書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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マリみてSS(由乃、祐麒他)】ぱられる21   ウェディングドレスにお願い

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~ ぱられる! ~

 

 「ぱられる21   ウェディングドレスにお願い」 

 

 

 学園祭当日となった。
 前日の夜遅くまで準備をしていて疲れていてもおかしくないのだが、そこは若さとテンションの高さで不思議と肉体的には絶好調という感じである。こういうイベント物は、本番前に皆で必死こいて準備しているその時が楽しいし、充実しているものだ。もちろん、その成果として本番で良い結果が得られるならば言うことはない。
「ほら祐麒、学校行くよ学校。令ちゃんも早く、早くっ」
 由乃も同じでテンションが上がっている。
「由乃、あんまり慌てて転んでも知らないわよ」
「もー令ちゃんったら、子供じゃないんだからそんなことしません」
 窘める令の方も、やはりなんだかんだといっていつもより気持ちは高まっているようだ。令にとっては高校生活最後の学園祭になるわけで、良い思い出にしたいというのもあるだろう。
 いつもより少し早目に家を出て学園祭に向かう足取りも軽い。
 学園に近づいてくると、雰囲気も変わってくる。周囲に生徒の数が増え、その誰の表情も楽しみと期待に満ちているように感じられる。正門に掲げられた学園祭の看板、賑やかに飾り立てられたゲートは、美術部を中心とした有志によって作成されたものだ。
 学園内に足を踏み入れれば、そこかしこで最後の準備、仕上げに精を出す生徒達で溢れている。大きな声で指示を出している女子生徒、無言で必死に何かを組み立てている男子生徒、大量の荷物を抱えて早足で歩いている生徒、そんなお祭り前の賑やかな光景を目にしながら祐麒達も自分たちの教室へと向かった。
「あ、由乃、祐麒くん、おっそーい!」
 教室に入る姿を見つけた蔦子が駆け寄ってくるなり言う。
「え、だってうちのクラスは準備、昨日のうちに終わっていたじゃない」
「でも、教室の最終仕上げは朝になるって言っていたでしょう」
「そ、そうだったっけ?」
「いや……そうだっけ?」
 由乃に顔を向けて問いかけられたが、祐麒も見つめ返して首を傾げる。
 すると、小林がやってきて「やれやれ」とでもいうように肩をすくめながら口を開いた。
「仕方ないって、二人はきっと今日のことで盛り上がって、夜遅くまでベッドの上で……」
「ちょっ……小林くんっ! た、確かに祐麒はベッドに来たけど、そんな遅くまではいなかったし!」
 昨夜のことを思いだしたのか、赤面しつつ答える由乃だったが、どう考えても小林の冗談が実は本当だったというような言い方になってしまっている。
「え、何、マジでおまえベッド行ったの!?」
「違う、誤解するな!」
「ちょっと祐麒、誤解って何よ。まさか、約束忘れたわけじゃ……」
「そういうことじゃなくて、気が付けよ!?」
「な、何がよ」
「そうか、マジだったのか……」
「ほらほら、いいからさっさと手伝って頂戴。もうすぐ開始なんだから、由乃は最初のシフトだから着替えてきて。祐麒くんはこっちで手伝って」
 蔦子が割り込んできて由乃を着替えへと差し向け、祐麒の背中を押して裏方仕事の方に連れてゆく。
「……ねえ祐麒くん。どこかで時間あったら、うちの部にも遊びに来る?」
 祐麒のシャツを軽く握りながら、小さな声で蔦子が聞いてきた。教室内の騒がしさで消えてしまいそうな声だったけど、祐麒には届いた。
「ああ、コスプレ撮影会だっけ? 楽しそうだから行ってみるよ、蔦子がまたコスプレ姿を見せてくれるなら」
「わ……私は、だから撮影する側だってば」
「イテテテ、わき腹をつねるなよ」
 身を捩って蔦子の攻撃から逃げると。
「ね、ねえ祐麒くん。さっきの、由乃と昨日の夜にベッドでって……」
 ちらちらと周囲の様子を気にしながら、上目づかいで尋ねてきた。眼鏡をかけている蔦子だが、上から見ると眼鏡との隙間から直接見える瞳が大きく綺麗なことになぜか驚かされる。
「え? ああ、別に、学園祭のことを話しに部屋に行っただけだよ。それをなんで、ああも変な言い方ができるもんだよな、毎回毎回」
「そうなんだ、あははっ、まあそれが由乃らしいっちゃ、由乃らしいけど」
 ホッとしたように笑う蔦子。
 いつものことだし、そこまで心配するわけでもないと分かっているはずの蔦子だが、今日は少しばかり神経質になっているのは学園祭の雰囲気にあてられているのだろうか。
「よっし、それじゃあ頑張ろうね、一緒に」
「OK、珍しいな、いつもクールな蔦子が珍しく気合入って」
「失礼ね、私だって学園祭にもなればテンションくらい上がるわよ」

