無事に卒業式を終え、花寺ともとうとう別れを迎えることになった。それなりに感慨はあるけれど、泣くほどのことではない。むしろ、新たな生活に向けて心が躍る。受験に失敗した人には申し訳ないが、祐麒自身は希望の大学に受かって、四月からの大学が楽しみである。
「ユキチの場合、他にも理由があるだろうが、え?」
小林が、肘で脇腹を押してきた。
「彼女と同じ大学を選ぶなんて、まあ、それも悪くないけどな」
言い返したいところではあったが、言い返すべき材料が特に見当たらなかった。三奈子と正式に付き合っているかと言われると、首を横に振るのだろうが、今となっては花寺内でも公然の仲として取り扱われてしまっている。それに、確かに三奈子がいるから、という理由もあったわけだから。
「今日もどうせ、正門のところで待っていてくれるんじゃないのか?」
「別に、そんな約束はしていない」
事実、三奈子と約束をして正門で落ち合ったことなど、ないのだ。そんな目立つことはしたくなかったし、今までは全て、三奈子の方が自発的に訪れてきていたことである。
果たして今日はどうか。卒業式であるということは当然知っているから、確かに迎えに来ている可能性も低くはないだろう。しかし、今のところ携帯電話にメールも、呼び出しもかかってはいなかった。もちろん、今までも特に連絡などなく来ていたのだから、なんの根拠にもなりはしないが。
「今日の卒業パーティもさぼる気か?」
「いや、出るって」
夕方からクラスの仲間たちと、お好み焼き屋で卒業パーティを行うことになっている。今後、同窓会などはあるかもしれないが、高校生として皆と集まるのは今日が最後になるかもしれない。
もっとも、三奈子とのことをネタに、どれだけいじられるだろうかと想像すると、少しばかり行く気が減るのも事実ではあったが。
教室で、クラスメイト達や担任と最後の挨拶を済ませ、小林、アリス、高田と連れ立って歩いて外へと向かう。こうして並んで学校を歩くのも最後かと思うと、さすがに胸にぐっとくるものがある。
「おー、結構、来ているな」
小林の声に視線を巡らせてみると、正門から出たところで数人の女の子の姿が見えた。どうやら彼氏か何かが出てくるのを待っているようで、中にはリリアンの制服を着ている子もいた。ぱっと見て、三奈子の姿が見当たらないことに、どこか残念だという気持ちが自然にわきあがる。
「三奈子さん、来てないの?」
「だから、約束なんかしていないって言ってるだろ」
大体、卒業式には親だって出席していた。さすがに祐麒の帰りを待っているなんてことはしていないが、三奈子のことをもし知られたらと思うと、なんか恥ずかしい。だから、いなくて良かったのだと思うことにする。
「絶対、三奈子さん来ていると思ったのに。なんだよ、喧嘩でもしたのか」
「だから、なんでそうなるんだっての」
こんな会話ですら、最後になるかもしれない。皆が自然とそれを感じていたのか、ゆっくりとした足取りで、くだらないことを喋りながら進んでゆく。
一年の時の出会い、生徒会活動のこと、学校行事、修学旅行、リリアン女学園の学園祭のこと。数えきれないような思い出があるはずなのに、実際に口を出るのは全く違うことばかり。
そうこうしているうちに、駅に出た。
「どうする? このまま時間潰すのも手だけど」
パーティまで時間があるとはいえ、家に帰るのも面倒くさい。女子がいる集まりでもないし、わざわざ帰って私服に着替える必要性もない。健全なパーティでアルコールはご法度(当り前だが)なので、学生服で店に入っても全く問題はないのだ。 結局、いつも通りゲームセンターにでも行って時間を潰すかと、ふらふらと歩きだす。もう少しでゲームセンターに到着する、というところまで来て、祐麒の携帯電話が鳴り出した。そして、電話に出るなり。
