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ノーマルCP マリア様がみてる 祐巳

【マリみてSS(祐巳×祐麒)】XX宣言

更新日:

~ XX宣言 ~

 

 

 両親不在、祐巳と二人きりで過ごす一週間のうち、一日目と二日目が終わり、三日目へと突入していた。
 今日は朝早めに家を出て、少し時間を潰して現在は駅前に突っ立っている。時刻を確認すると、約束の時間まであと二分。微妙に落ち着かない心を表面化させないよう、顔の筋肉を意識的に強張らせている。
「お待たせ、祐麒っ」
「うおわっ!? あ、あれ、なんでこっちから?」
 後ろからいきなり背中を押され、慌てて振り返って視界に入ってきた祐巳に驚く。家からバスに乗ってやってくるはずなので、最短ルート方面をずっと注意して見ていたのだが、祐巳が現れたのはなぜか反対側からであった。
「そんな予想できたらつまらないじゃん。この方がより、待ち合わせっぽいでしょう」
 どうやら、バスを降りてからあえて遠回りしてきたようで、少し得意げな顔を見せている祐巳。
 今日は祐巳とデートということになるのだが、なぜそんなことになったかといえば昨夜のこと。

「なんかさー、恋人同士という設定っつっても、いつもとあまり変わらないよな」
 夜、リビングでテレビを見てくつろいでいたとき、ふとそんな言葉が口から漏れ出た。思いがけず始まった『恋人同士』設定だが、恋人らしいイベントも特に発生せず、俺が期待しているような展開にはなっていないので、つい口をついて出てしまったのだ。
 夜に一緒のベッドで寝たりしたけれど、それ以上の事態になることもなく、普段の『仲の良い姉弟』の姿から大きく変わっていないというのが俺の印象である。
 俺の愚痴とも文句ともいえない呟きに、祐巳は反応した。
「そりゃそうだよ、祐麒とそんな気分になるわけないじゃん」
「お前なぁ……」
「告白されたわけでもないし、デートもしていないし、設定だけじゃあどうにもならないよねぇ」
 そんな祐巳の一言に、今度は俺の方が反応する。
「……じゃあなんだ、デートでもするっての?」
 別に何かを期待していたわけじゃない、単に祐巳の言葉に突っ込んだだけだと言っておこう。
「そうだねぇ……あ、じゃあさ、ちょうど春休みだし、明日遊園地でもいかない? もちろん、祐麒の奢りで」
「はぁ!? なんで俺の奢りなんだよ」
「そりゃもちろん、彼氏ということだからですよ。それくらいの甲斐性はもたないと、彼女の一人なんかできないよ?」
「あのなぁ、奢られるのが当然と思っている女はモテないぞ。割り勘とまでいかなくても、ある程度払うのがマナーってもんだろ」
「え、何、彼女に払わせる気?」
「最終的に男が払うことになるとして、自分も出すという気持ちくらい見せろということだ」
「あはは、いいじゃない、結論は変わらないんだし」
「お前、相手が俺だと思って舐めてんな……ったく、仕方ねぇな。で、どこ行きたいんだ?」
「へっ?」
「だ、だから、遊園地だろ。どこに行きたいんだよ」
「何、本当に行ってくれるの?」
「祐巳が言いだしたんだろうが」
「奢ってくれるの?」
「……まあ、食事代くらいなら」
「やったー、それじゃあ、行こうか」

