書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

ノーマルCP マリア様がみてる 江利子

【マリみてSS(江利子×祐麒)】何処かの中心で何かを叫ぶ

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~ 何処かの中心で何かを叫ぶ ~

 

 梅雨に入る前の、少しじめじめして蒸しっとしていて、それでいながら暑いという程でもないという、中途半端な気候が周囲を覆い尽くしていて、特に何かあるわけでもないのに微妙に不快な感じの季節。
 四月からの大学生活にも慣れてきて、一年生たちも少しずつ大学というものに馴染んで、講義をサボりだしたり、要領よく動き始めたり、遊びに力を入れ出したり、様々だ。
 祐麒自身はといえば、入学した時とさほど変わりはないと思っている。講義には真面目に出席して、きちんとノートも取っている。新しく出来た友人ともほどほどに遊び、飲み会にも適度に顔を出す。サークルにも入会して、まさにごく普通の、これといった特徴のない大学生の一人になっている。
 ――予定であった。
 本来なら、他の学生に紛れて目立つことなどない学生のはずなのだが、現実には、祐麒は大学の中でもそれなりの有名人になってしまっている。
 理由は祐麒自身にあるわけではなく、別にあった。
「祐麒くーんっ」
 上方から声が聞こえた。
 首を捻って探してみると、南校舎の三階にある教室の窓から、一人の女性が手を振ってきていた。
 遠くからでも分かるくらいの、美少女。
 手を振り返すと、嬉しそうな笑顔を見せてくれる。同時に、周囲を歩いている他の学生達の視線が集まってくるのも感じる。好奇、羨望といったものの他に、嫉妬や憎悪の視線を感じるのもいつものこと。
 彼女の名前は鳥居江利子。大学内において、祐麒と江利子は他の学生達公認のカップルである。
 前年度のミス・キャンパスである江利子は男子生徒から絶大の人気を誇っていた。綺麗で、可愛くて、スタイルがよくて、おまけに入学以来、周囲に男の気配がない。清純なお嬢様だけど、それでいて気さくさも持ち合わせている。何人もの男に告白されたが、全て断り、果たしてどんな男が江利子のハートを射止めるのであろうかと思われていたところ、何の変哲もない新入生が江利子の恋人の座についたのだ。そりゃあ、有名にもなろうというもの。
 もっとも祐麒としてみれば、たまったものではない。何せ、本当に恋人同士なのかと問われると、首を傾げてしまうから。
 確かによく一緒にいるし、デートだってするし、部屋の鍵も渡しているし、食事を作ってもらったり、掃除をしてもらったりもしている。だけれども、「好きだ」とか、「付き合ってくれ」とか、そういった告白をお互いにしたことはない。エッチをしたこともなければ、キスだってないような状況。
 ただ江利子の策略(?)にはまり、恋人というポジションを与えられただけのような気がする。
 もちろん、江利子はとても綺麗で、可愛くて、胸だって大きくて、体は柔らかくて、とても魅力的ではある。他の人が羨ましがるのも、分からなくはない。
 しかし。
 江利子を見上げると、ニコニコと可愛らしい笑顔を向けてくれている。祐麒の近くにいる男子学生が、鼻の下をだらしなくのばして江利子に見入っている。「お前に笑いかけているわけじゃねえよ」という嫉妬のような感情と共に、「何も知らない奴は気楽だな」という諦念にも似た思いもわきあがる。
 祐麒は迷いを振り払うように軽く頭を左右にふると、大きく息を吸い、吐き出し、もう一回吸い込んでから。
 右手を上げ、左手を口の横にあててメガホンのようにして。

