れた、女性がいる。そのことに、不思議とドキドキする。
「彼女が本当に私のことを好きなのかどうか、告白されたわけじゃないから分からなかったけれど、それでも彼女の想いのようなものは伝わってきた。それはけして不快なことではないわ。だって、冗談や悪ふざけではない、純粋な気持ちなのだから」
 告げる江利子さんの瞳は、私を通して別の誰かを見ていた。
 喫茶店内の落ち着いたクラシックのBGMが、二人の間をゆったりと流れる。
「こんなんじゃあ、加東さんの相談の答えには、ならないわね」
 なぜか、自嘲するように江利子さんは言った。
 私は、答えられなかった。
 分かっているのだ。例え、どんな返答を聞いたところで安心などできないことは。ただ、話を聞いてもらい、頷いてもらいたかっただけなのだ。
 それなのに江利子さんは、色々と言ってくれただけでなく、自身の体験まで語ってくれた。私はそれ以上、何を求めるというのだろう。
「……ありがとう、江利子さん」
「お礼を言われるほどのことは、していないわ」
「いいえ。本当に、ありがとう。あとは、私自身の問題だから」
「そう?」
 まるで興味がないかのように、残ったアップルティーを上品に飲み干す。
「今日は長いこと、どうもありがとう。そろそろ……」
 伝票を手にしたところで、不意に江利子さんが私の手を抑えた。ひんやりとした感触に、一瞬、手が震える。
「そうそう。一番重要なことを言うの、忘れていた」
「え、何、かしら?」
 なぜか私は赤面しながら、江利子さんの濡れた唇を見つめていた。
「蓉子が、加東さんの真剣な想いを聞いて、あなたを傷つけるような態度を取ると思う?」
「……あ」
「加東さんは自分の気持ちに悩むあまり、蓉子がどう反応するか恐れているみたいだけれど、それは蓉子を過小評価しているわ。忘れているようだけれど……蓉子は、私達の蓉子は、蓉子なのよ」
 瞳に強い意志を宿し、でも優雅な微笑を浮かべて立ち上がると、一枚のお札を置いて江利子さんはお店を出て行った。
 私は声もなく、座席にもたれかかる。
 江利子さんの言うとおりだ。彼女や佐藤さんほど長い付き合いではないが、それでも水野さんの人となりは分かっているつもりだった。
 だけれども。
「…………」
 声が出せず、ただ手を見つめる。
 去り際、まるで私を勇気付けるかのように江利子さんが強く握り締めてきた、右手を。

 そうだ、このままでは何も変わらない。何かを求めるのであれば、動かなくてはいけない。失うことを恐れているだけでは、何も得ることは出来ない。

 当たり前の結論を出すまでに、随分と時間をかけた気もするけれど。

 でも決して、悩んだことは無駄ではないはず。

 私は手を強く握り締める。
 と同時に、思う。

「……あぁ、でも江利子さん色っぽかったなぁ……手も、柔らかかったし……って、ダメダメ、私は水野さん一筋なんだから!」

 

 なんか、どうにも自分が今までの人生と逆方向に突き進んでいるような気がしたが、恋とはそういうものなのだと言い聞かせ、納得することにしたのであった。

 

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