書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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ノーマルCP マリア様がみてる 可南子

【マリみてSS(可南子×祐麒)】練習? <美月ルート>

更新日:

~ 練習? ~
<美月ルート>

 

 夏休みも既に後半に突入している。
 今年の夏休みは例年になく充実していると感じている。その大きな要因はといえば考える間でもなく、可南子の存在だ。
 毎日のようにバスケの練習に付き合って、アイスを一緒に食べに行って、遊園地のプールに行って、夏祭りに行って花火を見て。夏といえば、と問われて出てくるイベントを次々とこなしていて、後は海水浴だろうか。まあ、プールに行って水着姿は見ることが出来ているし、海月も出始めるころかもしれないので海は諦めよう。
 これ以上を望むのはさすがに贅沢かと思っていたその矢先、声をかけてきたのは可南子の母、美月であった。
 午前中にバスケの練習をした後、そのまま別れることもあるが、午後も一緒に行動する時もある。街に買い物に出かけたり、図書館に夏休みの宿題をしに行ったり、可南子の家でまったりとしたり。
 基本的に可南子の機嫌が良いときに、一緒にいることができる。さすがに毎日のように一緒について回ったら、鬱陶しがられるだろうから、その辺はうまいことバランスをとらなければならない。
 その日は、帰りがけにDVDを借りてきて、可南子の家で二人で映画鑑賞をしていた。二人で観ればレンタル料金も半額で済むからである。
 シリーズもので、のめり込んで止め時を失い、気が付けば夕方になっていた。
「あ、もうこんな時間か。そろそろ帰らないと」
 一区切りがついたところで時計を見て、呟く。
「そう。じゃあ、続きはまた今度ね」
 DVDをプレイヤーから取り出してケースにしまい、テーブルの上に置いてあった麦茶の入っていたコップを持って、可南子はキッチンへと姿を消す。そのタイミングでちょうど、玄関の扉が開いた。
「ただいまー、あーもう、今日もあっついわー」
 だるそうな表情と声で入ってくる美月は、暑さに耐えかねるかのように右手で顔を扇ぎながら、左手でブラウスのボタンを外して胸元を大きく開いた。
 目に飛び込んでくる、淡い水色のブラと胸の膨らみ。
 突然のことに目を逸らすことも、瞑ることもできず、固まったまま見入ってしまう。
「えっ? あ、やだ」
 祐麒に気が付いた美月が、慌ててブラウスの前を手で抑えて胸元を隠す。頬の周辺がさっと朱を帯びる。
 もちろん、祐麒も赤面しつつ急いで顔を横に向ける。
「あ、き、来ていたんだユウキくん、いらっしゃい。ごめんなさい、見苦しいところ見せちゃって。つい、いつもの癖で」
「いえ、そんな見苦しいなんてとんでもない、むしろ綺麗でした!」
 僅かの間のことであったが、綺麗な肌にうっすらと玉の汗が浮かび、胸は大きすぎず小さすぎず良い形を保ち、少し乱れた髪の毛は首筋に張り付き、えもいわれぬ上品な色気を祐麒に感じさせた。
 とまあ、格好いいことを言うようであるが、要は思いがけない幸運にドギマギしていただけである。おかげでとんでもないことを口走ってしまったが、タイミングよく可南子が現れる。
「お帰りなさい、お母さん。外、よほど暑いのね、汗凄いし、顔赤いよ」
 キッチンから戻ってきた可南子が、美月を見てそう指摘をすると、美月はそそくさと隣の部屋へと足を運ぶ。
「あはは、うん、そうね暑くてもう」
 胸元を抑えつつ、消える。
「何か変なの……って、ユウキも顔赤いけれど、暑い……に決まっているか、エアコンなしで扇風機だけじゃあ」
「いや、大丈夫、うん、落ち着いた」
「――――?」
 首を傾げる可南子を、とりあえず無視する。
 やがて、Tシャツにクロップドパンツというカジュアルな格好に着替えた美月が部屋から出てきたところで、挨拶をして帰宅しようとしたのだが引き止められ、質問された。
「あー、ユウキくん、ちょっと待って。ねえ、一つ質問なんだけど、ユウキくんはキャンプでテントの設営とかって、できる?」
 と。

 