「――江利ちゃーーーーんっ、愛しているよーーーーっ!!」

 やけくそ気味に叫んだ。
 当然、今まで以上に周囲の注目を集める。それまで特に祐麒のことを気にしていなかった生徒達まで、何事かと立ち止まり、見つめてくる。
 中には殺気だったオーラを放ってくる男子もいる。間違いなく、江利子のファンだろう。「こいつ、いきなり何口走っていやがる」とでも思っているに違いない。江利子のファンは、なぜか体育会系の猛者どもが多いので、殺気立たれると非常に恐ろしいのだが。
 祐麒の突然の愛の告白を耳にした江利子は、ちょっと驚いたように目を丸くして、両手で頬を抑えたりなんかして。隣にいた友達らしき女子達に何か言われたのか、ほんのりと頬を赤くして、わずかに身をよじらせたりして、恥しそうな素振りを見せながらも。
「……ありがとう、私もよっ」
 窓から少し身を乗り出して、返事をして、すぐに恥しそうに手で顔を隠す。友達が、大げさに騒ぎ立てるようにしているのが見える。
「くそっ、いい気になりやがって……うぅ、鳥居さん」
「福沢っ、あんまり見せつけんなよこの野郎っ!」
「なんで江利子さんの相手が、あんな冴えない奴なのか……人生は不条理だ!」
 歓声やら怒声やら恨み節やらため息やらが溢れかえる。
 そんな中祐麒は、どうにか笑顔を保ったまま、江利子が窓から見えなくなるまで見送った。心の中では泣きそうになりながら。

 

「ああもう、滅茶苦茶恥しかったじゃないですか!」
 机に突っ伏して唸る祐麒。
「やだもう、照れちゃって」
 嬉しそうに見下ろしてくるのは、江利子。
 二人がいるのはサークル棟の中の一室。小奇麗に整理された室内には、本やゲームやフィギュアなどが沢山置かれている。祐麒が江利子に半ば強制的に入会させられた、『ミステリー研究会』が保有している部屋である。
「また、大勢の妬みを買ったじゃないですか」
 昼間に実行した "愛の告白" は、当然のごとく祐麒の意志ではなかった。昨日、とある事情で江利子に約束させられたことを実行したのだ。とある事情とは何か、それを深掘りする必要性もないので省略するが、要はいつものごとく江利子に手玉に取られたわけだ。
 しかし、これではただのバカップルである。学生の大勢いる白昼に、大声で「愛している」と言い合うなんて、どんな羞恥プレイだ。というか、江利子は恥しくないのか。
「そりゃあ、恥しいわよ。でも、祐麒くんだけに恥しい思いをさせたりなんて、出来ないもの」
 あまり恥しくなさそうに、江利子は肩をすくめてみせる。
 江利子が言う通り、祐麒は恥しいことをさせられることが多いが、いつも江利子も一緒にいる。一緒に注目を浴びてくれる。だから、祐麒としてもやらざるを得ない気持ちになるのだが、それもまた江利子の策略なのかもしれない。
「でも、二つの選択肢のうち、こっちを選んだのは祐麒くんなんだから」
 江利子が提案してきたものは二つ。一つが『キャンパスの中心で愛を叫ぶ』であり、もう一つが『今、あいにいきます』であった。果たして祐麒が選んだのは正解だったのかどうか分からないが、もう一方を試そうという気はない。
「でも、ちゃんと約束を守って、本当に実行してくれるから嬉しいのは、本当」
 巧妙なのは、必ず複数の選択肢を見せること。一つしか示されなかったら、とてもじゃないが出来ないと拒絶しているかもしれないが、選択肢を複数与えられることにより、まだこちらの方がマシではないか、なんて思わされて選んでしまうのだ。そして、律義に実行してしまうのは、なんだかんだいっても約束をしたことだから。
 更に言うならば、実行した時に見せる江利子の嬉しそうな表情を見るのが楽しみでもあるから……などとは、絶対に口には出せない。
「おー、来ているなバカップル二人」
 入口の扉が開き、登場するなり祐麒達に向けてそんな言葉を投げつけてきたのは、ミス研の部長。後ろからは更に五人ほどのメンバーが連れだって入ってくる。
「ホント、あんな大勢の前で……信じらんない」
 ドライアイスさえ生温く感じるほどの視線を向けてきているのは、蔦子であった。祐麒がこのサークルに入ると聞いて、慌てて追随して入会したのである。
「祐麒くんはあんなことをするキャラじゃないし、どう考えても、何かしら無理やりにやらされたとしか思えないんだけど。どうかしら、祐麒くん?」
「え、あ、いや」
 いきなり問い詰められて、返答に困る。実際、蔦子の言う通りではあるのだが、だからといって素直に認めると江利子を裏切ることになる。蔦子だけしかいないならともかく、部長を含めて他のメンバーもいる前で、蔦子の言葉を肯定するわけにもいかない。
「どうしたの蔦子ちゃん、怖い顔しちゃって」
「えーえーすみません、元々こういう顔なんです」
「ちょっと蔦ちゃん、やめときなって」
 祐麒と蔦子、共通の友人である大友と宝来が蔦子を止めるべく腕を掴んでいる。修羅場にも似たそんな状況を、部長は楽しげに見つめている。
「いやー、しかし我がサークルも華やかになったもんだ。それもこれも、鳥居さんのおかげだな」
 ミス研はもともと女子の比率は非常に少なくて、江利子とあと二人の学生が所属しているだけだった。それが、蔦子に大友、宝来と一気に倍増したので、部長も喜んでいるのだ。ちなみに大友と宝来は、蔦子によって引きずり込まれたといっても過言ではない。
「ミステリー初心者だろうと、興味がちょっとしかなかろうと、可愛い女の子であるなら大歓迎だ!!」
 両手を広げ、欲望に忠実な言葉を吐き出して、部長は蔦子達を受け入れる。
「……だがまあ、ここはあくまで『ミス研』なわけだからな。いちゃいちゃするのはいい加減にしてもらわないと、他の部員に示しがつかん」
 スクエアフレームの眼鏡を押し上げて眼光鋭く宣言する部長に、とりあえず蔦子としても攻撃の矛先を緩めるのだが。
「はい。それじゃあ、続きはまた今夜、お部屋でね。今日の愛の告白のお礼に、祐麒くんの好きなアレ、たっぷりサービスしてあげるからね」
 思わせぶりな台詞を、思わせぶりな表情とエロい仕種で口にする江利子。蔦子をからかうためのものだと分かっていながら、どうしても胸の鼓動は速くなってしまう。男というのは、そういうものである。
「ほらそこ、部室内でくっつかないでくださいっ!」
「いやーん、蔦子ちゃん怖い」
「わざとらしくぶりっこぶらないでくださいっ!」
 こうして、いつも通りの日常は繰り返されていく。
 いや、これがいつも通りになってしまっているというのも、何とも言えないのだが。

