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ギャグ・その他 マリア様がみてる

【マリみてSS(色々・ネタ)】小ネタ集19 ノーマルCPショート10

更新日:

 

<1>

「ただいま」と言いながら玄関を開けて家の中に入ると、どたどたと足音を響かせながら駆け寄ってくる小さな影。
「おかえりなさい、パパ!」
長女の絆を抱き上げて、頬にただいまのキス。まだまだ可愛い盛りである。
「おかえり、祐麒くん、夜ごはんもうすぐだからね」と、次女の亜優を抱っこしながら、三奈子がキッチンから顔をのぞかせる。
いつもと変わることのない、平和で幸福な家庭の姿。

「うわーっ、パパ、チョコレートいっぱいだ! モテモテだ!」学校から持ち帰った紙袋を見て、絆が大きな声をあげる。
「あらら、今年はまた、去年以上にすごいね」三奈子もやってきて、絆の後ろから覗きこんで笑う。
女子中学校の教師をしている祐麒は、若くてそれなりの外見ということで、女子生徒から人気があり、バレンタインのチョコも沢山もらったのだ。
「ねえママ、パパがモテモテでやきもち、やかないのー?」
「あらなんで? モテないパパよりも、格好良くてモテモテのパパの方が良いじゃない。絆ちゃんは、そう思わないの?」
「うーーん?」首を傾げる絆。
「それに、どんなに若くて可愛い子からチョコレートを貰っても、祐麒くんが一番好きなのは、私だもんねー?」
「うわー出た―! のろけお化けだーーっ!」
「出たぞ~っ、こら待て、絆ちゃんっ!」
賑やかで、騒がしくて、笑いの絶えない家。それが、二人が築いてきた家庭。
「……でも実際、三奈は誰よりも若々しくて、可愛いから」
「えへへー、ありがと」
絆を追いかけていた三奈子の体をつかまえ、抱き寄せると、するりと首に手が回される。
押し付けられる胸の弾力も、お尻の張りも、以前と全く変わっていないように思える。ついつい、体が正直に反応する。
「……あー、祐麒くんのエッチ。だめだよ、絆ちゃんのいるところで」
僅かに顔を赤らめ、三奈子が口を尖らせる。しかしすぐに笑顔に変わり、更に顔を近づけて囁くように言う。
「あとでたくさん、気持ちよくしてあげるから。もう、本当に毎日元気なんだから」
そして、額を『ちょん』と押してくる三奈子の指先の感触に、祐麒は笑って応えるのであった。

 

<2>

家に帰ると、変なにおいがした。何が起きているかと訝しげに思い、においの元をたどっていってみると、台所から発生しているのだと分かった。
そして、いざ台所の中を覗いてみると。
「うあぁ、お、お帰り祐麒、ちょっと待っててね……おっとっと」と、変な声を出しながら祐巳が、料理をしていた。
「何やってんだよ、料理なんてろくにできないくせに。母さんは、いないの?」
「祐麒こそ何言っているのさ。お父さんとお母さん、今日から旅行でしょ。お父さんが久しぶりに長期休暇とれたから、夫婦水入らずで」
「あー、そっか。そういえば言ってたな。今日からか」
「朝、言ってたじゃん。寝ぼけていたんじゃないの、っと、とっ」
とにかく危なっかしい手つきで料理を続ける祐巳。においからも、何を作っているのか予想がつかない。食べられるものならよいのだが。
大学生となっても、二人ともさほど遠くない大学ということで、変わらずに実家から通っている。
そして、母親がいるので、祐巳は普段は料理などしない。せいぜい、ちょっとお手伝いをする程度だ。それで何が作れるものなのか。
やがて食卓に並んだのは、やっぱりわけのわからない料理で、それでも食べられないということはなかったが、不味かった。
「ちょっと祐麒、せっかく作ったんだから、もっと食べてよー」怒った表情の祐巳。
「そんなこと言ってもなあ、ちょっとこれは。そうだなぁ、可愛い女の子が食べさせてくれるなら、食べられるかもしれないけれど」
などと軽口をたたく。祐巳には申し訳ないが、さすがに厳しい。不味いというのは、祐巳も口にして分かっているから、強くは勧められないようだった。
そんな不満げな顔をしていた祐巳だったが、怒った表情のまま席を立ち、なぜか祐麒の隣に座った。そして。
「……仕方ないから、祐麒の希望をきいて、私が食べさせて差し上げますから」
などと言うと、左の手の平を添えながら箸でおかずをつまみ、祐麒の口元に差し出してきた。
「ば、馬鹿かお前、それ自分が可愛いって思ってるってことだろ? 自惚れか!?」
「な、何よ、さっきの祐麒の台詞は、明らかに私にやれっていうフリというか、フラグだったじゃない。文句あるの?」
「そりゃ、確かに祐巳は可愛いけどさ……って、わ、いや、今のナシ!」
つい、さらりと恥しいことを口にしてしまった。しかし、祐巳は。
「駄目、もう聞いちゃったもん。ほら祐麒、口あけて、アーンして」
ムキになったのか、さらに口に押し付けてくるが、それ以上に体まで押し付けてこられて、祐麒は内心、平常心でいられなかった。
果たしてこれから数日間、二人きりの家の中で無事に生活していけるか、不安と僅かな期待で揺らぐ祐麒なのであった。