「急なお願いでごめんね、ユウキくん」
「いえ、俺も暇だったし、ありがたいです」
 運転席から話しかけてくる美月に、笑って返答する。
 ちらりとバックミラーを見てみれば、可南子と、そしてもう一人、小学校高学年くらいの子供が後部座席に座っていてお喋りをしている。
 その子は塔山暁、美月たちの親戚にあたる子とのこと。本来、この夏休みに暁とその両親でキャンプに出かける予定が、急な用事によって都合が悪くなったところで美月に相談が来た。暁はキャンプを楽しみにしており、美月たちに連れて行ってもらえないかということだ。
 美月も可南子も、暁とは昔から知り合いで仲も良いので、予定さえあえば問題ないのだが、キャンプとなると二人とも経験がなくて二の足を踏んでいた。出来れば経験のある男手が欲しいところだが、そうそう候補者はいない。そもそも、男嫌いの可南子が許可するような相手となると更に難しい。
 そこで、若くはあるが祐麒に声がかかったというわけだ。幸い、祐麒は家族で何度かキャンプの経験があったし、学校のイベントや、野球部の仲間と行ったこともあった。
 初対面の子供と一緒、というのが少し不安ではあったが、可南子と一泊のキャンプの魅力の方が遥かに大きく、こうして要請に快く応えたというわけだ。
 美月の運転で数時間、何事もなく無事にキャンプ場に到着する。車を降りると、まず何より濃密な草や木々の匂いが出迎えてくれた。明らかに、都会と比べて空気が綺麗で、暑くはあるけれどどこか心地よい。
 隣では、暁も気持ちよさそうに伸びをしている。
 相当に夏は外で遊んだのか、肌はこんがりと小麦色に焼けている。最近では室内で遊ぶ方が多いが、暁は元気のよいアウトドア派のようだ。プロ野球球団のキャップの庇の下には、やや吊り目がちながらも大きな目に、強気を思わせる口元。ボーダーのタンクトップシャツの上から半袖パーカ、半ズボンにスニーカーという活発な格好。
「よう。えーっと、暁、でいいんだよな?」
「……そうだけど」
「今日と明日、よろしくな」
 親しげに話しかけたつもりだったが、暁は軽く顎を引いただけで特に返事をしない。
「ユウキくん、テント設営お願いできる?」
「了解です。うっし、それじゃ気張ってテント作るか。暁も手伝ってくれよ?」
 美月の声に、車の方に体を向ける。
 暁は、ちらちらと祐麒や車の方に視線を向けている。
 男の子なら、テントの設営とか楽しみにしているに決まっている。祐麒は内心で微笑みながら、暁に声をかける。
「テント作らないと何も始まらないからな、さっさか作るぞ。俺のテントテクニック、見せてやるからな。テント作ったら、遊ぼうな。ハイキングでも、虫とりでも、釣りでも、なんでもいけるぞ」
 本来なら、両親と一緒の楽しいキャンプのはずだったのだ、その心をくみ取ってやらねばなるまい。いくら付き合いがあるとはいえ、親戚相手では気も遣うであろう。だから祐麒は、逆に気を遣わずに接していいぞと、態度で示して見せる。
「テントを作るのは楽しいぞー」
「…………ん」
 そう簡単に気を許すことは出来ないのか、気難しい顔をして見せているが、興味を示しているのが明らかに分かる。
「よし、行くぜ」
 歩き出すと、少し遅れて暁もついてきた。
 汗をダラダラ流しながら車から荷物を運び出し、なかなか賑わっているキャンプ場でテントの設営場所を決める。
 いざ、テントを作り始めようとすると、先ほどの難しそうな顔はどこへやら、すぐ楽しげにテントを作ろうとする暁。可南子と美月にも手伝ってもらうが、三人とも未経験者なので祐麒が指示出しするしかない。しかし、暁は子供特有の我が儘というか、やりたがりというかで、自分で勝手にやろうとするので注意が必要だった。
「あ、ちょっと待て暁、入り口はそっちじゃない、反対側」
「なんで?」
「こっちが風下だからだよ。入口が風上を向いていると、雨や風が強いと中に入るたびに雨や埃、あと煙なんかが中に入ってきちゃうからな。そんなの嫌だろ?」
「ふーん」
「ユウキくん、頼りになるわね。声かけて正解だったわー」
「ねぇユウキ、これどうやって結ぶの?」
 さほど難しいテントではないが、祐麒も久しぶりだし、慣れない者が多いのでそれなりに時間がかかってしまった。テント設営が無事に終わり、荷物を整理したら昼食の準備にとりかかる。
 昼食は定番のカレーだ。料理になれば、今度は美月が指示を出して子供たちが作る。自分で作ることも、キャンプの楽しみだ。
「うわ、ユウキ、下手くそー」
「うるせっ、お前だってたいして変わんないじゃないか」
「へへーん、オレの方が綺麗に剥けてるもんね、ねえ、可南ちゃん?」
「そうねー、明らかにユウキの方が不細工で、小さくなってるわね」
 その頃には、暁も祐麒のことを名前で呼び捨てるようになっていた。まあ、子供なんてそんなもんだと思えば、腹も立たない。
「ほらほらー、カレーの具がなくなっちゃうよそんなんじゃー」
 と、なんだかんだと騒ぎながらもカレーが出来上がる。
 飯盒で炊いた白米とカレー、具材もルーも特別なものは何もないのに、こういう場所で自分たちで作ると、なぜか無性に美味に感じられるのは今も昔も変わらないようだ。
 昼食を終え、やや食いすぎ気味だったのでベンチでぐったりしている。カレーもご飯も少し量が多く、かなりの量を祐麒が食べたせいだ。  昼寝でもするかと思っていると、祐麒を覆い尽くす影が目の前に立ちふさがった。
「ちょっと、何いきなりだらけてんのよ、おっさんくさい」
 可南子が腰に手を当て、見下ろして来ていた。
 料理の時、アップにしてまとめていた長い髪の毛を、今は両サイドで縛ったツインテールにしている。長身でクールな黒髪美少女のツインテール、それだけでご飯何杯でもいけそうであった。
 可南子の隣には、唇を尖らせている暁。
「……テント作ったら、なんでも遊ぶって言っていたくせに」
「ぐっ」
「あー、いやねー、嘘つきって」
「嘘なんて言ってないって、よーし、今から遊び倒そうじゃないか、何すっか」
 言いながらちらと可南子、そして美月のことをちらりと見る。
「あー、あたしは休んでいるから、若い子達だけで遊んできていいよ」
 美月が、ひらひらと手を振る。
 気を遣っているのか、それとも本心なのか分からないが、美月を一人残して遊びに行くというのはどうなのだろうか。
 祐麒はちょっと思案し、決断した。