 

 翌日、祐麒は一人で部室に向かった。
 予定されていた講義が突然、休講となって手持無沙汰になり、次の体育までの時間が余ってしまい、部室に寄って本でも読んでいこうと思ったのだ。
 サークルの名前通り、部室には沢山のミステリー小説が置かれており、時間をつぶすのには事欠かない。江利子に引きずられるようにして入会したが、最近では本気でミステリー小説にはまってきて、悪くはないかなと思い始めている。ちなみに江利子は、小説の中で書かれているようなミステリーや事件が本当に起きないだろうかと、不謹慎なことに心を躍らせているようだ。
 平凡なはずの大学生活が、思っていたのとは真反対になっている。騒がしい毎日は楽しくもあり、嫌いではないけれど、落ち着きたくもなる。そんな時、部室で一人静かに読書にいそしむのも良いだろう。
 一人で勝手に渋い雰囲気っぽいものを醸し出しながら、部室の扉を開ける。
「――え?」
 驚いた声がした。
 部屋には明りが灯っており、どうやら先に誰かがいたようだ。講義の時間とはいえ、全ての学生に講義があるわけではなく、別におかしいことではないのだが、中にいた相手の姿がおかしいというか、普通ではなかった。
「え、江利ちゃん?」
 先客は江利子であったのだが。
 水色と白を組み合わせた爽やかなノースリーブトップスはベストのタイプで、胸の前でボタンを留めリボンが飾られている。ボトムスは同様の色調のミニスカートに、白いハイソックス。髪型はいつもと違ってサイドポニー、首にはチョーカー。机の上には黄色のポンポンが置かれている。
 どこをどう見ても、紛うことなきチアガールであった。
「やだ、祐麒くん?」
 さすがにちょっと驚いたのか、大きな目をぱちくりとさせる江利子。焦ったように胸の前で手を交差させる。
 だが、それ以上に戸惑っているのは祐麒の方。
「ちょっと、え、江利ちゃん、その格好」
「あ、ちょ、ちょっと待って、その、まだ」
 珍しく、あわあわとしている江利子。
 なんというか、どうしても胸元に目がいってしまう。その胸元、どうにもベストがきちんと着られていないようである。
「いや、そうじゃなくて、その格好……」
「ああほら、前に祐麒くんが希望してきたじゃない、次は『チアガール』がいいって」
 あれは希望したわけじゃなく、また良く分からない二択を迫られたから選んだだけである。まあ、選べと言われて選んでしまう祐麒もどうかと思うが。だが仕方ないではないか、見たいか見たくないかと言われれば、見たいのだから。江利子のチアガールコスプレなんて可愛いに決まっている。
「だ、だけどその、胸のサイズがきつくて、ボタンが全部留まらなくて……うぅ、太ったのかなぁ」
 頑張ってベストを引っ張っているのだが、かなりきつそうである。ちなみに太ったなんてことは絶対にないと、祐麒は断言できる。となると、まさかいまでも成長しているのだろうかと、つい唾を飲み込む。いや、単にサイズを間違えただけか。
「通販で買ったんだけど……失敗したぁ」
「でも、なんでこんな大学の中で、しかもこの時間に、部室内で着替えて?」
 たまたま祐麒が来ただけであって、もしかしたら部室になど立ち寄らなかったかもしれない。そもそも、休講になったのだって突然であり、その後にはまた別の授業があるというのに。
「祐麒くん、次は体育でしょう? その時に、応援してあげようかなーって」
 とんでもないことを言う江利子。
 それでは、体育の時間に突然現れて、チアガール姿で祐麒のことを応援するなんていう、嬉しいような恐ろしいプレイを行うつもりだったのか。
 祐麒はその瞬間をイメージして、固まった。
「江利ちゃん、そ、そんなことしちゃダメだろっ!」
「きゃっ!?」
 思いがけぬ強い口調で叱られて、江利子が身を震わせる。
「え、やだ、祐麒くん、そ、そんなに本気で怒らないで……ちょ、こ、怖……」
