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ノーマルCP マリア様がみてる 乃梨子

【マリみてSS(乃梨子×祐麒)】コレ一個だけ

更新日:

 

~ コレ一個だけ ~

 

 

 二月上旬になると、にわかに周囲の生徒達が浮足立ち始めた。
 はて、どうしたのだろうかと首を捻っている乃梨子に答えを教えてくれたのは瞳子と可南子の凸凹コンビだった。
「そんなのバレンタインデーが近づいたからに決まっていますわ」
「そうそう、もうすぐだからね」
「バレンタイン? 女子校のリリアンで?」
 乃梨子は露骨に眉をひそめた。
 もともと乃梨子はこの手のイベントに関しては積極的ではなく、共学だった中学でも乗り気ではなかった。
「大好きなお姉さま、憧れの薔薇様にお渡しするのですわ」
「そうじゃなくても、友チョコくらいあったでしょ、乃梨子さんだって」
「まあ、そうだけど……」
 中学時代からの友人、春日、光、唯とチョコレート交換したことを思い出す。
 強烈に思い出すのは、春日と唯の二人はやけに気合が入っていたということ。女子同士の友チョコでドライにこなしていた乃梨子とは大違いであった。
 そうか、確かにリリアンであればお姉さまと妹でチョコレート交換くらいするのか。じゃあ自分も志摩子のために何か準備しなければ、などとようやく考え始める。
「そんな呑気な面持ちで良いんですの? 乃梨子さん、白薔薇の蕾なんですから、沢山のチョコレートをいただくかもしれませんわよ」
「えー、ないでしょ。だってまだ一年生だよ私。祥子さまや令さまなら分かるけれど」
「甘いわよ、乃梨子さんだって人気あるんだから。クールで格好いいって」
「はあ……」
 可南子に言われても全くピンとこず、力のない返事をする。
「もちろん、意中の殿方に渡す子も多いでしょうけれど」
 瞳子のその言葉に、乃梨子は身構えた。
 どうせまた、変なからかいをしてくるに決まっているのだ。そういう時は変に向きになったりせずに聞き流してしまえば良い。今までは心の準備が出来ておらず、つい、変な反応をしてしまったりしていたのがいけなかった。

 だが!

 今なら違う。
 今の乃梨子はきちんと精神的な準備が整っており、瞳子や可南子が何を言ってきてもクールに対処可能なモードに移行しているのだ。
 そういう思いは一切表情に出さず、乃梨子は教科書を取り出して授業の準備をする。
「そういえば……」
 ほらきた!
 と、乃梨子は内心で思う。
 なんでもこい、今なら全てのサーブをAパスでレシーブできるスーパーリベロ革命な乃梨子がここにいるのだから。
「穂乃果さんが、月光館にいる憧れの方に一大決心をしてチョコを渡すらしいですわね」
「…………ん?」
「なんで瞳子さんがそんなことを知っているの?」
「どのようなチョコが良いか、どのようなシチュエーションで贈ればよいか、多くのアイディアを集めて一大プロジェクト化していますのよ」
「へえ、それは凄いわね」
「えーと、二人とも?」
 肩透かしをくらった格好になり、乃梨子は思わず自分から声をかけてしまった。
「はい、なんですの?」
「何って、いや……」
「あ!」
「な、なに?」
 今度こそ、と乃梨子は再び身構える。
「もう予鈴ですわ。私も授業の準備をしませんと」
「本当だ、じゃあね」
「あ、う、うん」
 自席に戻っていく瞳子と可南子の姿を見送る。
 いつもなら、話の流れからしてもぶっこんできておかしくないのに、どうしたことか。時間がなかったのも事実かもしれないが。
 いや、これは油断させておいて不意を突くということだろう。まだバレンタイン当日まで日もあるし、何も言わずにしばらく泳がせておいて隙が出来たところで突っついてくる作戦かもしれない。
 その手には乗らないぞと、乃梨子は気を引き締めた。

 

