書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

ノーマルCP マリア様がみてる 真美

【マリみてSS(真美×祐麒)】おまじない

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~ おまじない ~

 

 

 とうとう、勝負の時期がやってきた。
 年末年始を終え、センター試験を終え、各大学の入学試験が始まったのである。本命、滑り止め、あわせて数校を受験する真美であるが、はっきりいって不安の方が遥かに大きい。どれだけ一生懸命勉強してきても、本番の試験問題が解けなければ受かることなど出来ない一発勝負。体調、精神面、双方ともに万全を期して臨みたいところである。
「なんだけどなぁ……はぁ、どうしてわたしってば、こんなに緊張しぃなのかしら」
 ため息が出そうになるのを我慢しながら、とぼとぼと歩く真美。
 腕試し、度胸付け、スタートダッシュ、色んな言い方が出来る一校目の受験が終わった。もちろん最初から本命という人もいるだろうが、真美はそんな度胸もなく、その大学には悪いがそれなりのところを選んでみた。受験するからには志望校の一つではあるのだが、本命からは幾らか希望からは落ちる、そんな学校である。
 幸先よくこれからの連戦に向かって行きたいのに、正直な所、手ごたえはなし。予想していなかった問題が出るやら、やったことのある問題も度忘れし、これで受かったとは思えないような残念な出来だった。合格発表はまだしばらく先のことだが、良い結果が得られるとは考えにくい。
 そんなわけで気分が沈み込んでいるわけである。
 家に帰ると母親が声をかけてきたが、微妙な笑みを浮かべている真美を見て何かを感じたのか、余計なことは言わなかった。その心遣いも、嬉しいやら悲しいやら。
 夕食を終えて自室に戻り、さっさと気分を変えて次の大学の試験に向かっていかなければならないのに、いつまでも引きずってしまいそう。
 受験の疲れもあるし、今日はこのまま寝てしまおうかとベッドにゴロリと仰向けに横たわると、携帯電話が震え出す。
「……もしもし」
『こんばんは、真美さん。一校目から失敗したくらいで落ち込まないの』
「な、ななっ、なんで分かるんですか典さんっ!?」
 飛び起き、電話に向かって叫ぶ真美。
『あはは、受験初日で電話に出るなりそんな暗い声出されたら、そうとしか思えないじゃない。何、本当にうまくいかなかったの? 本命じゃないんでしょ、良かったじゃない』
「そ、それはそうだけど、出だしからこんなんじゃあ本命の時にどうなるんだろうって心配で……」
『そんな弱気だと……真美さんの"本命"、奪っちゃうわよ?』
「ど、どうゆうことっ!? ちょっと典さんっ」
『覚えているわよね、約束。合格できなかったら、どうなるか』
「わ、わかっているわよ、それくらい。絶対に、負けませんからねっ」
『あら怖い。それじゃあ、私もそろそろ勉強に戻るから、切るわね』
「あ、典さん」
『ん、何?』
「…………えと、その、ありがとう」
『ふふ、風邪ひかないようにね』
 通話を終える。
「……典さん、いい人だよねぇ」
 今日が最初の試験だった真美のことを気にして電話をしてきてくれたのだろう。そして真美が元気がなく、おそらくうまくいかなかったのだろうと悟ると、わざと真美をたきつけるようなことを言って元気づけてくれた。さすがに真美も、それくらいのことは分かる。
 ライバルではあるけれど、この一年、ともに勉強して切磋琢磨してきた仲間でもあるのだ、それを真美は嬉しく思う。
「よし、頑張ろう」
 ぎゅむっ、と拳を握って奮い立つ。確かに疲れてはいるからあまり無理は出来ないが、うまくいかなかった部分をきちんと理解しておきたい。真美は立ち上がって勉強机へと向かう。
「……あ、メール。もしかして、また典さんから…………あ、祐麒さん!」
 慌ててメールを開いて中身を確認。

"体調とか崩していませんか? いよいよ受験も本番、お互いに頑張って笑って春を迎えよう"

「――――うん」
 一人頷くと、真美は気分も新たに参考書を開きペンを力強く握った。

 

