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ギャグ・その他 マリア様がみてる

【マリみてSS(可南子・菜々・祐麒)】とらんす! 5.装着する!?

更新日:

~ とらんす! ~

『5.装着する!?』

 

 朝、目が覚めたら元に戻っていた、なんて都合の良いことにはなっていなかった。今まで女の体になったときは、大体、一日くらいで元の姿に戻っていたから、今回も同様であれば夕方までは戻れないことになる。
 このまま花寺に登校したら、それはかなりの騒ぎになってしまうだろう。男だったはずなのに女になって、しかも花寺は男子高である。それなりにお坊ちゃま学校とはいえ、男子高だけに女子の話題やら、下ネタなんかも氾濫している。普段のそういう会話を思い出してみると、女子の恰好で登校するというのはかなり、嫌だ。
 部屋で悶々としていると、祐巳が様子をさぐりにやってきた。
「祐麒、今日はどうするの? 学校」
「さすがにこの姿じゃあ、いけないだろ」
「そうだよねえ……いっそのこと、リリアンに転校してくる? 素敵なおねえさまや、可愛い妹ができるかもよ」
「そんなこと、できるわけないだろ」
 祐巳のたわごとを聞き流し、とりあえず朝食をとるために一階に下りていく。朝食を食べながら学校のことを親に相談すると、当り前だが今日は休めと言われた。特に父親の剣幕はびっくりするくらい凄く、「可愛い娘を、狼だらけの男子校の中に放りだせるわけがないだろう!」なんて言ってくる始末。聞いた俺の方が引いてしまうくらいだった。
 祐巳が学校に向かい、父が仕事に入り、午前中は適当に過ごす。昼飯を食べると、母が、それじゃあせっかくだから一緒に買い物にでも行こうかと誘ってきた。
 特にやることもなかったので、気楽に引き受けようとしたのだが、何か嫌な予感がして尋ねてみる。
「買い物って……何を買いに行くの?」
「そりゃあ、祐麒の身の回りのものとか。色々と必要じゃない。さすがに、祐巳ちゃんの下着を貸すわけにもいかないでしょう」
 恐れていた通りの回答がかえってきて、俺は首を横に振った。しかし、母は容赦してくれない。きちんと体にあった下着を身につけないと、ラインが崩れてしまうし、体にだってよくないのだからと。
 しかしだからといって、いくらなんでも母親と一緒に女子の下着を買いに行くなんて、恥ずかしくて嫌だ。
 母は母で、親としての強権を発動。すなわち、「これからご飯、食べさせてあげないわよ?」の一言。
 追い詰められた俺は、咄嗟にこう応じた。
「わ、分かったよ……でも、ひ、一人で買えるもん!」
 子供かと、言った後で自らに突っ込んだ。

 

 こうして一人、女子の下着を購入すべく、街に出てきた。ちなみに太仲女子の制服に身を包んでいるのは、不自然さを出さないため。
 お金は親から受け取っているが、随分と奮発をしてくれたものだと思う。女子の下着は、そんなに高いのだろうか。
 やっぱり慣れないスカートを気にしながら、店に向かう。といっても、下着の店なんてよくわからないから、とりあえず駅前のデパートに向かう。レディスファッションのフロアには女性用の下着売り場があったはずだ。さっさと買って、さっさと帰ろうと思ったのだが。
「う……」
 店の前で立ちすくむ。
 色々と飾り立てられている沢山の下着を前にして、足がゆうことをきかない。
(……ってゆうか、無理だし!)
 そもそも、どうやって買えばいいのか分からない。やっぱり、一人で来たのは間違いだったか。でも、母親と一緒になんて、それも嫌だ。
 店に入ることもできず、かといって立ち去ることもできず、店の前を何度か通り過ぎてフロア内をうろうろして、何回目だろうか、店の前で中の様子をうかがっていると。
「何か、お探しですか?」
「ひぁっ!?」
 俺が何度も店の前をうろうろしていたためだろうか、お店の人が声をかけてきた。二十代後半くらいだろうか、ショートカットの似合う綺麗なお姉さんだが、うまいこと回答するだけの余裕がない。
 果たして俺のそんな態度を、恥ずかしがり屋の女子高校生とでも見たのだろうか、背中に手を置いて優しく押すようにして、店内に誘導していく。視界に大量の下着が入ってきて、見る場所にさえ困るが、ある意味チャンスでもある。
「サイズはいくつですか?」
「え、さ、サイズ?」
「はい、ブラジャーの」
 サイズと言われたところで、把握しているわけがない。
「ええと、あの、最近、今の下着がきつくて……ど、どれくらいなのか」
 ちなみに、今、身に着けているのは菜々ちゃんから借りたスポーツブラである。というか、それしか持っていない。
「ああ、成長期なんですね。いいですよ、それじゃあ測りましょうか」
「え、は、測るって」
 しどろもどろしているうちに、店員さんに引かれるようにして、更衣室の中に連れ込まれてしまった。