 そんなこんなで喫茶店の開店準備を進め、教室内のムードも雰囲気も盛り上がっていく中、クラスメイト達の姿を眺めていると。
「やっほー祐麒くん、見て見てっ! どう、可愛いでしょうっ!?」
「おおっと桂さん、と、山口さん」
 祐麒の前に跳ねるようにやって来たのは桂、そして桂に手を引かれて真美。二人とも、ウェイトレスの格好に着替えている。
 白い清潔なブラウスにスカート、リボンタイとカチューシャが可愛らしさをアピール。衣装は完全にお揃いではなく、ブラウスとスカートという基本スタイルを決めてあとは女子それぞれの選択に任せ、そこにクラスでお揃いにしたエプロン、リボンタイ、カチューシャをあわせるというスタイルである。
「あれ? 二人のその格好ってもしかして」
「そうです、実はこれ、テニスウェアなんだ。どう?」
「そっか、そういえば桂さんはテニス部だもんね」
 白いシャツに赤いスコートというのがリリアンの女子テニス部スタイルで、その上にエプロンというのがアンバランスな中にも可憐さを出している。
「ううう、は、恥ずかしいよう……」
 真美はおそらく桂に半ば強引に仲間に引き込まれたのだろう、桂に隠れるようにしてもじもじしており、特に丈の短いスコートを気にしているようだった。確かに、他の女子の給仕スタイルと比べてもスコートは最も短く、脚の露出が高いようだった。
「大丈夫だって、ほら、祐麒くんも何か言ってあげて」
 桂が真美の背後に回り、真美の体を祐麒へと相対させる。
「はうぅっ……」
「そんな恥ずかしがらなくても、良く似合っていて可愛いって。安心しなよ山口さん」
 嘘も偽りもなく言う。とはいえ、周囲で多くの人が聞いていたらとても恥ずかしくて言えないが、皆はそれぞれ開店前の準備に追われていたり、適当なグループで盛り上がったりしていて、特に祐麒達のことを気にかけるような連中がいなかった。また、明るく人当たりも良く、ちょっとおっちょこちょいな愛されキャラの桂が一緒なことも大きかった。
「ほらほら、良かったね、真美さん。可愛いって、ね、ね」
「ううう、や、やめてよ、桂ちゃん……」
「こらこら、ちょっと何を真美さんのこといじめてんのよ、祐麒ったら」
「は、別にいじめてないし」
 横から声をかけてきたのは、着替え終えた由乃であった。真美たちと同じように白いシャツにスカートだが、スカートは二人ほど短いものではない。ただ、シャツの方が随分と大きめで袖を捲っている。
「あれ、由乃さんのシャツ、男性ものじゃない?」
「ああこれ、うん、なんか普通じゃ面白くないかと思って、祐麒のワイシャツを貸してもらったの」
「いやちょっと待て、俺は何も聞いていないぞ」
「大丈夫、勝手に借りたから」
「いやいや、それ借りたって言わないぞ、窃盗じゃないか」
「ちゃんと洗って返すからいいでしょう」
「そういう問題じゃ……って、どうかした、山口さん?」
 なぜか桂にすがりつくようにして身を支えている真美。体調でも悪いのだろうかとちょっと心配になる。
「な、なんでもないの……う、うう桂ちゃん、やっぱり無理、私が入り込む余地なんてないんだ……」
「ま、まだ分からないよ、ふぁいとだよ真美さん!」
「う、うん……ふぁ、ふぁいと……」
 拳を握って向かい合っている桂と真美。学園祭の開始、クラス出し物である喫茶店の回転に向けて気合を入れているのだろうと、眺めつつ微笑む祐麒。
 すると、スピーカーから雑音が聞こえてきた。
 そしてすぐに音楽が鳴り、あわせて学園内に声が響き渡る。