『あ、祐麒くん今どこ? 卒業式、終わっちゃった? うあー、失敗したー』
という三奈子の声が、近くにいる三人にも聞こえるような大きさで、耳に飛び込んできた。わずかに電話を耳から離し、顔をしかめながら聞き返す。
「どうしたんですか? 俺は今から友達とゲームセンターに……」
『あ、ひょっとしてあそこのゲームセンター? ラッキー、すぐ近くにいるから、あとちょっとしたら行くね。それじゃ』
祐麒が口を開く暇もなく、勝手に一人で決めて電話は切れてしまった。今の勢いでは、たとえ何を言っても無駄だろうし、口調的に本当に近くにいそうだから、かけなおしても無駄だと悟り、さっさと携帯電話をポケットにしまう。
「なんだよー、やっぱり三奈子さんと約束か? 俺ら、消えようか?」
「変な気をつかうな。ってか、だから俺は」 また繰り返される会話。
そんなことを店の前で五分ほど話していると、
「――よっ! お待たせ祐麒くん、と、お友達」
「うわっ、びっくりした!」
思いがけず背後から大きな声をかけられて、図らずも四人ともびっくりしたように体を震わせる。
そういえば、このゲームセンターは反対側にも裏口みたいな出口があったはずで、おそらくそちら側から店内を突っ切って来たのであろう。
振り返ると、楽しそうな三奈子の姿。
ピンクのパーカに花柄のミニスカートと、春らしい装い。足元はウエスタンブーツできめている。
「みんな、卒業おめでとう。でもすごいね、全員が浪人せずに合格でしょ」
高田とアリスは推薦で早々と大学が決まっていた。そして、小林と祐麒も無事に大学に合格することができた。クラスメイトには浪人する者もそれなりの人数がいただけに、仲間がみんな、現役合格というのはたいしたものかもしれない。
四人それぞれ、なんとなくお互いの顔を見て照れくさそうに笑う。
「ま、もっとも、超・第一志望の大学に入ったユキチにはかないませんけれどね」
「ホント、ほんと」
「…………」
小林の言葉に追随するアリスに、無言でうなずく高田。友人たちにからかわれて、祐麒は一人、ふてくされつつも頬が赤い。
「??」
一人、首を傾げる三奈子。
「なに、わけわかんないこと言ってんだよ。それよか三奈子さん、今日は?」
「ん、せっかくの卒業式だからね」
そう言って、後ろでまとめた髪の毛を揺らす。
小林が、「やっぱりな」とでも言うように、肘で脇腹をつついてくる。
「あー、でも三奈子さん。俺達このあと、クラスの卒業パーティがあるから」
「なんだよユキチ、三奈子さんを放っとく気か?」
「あー、いいのいいの、小林君」
小林と軽く小競り合い(もちろん、お互いに本気ではない)が始まりかけたところで、三奈子の方が笑いながら手をひらひらと振って待ったをかける。
「卒業記念だもんね、友達と遊ぶのも大切だよ。私は単に、みんなにおめでとう、って言いに来ただけだから」
気にするなということらしい。そう言われてしまうと、なんとなく罪悪感を覚えてしまうのは、なぜだろうか。実際、約束をしていたわけではないし、卒業パーティに行くことも前から分かっていたことだし、変なところなどないはずなのに。
「それじゃあ三奈子さん、時間まで俺らと一緒に遊んでいきません? 俺達ゲーセンで遊ぶ予定だったんですけれど、カラオケでもビリヤードでも何でもいいっすよ」
調子よく、小林が誘いをかけると、三奈子も素直に頷いた。
結局、パーティの開始時間三十分前まで、五人で色々と遊びまくっていたのであった。
「いやー、やっぱりユキチは羨ましいよ。三奈子さん、可愛いよなー」
「え、三奈子さんって、福沢の彼女の?」
「そう。実は今日さ、ここに来る前に会って、一緒に遊んだんだけどさ」
