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マリア様がみてる 百合CP

【マリみてSS(乃梨子×笙子×日出実)】熱くてとまらない

更新日:

~ 熱くてとまらない ~

 

 

 梅雨も明けかけた七月。
 日出実と笙子はお喋りしながら並んで廊下を歩いていた。
「それじゃあ、『りりあんかわら版』の次の特集は――」
「うん、任せて。写真については今週末には――」
 新聞部と写真部という部活動の接点、そして同じクラスということもあり、ここのところ笙子と一緒に活動することが多くなっていた。
 これに、山百合会の活動もあれば乃梨子も加わる。
 梅雨の最中のデートから乃梨子との距離も縮まり、いつのまにか仲良し三人組というクラスでの立ち位置になっていた。
 日出実としては、願ってもいないポジションである。
 二条乃梨子と内藤笙子、現在の二年生において注目を浴びる人物の内の二人と一緒にいられるのだから。

 

 そんなある日、珍しく乃梨子が体調を崩して学校を休んだ。担任教師によると、単なる風邪とのことだが、やはり山百合会の活動などが忙しいせいもあるのだろうか。
 授業中日出実は、教室内でぽつんと空間のできてしまった机を、何度と無く見る。いつもいる人がいないということに、ちょっと切なくなる。
 胸がキュッと締め付けられるような気がしたところで、我に返り視線を教科書に戻す。
 違う、別にこれは変な気持ちではない。親しい友達が体調を崩して休んだとなれば、誰だって心配するではないか。
 そうだ、これは友情である。
 なぜか日出実は、必要以上に自分に言い聞かせるのであった。

 

