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マリア様がみてる 百合CP

【マリみてSS(志摩子×桂)】こすちゅーむ・キス

更新日:

 

~ こすちゅーむ・キス ~

 

 無事に修学旅行から戻ってきて、桂の心は浮かれ半分、落ち込み半分、といったところであった。
 浮かれの原因はもちろん、修学旅行中に志摩子とお互いの想いを通じ合わせ、晴れて恋人同士になったということ。
 そして落ち込みの原因は、恋人同士になったけれども、修学旅行の間ではキスまでしか進まなかったこと。修学旅行の間はずっと志摩子と同部屋だったから、恋人同士となった二人を邪魔するものは何もないはずだった。
 ところが、蓋を開けてみれば、この体たらく。
 初日の夜は、まあまだお互いの想いが分かっていなかったので仕方ないとしても、想いを通じ合わせたはずの二日目以降も、何もなかった。三日目は、先にシャワーを浴びた桂だったが、ベッドの中で志摩子を待ちうける間に寝てしまった。四日目こそはどうにかしようと、志摩子と二人できちんと意思を確かめあったものの、夜になっていざ、となると、二人とも恥しさと緊張で、どうにも動きがとれず、いつしか夜が明けていた。
 そんなこんなで、結局は消化不良気味にイタリアから帰国したわけである。
 落ち込みもしたが、前向きに考えれば志摩子と恋人同士になれたわけだし、焦る必要はない。これから先、楽しいことは幾らでもあるだろうし、作っていけるだろうから。
 桂は鼻歌交じりに登校した。
「ごきげんよう~」
「ごきげんよう、桂さん」
 挨拶を返してきた真美を見て、桂はびっくりした。
 特に、何が変わったということもないはずなのだが、目の輝きというか、お肌のつやというか、あるいは全身から放たれるオーラとでもいうか、そういったものが以前と異なるような気がしたのだ。
「どうかしたの、桂さん?」
「あ、ううん、なんでもない」
 僅かに首を傾げると、真美は先に歩いて行った。
 桂は腕を組み、「うーん」と唸る。
 何があったか考えてみる。修学旅行前は、あんな感じではなかった。となると、修学旅行で何かがあったのか。イタリア観光で、美肌エステにでも通ったか。いやいや、待て待て、もっと何か大事なことを目撃したような。
「あっ」
 イタリアのホテルで目撃した、真美と蔦子のキスシーン。当然、二人の仲はそれだけですむわけもなく、きっと夜中には体と体をねっとりと熱く交わらせ、互いを貪りあうように愛し合っているはず。
 妄想するだけで、桂まで体が熱を帯びてくるよう。
「いやあ、蔦子さんもなかなかやりますなぁ」
「人のことで勝手に妙な妄想しないでくれる?」
「うひゃぁっ!? あららら、蔦子さん、ごきげんよう」
 一人で脳内妄想に身をよじらせていると、いつの間にかやってきていたのか、蔦子が背後から眼鏡のレンズを不気味に光らせ、桂のことを見つめてきていた。
「分かっていると思うけれど、余計なこと、言わないようにね?」
「分かっているわよぅ、誰にも言わないから、教えてよっ。ま、真美さんとは当然、キスしただけじゃないんだよね、ね?」
 蔦子の腕をがしっと掴むと、他人に聞かれないような場所まで強引に引っ張っていく。
「え、な、何よ、ちょっと」
「ねえねえ、キスだけじゃないよね、ていうかそう言っていたよね、えええエッチまでしたんだよね?」
「え、あ、まあ、そう……だけど」
 桂の勢いに、思わず赤面しつつも肯定してしまう蔦子。
「どんな感じなの、実際のところ? 気持ちよいのやっぱり、どういう風に持ち込むの?」
「ななな、桂さん、なに、なんでそんな勢い込んで」
「何をおっしゃいます蔦子さん、花も恥じらう女子高校生といえば、恋のお話、ちょっとエッチなこととかに興味津津のお年頃、そりゃあもう、他の子の体験談なんて、根掘り葉掘り聞きたいに決まっているじゃないの!」
「そ、そうかもしれないけれど」
「ささ、余すことなく、蔦子さんのテクニックを教えてちょうだいっ。まずは、どうやってそういった雰囲気に持ち込み、その後、どのようにしてエッチに突入していくのか、余すところなく委細に!」
「ひ、ひええぇ~っ」
 桂の迫力に、蔦子も完全に負けていた。
 逃げようと思っても、テニス部で鍛えられている桂は意外と体力もあり、掴んでいる腕を離しそうにもない。
 蔦子は桂に見られたことを、心から後悔するのであった。