 普段は見せないような祐麒の表情に、最初は余裕でいた江利子も、徐々に本気で怯え始める。
 江利子に歩み寄り、華奢な肩を掴む。身を震わせる江利子。
「そんな格好で、俺の体育の時に出てこようとしていたのっ?」
「ご、ごめんなさい、そんな怒るなんて思わなくて……」
「こんな格好、俺以外の男の目に晒そうとするなんて、駄目に決まってるじゃん!」
「…………え?」
 怖がっていた江利子が、きょとんとする。
「こんなミニスカートで、ヘソ出しで、肌を露出した格好で!? てか、江利ちゃんのチアガールとか、超可愛すぎるし、そんなコスプレ姿を他の奴らになんか見せるわけにはいかないし」
「え、ちょ、ちょっ、ゆゆ祐麒くん?」
 少し理性が崩壊していたのかもしれない。
 だが、瞬間的にそう思ってしまう程、反則的に可愛かった。また、部屋の中でなく外に出ようとしていたのが効いたのかもしれない。大学の他の男連中に江利子のチアガール姿を見せるのを想像した瞬間、何かが弾けたのだ。
 コスプレした江利子に迫られると、恥しいしうろたえる。逃げ出したくなる。でも、その江利子を他の誰かに見られると考えると、気分が悪くなる。
 これは、独占欲か。
「江利ちゃんのコスプレを見ていいのは俺だけだし」
「え、ええと、嬉しいんだけど、ちょっと怖いかな~って」
 祐麒の手を振りほどき、身をひるがえす江利子。髪の毛とともに、その豊かな胸が上下に揺れる。
 逃げる江利子が、そのまま外に飛び出して行きそうに思えて、背後から手をのばす。
「きゃっ」
 小さな悲鳴をあげて、テーブルに手をつく。
 逃がさないよう、テーブルとの間に挟み込むようにする。
「あのー、えと、祐麒くん? あっ、や、んっ」
 江利子が困ったような声を出す。
 と、その時。
「――な、何をしているん……っ!?」
 入口の扉が開き、声とともにタイミングよく姿を現した蔦子とその友人二人。室内にいる祐麒と江利子の姿を見て固まる。
「ちょちょ、ちょっと蔦ちゃん、出直した方がいいんじゃない?」
「そ、そうだよ、お邪魔みたいだし。ってか、ヤッてる真っ最中じゃない!?」
 蔦子が顔面を紅潮させる。
 入口の方から祐麒達の方を見れば、江利子はテーブルの上に上半身をうつ伏せの格好で、その背後から祐麒は、江利子の腕と腰を掴んで自分の体で江利子をテーブルに挟むように押しつけている格好になっている。二人の腰から下の部分は、テーブルに隠れてしまって入口の方からは見えていない。
 江利子はチアガール姿で、しかも祐麒と揉み合っている間にベストのボタンはとうとう外れてしまい、アンダーウェアがむき出しのあられもない姿になってしまっている。
「あ、駄目、祐麒くん、み、見られて……あン」
 更に、余計な演技を見せる江利子。
「え、江利ちゃん、ちょっと暴れないで」
「やん、つ、強いっ、祐麒くんっ……」
 江利子の動きを抑えようとする祐麒であったが。
「うわっ、凄っ、激しいっ……!」
「つつつ蔦ちゃん、ででで出た方がいいよっ」
 どうも、それが卑猥な動きに見えたようだった。恥しそうにしつつもガン見しようとする大友と、真っ赤になって顔を伏せる宝来。
「し、し、し、失礼しましたーっ!! ご、ごゆっくりー!!」
 悲鳴をあげながら、宝来が残りの二人を抱きかかえるようにして部室を出ていく。
 呆然と見送る祐麒。
「ええと……と、とりあえず離してくれるかしら?」
 腕を封じているため、江利子は動くことが出来ないでいて、胸を隠すこともできない。肩越しからでも、たわわな二つの膨らみの影はくっきりと見て取ることが出来る。
「わっ、ご、ごめんっ」
 手を離すと、慌ててベストの前をかき抱く江利子。あんな演技をしていながら、それでも恥しいのか。
 何とも言えない空気に包まれた部室の中、「じゃ、じゃあ俺、外に出ているから」と、逃げるように背を向けることしか出来ない祐麒なのであった。