 そして。

「…………」
 声が出ない。
 物凄く、恥ずかしいことをされたと思うのだが、女の子は誰もが通過する道なのだろうか?
 お姉さんの綺麗な手が、俺の胸を……
 思い出すだけで、また顔が熱くなる。
 とりあえず、70のCということらしい。よくわからないけれど、そのサイズが一番あうだろうとのこと。着けてみて、緩いようであれば1サイズ下のものも試してみるとよいとかどうとか言われたけれど、とにかくどれか選んで、さっさと買ってしまいたい。
 商品に目を通し、同じサイズのものを見つけ、手を伸ばすが、手に取ろうとした瞬間に女の子の声が耳に届いてきて、思わず手を引っ込めてしまった。
 女性の下着売り場なのだから、女性客がいて声がしても当然のことなのに、まるで悪いことをしているような気になってしまうのは、やはりどうしようもない。これは本当に、早いところ店を出ないといけない。
「――ここが、おすすめのお店?」
「おすすめというか、私にあうサイズで可愛いものの品ぞろえが一番いいの」
「へえ、あ、でもこのリボンのやつ可愛い」
「ちなみに、由乃さんのサイズは」
「……AA」
 華やかな女の子の会話が聞こえてきて、気持ち、身を縮こまらせる。もう、これでいいやと目の前の下着を取ろうとして、でも焦っていたのか手が滑り、落してしまう。
「あわ、わ」
 慌てた俺が取ろうとする前に、さきほど店に入ってきた女の子の一人が身を屈め、落したブラジャーを拾ってくれる。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
 頭を下げてお礼を言いながら受け取ると、目の前には。
「うわっ、よ、由乃さんっ!?」
 お下げのよく似合う美少女、リリアン女学園の二年生、黄薔薇の妹にして祐巳の親友である由乃さんが立っていた。
「え?」
「どうしたの、由乃さん?」
 しかも、彼女だけではなかった。
 後ろから、白薔薇様である志摩子さん、そして確か、写真部に所属している武嶋蔦子さんがやってきた。
「えっと……すみません、どこかで会ったこと、ありましたっけ? その制服、太仲女子の方ですよね?」
 由乃さんが、一生懸命に思いだそうとしている。
「ああ、い、いえその、友達にリリアンに通っている子がいて、その子に教えてもらっていたんです。その子、黄薔薇の妹のファンだっていって、写真とかも見せてくれて、とても綺麗だなって、わ、私もよく覚えていたから」
「へえ……あ、そうなんだ」
 褒められて、まんざらでもなさそうな表情をする由乃さん。どうにか、誤魔化せたようだ。
「どなた?」
「あ、太仲女子の人。リリアンに友達がいるんだって」
 由乃さんに加え、志摩子さん、蔦子さんにも取り囲まれる。なぜか分からないが、祐巳がこの場にいないことだけが救いではある。俺としては心臓に悪いこの状況からさっさと脱出したい、のだが。
「あ、そのブラ可愛い」
 と、眼鏡を光らせてくる蔦子さん。
「えっと……あー、その色、そのサイズって、それしかないのかしら」
 棚と、俺の手にある下着を交互に見て、残念そうに呟く蔦子さん。とゆうか、同じサイズなのか? 目が思わず、蔦子さんの胸元に吸い寄せられる。
「あの、ど、どうぞ。お……私、いいですから」
「え、いいですよ、そんな。私の方が後からだし」
「いえ、わ、私、他のでも構わないので。ええと、こ、これとか」
 また適当に、近くにあったやつを手に取る。
「あ、それも可愛いですね」
「そ、そうですよね」
 とりあえずこれで、このまま逃げ切れるかと思ったが。
「では、試着はこちらへどうぞ」
 いつの間にか近くにきていた店員のお姉さんに、また試着室へと連れて行かれそうになる。
「いや、こ、これでいいですからっ。さっき、はかったし」
「でも、一度きちんとためしてみたほうがいいですよ。人によってはつけてみて感覚が違うとか、きついとか感じる人もいますから。」
 拒否しようとしたけれど、そのまま試着室に押し込まれる。ええと、ブラジャーって試着していいのか? 下着だけど。
 とりあえずブラウスを脱ぎ、今の下着を脱ぎ、色々と苦労しながらブラジャーをつけてみる。苦戦したが、どうにかこうにか収めることができて一息つく。たったこれだけのことで、凄く疲労感が増した。
「どうですか?」
「うわ、あ、だ、大丈夫ですっ」
 店員さんが入ってきて、胸を隠すが、店員さんは気にした様子もなく下着に包まれた俺の胸をしげしげと見つめてくる。
「あー、ダメですよこれじゃあ。ちょっと失礼しますね」
「え、ちょ、あ、にゃ、にゃあっ!?」
 お姉さんの手が無造作に下着の中に突っ込まれ、胸を、こう、あの、うああああ!!
「――はい、これでOKです。うん、サイズはこれでちょうどいいですね。きついとか、苦しいとかはないですか?」
「は、はい……だ、大丈夫だと思います」
 お姉さんにセットしてもらった胸は、俺から見ても全く異なっていて、何とも綺麗な谷間が作られていた。嬉しいような、悲しいような、情けないような。
「もう一つの方も試してみます?」
「ああ、そ、そうですね。あの、もう一人で大丈夫ですから」
 恥ずかしすぎるので店員さんには遠慮してもらい、もう一つのブラジャーを試着することとする。
「……あ、あれ?」
 しかし、手を背中に回してはずそうとするのだが、うまく手が回らず外すことができない。変な姿勢をとったのか、そのうち腕がつりそうになって、俺は諦めることにした。
「あのう……こ、この下着気に入ったんで、これにします。それで、あの、このまま着けていきたいんですけど、いいですか?」
 試着室から顔を出し、情けなくそんなお願いをするのであった。

