書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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【マリみてSS(三奈子×祐麒)】秋の花

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~ 秋の花 ~

 

 残暑の名残も消え去り、過ごしやすい気候となった。花寺の学園祭も無事に終了し、祐麒は生徒会長の座を後輩に譲り渡した。これからは、受験に備えての勉強に専念をすることになる……はずである。
 しかし、そんな風に人を放っておいてくれないのが彼女である。ただし今回は、いつものように当日いきなり呼び出し、というわけではなかった。

 それは、一週間ほど前のこと。

 夕飯を終え、リビングで家族とともにテレビを観ていたときに、電話はかかってきた。着信音を聞いて電話の主が分かると、家族の目を避けるようにしてリビングを出る。背中にかけられる、『何、ひょっとして彼女から?』という祐巳の冗談交じりのからかいの声を無視して、自室に逃げ込む。
「―――もしもし?」
『おっそいよ、もう、祐麒くん!』
 耳に当てるなり、大きな声が飛び込んできて顔をしかめる。
「ご、ごめん。どうしたの、三奈子さん?」
『あーそうそう、ね、ね、来週の日曜日ってヒマ?』
「ん? 今のところ予定はないけれど」
『じゃさ、決まりね』
「何が?」
 目的語を何も言わないところが、らしいといえばらしいところであるが、さっぱり分からない。
『あれ、言ってなかったっけ? うちの大学の学園祭があるのよ。遊びに来るでしょ?』
「ああ」
 そういえば、しばらく前に聞いた記憶がある。
 しかし、祐麒が来ると決め付けているところが、やはり三奈子さんらしい。祐麒が断るなどと、最初から思ってなどいないかのようである。もっとも、祐麒自身、特に拒否する理由もないのだが。
 予定調和のように約束し、大学に訪れる時間を決めた後は二十分ほど雑談をして、通話を終了する。
「学祭、か」
 大学の学園祭に行くのは初めてで、果たしてどのような催しが開かれているのか、高校の文化祭とどう異なるのか、早くも楽しみになってきた。

 でも、それ以上に。

 三奈子さんと一緒に、三奈子さんの大学を見て回れるということに、楽しみを感じていることを祐麒は自覚していた。

 