 

 蔦子との話を終え、桂はダメージを受けた体をひきずるようにして、教室に向かっていた。友人からの生々しい告白は、思っていた以上に、衝撃があった。
「うおぉ……す、すごい、すごすぎる……っ!」
 つい、桂自身と志摩子で想像してしまい、鼻血が出そうになり、手で鼻を抑えながら教室に足を踏み入れる。
「ごきげんよう、桂さん……て、大丈夫?」
 鼻を抑えながらフラフラした足取りで入ってきた桂を見て、クラスメイトが怪訝な顔をしながら挨拶をしてくる。なんでもないと言いながら桂も挨拶を返し、ふと、視線を感じて顔を動かしてみる。
 少し離れた席から志摩子が桂の方を向いて、小さく手を振った。わずかに恥しそうに、それでも嬉しそうな表情で。
「……おぅっ」
 全くエロさなどなく、むしろ清純さを体現しているとしか思えないのに、威力は絶大であった。桂はきゅん死しそうになりながら、自分の席へと着く。
 前方の席に座る、志摩子の後ろ姿を見つめる。
 ただそれだけで、幸せな気分になってくる。
 間違いなく桂は、恋している真っただ中であった。

 

 しかしながら、いざ付き合い始めたは良いものの、どうしたらよいのか分からなかった。変に意識してしまい、休み時間とか、お昼休みとか、志摩子とどう接していいのか戸惑ってしまい、ほとんど話をすることが出来なかった。
 友人達に公言するわけにもいかず、志摩子とあからさまにベタつくなんてことも出来ず、桂自身も困惑していた。今までも、志摩子のことが好きで、だけど桂は桂らしく志摩子に話しかけてきたはずなのに、それが分からなくなってしまったのだ。
 おかげで修学旅行から戻ってきてから、志摩子とあまり話せていない。挨拶はするし、他の友達と一緒にいて話したりはしているのだが、二人きりで、恋人らしい時間を共有することが出来ていない。
 すっきりしない、もやもや感ばかりが日々、たまっていく。
「どうしたの、桂ちゃん、最近、元気ないんじゃない?」
「えー、そんなことないですよー。元気だけが、あたしの取り柄なんですからっ」
「本当にぃ?」
 テニス部の部室内で、先輩に言われて、笑って見せる。
 先輩は少しだけ首を傾げたが、それ以上は追及することなく、着替えるために制服を脱いで下着姿になった。
 先輩はテニス部の中でも美人で、スタイルも良くて、だから下着姿になった今も、桂だって思わず体を見てしまうくらい綺麗なのだけれども、不思議なことに、あまりドキドキはしない。
 でも、体育の授業で志摩子の着替えを見ると、物凄くドキドキする。志摩子は下着姿を大っぴらに見せるような着替え方はしないが、ちらりと太ももが目に入っただけでも、桂は物凄く胸が高鳴るし、変な言い方をすれば、エッチな気分になる。
 だけど、こうしてテニス部の部室で他の人の肌や下着姿を見ても、そういう気持ちにはならない。
「ほら、何をぼーっとしているの、桂ちゃん。行くわよ」
「あ、はいっ」
 先輩に促され、部室を出てテニスコートへと向かう。
 今日は、試合形式の練習で、桂も同学年の部員とネットを挟んで向かい合う。桂の実力は、部員の中でも真ん中くらい。一方の相手は、桂よりも強い。右に左にと振り回されながらも、どうにか食らいついていく。
 こうした練習は、相手の方が自分より少し上手いくらいの方が、楽しいし、燃える。桂はとにかく、夢中になってボールを追いかける。
「くぅっ……はいっ!!」
 必死でボールに追いつき、フォアでクロスに打ち込む。
 相手は予想していたようで簡単に追いつき、強烈に打ち返してくる。
「くっ!」
 桂の思っていた方向に打ち返されてきたが、打球が強くて速い。
「てりゃああああああぁっ!!!」
 思い切り走り込んで、バックで必死に振り抜くが、振り遅れ、勢いに押され、ボールは相手コートの外に落ちた。
 そして桂は、走り込んだ勢いで、思いっきり転んでいた。
「うぅぅ、負けた~っ、悔しいっ!!」
「こら、桂ちゃん、ちゃんと礼しなさい」
「あ、はい、すみませんっ」
 先輩に注意されて、慌てて立ちあがって挨拶。負けたのは悔しいけれど、こういうところはきちんとしておかないといけない。
 お辞儀して、くるりと振り返ったところで、テニスコートのフェンスの向こうに立っている人影に気がつく。
「え、し、志摩子さんっ!?」
 ラケットを抱えたままフェンス際まで走っていくと、当たり前だが間違えることなく志摩子が立っていた。
「どうしたの、志摩子さん?」
「あのね、見学」
「ひょっとして、あたしの……ずっと見ていたの?」
 尋ねると、志摩子はこっくりとうなずく。
 桂は頭を抱えた。
「うわーっ、よりによってあんな、格好悪いところをっ」
 練習とはいえ、最後は派手なダイブをかました挙句に、負けたのだから、情けない。どうせなら、スマートに勝つ姿を見せたかった。まあ、スマートに勝ったことなんて、ないんだけどね。
 だけど志摩子は、首を左右に振る。ふわりと、髪の毛つられるように揺れる。
「そんなことないわ、とても、格好良かった。凄く、素敵だった」
「えー、だって、こんなボロボロになってるし」
 ウェアも膝小僧も、埃まみれだし、汗だくで髪の毛も乱れている。
「ううん、一生懸命にボールを追いかけている桂さんは、本当に素敵」
「あ……ありがと」
 真面目にそこまで称賛されると、さすがに照れくさいが、それでも志摩子に言ってもらえると嬉しくなる。
「桂ちゃん、次、審判よっ」
「あ、はーい! ごめん、志摩子さん、あたし練習中だからっ」
「ええ、気にしないで、練習頑張ってきて」
 そう言うと志摩子は、左右にキョロキョロと注意を払った後、フェンス越しにそっと、投げキッスをした。
 実行した後、恥しそうに頬を赤らめる志摩子。
「うぉおおおっ、漲ってきたーーー! 頑張っちゃうもんね!!」
 投げキッスを受け止めた桂は、元気も倍増して、練習へと戻っていった。
「……といっても、次は審判だったーーー! 漲るパワーがあぁぁぁ!」
 一人、悶える桂。
 そんな桂をフェンス越しに見つめて志摩子は。
「うふふっ」
 おかしそうに、小さく笑うのであった。