 

 結局、ブラジャーとショーツを2セット購入した。下はまだトランクスだが、今は穿かなくてもいいだろうし、今後も別に穿きたくない。
 疲労に包まれながら店を出ようとしたところで、やはり同じように店を出ようとした由乃さんたちと正面から見つめ合う格好となる。
「うーん、あれぇ、やっぱりあなた、どこかで見たことある顔のような気がするのよねぇ」
 由乃さんが、顎に手をくっつけて、俺の方を見てくる。
「そ、そうですか? ありがちな顔だからじゃないですかねー」
「いや、そういうのじゃなくて、なんだろう……ねえ、志摩子さん?」
「そう言われてみると……」
 志摩子さん、蔦子さんまで何やら考え出している。まさか、いくらなんでも女の体をしているから、本来の俺と結びつくなんてことはないだろうけれど、それでもちょっと不思議に思って祐巳に話でもされたら、なんか厄介なことになりそうだ。
 と、その時、救いの手がおろされた。
 携帯電話から流れる着信音、ディスプレイを見てみれば、菜々ちゃんからの着信であった。
「もしもし、菜々ちゃん?」
『はい、ごきげんよう。ええとユウキさん』
「え、今から? うん、大丈夫、大丈夫、どこで落ち合おうか?」
 菜々ちゃんの言葉を制して、勝手に話を進める。
『え? あのユウキさん、私は別に』
「オーケイ、わかった、じゃあK駅の前で」
 決めつけて、電話を切る。
 そして。
「わたし、急用ができたのでこれで失礼します!」
 ぺこりと頭をさげ、何か言おうとする由乃さん達に背を向けて、逃げるようにしてデパートを後にしたのであった。

 