『――これより第xx回リリアン祭、第一日目を開始します――』

 

 喫茶店ということもあって朝一番から客で溢れるということはなかったが、それでも少しずつ他のクラスから客がやってきたりする。シフトで最初にウェイトレスとして入っている桂のテニス部の友人など、ある意味、少しサクラとしての意味合いもあって依頼していた生徒の姿もある。
 メイド喫茶などではなく、萌えなどを押し出しているわけではないが、クラスの女子のレベルは秘かに高いと思っており、客には困らないだろうと予想している。また、メニューにも気合を入れているので、味でも勝負できると思っている。ちなみに男子生徒の給仕スタイルは、ワイシャツにベスト着用というシンプルなものである。
 祐麒はしばらく裏方として調理や洗い物、仕込みなどに入ることになっているが、それを終えると最初の非番になる。由乃たちは昼までシフトに入っており、とりあえず一人でぶらぶらとうろついてみることにする。
 学園内は非日常の中に突入し、生徒だけではなく徐々に一般客の姿も多くなってきて、より一層の賑やかさを醸し出している。
 教室を使っての模擬店、アトラクション(?)を横目に見ながら外に出てみると、屋外を利用した催し物などもある。また、各クラスの客引きらしき生徒達が、プラカードを掲げて歩いたり、ビラを配ったり、それを見ているだけでも楽しい気分にさせられる。
「いらっしゃいませー、美味しい美味しいクレープ屋さんやってまーすっ☆」
 一際元気な声が耳に入り、思わず目を向けてみると。
 派手な格好をした女の子が注目を浴びていた。
「是非、いらしてください。普通のお店じゃ売っていないような特製クレープもありますよーっ」
 と、その女の子の目が祐麒の姿をとらえたようで、てくてくと駆け寄って来た。
「祐麒お兄ちゃんは当然、来てくれるよねっ?」
「笙子、その格好は?」
 差し出されたビラを受け取りながら、まじまじと笙子の姿を見つめる。
「あ、これ? 可愛いでしょ?」
 と、その場でくるりと回ってみせる笙子は、水色のワンピースに白いエプロン、胸元と頭には大きなリボンと、ワンダーランドな少女をイメージしたようなコスチューム。ロリータ衣装なわけだが、やや童顔で可愛らしいタイプの美少女である笙子にはぴったり似合っていた。
「クレープか。何これ、梅クレープとかキムチ、タラコとか、美味しいの?」
「それは食べてのお楽しみ。あたしが考えたメニューもあるから、それ注文してよ」
「いや、それは勘弁してもらいたいな」
「えー、何それっ」
 腰に手をあてて怒っている笙子だが、不思議の国の少女が怒っているのかと思うと微笑ましくも感じる。
「ちょっと笙子、何サボっているのよ」
「あ、乃梨ちゃん、サボってなんかないよ、お兄ちゃんを勧誘していたの」
「え……げっ!?」
 やってきたのは乃梨子であったが、これまた笙子と同様にコスチュームに身を包んでいる。ただしイメージは全く異なり、真っ赤なワンピースに真っ赤な頭巾、手にはバスケットを提げている。
「へえ、これはまた」
「うわっ、やだ、見ないでくださいよ変態っ!」
 赤面しながらスカートを抑える乃梨子。確かに、笙子も乃梨子も結構スカートは短くて、ニーハイソックスを履いた太ももがなかなか目に眩しいのだが、別にそこばかりを見ていたつもりはない。
「いや、俺がその衣装を着て欲しいって頼んだわけじゃないし。てゆーか、何、童話の国かなんかなの?」
「やっぱり甘いものだから、なんとなくイメージ的に童話だろうって。それで、あたしと乃梨ちゃんが看板娘というわけ!」
 水色と赤のコントラストも眩しく、笑顔が愛らしい笙子が看板娘で客引きというのは分かるのだが。
「二条さんは、そんな仏頂面じゃあ、看板娘はどうなのかと」
「はぁ? 先輩にそんなこと言われたくないですけど」
「こら乃梨ちゃん、笑顔、笑顔」
「でも、笙子」
「駄目だってば、せっかくの学園祭なのに。ごめんねお兄ちゃん、乃梨ちゃんてば恥ずかしくて照れているだけだから」
「いや、俺も喧嘩腰でごめん。せっかくの楽しい学園祭なんだし、楽しくいこう」
「…………はい」
 しぶしぶ頷く乃梨子。
「じゃあお兄ちゃん、絶対に遊びに来てよ? 乃梨ちゃんも、お兄ちゃんが来てくれるのを凄く楽しみに待っていたし」
「ちょ、ちょっと笙子! 私、そんなこと言ってないし!」
「えー? だって、『福沢さんが来たらどうしよう、こんな格好見られたら。でもまあ、来るわけないか、別に興味ないだろうし』とか、ぶつぶつ言ってばかりいたじゃん」
「それのどこが、来てくれるのを楽しみにしているように聞こえるのよ!?」
「こらこら二人とも、言った傍から喧嘩しないで」
「喧嘩なんてしていません!」
 噛みついてくるような乃梨子。格好が赤ずきんなだけに迫力はないのだが。
「二条さんもさ、せっかく衣装も似合っているんだからさ、笙子の言うように笑った方がもっと可愛くなるよ」
「なっ……」
 絶句し、頬を朱に染める乃梨子。
「あ、ずるいお兄ちゃん! あたしは可愛くないの?」
「もちろん、笙子だって良く似合っているって、可愛いよ」
「わーい、やった! 良かったね、乃梨ちゃん」
 ぷくーっと頬を膨らませたかと思うと、すぐに破顔一笑、跳ねるようにして喜びを表現する笙子。
「別に、嬉しくなんかないし。ほら笙子、いつまでも同じ相手に構っていたら客引きにならないでしょう、行くわよ」
「あ、はーい。それじゃあお兄ちゃん、後でね、クレープ食べに来てね」
「あ、ああ……いや、でも」
 ちらと、明らかに怒っているように見える乃梨子に目をむけると。
「べ……別に、うちのクラスの売り上げに貢献してくれるなら、来ても構わないけど?」
 ぷいと横を向きながらも、そう言ってくれる乃梨子。
「了解。それじゃ特別に美味しいクレープ、よろしく」
「そんな特別扱いなんかしませんからね」
「ばいばーい、祐麒お兄ちゃん」