お好み焼き屋での卒業パーティ、一緒のテーブルになった小林の一言に、他のメンバーたちも、ここぞとばかりに色々と尋ねてくる。
小林たち以外の皆は、三奈子の姿は見かけたことはあっても、実際に話をしているわけではないので、どのような人物かはよく知っていない。祐麒自身も話す気なんて起きなかったし、聞かれても曖昧にしか答えなかったので、三奈子の人物像は結構謎に思われているようだった。
しかし、今日がひょっとしたらクラスの仲間たちと会うのも最後になるかもしれないということで、今日は絶対に聞き出してやろうという気合いが伝わってくる。見れば、他のテーブルからも何人かやって来ていたりする。
そしてなぜか、小林が熱弁をふるっている。
リリアン女学園の卒業生で、祐麒たちの一学年上だということは、皆も知っている。気さくで話しやすいところ、笑顔が素敵なところ、近くで見てスタイルが良いこと、今日のゲームセンターでは子供のようにはしゃいでいたこと、祐麒とラブラブなところ。
途中、色々と突っ込んだり、口をはさんだりしたかったが、何か言おうとすると邪魔をするなと防がれる始末。
「見た目スレンダーだけど、いや正直、胸もかなり大きいと思う。夏にそう思った」
「どうなんだよユキチー? じ、実際には」
「実際って、そりゃ……」
夏のプールで見た水着姿、そして抱きついてきたときに押し付けられる感触、三奈子のバストが豊かであることはそりゃ、否定しないが。
「あ、赤くなってやがる。ちぇー、いいなあ」
「ってゆーかお前ら、イヤらしい目で三奈子さんのこと見るな、想像するな!」
正直、腹が立つというか。
年頃の男どもだから、可愛い、綺麗な女の人を見たら、ちょっとくらいエッチな想像をしてしまうのは仕方ないことなのかもしれないが。こうして、他の男から三奈子のことをそうゆう風に口にされるのを耳にすると、良い気分はしない。むしろ、腹立ちすら覚えてくる。
確かに三奈子は綺麗だし、それでいて可愛いし、スタイルだっていいし、噂になるのはある程度は仕方ないことなのだろう。むしろ、そうやって褒められているのを聞くのは、悪い気はしない。しかし、三奈子をネタにして下品な想像に持っていかれるのは、まるで三奈子自身を汚されたように感じられて、聞いているのも苦痛になる。
アルコールが入っているわけではないが、テンションが高くなってきているのか、かなり踏み込んだ話にまで及んでくる。
「な、福沢。当然、三奈子さんとは……しているんだろ?」
「うおー、羨ましいな。あの体を独り占めできるのかと思うと」
「やっぱりさ、気持ちいいか? そりゃそうだよなー、くそ、いいな」
「あの人、エッチそうな体つきしているもんなぁ」
誰も彼もが、知りもしないのに色々なことを言ってくる。祐麒自身のことを言うのはいい、だが三奈子のことを勝手に想像で言われるのは我慢ができなかった。
「――おまえらな、いい加減にしろよ?」
我知らず立ち上がり、口を開いていた。
「俺の三奈子さんを変な想像で勝手に汚すなっ!」
そう、叫んでいた。
言った直後、静まり返る級友たち。そして店内。皆の目が、視線が、顔が祐麒の方に向けられ、やがて。
「……『俺の』だって」
「出ましたーっ、『俺のもの』宣言―――っ!」
「うをーっ、熱い、熱すぎるね生徒会長っ!」
途端に、先ほどを軽く倍は凌駕するような大音量、歓声が店内に響き渡った。貸切だからこそ出来る大騒ぎ。
そして祐麒は、自身の発言と周囲からの冷やかしに、顔を真っ赤にしてテーブルに突っ伏すのであった。
狂乱の如き卒業パーティも無事に終了した。酒を飲んでいるわけでもないのに、あそこまで馬鹿騒ぎをすることが出来るのは、若さゆえの特権なのだろうか。