 

「言っておくけれど、今日のは私のせいじゃないからね」
「わ、分かってますよ」
 分かってはいるが、どれだけ強い『引き』を持っているんだと問いたくなる。江利子が着替えているところに遭遇して、体を抑えつけているところを蔦子達に目撃されるなんて、何をどうすればそんな状況になるのか。
「すっごい誤解されちゃったわね、恥しいぃ」
「わざとらしいぶりっこはやめてください、ってか、凄い誤解された一つの要因は、江利ちゃんが変な声を出したからでしょ!?」
 江利子が物凄く楽しそうに見えるのは、決して大げさではないだろう。このような思いがけないアクシデント、ハプニングを人一倍喜ぶのが江利子だ。
 スーパーに寄って夕食の材料を購入しての帰り道、ビニール袋から飛び出している長ネギの緑の部分がゆらゆらと揺れる。今日のおかずは麻婆豆腐だ。
「ふふ、明日が楽しみね」
「俺は憂鬱ですよ」
「なんで、蔦子ちゃんに見られたのがそんなにショックなの?」
「い、いや、そういうわけじゃあ別に」
 江利子が拗ねるので慌てて言い訳して、なんでこんなにも狼狽してしまうのだろうかと考える。
 それ即ち、既に江利子にとらえられているということだろうか。江利子のことを何とも思っていなければ、江利子の顔色を気にする必要はないはずだが、現実には江利子の一挙手一投足に反応してしまう。
 付き合っていないと言いながら、離れて欲しくないというのは単なる我がままか。
「何を考えているの?」
 ひょい、と前にまわって顔を覗きこんでくる。
 どきどきする。
 出会ってから三年近くが経つけれど、いつもどきどきさせられる。なんとなく、分かっている。素直に認められないのは、江利子に振り回され、江利子の手の平の上で転がっていることを認めたくないから。これで仮に祐麒の方が「好きだ」とか告白したとして、単に江利子に言わされただけのように自分が思ってしまうから。
 もちろん、そんな理由だってこじつけだというのも理解している。中途半端な状態がいいわけない。
 だけど。
「……別に、今夜のおかずのこと」
 今のこの状態が、不思議と心地よいのも事実で。
「え、やだ、早速私のチアガール姿をおかずに……?」
「だーっ! ちがーう!!」
 つい、心地よい現状に甘えてしまうのだ。