 

b.運転で疲れているし美月は休ませたいので、可南子と暁の三人で遊びに行こう

 

 ずっと運転してきているし、子供たちの面倒をしなければいけないから、実際、美月は疲れているだろう。ここは無理に誘わずに、可南子と暁、三人で遊ぼうと考えた。それに、まだ夜のバーベキューや花火など、美月と楽しむ時間はあるのだから。
 そうして暁にまず何をして遊びたいか尋ねたところ、魚釣りをリクエストされたので、川へと向かう。道具はキャンプ場のレンタルだ。
 本来なら本格的に渓流釣りをするのが良いのかもしれないが、何せ可南子も暁も初心者だし、それでは釣れるかどうかも分からない。このキャンプ場では川をせき止めた放流釣り場が用意されているので、そこでニジマスを釣ることにする。これなら、自然に近い環境で、且つほぼ確実に釣ることができる。
 最初にヒットしたのは可南子だった。
「わ、え、ちょ、ちょっとこれ、どうしたいいのっ?」
 あわあわと慌てる可南子の方に近寄り、後ろから可南子の腕に手を添えてヘルプする。
「ちょっとユウキ、どさくさに紛れて何抱き着いているのよ!?」
「そんなんじゃないって、ほら、集中して」
 まあ実際、可南子の言うとおりなのだが。
「あ、ゆ、ユウキ、こっちも!」
 そうこうしていると、暁の方でもかかったようで声がかかる。素早く可南子の手伝いを終えると、暁の方に向かう。ちょっと説明しながら、どうにか暁自身の手で釣ることに成功させる。
「うわぁ……」
 吊り上げたニジマスを見て、暁は目を輝かせている。
「夜にはバーベキューで食うんだ、美味いぞ」
「凄い、楽しい! もっと釣る!」
 嬉々として続けようとする暁だが、こういうときに注意力が散漫となる。
「おい暁、足元気をつけろ」
「へーき、へーき、って、うわぁっ!」
 言った傍から濡れた足場に滑り、バランスを崩す。咄嗟に後ろから抱きとめて、川への転落を防ぐ。まあ、落ちたところでたいした深さがあるわけでもないのだが、怪我でもしたら勿体ない。
「大丈夫か? だから言ったろーが」
「う、う、うるさいっ、大丈夫だから離せよっ!」
 失態を見せてしまったことが恥ずかしいのか、身を捩って祐麒から逃げる。その気持ちも分からなくない、子供の頃というのは自分は出来るんだと思いたいし、思ってもらいたいものだ。
 その後、何匹かニジマスを釣り、必要な分以外は放流してテントへと戻り、次は森の中の探索に出かけた。
 虫を獲り、木に登り、自然の中での遊びを満喫する。
「おーい暁、あんまり高いところまで登るなよ」
「これくらい、どってことねーっての!」
 気の上から元気良い返事がする。いまどきの子は木登りもろくに出来ないと聞くが、暁には当てはまらないようだった。
「しかし、元気だよなぁ」
「なによ、疲れたの? だらしないわね」
 祐麒も体力にはそれなりに自信があるが、子供の元気さはまた別物という気がした。
「でも、今日は本当にありがとう。アキちゃんも楽しんでくれているし。私とお母さんだけじゃ、ここまでワイルドには遊べなかっただろうし」
「いやいや、可南子ちゃんや美月さんのお願いなら、これくらい幾らでも」
「……何それ。私じゃなくて、お母さんでも?」
 不機嫌そうになる可南子。
「いや、そりゃあさ……って、うわ?」
「きゃあっ!?」
 不意に、頭上から何かが落ちてきた。
「こら暁、枝を揺らすなよっ」
「へっへー」
 木の上から悪戯な笑みを浮かべた暁が、更に枝を強く揺すった。すると、落っこちてきた虫が可南子の頭に乗っかった。
「や、やだっ、何っ!? え、虫っ、や、いやーーーーっ!?」
「いや、森の中に入って虫が嫌って、それもどうかと……」
「う、うるさ……ひぃっ!?」
 暴れたことで頭の上の虫が首筋から背中へと落っこちた。可南子は一瞬、硬直したかと思うと、次の瞬間には良く分からない悲鳴を上げながら猛烈な勢いでどこかに駆け去ってしまった。
 祐麒に虫をとってもらうという余裕もなかったようだ。
「あー、どっか行っちゃった」
 するすると木から降りてきた暁が、可南子が走り去った方向を見て言う。
「お前なー」
「ね、ユウキってさ、可南ちゃんと付き合ってんの?」
「え? いやー、残念ながら、まだそういう関係ではないんだ」
 いきなり尋ねてきた暁に答える。今時、小学生でも随分とませているものだ。
「告白とかしないの?」
「機が熟するのを待っているというところかな」
「ふーん、ヘタレなんだ」
「やかましい。そういう暁こそ、好きな子とかクラスにいるんじゃないのか?」
「別にー、いないけど、だってみんな……あ痛テテ」
 急に腹のあたりを手で抑え、顔を顰める暁。
「どうした?」
「なんか虫に刺されたかも。ちくちくして痛い」
「マジでか。大丈夫だとは思うけれど、変な毒を持っている虫がいないとも限らないからな、ちょい見せてみろ」
 祐麒は暁の前でしゃがみ込むと、おもむろにシャツの裾を捲り上げてみた。見てみると、確かに胸のちょっと下のあたりが赤く腫れている。
「平気だと思うけれど、一応、キャンプ場の人に見てもらうか……しっかしお前、痩せっぽちだな。もっと肉食えよ、肉」
「っ、うるさい!!」
 脳天に衝撃がはしる。暁が肘打ちをかましてきたようだ。鈍痛の残る頭を抑えながら顔を上げると、既に暁の姿はどこにもなかった。
「……素早いやつ」
 セミの鳴き声だけが、木々の間に木霊していた。