 

<3>

「これは一体、どういうことなのかしら?」
口調こそ穏やかだが、明らかに目つきは違う。はっきりいって、怖い。
部屋に現れた祥子は、相変わらずの美貌とスタイル。それだけに、怒っているときは凄絶なものがある。
「あの、祥子さん、これはですね」
何を言おうか考えながら、とりあえずそんな風に口を開くと、それを遮るように祥子の声が響く。
「どういうことなんですか……お母様!?」
祥子の目は、祐麒の後ろにいる清子に向けられていた。
「どうもこうも……ねえ、祐麒さん?」
え、そこで俺に振りますか!? 内心で悲鳴をあげる。鬼の形相となった祥子の視線が、祐麒を貫いてちびりそうになる。
どうもこうも、別に何もないのだ。
そりゃあ、清子に会いたくて、色々と口実をつけては小笠原家に来ている。祥子に会うという口実でも来たりする。
そのうち祥子の方からも誘われたりして、これはよいと思ったりもした。
今日は祥子が不在だったので、清子と話をしていた。話をしながら、相変わらず綺麗で、魅力的だと思った。
天然なのか、時折に接触してくるのだが、その感触もなんとも若々しく、祐麒はいつもドギマギしてしまうのだ。
今も、祥子の剣幕に驚いたのか、清子が祐麒に身を寄せ手の平を重ねてきていて、興奮しつつある。
「お、お母様、まさか、あなたは、ゆゆゆゆゆ祐麒さんと、そんなっ、不潔ですっ!」
「あら、何を祥子さんは怒っているのかしら。私が若い男の子とお話するのが、駄目だというの?」
「そんなことではありませんっ、祐麒さんというのが問題なんです。だってゆ、ゆ、祐麒さんは、わわわわたしのっ……」
真っ赤になって、語尾が消えてしまう祥子。しかし、意を決したように、顔を赤くしたままずんずんやってきて、祐麒の隣に座る。
「どうしたの、祥子さん?」
「どうもしません!」
怒ったように反対側を向く祥子だが、その指はそっと、祐麒の手に伸ばされていた。
そしてこんな状況に、祐麒は緊張と興奮と恥しさでめまぐるしく顔色を変えていくのであった。

 