 こうして受験本番の日が続いた。
 途中で体調を崩したり、不安に陥ったり、逆にテンションがあがったりと情緒不安定な感じではあったけれど、どうにかこうにかそれなりに乗り切って後半戦に突入している。苦しかった一年間も、この数日、数週間で決まるのだと思うと何とも感慨深くなる。
「ちょっと真美さん、まだ終わったわけじゃないんだから、感慨深くなっている場合じゃないわよ?」
「あ、うん、わかってるよぅ」
 前の席に座っている典に注意されて、すぐにノートに向かう。
 今日もある大学で入学試験を受けてきたのだが、行きのバスで偶然にも同じ大学を受ける典と顔をあわせた。試験会場自体は別だったが、なんとなく試験が終わったら会おうということになり、帰宅途中でドーナツ屋に入ったのだ。疲れた頭には糖分が必要だ、などと自分たちに言い訳をして。
「ま、だからといって受験終わったばかりの疲れた頭で勉強しても、効率が良いとは思えないけれどね」
「う……そ、それって嫌味?」
 ノートを広げ、今日の試験問題の復習をしている真美は言葉に詰まる。確かに典の言うとおり、一日脳みそをフル回転させて集中しているため、疲労も大きいし僅かに頭痛もするような気がする。こんな状態で勉強したところで身になるとは思えなかったが、不安になってしまうのだ。
「そうじゃなくて。コンディション、整えた方がいいよってこと」
 フレッシュストロベリードーナツを美味しそうに食べながら、典が冷静に指摘する。真美は抹茶のオールドファッションだ。
「それにしても典さん……よく食べるね」
 今食べている以外にも、アーモンドとチョコレートのドーナツ、フレンチクルーラーが典の皿の上には置かれている。真美はドーナツ一個と飲み物だけだというのに。
「だって、お腹すかない? 真美さんって小食よね」
「そうだけど、そうじゃなくて……典さん知っているの? ドーナツさんの保有しているカロリーの凄さ」
「知ってるわよ、乙女の大敵ですもの。でも、それ以上にカロリー消費すれば大丈夫」
「だから、勉強ばっかで運動不足の身では、消費することも出来ないからっ」
「勉強で消費できるじゃない。それに私、食べても太らない体質だから」
「うぐっ……敵だ、乙女の真の敵はここにいた……」
 恨みがましく典を見つめる真美。そんな真美の視線を受けながら二つ目のドーナツに手を伸ばす典。
「でもね、その分、いくら食べても胸にも肉がいかないんだから」
「そんなの私なんか、食べたら肉になるくせに、肝心の胸にはいかないんだからっ。二の腕とか、太腿とか、お腹にばっかりいって……」
 拳を握りしめて震える。
「まあ、まあ。あと少しなんだし、甘い物ちょっとくらい食べてもいいじゃない。我慢してストレスためるより、気分よくリラックスして臨んだ方が言い結果も出るわよ」
「その意見も分かるけど……」
 ここまできたら、今さらジタバタしたところでどうしようもないというのも分かる。必死に勉強したところでたかが知れているし、やれるだけのことはやってきたはずなのだ。きちんと復習をして、基礎を忘れず、平常心で自分自身の力を出し切ることが重要なのだということは分かっている。
 それでもやっぱり、失敗したら、また今年も落ちたら、そういう焦りのようなものがあるのも確かなのだ。
 あるいは単に真美が小心なだけなのだろうか。演劇部に属し、人の前で舞台に立つ典はそれだけ肝が据わっているということだろうか。
「私だって、もう少しで本命のところだからね、緊張しているわよ」
「そっか、そうだよね」
「本命といえば、確か明日、祐麒さんの本命のところじゃなかった?」
「え、あ、うん、そうかもね」
「何よ、とぼけた答えして。本当はしっかりチェックしているくせに」
 典に突っ込まれ、真美は曖昧に笑って誤魔化した。
 実際のところ、当たり前に知っていたし、実は自分も同じ大学を受けるつもりでいた。同じ学部、学科は厳しいので無理だが、違う学部であれば実は真美の成績でも合格できそうなラインなのだ。
 動悸が不純だといわれるかもしれないが、それだけではなく大学設備や教授達のことも調べたし、そうこうしているうちに本当に行きたいと思えてきたのだ。ただ、典には話していないのは、やはり後ろ暗い気がしているからか。
「合格できるといいわよね、みんな」
「うん、本当にそうだね」
 一緒に頑張ってきて、どれだけ成績をあげてきたか、苦労してきたか知っている仲間。全員が本命に受かることが出来たら、本当にどれだけ嬉しいことだろうか。
 ドーナツ屋を出て典と別れ、家に向かう。
 明日は祐麒にとって、そして真美にとっても本命のところになる。さすがに二日連続というのは疲れるが、自分で決めたのだから頑張らないと。
 やがて電車に乗り、窓に映る自分の顔を見る。心なしか少しやつれているように見える。
「ふぅ……あと少し、頑張らないとね」
 言い聞かせるように小さく呟き、流れゆく夜の街並みを瞳に映していた。

