昔から、小笠原の娘というだけで、人から違う目で見られていた気がする。祥子自身、そんな他人の視線を気にするようなこともないし、そもそも後ろめたいことがあるわけではないから、何を言うでもなかった。
それでも、クラスメイトからもどこか遠慮がちに話しかけられるのは、あまり気分の良いものではなかった。皆、悪気があるわけでもないし、ひょっとしたら無意識にしているだけなのかもしれないが、どうしても差を感じる。
同級生から感じる壁。小学生の頃から感じ始めていたソレを、はじめて打ち破ったのは令でもなければ、お姉さまでもなかった。
「祥子さん、祥子さんっ。ちょっとインタビューさせてくれないかしら?」
そんな不躾なことをいきなり言ってきた、彼女。
築山三奈子。彼女も幼稚舎からのリリアン生ということだけれど、記憶に残っているのは新聞部の活動で、まとわりつかれたこと。蓉子の妹になるより前に、なぜか取材を申し込まれた。小笠原の娘だからだろうか、とも思ったが、取材内容は小笠原とは関係なく、あくまで祥子だけに関するものだった。『今年のミス・リリアンを探せ』とか、よくわからないようなもので、当然、祥子は断っていた。
しかし、いくら断っていても決して諦めないその姿勢に、断るのも疲れてしまい、ある日とうとう取材を受けてしまった。
彼女、三奈子との付き合いは、そんな感じのもの、だったはずであった。
三奈子は変わらない。いつもいきなり現れて、祥子にどうでもいいような話を振ってくる。だけれども、いつしか祥子は、三奈子との会話を楽しいと感じるようになっていた。
祥子を小笠原の娘としてではなく、単なるクラスメイトとして接してくれる彼女と話をするのは、どこか心が弾んだ。
それは、紅薔薇のつぼみとなった今でも変わらない。
「……ときどき、三奈子さんが羨ましくなるわ」
ふと、そんな言葉を漏らした。
三奈子は、きょとんとした目でこちらを見ている。
「今日、真美さんとじゃれあっていたでしょう? 私は祐巳に、あのように接することができないから、羨ましいわ」
「あはは、真美は嫌がるけれどね、やめられないのよね、あの子の体、気持ちよくて」
ここは新聞部の部室。今日は部活動が休みということで、二人しかいない。
お昼休みに見かけた、三奈子と真美さんのスキンシップ。真美の背後からそっと忍び寄り、不意に後ろから抱きつく三奈子。真美は嫌がる素振りを見せていたけれど、本気で嫌がっていないことは顔を見ればわかる。
聖もよくやっていたようなこと。
でも、とてもじゃないけれど、祥子には出来ない。
「そんなに真剣に考えることじゃないわよ。気楽にやればいいのよ。祐巳さんだったら、祥子さんにされて、嫌がるはずがないわ」
そういうことではなく、自身の性格的な問題だ。
「それじゃあさ、私で練習してみる?」
「え」
「私を祐巳さんだと思って。ほら、遠慮なく」
言いながら背を向ける三奈子。
祥子は躊躇いながらも、そっと背後から腕をまわし、軽く三奈子を抱きしめた。後ろでまとめられた髪の毛から、甘いシャンプーの香りがする。
制服越しだったけれど、三奈子の体はとても柔らかくて気持ちがよい。これなら、聖さまが好んで抱きついたりするのも頷けるような気がした。
「祥子さん、それじゃあ覆っているだけよ。もっとこう、ぎゅっとしなくちゃ」
「え、ええと、こうかしら?」
戸惑いつつも、言われたとおりに力をこめる。
「うーん、ちょっと違うかも。ちょっと交代してみましょうか」
え、と思う暇もない。手をほどかれると、三奈子は祥子の体をくるりと半回転させて背中を向けさせ、ぎゅっと抱きしめてきた。