 

「……祐麒くーん、朝ですよー、起きてー」
 江利子の声が聞こえた。
 昨日は夜ごはんを一緒に食べた後、実家の方に帰ったので、わざわざ迎えに来てくれたのだろう。美少女に起こされるという垂涎のシチュエーションにも、慣れつつある。
「起きなさーい、よいしょ、と」
「ぐふっ」
 腹の上に乗っかられた。
 珍しいことで、江利子は丁寧に手で揺り起こしてくれるのが常で、激しい起こし方はしてこない。
「起きろー」
「むが」
 顔に、さらさらふわふわしたものが押し付けられた。髪の毛ではない、何かわさわさしたものだ。くすぐったくて、鼻に入ってむずむずして、ようやく目を開ける。
「……江利ちゃん、何、してんの?」
「ほら、昨日、ちゃんと披露できなかったから」
 そう言って、手にしたぽんぽんを振って見せる。
 見間違えることない、昨日のチアガール姿だった。きちんと上下セット、身につけられている。しかも今日は、両耳の後ろで髪の毛を縛っているバージョン。
「ここなら、他の人に見られることもないし、祐麒くんが独占できるからいいでしょう?」
「えあう」
「私のコスプレ姿を見ていいのは祐麒くんだけ、なんだもんねー? ふふ、祐麒くんの独占欲、嬉しかったからサービスしちゃおうかな」
 昨日の自分の台詞を思い返し、恥しさに赤面する。本当に、自分があんなにも独占欲が強かったとは、驚きでもある。
 だが、こんな江利子を他の男になど見せたくもないのは事実。
 とゆうか、体勢がヤバすぎる。
 跨られて乗られて感じる江利子のお尻。ベストのボタンは留められているが、はちきれんばかりのバストは、仰向けになっている状態から見上げると物凄い迫力で、視線を少し下にずらせばおへそがチラ見えしていて。
「……あ、なんかお尻の下から固いものがせり上がって……」
 そこまで口にして、固まる江利子。頬が、ゆっくりと赤みを増していく。
「えええ江利ちゃん、ど、どいてっ」
「やっ、あぶなっ」
 背中から倒れかかる江利子。そして。
「祐麒っ、聞いたんだけど、あんた江利子さまと学校でふしだらな――」
 なぜかいきなり部屋に踏み込んできた祐巳が、目を見張る。後ろには好奇心でいっぱいの目をした由乃と、「まあ」とか口元を抑えながらもしっかりと覗きこんできている志摩子の姿も見えて、祐麒は内心で世界を呪った。
 何せ今、勢いで仰向けに倒れた江利子はM字開脚姿で、その脚の間に祐麒の体は入りこんでいて、案の定、ベストのボタンは江利子のバストを抑えきれずに弾け飛んで、かろうじて残った一個のボタンで江利子の胸がこぼれ落ちるのを防いでいる。どうやらアンダーウェアをなくすことでベストの中に入れ込んだようで、直肌がかなりの面積と体積で露出している。
 そして、もちろん祐麒の下半身は臨戦状態を誇っていて。
「へ、へ、変態っ!?」
「うわーっ、こ、今回はチアガールプレイ!?」
「あらまあ、うふふ」
 非難ごうごうの視線を受けて、祐麒は頭をかきむしり。
「あああああもうっ!! 俺が江利ちゃんに、ナニしたって別にいいだろーーーっ!!?」
 と、半ばやけくそ気味に。

 陳腐なアパートのベッドの中心で、ナニを叫んだのであった。

 

おしまい

 

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