令は、星を見上げていた。
夜空に無数に輝く、光の欠片。知っている星もあれば、名も知れずひっそりと息を殺している星もある。
外見とは裏腹に、ロマンチックな令。
ミスマッチだな、と思いつつも、自分の性格や趣味をそう簡単に変えられるものではない。だから、星を見ていると色んな事を考えてしまう。
この数多の星に、もし自分と由乃の星があるとすれば、一体どれなのだろうかとか。いつも仲良さそうに寄り添っているあの星達か。それとも、ちょっと離れているけれど、鮮やかに瞬いているこっちの星か。
由乃に言ったら、笑われてしまいそうなこと。
でもきっと、由乃だったら、笑って令のことをからかいながら、どれが令の星でどれが由乃の星か指差して決めてくれるだろう。
そんなことを考えていると、一つの星が流れ落ちた。
流れ星。
あれは、誰の星だったのだろうか。
まさか、自分や由乃の星ではないだろうか。
たまに、不安になる。いつか今の流れ星のように、どちらかが離れて行ってしまうのではないかと。
そんなことはない、と、心の中で強く思っていても。
いつかは、そんな時だって来るかもしれない。それは、物理的に離れるということではなく、精神的に離れることなのかもしれない。
ないと思っていても、きっとその日はいつかやってくる。
だって、二人だけで生きているのではないのだから。
真美は、星を探していた。
無限の宇宙に存在する、数多の星。今の時期、見える星座は何だろうか。しかし残念ながら、真美は星に明るくは無かった。
それなら、一体、何を探していたというのか。
それすらも分からないまま、ただ引き込まれるようにして天上を仰ぎ見て。見ていれば、そこに何かを見つけられそうな気がして。
今まで、そんなことを感じたことは無かった。考えたことすらも。
それがなぜ、今になってこんなにも惑い、彷徨っているのだろうか。
自分らしくない。
でも、それなら何が自分らしいというのだろうか。本当に、自分らしいとはどういうことなのか。ひょっとすると、今の自分のほうが、実は最も自分らしいかもしれないのに。
視界の端で、星が一つ、流れ落ちた。
まるで、涙のようだと思った。
あれは、夜空が流す涙。なぜ今宵、空は涙しているのか。
真美は探していた。
自分が探すべき星を。
由乃は、星を掴みたかった。
幼い頃から、由乃の体は自由がきかなかった。だから、普通の子なら簡単に出来ることでも、由乃からしたらとてつもなく難しいことで。どんなに頑張ろうとしても、頑張ることすら出来なくて。
地上にいる人間が、星を掴むことなど出来ないように。
それでも由乃は、心の中で常に強く思っていた。いつか必ず、自分の手で取って見せると。
大きくなるまで、それは最愛の人が代わりに成してくれていた。でも今は、その人と並び、自らの手で成していくことができる。
由乃と令ちゃんは、今はもう並んで立つことが出来るのだ。
だけど。
そのことが逆に、苦痛を生むこともあるかもしれない。
いつも、笑っていたいけれど。
いつも、令ちゃんの笑顔を見ていたいけれど。
夜空を見上げれば満天の星。この、幾千、幾億の星の中に、由乃や令ちゃんの星はない。なぜなら、由乃達は今ここに存在しているから。
星が落ちる。流れ星。
小さい頃は、流れ星を見るたびにお願いをした。丈夫な体になりたいと、切に願ったから。
だけど、今はもう願いをかけることはない。願いは、自分の力で叶えるのだ。
ねえ、令ちゃん。由乃は令ちゃんと、ずっと一緒に居たいと願っている。でも、本当にずっと一緒に居られるのかな。
ロマンチックな令ちゃんは、きっとあそこで寄り添っている星のように、二人は離れることなんてないって言うのかな。
――― ねえ、令ちゃん。私、世界で一番、令ちゃんが好きよ? ―――
1.に続く