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ノーマルCP マリア様がみてる 清子

【マリみてSS(清子×祐麒×アンリ)】可愛い

更新日:

 

~ 可愛い ~

 

 

 お盆の時期。
 夏真っ盛りの中、祐麒は小笠原家を訪れていた。
 この時期、家の主人である融は避暑という名目で愛人とともに出かけてしまう。使用人達も、お盆ということで実家に帰省させるので、広い家には清子と祥子が取り残される格好となる。
 ところが今年は、祥子もどこかしらに出かけてしまっているとのことで、完全に清子だけが留守番になるらしい。広い家に一人だけ残される、それだけならまだしも、旦那は愛人のもとにいってしまうのだ、寂しさはいかほどのものか。
 そこで祐麒がまたも呼ばれたというわけだ。しかも今回は、祥子と祐巳だけでなく、優も聖もいない。都合があって来られないとのことだが、本当にそうだろうかと祐麒は疑っているものの、文句を言うつもりなどない。
 何せ、清子と二人きり。いや、アンリもいるから三人だが、それでも濃密な時間を過ごせることに変わりはないのだから。
 清子に対して淡い憧れを抱いているのは確かだ。だが、それが恋心なのかと問われると自分でも分からない。相手は年上どころか人妻で、祐麒より一学年上の娘を持っているわけで、普通に考えれば恋愛対象になるわけがない。バツイチとか未亡人ならまだしも、旦那はバリバリの現役、どうしようもない。
 それでも、清子と一緒に居るとドキドキするし、嬉しくなる。例え何があるわけではなくとも、別にいいではないか。

「…………とか、何かヘタレなこと考えてんだろ、オメー?」

 アンリにすごまれた。
「そんなんじゃ困るだろうが、ちゃんと奥様を幸せにしてさしあげろ。それくらいの気概を持てよな」
「いややっぱ実際、無理でしょ? だって、下手したら家庭崩壊だよ!? それに別に、今回は泊まりってわけでもないし」
 いくらなんでも男一人で泊まりというのは無理がある。
「そんなの、なんだかんだ理由付けて夜までいればいいだろ。そして家庭崩壊にならないよう上手くまとめるくらい、男ならやってみせろ」
「無茶苦茶だ!」
「とにかく。せっかくの機会、こうして小笠原家に呼んで奥様と二人きりの機会を得られるんだ、上手いことやれって言ってんだよ」
「あ、アンリさん、なんか怒っています?」
「怒ってねーよ!!」
 不機嫌な声を受けて肩をすくめる。
 清子とアンリ以外が不在という状況はたまたまだろうが、その状況下に祐麒を呼んでくれたのはアンリの計らいだ。
「まあいい、とにかく勝負だからな。ほれいくぞ」
 ずんずんと歩いて行くアンリに、慌ててついてく。
「行くって、どこへです?」
「決まってんだろ、あそこだよ」
 と、アンリが目指した先にあったものは――

 