<4>

あれあれあれ、なんでこんなことになっているのだ。
生まれて初めて体験する状況に、祐麒はなすすべもなく、おろおろとするしかなかった。
事の発端はなんだったか。もともとは、景とデートをしていたことから始まった。
デートといっても、祐麒が勝手にそう思っているだけだが。沖縄旅行のお土産があるからと呼びだされて出て来て、お茶をした。
景は祐麒にとってあこがれの女性。年上の美人で、知的だけどお茶目なところもあって。
アルバイト先で出会って以来、憧れの対象から変わっていない。いつか、憧れじゃなくて対等の関係になりたいなと思いつつ、なかなか行動にはうつせず。
こうして、たまに会って話ができるだけでも幸せだと感じるのだ。
それが、偶然に大学の後輩である有馬菜々と遭遇して、状況が一転した。
「福沢先輩、暇なんですよね、一緒に遊びに行きましょうよー」
「……ちょっと貴女、どこをどう見て、暇だなんて言っているわけ?」
「えー、だって旅行のお土産を渡すだけだって聞きましたよー。もう渡されたんなら、用事は済んでますよね? なら福沢先輩もお暇なはずです」
無邪気ともとれる笑顔で言ってのける菜々に、景の表情が微妙にひきつったように見える。
しかし、景もすぐに表情を取り繕い、おだやかな笑みすら見せて、菜々に対峙する。
「聞き違いじゃないかしら? 私達、デート中なの、ねえ、祐麒クン?」
「え、ええっ?」
いきなり景に腕をつかまれて、驚きの声を上げる祐麒。確かに望んでいたことではあるが、そんなことは全く言われたことなかったのに。
「あれ、そうなんですか? でも先輩は何か驚いているようですけれど。間違いではありませんか? ね、先輩」
「間違いなんかじゃないわよ、ねえ祐麒クン?」
二人に挟まれて、内心は完全にてんぱっている祐麒。
何せ生まれてこの方女の子とつきあったことなどないわけで、いきなりの展開に、ついていけるわけもない。
憧れの女性である景と、可愛い後輩の菜々。
祐麒の生活は、この瞬間から急加速していくのであった。

 

<5>

まったくみんな、勝手なことばかりを言っている。なぜに私が、福沢祐麒を好きなんだ。
あんな、狸顔で、八方美人で、助平なやつを好きなわけがない。
そうだ、私はあいつのことなんてなんとも思っていない。そりゃあまあ、確かに音楽や漫画の趣味があうというのはあるかもしれないけれど。
「乃梨子さん、本当によいのかしら?」
「え、何が、可南子さん?」
背の高い友人を見上げると、微妙な表情で見つめてくる。一体、何を言いたいのだろうか。
「だから、祐麒さんのこと」
また、あいつのことか。可南子までそんなことを言ってくるなんて、思わなかった。私はため息をつく。
「だって、心配だから。乃梨子さんと瞳子さんの仲がどうにかなってしまったらと思うと」
「は? なんで、瞳子がここで出てくるの」
私は首を傾げたが、次の可南子の言葉を聞くと、一目散に駆けだした。
そして辿り着いた先では、可南子の言うとおりの光景が見られた。
「と、と、瞳子、あんた、何しているのよっ!?」
「あら、何と言われましても、お弁当を食べているだけですわ。ねえ、祐麒さま」
なぜか瞳子は、祐麒とベンチに並んで座り、お弁当を食べていた。しかも、お箸でつかんだ卵焼きを、祐麒に食べさせようとしている。
「乃梨子さんは、祐麒さんのこと何とも思っていないのでしょう? だったら私が何をしようと、構いませんわよね?」
横目で笑うと、瞳子は満面の笑みを浮かべて、祐麒に「あーん」をしようとしている。祐麒の頬がのんのりと赤くなっている。
困っているようだが、無碍に断ることもできず、瞳子のスマイルの圧力で、少しずつ口が開いていっている。
「祐麒さまのことを想い、私、一生懸命に作りましたの。私の気持ちごと、食べてくださいまし」
瞳子の甘ったるい言葉を耳にして、何かが私の中で弾けた。
「ゆ、祐麒さん、あなた何考えているのよっ! 私がいる目の前でそんなことしてっ!? 大体私がお弁当を作って来た時は……」
口にした瞬間、瞳子が「にやり」と笑った。さらに、追いついて来て後ろで見ていた可南子が口をおさえて笑っているのが見えた。
やられた! 途端に私の顔が、耳が、熱を帯びる。これでまた、あいつとのことを言われ続けることは確定だ。
「乃梨子さん、可愛い~」
嬉しそうな可南子と瞳子の声が響いた。

 

 

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