 そうして今、祐麒は三奈子さんの通っている大学正門のすぐ近くまでやってきていた。正門は、元の形が分からないくらいに色々な物で飾られ、学祭名の刻まれた派手な看板で覆われ、大勢の人で賑わっていた。
 金土日の三日間で行われている学祭も最終日となるが、盛り上がりは収まる気配を見せない。むしろ、最終日ということで、学生達も全てを出し切ろうと張り切っているのかもしれない。
 やはり、どこか高校とは異なる様相を呈している雰囲気になかば飲まれながら、待ち人の姿を探す。
「あ、おーい、祐麒くーんっ」
 するとどこからか、まさにその人の声が聞こえてきたのだが、人が多くてなかなか見つけることができない。
 しばらく、姿を探してきょろきょろしていると、不意にすぐ近くから声がかかった。
「どこ探しているの。ここだってば」
「あ、三奈子さ……って、何、そのカッコ?」
 振り返っての第一声は、それだった。
 なぜなら三奈子さんは、鮮やかなチャイナドレスに身を包んでいたから。
 始めは、意表をつかれたその奇抜さに、ただ驚いていただけだったが、落ち着いて見ていると次第に見ている祐麒の方が恥しくなってきた。藍色に菊花柄の入った一分袖のロングチャイナドレスは、胸元を強く印象付けるような水滴襟。大胆に開かれたスリットから覗いて見える、すらりと伸びた脚は眩しく、素足にミュールという組み合わせもまた、見ている者の心をくすぐる。
 いつもと同じポニーテールは、そのチャイナドレスと非常にマッチしていたが、とにかくスリット部分に目が引き寄せられてしまう。
「これ? どう、似合うかな?」
 くるりと、その場で軽く回ってみせる三奈子さん。
 束ねられた髪の毛が舞い、ドレスの裾が揺れて太腿が目に入る。
 ウエストも締められ、身体にぴったりと張り付くようにボディラインを浮き上がらせているチャイナドレスは、まるで三奈子さんのために存在していたかのように似合っていた。
 だけど、口をついて出るのは違う言葉で。
「いや、ってゆうか、なんでそんな格好を?」
「これね、実は今日私、モデルなのよ」
「モデル?」
 三奈子さんが説明するには、学園祭のイベントである"ファッションショー"のモデルに抜擢されたとのこと。なぜ、チャイナドレスなのかというと、"ファッションショー"のテーマが、『ウェイトレス制服』というもので、三奈子さんはどこぞの中華系レストランの制服を着用しているとのことだった。
「……ファッションショーって、午後からってパンフレットには書いてありますけど」
「今のうちに、これで印象付けておくのよ」
 得意げにウィンクしてみせてくるが、逆に見慣れてしまって逆効果になりはしないかと思った。
「いいの、いいの。それにさ、祐麒くんにも見てもらいたかったから」
「…………っ」
 台詞に、思わず祐麒の方が赤面しそうになった。
「じゃあ、行きましょうか。案内してくれるんですよね」
 照れ隠しをするように、先に歩いて背中を向ける。慌てて追いかけてくる三奈子さんの足音が続く。
 正門をくぐり、さて、どこへ行こうかとしたその矢先、いきなり肩を叩かれた。三奈子さんが歩いているのとは反対側だったから、本当にびっくりして顔を横に向けると、長いストレートの黒髪を揺らした長身の女性が、祐麒を見つめていた。
「……なるほど。貴方がユーキくん、ね」
「は?」
 ハスキーボイスでぼそりと言う女性に、思わず引きそうになる。
「ちょっと、驚いているよ、みや」
 長身の女性の後ろから顔を見せたのは、ショートボブで八重歯が特徴的な女の子。
 さらに。
「へー、可愛いじゃん、写真より実物の方が」
 茶髪、というよりは金色に近いボリュームのある髪の毛にウェーブをかけている、目の大きな女性が目の前にあらわれて、まじまじと祐麒の顔を見つめている。
 いきなり、見ず知らずの女性三人に周囲を取り囲まれ、珍獣でも見るような視線で全身をなめまわされ、どうしていいのか分からなくなる。
 助けを求めるように、後ろにいる三奈子さんに目を向けると。
「ちょっとちょっと、何してるのよっ」
 慌てて飛び出してきて、祐麒と三人の女性の間に入る。
「いいじゃない、噂のユーキくんをせっかく生で見られるんだから」
「そう。生で……ね。うふふ」
「あー、生でねぇ。生の方が確かに気持ちいいのかもしれないけれど」
「は? 何言っているのよ。アンナもみやも、いきなり過ぎよ」
「ランだって興味津々のくっせにー」
「そりゃまあ、そうだけど」
「三人とも、なんなのよー」
 事態は収拾する様子を見せない。
 結局その後、たっぷり五分ほど待ってからようやく紹介された。
 最初に祐麒に声をかけてきた長身の女性が雅さん。次のショートボブが蘭子さん。そして、金髪の女性が安奈さん。いずれも、三奈子さんと同じ学科で学んでいる一年生の友人たちだそうだ。
 その三人がなぜ、祐麒のことを知っているかと言えば、説明するまでもなく三奈子さんが喋っていたからだ。一体、どのようなことをどのように話していたのかはわからないが、祐麒のことを、にやにやとした表情で見ていることから、あまり知りたいとは思わなかった。
「これから案内してあげんでしょ? 五人でまわろうよ」
「ユーキくんはどっか見たいところある?」
「"幽体離脱体験道場"が面白いわよ……」
「あの、俺は」
「わ、わ、ちょっとみんな、待ってよーっ」
 三人の女性に左右を挟まれる格好で、連行される。慣れない格好で歩くのが遅い三奈子さんが、後ろから懸命に追いかけてくる。
「さあさ、さあさ、ようこそおいでませ我が学園祭へっ!」

 