 しかしその後、何日経っても瞳子にしても可南子にしても乃梨子をけしかけてくることもなく、あっという間にバレンタインデー当日になった。
 学園内は浮かれモードのピークに達していたがそこはリリアンのお嬢様達、大きな声で騒いだり、一目のあるところで堂々と渡したりはしない(リリアン生じゃなくてもそうかもしれない)
 乃梨子も何人かの女子生徒からチョコレートをもらい、志摩子と交換もした。凄く嬉しいことなのだが、どうも落ち着かない。
 この日は生徒会の仕事もなく、掃除が終われば帰るしかない。
 乃梨子も鞄を手にして立ち上がる。
「乃梨子さん」
 そこに、瞳子と可南子がやってきた。
 そらきた!
 やっぱり、何もないなんてありえないのだと思う乃梨子。
「何? 私、今日は真っ直ぐ帰るだけだから寄り道とか付き合わないよ」
 先手を打って言っておくが、逆に意識していると思われてしまうだろうか。
 それでも、ごく自然な口調で言うことは出来た。
「はあ、そうですか」
 しかし瞳子は気の抜けたような返事をかえしてきた。
「私達も予定があるから、挨拶をしにきたのと、コレ」
 可南子が鞄から出したのは、小さな包みに入ったチョコレート。
「え、私、用意してないよ」
「私じゃなくて、隣の組の梨々花さんから。恥ずかしいから、渡しておいて欲しいって」
「あ、そう、ありがと」
 拍子抜けしつつ受け取る。
 これで志摩子からの分を除いたら合計で四つ。来月のホワイトデーにはちょっと痛い出費になりそうだった。
「それではごきげんよう乃梨子さん、また明日」
「じゃあね」
「うん、ばいばい……」
 あっさりと教室を出ていく瞳子と可南子。
「本当に、何もなく行っちゃった」
 一人残された乃梨子は、拍子抜けした口調でそう言うのであった。

 

 

 男子校の花寺でもバレンタインデーでは浮ついた空気に包まれる。
 別に男子生徒同士でチョコを贈り合う習慣があるわけではないが(一部の男子ではあるみたいだが)、学校を出たらもしかしたら女の子が待っていて、「前から貴方のことが……」なんて展開があるかもと考えているのだ。
 特に距離的にほど近いリリアン女学園と月光館からの女子の姿に期待をしている。現実的にそんなことはほぼないし、あるとしても誰かの彼女というだけである。
「でもユキチはいいよな。祐巳ちゃんから確実に一つ貰えるわけだし」
「姉からのチョコをカウントに入れるのか?」
「祐巳ちゃんならアリだろ、可愛いし!」
 小林が力を込めて言うが、祐麒としてみれば実の姉のことをそう言われても首を傾げざるをえない。
「てゆうかさ、山百合会の方々から貰えないのかな? 結構さ、仲良くなったじゃないか」
「それとこれとは話が別だろ」
「ちぇっ、結局、今年ももらえないのか」
 ぼやく小林と肩を並べて歩き、校門へと到達して周囲に目を配るが、見える範囲に女の子の姿はない。
 それを見て祐麒は、自分が意外とガッカリしていることに気が付いた。
 何を期待していたというのだろうか。
 人目を忍んでというならまだしも、他に花寺の生徒が沢山いるところでなんてありえない。というか、人目を忍んでというのもないだろう。
 軽く肩をすくめ、小林と帰途につく。
「なんかこのまま帰ったら悲しいからさ、どっか寄ってこうぜ」
「OK、どこ行く?」
「女の子やカップルが沢山いる場所はNGだ。うーん、ゲーセン行くか」
「女の子やカップルもいるだろ」
「馬鹿、クレーンゲームやプリクラや音ゲーとかじゃない。昔ながらのゲーム野郎が集う、魔の巣窟よ」
「あそこか……」
 小林が言っているのは、90年代のアーケードゲームを1プレイ50円で遊べる場所で、穴場的でマニアックなゲーセンである。そして、雰囲気も昔ながらで女の子の姿などほとんど見かけない。
「今日みたいな日は、硬派な男が集っていそうだぜ」
「硬派っていうか、俺達みたいな連中だろ」
「……言うな」
「すまん……」
 落ち込みそうになる二人だったが、そこからは無理にでも元気を出してゲーセンに向かい、ゲームをしているうちに普通にテンションが上がっていった。

 