「きゃあっ?」
「あら、祥子さん可愛らしい悲鳴。うふふ、すりすり~っと」
長い髪の毛を手で避けながら、首筋に鼻の頭をこすりつけられる。むず痒いような、ぞくぞくとするような感覚がせりあがってくる。
背中には、ボリュームのある三奈子の胸が押し付けられる感触。
「こうやって愛情を込めて、抱きしめてあげるのよ」
口を開くたびに、三奈子の息が首に、頬にかかる。
「わ、分かったから、そろそろ……」
「あ、祥子さん、おっぱいも大きいねー」
「ひあっ!?」
不意に、三奈子の手が祥子の胸を掴んできた。手のひらで包み込むようにして、制服の上から両手で揉んでくる。思いがけない刺激に祥子は悲鳴をあげ、抗議しながら体をよじって逃げる。
どうにか三奈子の腕から逃げたが、祥子の胸にはいまだ、三奈子の手の平の感触が残っているように感じられた。
一方の三奈子は、自分の手の平をじっと見つめている。
「三奈子さん、悪ふざけもいい加減に……どうかしたの?」
無言で止まってしまった三奈子を見て、ふと不安になる。三奈子はちょっとふざけたつもりだったのに、大人げなく拒否しすぎてしまったのだろうか。友人とこのようなスキンシップ経験のない祥子には、分からなかった。
「あの、三奈子さん……?」
気分を害してしまったのだろうかと、おそるおそる近づく祥子。
すると、不意に三奈子は顔をあげたかと思うと、一歩、祥子の方に近寄って両手で肩を掴んできた。
びっくりしてひるむ祥子に、そのまま三奈子は抱きついてきた。
それも、ただ抱きついてきただけではない。顔を、祥子の胸に埋めるようにしてである。
「ふわぁ~、やっぱりやわらかーいっ。うーん、いい気持ち~っ」
さらに、その状態のままで顔を左右にふにゃふにゃと動かしてくる。
あまりのことに思考が停止する祥子であったが、途端に、顔が真っ赤になる。
「み、み、三奈子さ……ふぁんっ」
抗議しようとするが、顔をすり寄せてくる三奈子に微妙な刺激を与えられて、思わず変な声が出てしまい、自身の声にまた頬を朱に染める。
逃げようにも、三奈子は祥子の背中に両腕をまわしており、完全にしがみつき状態。両手で三奈子の頭をひきはがそうとするが、力が入らず、むしろ頭を撫でるような感じにしかならない。
「にゃ~、そうやって頭を撫でられると、余計に気持ちよくなっちゃうよぉ」
「そ、そういうつもりじゃ……あぁん」
うっとりと、とろけた表情で、甘い声でじゃれつく三奈子。
それからしばらくの間、祥子の胸を堪能して、ようやく三奈子は体を離した。実に満足げな表情を浮かべている。
「あー、気持良かった。うん、これは真美では出来ないものね」
「ど、どうしてですか。妹なんですから、真美さんとなさればいいじゃないですかっ」
乱れたタイを直しながら、怒りなのか、それとも羞恥のためか、相変わらず顔を赤くしたまま祥子が言う。
しかし、三奈子はしれっと答える。
「だってあの子、おっぱい小さいから。祥子さんくらいないと、できないわよねえ」
「な、な、な」
「祥子さん、着やせするわよね。ね、ちなみにサイズ、どれくらい?」
「な、なんで私がそんなこと、教えなくちゃ」
「えー、いいじゃない、減るもんじゃなし。女の子同士だし。ねえねえ、いくつ?」
「し、知りません」
拒否する祥子であったが、三奈子は執拗に聞いてきてなかなか諦めようとしない。新聞部の取材の時も、相当にしつこかったことを思い出し、このままではいつまでたっても離してくれないと思い、渋々、祥子は教えることにした。
他に誰もいない部室内ではあるが、それでも周囲を気にして、三奈子の耳に顔を寄せてそっと呟く。