そのまま二次会に突入するメンバーが多い中、祐麒は逃げるようにして去っていた。
「わかった、三奈子さんに会いに行くんだろ?」
「おー、羨ましいねーこのっ!」
「うるせー、そんなんじゃねーよ」
背中にかけられる声に、憎まれ口で応じる。
皆と過ごす時間は楽しいが、さすがに自分ばかりネタにされると、勘弁して欲しい、という気にもなってくるし、やはり三奈子のことを変に曲解されて言われるのはいい気がしなかった。ムキになって訂正しようとするほど、逆に泥沼にはまっていくことも分かったので、退散するのが吉だと考えたのだ。
すっかり暗くなった空の下、まだ明るい街の中を歩いてゆく。パーティの途中で携帯電話に届いたメールを確認する。
" 卒業おめでとう! 大学に入ってもよろしくね。また明日、連絡するからね! "
三奈子からのものだった。
出会ってから一年半が過ぎ、大学も同じところに決まり、今以上に一緒にいる時間が増えそうだけれど、いまだにキスすらしていない清い関係。不思議とそれでも不満はない、とゆうか明確な恋人同士でないからそれが普通なのか。周囲からは完全に付き合っていると思われているし、確かに思われても仕方ないくらいの距離なのに、その距離はいつまでたっても近づかない。
自分が一歩を踏み出していないからだというのは分かっている。だけど、今までずっと仲良くやってきて、一緒にいるのもすごく普通で、いまさらっていう気もするし、何か動いて今までの関係が崩れ去ってしまうのが怖くて。結局、現状のぬるま湯にいることが一番気持ち良くて、抜け出すことができない、抜け出そうとしない。
十分に幸せなんだから、これ以上に何を望むのか、なんて考えてしまったりもして。
休日に一緒に遊びに出かけることが普通になっている。電話をして、メールを一日に何度もやり取りするのが普通になっている。それなのに、いつ三奈子と顔を合わせても、胸がドキドキしてたまらない。
なし崩し的に始まった二人の関係だから、境界があいまいになってしまったのだろうか。
恋愛経験値がゼロに等しかった祐麒にとって、理解するのは困難だった。理解しよう、なんて頭で理詰めに考えようとしている時点で誤っていることにも、気づくことができない。
後になって考えてみれば、自分は何て馬鹿なんだろうと吐き捨てたくなるが、今という時間を歩いている祐麒は、今を進むことで精一杯の単なる子供でしかなくて。
どんなに行動が滅茶苦茶でも、予測できなくても、子供みたいに笑っていても、祐麒から見れば三奈子はずっと大人っぽく見えて、いつになったら今よりもっと近づくことが出来るのか、分からないのだ。
同じ大学に通えば、二人の距離は消えてゆくのだろうか。それとも、今くらいの距離だからうまくやっていけているのだろうか、そんな詮無いことを考えてしまう自分は阿呆なのか。
一度、変な方向に思考が傾くと、そちらに転がっていってしまう。もっと楽天的に考えることができればよいのにと、大きくため息をつく。
「こらっ、ため息なんかつくなっ!」
するといきなり叱責の声がとんできて、思わず二センチほど飛び上がってしまう。
声がした方に体をくるりと向けると。
「――あれ?」
予想した人物、というか一人しか該当人物はいないが、その人の姿はなかった。まさか、考えすぎて他人の声を聞き間違えたか、はては空耳だったのかと訝しがりかけたその時。
「残念、こっちだー!」
「うぎぃぃっ!?」
腹に猛烈な冷気が押し付けられ、絶叫。
「離してください三奈子さんっ!」
身をよじって冷気を引きはがし、今度こそと振り返ってみれば、得意げな三奈子が指をわきわきと動かして立っていた。
「ふっふっふ、コンビニのアイスコーナーで冷やしこんでいた甲斐があったというものよ」