「いやー、熱かったな、『源平』の永久パターン!」
「50円で延々プレイとか、店泣かせだろ」
 盛り上がりつつゲーセンを出ると、外はすっかり暗くなっていた。
 2月の空気は体の底から冷える程だが、ゲーセンでの熱気を保ったままであるため冷気が頬に心地よい感じである。
「それでよ……ん?」
「どうした?」
 不意に言葉を切った小林の視線の先を追う。
 人が行きかう中、固まったようにその場に立ち尽くし、祐麒に目を向けている女の子がいた。
 目が合う。
「あー、俺、お邪魔なようだな。先帰るわ」
「え、おい、小林」
「いや、さすがに空気読むよ。そのかわり明日、教えろよ。じゃあな」
 小林は左手をあげ、軽妙な足取りで通り過ぎていった。
 残された祐麒は、なんともいえない状況に戸惑う。
「――あ、あのっ!」
「はいっ」
 意外と大きな声に驚き、祐麒はビクッと反応して姿勢を正した。
「こ、これ、どうぞ」
 差し出されたのは、明らかにバレンタインのチョコレートと思えるようなラッピングがされた箱だった。
「あ……ありがとう」
 祐麒は素直に受け取る。
「びっくりした。まさか、チョコレートを貰うなんて思っていなかったから」
「どうして、ですか」
「あ、いや、だって」
 祐麒は戸惑う。
 言葉通り、まさか貰えるなんて思っていなかったから。
「あのっ」
「は、はいっ!?」
 するといきなり手を握られ驚く祐麒。
 ほっそりとした冷たいその手を振りほどくことも出来ずに戸惑っていると。

「ちょっと、何やってんですか!?」

 いきなり大きな声が聞こえた。
 声に驚いて顔を横に向けると。

「――え、二条さん?」

 なぜかそこには乃梨子が立っていた。
 乃梨子はずしずしと地面を踏み鳴らすように近づいてくると、鋭い目で祐麒を睨みつけた後、ぐりっと首を捻って反対の方を向く。
「……何してんのよ、西園寺さん、だっけ?」
「何って、バレンタインのチョコをお渡ししたのです。今日は乙女が意中の殿方に想いを込めてチョコレートを渡す日。私の気持ちをまさか貴女に否定されるいわれはないわ」
「だから別にチョコを渡すのは構わないわよ。でも、だったら手を握る必要ないでしょ」
 乃梨子が手を伸ばし、祐麒の手を包んでいた西園寺ゆかりの腕を掴んだ。
「痛いですわ、離してくれます?」
 ゆかりが祐麒の手を離したのを見て、乃梨子もゆかりを掴んでいた手を離す。
「懲りないわね、西園寺さんも。前に……」
「あなた、祐麒さまの彼女というの、まるっきりの出鱈目じゃありませんか。私、調べましたのよ」
「え……」
「リリアンに知り合いもいますし、ちゃんと裏も取りました。確かに祐麒さまと仲は良いようですが、まだ確定的な間柄ではないと」
「そ、それは」
「だから私、一大決心をして今日はやってきましたの。祐麒さま」
「は、はいっ」
 半ば呆然として乃梨子とのやり取りを見ていた祐麒は、いきなりゆかりから名前を呼ばれ、正面から見つめられてドキッとする。
「先ほどのチョコレートは私の嘘偽りない気持ちです。その、ですから、その……お、お慕い申し上げております……」
 顔を赤くさせながらも、懸命に、真っ直ぐに思いをぶつけてくるゆかり。
「ええと、ありがとう、西園寺さん」
 真剣な思いを受け止めないわけにはいかない。
 祐麒は素直に、ゆかりの好意は嬉しいと思い、そう言った。
「……私は思いを伝えましたわ。あなたは、どうですか?」
「……別に、ここでどうこうしなきゃいけないわけじゃないでしょ」
「もちろん、それはそうでわ」
「――でも」
 そう言った後、乃梨子が"ずびしっ!"という感じで小さな包みを突き出してきた。
「まあ、せっかく、偶々、会ったし。渡しておくわ」
 頬を紅潮させ、怒ったような目つきで口を尖らせた乃梨子が、バレンタインチョコと思しきものを祐麒に向けている。
「別に、本命とかそういうんじゃないし。ただ色々と生徒会でお世話になっているのも確かだし、そういうの、だから」
「あ、うん」
 まあ、そうだよなと思いながら祐麒が受け取ろうと手を出すと。
「…………ただ、男の人にあげるのは、コレ一個だけ、だから」
 小さな声で、乃梨子はそう付け足した。
「あ、ありがとう」
 受け取りながら、祐麒も顔が熱くなるのを感じた。
「祐麒さま」
「はいっ」
 再びゆかりに呼ばれる。
「……ご返事は急ぎません。一か月後、ホワイトデーの日に、いただければ……それでは、失礼致しますっ」
 深々と頭を下げると、ゆかりは背を向けて歩き出した。
 横を通り過ぎる際、乃梨子の方にはちらとも視線を向けず背を伸ばして。
 角を曲がり、姿が見えなくなって。
 そして。