 暗い夜の公園。
 夜風に身を震わせていると、公園の入り口に人影が見えた。
「お待たせ、真美さん。寒かった?」
「いえ、そんな、私が急に呼び出しちゃったから……本当にごめんなさい、大変な時に」
「いやぁ、俺もちょうど休憩したかったし、熱くなった脳を覚ますには丁度いいよ」
 白い息を吐き出し、笑顔で応じる祐麒。
 帰り際、急に祐麒の声が聞きたくなってきて、一度そんなことを思うようになると声だけでなく顔も見たくなってきて、どうしようと思いつつもメールをしてしまった。そうしたら祐麒は勉強で忙しいはずなのに、気さくに会ってくれるというではないか。さすがに遠くまで出てきてもらうのは悪いので、もともと外にいた真美の方が祐麒の家の近くまで行くことにした。
「でも寒いですよね、風邪でも引いたらまずいですから、すぐに私帰ります」
 本当に、こんな寒い夜に呼び出すなんて普通に考えれば非常識すぎる。明日に本命校の試験を控えているというのに。
「俺なら大丈夫ですよ、真美さんこそ大丈夫ですか? 少し顔色悪いようですけど」
「ちょっと疲れているだけですから、平気です。あと少しですからね」
「そうだね、もうあと少し、頑張らないと」
 両腕をあげて伸びをする祐麒。
「明日は祐麒さんの第一志望校なんですよね」
「うん、そう。だから気合い入れてるよ」
 実は私の第一志望校でもあるんです、そう言いたかったけれど、口に出せない。そんな自分はずるいのだろうか。
「いやー、でももう少しで勉強漬けの毎日から解放されるのかと思うと……最後まで頑張ろうって気になりますよね」
「私は、早く終わってーっいう気持ちです」
「分かりますよ、大変でしたもんね」
「はい……でも……」
 心の中では実は、まだ続いても良いのにという思いがある。大学に合格すれば当たり前だが大学生活が始まり、今とは別々になってしまうだろう。浪人生活だって常に一緒に居るわけではないが、予備校で同じ教室で席を並べていたし、食事だって一緒にできたし、予備校以外でも勉強したり、息抜きしたり、一緒にいる時間は多かった。そんな時間がなくなるのが勿体ない、そう思えもするのだ。
「お互い、合格できますよ、きっと」
 真美が不安に陥っていると受け取ったのだろうか、祐麒が元気づけるような笑顔を向けてきた。実際、真美は何度も祐麒に元気づけられてきたのだ。
 だから、今日くらいは――
「あの……あれっ? あれ、なんですかね祐麒さん?」
 真美が少し先の地面を指差すと、祐麒もそちらに目を向ける。
「どれですか、何か落ちてます?」
 きょろきょろと視線をさまよわす祐麒だが、特に何も見つけることはできないようだ。真美はもどかしげに、つつくような仕種で再び地面を示す。
「だから、そこです。分かりませんか、ほら……」
「え、何も見えないですけど……んん?」
 眉をひそめ、祐麒は少し腰を曲げて前かがみになって地面に顔を向ける。
 その瞬間。
 真美は素早く顔を近づけ、祐麒のほっぺに唇を押し付けた。
「――えっ?」
「あっ……と」
 一瞬の後に飛び退ると、驚きに目を丸くした祐麒が顔を向けてくる。
「あの、真美さん、今のは」
「あああああのっ、お、おまじないです、明日、合格できますようにって」
 祐麒の顔が赤くなってゆくが、それより先に、とっくに真美の方が茹ったように真っ赤になっている。
 触れた唇の方が熱を持ったようで、心臓がばくんばくんと脈打っている。
「そ、そ、それじゃあ、これ以上外にいると体に悪いと思いますので、失礼します。明日、頑張ってください!」
 深々と頭を下げてお辞儀をすると、真美はばたばたと走り出した。冬で着ぶくれしているうえに足が遅いから、なかなか体が進まないのがもどかしい。祐麒の視線を背中に感じて、恥ずかしくて、早くこの場を脱したいのに。
「――真美さん!」
 すると公園を出る前に後ろから名前を呼ばれ、立ち止まって顔を後ろに向ける。白い吐息が途切れなく吐き出され、祐麒の姿が靄に霞む。
「ありがとう、真美さんも、頑張って!」
 合格のおまじない、そんな理由にかこつけてしたキスは、本当は真美自身に対する気付けみたいなものだったのに。
 その声、その言葉に。
 沢山の元気を真美は貰ったのであった。