 流れとしては、そんなところである。
 だから別に、俺が祐巳とデートしたいとか遊園地に行きたいとか、そんなことを願ったわけではないのだ。
 一緒に家を出るのではデートらしくないから、わざわざ別に出て待ち合わせをしようと言い出したのは俺であるが、それくらいは容赦していただきたい。同棲しているとかならともかく、まだ付き合い始めというか付き合う前という設定でいかせていただきたいのだから。
「それで、何か言うことはないの?」
 祐巳が、「ん?」とでも言うような表情をして見つめてくる。
 ブラウスとカットソーの重ね着にジャケット、チェックのキュロットにロングブーツの祐巳は、間違いなく可愛らしい。ジャケットは来ているものの、カットソーは胸の形が分かりやすいし、キュロットの下はレギンスなど履かずに素足、髪の毛はいつものツインテールではなくサイドポニー。
「ま、まあ、似合ってんじゃないの?」
「うわー、何、その言い方? せっかくそれっぽくおめかししてきてあげたのにー」
 頬を膨らませる祐巳だが、つっけんどんな言い方になってしまうのは恥ずかしいからだ、気付け。
「彼氏とのデートなんだから、お洒落してくるのは当たり前だろ」
「何よ、祐麒なんていつもと変わんないじゃん」
「馬鹿、これでも色々考えてだな」
 俺は自分の格好を見下ろす。色々考えたというのは嘘ではなく、気張り過ぎず、だからといって適当過ぎないコーディネートに苦心したのだ。
「考えてその格好? だめだめ、それじゃあ。しようがないなぁ、今度一緒に服買いに行ってあげるか」
 それって、またデートしようというお誘いなのかと内心で歓喜するが、あくまでも表情はクールに保つ。
「偉そうに言うなよな、なんだよ、世話焼き女房のつもりか?」
「ダサい彼氏を持つ彼女の大変さが分かるよ、うんうん」
 一人、納得顔で頷く祐巳。
「ダサっ……てお前な、いいだろう、それじゃあ祐巳がセンスない服選んだら、今度は俺が祐巳の服選んでやるからな」
「えーっ、センスない人に判断されてもねー。それに、祐麒が私の服選んだら、超ミニスカートとかえっちぃ服、着せるつもりなんでしょう? やだやだ」
「ばっ……! そ、そんなことするわけないだろ、大体、祐巳なんかじゃ色気なさすぎて、似合うはずもないし」
「しっつれいねー、私だって……って、こんな下らないこと言い合っている場合じゃなかった。電車乗り遅れちゃうし、早く行こっ」
 くるりと身を翻し、駅の構内へと歩き出す祐巳。
 乗り遅れるといっても、別に新幹線に乗るわけでもなし、さほど気にすることはないのだが。
「どうしたの祐麒、置いて行っちゃうよ?」
 少し先で振り返り、俺のことを見て笑いながら言う祐巳。
 どうやら、単に早く遊園地に行って遊びたいだけのようだ。俺は苦笑し、祐巳に追いつくために小走りで駅へと入っていくのであった。

 

 平日とはいえ春休みということもあり、遊園地は適度に混雑していた。その中で、春休みということもあり、やっぱり学生が多いように見受けられる。
「おい祐巳、勝手に進むなよ、迷子になるぞ」
 一人でぴょこぴょこ歩いて行こうとする祐巳を呼び止める。
「それを言うなら祐麒の方でしょう? はぐれないでよ」
「じゃ、はぐれないように手でも繋ぐか? 恋人同士らしく」
 わざとふざけた口調で言うが、俺としては祐巳と手を繋ぎたいという思いから口をついて出たものだ。
 恋人同士でないとしても、姉弟なのだから手を繋ぐくらいおかしくないだろうし。仲の良い姉弟だったら、それくらい当然だとも思うし。
「えー、やだよ、恥ずかしい」
「そ、そうだよな」
 あっさりと拒絶され、内心では少し凹む。
 しかし、次の瞬間。
「こっちなら、まあ、いいかな」
 とか言いながら、俺の腕に手を絡めてきた。
「お、おまっ、腕を組むのはいいのかよっ!?」
「え、だって、手と手が直接触れ合うのって、なんか恥ずかしくない?」
「そ、そう……か?」
 腕を組む方がレベルが高くないのだろうか。
 俺的には、手を繋ぐ、腕を組む、肩を抱く、腰を抱く、という順にステップアップしていくイメージだ。
「よーっし、それじゃあどこからまわろうか?」
 祐巳は気にした様子もなく、俺の腕に腕を絡ませたまま歩き出そうとする。
 しかし俺としては、カットソー越しとはいえ押し付けられてくる胸の感触の方が気になるわけで、これはわざとか、わざと狙ってやって来ているのだろうかと頭の中がぐるぐるする。残念なのは、俺も薄手のスプリングコートを着ているから、感触がそこまで直には伝わってこないというか。でも今日は暖かく、祐巳もコートの前を開けているのでジャケットが邪魔をしていないのは僥倖だ。
 ただ、気を付けないと前かがみになりかねないが。
「やっぱ最初はこれだよねー」
 祐巳の声に我に返ってみると、いつのまにかアトラクションに辿り着き、すぐにも乗ろうかというところまできていた。
「……って、これ、"ジェノサイド・ドライバー" じゃねーか!? 最凶最悪と噂されている、ここで一番の」
「あ、私たちの番だよ、楽しみーっ」
「ちょ、ちょっと待て、まだ心の準備が……」
「何言ってんの、後ろの人も待っているんだから、行くわよほら」
「えっ、いや、だから最初はもうちょっとマイルドなやつから、って、うえぇ、ちょ、やめて、アッーーーーーーー!?」
 俺の悲鳴は空中にこだまして消えた。

