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マリア様がみてる 百合CP

【マリみてSS(乃梨子×色々)】 雛鳥たちの囀る季節 5.50%50%

更新日:

 

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「あぁ~、眠いぃ」
 隣の席でだらしなく机に頬をつけている光を見て、乃梨子は肩をすくめる。
 午前中の講義が終わり、これから昼休みというところで皆それぞれ席を立ち、話しながらランチへと向かうのを横目に、光が復活するのを待つ。
「ったく、アイツめ……」
「何、彼氏?」
 会ったことはないが、光が彼氏持ちだということは知っている。光はとにかく男にモテる。物凄い美人というわけではないがどうも男性から好まれる顔立ちをしているらしく、加えてスタイルが良くて性格も気さくでとっつきやすい。髪型や服装が派手なので、そういった見た目で敬遠をする人も多いようだが、それ以上にちやほやされる。
 ただ、見た目と異なり性格的には真面目でもあり、その辺のギャップで離れていく男も多い。何しろ、真っ先に喰いついてくるのは軽薄そうな男ばかりなのだから。それゆえ、彼氏も結構な頻度で変わっているのだが、不思議と彼氏がいない期間というのを乃梨子は見た記憶がなかった。二股はしたことないと言っているから、別れたらすぐに捕まえているということなのだろうが。
「そう。アイツ、遅漏でしつこいから遅くまでずっとさぁ。そのくせ、女の体のこと全然わかってないから、あたしは全くよくなくて、最後の方は演技するのも疲れちゃったよ」
「そ……そうなんだ。大変だね、良く分からないけれど」
 セックスどころか彼氏を作ったこともなく、彼氏という存在自体に興味を持つことのできない乃梨子は、曖昧に頷くことしか出来ない。
「もう別れようかな、身体の相性悪いって駄目じゃん?」
「そうゆうもんなの? 性格とか、考え方とか、そういうほうが重要じゃない」
「そうはいっても、付き合っている以上はエッチは避けられないじゃない、それが合わなきゃ続かないよ」
 やっぱり乃梨子には分からない。
 人と人の付き合いというものは、もっと大切な事があるのではないだろうか。
「乃梨子も一回やればわかるって。ほら、乃梨子はきっと、知れば快楽にハマるタイプ」
「勝手に人の事変な風に決めないでよ。それよりそろそろお昼行こう」
「あ~、ごめん、やっぱ無理、ここで寝てるから乃梨子、行っててくれる?」
「はぁ?」
 待たされた挙句に一人でランチに行くことになり困惑するが、光は昔からこのような子だったから今さら怒ることもないし、乃梨子自身、一人での行動も別に苦ではなかったので、諦めて何も言わずに立ち上がる。
「この埋め合わせはまた今度するからさ~」
「はいはい、アテにしないで待ってるからね」
 机に突っ伏して早くも寝息を立てはじめる光に言葉を投げ、乃梨子は一人、教室から出て歩き出す。
 とはいえ、今から食堂に行っても大混雑でなかなか座れないだろうし、どうしたものかと思案する。

