可南子ちゃん、菜々ちゃんと少し遊んだ後、嫌な予感がして二人と別れると案の定、不意に男の姿に戻った。
理由は分からないけれど、とりあえず家に戻り、男の姿のまま次の日を迎えて学校へと登校した。
さすがに二度も経験すると、三度目がまた発生するのではないかという気になるし、そう考えておかないと対処に困るだろう。
問題は、根本原因である。大元をどうにかしないと、問題は解決しないだろう。だが、どこから何に手をつけたらよいのかが、さっぱり分からない。当たり前だ、いきなり女の姿になってしまうなど、誰に相談すればよいのか。しかも、花寺は男子校だ。女の体に興味を持たれ、変なことをされたら堪ったものではない。
一人悩みながら授業を受け、解決策など思い浮かばないまま生徒会室に足を運んだ。
「おう、アリス、早いな――」
室内にはアリス一人がいた。
しかし俺は、アリスの姿よりも、アリスが手にしていたものに目が吸い寄せられていた。
アリスの手には、一週間ほど前に俺が手にしたコップが握られていた。そうだ、あのコップは確かにアリスのものだった。いつも、見分けがつきづらいと内心で思っていた。よく考えれば、あの変な液体を飲んだときから、体の変調は始まっていたではないか。
「アリス、それ、一体なんなんだ?」
一気にアリスに詰め寄ると、驚いたアリスは手にしていたコップを取り落としてしまった。床に、液体が広がってゆく。
一瞬、床に視線を落としたものの、アリスはすぐに目を見開き、驚きの表情を見せる。
「……あ、もしかしてこの前これ飲んだのって、ユキチ?」
その言葉を聞いて、確信する。
原因は、ソレにあったのだと。
「アリスっ! こ、これは一体、何なんだ!?」
「わわわ、ユキチ、ちょっと落ち着いてっ」
華奢なアリスの肩を掴み、壁に押し付けるようにして問いただす。
「ま、待って。話すからぁ」
アリスの話すところ、以下のようになる。
即ち、祐麒が飲んだのはまさに性転換、それも男性から女性への転換を促す薬だということ。女に憧れているアリスが、色々なツテを辿って手に入れた、怪しげな科学者が作ったという薬で、興味はあったけれど怖くてなかなか飲むことが出来なかったという。
先日も、飲もうと決意して準備したものの、結局、口にすることが出来なくてそのまま冷蔵庫にしまったものを、祐麒が飲んでしまったらしい。
「そんなに慌てるってことは、ひょっとしてユキチ、本当に……」
「い、言うなそれ以上! っていうか、治す薬をよこせ!」
「え、な、ないけど」
「な、なにーーっ!?」
「や、痛い……ら、乱暴にしないで」
思わず手に力が入っていた。アリスが、少し痛そうに顔をしかめる。しかし俺としても、ここで手を緩めるわけにはいかないのだ。
「おーっす、って、ゆ、ユキチにアリス、お前ら、とうとうそんな関係に!?」
「あ?」
「やん」
入ってきた小林の言葉に、何を言っているんだと思ったが、よく見てみれば俺がアリスを壁に押し付けている格好で、しかもアリスのシャツはボタンが外れて胸がはだけている。加えて俺は、興奮した面持ちで、アリスも色っぽく顔を赤くしていたりする。
「や、やっぱりお前ら、そういう関係だったんだな……」
驚きつつも、納得したように頷く小林。
「って、納得するなーーーーーっ!!!」
頬を朱に染めるアリスと、「大丈夫、俺は二人のことを偏見の目で見たりはしない」とでも言いたそうな小林に交互に目をやり、俺は絶叫したのであった。
結局、アリスからも大した情報は得られなかった。
得られた情報はといえば、俺が飲んだのは間違いなく女性化を促す薬であったということ、それはよくわからんが体内の女性ホルモンの活動を活発化させるんだか、作り出すんだか、とにかくそんなこんなで男を女にしてしまうトンデモない薬だということ。
漫画の世界かと笑いたくなるが、自分が体験しているだけに笑い飛ばせない。
一度女性化すると、女性ホルモンを分解、排出するまで元に戻れないらしい。そして、もとに戻っても薬が完全に抜け切るまでは薬の効果が持続し、女性化を促してくるらしい。
馬鹿馬鹿しいが、そんな馬鹿馬鹿しい体になってしまっているのは俺自身。とりあえず、いつかは薬の効果が切れるということが救いだが、果たしてそれはいつになるのか。そして、切れるまで、いつ女性化するかを恐れながら生活していかなければならないのか。