 遠ざかっていく水色と赤の二人を見送りつつ、時間を確認する。昼時の一番忙しい時間帯が祐麒のシフトで、まだ時間はあるのだがやや中途半端だった。どうしようかと考え、そういえば蔦子がこの時間は部活の方に顔を出しているわけで、ちょっと様子を見に行ってみようと足を向ける。
 賑やかな廊下を歩いていざ写真部のコスプレ撮影会場に到着。
「よーっす蔦子、約束通り遊びに来たぞ」
「あら祐麒くん、いらっしゃい」
「どうした、客の入りが悪いみたいだけど」
 言葉通り、部室内には部員以外の客の姿が見えなかった。たまたまかもしれないが、ちょっと寂しいことに間違いはない。
「うーん、宣伝が足りなかったかしら。それともコスプレってことに抵抗感があるのかしら?」
 頬杖をついて困った表情を見せる蔦子。
 後輩らしき女の子もそれに続けて口を開く。
「一応、何人か遊びには来てくれたんですけどね。物珍しそうに衣装を見て、それで帰っちゃったんですよ」
「誰か、最初の一歩を踏み出して楽しさをアピールしてくれたら、ちょっと変わるんじゃないかと思うんだけどね」
 はふぅ、とため息を吐き出す蔦子だったが。
「それですよ、蔦子先輩! まずは誰かにコスプレしてもらって、それで部屋の中じゃなくて廊下に出て撮影会して、皆にアピールしましょう!」
「でも、私達部員がやっても」
「何言っているんですか、福沢先輩が来てくれたじゃないですか!」
「え、俺?」
 思わぬ展開に戸惑う祐麒。
「ああ、なるほど確かに。祐麒くん、まさか断るとかないわよねぇ」
「いや……でも、コスプレっていっても、何を着れば」
「そんなお悩みの方に、ロシアンルーレットコスプレ! って、単にくじ引きしてランダムで衣装を決めるだけなんですけど、ささ先輩、どーぞどーぞ」
 素早く籤引きの箱を持ち出す写真部の一年生に苦笑いするしかない。蔦子だけならともかく、後輩の女子三人に囲まれて嫌だと言い切れない祐麒は、仕方なくなるようになれとくじを引いた。そこに書かれていたコスプレ衣装は。
「え……ちょっとこれは、どうかな」
「えー、いいじゃないですか、変なコスプレじゃないですよ、凄くまともですし」
「そうかもだけど、だとしてもこれを一人でってのは」
 渋る祐麒を見ると、三人の一年生は顔を見合わせて微笑み頷き合う。
「それなら、蔦子先輩がいるじゃないですか」
「――はぁ!?」
 いきなり振られて目を丸くする蔦子。
「なんで私が。嫌よ、私はそんな客引きパンダ」
「先輩のアイデアじゃあないですかー。それに、蔦子先輩ならぴったりですよ!」
「そうそう、さ、さ、着替えましょう。りっこは福沢先輩の方をお願い」
「らじゃー! さ、福沢先輩はこっちこっち」
 一年生二人の両脇を抱えられて更衣スペースに連れて行かれる蔦子、祐麒も同じようにして強引にコスプレ衣装に着替えさせられてしまった。
 そして。