 

 志摩子のパワーを得て、桂はいつも以上に練習に気合を入れた。張り切りすぎて何度も転がって、手足にあちこち擦り傷を作ってしまったくらいだ。傷自体は大したことなかったが、保健室で手当てをしていたらなんだかんだと遅くなってしまった。部員のみんなは既に着替え終わり、帰るところだった。桂を待つと言ってくれた部員もいたが、申し訳なかったので、鍵だけ預かって先に帰ってもらった。
 そうして一人、手当てを終えて部室へと戻ってくると、志摩子がいた。
 志摩子は結局、練習の間ずっとフェンスの向こうに立って、桂の練習する姿を見ていた。
「志摩子さん、どうしたの、こんな遅くまで残って」
「どうしたのって……ひどいわ、桂さんを、待っていたのに」
「あ、ごご、ごめんなさい! でも、なんか悪いじゃない、遅くまで」
「そんなことないわ。好きな人のことを待つのは、全然いやじゃないもの」
「うわぁ……うん、ありがとう……あ、部室、入る?」
 立ったままというのも何なので、部室に入ろうとすると、志摩子に腕を掴まれた。
「ねぇ、桂さん……私達、付き合っているのよね?」
 志摩子が、暗い表情をして見つめてくる。
 嫌な予感がして、桂は立ちくらみそうになる。
 なぜ、こんなに志摩子は悲しそうな顔をしているのか。ひょっとしてあれか、やはり桂のことを好きだなんて思ったのは一時の気の迷いで、別れようと切り出そうとしているのか。確かに、桂など志摩子と比べてみれば平凡で、見劣りするし、そう言われても仕方ないと思っていたというか、むしろ両想いになれたこと自体が、奇跡的だったとしか思えなかったわけだが。
「桂さん……私のこと、避けていない? 私のこと、嫌いになっちゃったのかしら?」
 しかしながら志摩子の口から出たのは、全く違う言葉だった。
「えっ? なな、なんで!? そんなわけないよ!」
「だって、修学旅行から帰って来てから、いつもみたいに話しかけてくれないし、私が話しかけようとしても、逃げられているみたいで……」
「そっ……れは」
 気恥しかったから。事実なのか信じられなかったから。夢が覚めてしまうと思ったから。だけど、そんなのはどれも言いわけだ。
「私、やっぱり桂さんから見たら」
「ごめん志摩子さん! あたし、馬鹿だった!」
 志摩子の言葉を遮るように叫ぶ。
「あたし、その、自信がなかったというか、今でも信じられないというか。志摩子さんと両想いになれたってことが。志摩子さんみたいな素敵な人の隣に、あたしがいていいのかって」
「なんで、そう思うの。桂さんが思うほど、私、たいそうな人間じゃないわ」
「そんなことないよ! 志摩子さんがたいそうな人間じゃなかったら、誰がそうなのよ。志摩子さんは皆から慕われているし、尊敬されているし、綺麗で優しくて」
「違う、そんなことないの。だって……」
 そこで志摩子は俯き、頬を赤らめ、ちらりと桂のことを上目づかいに見る。
「だ、だって、桂さんの練習を見ている間だってずっと、桂さんの揺れる胸とか、汗で透けるウェアとか、スコートからのびる太ももとか、ちらちら見えるアンダースコートとか、そんなところばかりを目で追ってんだもの」
「…………へ?」
「…………」
 恥しそうに、志摩子は真っ赤になって俯いている。
 桂も、唖然としていた。まさか、志摩子が、練習中の桂のそんなところを見ていたなんて思わなかったし、知った今、なんだか急に恥しくなってきた。
「幻滅、した?」
「ととととんでもない! それをいうならあたしだって、授業中とか志摩子さんを後ろから眺めながら、うなじが色っぽいと思ったり、体育の着替えで見える肌や下着を舐めるように見ているし!」
「そ、そうだったの? 気がつかなかったわ」
 二人してしばし無言で見つめ合い、そして。
「ぷっ……ふふっ」
「あははっ」
 同じように、笑いだす。
「ごめんね、志摩子さん。あたし、その、どうしたらいいのか分からなくて、それで」