知らず知らずのうちに、ため息が漏れる。
鞄の中には、アリスからもらった予備の薬の瓶があった。アリスが飲もうかとしていたものだが、実際に飲んでしまった俺が今は持っていたほうがいいんじゃないかということで手渡された。
なんでも、一度薬を飲んで女体化すると、次からは薬を一口飲めばすぐに体内で化学変化を起こし、即座に女性になれるという。
しかし、どうしろというのだ。アリスも女性の体になりたいのではないかと思ったが、やはり今は遠慮しておくとのこと、だからといって薬を渡されても。
もちろん俺は、自ら女になりたいなどとは思ってなどいないから。
気分が重く、すぐに家に帰る気にもならず、駅前をふらふらしている。もし、家にいるときや学校にいるときに女の体になったらどうするか、周囲に何と言えばいいのか、考えるだけで憂鬱になってくる。
浮かない気分で歩いていると、携帯電話が鳴り出した。特に何も考えずに通話ボタンを押して、電話に出る。
「――はい?」
『ごきげんよう、有馬です』
電話をかけてきたのは菜々ちゃんだった。何の用だと思ったが、何か渡したいものがあるから、今いる場所を教えろとのこと。正直、あまりそのような気分ではなかったが、菜々ちゃんには色々と世話になっているので無下に断ることもできない。待ち合わせ場所を決めて電話を切り、適当に時間を潰してから約束した場所へと向かう。
時間の五分前に到着すると、すぐに菜々ちゃんの姿も見えた。
「で、何? 何の用事だっけ」
「これを渡しておこうと思いまして」
菜々ちゃんが手にしていた紙袋を手渡してくる。
「何、これ」
「見ればわかります」
言われて、中を覗こうと袋の口を開いたとき、視界の端に髪の長い女の子の姿がよぎった。もしや、と思って首をひねってみると、案の定、可南子ちゃんだった。これはチャンスだと近寄ろうとしたところ、菜々ちゃんに腕を掴まれて引き止められる。
「わかっているんですか、今、男の姿なんですよ」
「あ、そうだった……いや待てよ、そうだ」
そこで、アリスから受け取った薬の存在を思い出した。しかし、薬の力に頼るということは当たり前だけれど女の姿になるというわけで、でも迷っているうちに可南子ちゃんの姿は遠ざかっていってしまう。
「……ええい、ままよ!」
まさか、そんな台詞を本当に口にする日がくるとは思わなかった。それでも俺はせっかくの機会を生かそうと考え、薄暗い路地に入り込むと鞄から取り出した薬瓶を開けて、一口、飲み込んだ。
「もう、いきなりどうしたんですか……って」
慌てて追いかけてきた菜々ちゃんが、目を丸くした。
それはそうだろう、俺だって驚いている。薬を口にした次の瞬間、「あっ」と思っているうちに、女の体になっていたのだから。苦痛や衝撃といったものもほとんど無く、ほんのわずかの違和感を受けただけで女に変わったのだから。
だが、何はともあれ女になったわけで、これで恐れることなく可南子ちゃんの前に出ていけると路地を飛び出したところで、またも菜々ちゃんに掴まれる。
「ちょっと菜々ちゃん、今度は大丈夫だろう? 早くしないと可南子ちゃん、行っちゃうし」
「だから、落ち付いてください。女の体になったからって、その恰好で行くんですか?」
「え、あ」
言われて、はっとする。
学校帰りだったからあたりまえだけど花寺の制服姿で、しかも女体化しているから体が小さくなってぶかぶかだ。シャツはともかく、ズボンがずり落ちそうで慌てて手で押さえる。考えてみれば出会いのときだって同じような格好だったわけで、あまりに不自然だ。せっかく思い切って女になったというのに、可南子ちゃんと会うことすらできないのでは何のために薬を飲んだのか。
「大丈夫、私が足止めしておきますから、ユウキさんはコレで準備してください」
紙袋を指さす菜々ちゃん。
「準備って……」
「それでは、先に行っていますので」
止める間もなく、菜々ちゃんは小さな体で弾むように駈け出して行ってしまった。残された俺は、さて、結局なんなのだろうかと紙袋の中を覗き込む。
「なんだ、こりゃ」
よく分からず、中に手を突っ込んで中のものを取り出して、首を傾げ、次の瞬間には絶句していた。
菜々ちゃん、コレをどうしろと!