 いくつかの模擬店や企画を見て周ったり、屋台で購入したお好み焼き、焼きソバ、クレープを食したりしているうちに、いつしか時間は午後になっていた。
 1時から始まるというファッションショーに向けて準備があると、三奈子さんはチャイナドレスを翻して去っていった。残される、女三人と男一人。三奈子さんがいなくなった途端、なぜか女性陣の雰囲気が変わったような気がして、急に居心地が悪くなった気がする祐麒。
「……さて、と。では三奈がいなくなって早速ですが、お姉さんたちは聞きたいことがあります」
 と、蘭子さん。
 ずい、と身を乗り出してくる。
「ユーキくんと三奈はさ、付き合っているんだよね?」
「えーと」
 答えるのに困る質問であった。傍から見たら、きっと付き合っているように見えるのだと、さすがの祐麒だって思う。だが実態は、告白したわけでもないし、宣言をしたわけでもない。まさに、『友達以上恋人未満』的関係を築き上げているのだから。

「三奈子ってばさ、しょっちゅうユーキくんのこと惚気るくせにさ、つきあっているわけじゃないとか言い張るのよ。そこんところ、はっきりさせたくてさー」
「それは……」
 三対の視線に射すくめられながら、事実だけを語ると。
「ウソでしょー?」
「……信じられないわね」
「ありえなくない?」
「そう言われましても、事実ですから」
「でも、二人でプールや海に行ったり、しょっちゅう遊びに行ったりしているんでしょう?」
「二人きりで一晩過ごして、何もないなんてことはないでしょう?」
「てゆーか、それでキスすらさせてくれないなんて、三奈子ひどくない?」
「思わせぶりな態度見せておいて……生殺しね」
「いや、あの娘、天然だから。どうなんだろね」
「ユーキくんは何とも思わないの?」
 凄い勢いで迫ってくる三人に、祐麒は逃げたくなったがそうもいかない。
「言っとくけど、あれで三奈、結構モテるのよ?」
「え、そうなんですか?」
 一年以上つきあって、色々なことを話もしたけれど、色恋沙汰の話は殆ど聞いたこともなかったので、正直、驚きであった。
「そうよ。ほら、美人だしスタイルだって良いし」
「確かに、そうですよねえ」
「あ、惚気てる。うわー、やだねー、照れもせずに真面目な顔して肯定しているよ」
「や、でも、その」
 だが、改めて考えてみれば納得である。
 三奈子さんは、絶世の美女というわけではないが、十分に綺麗な女性だと思う。スタイルだって、出るところは出ているし、引っ込むところは引っ込んでいる。水着姿も拝んだし、抱きつかれたりしてスキンシップもあるから分かっている。
 明るくて、確かにちょっとばかり困ったところもあるけれど、許容範囲だろう。加えて、リリアン女学園出身というのも一つのステータスになっていると、安奈さん達は言う。
「この後やるファッションショーだって、実はミスコンも兼ねているのよ。それに選ばれているっていうことでも、分かるでしょう?」
「ミスコン……」
 もしも三奈子さんがミスコンに選ばれるようなことがあれば、学内での知名度は確実に急上昇する。今まで三奈子さんのことを知らなかった男たちも、知るようになるだろう。
 なんだか、ちょっとばかり面白くなかった。
「大丈夫、おねーさんたちはユーキくんの味方だから」
「そうそう、いい作戦があるのよ。三奈子のやつを、ちょっと慌てさせてやろってね」
「……ふふ」
 三人の女子大生が不敵に笑う。
 祐麒はただ、蛇に睨まれた蛙のごとく、逆らうことも出来ずに唯々諾々と従うしかできなかった。

 

 ファッションショーは大きな盛り上がりを見せていた。ウェイトレスなどというから、怪しげなコスプレショーみたいなものになるのかと思ったが、単に制服を身につけているだけでなく、飾りやアクセサリーでインパクトをつけたり、制服にもアレンジを加えたりと、ファッションとして見られるものにもなっていて、色物的要素は意外と少なかった。
 そして、三奈子さん。
 スタイルの良さが際立って見えるチャイナドレス姿が、ステージの上でも見事に様になっている。深いスリットから、ちらちら見える太腿、そして浮かび上がる健康的だけど官能的なボディラインに、観衆の男達の目が集中しているのが嫌でも分かる。
 綺麗な人は何人かいた。
 でも、生命力に満ちた輝きを最も放っているのは三奈子さんだったと思うのは、単なる贔屓目だろうか。
 やがて、全てのモデルが出番を終え、最後に全員がステージの上に並んで立つと、まさに壮観であった。
 袴をはいた和服系から、ワンピース、ジャンパースカート、メイド系と、様々な制服に身を包んだ女性が一列に並ぶ。中には、祐麒も見たことのある制服もあった。