「――えっ、そうなの? すごい、私と同じだ!」
「え……」
三奈子の言葉に、思わずまじまじと三奈子の胸を見てしまう。
だが、何をしているのだと、慌てて目をそらす。
祥子の視線に気がついたか分からないが、三奈子は気にした様子もなく笑っている。
「すごい偶然ね、これは……っと、予鈴だわ、戻らないと」
午後の授業の予鈴の音に、ほっと胸をなでおろす。
「それじゃ、行きましょうか」
立ち上がった三奈子が、手を差し伸べてくる。
その手を取り、祥子もまた立ち上がった。
そんなことがあって以来、三奈子はしばしば、祥子の胸に抱きついてくるようになった。さすがに教室内とか廊下とか、他の生徒の目が多数あるような場所ではやってこないが、人気の少ない階段で不意に抱きついてきたり、やはり新聞部室でやってきたり、祥子としても落ち着かない日々である。
だが、三奈子とはクラスも異なり、会わないでおこうと思えば会う機会を減らせるはずなのに、それが出来ない。同じ学年で特に親しいのは令と三奈子くらいであるため、必然的にどちらかと行動することも多くなる。まして、三奈子は積極的に声をかけてくる。冷たく断ることが出来ればよいのだが、つい、三奈子のペースに乗せられてしまい、気がつけば二人きりになり、抱きつかれるという始末。
そして文句を言いつつも、そんなスキンシップも決して嫌ではなくなってきて、なんだかんだと許してしまう。
本当は、祐巳とのスキンシップを相談したはずなのに、いつの間にか三奈子とのスキンシップばかりを重ねるようになってしまった。
今日もまた、誰もいない新聞部室の中で、三奈子は幸せそうな顔をして祥子の胸に顔を埋めている。
「うーん、幸せだわぁ」
「……もう、私はいい迷惑だわ」
本当は、今ではそこまで嫌ではないし、むしろ祥子もほんの少し、心地よいと思い始めていたのだが、強情な祥子はそんな風に答えてしまう。
「……本当に、迷惑?」
「まあ、ねえ」
三奈子の頭を撫でながら言っても、説得力はないが。
ところが三奈子は、不意に体を離して正面から見つめてきて、口を開いた。
「分かった、祥子さんが嫌なら、やらないわ」
「え……」
祥子の方が驚く。
今まで、さんざんやってきたのに。それに、いざしてこなくなると想像すると、少しばかり寂しい気もした。
「そのかわり、一つ、お願いがあるんだけれど」
真剣な表情をして、三奈子が言う。
「お願い? 何かしら」
「一度、"生ぱふぱふ"をさせてもらいないかしら」
「なまぱふぱふ……?」
耳慣れぬ言葉に、首を傾げる。
「ええと……」
考える。しかし、分からない。
ちらと、三奈子の顔を上目づかいで見る。
「……ああ、そうね。うん、じゃあ私も祥子さんにしてあげるから、それでどうかしら」
「え、三奈子さんもって」
「それでいい? いいわよね? ね、ね?」
「え、あ、え、ええ」
三奈子の勢いに、思わず頷いてしまう祥子。
気色満面、立ち上がる三奈子。
「やったー! それじゃ、さっそくいいかしら」
「――は? て、え、ちょ、ちょっと待って三奈子さん!」
いきなり、目の前でタイを解き、制服を脱ぎ始めた三奈子を慌てて止める。
「な、何をしているの、いきなりっ」
「何って、準備を……ああ、そっか。ごめんなさい、そうよね、あはは」
苦笑いしながら、三奈子は出口のところまで歩いて行き、扉に鍵をかけた。
「これで、大丈夫でしょう。ほら、祥子さんも、これで安心でしょ?」
と、三奈子は再び脱ぎ始める。
「ちょ、ちょ、ちょっと、みみみ、三奈子さん――っ!!?」
そして。