 

「死ぬ……気持ち悪い……」
 本気で吐きそうだった。
 "ジェノサイド・ドライバー"に続いて、"デストロイ・サイクロン"、"グラン・ギニョール・ハリケーン"、といった絶叫系アトラクションに立て続けに引き回されたのだから、グロッキーにもなろうというもの。特別に苦手というつもりはないが、ここまで休む間もなく乗らされては気分だって悪くなる。むしろ、平気な顔をしている方がおかしいのではないだろうか。
「だらしないなぁ、もう」
「うるせぇ…………っぷ」
 ベンチに腰をおろし、背もたれにぐったりと寄りかかり目を閉じる。祐巳は隣でキャーキャー叫びながらも、非常に楽しそうで元気いっぱいである。
「仕方ないな、ほら」
 と言いながらベンチの隣に腰を下ろした祐巳が、いきなり俺の頭を掴み、体を横に倒した。逆らう気力もなかった俺はそのまま倒れこむ。横顔に押し付けられる、柔らかなものは何かと考えるまでもなく、祐巳の太もも。
「へへー、ひざまくら。こういうのって、カレシカノジョっぽくない?」
「…………」
 気持ちが悪い風を装い無言でいるが、いきなりの天国的な展開に言葉が出ないのが真相である。キュロット越しというのは無念だが、それでもこうしてひざまくらされていて、しかも祐巳が優しく髪の毛を撫でてくれているのが心地よい。首の角度を少し変え、祐巳の脚の匂いを吸いこめば、先ほどまでの気持ち悪さなど吹っ飛んでしまいそうだ。
「どう、少しは楽になった?」
「いや……ちょっと、まだ」
 実際、まだ完全に回復したわけではない俺は、そのまま頭を抑えるふりをして手を伸ばし、ごく自然に祐巳の膝に触れる。
 祐巳の脚は細すぎず、だからといって太いというわけでもなく、非常に適度なクッション性をもって頭を包み込んでくれていた。
「そろそろ、大丈夫じゃない?」
「いやぁ、まだ……」
 吸い足りない。
「もー、しようがないなぁ」
 頬をくすぐる指。
 そんな感じで休憩した後、名残惜しくも体調復活したので、食事することにした。
「今日は祐麒の奢りだったよね?」
「はいはい、分かってますよ」
 ホットドッグとコーラを購入し、空いている席を探して座る。混雑しているので、壁際カウンター席に隣り合って座ることになった。
「遊園地、楽しいね」
「俺はぐったりだけどな」
「もっと体力つけようよー」
「体力はあるつもりだけど、遊園地とかで使う体力って別物だよなー」
「もっと体力つけようよー、私もっと沢山乗って、激しいのとか、動いたりとか、色々としたいし。凄い興奮するし、気持ちいいじゃない!」
「乗る……激しく動く……興奮、気持ちいい……うっ!?」
「ど、どうしたの急に、お腹が痛いの?」
「いや、だ、大丈夫大丈夫、ポジションさえ修正すれば」
「ポジション?」
「いやいやなんでもない、さ、次は何に乗る?」
「えっとねー、まだ行っていないのはー」
「この"スプラッター・ホスピタル"とか面白そうじゃない?」
「え、やだ、怖いじゃん!」
 遊園地のパンフレットを二人の間において、顔をつきあわせて相談する。祐巳は恐いものは苦手だが嫌いというわけではないはずで、どうにかその方向に誘導しようとするが、祐巳は絶叫マシンを制覇しようなどと言いだす始末。
 御免こうむりたかったが、またひざまくらをしてくれるのであれば、やぶさかではないと思ってしまう俺も駄目だろう。
 だけど、こうしてくっついてしまいそうなほど近くまで顔を寄せ合い、祐巳の息遣いを感じていると、何でも言うことをきいてもいいかなと思ってしまう。
「オッケー、じゃあ次は"フライング・パイレーツ"に決定ね」
「ええっ、いつの間に!?」
「今、二人で決めたじゃない。ね?」
 言いながら、俺の太ももに手を置いてくる。
 こういうボディタッチが、ヤバい。男なら勘違いしてしまうぞ、この無知で天然な姉めが。まあ、俺は姉である祐巳のことなど分かっているから、惑わされたりすることなどないのだが。
「し、仕方ないな、それじゃあそれにしようか」
「いえーい、よし、行こっ!」
 喜び立ち上がり、俺の腕を掴んで引っ張り上げる祐巳。
 こうしてまた俺は、絶叫マシン巡りツアーに付き合わされることになったのであった。