 結果発表で、三奈子さんはなんと、準優勝に選ばれた。
 表彰式でも、にこやかな笑顔で記念品を受け取っている。そして、司会者のマイクが三奈子さんに向けられた。
『――今の気持ちを、どなたに伝えたいですか?』
 定番ともいえる質問に、三奈子さんの顔が会場に向く。誰かを探すかのように、視線が観衆の上を滑ってゆく。
 その視線が定まる直前に、安奈さん達は動いた。
 いきなり、腕に抱きついてきて、それなりにボリュームのある胸を押し付けてくる安奈さん。
 背後からは、長身の雅さんが祐麒を抱きかかえるかのように首に腕をまわしてきて、耳元に息を吹きかける。
 さらに安奈さんの反対側の腕に、蘭子さんが腕をからめてくる。
「ちょ、ちょっと皆さん、や、やりすぎなんじゃ?」
 祐麒自身、顔が真っ赤になっているのが容易に想像つく。体の至るところに押し付けられている三人の体の感触に、色々とヤバくなってくる。
 そう、安奈さん達の作戦は至って単純。三奈子さんの見ている前で、イチャついてみせようというものだった。
「いいじゃない、これくらいやらないと三奈は気づかないわよ」
「ふふ……興奮しているのね」
「うわぁああっ?! み、雅さん、変なトコ触んないでくださいっ!」
「何々、みやったらどこ触ったの?」
「ちょっと、安奈さんやめて下さいってば!」
 安奈さんの腕を振りほどく。
 と。
「きゃっ?!」
「えっ?」
 安奈さんの腕から逃れた手が、振りほどいた勢いで蘭子さんの方に向かい、そのまま蘭子さんの腰に手を回し、抱き寄せる格好となった。小柄な蘭子さんは、すっぽり祐麒の胸に入るような感じだ。
「……なかなか大胆ね」
「なに、実はラン狙いだったの、ユーキくん」
「違いますよっ! すすすすみません、蘭子さんっ」
「い、いいから離して……っ」
 真っ赤になっている蘭子さん。
「いいじゃんいいじゃん、ランだって、そろそろ男を覚えたほうがいいよ」
 背後から雅さんが祐麒と蘭子さんの体を抑え、安奈さんは囃し立てる。もはや、当初の目的など忘れ、ただ二人のことで遊んでいるようにしか見えない。
 そんな風に四人でもつれあっていると。

『な、ナニやってるのよ祐麒くんっ?!』

 スピーカーから、耳をつんざくような大音量が発せられた。ハウリングを伴って放たれた騒音に、皆耳をおさえる。
 ステージの上では、マイクを握り締めた三奈子さんが、祐麒たちのことを見下ろすように仁王立ちしていた。
『安奈たちを侍らせて、いやらしいわねっ』
 観衆の注目が、祐麒たち四人に向けられる。
 誤解だと言おうとしても、傍から見れば一人の女性を抱きしめ、一人の女性に背後から抱きしめられ、一人の女性が腕に絡みついているこの状況、女たらしと見られても致し方ないと思われた。
「いや、違うって三奈子さん! これは……っ」
『本当に祐麒くんってば、エッチが好きなんだからっ!!』
「――――――っ?!!!」
 聞く人が聞いたら、というか、聞いた人間は確実に勘違いするようなことを、大声で口走る三奈子さん。「おおーっ」とどよめき、様々な意味を込めた視線を三奈子さんや、祐麒たちに向けてくる観衆。
『天誅よ!!』
 言うやいなや、手にしていたマイクを投げ捨てたかと思うと、三奈子さんは走り出した。勢いよく助走をつけ、驚いている祐麒を尻目にステージの端を蹴り、跳んだ。
 まさに、見事な跳躍としか言いようがなかった。
 ポニーテールがなびき、チャイナドレスの裾が翻る。艶めかしい脚が露わになり、更に下に隠されていたピンクの下着が目に入る。
 そして、それが意識を失う前に見た、最後の光景だった。
 次の瞬間、三奈子の膝が見事なまでにクリティカルヒットし、祐麒はそのまま気絶してしまったのであった。