 ぶらぶらと歩いていると、思いのほか購買部が空いていたためサンドウィッチと紙パックのカフェオレを購入し、どこかで食べることにした。どこか、と考えたところで思い浮かんだのは中庭でも食堂でもなかった。
 賑やかな生徒の群れから離れるようにして向かったのは、上の方。静がいるなんて決まっているわけでもないのに、ごく自然と屋上へと足が動いていた。
 周囲に人がいないこと確認し慎重に屋上へと出ると、強い風が乃梨子の髪の毛を無造作にたなびかせる。
 立ち入り禁止と思われている屋上に、当然のことながら人の気配はない。周囲を見回し、あたりを歩いてみて、静がいないと分かるとがっくり肩を落とす。念のために貯水タンクの上まで探してみたものの同じだった。
「まあ、そんな都合よくいくわけないよね」
 自分を納得させるように呟き、適当な場所に腰を下ろして一人のランチを過ごすことにした。
 どうして、また会えるなんて思って来たのだろうか。
 そしてどうして、また会いたいなんて思ったのだろうか。
 昼休みの時間帯、静が歌っているかどうかも分からず、それでも足を運んでしまった。野菜サンドを口に運びながら、静のことを考える。
 知り合い、名前で呼び合うようになったとはいえ、だからといって行動を共にするようになったわけでもない。乃梨子は光と一緒のことが多いし、静は基本的に一匹狼で、教室でも近くの席に座れば話しかけたりもするが、今のところそれくらいだ。歌を歌っているところにも、あれから遭遇していない。
 綺麗な歌声だったなと思う。
 聞いたことがない歌だったし、日本語ですらなかったような気がするが、そんなこと気にならない歌声だった。
「どこで覚えてくるんだろうねー、ああいうのって」
 食べ終えたサンドウィッチの包装を丸めてビニール袋に突っ込み、カフェオレをずずーっと最後まで飲み干して同じようにビニール袋に放って空を見上げていると、天気が良いこともあって睡魔が襲ってきた。
 午後一の講義はなんだったか、確か一般教養だった。だから、ってわけでもないが、一回くらいサボったところで良いだろうなんて思いが頭の中を巡る。いやいやいかん、でも眠い、ちょっとだけ寝たら頭も冴えるだろう、ちょっと寝て起きたら教室に向かおう。いや、起きることが出来たら……そんなことを考えているうちにうとうとし始め、あっさりと意識が薄れてゆく。
 それもこれも、全ては静がいないせいだと人のせいにして、乃梨子は静かに寝息を立てはじめた。

 意識が戻り始めたのは、肩が凝り始めたからだ。
 肩が重く、そんな肩こりするような体質でも年齢でもないと思い、ふと目を肩の方に向けてみれば、そこには肩にもたれかかって寝ている女性が一人。
「なんだ、単にもたれかかられていただけか。良かった、この年で肩こりになったのかと思った……って、おい!」
 一人でノリツッコミをする勢いで、寝ていた女性の頭を軽く手のひらで叩こうとして、動きを止める。
「静…………だよね」
 角度的に分かりづらいが、間違いないだろう。ちらりと見える鼻筋、顎のライン、頬に触れる髪の毛の質感。そして何より、このような場所にやってきて、平気で乃梨子の横で勝手に昼寝をするなんてキャラクターは他に考えられない。静のことをそこまで深く知っているわけではないが、講義をサボって屋上で歌っているくらいなのだから、寝るくらいは造作もないだろう。
 頭を叩いて起こそうと思ったのに踏みとどまったのは、せっかく寝ているのに起こすのが可愛そうになったのに加え、このように無防備な姿を晒す静を目にするのが初めてだったから。
 整った顔立ちは少しキツめかもしれないが、美人であることに変わりはない。
「綺麗……だよね……」
 思わず見惚れてしまいそうになるほど。
 耳をすませば、かすかに漏れ聞こえてくる寝息。僅かに開いた唇は、艶やかにグロスで光っている。
 吸い寄せられる。
 首をひねり、静の顔を正面からとらえる。
 互いの鼻の頭がかすかに触れ合い、あと少しで唇同士も触れ合いそうな距離。軽く顔を前に突き出せば、静の唇をいとも簡単に奪えてしまうだろう。
「――――っ!?」
 そこで目を見開いた乃梨子は、慌てて顔を離して静と反対方向を向く。
 口元を手でおさえ、熱くなった頬を感じながら戸惑う。
 今、自分は何をしようとしていたのか。どうして、キスをしようとしていたのか。