 

 

「……はぁぁぁっ、き、緊張しましたわ瞳子さん! 私もう、心臓が止まってしまいそうです!」
「あ、ちょっと馬鹿、まだ大きな声出しちゃ駄目でしょ!」
「ですが私!」

 角の向こうからそんな声が聞こえた。
「……え、瞳子?」
 慌てて曲がり角まで駆けていこうとした乃梨子だったが、目の前を人影によって塞がれて進めなくなる。
「乃梨子さん、この先はちょっと、ね」
「って、可南子さん!? なんで、ここに」
「あー、ほら、色々と、ねえ」
「色々って」
「――あら乃梨子さん、こんなところで奇遇ですわね」
「瞳子っ、何をしらじらしいことを。今の西園寺さん、瞳子の差し金だったのね?」
 憤然としてそう言うと、逆に瞳子が怒りの目をして見つめ返してきた。
「人聞きの悪い事言わないでくださいませ。ゆかりさんは本当に祐麒さまのことをお慕いし、私に頭を下げて今日のことをお願いされたのです。私は一人の女として、ゆかりさんに協力しただけですわ。可南子さんも手伝ってくださいました」
「手伝ったって言っても、話を聞くくらいよ。ほら、乃梨子さんにもなんか悪い気がして」
 ちょっと気まずそうな顔をする可南子を見て乃梨子は悟った。バレンタインに向けて祐麒のことで乃梨子をからかわなかったのは、ゆかりの件があったからなのだと。
「何よコレ……これじゃ私が悪役じゃない……」
 落ち込む乃梨子。
 乃梨子だって女だ、ゆかりがどれだけの勇気を振り絞って今日という日に臨んだのか、想像だけとはいえできる。
 その大事な時を邪魔してしまった自分はなんて醜いのだろうと自己嫌悪に陥る。
「仕方ありませんわ、恋敵が目の前に現れて咄嗟の行動なのでしょうから、責められませんわ」
「そうよ乃梨子さん、ただ黙って見ているだけなんて、乃梨子さんらしくないもの。いいじゃない、恋は戦いよ」
「そ、そう……って、いやいや二人とも勘違いしてない!? 私は別に、祐麒さん、その、えっと!」
「またまた、今さらそんな。今日は真っ直ぐ帰るんじゃありませんでしたの?」
「え!? いや、一度帰ってからまた出てきて」
「制服姿で?」
「き、着替えるのが面倒で」
「で、この時間に、一体なんでこんなところに?」
「え、えと、董子さんに頼まれごとが」
「嘘よ、だって乃梨子さんずっと祐麒さんの後をつけていたじゃない。私たちもゆかりさんと一緒にずっと追いかけていたんだけど、途中で私気付いて、"あ、乃梨子さんだ"って思ったもの」
「あら可南子さん、だったら教えてくださればよかったのに」
「そうしたらゆかりさんにも知られて、大変なことになるじゃない」
「まあ、それもそうですわね……で」
 そこで可南子と瞳子が仲良く揃って満面の笑みを乃梨子に向けて口を開いた。

「乃梨子さんは祐麒さまのこと、どう思っているのかしら?」
「ただ一人、チョコを渡した男性として、ねぇ?」

 詰め寄られて、乃梨子は。
「……………………っ!!!!」

 首まで真っ赤になって、何も言い返すことが出来なかったのであった。

 

 

つづく?

 

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