<1>
なんというか、物凄い迫力である。
「可南子ちゃん、嫌だったら、無理に付き合わなくてもいいんじゃないかな~」
「別に嫌なんて一言も言ってませんが、令さま」
ちょっとおどおどしている令に対し、つんけんした口調の可南子。微妙な空気が周囲に漂っているのだが。
リリアンが誇るスカイツリー、もといツインタワーの二人に挟まれて、捕らえられた小人の気持ち。
本来、今日は令とデートだったのだが、なぜか偶然にも? 出先で可南子と出会い、二人でいるところを見られた。
誤魔化すように、デートじゃないと言いわけをしたら、それなら自分も同行していいかなんて可南子が聞いて来て、今に至る。
可南子のことはよくわからない。男嫌いというし、実際、祐麒は悪口や嫌みなどしょっちゅういわれるし、態度も冷たい。
だがその割にはよく出会うし、色々と絡んでくる。特に、令と一緒にいると、よく現れる。
令との仲は、友達以上恋人未満的なもどかしい感じとでもいうのか。ただ、他の人にはそういうことは内緒にしている。
「そ、それじゃあ、どこへ行こうか? ショッピング? それとも映画でも観に行く? あ、ボウリングとかどうかな」
気を使うように、令が明るい口調で尋ねてくるが、可南子はツンツンした態度。
なんで男嫌いのくせに、一緒に行動しようというのだろうか、良く分からない。
「祐麒は、女の長い買い物につきあうのはかったるいって、前に言っていたわよね。ショッピングはやめた方がいいと思いますよ」
「ええっ!?」悲鳴をあげる令。
「いや、そ、それは前に祐巳の買い物に付き合った時のことで、れ、令さんとの買い物でそんなこと思ったことないですからっ!」
可南子はなんということを言いだすのか。確かに以前、そんな話をした記憶があるが、ここで持ち出さなくても。
「な、なんで祐麒くんのこと呼び捨てにしているのっ!?」
「え、そ、そっちですかっ?」
「だって、祐麒は祐麒だし。ねえ、祐麒。令さまだって年上なんですから、呼び捨てにすればよいんじゃないですか」
「え、え、そ……そんなこと、出来ないよぉ」おろおろする令。なんか可愛い。
「ふん」
「あ痛っ!?」なぜか可南子に足を踏まれた。
「じゃ、じゃあ、映画観に行こうか。えと、今って面白いの上映していたかなぁ」
「祐麒は、ハリウッドらしいアクション大作が好みなのよね」
「ちょ、ま、またっ!?」
ツインタワーに挟まれ、ぎくしゃくとした雰囲気の奇妙な三人での休日は、まだまだ続く。
<2>
「ええっと……二条さん、怒ってます?」
「は? 怒ってなんかいませんけど。なんでそんなこと思うんですか」
明らかーに怒っているというか機嫌の悪そうな口調で、冷たい目で見つめてきている乃梨子。
「あの~、由乃さん、なんか怒っていますよね?」
「別に、祐麒くんが私を怒らせるような事していなければ、怒っているわけないけれど」
笑顔を見せているが、どこからどうみても怒っている雰囲気しか感じることのできない由乃。
休日の公園、天気はよく、心地の良い昼さがりだというのに、祐麒の周囲だけ暴風雨が吹き荒れているかのようだった。
たまたまやってきた公園で乃梨子と出会い、立ち話をしている最中に由乃からの電話を着信した。
公園で乃梨子と偶然に会ったことを口にしたら、由乃もちょうどその公園に向かっているところだとかなんだとか言って、突然現れた。
本当に公園に向かっていたかどうか良く分からないが、しばらく待っていたら本当にやってきたのだ。