 そして昼休み。
 乃梨子がいないということもあり、日出実と笙子は二人で昼食をとっていた。場所は、写真部の部室。次の『りりあんかわら版』では、写真部と新聞部で協力しての記事作成となるから、その打ち合わせも兼ねているのだが。
「日出実さん、授業中、乃梨子さんの席ばっかり見ていたね」
「ぶっ!?」
 いきなり笙子に言われて、口にしていたご飯を噴出しそうになった。
「なっ、そ、そんなこと、ないわよ?」
「嘘だー、だって私の席からだと日出実さん、よく見えるから分かるもん」
 笙子の席は、日出実の席より斜め後ろにあるから、確かにそうなのかもしれないが。言われるほど、乃梨子の席ばかり見ていたわけではないはずだ。多分。きっと。
「た、たまたまじゃないかしら。そういうタイミングで」
「そんなに恥しがらなくてもいいじゃない。乃梨子さんのことが心配なのは、私も同じだし」
 笙子はにこやかに言うが、日出実は素直に頷けなかった。まるで、乃梨子のことを気にしまくっているようではないか。
「……ただの風邪でしょう。別に、そこまで心配しているわけじゃないわ」
 笙子の視線を避けるようにして、横を向く。
 視線が注がれている頬が、熱い。
「ふふ、そう」
 なぜか笑う笙子。まるで、全て分かっているから、みたいに感じられるのは、日出実の自意識過剰であろうか。
 日出実は無視して、弁当の続きを食そうと箸をのばす。
「あ、春巻き美味しそう~」
 横から、声が割り込んだ。
 ちなみに写真部室内は色々と散らかっており、片付けるのも時間がかかりそうだったので、二人は空いていた場所に横に並んで座っていた。
 隣を横目で見れば、笙子が瞳を輝かせて、日出実の箸がつまんだ春巻きを見つめていた。
「……食べる?」
「うん!」
 ためらいもなく頷き、そして「あーん」と口を開ける笙子。
「――え、えっ!?」
 うろたえる日出実。
 笙子の弁当箱に置こうと思っていただけなのに、思わぬ展開。
「ちょ、ちょっと笙子さん。さすがにそれは、ちょっと恥しいっていうか」
「え? 誰もいないよ」
 確かに、部室内には二人以外、誰もいないから、他人に見られる心配というのは無いが、これは日出実の精神的な問題である。
 どうするべきかと思案するが、笙子は日出実に考える時間を与えることも無く、再び小さく可愛らしい口を開けて、催促する。
「うっ……」
 その仕種が、表情が、あまりに可愛すぎた。
 完全に、日出実の心臓を貫いた。
 可愛いというのは、ある意味、凶器である。
 日出実は敗北し、薄茶色い棒状の物体を笙子の小さな口内へと押し入れた。笙子のピンク色の唇が咥え、もごもごと動く。
 その様を見て、日出実は鼻血を噴き出しそうになった。
「美味しーい! エビチリ入っているんだね!」
「え、ええ」
「ん、どうしたの日出実さん」
 鼻をおさえて俯いている日出実のことを、きょとんとした目で見つめている。
「な、なんでもないから」
 誤魔化すようにプチトマトをつまんで口に運んだところで、気がつく。ひょっとして、笙子と間接キスをしてしまったのかと。
「そうだ、それじゃあお返しに、私のお弁当のおかずも一つあげるね。どれがいい?」
「あ、わ、わ……」
 笙子の問いに答える余裕もない。
 笙子はといえば、日出実の答えも聞かず、「どれがいいかな」などとつぶやきながら、自分の弁当箱を除いて吟味している。
 やがて、「じゃあ、これ」といって選んだのは、鶏肉の磯辺巻き。小さな箸でつまみあげると、「はい、あーん」といって差し出してきた。
「え、いえ、自分で食べられるから」
 食べさせるより、食べさせられる方が恥しい。たとえ誰も見ていないとしても、物凄く恥しい。
 しかし、笙子は諦めずにすすめてくる。
「いいから、もう」
 少し強めに、拒否の姿勢を見せるが、笙子はかえってムキになったようだ。
「いいじゃん、ほらー」
 言いながら、空いている方の手で日出実の手を抑える。さらに身を乗り出してきて、磯辺巻きを突き出してくる。
「ちょっと、あ、危ないから」
 身体を反る日出実。
 迫ってくる笙子。
「わ、分かった。食べるから。いただきますから」
「本当?」
「ホント、ホント」
「じゃあはい、あーん」
 期待に満ちた表情で、見つめてくる笙子。
 日出実はぐっと息をのみ、頬に熱が帯びるのを感じながら、目を閉じてゆっくり口を開ける。
「あ、あーん……」
 羞恥をこらえる。
 口の中に差し入れられる磯辺巻きだったが、正直、味もよくわからないままに咀嚼して嚥下した。
 ちらりと目を開けると、笙子が嬉しそうに日出実を見ている。
「……お、美味しかった、わよ」
 まともに顔を合わせづらく、上目遣いでつぶやくようにそう言うと。
 なぜか笙子は、両脇をギュッと締めて、身体を震わせていた。顔は上気し、目は強くつむられている。
 何事かあったのだろうか、と、思っていると。
「日出実さんて、か、かわいい~~~~っ!!!」
 握り拳を上下にぶんぶんと振りながら、黄色い声をあげた。
「…………え?」
「やー、もう日出実さん可愛すぎるっ! ちょっとツンとした仕種、照れを含んだ表情、言葉、可愛いなぁもう」
 なぜかデレデレの表情になっている。
 日出実は戸惑いながらも、否定する。
「私が? そんなわけないでしょう、笙子さんの方がずっと可愛いじゃない……」
 超絶的に可愛い女の子に可愛いといわれても、凹む。
「笙子さんは素直だし、明るいし、性格も良いし……」
「えっ、そんなこと、全然ないよ。ってゆうか私、日出実さんからそういう風に見られていたんだぁ」
 驚いたように目を丸くする笙子。
 その驚きは、嘘だとは思えなかった。
「……私、全然素直で良い子なんかじゃないよ」
 ちょっと、声のトーンが落ちる。
 正面を向いたまま、誰に告げるとでもなく笙子は続ける。
「私、小さい頃からモデルをやっていたって、知っているよね。ああいう世界ってさ、綺麗なことばかりじゃないから。やっぱり、大人の世界というか、大人の思惑とかいろいろあって、そういうのを見てきちゃったから。素直で明るい子っていうのがやっぱり子供には求められて、だから私もあまり深く考えずにそうでいようって、そんな感じで育っちゃったから。日出実さんが見ている私は、そんな良い子じゃないんだよ」
 思いもかけない告白であった。
 モデルの話は知っていたが、深く聞いたことは無かった。こんなに可愛いのだから、モデルくらいやっていてもおかしくないと納得したものだが、まさか笙子がそんな気持ちを抱えていたなんて、想像もしていなかった。
 想像力の欠如していた自身を、日出実は責めた。
 だけど、笙子に謝る、などという過ちは犯さなかった。
「笙子さんが何て言ったって、私の知っている笙子さんは、とっても可愛くて素直で、素敵な女の子よ。それとも笙子さんは、私の目が腐っているとでも言うの?」
「日出実、さん……」
 笙子が、日出実の方を向いた。
 気のせいだろうか、瞳がわずかに潤んでいるように見える。
 美少女の涙とは、鬼に金棒だ。日出実のハートも震える。
「ありがとう、日出実さんっ」
「うわあっ!?」
 突然、抱きつかれた。
 甘くていい匂いが、くすぐったい。
 そして何より、胸に押し付けられてくる圧倒的な弾力に、それこそ圧倒される。なんですかこれは、巨大マシュマロ爆弾ですか。その細っこい体のどこに、隠し持っていたのですか。というか、気持ちよくて脳が溶けそうで何か漏らしそうだった。
 そんな日出実を救ったのは、予鈴の音。
 まだ、お弁当を食べ終えていなかった二人は、慌ててかきこんで教室に戻ったのであった。