 

 さすがに絶叫マシンにばかり乗っていたわけではなく、ホラーハウスに祐巳を連れ込んで怖がらせたり、ミラーハウスで額をぶつけ合ったり、のんびりとした乗り物で園内を巡ったり、楽しく過ごしているうちにあっという間に夕方になっていた。
 そろそろ帰ろうかという頃合いになったところで、最後の乗り物にやってきた。
「やっぱ、最後はこれだよねー」
 二人で乗り込んだのは、観覧車だった。
 ベタだがこれもまた良し。そもそも俺の目的にも合致するので安堵した。男の方から観覧者に乗ろうとは、気にしすぎかもしれないがなんとなく恥ずかしくて言い辛かったのだ。
 俺たちを乗せた観覧車は、ゆっくりと地上から上昇していく。
「おおーっ、高くなっていく。いいよねー」
 向かいの席に座った祐巳は、窓から外を眩しそうに見つめている。
 夕方、都会とはいえ高い場所からの眺望はそれなりに綺麗で、あっちが学校の方だとか、富士山は見えるかとか、他愛もないことを話しながら、はしゃぐ祐巳の横顔を見る。
「なあ、祐巳」
「――――ん?」
 俺に呼ばれて正面を向く祐巳。
 ゆっくりと上昇する観覧車は、間もなく最も高い地点へと到達する。
 目の前にいる祐巳は、自分の姉ながら文句なしに可愛いと思える。絶世の美女とか美少女とかいうわけではなく、身近に感じられて、一緒にいて楽しい、庶民的な可愛らしさ。
 気づかれないようにつばを飲み込み、口を開く。
「俺……本気で祐巳のことが好きなんだ。だから……俺と付き合ってくれないか?」
 言い始めた瞬間から、世界の音が消えたような気がした。
 ぱちくりと目を瞬かせる祐巳の頬が心なしか紅くなっているように見えるのは、夕陽を浴びているからだろうか。
 観覧車は頂点を過ぎて下降し始めるが、祐巳はまだ何も反応してくれない。
「――――っと、これで、文句ないだろう? きちんと告白もしたわけだし、恋人同士という設定にも真実味が出たってもんだろう?」
 先に我慢が出来なくなったのは俺の方で、そんな風に軽い冗談に紛らわせるようにしてしまった。
「えー、それじゃあ、まだ駄目かな」
 しかし祐巳の口から出たのは、まさかの駄目出しだった。
「お、お前なあ、俺がどんだけこっ恥ずかしかったと思っ……」
 実際に顔が燃えてしまいそうなくらい恥ずかしくなり、誤魔化すように文句を言おうとしたところで、祐巳が立ち上がった。
「だって、さ」
 そのまま移動してきて俺の隣に座る。
「私がまだ、返事していないじゃない」
「……え」
 見つめあう。
「へ、へ、返事、って?」
 狭い観覧車の中、俺と祐巳の間にはほんの数センチくらいほどの距離。
 体は正面い向いたまま、肩から上だけを俺の方に向けて祐巳は。 「……そんなに、私と付き合いたいの?」
「な、なんだよ、それ」
「もーっ、だから、本気で私と付き合いたいの?」
「お、おう」
 詰め寄られ、慌てて頷く。
「――ふふっ、それじゃあ、はい。これから、よろしくお願いします」
 可笑しそうに微笑む祐巳。
「え? えーと、それって」
「祐麒があまりに必死で頼み込んでくるから、さすがに可哀想だし、交際の申し込みを受領してあげます」
「な、なんだよそれ、なんでそんな上から目線!?」
「当たり前じゃん、ほら、こういうのは告白した方が負けだから」
「お前、調子に乗るなよ」
「別に、事実を言っただけでしょう?」
「そんなこと言うんならなぁ」
 馬鹿にするような祐巳の言葉にさすがに腹が立ち、俺は咄嗟に祐巳の肩を掴んでいた。祐巳の顔が間近に迫る。もう片方の手は、いつしか祐巳の手の甲を包み込むようにして置かれていた。
「な、何よ」
「だ、だから、だな……」
 ゆっくりと、更に顔が近づいていく。
 なんで祐巳のやつ、逃げようとしないんだ。このままじゃあ本当にしちゃうぞ、とか言っている間に祐巳の息遣いが感じられるほどになってきて、つやつやでほんのり朱に染まった頬っぺたとか、くるりんとした睫毛とか、うっすらと開いているピンクの唇とか、くりくりした瞳とかが俺の心臓の鼓動を一気に速めていく。
 祐巳の手を握る俺の手が震える。
 いまだに逃げようとも避けようともしない祐巳は、それどころかわずかに首を斜めにして、まるでキスを待ち受けるような格好を見せる。
 これは、いいんだろう。
 俺は息を吸い込むと、一気に顔を近づけ――