 

 その後、一時間ほど昼寝タイムをとった後、美月も交えてフリスビーをして、再び森への探索へと出かけた。美月と可南子は疲れたから休むというので、祐麒と暁の二人である。
 森の中は特に何があるというわけではないが、探検と考えるだけで子供なら楽しいのであろう、暁は木の棒を手にして軽快に歩いていく。
 時刻は夕方、生い茂った木々の森の中ということもあり、薄暗く感じる。
「大分、暗くなってきたな。夜は花火だな」
「うん」
「あとはそうだな、こういうとこの定番、肝試しでもするか。もしくは怪談」
 そう言うと、暁の体がぴくりと反応した。
「……あれ、もしかしてお化けとか怖いのか、暁?」
「お化けなんかいるわけないじゃん、怖くなんかないし」
 強がりとみた。
「そういえばさっき、キャンプ場の人が言っていたけれど、この辺出るらしいぞ。なんでも、十年ほど前に夜中にこの森を散策していた人が」
「そんな作り話、聞くはずないしー」
「いや、それがホントらしいぞ。そうそう、ちょうどこの少し開けた場所にある一際大きな木にだな」
 そんな風に話していると、不意に、周囲が一段と暗くなった。雲がかかり、どんよりとした空気があたりに広がる。
 夜ではないが、逆に中途半端な暗さが不気味さを感じさせる。
「な、なんだよ。もう、戻ろうぜ」
 強気を装っているが、明らかに狼狽しているのが分かる。これ以上いじめるのは可哀想だし、この辺でやめておこうかと思ったその時。
 突然、祐麒達の目の前を黒い影が勢いよく横切った。
「うわあああああっ!?」
 悲鳴をあげ、その場に腰砕けになる暁。
 祐麒もいきなりのことでびっくりして、慌てて影を目で追うと、木陰に小さな生き物らしき姿が見える。良く分からないが、モモンガとかそういう動物かもしれない。
「っと、暁、大丈夫か? さすがにタイミング良すぎたよな、俺もびっくり」
「あ……あぅ……」
 声をなくしている暁。そんなに怖かったのかと手を伸ばしかけて、気が付く。暁のズボンの股間部分に染みが出来ていて、更にお尻の下の地面に液体が広がっていることを。
「うぅ……く……」
「泣くな! すまん、今のは俺が悪かった、悪ノリした」
 声をかけて頭を撫でると、暁は瞳に溜まった涙を必死に堪える。
「立てるか? 腰が抜けているのか……仕方ないな、それじゃ、よいしょっと」
「わ? ば、馬鹿、それじゃユウキが汚れちゃ」
 抱きかかえるが、さすがに子供、軽い。
「気にするなって、そんなこと。それじゃ行くぞ」
「え、あ、ちょ、ちょっと待って! こ、こんなの可南ちゃんたちに見られたくな」
「分かってるって、任せとけ」
 年上の綺麗なお姉さんに情けない姿は見せたくない、そんな気持ちは祐麒にだってよく分かる。
 祐麒は暁を腕に抱えたまま、森の中を歩き出した。

 