 ドキドキしながら待つこと数分。
 照り付ける日差しの中、温度以外の理由で体が熱くなってきているような気がする。
「――お待たせしました」
 アンリの、使用人バージョンの澄ました声が聞こえて振り返ると。
 ブルーを基調としたヴィンテージ柄を組み合わせたパッチワーク風プリントの三角ホルタービキニに身を包んだアンリが向かってくる。
 細く引き締まったしなやかな筋肉に身を包まれつつも、女性らしい柔らかさも失っているわけではない。胸こそ小さく目立たないものの、腰はくびれているし脚の形も良い。ブルー地に赤茶けた髪の毛が逆に対比になってマッチしているし、ショーツはサイドが細めで脚を長く見せている。
「良いお天気ですね」
 続いて聞こえてきた声に、まさかと思い声を向けると。
 水着こそ着ているらしいものの、残念ながらパレオワンピースを上に羽織っているので完全には見ることができない。
 祐麒が案内された場所は小笠原家に作られているプライベートプールだ。本格的に泳ぐほど広くないとはいえ、2,3人で楽しむには十分な大きさを誇っているし綺麗でもある。
 清子はビーチサイド、パラソルの下でチェアに座り、持ってきた本を広げる。
「アンリさんも、遠慮しないで自由に使っていいのに」
「いえ、とんでもない。使用人である私が勝手に使用するなど、とんでもありません」
 清子の言葉に恐縮してみせるアンリ。祐麒と二人で使って構わないと言われたのを、どうにか理由をつけて引っ張ってきたのだということが何となく分かる。
「……とりあえず、互いに肌を見せ合うってのは、精神的な距離感が縮まるだろ。特に、奥様くらいの年齢になると」
 近づいてきたアンリが小さな声で言ってくる。
「でも、清子さんは泳ぐ気はないようですけど」
「馬鹿、そこはお前、うまいことやれよ」
「うまいことって……」
「ぐずぐず言ってないで、とりあえず最初はあたしら二人で遊んでみせるんだ、ほれ」
「うわ、ああっ!?」
 アンリに押されて、そのままプールに転落して派手な水しぶきを上げる。
 上下が分からなくなり、とにかくもがいて水面から顔を出す。
「ぶはっ! ちょ、アンリさん酷い……ぶっ!?」
「あははっ、油断大敵!」
 浮上したタイミングで今度はアンリが飛び込んできて、衝撃で派手に祐麒に向けて水を飛ばす。更に追い打ちをかけるように、手でばしゃばしゃと水をかけてくる。
「ちょ、は、鼻に水が……げふっ!」
「あははは、どうした、ほらっ……って、うわぁっ」
 防戦一方だったが、このままではまずいと思いとりあえず適当に手当たり次第に水を跳ね飛ばす。水が飛んでくる方向から見当をつけて攻撃したのが命中したようで、アンリからの攻め手が緩くなる。その隙をついて反撃する。
「うわーっ、ちょ、待て待てっ! タイム、タイム!」
「そんなもん、ないですって」
 プライベートプールに、アンリと清子の水着というのも加わり祐麒もテンションが高くなっていた。暑さも衰えない中でプールの水は心地よく、なんだか童心に帰ったかのように二人ではしゃいでいた。
 その後も、ビーチボールで遊んだりしていたわけだが。
「……あの、アンリさん」
「ん、なんだよ」
 濡れた髪を震わせながら、アンリが訊き返してくる。
「どうすれば清子さん、いいのかな」
「あ」
 ぽかんと口を開けるアンリ。
「わりぃ、忘れてた……ぷ、プールで遊ぶなんて10年以上ぶりだからよ、ちょっと浮かれちまって」
「い、いや、別にいいですけど……」
 遊んでいるうちにいつしか距離感もなくなり、腕に抱きついているような格好になっていたアンリから、不自然にならないよう体を離す。
「OK、ちょっと待ってろ」
 特に気が付かなかったようで、アンリはそのまま歩いてプールの縁まで行くと、体をプールサイドに引き上げる。水着の食い込んだお尻が目に眩しい。股間から水が流れ落ちていくのも、なんともエロティックな感じだ。
 アンリはそのままパラソルの下の清子の方へと歩いて行く。
「奥様。私、飲み物を持ってきますが、何かお望みの品はございますか?」
「真由さんにお任せするわ」
「分かりました。それでは申し訳ございません、しばらくの間祐麒さまのお相手をお願いできますでしょうか」
「え……えぇ、分かりました」
 一瞬、躊躇したものの、清子は頷く。
 アンリはタオルで軽く体を拭き、パーカを羽織って屋敷の方へと戻っていく。
 祐麒もプールから一旦上がり、清子の方へと近づいていく。
「――清子さんは、入られないんですか? 気持ちいいですよ」
 精一杯の勇気を出して、誘ってみた。なるべくさりげなく、ごく当たり前のように装って。
「私は……」
「今日も本当に暑いですよね、ほんと、プール日和です。今日はこんな素敵なプールを使わせていただいてありがとうございます」
「あまり使ってもいなかったし、むしろ使っていただいてありがとうだわ」
「俺、また少し泳いでますんで」
 無理に勧めすぎても不自然だろうと思い、踵を返してプールに戻る。アンリがこんな姿を見たら、また怒るのだろうなと思いながら。
 すると。
 パラソルの下、清子が立ち上がるのが見えた。気付かないふりをしつつ、神経を最大限に集中して横目で見る。
 パレオワンピースを脱いだ下、現れる清子の水着姿。
 ブラックを基調としたセクシーなモノキニに目を見張る。お臍の見えるタイプで、隠れて見えなかった形の良いバストやくびれた腰、スラリとした太腿に目を奪われる。
「……あんまり見ないでください、恥ずかしいです」
 祐麒の視線に気が付いた清子が苦笑する。
「そんな、す、凄く似合っていて素敵ですよ!」
「ありがとうございます」
 単なるお世辞と受け取っているのか、清子は受け流すように応じる。
 清子はゆっくりとプールの水に足をつけ、水の感触を楽しむように軽く水面を掻き回すようにしたあと、そろりと体を水に沈ませていった。
「久しぶりにこのプールにも入るけれど……気持ち良いですね」
「は、はい」
「私、運動はあまり得意ではないけれど、泳ぐのは比較的得意なんですよ」
「そ、そうですか。じゃ、じゃあ、一緒に泳ぎましょうか」
「さすがに若い祐麒さんと競争は無理ですけど、ふふ」
 近づいてくる清子。
 水滴に光る肌は若々しく、四十代とは思えない。
 そして、水に浮かぶようにして揺れる豊かな胸。清子とともにプールで泳いでいる間、祐麒は下半身が反応しないように、必死に異なることを考えていた。