しばし、三人で歓談していたはずが、なぜか雲行きがどんどんとあやしくなっていって、今や真っ暗にならんとしていた。いや、むしろ雷か。
「由乃さまはそもそも、何の用でこの公園に来ようとしていたのですか?」
「えっ、だから、それはアレよ、体力増強のためのウォーキングというか」
「そんなワンピースでウォーキングですか? 靴も、とてもウォーキングに適しているとは思えませんが」
「そ、そんなことないわよ、歩きにくいからこそトレーニングにもなるっていうものよ」
ぴりぴりした二人の空気に、迂闊に手も口も出すことが出来ない祐麒だが、どうにかしようと頑張って口を開く。
「ま、まあ、由乃さんも二条さんも、せっかく良い天気ですしアイスでも食べませんか、ほら。俺、ご馳走しますよ」
ひきつりそうな口をどうにか抑えつけつつ、公園の売店のアイスクリームののぼりを指さすが。
「……ところでなんで私だけ二条さん、なんですかね」
「は?」
「あ、別に名前で呼ばれたいとかそんなこと言ってるわけじゃないですかね、勘違いしないでくださいよね」
「まー、それはしようがないんじゃないかなー、ねぇ祐麒くん? 親しさの違いっていうか、うん、そういうことだし」
「はぁ? たまたま祐巳さまと同級生というだけだからでしょう」
「ちょっと乃梨子ちゃん、先輩に対してそういう口のきき方してどういうつもりかしら」
「失礼しました、正直なもので、つい」
「ふふ、仕方ないわね、私も嘘つけないし、ごめんね、二条さん」
ハリケーンとブリザードと落雷と暴風が祐麒を包み込む。休日の公園は、祐麒にとってはさながら拷問部屋であった。
<3>
瞳子ちゃんが家に遊びに来た。まあ、無事に祐巳の妹になったことだし、遊びに来るくらいおかしなことではないのだが。
どうにもこうにも、機嫌が悪そうなのだ。
「瞳子ちゃん、どうかしたの。てゆうか俺がいるからなんか肩の力抜けないよね? すぐに部屋に戻るから」
「い、いえ、祐麒さま、お気づかいご無用です」
「そうだよ祐麒、せっかくだから一緒におしゃべりしていきなよー」
リビングのソファから立ち上がろうとしたところ、後ろからやってきた祐巳に肩を掴まれておさえられてしまった。
「おまえなぁ、もうちょっと気を使えよ。俺がいたら瞳子ちゃんだって話とかしづらいだろ」
ただでさえ先輩の家だというのに、そこに男である俺が一緒にいるということ自体がおかしいのだ。
「そんなことありません、あの、祐麒さまも是非ご一緒に」
思いのほか強い口調で瞳子ちゃんが言ってきた。しかし、どうみても力んでいる。緊張のせいか、わずかに顔も赤いし。
「祐麒だって、女の子二人とおしゃべりなんて、本当は嬉しいんじゃないのぉ?」
まわりこんできて、ソファの隣に腰をおろす祐巳。それはよいが、ちょっと体が近すぎやしないか。
いつもの調子でくっついてきたのだろうが、瞳子ちゃんの目もあるし、少しは自重して欲しい。
ほら見ろ、案の定、瞳子ちゃんの目つきが険しくなったではないか。大好きなお姉さまのだらしない姿など見たくないのであろう。
「やっぱ俺、部屋に行くって」
「えー、ま、待ってってばぁ」
再度立ち上がろうとしたが、祐巳が腕にしがみついてきて逃げさせてくれない。てゆうか、胸があたっているっちゅうに。いや、嬉しいけど。
「お、お、お、お姉さまっ!! いいいい、いい加減に、してくださいっ。祐麒さまから離れてくださいっ」
ほら見ろ、怒られたじゃないか……って、瞳子ちゃん、なんか俺を食い殺しそうな目で睨んできている!