よく分からないが、結局、制服を脱ぐことになった祥子。リリアンの制服はワンピースだから、必然的に上下とも脱ぐ格好となり、今は下着にソックスだけという、何ともいえない姿になっていた。
腕で体を隠すが、心もとない。
そして目をあげれば、目の前には同じように下着姿になった三奈子。均整のとれたスタイルは、祥子に劣らず見事である。
「ああああの、三奈子さん。なんで、こんな格好に」
脱いだものの、未だに状況が把握できず、恥ずかしさに体をもじもじさせる。
「だから、"生ぱふぱふ"のため、だって。祥子さんも、さっき良いって頷いたじゃない」
それは、よく分からないままに、ただ三奈子の勢いにのまれただけである。そもそも、いったい三奈子の言う"生ぱふぱふ"なるものが何なのか、分かっていないのだ。
戸惑う祥子の様子などお構いなく、三奈子は制服を丁寧に折りたたみ、祥子の前に立つ。
「それじゃあ、私からいくねー」
そして、満面の笑顔を浮かべた三奈子は両手を大きく広げると、そのまま祥子に抱きついてきた。そう、いつもするように、祥子の胸に顔を埋めるようにして。
「――――っ!!?」
「うわぁ、やっぱり凄い、制服の上からとは全然違う! 柔らかくって、あったかくて、断然気持ちいい~、ふわふわ~」
ブラジャーで作られた胸の谷間に、幸せそうに顔をすりよせ、しかもあろうことか自分の両手で祥子の胸を持ち上げるようにして、顔を挟み込んでいる。
「みみっ、み、み、み、三奈子、さんっ?」
声が裏返る。
「駄目、逃がさないよ」
祥子が後退しようとしたところ、三奈子の腕が祥子の背中にまわり、抱きついてくる。制服のときとは異なり、直接に三奈子の肌が祥子の肌に触れる。腕に、脇腹に、背中に、太腿に、三奈子の柔らかな肌が押し付けられる。
三奈子の手はわずかにひんやりとしていて、触れられるとゾクゾクするが、不快ではない。胸には、三奈子の息がふきかけられてむず痒い。
「制服着ている時よりも、何倍もいいよ、これ! しあわせ~」
「や、すりすりしないでっ……」
抵抗する力を失い、頬を染め、少し息を弾ませながら、三奈子の攻めに耐える祥子。
どれくらいそうしていただろうか、不意に、三奈子が体を離した。
どうしたのかと思って見ると、三奈子が両手を広げていた。
「さ、約束通り、今度は祥子さんの番ね。どうぞ」
「え、どうぞって……」
「ほらほら、遠慮しないで」
体が火照り、いまだ少しぼーっとしている祥子の腕を取って引き寄せると、頭を抱きかかえるようにしてきて、そのまま三奈子の胸に押し付けられる。
途端、顔に感じる、圧倒的な弾力と温かさ。
「み、三奈子さん」
「どう? 気持ちよくない?」
三奈子の胸に挟まれて、少し息苦しかったが、確かに悪くない。ほんのりと鼻をつくのは、三奈子の汗か、それともほのかな香水か、いずれにせよ脳髄を痺れさせるような甘酸っぱい香り。
包み込む肉感は、何に例えようもなく、三奈子の言うとおり柔らかく、頬に吸いついてくるようで、幸せな心地よさが押し寄せてくる。
「ほら、ぱふぱふ~」
自らの手で胸を持ち、祥子の顔に刺激を与えてくると、とろけるような気分になる。祥子はたまらず三奈子にぎゅっと抱きつき、身体を密着させる。
「うふふ、祥子さん、可愛い。気持ちいい?」
「ええ……凄く、気持ちいいわ」
「そう、私も嬉しい」
にこにこと笑いながら、祥子の長い髪の毛を手で撫でる。
このままいつまでもいたいような、このまま眠ってしまいたいような、そんな気分にさせてくれる。三奈子がしょっちゅう、祥子に求めてきたのも分かるような気がした。
「はあ……三奈子、さん……」