俺はその場で悩みに悩み、悶絶しそうになるのであった。
「菜々ちゃん、校則で寄り道は禁止されているのよ」
「まあまあ、ちょっとどこかに立ち寄るくらい、誰でもしていますし。ルールは破ることにこそ意義があるわけですから」
「違うような気がするけれど……あ、ユウキちゃん」
俺の姿に気がついた可南子ちゃんが、手をあげる。つられて菜々ちゃんの顔がこちらを向いて、すぐに笑いをこらえるようになる。
いつか、泣かしてやると思いながら、いつまでたっても頭が上がらないような、そんな予感もする。
菜々ちゃんのことは極力、気にしないようにして二人に近寄っていく。
「ユウキちゃんの帰り道も、こっちなの?」
「いや、今日は菜々ちゃんに呼ばれて」
ひきつりそうな笑顔を、どうにか浮かべる。
「学校帰りの寄り道は、楽しいですもんね、ユウキさん?」
「あは、あはは……」
もはや笑うしかない。最終的には自分で選択したとはいえ、今の俺は女の体になり、女子高校生の制服を身につけているのだから。
渡された紙袋には、ご丁寧に太仲女子の制服が畳まれていた。おそらく、菜々ちゃんのお姉さんのお古なのだろう。中身を把握した俺は迷った挙句、近くの人気のないトイレに飛び込み、その制服に身を包んだ。幸い、ブラウスにスカートという比較的わかりやすいものだったので、何とか戸惑いなく着ることはできたのだが、悲しい気分にもなる。
白いブラウスでノーブラというわけにもさすがにいかなかったので、中に一緒に入っていたタンクトップ(スポーツブラ)を、涙をのむ思いで身に着け、ボータイをつけて、ハイソックスを履いて、靴まできちんと履き替えると、見事に女子高校生ができあがっていた。ブラジャーのサイズがあっていないのか、少しばかり胸が苦しいが、我慢するしかないだろう。
トイレの鏡で自分の姿を見て泣きたくなったものの、ここまでやって可南子ちゃんに会えなかったのでは意味がない。自分の服を紙袋に詰め、鞄とともにコインロッカーに預けてから菜々ちゃんの後を追い、ようやく二人の前に姿を現したわけである。しかし、スカートがスースーして股が落ち着かないし、なんか、異常に恥ずかしくてついスカートの裾を手でおさえてしまう。
「……この制服、お姉さんの?」
「はい、お下がりをもらってきました」
「うわ、改めてすごい恥ずかしい……他の女の子が着ていた制服だなんて」
「……ちなみに、下着は私のですから」
「え?」
見ると、菜々ちゃんは顔を赤くして横を向いている。
「当り前じゃないですか、どうして、下着までくれなんて言えますか」
怒ったような菜々ちゃんの口調だったけれど。
それを聞いて、俺のほうがとんでもなく焦るというか、どう反応したらよいのか。菜々ちゃんの胸を包んでいたブラを、今、俺が身につけていると想像する。ほっそりとした小柄な菜々ちゃんだけど、やっぱり女の子なわけで。
「……何、考えているかわかりませんけれど、新品ですからね。それからユウキさん、脚、開きすぎ。ガニ股にならないように」
やはり菜々ちゃんも恥ずかしいのだろう。話を別の方向にそらそうとしたのか、小さな声で助言してくれた。俺は菜々ちゃんに従い、慌てて脚を閉じる。動作が男っぽくなってしまうのだけは、どうしようもない。何せずっと男として生きてきたし、女の子がどのような所作をとっていたかなんていちいち覚えてはいないし、覚えていたとしても実践なんかできない。
「しょうがないわね、それじゃ、どこかでお茶でもしましょうか……あ」
人差し指をたてて思案する仕種を見せた可南子ちゃんが、俺の方を見て動きを止める。何か、変なことでもしてしまったかと、心臓がどきどきし始める。
