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【マリみてSS(祐麒・色々)】乙女はマリアさまに恋してる プロローグ③

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~ 乙女はマリアさまに恋してる ~

<プロローグ③>

 

 トイレから戻ると、じれるように桂が足踏みをしていた。
「祐紀ちゃん、遅いよー」
「あはは、ごめんごめん」
「って、何かあったの? 髪の毛、乱れてるよ」
「途中で転んじゃって、ドジなんだ、私」
 笑って誤魔化す。
「ちょっと待って、直してあげるから、少し屈んでくれる?」
「こう?」
 頭を下げると、桂の手が祐麒の髪を梳いて整える。優しい手つきで、どこか心地よくなる。そういえば、アンリも髪の毛をセットしてくれる時の指はとても柔らかで、ともすれば眠たくなってしまうくらい心地よかった。女の子として扱われるようになって、こうして髪の毛を綺麗にしてもらうために触れられるのは、なんか悪くないと思った。
「はい、これでよし、と。うーん、祐紀ちゃんやっぱり可愛いねー」
「え、そんな。桂ちゃんの方が可愛いよ」
「わー、祐紀ちゃんに可愛いって褒められちゃった!」
 ほんのりと赤くなった頬を手で抑えながら、嬉しそうに体をくねらせる桂。本当に、見ていて可愛い女の子だと思う。
 いつまでも遊んでいるわけにもいかないので、それでようやく体育館へと向かう。
 体育館の中は、当たり前だが女の子ばかりで、なんだか甘い匂いにむせ返りそうだった。もちろん学園内も同じはずなのだが、体育館という限定された空間内に大量の女の子が入っているわけで、密度的にも凄いことになっていて外の比ではなかった。
 内心で我慢、我慢と呟きつつ、一年松組の列へと並ぶ。並び順は特に決められていなかったので、桂と隣り合って並べたことは幸いだった。
 女の子だらけの中、落ち着かないながらも入学式は進んでいく。ちょっと意外だったのは、出席するのは一年生とその父兄、教師だけだと思っていたのだが、在校生も結構な人数が参加していた。強制ではないだろうから、それだけ一年生のことを思ってくれているということか。
 式は進み、校長先生の挨拶などお決まりの流れで、やがて在校生代表の挨拶になった。在校生代表は、今年の生徒会長とのこと。
 リリアンでは紅薔薇様、黄薔薇様、白薔薇様の三人の生徒会長がいるが、今回の挨拶では黄薔薇様が壇上に現れた。さすがに三人全員、話すということはしないようだ。
「うわー、さすが黄薔薇様、お綺麗ねぇ」
「確かに……って、あれ?」
「今年の薔薇様方も、三人が三人とも凄く綺麗なのよ。それも全員タイプが異なっているから、人気も三分しているの。ちなみに私は黄薔薇様派なんだけど。あ、このことは蓉子様には内緒ね」
「え、なんで?」
「だって、蓉子様は紅薔薇様なんですもの」
 桂に言われて、ああそういえばそうだったと思い出す。しかし、生徒会長をこなしつつ寮長もやっているとは、随分と大変そうだ。
 壇上では、黄薔薇様の挨拶が続いている。蓉子とは異なり、どこかふんわりとした印象で、声も柔らかな感じだ。しかし、壇上で少し距離はあって分かりづらいが、あのヘアバンドと綺麗な額は間違いなく、先ほど階段で衝突した女性だと思った。
 彼女を見て思い出すのは、階段で転んで目覚めた後の不思議な現象。漫画なんかではよく見かける設定だ。転んだりぶつかったりした拍子に、お互いの精神が入れ替わってしまうようなこと。だけど、まさかそんなことが実際に起こることなどあるのだろうか。数ヶ月前までの祐麒なら一笑に付したところだが、今は異なる。何せ、時間を遡り、おまけに前と異なる世界に来てしまったようなのだから。
 考えたところで結論は出ないし、仮に精神が入れ替わってしまったのだとしても一時的なことで、今は元に戻っているのだから気にすることはないと、自分に言い聞かせる。
 そうして、黄薔薇様の挨拶も終わりに入ったと思われるときだった。不意に、嫌な予感を覚えた。