「ううん、いいの。私も桂さんのこと、信じなくちゃいけなかったのに」
 笑いあって、別に喧嘩をしていたわけではないけれど、仲直り。友達同士から一歩、深く踏み込んだ関係になったのだから、これからも戸惑い、すれ違うことはあるかもしれないけれど、お互いに自分の気持ちをきちんとぶつけあっていけば、大丈夫なんじゃないかっていう気になれた。
「そうだ、いつまでも待たせたら悪いよね。ちょっと待って、すぐに着換えてくるから」
「もう、着替えちゃうの? 勿体ない……桂さんのテニスウェア姿、凄く可愛いから」
「そ、そんな、あたしなんかより、きっと志摩子さんの方が似合うよ! 避暑地のお嬢様のテニスって感じで」
「そんなことないわよ。私、運動は苦手だし」
「そうだ、余っているウェアがあるから、着てみない? 別に本当にプレイするわけじゃないからさ」
「え、でも」
「他に人もいないし、いいじゃない。それにあたし、志摩子さんのテニスウェア姿、見てみたいよー。凄く、似あうと思うの、ね!?」
 ほとんど欲望丸出しだが、似あうと思っていることに偽りはない。強引に押して、桂は志摩子をテニスウェアに着替えさせることに成功した。
 そして今、テニスウェア姿の志摩子が、目の前にいる。
 上下ともホワイトなのは、白薔薇さまである志摩子にぴったりだった。アクセントとして、リリアンの制服と同じ色のラインが入っている。
「凄い、超素敵っ!!」
「は、恥しいわ」
 頬を染め、身をもじもじとする志摩子だが、そんな仕草に余計にそそられる。しかも、普通のテニスウェアの時であればアンダースコートだが、今の志摩子は普通のショーツなのだ。それを考えるだけで、鼻血噴出ものである。
「ねえ、それより桂さん」
「ん?」
「今って、この部室内、私達二人だけなのよね……?」
「う、うん」
 夕方のうす暗い部室内、しっとりと少し汗の匂いが漂う中、恋人同士となった二人が白いテニスウェア姿で向かい合っている。
 桂はようやく気が付き、志摩子の両肩に手を置き、ゆっくりと引き寄せる。
「んっ……ふ……」
 キスをする。
 ウェア越しに、志摩子の豊かな胸が押し付けられて、むにゅりと潰れているのがわかる。
「志摩子さん、好き」
 手を細い腰にまわし、軽く抱き寄せる。
 志摩子の右足を、両の腿で挟み込むようにして、摺り寄せる。すると、志摩子もそれに呼応するかのように、桂の右太ももを挟んでくる。腿と腿が触れ合い、滑らかな肉の感触が気持ち良い。
「ごめん、あたし、汗でべたついているでしょ?」
「桂さんの汗の匂い、好き……」
 くんくんと鼻をならして、志摩子が首筋に顔を埋めてくる。ぺろりと、舌で舐めてくる。
「ん、しょっぱい。けど、美味しい」
「は、恥しいよ」
 肩を掴んで、少し引き離す。
 正面から見る志摩子の顔は火照って、ほんのりと汗が光っていて、そして今までに見たことがないくらい扇情的で淫らな表情に見えた。清廉で純白のイメージの志摩子が今、テニス部の部室でテニスウェアを身にまとい、練習を終えて汗にまみれている桂と抱き合い、キスをしている。
 信じられないくらい、淫靡な空気を撒き散らしている。
 桂はスコートに手を伸ばし、震える手で持ち上げていく。志摩子は黙って、ただ恥しそうにして見ているだけ。
 スコートを持ち上げると、薄いピンクのショーツ。
「か、桂さんも……」
 志摩子はウェアの上から、桂の胸に触れてきた。両手で、覆うようにして。熱と電流が同時に胸から全身に流れていく。
 志摩子の手が下に滑り落ち、ウェアの裾から中に入って桂のお腹を撫でる。
「あ……ん……鐘……?」
 桂の手が志摩子のお尻に伸びようとした時、校舎の方から、鐘の音が響いてきた。
 最終下校時刻を告げる鐘だった。
「あ、もう、そんな時間? か、帰らないと」
「そ、そうね」
 ゆっくりと、お互いの手を離していく。
 むせ返るような濃密な空気の中で。
 二人は気恥しそうに、笑った。