 一気に人が集まって来た。廊下で集客するとすぐに渋滞となり、慌てて室内に引き返したのだが、一度人が集まり出すとつられるようにして遠くにいた人たちも集まって来た。
「うう、は、恥ずかしい……」
「くそ、俺の台詞だ、それは……」
 必死に羞恥に耐えている蔦子を見れば、頬は朱に染まり、いつものクール然とした蔦子はそこにいなかった。
 代わりに、純白のウェディングドレスに身を包んで恥ずかしさに顔を伏せている、初々しい花嫁姿の蔦子が隣にいる。肩と腕、そして胸元をも大きくさらけ出していて、谷間の作られた大きく盛り上がった胸元にどうしても目がいってしまう。
 並ぶ祐麒はタキシード、祐麒がくじで引いたのは花婿衣装だった。
「蔦子先輩、綺麗です! よくにあってますー」
「こっち向いて、笑顔お願いしまーす!」
 写真部の一年生の子達が撮影し、そんな様子をギャラリーが物珍しそうに取り囲んで見物していた。
「なんで、こんな衣装があるんだ?」
「私だって知らないわよ、演劇部が使ったんだろうけど」
 本当の結婚式に使用するようなドレスに及ぶべくもないが、それでも十分にウェディングドレスとして機能しているし、お祭りなんだからそれらしく見えれば特に構わないのだろうが、わざわざこの衣装を選ぶ人がいるのだろうかとは思ってしまう。
「うう……こんな姿、もしも由乃に見られたらどうしよう……」
「あー、笑われるかもしれないよな」
「……はぁっ。そうじゃないんだけど」
「ん、何が?」
 がっくりと肩を落とす蔦子に問いかける祐麒だったが、そんなことをしている場合じゃなくなった。
 盛り上がり、調子に乗り始めたギャラリーからとんでもない声が飛んできたから。
「誓いのキスはーーっ!?」
「そうだ、チューしろ、チュー!」
「……は? な、何言ってんだよ、そんなこと出来るわけ……」
 言い返そうとする祐麒だったが、ノリにのった皆からキスコールが沸き起こり、祐麒の声などかき消されてしまう。
「ちょ、ちょっとあなたたち、どうにかしてよ……」
 困り顔で蔦子も言うのだが。
「あちゃー……これは、キスしないと収まりそうもないですね」
「な、何を言っているのよ、あなたたちっ」
「ちょっとぶちゅっと、いいじゃないですか、学園祭なんですし」
「だからって、マズイわよそんな」
「イベントですし、断り切れない雰囲気だったってあたし達も証言しますから。せっかくのチャンスじゃないですか、蔦子先輩」
「そうですよ、あたし達、蔦子先輩のこと応援していますから。島津先輩に、負けないで頑張ってください」
「な……っ」
 顔を真っ赤にして絶句する蔦子。
 祐麒は、「だらしないぞー」とか、「ヘタレ花婿!」とかヤジられておろおろしている。確かに、この状況を収めるには、フリだけでもしないとならないかもしれないが。
「……ああもうっ、祐麒くんっ」
「え、何、どうした蔦子……って、え!?」
 白いグローブに包まれた蔦子の手が伸びてきたかと思うと、祐麒の頭をぐいと引っ張って蔦子と向かい合わされる。そして、口元を手で隠すようにした後、軽く背伸びをして顔を近づけてきた。
 唇と唇が触れ合う直前で止まるが、蔦子の手によって二人の口は隠されており、傍目にはキスをしているように見えるだろう。
 もちろん、観客もそれはお約束と分かっているのかもしれないが、それでも大盛り上がりで歓声をあげ、口笛を鳴らし、悲鳴をあげる。

