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ギャグ・その他 マリア様がみてる

【マリみてSS(色々・ネタ)】小ネタ集14 ノーマルCPショート5

更新日:

 

<1>

スタジオでの写真撮影は、当初想定していた以上に難航していた。
何せ、モデルが気まぐれで、途中で気分を害してしまって、なかなか撮り進めることができなかったのだ。
かといって、また別の日に、なんていうわけにもいかず、とにかくどうにかこうにかして撮影をするしかない。
もちろん、妥協するつもりなんてないわけで、どんどんと時間は過ぎていく。時間は夜遅くなっていく。
さすがに疲れてちょっと休憩中、切っていた携帯電話の電源を入れてみると同時に、着信が入る。
「……もしもし?」
まあ、何を言われるのかは分かっているけれど、出ないわけにもいかない。疲れを悟らせないように声を出す。
「あー、うん、ごめん。まだ終わりそうにない……また、埋め合わせはするから」
スタジオの隅に歩き、声をひそませる。電話の向こうから、こちらの状況を尋ねてくる声。頭をかく。
「仕方ないじゃない、仕事をいい加減にすませるわけにはいかないの。分かっているでしょう? だからぁ」
前から約束していたし、気持も分からないではないけれど、蔦子自身も疲労しているのでどうしても口調が荒くなる。
向こうも蔦子の状況は分かっているだろうけれど、それでもどうしても声に非難の色が出てしまう。
普段なら流せるところなのだが、疲れと、撮影がうまくいかない苛立ちで、つい蔦子も言い返してしまう。
「ああもう、ごめんって謝っているじゃない。大体、そんなの前から分かっていたでしょう、こっちの仕事については」
「そんなに文句言うなら、私なんかと付き合わなければよかったじゃない、前からそう言っていたでしょう」
「だから、そうじゃないっていうのに……ああ、ちょっと待って」
後ろからおそるおそる後輩の子が近づいてきたのに気づき、携帯電話から一度耳を離す。
「あのぅ、蔦子さん。そろそろ再開を」
「うん、ごめん、すぐ終わらせるから」と、安心させるように言う。
「あのー、大丈夫なんですか? 彼氏さんですよね……余計なお世話かと思いますけれど」小さな声で訊いてくる。
「大丈夫、大丈夫」と、笑って安心させようとするが、不安そうに見ている。良い子である。
「……と、ごめん、ごめん。で、そんなわけだから……あーもう、また蒸し返す? いい加減にして、もう切るからね」
と、言いきってから、一呼吸あけて。
「……とにかく祐麒、あなたさえ我慢してくれるなら……少なくとも私は愛しているから。じゃね」
さくっと電話を切り、電源も切って仕事モードに。気分を切り替え、言い仕事をしてしまおう。
「なんか、凄いですね」見れば、後輩の女の子がほんのりと頬を赤らめて蔦子を見ていた。
「まあ、向こうの方が私にぞっこんだからね、殺し文句ってやつ? ま、それでも埋め合わせにご褒美くらいあげないとね……」
後輩の女の子に、意味ありげなウィンクをする蔦子であった。

 

<2>

大学に入っての長い夏休み、基本的に祐麒はバイトに明け暮れていた。
「祐麒もさ、彼女と一緒にどこか遊びにいくとかないの? さみしい夏休みね」
「そういう祐巳の方こそ、いつまでたっても彼氏なんかできそうもないよな。おんなじじゃないか」
家で、そんな風に祐巳と言い合ったりして。そんなある日、祐巳が嬉しそうにやってきて訊いてきた。
「ねえ祐麒、これ見て、リゾートホテルのプールの招待券! ねえねえ、一緒に行かない?」
と。