「……んっ、ん…………?」
 動揺して身動きしたせいだろうか、肩にもたれていた静が身じろぎしたかと思うと、その長い睫毛を震わせてゆっくりと目を覚ましてゆく。
「あ……起きたの、静?」
 どうにか平静さを装いつつ、声をかける。
「ああ、乃梨子……」
「なんで静がここで寝ているの?」
「え? ああ、乃梨子があまりに気持ちよさそうに寝ているものだから。つい、ね」
「つい、じゃないよ、もう。起こしてくれたらよかったのに。午後の講義、完全に遅刻じゃんか」
 寝る前には、サボってしまおうか、なんて考えていたことは黙っておいて、そんな文句を口にしてみせる。
「だって、起こしたら可愛そうだと思ったし。それに」
「それに、何よ?」
 口を尖らせて聞き返すと。
 静はくすくすと思い出し笑いのようなものをしてから、乃梨子を見つめた。
「――乃梨子の寝顔が、あんまりにも可愛かったから。ずっと見ていたいなって思って」
「――――っ!?」
 言われて、一気に顔が熱くなる。
 他人に寝顔を見せてしまうなんて、なんと迂闊なことか。場所柄的に誰も来ないだろうという油断が生じたことは確かだが、静が来るかもしれないということは分かっていたはず。それでも寝てしまったのは、それほど眠たかったのか、それとも静にならば寝顔を見られても良いと思ったのか。
「へ、変なこと言って、人をからかわないでよね」
 静に寝顔を見られたこと、そしてそれを「可愛い」などと言われたことが恥ずかしく、照れ隠しに怒ってみせるも、静は堪えた様子もない。それはそうだろう、乃梨子自身が、怒っている迫力などまるでないと感じているのだから。
「ちぇっ、私も静の寝顔、見てやれば良かった」
「あら、見たんじゃなかったの?」
「俯いていたし、見えなかった」
 顔を寄せていた時は、寝顔を見ようとかそういう思いはなかったし、そんなこと言えないと思った。
「あら。でも乃梨子にだったら、見られてもいいかも」
「何よそれ。てゆうか重たい、いい加減に離れてよ」
 起きてからもずっと、静は乃梨子の体に寄りかかってきていた。実際にはそこまで重いわけではないのだが、こうしてくっついている状況は気恥ずかしい。
「いいじゃない。乃梨子の体、柔らかくて気持ちいいもの」
「私は重いんです」
「じゃあ、乃梨子も私に寄りかかれば?」
「遠慮します」
 なんてことのないやり取り、軽口の応酬。
 いつの間にか、静とそんなことがごく自然に出来るようになっていることに、内心では微かに驚く。だがまあ、友達とはそういうものなのだろう。

 空を見上げる。
 特別な何かがあるわけでもない、天気が良いとはいえ都会の空はどこかしらどんよりとした重たい雰囲気を感じさせ、快い気持ちになれるわけでもない。
 それでもたまにはこうして講義をサボり、何をするでもなくダラダラしているのも良いか、などと思って横の静をチラ見すると、こちらは何を考えているのか分からない表情で、じっとしている。
 のんびりと過ぎてゆく時間。
 話すこともなく、互いに軽く体重をかけることで体を支え合い、なんとなく立ち上がることも躊躇われる。
「――――ねえ、乃梨子」
 どれくらい無言のまま佇んでいたであろうか。不意に、静が口を開いた。
「何、静?」
 正面を見つめたまま答えると、いきなり視界に静の顔が飛び込んできて驚く。単に、静が身を起こして前から覗き込んできただけなのだが、不意を突かれたせいで心臓がバクバク激しく動いている。
 そんな乃梨子の動揺を更に激しくさせるかのように、静は続けた。
「さっき……なんで、キスしなかったの?」
「っっ!?」
 まさか、気が付かれていたのか。だとしたら、なぜ黙っていたのか、起きずに寝たふりなどしていたのか。色々なことが頭の中を巡ったけれど、まずは誤魔化すことが先決だと、乃梨子の優秀な頭脳が囁く。
「え、別にキスしようとしていたわけじゃないし。静の顔、綺麗だなーって思ってつい、見ていただけ」
「あんな、鼻を触れ合わせ、吐息を感じるような距離で?」
「あ……ち、違うの、あれはなんだろう、私も寝起きだったから。まさか、静にキスしようなんてしないって、女同士だし」
「…………」
 静の表情が、ごく微妙に変化したように感じられた。
 髪の毛を指で梳き、そして静は囁くように言う。
「ねえ、乃梨子。このことは先に言っておくわね」
「何?」
「私、女の人しか愛せないの」
「………………」
 言葉を失う。
 それは、思ってもいない告白だったから。もちろん、そういう人が世に多くいることは知っているし、リリアンを経験した身として身近にもいた。だから、そこまで偏見を持つつもりはないけれど、だからといって驚かないわけではない。