 

 一日の授業が終わり、本来であれば部活に赴くところであったが、日出実と笙子は申し合わせたように部活を休むことにした。
 理由はもちろん、乃梨子の見舞いに行くため。教師にも、学校帰りに寄ることの許可を得ている。
「乃梨子さんて確か、小母さまと二人暮らしだったわよね」
 バスに揺られながら、二人で話す。
「小母さまは働きに出ているって聞いたから、日中は一人で寝ていたのかしら。かわいそう、ご飯とかちゃんと食べてるかなぁ」
 不安そうな表情を見せる笙子。
 日出実は、安心させるようにあえて明るい声を出した。
「乃梨子さんなら、大丈夫じゃない? なんたって、乃梨子さんだもの」
「あ、それ分かる気がする。ねえ知ってる、日出実さん? 乃梨子さんって、デートのとき凄いんだよ。まるで、洗練された大人の男性みたいなスマートさで、自然にエスコートしてくれるの」
「そうそう! 私もビックリしちゃった。きっとアレで、白薔薇様なんかも篭絡されたんじゃないかしら」
 乃梨子の話で弾む。
 曰く、学校で交わされた日常会話の中から好みを探り、デートコースに自然に組み入れてくれるとか、ディナーのお店を予約していたとか、ショッピングのとき荷物は分け合うのだがさりげなく重いものを持ってくれるとか、必ずその日のファッションを誉めてくれるとか。
 お互いに、「あー、あるある!」、「え、そんなことまでしてくれたの!?」といった感じで盛り上がりまくりである。
「あれじゃあ、人気が出るわけだよね」
「本当、乃梨子さんの人気の秘密も分かった気がする……」
 と、そこで。
 話が盛り上がっていたためか、笙子との距離が近くなっていたことに気がついた。夏服となり、半袖となった腕、肌と肌が触れ合う。
 笙子の手は、日出実の太腿の上に置かれていた。制服のスカート越しに、笙子の指を感じ、肌がざわつく。
 肘に押し付けられるのは、胸の膨らみ。
 いけない誘惑に、日出実の頭はクラクラするが、自分には乃梨子がいるじゃないかと慌てて悪魔の囁きを打ち消す。
 ……ってちょっと待て。『私には乃梨子がいる』って、それおかしくないか。自分は別に、乃梨子のことをそんな風に思っているわけではないのだと、心の中で必死に否定する。
 自分と戦っている日出実だったが、ふと横を見てみると、なぜか同じように笙子も両手で頬をおさえて首を振り、
「……やば、日出実さん可愛い……でも乃梨子さんが……」
 何やらぶつぶつと言っていた。