「ちょっと二人とも、何やってんの!?」
 戻るなり、可南子に驚かれ、続いて怒られた。
「びしょ濡れじゃない、まったく!」
「いやぁ、川に行ったら足滑らせちゃってさー、咄嗟に暁の手を掴んじゃって、一緒に川にどぼん」
「ちょっとー、アキちゃん巻き込まないでよね、落ちるならユウキ一人で落ちなさいよ」
 肩を竦めつつ、隣で俯いている暁を見下ろす。
 祐麒がとった作戦は単純かつ古典的なもので、二人で頭からずぶぬれになるというものだった。
「もう、いくら夏とはいえここは高地だし、寒くなってくるんだから、さっさと着替えてきなさい」
「へーい」
 可南子の声を背に受け、美月からとりあえずタオルを受け取って軽く体を拭いてからテントの中に入る。
 いざという時のために、着替えは持ってきている。シャツを脱ぎ捨て、ズボンも脱ぐ。
「うーん、分かっていたがパンツまでびしょ濡れだ」
 パンツも脱ぎ捨て、さすがに自分で持ってきたタオルで水を拭き、新しいパンツに履き替える。ズボンも念のためにもう一枚持ってきておいたのが役に立った。
「よし、着替え終了、と。暁もさっさと着替えてこいよ」
 まだタオルで体を拭いている暁を残し、先にテントを出る。
 そろそろ、夕食の準備をするのにちょうどいい時間になっている。
「腹減ったなー、今日はご飯が凄い美味そうだ!」
 一人で大きな声で言うと、可南子に冷たい目で見られてしまった。
 夜ご飯はもちろん、暁にも宣言した通りバーベキュー。単に焼くだけだというのに、やたらと美味い。もちろん、昼間に釣ったニジマスも塩焼きで美味しくいただいた。美月はビールを美味しそうに飲み、祐麒に晩酌をすすめ、可南子に怒られながらも特別だからと一本だけ飲み干した。
 食事の後は花火。あまり派手な花火をするわけにはいかないが、四人でささやかに楽しんだ。
 花火を終えれば、基本的に今日の予定は終了。あとは星空でも眺めながら話をするくらいしかないが、朝が早く、日中も遊び回っていたせいか暁は既に目がとろんとして眠そうだった。
 暁をテントに連れて寝かしつけるのと、最低限の片づけを行う人とで別れて行動した方がいいかもしれない。
「可南子ちゃん、暁が眠そうだから頼める?」
「ん? ああ、そうね、OK」
 頷いた可南子が暁を促してテントへと向かう。
 祐麒はゴミ類を片づけていく。生ごみ類は放置しておくと、夜の間に動物たちがきて荒らされてしまう可能性があるから、きっちりしておく必要がある。美月は飲み物の容器などを手際よくまとめていく。
 あらかた片づけたところで、とりあえず駐車場に戻ってゴミをしまう。
「ついでに、シャワー浴びていっちゃいましょうか」
 キャンプ場には、有料のシャワー室が設置されていた。さすがに真夏のキャンプでシャワーもなくずっと過ごすのは厳しい。断る理由もなく祐麒は頷いたが、タオルを持ってきていないので一度、テントに戻ることにした。テントの中に入ると、歯磨きをして戻ってきた可南子と暁に会う。シャワーを浴びてくると言うと、可南子と暁は明日の朝に浴びるとのこと。
 タオルを手にシャワー施設へと再び行き、美月に遅れてシャワー室へと入る。一日の汗を洗い流し、一息つく。シャワーは一回分の料金ではさほど長い時間使用できるわけではないので、手早く洗い、時間一杯を使用して外に出る。
 外に出ると、心地よい風が体を包んでくる。高原の夜は涼しくなるため、シャワーを浴びてまだほんのりと水気が残る肌に、ひんやりとした空気が心地よい。
 美月の姿を探すと、少し離れた場所で誰かと話していた。偶然、知り合いでもいたのだろうかと、様子を見ながら近づいて見ると、美月の前には二人組の男。
「あ、ユウキくん」
 祐麒に気が付いた美月が手をあげると、男二人の脇をすり抜けて駆け寄ってきて、腕にしがみついてきた。
「ということで、それじゃあね、ばいばい。祐麒くん、行こ」
「え? あ、はあ」
 良く分からないが、美月に引っ張られて歩き出す。
「……あぁ、まったく、まさかこんな場所でナンパされるなんて。すんごい久しぶりにナンパされちゃった」
「え、そ、そうだったんですか!?」
 慌てて振り返るが、既に男たちの姿はなかった。
「だから、今日はラブラブの彼氏と来ているって言ったんだけど、それでもしつこくてさー、大体、見る目がないよね。私のこと二十代のOLと勘違いしたみたい」
 苦笑いする美月。
 まだ水気の残っている髪の毛がしっとりと首筋に張り付き、うなじから鎖骨へのラインを美しく見せている。機械的な明るさのない自然の中、月明かりを受けてほの白く照らし出された美月は、どこか幻想的な魅力を湛えているように感じられた。その名の通り、月が、彼女を美しく魅せている。
「見る目あるから、美月さんをナンパしたんだと思いますよ」
「あら、嬉しい」
「冗談とかお世辞とかじゃないですよ」
「本当に? じゃあ、お世辞じゃないこと、証明してくれるかしら?」
 腕にしがみついたまま美月が、下から見つめてくる。
「そ、そろそろ戻らないと、可南子ちゃんたちが心配しそうですね」