「私、てっきり乃梨子も同じだと思っていたから」
「へぇっ!? え、ななっ、なんで私がっ」
「なんだろう、嗅覚かしらね。同じような……だから、私に吸い寄せられたのかと思っていたのに」
「ち、違う違う、私は別に、そういうのじゃないしっ、て、あ、だからって別に静をどうこう言うつもりはないよ?」
 慌てて否定しつつも静を肯定するということを器用にこなす乃梨子。それを見て、静はクスクスと笑う。
「えーと……も、もしかして静って、それじゃあ私のことを」
「あ、ううん、乃梨子のことは友達としか見ていないから」
「そう、びっくりした」
 いきなりここで愛を告白されても困ってしまうから、乃梨子としても安堵する。気持ちを受け入れるわけにはいかないが、だからといって簡単に振ってしまえば、せっかく仲良くなったのに関係が悪くなってしまうかもしれず、それを勿体ないと思うくらいには静のことを気に入り始めていた。
「うん、今のところはね」
 ところが、静は非常に気になる一言を後に付け足した。
「え……?」
「今は友達としか思えないけれど、このまま仲良くなったら、本当に好きになっちゃうかもしれない。だから、今のうちに乃梨子に言っておいたの」
「あ……え、あ?」
「もし、それが嫌なら、もう私と会わない方がいいよ? ここに来なければ、そうそう機会も増えないだろうし」
 告白をされているわけではないが、これは、告白予告ということなのだろうか。それを受けて乃梨子はどうすれば良いのか、今すぐに答えられそうもない。
「うーん、乃梨子さ、気付いていないだけじゃない? 今までに、男の人を好きになったこととかある?」
「あっ、あるわよそれくらい、当たり前じゃない」
 幼稚園と小学生の時、担任の先生に憧れたことを含むならば。
「ムキになる乃梨子も、やっぱり可愛いな」
「う…………」
 なんだか、この場にいるとどんどん悪い方向にいってしまう気がする。静の告白というかカミングアウトにどう応じるか分からないが、とりあえず今この場からは逃げた方がいいような気がする。そして、落ち着いて考えるのだ。
 だが、体勢が悪い。壁に背を預けて座っているところ、静は乃梨子の前方に身を乗り出してきているわけで、立ち上がるには静を退かさないといけないのだが、今の静に触れるのは危険にも感じられてしまう。
「そんなにガード固くしなくても、今は友達だって言ったでしょう」
 警戒心も露わにしている乃梨子を見て、静が可笑しそうに言う。
「だったら、ちょっとそろそろ退いてくれる? 立てないんだけど」
「そうね、それじゃ」
 ふっ、と静の気配が遠ざかる。
 やれやれと、立ち上がろうかと上半身を前に屈め、腰を上げかけたところで。
「――ちゅ」
 と、ふわりとした何かを頬に押し付けられた、というか明らかにキスされた。
 目を見開いて、静かに向けると。
「だから、今はこれが精いっぱい」
 悪戯っぽい笑みを浮かべ、ウィンクする静。
「な……なっ、何をっ」
 かああっ、と、唇をふれられた頬が熱くなる。
「ほっぺにキスくらいなら、仲の良い友達同士でもするでしょう?」
 いや、それはどうだろうと思うものの、狼狽してしまい、あわわとして声に出すことが出来ないでいる乃梨子。
「それじゃあ、またね」
 そんな乃梨子を横目に、静は軽い足取りで去って行ってしまった。

 