 

 プールでの遊びを終えた後は、邸内に戻ってお茶して、ソファでくつろいでいたらプールでの疲れもあったのか、うっかり昼寝をしてしまい気が付いたら夕方になっていた。恥ずかしくて慌てて謝る祐麒を見て、清子はおかしそうに笑った。
 夕食はアンリの手料理で、どれも文句なく美味であった。一緒の食卓につくように清子が言うと、アンリは使用人だからと頑なに拒否しようとしたが、人数が多い方が楽しいからと懇願されると断り切れず、恐れ多いような感じで席に着いた。
 こうして考えると、アンリは家事全般をそつなくこなし、運動能力も高く格闘能力も持っていてと、非常にハイスペックな女性だということが改めてわかる。
 夕食の後、アンリが夜の見回りやら点検やらがあるからと、席を外した。
 祐麒はといえば、とにかくアンリにせっつかれた挙句に、なぜか清子と晩酌することになった。
 アンリの話だと、清子は結構お酒が好きなのだが、普段は使用人や家族の手前、あまり飲むことはしないとのこと。だからこそ、人のいない今は好きなお酒を飲ませ、さらにその機会を生かしてどうにかしろというのが、アンリからの指令であった。
 しかし、どうすればいいのか。
 清子とはテーブルを挟んでソファに座っている。なまじ調度品も豪華なだけに、清子との間に距離があってどうしようもない。
「ふふ、つきあっていただいてありがとうございます、祐麒さん」
「いえ、とんでもない」
 清子が口にしているのは日本酒だった。
 美しい人妻に日本酒、非常に良く似合っている。これでまた和服だったりしたら、色香倍増といったところだろうか。
 アンリはといえば、他の使用人がいないからやることが色々あるとかいって、場に同席をしていない。清子は、どうせ誰もいないのだからアンリも相伴にあずかれと言ったのだが、生真面目なアンリはそれをよしとしなかった。もっとも、清子と祐麒を二人にするためあえて頷かなかったとも思えるが。
 祐麒がどうにか日本酒を小さなグラス一杯あけるまでに、清子はすでに二杯を飲み干して三杯目に突入していた。おそらくかなり高級なお酒なのであろう、口当たりが非常に良くて、まるで水のようにするすると飲むことができる。だがアルコール度は高いので、飲みやすいからといってどんどん口にしては危険だ。祐麒だって、飲みやすいからと油断してコップ半分ほどあけたところで、これはまずいと思ったからペースを落としたのだ。
「真由さんも、せっかく祐麒さんが遊びにいらしているのだから、一緒にいればいいのに。祐麒さんも、もっと真由さんといちゃいちゃしたいでしょう?」
 清子は、祐麒とアンリが付き合っていると勘違いしている。だからこそ、人のいなくなった小笠原家にわざわざ遊びに来ていると思っているのだ。
「私みたいなおばさんにつきあわせちゃって、本当に申し訳ないけれど」
「そ、そんなことないですよ」
 つまらない返事しかかえせない。
 アンリからは、さっさと本当のことを告げろと言われている。なんでも、アンリが言ったところで照れ隠しをしているとしか思ってくれないとか。
 祐麒が言ったところで信じてくれるかどうかあやしいものだし、それ以上のこととなると笑い飛ばされかねない。そもそも、生まれてこの方女性と付き合ったどころか、告白すらしたことがない祐麒からしてみれば、何もかもハードルが高すぎる。
 とはいえ、恐らく滅多に訪れない機会をみすみすと見逃すわけにもいかない。となると後は勢いをつけるしかない。祐麒は慣れない酒を呷ってあける。
「祐麒さん、大丈夫ですか? 無理しないでくださいね」