 そうこうしているうちに、乃梨子の住むマンションに辿り着いた。
 二人は、部屋の扉の前で躊躇していた。
「小母さまがいないとすると、乃梨子さん一人でいるのよね。もし寝ていたら、無理に起こすことになっちゃうのかな」
「でも、放っておくのも嫌だし。ここまで来たんだし、チャイムだけでも鳴らしてみようよ。もし、本当に辛いなら、チャイムが聞こえても無視するだろうし」
 結局、笙子の意見を採用してチャイムを押すことにした。一回だけ押して、もしも出てこないようであれば寝ているとみなし、素直に帰ろうと。
 果たして、笙子がチャイムを押して十数秒、乃梨子は玄関に姿を現した。
「……あれ、笙子さんに、日出実さん?」
「あの、一緒にお見舞いに来たの。心配だったから」
「あ、すぐに帰るから。私達に構わないで、体を休めて」
 出てきた乃梨子は、熱があるのか顔が赤く、目にも力強い光はなかった。それでも、しっかりとした口調と足取りで、遠慮する日出実たちを中に招き入れる。
 お茶を入れようとする乃梨子の背中を押すようにして、無理矢理に部屋に連れて行ってベッドに寝かせる。
 真面目だというのも、こういうときに少し困ったものである。
「あのね、お見舞いに桃と、アイスを買ってきたんだけれど、良かったら食べる? あ、食欲ないなら冷蔵庫にいれておくけれど」
「ありがと、わざわざ。ただの風邪なんだけどね」
 横になったまま、笑う乃梨子。
 笙子はタオルを冷たい水にひたして絞り、日出実は桃を切って皿に盛る。すぐに食べることを予想して、学校にいる間に桃は予約して特別に冷やしてもらっておいた。
「お待たせー」
「ありがと、日出実さん」
「あ、乃梨子さんはそのままでいいから」
 と、フォークを手にしたところで日出実は気づいた。これ即ち、日出実が乃梨子に食べさせてあげる、ということではないだろうか。乃梨子に対して、「あーん」をしてあげるのだ。想像して、赤面しそうになったが、想像はこの後すぐに現実となるのだ。
 態度を変えては変に意識していると思われかねないから、心頭滅却して桃をフォークで刺し、乃梨子の口元に持ってゆく。
「はい、乃梨子さ……」
「ん、あーん」
 素直に、口をあける乃梨子。
 いつもはクールな乃梨子が見せる子供のような言動に、日出実のテンションは一気に斜め上方に突き抜けた。
「あ、あああああ、あ、あー、ん」
「ん……冷たくて、おいしい」
 見たことがないような乃梨子の無邪気な笑顔に、声もなく身悶える日出実。
「わ、私もやる! はい、乃梨子さん、あーん、あーんっ」
 たまらなくなったのか、笙子も僅かに頬を紅潮させ、興奮したように桃を突き刺し、乃梨子の口元に差し出す。
「あは、ちょ、ちょっと待ってよ」
 苦笑いしながらも、乃梨子は口を開く。ぬるんとした、てらてらと光る桃色の果実を、乃梨子の口から伸びてきた舌がそっと舐め、唇で優しくキスするように咥える。口から僅かにはみ出ている桃から滴り落ちるのは、桃の水分か乃梨子の唾液か。
 ちゅぱっ、と音を立てて乃梨子の咥内に吸い込まれ、ねぶられ、こくりと喉を鳴らして飲み込んでゆく。
「んっ……はぁ……美味しかった……って、どうしたの、二人とも?」
「い、いえ、別に……」
「ちょっと、血が昇って……」
 日出実も笙子も、鼻をおさえてうずくまっていた。
「変な二人……あ」
「ん、どうかしたの、乃梨子さん?」
「あ、いや、桃の滴が垂れちゃって」
「拭いてあげるわよ」
 タオルを取り、手をのばすと。
 パジャマの一番上と、上から二つ目のボタンが外れていて、胸元がはだけている。目に飛び込んでくる、乃梨子の鎖骨と胸の膨らみ。そして滑らかな肌は、汗と、桃から滴り落ちた果汁で艶やかに光っている。風邪で優れない体調が、逆に退廃的で危険な色香を漂わせていた。
 むせるような匂い、色気に、のぼせそうになる日出実であったが、懸命に震える腕をのばし、乃梨子の肌に触れた。
「にゃ、にゃ、にゃーーーーーっ!!」
 伝わってくる柔らかさは、初デートのときに服の上から触れた比ではなかった。しかも、タオルからはみ出した親指は、直に乃梨子の膨らみを感じていた。ぬるりと、汗ばんだ肌の感触は吸い付くようで。
「わ、わ、私も拭くっ!」
 次いで参戦した笙子も。
「にゃにゃにゃーーーんっ!!」
 同様に撃沈した。