 

 気が付くと、いつの間にか周囲は随分と暗くなっていた。完全に陽が落ちたというわけではないけれど、空には星も見えている。
「あ、気がついた?」
「うわっ」
 突然、空をバックに三奈子さんの顔が現れた。驚いて身を起こそうとすると、頭に鈍い痛みがはしった。
「駄目だよ、まだ無理して動いちゃ」
 やんわりと、動きをおさえられる。
 三奈子さんの手が、優しく髪の毛を撫でる。
 そこでようやく、三奈子さんの膝枕で寝ていることに気がついた。
「ごめんね、痛かったでしょう。でも、祐麒くんがいけないんだからね。聞いたよ、私が準優勝したから、私がどこか離れていっちゃうんじゃないかって不安になって、安奈達に甘えちゃったんだって?」
「―――はぁ?」
 どうやら、祐麒が気を失っている間に、首謀者である三人は全てを祐麒に押し付けて逃げてしまったらしい。しかも、三奈子さんは信じてしまっているらしい。違った意味で、頭痛が襲ってきそうだった。
「バカだねぇ、祐麒くんは」
 言いながら頭を撫で続ける三奈子さんの顔は、なぜか嬉しそうに見えた。
 そんな三奈子さんを見ているのが無性に恥しくて照れくさくて、祐麒はなかば強引に体を起こして立ち上がった。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「もう、平気ですって」
 まだわずかに鈍痛が残っていたものの、我慢出来ないほどではない。
 周囲を見渡すと、人の姿は随分とまばらになっていたが、学園祭自体はまだ終わったわけではないだろう。証拠に、少し離れたところからは賑やかな音楽と、人の喧騒が伝わってきている。
「ああ、ちょうどね、後夜祭が始まったんだよ」
 祐麒の様子に気がついた三奈子さんが、説明してくれる。
 当たり前だが、三奈子さんは既に私服に着替えていた。
 小花柄をプリントしたチュニックに、インナーにはカットソー。ハーフジーンズをあわせ、可愛らしくも活動的なスタイルで三奈子さんにはよく似合っていた。チャイナドレスも良いけれど、いつもの自然体の方が個人的には好きだと思う……口には出せないが。
「せっかくだから、行ってみようか。花火とかもあるらしいよ」
 伸ばされた手を、ごく自然に取る。
 二人並んで歩き、後夜祭会場を目指す。一歩進むたびに、奏でられているメロディーや人の声が大きくなっていく。騒がしくも楽しい雰囲気が近づいてくる。
「ね、祐麒くん。本当に、私がどっかいっちゃうー、って思ったの?」
 無邪気な顔して、三奈子さんは聞いてくる。
 実は全然異なる裏事情があったのだが、果たして本当のことを言うべきか言わざるべきか迷っていると、三奈子さんは勘違いをしたらしく、手をつないだまま祐麒の前に立ち、首を傾け。
「ばっかねー、そんなことあるわけないじゃない。そんな心配しなくたって、大丈夫だってば」
 と、ことさらに明るく口を開いた。
 同時に。
 夜空に打ち上がる花火。
「うわーっ、凄い! 綺麗!」
 大輪の華を咲かせ、雨の滴のように流れ落ち、雪のように儚く消えてゆく。
「ほらほら、早く行こうよっ」
 夜空の花火よりも、花開いた笑顔。
 はしゃぐ三奈子さんを見て。

 祐麒は三奈子さんを握る手に、わずかに力を入れたのであった。

 

 ちなみに。
『準ミスと三人の愛人を侍らすエロ魔人・ユウキ』などという、大学内で謎の人物として学園伝説になることなど、祐麒は知る由もなかった。

 

おしまい

 

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