『――間もなく終点です』

 アナウンスが流れ、慌てて身体を離す。
 外を見ると、確かに間もなく一番下に到着しようかという頃で、外の人達の姿もはっきりと見えだしてきている。即ち、外からも中の様子はよく分かるということで、俺はそそくさと反対側の席へと逃げる。
 降車口に到着し、観覧者の扉が開く。本来なら俺が先に降り、祐巳が降りるのをサポートするべきだろうが、このときは色々と気が動転していて祐巳の方が先に扉に手をかけ、外に出る。
「…………もう、ぐずぐずしているから……ホント、意外とヘタレだよね」
 その時、ちらりと俺の方を見た祐巳が、何か言ったような気がした。
「何か言ったか?」
「別にー、な~んにも?」
 愛らしく小首を傾げ、観覧者から降りてくる俺を出迎えてくれる祐巳。
 残念ではあったが、最低限のことは成し遂げられたので、俺は自分自身を納得させるように頷きながら観覧者を後にした。
 既に随分と遅い時間となり、いつしかどんよりとした雲が空を覆おうとしている。
「なんか天気悪くなりそうだね、早いところ帰ろうか」
「そうだな」
 名残惜しいが仕方ない。
 独特の、寂しい雰囲気の漂い始めた遊園地内を、出口を目指して歩き出す。すると、横に並んだ祐巳が不意に俺の手を掴んできた。
「えっ、ゆ、祐巳?」
 驚いて見てみると。
「へへ、まあ、さっきので一応、正式に"恋人同士"になったわけだしね、ご褒美」
 無邪気にも、小悪魔的にも見える笑みで、俺を上目づかいに見つめながらそんなことを口にした。
 俺は勝手に早鐘を鳴らす心臓を抑えることも出来ず、それでも必死に顔の筋肉だけは強張らせて渋い表情を作る。
「何がご褒美、だ。大体祐巳となんか、ガキの頃から何回手を繋いでると思ってるんだよ」
「恋人として、は別でしょう? 素直じゃないんだから」
「う、うるせーな」
 によによと笑う祐巳の視線から逃げるように顔を反らす。
 だけど、握った小さくて柔らかい手だけは、離さないで人の少なくなり始めた遊園地内を歩くのであった。

 

 

おしまい

 

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