 ドキドキしてまともに顔を見ていられず、そんなことを言って顔をそらし、テントへ戻ろうと歩き出す。腕にからみついてくる美月、シャワーあがりの肌、匂い、それら全てが祐麒の気持ちを掻き乱すから、止まっていられなかった。
「あ、誤魔化したわねっ」
 確かに、誤魔化したのかもしれないが、それは美月に対してか、それとも揺れる自分自身の気持ちに対してなのか、良く分からなかった。
 わざと怒ったような素振りを見せる美月とともにテントに戻ると、可南子と暁は寄り添うようにしてぐっすりと眠っていた。
「それじゃあ、私達も寝ましょうか」
 封筒型のシュラフを広げて敷布団代わりにした寝床は、テントがそれなりの広さがあるとはいっても、やはり四人では少し手狭だった。祐麒はなるべく端の方に寄って、美月たちと距離をとり、背を向けるようにして横になる。
 しかし目を閉じたところで、いきなり肩をつかまれて体を仰向けにされた。驚いて目を開くと、美月が祐麒のことを見下ろしていた。
「み、美月さん?」
「高原の夜って、意外と寒いよね? 可南子とアキちゃんみたいに、私達も暖かくして寝ない?」
「な、な、な、何を言って……」
「それに、さっきの答えも聞いていないし」
 美月は更に近寄ってきて、とうとう祐麒の上に乗っかる形で密着させてきた。美月の体の熱を感じると同時に、押し付けられる胸にどうしても意識がいってしまう。それに、感触的にノーブラだ。
 薄暗いテントの中だが、目が闇に慣れてきているから美月の顔は見て取れる。
「ね、暖かいでしょう」
「は、はい、だけど」
「もっと暖かくなるの、知ってる? それはね」
 言いながら美月の指が祐麒のシャツの中に入り込み、ゆっくりと、裾を捲りあげていく。
「素肌同士の方が、もっと暖かいのよ?」
 捲りあげたシャツの下、晒された肌に美月が舌を延ばす。
「……っ!」
「あは、ぴくってなった。か~わいい、乳首、気持ちいい?」
 ぴちゃぴちゃと乳首を吸い、舌で舐めながら、もう片方の乳首は指先で転がす。くすぐったさと気持ち良さが同時襲ってきて、声が漏れそうになるのを堪える。
「男の子もね、ここが気持ちいいのよ、知ってた?」
「ちょ、美月さん、隣で可南子ちゃんと暁が」
「大丈夫、疲れていたし起きないわよ、ちょっとくらいじゃあ。それに……」
 闇の中、美月の瞳が光って見える。
「実の娘がすぐ隣で寝ていて、もしかしたら起きて気付かれるかもしれないと思うと……ぞくぞくして、あたし」
 美月が首筋に鼻を埋め、歯を立ててくる。
 そして更に、衝撃が祐麒を襲う。美月が自身のシャツを捲りあげ、乳房を直に祐麒の胸に当ててきたのだ。
 生まれて初めて、女性の生の胸の感触に感動する。こんなにも暖かくて柔らかくて気持ち良いのが、女性の体なのかと。
「はぁっ……ごめんねユウキくん。この前のお祭りのとき、そしてさっき……ユウキくんの、男の人の肌の匂いでね、あたしクラクラきて……ん」
 再び顔の位置を下げ、吸い付きながら舌先でつついてくる。
「ん……んふっ、美味し」
 ぺろぺろと、舌で丹念に、丁寧に舐めてくる美月の顔は上気し、嬉しそうに微笑んでいる。酔っているのか、それとも正気なのか、良く分からない。
「ユウキくん、嫌だったら……あっ」
 ビクンと美月の体が跳ねる。
 祐麒が腕を伸ばし、美月の胸に触れたのだ。最初はおそるおそる動かして、もちもちして吸い付いてくる肌を手の平に感じ、やがてゆっくりと指先に力を入れると指は食い込み、乳房は形を変えていく。
「嫌なわけ、ないじゃないですか。お世辞じゃなく美月さんは若くて、綺麗で、素敵だと思いますから」
 祐麒の手の動きに、美月は体をプルプルと小刻みに震わせ、荒く甘い息を吐き出す。
「あ……可南子、ごめ……んっ、あっ」
 次第に美月の舌が動かなくなってくる。変わりに、呼吸が荒くなっていく。声を出さないようにか、指を噛んでいる。
「…………ッ! あ、はぁっ!」
 それまで我慢していた美月が、耐えきれなくなったのか、少し大きな声を出した。
「――――ふぁ? ん~~」
 隣で、可南子が寝ぼけた声を出して身じろぎをするのを感じ、美月は慌てて祐麒の上から降りて横になった。
 しばらく無言で動けずにいたが、やがて可南子の寝息が聞こえてくると、ようやくほっと胸を撫で下ろす。よく考えるまでもなく、こんな場所でとんでもないことをしていたものである。
「……ユウキくん、ごめんね?」
 こちらも正気に戻ったのか、美月が小さな声で謝ってきた。
「いえ、その、俺こそ」
「ううん、そうじゃなくて。さすがにここで、これ以上は無理だから……その、こっちのこと」
 言いながら身を寄せてきた美月が、祐麒の下半身に手を伸ばしてきた。ズボンの上から、美月の細く小さな指が撫でてきて、刺激が走り抜ける。
 美月は再び抱き着いてきた。首の後ろに腕をまわしてぎゅっと強く、お互いにまだ露わになったままの胸と胸を触れ合わせる。まだ固く敏感なままの突起が触れ合う。
「今度……今日のお礼にちゃんとしてあげるから、ね?」
 それだけ呟くように言って美月は。
 瞳を閉じて、眠りに落ちた。
 美月の温もりを胸に、火照った体をもてあましながら、それでも祐麒もやがて眠りにつくのであった。