「だ、大丈夫ですよ、ええ」
 意識はまだしっかりしていると思う。思考はクリアだ。ただ、徐々に体が熱くなってきて、気分が大きくなってくる。
 差し出されたチェイサーで一拍間を置き、自分自身を落ち着ける。
「だ、大体ですね、俺とアンリさんは、付き合っているわけじゃないんですよ」
 ようやく告げるも。
「ふふ、祐麒さんも真由さんと同じで、恥ずかしがり屋なのかしら」
 案の定、冗談だと思われる。
「本当ですよ、信じてくださいよ」
「まあ。それじゃあ……ああ、そういうこと。まだ想いを告げていないのね。大丈夫よ、真由さんも間違いなく、祐麒さんのことが好きですよ」
 今度は、単に祐麒が片思いをしていると勘違いされる。
「今日はチャンスですよ。真由さんの仕事が終わったら、捕まえてごらんなさい。きっと、受け入れられますよ」
 祐麒が真由のことを追いかけて、小笠原邸に足しげく通ってきていると思われた。
 さすがにここまで勘違いされると、祐麒としても少しばかり腹が立ってくる。
「だから、違うんですよ、本当に」
「まあ。それじゃあ、祥子さんかしら」
 普通はそう考えるだろう。
 どうする。
 ここで笑って誤魔化したり、冗談で流したりすれば、きっとこのままの関係を続けていられる。
 決断すべき場所と思うが、そう簡単に口にすることも出来ず、気合いを入れるために酒を口にする。アルコールの力を借りてというのは情けないが、そうでもしないと言えそうも無かったし、いざというときは酒に酔ったうえでの雑言ということに出来るなんて狡い考えもあった。
 喉を焦がすアルコールに、胸が、体全体が熱を帯びてゆく。
 軽く俯いて一旦、目を閉じて唾を飲みこむ。
「――清子さんっ」
 テーブルの上に置かれていた清子の手をギュっと握る。
 清子が僅かに震えたように感じた。
 思い切って目を開けば、変わらずに美しい清子が祐麒のことを見つめている。輪郭が少しぼやけて見えるのは酔っているせいかもしれないが、逆に緊張しすぎずに済んで良いかもしれない。
「どうしたんですか、祐麒さん?」
 清子の様子に変わりはない。
 祐麒は清子の手を握ったまま身を乗り出し、とうとう口を開いた。
「清子さん……俺は、俺は、清子さんのことをおばさんなんて思ったことないですよ」
「まあ、ありがとう。嬉しいわ」
 清子の言葉はあくまで祐麒の言葉を受け流しているだけのもの。余裕を持って受け答えされているが、それではいけないのだ。
「俺は、清子さんのことを……」
 視界がぐらつき、映像がさらにぼやけてくる。相当に酔いが回ってきていることを自覚するがどうしようもない。この上は、まだどうにか少しでもまともな意識が残っているうちに想いを告げるしかない。
「俺はっ。清子さんのこと、一人の、素敵な女性と思ってますから」
 まともに舌が回ったか分からないが、自分ではちゃんと言えたつもりだった。
「お、俺は、清子さん……っ」
 ぐらぐらと頭が大きく揺れる。
「あら、まあ、大丈夫ですか祐麒さん。ごめんなさい、調子に乗って飲ませすぎちゃいましたね」
 祐麒の様子を見た清子が慌てて立ち上がり、祐麒の方に回ってきて肩に手を置く。
 このままではやっぱり単なる酔っぱらいの悪ふざけにしかとってもらえない。どうすればよいのか考えようとしても、頭がうまく動かない。だから祐麒は言葉でなく行動で示そうとした。
「清子さんっ……」
 腕を掴み、引き寄せる。
「きゃっ? あ、祐麒さんっ」
 バランスを崩した清子の驚いた顔が近づいてくる。視界が反転する。
 そこで、祐麒の意識は途絶えた。