「あー、祥子さん、ご免、そろそろ時間かも」
「え……」
肩を掴まれ、ゆっくりと引き離される。予鈴が鳴っているのが聞こえるが、祥子は物足りないと感じていた。
「うーん、最後に幸せな気持ちになれたわー」
三奈子は、晴れ晴れとした表情で伸びをしている。ブラジャーに包まれた、揺れる乳房に目が吸い寄せられる。
「み、三奈子、さん」
「ん? なぁに?」
ポニーテールを揺らす三奈子。
祥子は自分の顔が赤いのを自覚しながら、視線を斜めにずらし、もぞもぞと口を開く。
「あの、私、今日はじめて、三奈子さんにさせてもらったわよね」
「ん、そうね」
「三奈子さんは今まで何回も何回も、してきたじゃない」
「あはは、気持良かったから、ごめんね」
「そ、そうじゃなくて。私は今日だけで、それじゃあ、全然割に合わないと思わない?」
「ん……?」
首を傾げる三奈子。
祥子は口を尖らす。
「だ、だから……わ、私が今までの分を取り戻すくらいまでは、付き合ってくれてもいいんじゃないかしら……?」
言ってから、上目づかいで、見てみる。
「え、それはいいけれど、じゃあ、その時に私は?」
「ま、まあ、三奈子さんがどうしてもというなら、してあげてもいいけれど」
「それだと、いつまでたっても、私と同じ割合にはならないんじゃないかしら」
「わ、私の方が時間を多くすればいいのよ。そ、それに……そう、私が駄目だといったのは今までのことで、今日の、ええとそう、"生ぱふぱふ"は嫌だとは言っていないわ」
そうして、三奈子を見つめる。
祥子自身、自分の言っていることが滅茶苦茶というか、これでは割合だとか何だとか関係なく、単にしたいという風にしか聞こえないことが分かっていた。だから顔を真っ赤にしているのだが、それでも正面から三奈子を見つめる。
初め、きょとんとしていた三奈子だが、すぐに花開く笑顔を見せる。
「うんっ! 分かった、それじゃあ、これからもよろしくね、祥子さん。わー、やったー、祥子さんのおっぱい、気持ちいいんだもん」
「お、大きな声で言わないで、恥ずかしいわ」
「いいじゃない……っと、急いで着替えないと、遅れちゃうっ」
「そ、そうね」
二人は慌ただしく、制服を着始めた。
急いで着替え、お互いにタイを確認しあい、ぎりぎりのところで新聞部室を出る。次の授業まで、あまり時間がないが、廊下を走るわけにもいかない。
「……ねえ三奈子さん。こ、今度、良かった私の家に遊びに来ない?」
「え、本当に? 行く行く! うわ、嬉しい、お呼ばれしちゃった!」
無邪気に喜ぶ三奈子を見ていると、自然と口が緩む。
祥子の家に呼ばれると、大抵の人は遠慮したり、かしこまったり、おそれおおいなどと言ったり、そんな反応ばかりだった。だけど三奈子は、そんな素振りをまるで見せない。それが祥子には、何より嬉しい。
「わ、私の家なら、時間を気にすることなく、出来ますし」
「え、何が?」
「え――だ、だからその……な、生ぱふぱふを」
言いながら、またも赤くなる。
三奈子の表情を見れば、分かっていて祥子に言わせたのだということが知れたから。
「もう、三奈子さんたら!」
「ごめん、ごめん。うん、でも私もそれは楽しみかもっ! ずーっとしていたいね」
そんなことを話しながら、ふと、隣を歩く三奈子の手が祥子の手に触れた。
しばし逡巡した後、祥子は思い切って、三奈子の手を握った。
三奈子の手はすぐに、握り返してきた。しかも、祥子の指の間に、自らの指を入れ込んできて、がっちりと手をつなぐ。
「――三奈子さん」
すぐに教室だけれど、そんなことは関係ない。
祥子の教室の前に着くまで、二人の手は強く握られていた。