「いや、甲斐ないですからまったく! てゆうか、なんで三奈子さんがここに?」
相変わらず指を動かしながら、三奈子は肩をすくめる。
「んー、やっぱり昼間は皆一緒だったから、あんまり祐麒くんにお祝いできなかったから」
一度は帰りかけたのだが、なんとなく街をぶらついて、食事して、今に至るとのことらしい。そして卒業パーティの店のことは聞いていたから、ひょっとしたらと思って近くをうろついていたら、まさに祐麒の姿を見つけたとのこと。
「俺を見かけなかったら、どうするつもりだったんですか」
「あと少し歩いてなにもなかったら、帰るつもりだったよ。友達と大騒ぎするのも大切だしね」
まあでも見つけちゃってラッキーラッキー、なんて言っている三奈子。
「でも、だからってわざわざフェイントかけて、冷え切った手を腹に入れないでくださいよ……」
「だって、いきなり暗くため息なんてついているんだもん。何かあったの?」
「別に……」
三奈子のことを色々と考えていて、つい出てしまったなんて、気恥ずかしくて口に出せるわけもない。
口をつぐんでしまった祐麒の様子を見て三奈子は首を傾げ、やがて。
「よーし、そんじゃこれからどこか遊びに行こうか。卒業記念にご馳走してあげるよ」
「昼間、あれだけ遊んだのに」
「でもほら、祐麒くんと二人で遊ぶのは、特別だから」
その言葉に、淡くはにかんだ表情に、胸を鷲掴みにされる。
三奈子自身は何とも思っていないのか、それとも分かっているけれど表面には出ないのか、いつもと変わりない様子で祐麒のことを見ている。
「ほらほら、ぼーっとしていないで行こうよ。飲みに連れてってあげようかとも思ったけれど、学生服じゃ無理だもんね。どうする、やっぱカラオケ? あ、甘いものを食べにいくのでもいいけれど。今の時間ならまだ開いている美味しいお店、知ってるから」
ごく自然に、祐麒の腕に自らの腕を絡ませてくる。
言葉とともに吐き出される息が、頬で感じられる。
いつもそうだ、こうやって三奈子は、祐麒が一人で思い悩んだり、ぐずぐずしたり、ためらっている距離をあっという間に埋めてしまう。時に自然に、時に強引に、祐麒の懐に簡単に入ってきてしまうのだ。
きっと後は、祐麒が一歩を踏み出せばいいだけのはず。
分かって、いるのだけれど。
「――おりょ?」
三奈子が目を丸くして、目線を下ろす。
祐麒は腕に絡んでいた三奈子の手をほどき、かわりに、その冷えた細い手を握っていた。
「……三奈子さん、手、冷たいから」
包み込んだ手の平から、冷気を吸い取る。
「ありがと。いつもあったかいね、祐麒くんは」
それは、違う。
いつも暖かく、包み込んでくれるのは三奈子だった。祐麒がせいぜいできるのは、こうして手を握ってあげることくらい。
だけど、こうして手をつなぐことが、一歩といかなくても、半歩、いや四分の一歩にでもなるならば、意味があるのではないかと思う。
「ねえねえ、この春休みにでもどっか旅行に行かないかって安奈たちと話しているんだけれど、無事に大学も受かったことだし祐麒くんもどう?」
「でも、俺なんかが同行しちゃ、変でしょう」
「そんなことないよー、みんな、後輩がくるのを楽しみにしているよー」
色々と話してくれる大学のこと、友人のこと、講義のこと、聞いているだけで楽しみになってくるのは、三奈子の話術のおかげか、それとも。
繋がれた手の指先から感じられる、温かな波動のせいか。
この手を離したくないとごく自然に思い、意識的に強めに柔らかな手を握ると。
『大丈夫だよ、離れそうになったって、私がちゃんと掴んでいてあげるから』
まるでそう応えるかのように、小さな手は握り返してくるのであった。
おしまい