 それでどうにかその場を収めて、二人は更衣スペースへと逃げこんだ。間近に感じられた蔦子の吐息、恥ずかしそうに真っ赤になった顔、それらのことが思い出されてドキドキしながら祐麒は制服に着替え直す。
「蔦子は、着替えないのか?」
「馬鹿っ! い、一緒に着替えられるわけないでしょう。てゆうか、なんで祐麒くんは私がいる目の前で、平気で着替えたわけ!?」
 慌てていたせいで二人同じスペースに逃げ込んでしまったのだが、祐麒は早く自由になりたくて蔦子のことも気にせずに着替えをしてしまったのだ。男の祐麒と違って蔦子は簡単に着替えることなど出来ず、まだドレス姿だった。
「わ、悪い。いや、しかし酷い目にあったな」
「悪かったわね、相手が私で」
「そーゆうことじゃないよ、ドレス似合っているし。あんな人前でなければなぁ」
「……人前じゃなければ、キスしても良かったとでも言うの?」
「そ、そうゆうことでもないし! わ、分かっているだろ、大体そう気軽にキスなんてするもんじゃないだろ」
「そうよね、す、好きな人同士でするものだしね」
「そーゆーこと。それじゃ俺、そろそろクラス戻るから」
 いつまでも残っていては蔦子が着替えられない。祐麒は着替えスペースを出て行こうと椅子から立ち上がろうとしたのだが。
「あ、ちょっと待って祐麒くん。なんかゴミみたいのがついているよ」
「え、どこに?」
「取ってあげるから、ちょっと目瞑って動かないでいてくれる?」
「ああ、悪い」
 と、蔦子に言われるまま目を閉じてじっとする。
 すると蔦子が近づいてくる気配がして、頬にあたたかくて柔らかいものが押し付けられ、そして離れてゆく。
「……も、もういいよ、と、取れたから」
「うん、サンキュ……て、なんで真っ赤になってんだ蔦子?」
「な、なってないし」
「いや、なっているけど。ま、いいか、そろそろ行かないとやばいな。いやまて、そういえば蔦子も俺と同じシフトじゃないか」
「う、うん、急いで着替えるから、先に行っていて」
「早く来いよ」
 出て行く祐麒を見送り、ほっと息を吐き出す。そして、両手で頬をおさえ、今さらになってなんて大胆なことをしてしまったのだろうと思うが、不思議なことに後悔はしていなかった。ただ、こんな隠れてこそこそと、由乃に申し訳ないという気持ちは浮かび上がってくるのだが、それも今になって少し落ち着いたからこそ思うこと。
 これじゃいかんと頭を冷やしながら制服に着替え更衣スペースを出ると、先ほどのパフォーマンスが受けたのか、撮影会はなかなかの賑わいを見せていた。
 そんな中、後輩の女の子が近づいてきてデジカメの画像を見せてくれた。祐麒と蔦子が花婿、花嫁姿で並んで立つ姿、"フリ"のキスシーン、画像を見るだけで頬が熱くなるのだが。
「でも、一番良い写真はこれですね、やっぱり」
 と、見せられた次の画像には。
「なっ…………!? ちょ、ちょっとあなた、覗いてっ」
「いえー、お二人が同じ更衣室に入られて時間がかかっているので、もしやあらぬ事をしているのではと心配して様子を見ようとしたら、隙間から見えてしまったんですけど……でも、蔦子先輩、凄く可愛いですよっ!」
 確かに言う通り、隙間から撮ったような写真ではあったが。そこに映っていたのは、制服姿で目を閉じて椅子に座っている祐麒、そしてその祐麒の頬に上半身を屈めて顔を近づけているウェディングドレス姿の蔦子。
「大丈夫です、この写真は、蔦子先輩だけにお渡ししますから!」
 悪意の欠片もない顔をしてそう言われて蔦子は。
「………………お、お願いね」
 小さな声でそう言い、頷くのであった。

 

おしまい

 

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