「……なるほど、それで私は体の良い言い訳に使われたわけですね」
 目の前で菜々ちゃんが、地震の予知を外した鯰のような瞳で見つめてくる。
「ごめん、だからほら、好きなもの食べていいからさ」
「遠慮なく、いただきますけれど」
 テーブルに置かれているストロベリーパフェに、スプーンを突き立てる菜々ちゃん。
 ここは駅前のフルーツパーラー。
 渋い顔をしてやってきた菜々ちゃんに謝り、なだめすかし、何か好きなものを食べていいからと言ったら連れてこられたのがこの店。女の子ばかりで、普段は絶対に入らない店で、どこか居心地が悪いけれど致し方ない。俺は注文したチーズケーキをフォークでつつきながら、菜々ちゃんのご機嫌をうかがう。
「まあ、いいです。なかなか面白いものが見られましたし」
 プリンをひとすくい、口に運んでからにやりと笑う菜々ちゃん。
「ユウキさんも、とうとう観念したようですね、女の子として生きていくことを。随分と可愛らしいブラジャーを着けているようで」
 言われて、真っ赤になる。菜々ちゃんは、にやにやと笑っている。
 そうなのだ、トップスが白いシャツで薄地なので、透けて見えるのだ。夏になると、女の子の下着が透けて見えるのが気になるけれど、まさかそれが自分自身に降りかかってくるとは思ってもいなかった。家を出るときは、全然そんなことを意識していなかったのだ。
 いざ身につけてみると、その違和感に体が馴染まない。菜々ちゃんがくれたスポーツブラはまだ、なんとか受け入れやすかったが、今のブラジャーはそうもいかない。肩ひも、ワイヤー、カップなど、とにかく気になって仕方ないし、締め付けられ感で胸も苦しい気がする。
「水色ですか……ベージュとかだったら、そこまで目立たなかったのに」
「し、仕方なかったんだよ、これは。よくわからなかったし」
 恥ずかしくて、腕で胸を隠すようにして言い訳する。
「女の子は毎年、そういう思いをしているのです。身をもって知りましたから」
「し、仕方ないじゃん、男だったら、気になる女の子の下着が透けて見えていたら、どうしたって気になるっての」
 もっとも、気になる女の子じゃなかったとしても、つい、目がいってしまうことは多々あるが。
 幸いというべきか、リリアン女学園の制服は夏服でも暑そうな黒のワンピースなので、透ける心配はない。こうしてじっと見つめても、まったくもって見える気配などない。
 すると俺の視線を感じたのか、菜々ちゃんがわずかに頬を赤くして、上目づかいに強い目つきで見つめてきた。
「へ、変な目で見ないでください」
「そういうつもりじゃ」
 視線をそらし、ケーキに目を移す。
「あ、すみません。フルーツヨーグルトを追加でお願いします」
「ええっ、まだ頼むの?」
「いやらしい目つきで見た罰です」
 小さい体だけど、やはり甘いものは別腹ということだろうか、パフェをぱくぱくと胃袋に収めていく。色々と弱みを握られているし、助けてもらってもいるので、菜々ちゃんには逆らうわけにはいかない。今月の小遣いの残りが心配だったが、そこは諦めるしかないだろう。
「ところで、そもそも菜々ちゃんが電話をかけてきた用事って、なんだっけ?」
「ああ、いえ別に。昨日、女性の体のままで別れたので、今日は、学校はどうしたのかと思いまして、興味半分で電話を」
「ああ、そう」
「で、どうでした、女性の体で男子校に行くというのは。ひょっとして、何やら妖しげな展開とかに」
 なぜか、菜々ちゃんの目に活力の火が灯ったように感じられた。
「そんなことあるわけないでしょ。この恰好を見てもわかるとおり、今日は休み」
「なんだ。まあ、そうじゃないかとは思っていましたが」
 冷静に、二皿目のフルーツヨーグルトにスプーンをいれる菜々ちゃん。まだ中学生だというのに、どこか大人びて見えるのは、そのクールなところか。
 フルーツソースのかかったヨーグルトを掬い、口に持っていく。
「――美味しい」
 その時はじめて、年相応の無邪気な笑みを見せた。
 思わず、どきっとする。
「どうかしましたか? あ、これ欲しいですか? よろしければ一口、食べますか」
 スプーンにヨーグルトを乗せたまま、俺の方に向けてくる。つい先ほど、菜々ちゃんが口に入れたばかりのスプーンである。意識してしまい、躊躇していると。
「ひょっとして、間接キス、とか考えてます? 意外と純情なんですね」
「ちょっと待って、でも、菜々ちゃんの方はその、いいの」
「いまどき、そんな。それに私の家、姉妹が多いからこういうことしょっちゅうですし。でもまあ、気にするというなら」
「ああ、いただきます」
 引っ込められそうになるスプーンを見て、慌てて身を乗り出すようにして口を開けると、ためらいなくスプーンが差し入れられた。傍から見れば、「あーん」を実践した形なのだが、外見的には女の子同士だから問題はないのか。