完全にとばっちりだ、まったく勘弁してほしい。
「うううう……祐麒さまのバカバカバカバカ……」
「え、なに、瞳子ちゃん?」
「な、なんでもありませんわっ!!!!」
頬をふくらませ、ぷいと横を向く瞳子ちゃん。俺は、困ったように頭をかくしかないのであった。
<4>
「ふふ、祐麒くん、これはどういうことなのかしら?」
ポニーテールを揺らし、にっこりとほほ笑む三奈子。
「まったく、どういうことなのかしら祐麒さん、説明してくれますよね」
眼鏡の下の目を細め、穏やかな笑みを向ける蔦子。
「え、あ、いや~、どういうことといわれましても、ははは」
乾いた笑いを張り付け、しどろもどろの祐麒。
失敗した。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。
よく考えてみれば、新聞部と写真部という違いこそあれど、記事になるもの、興味の方向は似通うものがあるわけで。
祐麒が三奈子とのデート先に選んだ先に、同じようなことに興味を持った蔦子がいても不思議はないわけで。
「てゆうか、蔦子さんは私と祐麒くんのデートの邪魔、しないでほしいなぁ」
「デート、ですか。それなら私も先週しましたよ、祐麒さんと、映画に」
「あら、そう、ふふふ」
対峙して、不敵に笑い合う三奈子と蔦子。
しばし、正面きって向かい合っていたが、やがて不意に三奈子が祐麒の方を振り向き、にっこりと笑って腕を組んできた。
「でも今日は私とデートだしねっ。そういえば祐麒くん、私ね、今日、友達の家に泊まってくるって言ってきちゃった」
「ええっ!? あの、それって」
三奈子の発言に動揺する祐麒だが、混乱収まらぬうちに今度は反対側の腕を蔦子に掴まれる。
「友達のお家に泊まるんでしたら、祐麒さんは帰りますよね? それなら私と一緒にどこか遊びに行きませんか?」
「ちょっと蔦子さん、何を言っているの。祐麒くんは私とデート中だって言ったでしょう」
「友達の家に行かれるのでしょう、どうぞ行ってきてください。だから祐麒さんは……って、祐麒さん、どうしたんですか?」
「や、ご、ごめん、その二人の胸が押し付けられて、なんというか、その……」
顔を赤くしながら、微妙に前かがみの格好の祐麒。そんな祐麒の姿と、下半身を見て三奈子と蔦子は。
「えっち!!!」
「ちょ、もう、ばかっ!!」
同時に祐麒を張り飛ばすのであった。
<5>
「真美さま、ここはぜひ私と貧乳同盟を結びましょう」
「ややや、イヤよそんなの、ってか、やめなさい菜々ちゃんっ」
「どうしてですか、祐麒さんはいやがっていないみたいですけど」
「ゆゆゆ祐麒さんのフケツっ!!」
「ってか、そんなこと言ってないでこれを解いてくれっ!!」
祐麒は体を動かそうとして、でも動かせなくて歯噛みをする。
良く分からないが、寝ている間に両手両足をベッドに拘束されたようで、自由に体を動かすことが出来なくなってしまっている。
そして目の前には、なぜかともに下着姿の真美と菜々。真美はシンプルな水色の上下の下着。菜々は可愛らしいベビードール。
二人とも先の言葉通り、胸は薄い。だが、それがいい。
「解いたら駄目です。男体の神秘、摩訶不思議アドベンチャーにレッツトライ、フライができません」
「なんか危険な発言だね……って、それはいいから、解きなさい、ね、いい子だから」
「駄目です。真美さまと私、二股をかけた報いは受けてもらいますから。『菜々ちゃんだけだよ』なんて夜明けのコーヒー飲みながら言ったくせにー」
「言ってませんし夜明けのコーヒーもないし!」
「そ、そうだったんですか祐麒さん!? ひ、酷いっ!?」
「真美さん!? 信じないでーっ!!!」
「ということで真美さま、騙された女同士、ここは祐麒さんを二人で思う存分に虐めちゃいましょう」
「そ、そうね、そういうことなら……」
「そういうことじゃなーーーいっ、て、真美さん、菜々ちゃん、ちょ、待ってっ」
ベッドの上に這い上がり、四つん這いの格好で近寄ってくる真美と菜々。薄い胸とはいえ、ほんのりと膨らみがあるようなないような。
それを見て悲しいかな、男である祐麒は反応してしまう。それに、貧乳は正義だ。
「わ、真美さま見てください、人体の神秘です」
「え、やっ、うそ、凄い……」恥じらいながらも、興味ありといった感じで真美と菜々の手が伸びてくる。
「勘弁してくださいーーーーーっ!!?」
恥しいけれど、内心で嬉しい気がないと言ったらウソになる。狂気と驚喜の夜は、まだまだ始まったばかりなのであった。