 なぜかと言われても分からない、虫の知らせかあるいは単なる偶然か。いずれにしよ、祐麒はふと不安に駆られ、なんとなく周囲を見回す。
「どうしたの、祐紀ちゃん?」
「いや……なんか……」
 ざわざわと、肌がひりつくような感じ。
 右を見て、左を見て、後ろは向けないので前を見て、上を見る。
 耳障りな音が聞こえる気がする。みしみしと、何か軋むような。桂を始め、周囲の生徒も教師も誰も何も感じていないようだが、何かある。
 そうして再びふと視線を上げた祐麒は怖気を感じた。
「――え、ゆ、祐紀ちゃん、どうしたの??」
 壇上のさらに上、入学式の看板がかけられていたのだが、看板が僅かに傾いだように映った。視線を転じてみれば、看板の下には黄薔薇様が挨拶を続けている。
 次の瞬間、祐麒は駆け出していた。
 やばいんじゃないか、と思った時には勝手に体が動いていたのだ。スカートで走りづらく、部活から遠ざかって多少なまった足がもどかしく、それでも他の生徒を避けて走り、壇上に繋がる階段を二段抜かしで駆けあがり、黄薔薇様に向けてダイブした。
 激しい音と衝撃が、館内を貫いた。看板が落下したのだ。
 埃やらが舞う中、祐麒はとりあえず自分が無事であることを感覚的に理解し、続いて腕の中の少女に目を転じる。自分の体で庇うように抱きかかえはしたが、カバーしきれただろうか。
「だ、大丈夫ですか?」
「え……あ……」
 目を閉じていた少女が、ゆっくりと目を開く。状況がよく理解できていないようだが、仕方あるまい。
「怪我はないですか?」
「えっ、あ、っ!? 足が……」
 見ると、彼女の右足が倒れてきた看板の下になっている。
「あ、ちょっと、待っていてくださいね」
 看板に手をかけて持ち上げようとするが、さすがに重い。
「貴女、ちょっと無理よ……っ!」
 祐麒を諌めながら、顔をしかめる黄薔薇様。看板は完全に足の上に乗っかっており、このままでは足に負担がかかるばかり、どのようなことになるか分からない。周囲に目を走らせるが、まだ皆が突然のことに呆然としているし、動けそうもない。
 祐麒はもう一度、看板に指をかけた。
「だ、だから、無理だってば……」
 確かに、一人の女の子の細腕なら無理かもしれないが、祐麒は男なのだ。筋力が落ちているとはいえ、そもそもの腕力は女の子より上。
「……せいっ!」
 気合いを入れ、腰と腕に力を入れると、わずかに看板が浮き上がり、足との間に隙間ができる。
「今のうちにっ」
 言われるまでもなく、黄薔薇様は挟まっていた足を引き抜く。同時に看板から手を離すと、落ちた看板が大きな音を立て、埃が舞う。
 手で埃を払いながら、黄薔薇様の足を見る。
「痛いですか? これは、きちんと診てもらった方がいいですね」
「あ……ちょっ、貴女、額から血が」
「血? ああ」
 言われて、つーっと額から暖かなものが目の横、頬と伝って流れ落ちていくのを感じたので、とりあえず袖で拭う。傷口は黴菌が入ってしまうといけないから、流れる血を拭いただけだが、これくらいなら大丈夫だろう。
 改めて周囲を見回してみるが、壇上には彼女しかいなかったので、他に怪我をしているような人はいなさそうだ。教師たちは舞台のそでの方にいたし、生徒達は舞台の下にいたので、破片なども特に浴びていないようだった。
 となれば、急いで怪我を診る必要があるのは彼女だけだ。
「立てますか?」
「あ、ご、ごめんなさい。ちょっと、腰が抜けちゃったみたいで……って、それより、貴女の方こそ」
「それじゃあ、おんぶでいきますから」
「あの、ちょっと?」
「後から酷くなることも多いですし、早めに治療した方がいいです。それに、木片が刺さって少し血も出ています。早く消毒しないと」
 半ば強引に黄薔薇様をおんぶして立ち上がる。背中におぱーいが当たるが、気にしている場合ではない。昨日の聖より確実に大きいが、それでも気にしていてはいけない。
 祐麒は黄薔薇様を背負うと、呆然としている生徒達の間を縫って、急ぎ足で保健室へと走るのであった。