まさか、元々は男だった、なんてことがバレたりして。いや、ありえない、とか考えているうちに目の前までやってきて、肩をつかまれる。そしてそのまま180度回転させられる。
「ユウキちゃん、髪の毛ぼさぼさよ。せっかく綺麗な髪なんだから、きちんと整えないと」
可南子ちゃんの指が、俺の髪の毛を梳いてゆく。
女体化する際、俺の髪の毛は肩にかかるくらいにまで伸びるが、伸びるだけでセットされているわけではないのだ。
突発的な好運に、頬が緩みそうになる。可南子ちゃんに頭を撫でられているようで、気持良くなって膝に力が入らず、地面が揺れるように感じる。
だが、幸せな時間は長くは続かない。
「可南子さん、私、ヘアゴム持ってます!」
ずびっ! と勢いよく手をあげる菜々ちゃん。
「む、でかした。じゃあ貸して頂戴」
「了解です」
と、抵抗する間もなく、ヘアゴムで髪の毛を留められてしまった。左の耳の下のあたりで一つに束ねられ、束ねられた髪を左の鎖骨あたりから胸の方に向けて垂らす格好。同様にぐしゃぐしゃだった前髪も、ヘアピンで留められる。
「とりあえず応急処置はこれでOKね」
「ど、どうも」
「ユウキさんよく似合ってますよ、可愛いです」
にこにこしながら褒めてくる菜々ちゃんだが、笑いがこぼれてしまうのをこらえているのが分かり、喜べようはずもない。
しかし。
「うん、可愛い」
と、可南子ちゃんに微笑まれると、嬉しい気分になってしまうのだから不思議なものだ。女の姿にまでなって会いたいと思うくらいなのだから、やはり俺は可南子ちゃんに惹かれているのだろう。たぶん、好きになりかけている。
親切にされて、泊めてもらって一緒の部屋で寝て、刺激的なことがあって。男だからそういう部分や容姿に真っ先に惹かれたのは確かかもしれない。でも、もっと可南子ちゃんのことを知りたいと思っているのも事実なわけで。
本当なら男の姿で会いたいのだが、男嫌いだという事実を知ってしまった今、男として会うのは怖かった。だから、女になりたいと思っていないのに、既に友人となったユウキとして可南子ちゃんに会いにきた。なんたるジレンマか。
「それじゃあ、どこかでお茶でもする?」
「はい、賛成です」
こうして、色々と悩みつつも可南子ちゃん、菜々ちゃんと三人で楽しくお茶をするのであった。
で、楽しいことばかりではないのが人生で。
寄り道を終えて二人と別れた後に待っているのは苦悩と試練なわけで。菜々ちゃんから預かった太仲女子の制服から元の制服に着替えたものの、女の体はどうあっても隠しようもなく。しかも今回は前までと異なり平日だから、家に帰らないわけにもいかない。
だが、この女となった姿を見せて、何をどう言い訳すればよいのだろうか。息子がいきなり女として帰ってきたら、親は何を思うだろうか。結論が出るわけもないのだが、さりとて決断をつけられるわけでもなく、家の近くをただうろうろしているうちに無為に時間が過ぎてゆく。
いつまでも外にいるわけにもいかず、流れに任せるままにしようと、ついに家に入ろうかなー、なんて思いかけたところで。
「――え、ゆ、祐麒? あんた、その恰好」
「あ、ゆ、祐巳」
先に、祐巳に見つかってしまった。
「え、えーと、こ、これはっ」
驚き立ち尽くす祐巳に対して。
結局、何も言うことなどできなかった。
そして。
「よかった、祐巳ちゃんの服でちょうど、サイズもあうわね」
「ううー、でも弟に胸の大きさで負けた……」
「いや、女の子の名前としても違和感無いもので本当によかったな、祐麒」
なぜか家族は皆、あっさりと受け入れてしまった。それどころか、喜んでいるくらいだ。特に母は嬉々として祐麒の体を調べ、恥ずかしがる祐麒をよそにサイズを測って、祐巳の服を着させようとするのだ。