 

 そんな時間を過ごしてから店を出て、なんとなく二人で並んで歩く。
 話しているうちに、今まで知らなかったことを聞いたりする。お姉さんがいることは知っていたけれど、四人姉妹でその末っ子だということ。有馬の家に養子に入っているから、姉たちとは苗字が違っていること、姉妹全員、剣道をやっていることなど。
「ふうん。でもさ、こんな寄り道とかして、怒られたりしない?」
「それこそ、今さらですね」
「まあ、そうだね」
 中学生の女の子とこんな風に話すようになるなんて、しばらく前には考えたこともなかった。すべては、あのわけのわからない薬のせいである。もちろん、可南子ちゃん、菜々ちゃんの二人に出会えたことは嬉しいことではあるけれど、願わくは男の姿で普通に出会っていたかった。
 本格的な夏が近付いてきているからか、まだまだ街は明るい。時間的には、もう夕方になるというのに……
「って、夕方っ!?」
 立ち止まる。
 物凄く、嫌な予感がする。
 隣で、菜々ちゃんも驚いたようにこっちのことを見ている。
 ざわざわとした何かが、背中を這い上ってくるような感覚。大体、こういうときの嫌な予想というものはなぜかよく当たるものだ。
 そしてもちろん、今回も。
「――って、うわあああっ!?」
 俺は慌てて駈け出した。その後を、素早く菜々ちゃんが追いかけてくる。
「ど、どうしたんですかユウキさんっ」
「なんでもないから、ついてこないでーっ」
「そういうわけにもいきません、心配じゃないですかっ」
 ビルとビルの隙間、狭くて暗い所に入り込んで、しゃがみ込む。一拍遅れて、菜々ちゃんも飛び込んできた。
「ユウキさん、いったいどうし……」
 背後からゆっくりと近づいてきた菜々ちゃんの動きが止まる。
「そ、そ、それ……」
 震える指で、俺を指す。
「お……男の体で太仲女子の制服……ブラジャー……へ、変態っ!」
 とか言いながら、大爆笑している菜々ちゃん。
「うわああああん、見ないでくれーっ!」
 本当に泣きそうになりながら、俺はとにかくもぎ取るようにして下着を剥ぎ取った。そう、嫌な予感は的中して、俺の体は男に戻っていたのだ。女の格好で、ブラジャーを身に付けたままで。制服が体にきつい。
「うおおおお、死にたい……」
 大地に突っ伏す俺。
 プライドもズタズタになって、今の俺はリビングデッド、いや、生きているけれど死んでいるようなもの。
「だ、だ、大丈夫ですよ、だ、誰にも言いませんから……ぷっ」
 よほどおかしかったのか、涙すら浮かべ、お腹をおさえてひきつったような声で言う菜々ちゃん。正直、今までで一番、ダメージが大きかったかもしれない。不幸中の幸いは、どうにか大勢の前で醜態を晒さずにすんだというところか。
 しばらく立ち直れないんじゃないか、なんて思いかけたけれど、地面に伏せていた顔をあげて、びっくりする。
「あははっ、あーおかしい。あ、ごめんなさい、こんな笑っちゃって……でも……っ」
 菜々ちゃんが大口をあけて、思いっきり笑っていた。それは、今まで見せたクールな表情や、どこか皮肉めいた笑みではなくて、本当に心の底から笑っていて。
 その顔が年相応に幼くて、可愛らしくて、俺はびっくりさせられて。

 こんな笑顔を見せてくれたんだったら、まあよいか、なんて思ったのであった。

 

 ちなみに。

 家に帰ると、母が『俺用の』女の子の服を勝手に購入していたことが判明した。母曰く、「サイズは分かったから。どういうのがいいのかよく分からなかったけれど、その辺はお店の若いお姉さんに任せたから大丈夫だと思うわよ」、とのこと。
 もちろん、まったく嬉しくなどないのであった。

 

つづくかね

 

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