 

 そして全ての試験を終えて合格発表がなされた。
「うぅ……う、受かっ…………た……?」
 自分の目が初めは信じられなかった。
 だけど、何度見ても、受験票と掲示板を繰り返し見比べても間違いではないことを確認して、ようやく現実のことなのだと受け入れられた。
「う…………わぁ~~~~っ!! 受かった、やったぁーーーー!」
 喜びがじわじわと込み上げてきて、最後に爆発して声をあげて飛び跳ねた。滑り止めの大学に合格してはいたけれど、やはり本命のところに受かるのとでは喜び度合が大幅に違う。普段はこうやって人前で喜んで飛び跳ねるなどすることないのに、思わずやってしまうほどなのだから。
 取り急ぎ母親にメールで知らせると、すぐにお祝いの返信がやってきた。本当に受かったのだと、改めて喜びをかみしめる。
 ひとしきり喜びを堪能してしばらくして、連続してメールを着信した。典、そして祐麒からのものだった。二人とも今日の合格発表を見終わったから会えないか、というもので、真美はもちろん二つ返事で了承して二人と合流することにした。

「真美さん」
 名を呼ぶ声を耳にして顔をあげると、祐麒が向かって歩いてくるのが見えた。その表情を見ると、真美の顔も明るくなる。
「真美さん、受かったんですね。おめでとう」
「そういう祐麒さんも、その様子では」
「うん、バッチリ!」
 と、笑顔でVサイン。
「おめでとうございます!」
「ありがとう……でも、真美さんも同じ大学を受けていたなんて知らなかったなぁ」
「ご、ごめんなさい。なんか、落ちたら恥ずかしいとか思っちゃって」
「いや、別に受ける大学を言わなきゃいけないなんてことないし。これでもしかしたら、春から同じ大学に通うなんてことがあるかもしれないんだ」
「そ、そうですね」
 その大学が真美の第一志望校になってしまったことを、祐麒は知らない。だから真美が既に同じ大学に進もうとしていることも知らないのだ。
「あの、実は私は……」
「あ、典さん」
「え?」
 祐麒が軽く手を上げたので振り返ってみると、典がいつも通り背筋をのばした格好良い立ち姿で歩いてくるのが見えた。大勢の人がいるのだが、こうして典は立ち姿、歩く姿が他の人と明らかに違うので不思議と目に留まりやすいのだ。
「ごめんなさい、遅れたかしら。お二人は……その様子だと、見事に合格したようね」
「あ、はい、おかげさまで」
 ぺこりと頭を下げる。顔をあげて見ると、典の表情も柔らかく、とても落ち着いているものに見えた。
「典さんも、その様子だと……」
「ええ、落ちたわ」
「そうですよね、おめでとうござ――え」
「あら、落ちた相手に祝福だなんて、真美さんも酷いわね」
「え、え、えっ!? だ、だって、凄い良い表情だったから、あ、ごごごめんなさい!」
 とんでもなく失礼なことを口走ってしまったと気づき、慌てて米つきバッタのように頭をぺこぺこと下げて謝る。
「ふふっ、怒ってなんかないわよ、だってそういう表情を作って来たんだもの。真美さんにそう見えていたなら、うまくいっていたってことよね」
「あの、典さん」
「私だって悔しいけど、プライドもあるし。そういうところを見せたくなかったの」
 かける言葉が見つからない。
 典は気丈に笑ってみせているが、内心では言うとおり悔しいに決まっている。それでも、祐麒や真美のことを気遣ってくれているのだ。演劇部で培った演技力がこのようなところで発揮されるなんて。
 三人全員が第一志望に合格する、確かに都合の良いことかもしれないが、そうなったっていいじゃないかという理不尽な怒りが込み上げてくる。他の受験生も同じかもしれないけれど、この一年間、こんなに頑張ってきたのだから。
「そんな顔をしないで、真美さん。確かに第一志望には落ちてしまったけれど、それに近いくらい望んでいる第二志望には無事に受かっているから、そちらに行くことにするわ」
「そ、そうですか……それは」
 良かったと、おめでとうと言うべきなのか迷う。その一瞬の躊躇のうちに、典は次の一言を放った。
「ということで、春からよろしくね、祐麒さん」
「こちらこそよろしく、典さん」