一緒にいく彼氏、彼女もいなく、券は二枚しかないため由乃や志摩子は誘いづらい。祥子は都合が合わない。
そんなわけで仕方なく、祐麒を誘ってあげたということらしい。色々文句は言いたかったが、招待券は魅力的だった。
大人しく姉に従い、こうして今日、ホテルのプールへとやってきたわけなのだが、初めてみる豪華なプールにちょっとびっくり。
そして何よりそれ以上に。
「ほら祐麒、あっちのプールにいってみようよ」
と、少し興奮したような口調の祐巳が、祐麒の腕を取る。腕に押し付けられる、祐巳の胸のふくらみ。
大学生になった祐巳は、随分と大人っぽくなっていた。大きいというほどではないが確かなふくらみは弾力に富んでいる。
フリルのついたカラフルなチェックのホルター水着に包んだ体は、適度に細く、適度に柔らかく、適度にしなやかで。
高校時代はおなじみだったツインテールはさすがにやめて、ストレートにした髪型とあいまって大人っぽく見える。
馬鹿な、相手は姉だぞと思いつつも、つい胸の谷間や、腰のくびれや、太腿や、うなじに目がいってしまう。
プールに入って濡れ、水滴の滴る肌を見ていると、変な気持ちになってくる。
「ほら祐麒、どこ見てるのよ、えいっ!」
と、ふざけるようにして祐巳が飛びかかってきた。慌てつつも祐麒は正面から祐巳を抱きとめる。細い腰、背中に腕をまわす。
胸がおしつけられる。祐巳の顔が目の前にある。なめらかなカーブを描く胸の膨らみに光る水滴。
「祐巳……お前って、綺麗だな……」
「え……ゆ、祐麒……」ほんのりと、祐巳の頬も赤くなっていく。
「いや、今のは、その、なんだ、えー」焦る。言葉が続かない。祐麒も負けず劣らず赤くなっていることだろう。
夏のある一日。それは、何かが変わった一日だった。

 

<3>

高校生になったとき、自分は将来、何かを書く仕事につきたいと思っていたし、そうなると思っていた。
だから私は、今の自分の姿を、ときおり不思議だと思ってしまう。でも、決して後悔なんてしていない。だって。
「真美さん、これお願い」
「はいっ」と、出来上がったスィーツのお皿を手に、お客様のもとへと運んで行く。
私は今、ケーキ屋で働いていた。それも、祐麒さんと一緒に。
大学に入った祐麒さんは、いつしか夜間制の製菓の専門学校に通い、見事に資格を取得した。
それだけでなく、大学三年の時には一年間、海外へ留学するくらいの真剣さ。おかげでその一年間は非常にさみしい毎日だったわけだが。
それでも夢に向かって真剣に頑張っているわけだし、応援していた。
帰国した祐麒さんは大学を卒業すると、パティシエとして就職した。そして先に卒業していた私もまた、その店で働くようになった。
祐麒さんは店が終わった後も翌日の仕込みと、そして自身の腕を磨くことに余念がない。
「あの、あんまり頑張りすぎないでくださいね。体の方が大事ですから」ちょっと心配になって、声をかける。
「うん、でもやっぱり、お菓子の味で人気になって人を呼びたいからね。今は、真美さんのおかげだし」
「そ、そんな……」カーッと、顔が熱くなる。
それというのも、とある雑誌のスイーツ特集で、なぜか噂の可愛い看板娘、みたいなコーナーで私が載ってしまったのだ。
それ以来、信じられないことに、お店には私を目当てとするお客さんも、結構な数で訪れてきている。
「ご、ごめんなさい」自分が悪いわけではないだろうけれど、つい、そんな風に謝ってしまう。
「俺の腕が足りないだけだし。それに俺が嫌なのは、真美さんが他の男から人気があるところかな。嫉妬しちゃう」
「そんな。わ、わ、わ、私は、祐麒さんだけのものですっ」
自分で言いながら、恥ずかしくなってしまう。照れ隠しをするように、クリームの絞り器を手でいじっていると。
「ふゃあんっ」クリームがなぜか飛び出して、ほっぺとかおでことかにくっついてしまった。すると。
祐麒さんがすっと私の顔を引きよせ、クリームをぺろりと舐めとる。途端に体に力が入らなくなる。
「真美さんは、どんなスイーツよりも甘くて、美味しいですね。あんまり俺を惑わせないでくださいよ」
「そんな……で、でも、私を食べていいのは、祐麒さんだけですから」
その一言に。目の前の祐麒さんが鼻血を噴き出した。
「ゆゆっ、祐麒さんっ!?」
「だ、大丈夫、ちょっと、あまりに刺激的な……」
一体、祐麒さんは何を想像したのだろう。だけど、先ほどのことは本当のこと。

 