 

「――ぶぇっくしょい!!」
 派手なくしゃみをして、鼻をすする。
「汚いわね、向こうむいてくしゃみしてよ。まったく、お腹出しっぱなしで寝ているからよ」
 呆れたような可南子の視線が突き刺さってくる。
 朝、目が覚めたとき、美月の姿はテント内になかった。
 昨夜のことは、夢だったのだろうか。いや、あんなリアルな夢があるわけないし、今でもはっきりと美月の肌を思い出せる。
 美月と顔を合わせたとき、祐麒はまとも見ることが出来なかったが、美月はいつもと変わらない様子で接してきた。まるで、夜のことなど本当になかったかのように。
 午前中にほんの少しだけ軽く遊び、早めにお昼ごはんを食べてテントを片づけ、帰途につく。帰りの車中では可南子も暁も後部座席でぐっすりと寝てしまい、運転している美月と二人で会話をする。祐麒も疲れていて眠気はあるが、美月一人に運転させるのも申し訳ない。昨夜のことがあって、何とも気まずい思いを抱えているのだが、美月がそういった素振りを見せない以上、祐麒も変に意識しない方がいいのか。何も言わず、態度に出さないということは、美月は昨夜のことは忘れろと言っているのだろう。当たり前だ、あれは旅先での、ちょっとしたトラブルみたいなものだ。
 前方の信号が赤になり、ゆっくりと車が止まる。
「あ、ユウキくん。悪いんだけど、これゴミ袋に捨てておいてくれる?」
「あ、いいっすよ」
 飴玉を口に入れた美月から、飴の包み紙を受け取り、身を捩って後部座席に置いてあったごみ袋に入れた。
 その時。
 肩を掴まれたかと思うと、運転席から上半身を伸ばしてきた美月が、唇を重ねてきた。
「――――!?」
 本か何かで読んだ、まさにマシュマロのような感触。ちょっとひんやりとした、ぷにゅっとした感じ。
 同時に、酸っぱいレモンの味が口内に広がる。美月が舐めていた飴玉を舌で押し入れてきたのだ。舌が、少し口の中に触れた。
「み、みみっ、美月さんっ??」
「大丈夫、私はもう一個、飴舐めているから」
 口を開けて見せてくるが、祐麒は唇の方に目が釘付けになっていた。
「そ、そ、そうじゃなくて、い、今のは」
「あ、と信号変わった」
 動き出す車。
 視線を、忙しなく前方と美月、交互に動かす。頬が一気に熱くなる。エアコンが効いている車内なのに、急に暑くなった気がした。
 美月を見ると。
「……ふふ、なんか車内、暑いね?」
 わずかにだが頬をピンク色にしながら軽く笑い、舌をぺろりと出してきたのであった。

 