 と、向かい合いかしこまって挨拶をしあう二人を見て、真美は目をぱちくりさせる。
「え……と、どういう、ことですか?」
「ああ、典さんのその第二志望ってのが、俺と同じ学部なんですよ。あ、学科は違うんですけどね」
「…………へ?」
 驚きながら典に目を向けると。
 典は微妙に決まり悪そうな顔をして横を向いていたが、わざとらしく咳を一つした後、開き直ったかのような笑顔を見せた。
「たまたまよ? 私だって第一志望校のところに入りたかったんだから……まあ、叶わなかったことは今さら言ったところで仕方ないわ、未来に向かって前向きに行くことに決めたのよ」
 そんな典に真美はにじり寄り、祐麒に聞こえないような声で詰問する。
「って、そもそも聞いてませんよっ!? 典さんの第二志望が祐麒さんと同じ大学で、しかも同じ学部だなんてっ」
「それを言うなら、真美さんだって第一志望がいつの間にか祐麒さんと同じ大学になっていたなんて、私、知らなかったけど?」
「あうあぅ、そ、それはぁ~~」
「ということで、お互い様ということでいいじゃない。それに私、第一志望は落ちているのよ?」
「二人とも、どうしたの? 良かったらこれから合格祝いにどこか打ち上げでも行かない?」
 二人でひそひそ話していることに焦れたのか、祐麒が近づいてきて提案する。
「あ、いいですね、それ。どこ行きましょうか、カラオケもいいし、甘いもの沢山食べるのもいいわよね。でも、それじゃあ真美さんがおデブちゃんになっちゃうのか」
「そっ、そんな急に太ったりしません! もー典さんったら」
「あははっ」
 真美が拳を握りしめて振り上げて見せると、笑いながら典が逃げてゆく。真美は頬を膨らませて典を見つめ、その後を追いかけようとしたところで。
「……ところで真美さん」
 横に立つ祐麒から声をかけられて、走り出そうとしたのを止める。
「はい?」
 顔を向けると、祐麒は正面を向いたまま呟くように言った。
「あのおまじない……凄くよく、効きましたよ」
「え……あ、えぁっ」
 言われてあの夜のことを思い出し、顔が火を噴いたかのように熱くなる。
 祐麒は言うだけ言うと、真美を置いてさっさと歩き出したが、後ろから見える耳が先ほどよりも赤みを帯びているように見える。
「そ、そっか、効いたんだ……えへ、えへへっ」
 自然と笑みがこぼれる。
「おーい、真美さん何しているの、置いてっちゃうよ?」
「え? あ、わっ、待って……って、つ、典さんっ!?」
 見ると、いつの間にか前方にいる典が、祐麒の肘のあたりを掴んで歩き出そうとしているところであった。
「ちょ、典さんっ、ずるいですーっ」
 慌てて追いかけ、典の腕を掴んで引き離す。
「もー、離さなくたっていいじゃない。もう片方が空いているんだから」
「そ、そういう問題じゃないですっ」
「大体、もうこれでお互い、いつ告白したって文句なしなんだよ?」
 こっそりと典に耳打ちされ、真美は目を丸くする。
「ま、まさか典さん、すぐにでもする気ですかっ!?」
「さあ、どうかしらね? でも、それで満願成就しても恨みっこなしだからね」
 微笑み、ウィンクする典。
「そ、それは、そうかもですけど、あ、あうぅ~~っ」
 駄目ということも出来ず、身もだえする真美。
 受験勉強している間は棚上げに出来ていた問題だが、こうして三人が無事に望んでいた大学に合格できたことで、再び浮き上がってきた。
「まあ、とりあえずスタートラインは大学が始まってからにしましょうか」
「何、なんの話?」
「あら、女の子だけの話ですから、今はまだ祐麒さんには言えません」
 口の前に人差し指をたて、軽く小首を傾げて髪を揺らす典。
「え、何、余計に気になるし」
「だから、ダメです。ね、真美さん?」
「え、あ、うん、駄目駄目、駄目ですっ」
「ちぇーっ、真美さんまで、意地悪だなぁ」
 肩をすくめる祐麒。  そうして。

 楽しみいっぱい、不安も少しの大学生活へと突入するのであった。

 

 

おしまい

 

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