すぐに男に戻るといっても、またいつ女になるとも分からないなら、女性物の服についてもきちんと知っておくべきだと、思いもよらない強引さだった。
とりあえず、どうにかこうにか下着を身につけるのだけは拒み、自室に逃げ込んだ。順応力がありすぎる家族というのも、ちょっと困りものである。
それでも、ばれるのではないかと、不安と緊張に包まれながら過ごすよりはよほど楽で、部屋着の楽なシャツとパンツに着替えて体の力を抜く。
今日も精神的に疲れたし、このまま寝てしまおうかと思ったところで、祐巳から風呂の声がかかる。疲れを風呂で流し落そうと、ベッドから立ち上がり風呂場に向かい、洗面所で服を脱ぎかけたところで、ふと気がつく。
今まで二度、女の体になったけれど、そのときはいずれも可南子ちゃん、菜々ちゃんの家に泊まったから、お風呂に入ってもゆっくりとできなかったし、落ち着かなかった。しかし今、自宅の風呂を前にして、人の目を気にせずにゆっくりすることができるということは、女の体をじっくりと調べるチャンスではないだろうか。
自分の体とはいえ、女の体には興味がある。
すでにシャツを脱ぎかけていたのだが、視線をちらりと下に向けると、ふたつの柔らかそうな膨らみがくっついていた。思わず、赤面する。
シャツを脱ぎすて、改めて胸を見てみる。巨乳というわけではないが、小さすぎるということもない。ちょうどよいくらいの大きさで、形も綺麗なのではないか。自分の胸だというのに、興奮してくる。
乳房である。
乳首である。
なんかこう、見ているだけで頬が熱くなってくる。そろそろと手を持ち上げ、ゆっくりと触れてみる。
「うをう!」
思わず、声をあげてしまった。
「……や、やわらかい」
なんという感触。女の子の胸というものは、こんなにも柔らかいというのかと、改めて感心する。自分で自分の胸をさわっているのだが、手に伝わってくる何ともいえない弾力の心地よさ。本か何かでマシュマロのようだとか、肉まんのようだとか、そんな表現がされていた記憶があるが、なるほどと頷いてしまいそうだ。
胸の柔らかさを堪能したとなると、次は下である。ごくり、と唾を飲み込む。
「じ、自分の体だし、変じゃないよな、うん」
声に出して、自分自身を納得させる。
パンツに指をかける。そろりと下におろしてゆき、淡いヘアが見えてくる。胸の鼓動が少し早くなる。
「――祐麒、あんた、何かヘンなことしていない?」
「うわあああああああっ!!! ななな、何、覗いてんだよ、ヘンタイっ!」
いきなり洗面所の扉をわずかに開けて顔を見せた祐巳に、慌てて手で胸と股間を隠す。
「……変態は、祐麒の方じゃないの? なんか……胸とか触ってなかったでしょうね」
「そ、そ、そっ、そんなこと、するわけないだろっ!」
「じゃあ、なんでまだお風呂に入っていないのよ。随分と時間がたっているけれどー」
「いいから、さっさと向こうに行けって、痴女かおまえはっ」
「はいはい。とにかく、なんか困ったら言いなさいよ。私だって女なんだから」
それだけ言って、扉を閉めて祐巳は去って行った。どうやら、祐巳なりに心配をして様子を見に来てくれたようだったが、果たして、変なところを見られていないだろうか。図星を指摘されて、祐麒はまだ動揺がおさまっていなかった。
そして何より。
自然と、胸と股間を隠すポーズをとってしまったことに、どこか言いようのない恥辱感を受けたのであった。
その後俺は、そそくさと入浴を済ませた。
やっぱり、自分の身体とはいえまじまじと女の子の体を見るというのは、罪悪感と羞恥心にとらわれてうまくいかないのであった。