 そしてキャンプの翌日、さすがにこの日はバスケの朝練は無しということになっていたが、祐麒は可南子の家へと向かっていた。昨日、結局「アレ」の後、美月とはまともに離すことが出来なかった。今だって、どんな顔をして会えばいいのか分からず、出来れば時間を置きたいところだが、ほぼ無料でキャンプに同行して楽しませてもらったのだ、きちんとお礼をして来いと両親からも言われ、拒絶することもできなかった。可南子に事前にメールで了解はとってあり、日曜日ということで、美月が在宅であることも確認済。
「あら、いらっしゃい」
 出迎えてくれたのは、可南子。今日はポニーテールにしている。手土産を渡し、お礼を言って帰りたいところではあったが、特に今日は用事がないことは可南子に言ってしまっており、室内に通されて逃げ場を失う。
「いらっしゃい、ユウキくん」
 キッチンから美月が出てきたのを目にして、心臓の動きが速くなる。ポンチョTシャツにショート丈パンツという若々しいスタイルに目を奪われる。
「そんな気を遣わなくてもいいのに」
 すすめられては断ることも出来ず、座って美月、可南子とキャンプのことについて他愛もなく話す。この場に可南子がいてくれて良かったと思う。もし、美月と二人だけだったら、とてもじゃないがいたたまれなかっただろう。
 しかし、可南子と一緒というのも微妙に心苦しい。何せ、母親である美月とあんなことがあったのだ。可南子のことがずっと気になって、夏休みも長い時間一緒に過ごして、距離を縮めてきたところで、まさかの事態に祐麒もまだ戸惑っている。
 キャンプの夜の、そして帰りの車の中での美月の行動の真意は一体なんだったのだろうか。単に、高校生男子をからかってみただけなのか。そうに違いない、他に理由など考え付かない。いや、考えてはいけない。
 二人と話しながらも、脳内では別のことがぐるぐるとまわる。
「――あれ、また誰か来た?」
 可南子の声に、玄関のチャイムが鳴ったことに気付いた。美月が立ち上がり、玄関へと向かう。
「はい、どちらさま――って、あらアキちゃん、いらっしゃい」
 美月の声に、ほっと胸を撫で下ろす。暁がいる場なら、美月も変なことは言わないだろうと。
「おー、暁か、昨日はお疲れ」
 祐麒も話題を変えるよう、振り返りながら口を開くと、そこにはちょっと吊り目で勝ち気な表情の暁が立っていた。タンクトップの上から緩めのプルオーバー、下はリボンベルトのプリーツキュロット。
「……………………ん?」
 大きな違和感があった。
 暁の格好は、どう考えても女の子の服装。
「暑かったでしょう、上がって。冷たい麦茶、出すから」
 ぺこりとお辞儀して上がってきた暁は、口元を引き締めたまま可南子の方へと向かい、正面で正座する。
「どうしたの、アキちゃん?」
「ねえ、可南ちゃん……可南ちゃんって、ユウキと付き合っているの?」
「ええっ! な、何、なんでそんな、そんなわけないじゃない。何で私がユウキと付き合ってなくちゃいけないの? 絶対、ないない!」
 暁の問いに、激しく否定する可南子。
 するとその様子を見て、どこか安堵する暁。
 続いて立ち上がり、今度は祐麒の真正面に来て正座する。
「え、え~と、どうしたのかな、暁?」
 物凄く嫌な予感しかしないが、聞かないわけにはいかない。
「そうだ、キャンプの時に約束した釣りの話か? それだったらまた今度の機会にちゃんと連れて行ってやるから」
 キャンプで釣りを楽しんで暁が、今度また行きたいと言っていたので、連れて行くと約束をしたのだが。
「それって、デートと考えていいのか?」
「えっ!? で、デート!?」
 声を上げたのは、可南子だった。
 祐麒は、声も出せずに真剣な表情の暁を見つめる。
「ユウキさ、可南ちゃんと付き合っていないんなら……お、オレのこと、お嫁さんに貰ってくれる?」
 真っ黒に日焼けした顔を赤くしながら、睨みつけるように上目づかいで見つめてくる暁に、殴られたような衝撃を受ける。
「ちょ、ちょっと待って! え、アキちゃんどういうこと、お嫁さんって何!?」
「だ、だって、それしか考えられなくて……あんなことされたら」
「ああああああアンナことって、ナニ!?」
「……おっぱい、見られて、触られて揉まれたし、それに……あんな恥ずかしいトコロ見られたら、お嫁に貰ってもらうしか……」
 室内空間に、何か罅でも入ったかのように感じられた。
 いや待て、確かに暁の言うとおりかもしれないが、あれは虫に刺されたから見ようとしただけだし、川に落ちそうになって抱きとめたときに触って揉むような形になっただけだし、恥ずかしいところってなんか誤解受ける言い方だが訂正もできないし。
「あ、あと」
「まだ何かされたの、アキちゃん!?」
「あと……お、男の人のアソコ……あんな凄いの見せられて……」
 真っ赤になって俯く暁。
 いや違う、あれはパンツまで濡れたから着替えただけであって、でも確かに暁のことを気にせず素っ裸になって見られたかもしれないが。
「ふ……ふふ……ユウキあんた、そこまで変態だったとは。まさか、小学校五年生の女の子に手を出すような犯罪者だとは、思っていなかったわ」
「違う!」
 女の子だとは思っていなかった、男の子だと思っていたのだとは、それはそれで暁を傷つけてしまうから言い出せない。
「アキちゃん、警察に行きましょう! そんな変態的なことされて、黙って泣き寝入りすることはないのよ!」
 可南子が暁の肩を掴んで諭すように言うが、暁は首を横に振る。
「べ、別に、嫌じゃなかったから。だってユウキ、楽しいし、色々と知っていて頼りになるし、格好良いから。だから、あんなトコロ見られて凄く恥ずかしかったけれど、泣かないように頑張ったんだ」
「あ、暁……?」
 近づいてくる暁に、おもわずたじろぐ。
「ユウキ、あの」
「アキちゃん、目を覚ましなさい、落ち着いて何があったのか私に話して頂戴」
「あ、お、俺、麦茶のおかわり貰ってくる」
 暁と向かい合って可南子が話しかけ、祐麒はその場から立ち上がりキッチンへと逃げ込む。すると、そこには美月の姿が。
「へぇ~、ユウキくん、アキちゃんに手をつけたの?」
「ちちち、違いますよ、俺は」
 弁明しようとしたところ、音もなく目の前にやってきた美月に指で唇を抑えられる。
「小学生からバツイチの子持ちまで、守備範囲広いのね?」
「いえ、だからそうじゃなくて」
「あはっ、そんなおどおどしなくても、あたしは構わないわよ、愛人の一人や二人」
「何言っているんですか、愛人なんて。俺っ……」
 文句を言おうとする祐麒に、美月が体を寄せてくる。首に腕をからめ、しなだれかかるようにしてくる。途端に、昨夜の美月の体の感触が蘇ってきて体が熱くなり、ごく自然と手が美月の体に回る。背中をおさえ、細い腰からお尻の方を撫でると美月が熱い息を漏らし、首筋にかかる。
「ユウキくん、お尻、好きなの? お祭りの時も私のお尻ばかり触っていたもんね」
 薄い壁一枚向こう側には、可南子と暁がいる。こんなところを見られたらと思うのに、離せない。
「お祭りの時も、昨日も、ユウキくんには悪いことしちゃったものね。今度ちゃんと、してあげるから……気楽に、練習だと思ってしてくれればいいのよ?」
「れ、練習だなんて、俺はそんないい加減ッ……!」
 唇を塞がれ、言葉を封じられる。車の中でしたようなキスではない、熱く、強烈な、激しいキス。
 やがてゆっくり離れると、ピンク色の舌でちろちろと艶めかしく唇を舐め 人差し指を口の前で立てて、「しーっ」と悪戯めいた笑みを見せる。
「――ふふっ、でも可南子には見つからないように気をつけなきゃ、ね?」
 その蠱惑的な笑顔は母親のものではなく、一人の熟成された女性のものであり、千々に乱れる心に翻弄されながら、美月に確実に魅入られつつある自分自身を自覚する祐麒なのであった。

 

おしまい

 

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