「あ~、失敗した……」
 午後、最後の講義が始まる前、乃梨子は教室内で机に突っ伏していた。考えているのは先ほどの静とのこと。
(……いくら突然のことだったとはいえ、ほっぺにチュウくらいであんだけ動揺するって、あたしゃ小学生かっての……)
 そんな感じの自己嫌悪に陥っていたわけである。
 まあ、反省というか後悔というかはその程度にしておいて、問題は静との今後の付き合いについてである。
 わざわざカミングアウトしてきたくらいであるし、冗談ということはないだろう。乃梨子のことを好きになりかけている、というのはどうだか怪しい気もするが、要はそれでも自分と友達付き合いを続けていく気があるか、という問いかけなのだろう。
 訊いてきているということは、静には同性愛者だということを隠す気はあまりないということで、もしかしたら既に周囲には知っている人もいるのかもしれない。そんな静と仲良くし、一緒に居ることで同じ目で見られるかもしれないぞと、ある種の注意、警告をしてきていると捉えられる。
 今まで何も言われなかったのは、不本意だが乃梨子が同族だと思われていたかららしい。なぜ、そんなことになるのか。確かに、異性に対して恋愛感情を抱いたことは今のところないかもしれないが。
 そういえば先日、希海にキスされた頬とは反対側だったなと、なぜか意味もなく思い出す。唇の感触も、希海の方が熱くて柔らか感じだったのに対し、静のキスはひんやりとしていてどこか硬質な感じがした。その時の状況の違いのせいかもしれないが。
(……って、何、キスのことばかり考えているのよ)
 ぷるぷると頭を振る。
 希海も静も、単に乃梨子をからかっているだけだ。変に意識をしてしまう方がおかしいのだ。
 うじうじと考えているのは、乃梨子には似合わない。合理性に富んで冷静沈着なクールガールというのが、乃梨子の巷の評判らしいのだから。
「――――うん」
 顔を上げ、一人頷く。

 

「おはよう、静」
 声をかけると、背中を向けていた静がゆっくりと振り向き、乃梨子の顔を見て少しだけ目を丸くした、ように見えた。
「相変わらず、ここにいるんだ」
 少し強めの風が吹いている中、乱れる髪の毛を手でおさえながら乃梨子は近づいていく。他には人の姿の見えない屋上。
「――――乃梨子」
「昨日の今日で、すぐに会いに来るなんて思わなかった?」
 だとしたら、少しはしてやったりというものだ。
「そりゃまあ、確かに驚きもしたし、考えもしたけれどさ。それでも、静の友達でいたいって思ったし、静の歌をもっと聴きたいって思ったの」
 素直な感情をぶつける。
 昨日、素直に打ち明けてくれた静に対する礼儀として。恥ずかしい台詞だったけれど、恥ずかしがっていたら伝わらないと思ったから。
「そう…………ありがとう」
 俯き、小さな声で言う静。
「もう、話しかけてこない確率が50%くらいだと思ってたけれど」
「残りの半分だったってことね。それにまあ静も昨日言っていたけれど、今は友達としか見てないって。だったら、これから先もずっとそうかもしれないし、そうじゃなくなったらその時に考えればいいかなって。まだどうなるかも分からないのに、それでせっかく仲良くなり始めたのをやめちゃうの、勿体ないし」
 肩をすくめ、不器用に笑ってみせる乃梨子。
「――――と、そろそろ行かないと、次の講義に間に合わなくなっちゃうよ。静も、出るんでしょ、ほら、行こう」
 照れくささを隠すかのように、やや口早に言って校舎内に入ろうと促す乃梨子。
「ええ、そうね」
 素直にその後に続く静。
 昨日の、静からの投げかけに対する乃梨子の答えは、静にとっても嬉しいものであった。だけど、実は乃梨子に言えていないこともある。
 この今しがたのやり取りで、乃梨子に対する気持ちが確実に、友情から恋愛の方へと目盛りが大きく変動してしまったということ。
 もし、今それを告げたら乃梨子はどんな反応を示すだろう。
 面白そうではあるが、口に出すことはやめておく。
 少なくとも今はまだ、口に出すほど大きな気持ちではない。これがもっと大きく育ち、自分の中に留めておけなくなるまでは持っておこう。
「――行きましょう、乃梨子」
 追いつき、横に並び。
 触れ合わない程度の距離を保ち、二人は大学校舎内を歩いていく。

 

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