 二人して、下手したら流血沙汰になるのをどうにかこらえて拭き終える頃には、疲労困憊になっていた。主に、精神的に。
 乃梨子は額に冷やしたタオルを乗せ、安らいだ顔をしていた。
「ご、ごめんね乃梨子さん。なんか結局、二人して騒いでばかりで」
 日出実と笙子は、ベッド際でしゅんとしていた。
 熱で寝込んでいる乃梨子の見舞いに来たはずが、賑やかしとして余計なことばかりしていたような気がするから。
 自己嫌悪に陥りかけた日出実であったが、ふと手に熱い感触。
 見れば、布団から伸びた乃梨子の手が、日出実の手に重ねられていた。顔を上げると、乃梨子と目が合う。
 乃梨子の手が動き、続いて笙子の手に重ねられた。
「乃梨子……さん?」
 日出実と笙子の目が、乃梨子を見据えると。
「へへ……こうして『両手に花』なら、たまには風邪引くのも、いいかもね」
 火照った顔で、乃梨子は微笑んだ。
 その、殺し文句と笑顔に。
 日出実と笙子は、揃って討ち死にしたのであった。

 

 乃梨子の見舞いの翌日。
 朝、自席で授業の準備をしていると、教室内に入ってくる乃梨子の姿が見えた。日出実と笙子はほぼ同時に立ち上がり、あわせたように乃梨子の席に近づいていった。
「乃梨子さん。もう、体の方は大丈夫なの?」
「うん、お陰様で。二人とも、昨日はありがとう」
 見る限り、顔色も悪くないし、無理をしている様子は見られなかった。自分達が騒いだせいで、乃梨子の具合が悪化したらどうしようと不安になっていただけに、ちょっと、胸を撫で下ろす。
「なんか、昨日は意識がぼんやりしていたから……恥しい姿、ばっちり見られちゃったね」
 ほんのりと朱に染めた頬と口元を右手で隠すようにして、乃梨子は二人に交互に視線を送る。
 日出実と笙子は、昨日の乃梨子の姿を思い出し、これまた頬を染める。
「でも昨日はお世話になっちゃったから、今度もし、二人が風邪で休むようなことがあったら、私が看病してあげるね」
 乃梨子の言葉に、日出実は想像した。

 熱を出して寝込んでいる日出実の横で、優しい眼差しを送ってくる乃梨子。その手がゆっくりと伸び、日出実の寝巻きのボタンを一つずつ、しなやかな指で外してゆく。
「……汗を拭いて、着替えないとね。ふふ、ほら恥しがらないで」
 乃梨子の言葉は魔法。
 確実に、脱がされてゆく。
「ショーツも、替えないとね」
「で、でも……」
「大丈夫、私に任せて、ね……」
 両手で胸を隠しながら、乃梨子の言葉に逆らえず、腰を浮かせる日出実。乃梨子の指がショーツをそっと下ろしてゆく。
「そういえば、まだ汗、出きっていないでしょう? たくさん汗を出して、熱を放出したほうが治りが早いのよ。私が手伝ってあげるから、ほら」
「や、の、乃梨子さん、ダメ……」
 室内に、日出実の熱い吐息が細く響き――

「「――だ、だめーーーーっ!!」」
 日出実と笙子の悲鳴が重なる。
「ど、どうしたの、二人とも?」
 驚いた乃梨子の目と、クラスメイトの好奇の視線が二人に突き刺さる。
「いえ、その……あ」
 ぽたり、と床に滴り落ちた水滴。
 見ると、それは鮮やかな赤で。
「わ、日出実さん、鼻血、鼻血っ」
「え、あ、ひぃーーっ!?」
「今日暑いから、のぼせちゃったのかな。ティッシュ、ティッシュ」
 自分の血を見てクラクラしながら。

 

 果たしてこの先大丈夫だろうかと、自分の行く末を本気で心配し始める日出実なのであった。

 

 ちなみに、何をどのように心配しているかは、とても口には出せなかった。

 

 

おしまい

 

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