 

「――――祐麒、さん?」
 おそるおそる声を出してみるが、反応はない。
 そっと顔を動かして祐麒の顔を見上げてみると、祐麒は目を閉じ、寝息を立てはじめていた。
 いきなり腕を掴まれて引かれ、そのまま祐麒の上に乗っかったままソファに倒れてしまったのだが。
「…………ふうっ」
 どうやら大事に至らなくてほっと息を吐き出す。
 倒れたはずみで祐麒の胸板に頬を寄せる形となっていたが、そっと顔を上げたところでふと止まる。手を置いた祐麒の胸が思いのほか逞しく、軽く手の平で撫でる。
「…………っ。やだわ、私ったら」
 不意に正気に戻り、身を起こして慌てて乱れた衣服を整える。
 見下ろせば、祐麒は完全に寝てしまっており起きる気配は微塵も無い。あどけない寝顔を見て、清子は息を漏らす。
「祐麒さん……」
 先ほど見せた祐麒の言動は、酒のせいと言ってしまえばそれだけだが、そうではないことに気が付いていた。
 明確に気が付いたのはプールの時だった。プールに入ろうとする清子の水着姿を見つめてくる祐麒の目は、一人の女を見るものだった。年齢の割にスタイルは保っていると自覚はしているが、さすがに若いアンリと並んで肌のきめ細やかさ、艶やかさを争えるなどとは思っていない。それなのに、祐麒が注いでくる視線は、アンリに対するものよりも熱く感じられた。
 祐麒の肉体が思っていたより逞しいということも、プールで見た時から分かっていた。まだ少年の体ではあるものの、大人になりつつあるしなやかで引き締まった肉体に、清子も思わず吐息を漏らしそうになったくらいだ。
 だが、それら全てのことを清子は無いものとしてプールでは戯れていた。
「……ふうっ」
 清子は祐麒から身を離してから、アンリを呼んだ。
「――はい、奥様。お呼びでしょうか」
 現れたアンリは、ソファでのびている祐麒を見て目を丸くした。
「お酒に付き合わせたせいで、寝てしまわれたの。夏とはいえ、こんな場所で寝かせておくわけにはいかないから、部屋まで運ぶの手伝ってくれるかしら?」
「分かりました」
 内心では何を思っているか分からなかったが、アンリは何を詮索するでもなく頷く。ただ、少し呆れたような、それでいてどこか安堵したようなため息をそっと漏らすのを清子は耳にした。
 意識を失った男を運ぶのは骨が折れたが、アンリの腕力によってどうにか部屋まで運び込んでベッドに寝かせる。
「それでは、私はこれで失礼いたします」
「ありがとう」
 頭を下げて部屋を出て行くアンリを見送り、改めてベッドで横になっている祐麒に視線を落とす。
「…………可愛い。娘と同じ年頃の、男の子なのよね」
 細い指で祐麒の頬をそっと撫でる。
 しばらく無言で寝顔を見つめた後、清子はそっと、部屋を後にしたのであった。

 

 

おしまい

 

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