 

 看板の落下は、色々と偶然が重なったうえでの事故だった。取り付けたのは業者だが、学園からは厳重な注意と報告を求め、業者の方も謝罪とお詫びをもってきた。黄薔薇様が負傷したわけだが、とりあえず大事にはせずに示談で事態は収めることになったらしい。もっとも、黄薔薇様の家族は大層お怒りだったとか(当たり前だが)
 一方で祐麒自身、額に傷を負って出血していたが、まあ、これくらいの傷は野球部の時に幾らでもつけていたので、さほど気にならない。
 黄薔薇様、彼女の名前は鳥居江利子というのだと、これまた保健室で聞いたのだが、彼女の足も打ち身で済んで骨には異常がなく、木片が刺さった箇所も軽い切り傷で済んだとのこと。ただ、看板の荷重が更にかかり続けていたら、もっと重い症状になっていたかもしれず、そこは祐麒が気合いを入れて助け出した甲斐があったらしい。
 突然に倒れた看板というアクシデントが発生し、重傷者は出ていないもののそんな状況だったので翌日の学校は臨時で休みになった。生徒達は自宅待機ということで、祐麒は一日、寮の部屋で桂や三奈子たちとお喋りして過ごすことになった。祥子からも電話がかかってきて、怪我はしていないかと物凄く心配した様子で聞かれた。どうやら入学式には出席できていなかったようで、祐麒の怪我のことは知らないようだ。心配させても仕方ないし、実際に軽傷なので何でもないと祥子を安心させることにした。
 しかし、女の子のお喋りパワーはすごいものだと改めて感じた。ずっと話していて、あれだけ会話が途切れないのが凄い。日常の何気ないことでもネタにするのは、ある意味観察眼がすぐれているからだろう。
 そうして一日が過ぎ、改めて学校が再開されることとなった日の朝。
「やー、でもあの時の祐紀ちゃん、格好良かったよねー」
「あ、はは、もうその話はやめようよ。そんなたいしたことでもないし」
「たいしたことだよ、すごいよ!」
 元気あふれる桂と一緒の登校中、桂は入学式の時の祐麒のことを興奮気味に話している。昨日も散々、むずがゆくなるくらい褒めちぎってきたというのに。
「と、とにかく、学校ではそれ以上言わないで。あんまり目立つのとか、苦手だから」
「そう? うーん、でもそれ、どうかなぁ」
 首を捻る桂。
 一緒に行動し始めてまだ日は浅いが、いちいち一つ一つの仕種が可愛らしいなぁと感じる。絶世の美少女とか、超絶に可愛らしいとかではないのだが、親しみやすい可愛さを桂は持っている。言うなればその辺、祐巳に少し似ているかもしれない。
「入学式からびっくりしたけど、穏やかな学園生活を送りたいよ」
 そんな祐麒の思いは、学園に到着すると打ち砕かれた。
「……なんか、随分と騒がしくない?」
「ホントだー、なんだろうね」
 リリアンの生徒はお嬢様が基本で、大人しい子が多いはずなのだが、今朝はやけに騒がしいと感じられた。
「はい、『りりあんかわら版』号外です、どうぞー」
 それは、新聞部の生徒から手渡された一枚の校内新聞で明らかになった。
「――――な、な、なんじゃこれえぇぇぇぇーーーーっ!!?」
 細かい記事内容に目を通す前、大きな見出しと写真を見て祐麒は大きな声をあげた。
 校内新聞にはでかでかと次のように書かれていた。

"リリアンに守護女神、凛々しく降臨!!"

"颯爽と登場し、黄薔薇様を窮地から救いだす!"

"新たなヒロインの劇的な誕生に、失神者続出!!"

 そんな仰々しいような文言とともに、江利子を背負って走っている祐麒の写真が掲載されている。必死の表情で、額から一筋の血を流しているその写真は非常に見事といえ、祐麒ですら自分自身でないような気がする。
 更に記事を目で追っていくと、また色々と書かれている。
 とにかく必死で、黄薔薇様を助けようということしか思っていなかった。自分自身がどうなるかとか、そんなことあの状況では頭をよぎりもしなかった。額の傷などたいしたことはない、それよりも足を負傷された黄薔薇様の方が心配だ。
 いつの間に、こんな情報を仕入れたのだろうかと思っていると、記事の最後を見て目を丸くした。