 

 急いで制服に着替えて、部室の外に出る。
「うーん、早く帰ってシャワー浴びたいよぅ!」
 ぐーっと伸びをしながら、大きな声を出す桂。結局、シャワーを浴びる時間がなかったので、汗をかいたままなのだ。
「ご、ごめんなさい、桂さん」
「別に、志摩子さんのせいじゃないよ。あたしが、無理やり志摩子さんにテニスウェアを着させちゃったんだし」
 校門へと続く道、他の生徒たちも桂たちと同様に、帰宅するために歩いている。
「なんかあたしこそごめん、その、なんだ、あんなことになっちゃって、でもその、なんか中途半端な感じで」
 言いながら、異様に恥しかった。
 部室での行為もそうだし、それが中途半端なところで途切れてしまって、なんとも言い難い感じなのだ。
「ううん、続きはまたすれば、いいから」
「そうだよね、また今度すれば……って」
「あっ」
 とんでもないことを口走ったことに気がついたのか、志摩子が真っ赤になり、そしてつられた桂もまた、赤くなる。
 だけど。
「……でも、本当だからね、桂さん」
「う、うん」
 ふと、触れ合う腕。
 志摩子の手がおずおずと動くと、小さな指で桂の手を握ってきた。桂もまた、握りかえす。手に出来ているマメが気になったが、志摩子の指が優しく、愛おしげに撫でてくれた。
 手をつないだまま歩き、校門を抜ける。
「――志摩子さんっ、明日も元気でまた会おうねっ!」
「ふふ、何それ?」
「だって、元気だけがあたしの取り柄だかんねっ」
 つないだ手を振り上げる。
「そんなことないわよ、桂さんは、素敵なところだらけよ」
 校門を曲がると、ちょうどバスが出たところだったため、バス停には誰もいなかった。
 だから桂と志摩子は。

 校門の影で、そっと、唇を重ねるのであった。

 

 

おしまい

 

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