<4>

私は男なんて大嫌い。男なんて信じていない。
同級生の女の子達は恋愛に騒ぎたて、男相手にあーしたこーしたと、その手の話に事欠かない。いつもそんなことばかり。
私はそんな話に興味もないし、したくもないから、その手の話題となったらすぐに離れる。
だってそうでしょう。なんでみんな、そんなに男とつきあいたいとか、Hなことしたいとか平気で言えるのか。信じられない。
……え、この前、私を見た? 男と一緒に歩いているところ? ま、まさか、そんなことあるはず……え、スーパーで買い物?
ああ、あれ。あれは、別にそういうのじゃないから。だって祐麒ときたら、一人じゃ何もできないから、仕方なく。
そう、仕方なく私が料理とか、掃除とか、世話をしてあげているだけ。一人だったらきっと、酷い状態になっているもの。
本当、情けない。私より年上なんだからしっかりしてもらいたいものよね……。
スーパーの帰りに、レンタルビデオ屋に入ったのを見た? ちょ、ちょっとあなた、ストーカーじゃないでしょうね。
別に、祐麒が何か観たいっていうから、入っただけよ。うん、借りたのは確か『ないとミュージアム』と『ショーシャンクの空に』
その日の夜、観たけれど。一緒に? そんな、せっかく借りたんだし、観ないと損だと思っただけよ。
え、帰りに途中で私が別行動した? そうだったかしら。もう、そんなのよく覚えていないけれど。
は? ひ、避妊具を買っていた? ばばば、馬鹿なこといわないでちょうだい、なんで私が、そんなものを。
違う違う、そんなんじゃないってば。何かの見間違いじゃないかしら?
全く、変な言いがかりをつけないでちょうだい……ん? そうそう、ゼリーたっぷりタイプで滑らかに……
っててててっ、なっ、何を言わせるのよっ!? ち、違うわよ、使ってなんかいないわよ!
だって前に買ったやつがまだ二つ残っていたから、その日はそっちの方を使って…………!!
ち、違うわよ、ほら、使うのはアイツの方だし、私が相手だなんて、そんなこと、あるわけが、ねえ?
え、じゃあ別の女の子相手に使った……そ、そんなことあるわけないじゃない!
もしもそんなことしていたら祐麒、見ていなさいよ、ギッタンギッタンにして……し、嫉妬? 何言っているのよ!
私は……そう、しつけ! そんな酷い男にはしつけをしておかないといけないと思って。ええ、そういうこと。
は、何よ、瞳子さん。え? 「可南子さん、もう素直になったら……?」な、何を素直になれっていうのよ。
だから言っているでしょう、祐麒は別にそ、そんなんじゃないんだからっ。

 

<5>

大学に入り、学生生活を謳歌している祐麒。私生活的にも満足しているのだが、ちょっと困っていることもある。それは。
「祐麒さん。昨日、志摩子とは何を話していたのですか?」
「え? ああ、今度の大学祭の交流の件で、少し。ほら、志摩子さんも委員の一人でしょう」
「そう……由乃ちゃんとも随分と楽しそうにお話していましたね」
「ああ、あの、由乃さんは同じ野球チームが好きで、つい、その話で盛り上がっちゃって」
「それに、真美ちゃんとも親しげに会話を」
「あれは、新聞部の取材ということで、別に親しげにというか……」
「もう、結構です。祐麒さん、あなたは少し、身を慎まれた方がよいかと。あれでは八方美人にうつってしまいます」
目の前の彼女は、眉をつりあげ、口を尖らせて怒っている。怒っているのは分かるのだが。
「だ、大体ですね、祐麒さんはご自身の身分を分かっているのですか? あなたは、その、わ、わたくしの……」
言いかけて、顔を赤くする。そして、横を向いて。
「この、小笠原祥子の、こ、婚約者、なんですよ?」
「は、はい……その、嬉しいです」
「ならばなぜ、他の女の子と親しくするのです。これは、私に対する裏切りではないですか」
どうも、祥子は独占欲が強く、焼きもちやきなのである。それだけ、祐麒のことを想ってくれていると考えればよいのか。
ただ、ちょっと女の子と話しているところを見られているだけで、こんな風に拗ねてしまうというのがたまにきず。
そんな祥子も可愛い、なんて思ってしまうのは、祥子には内緒だが。
「あの、大丈夫です。俺は、祥子さん一筋ですから。絶対に」不安にさせたままにはしてられない。
祐麒の言葉を聞いて、真っ赤になる祥子。ここはチャンスかと、そっと顔を近づけていこうとして。
「だ、駄目です祐麒さんっ。わ、私達まだ学生の身で、そのようなこと早すぎますっ」
そしていつものように逃げられる。早すぎるといっても大学生。それなのにキスすら駄目というのはどうなのか。
「えっと……俺って、祥子さんのなんでしたっけ」反撃するように、今度は祐麒からきいてみる。
「は、はい。私は祐麒さんの、ふぃ、ふぃあんしぇ、です」
噛んだ。気づいた祥子も、身を縮こまらせて赤面する。
祐麒の素敵な婚約者は、美人で少しわがままでちょっと世間知らずで、だけどとても可愛い人なのであった。

 

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