『記者:築山三奈子』

 と書かれていたから。
 そういえば昨日、やたらとしつこく聞かれていたと思ったが、こういうことだったのか。しかし、人の同意を得ないで記事にするのは、記者としていかがなものかと思っていると。
「うわぁ、さすが三奈子さま。素敵な記事になっているね」
「え、桂ちゃん、この記事のこと知っていたの?」
「え? うん、だって昨日、話していたじゃない。祐紀ちゃんだって、記事にしていいかって聞かれたとき、うん、って頷いていたよ」
「うそ~~ん……」
 どうやらお喋りに祐麒が飽きてきた頃に尋ねられたらしい。祐麒に記憶はなかったが、桂という第三者の証言があるのでは、三奈子に文句を言うわけにもいかないだろう。がっくりと肩を落とす。
「これは祐紀ちゃん、凄い人気出るね。まあ、分かっていたことだけど」
 先ほどから視線を感じるようになってきたのは、この記事のせいか。祐麒はもともとリリアンの生徒ではなかったし、昨日は混乱の中で顔など殆ど見られていないと思っていたが、ここまではっきり写真で出されてしまうとどうしようもない。とゆうか、あの混乱の中でよくもまあ、見事な写真を撮った人がいたものだ。
「い、行こう、桂ちゃん」
 桂の手を握り、逃げるようにして校舎へと向かう。
 しかし、簡単には逃げられなかった。なぜなら、校舎の入口の前にもなぜか結構な人だかりができていたから。
「な、何事……?」
「さ、さあ」
 怯えつつ、他に行く場所もないのでとりあえず向かうしかない。
 桂と一緒にびくびくしながら歩いていくと、前方から一人の女子生徒が出てきた。途端に、周囲の生徒達から歓声のようなものが上がる。何事かと思っているうちに、その生徒は祐麒と桂の目の前までゆっくりと歩いてくる。
 江利子であった。
「あ……え、えと、き、黄薔薇様?」
「ご、ごっ、ごきげんようっ!」
 困惑する祐麒、声がひっくり返っている桂。二人を見て、江利子は淡く微笑む。
「ごきげんよう。福沢祐紀さん、でいいのよね? ええと、そちらの可愛らしい子はお友達?」
「は、はひっ! か、か、桂と申しますです、はい」
 憧れの黄薔薇様に直接声をかけられただけでなく、名前を呼ばれ、更には可愛いなんて言われて、真っ赤になって舞い上がる桂。
「そう、ごきげんよう、桂ちゃん」
「はふぅぅぅ~~っ」
 輝くような笑顔まで向けられ、桂は蕩けてしまっている。
「あ、あの、黄薔薇様、足の怪我の方は、大丈夫ですか?」
 歩いている時、わずかに引きずるような感じだった。
「ええ、おかげさまで、たいしたことはないから。それも祐紀さん、貴女のお蔭ね」
「そ、そんな、別に」
「謙遜しなくてもいいのよ、事実、私は貴女に助けられたのだし。改めてお礼を言いたくて、ここで待っていたの」
「お、お礼なんてしてもらうほどのことじゃないです。た、たまたま気が付いただけで、無我夢中だっただけで」
「あまり謙遜しすぎるのもどうかと思うわよ? たまたまっていうけれど、貴女以外の他の誰も気が付いていなかったのだから。下手したら私、大怪我をして、悪くすれば命を失っていたかもしれないのだから。でも、ちょっとびっくりしちゃった。ヒーローのように颯爽と現れて私を助けてくれて、おまけにリリアン史上初、入学試験で五教科五百点満点を叩き出した首席だから、どんな子かと思っていたのだけれど、こんな可愛らしいなんて」
 江利子のその言葉に、周囲の生徒達から驚きの声があがる。
「ええええええっ!? ゆ、祐紀ちゃん、満点!? そ、そんな凄い人だったの!!」
「嘘、そんな、まさか」
 確かに、大学受験すら体験した祐麒からしてみれば、リリアンの入学試験内容は簡単なもので、問題なく合格できるとは思ったが、全教科満点など簡単に取れるものではない。ただ、試験の時の祐麒はある種のトリップ状態に陥っており、そのせいもあって奇跡を起こせたのかもしれない。
「でも、祐紀ちゃんがどんな子でも、私の命の恩人であることに変わりはないわ。貴女がいなかったら、私はこの世にいなかったかもしれない」
「そんな、大げさですって」
「そんなことないわ。だから、これは私からの心からの気持ち……」
 言いながら江利子はしゃがみ込んだかと思うと、なんと地面に膝をつき、祐紀の右手を恭しく取り、その甲に口づけをした。
 一瞬、静寂に包まれた後、爆発したような歓声が轟く。
「あ、ああ、あああああのっ!?」
 突然のことに、真っ赤になって狼狽しながら江利子を見つめると、江利子はそっと唇を離して優雅に立ち上がった。
「これは私の、感謝の気持ちよ」
 江利子はさほど背は高くない。祐麒よりもずっと低く、祐麒にしてみれば見下ろす形になるが、それでも圧倒されるようなオーラを感じる。
「ふふふ、入試で満点を取る知性、危険を事前に察知する洞察力と勘、危険をものともせず他人を助けようという危機判断と勇敢さ、怪我人を助けるための決断力、自分の怪我より人の怪我を心配する思いやり、私を背負って保健室まで走る体力と運動能力、加えて、モデルのようにすらりと長身なのに可憐で可愛らしい容姿、それなのに全く自分をおしだそうとしない謙虚さ。そして、こうして近くにいて分かる親しみやすさ……ふふ、今年は楽しい一年になりそうね」
「いえ、オ……私はそんな大層な人間ではございませんので」
 肩をすぼめて言うが、江利子は全く聞いていないようで、悩ましい目線と仕種を祐麒に向けてきている。なんというか、物凄くフェミニンだ。
「あ、あの、申し訳ございません、黄薔薇様!」
 そこへ今度は、生徒の間をかき分けるようにして最前列に突然出張ってきた少女が声をあげた。縁なし眼鏡をかけた、カメラ少女、武嶋蔦子であった。
「先ほどのシーン、写真に撮り損ねたので、申し訳ありませんがもう一度お願いできませんでしょうか。『りりあんかわら版』にも掲載予定です」
「ええーーーっ!? ややや、やめてください」
「あら、面白そうじゃない」
 逃げ腰の祐麒に対し、ふふん、と楽しそうな顔をする江利子。というか蔦子は同じ一年生で入学したばかりのはずなのに、もう活動を開始しているとかどれだけバイタリティに溢れているのだか。
「それじゃあ、どうしましょうか」
「や、やめ」
「桂ちゃん、押さえて!」
「は、はいっ!?」
 逃げようとしたところ、江利子の命令によって桂に後ろから抱き着かれ、逃げられなくなってしまった。
「か、桂ちゃん? 裏切り者~~っ!」
「ご、ごめんなさーい! でも黄薔薇様の命令には逆らえないし……私も見たいし」
 動けなくなった祐麒に対し、獲物を狩る猛獣の目、いや妖艶に獲物を貪るサキュバスの瞳で迫る江利子。
 そして江利子は。
 祐麒の肩に手を置き、つま先立ちになって祐麒のほっぺにチュウをした。
 ほんのりひんやりした、ぷくぷくした柔らかいものが、頬に押し付けられるのを感じると同時に、蔦子のシャッターが切られ、ギャラリーの黄色い歓声が渦を巻く。
 やがてゆっくりと江利子は離れ、満足げに頷く。
「それでは、ごきげんよう。また、会いましょう」
 一礼をして、校舎の中へと去っていく江利子。
 取り残された祐麒は呆然と立ち尽くしていたが、ふと、周囲から突き刺さる視線に我に返る。
 それは、先ほどまでとも明らかに異なっていた。
 言うなれば、より強烈な尊敬と羨望の視線。そして一部、嫉妬と怒りも交じっているか。とにかく、生まれて初めて大量の女子生徒からそのような視線を受けている。
「か、かか、桂ちゃ~んっ!」
 思わず隣の桂に泣きつく。
「あははっ……祐紀ちゃん、目立たないようにってゆーのは、もう無理かもね」
「ってゆうか、桂ちゃん、恨むよっ」
「あはは、ご、ごめん、ごめん」
 ぽむぽむと、祐麒の頭を軽く叩く桂。
 恐る恐る、改めて周囲を見てみれば、驚くほど多くの女子生徒が祐麒のことを見てきている。これから更に、江利子とのやり取りも含めて噂が広まっていくのだろう。いや、既に広がり始めているのかもしれない。女の子のネットワークの広さ、速さというものは、なんとなくわかっている。

「う、うそーーーーーーーーーーーんっ!?」

 ここはリリアン女学園。
 うら若き、清く正しい令嬢たちが通う乙女の園。

 こうして祐麒は、リリアン女学園に華麗に舞い降りたのであった。

 

プロローグ おしまい

 

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