薔薇の館で行われた仲間とのクリスマス・パーティの後、実家でも、パーティには程遠いがいつもよりちょっと豪勢な夕食と、食後のケーキを堪能するという、普段とは少し異なったディナーを家族と共に過ごした。
妹である江利子に誘いを断られてしまったのは残念だったが、仕方あるまい。ひょっとすると、秘かにお付き合いしている男性と約束をしていて今夜……などということは、まあ、ないだろうけれど。
クリスマス特番も大して面白いものはなかったが、暇なのでリビングでごろごろしていた。明日はクリスマスだというのに、両親はそろって朝早くから仕事があるということでさっさと寝床に入ってしまった。
私自身、明日は休みであるし、暇つぶしにファミコンの『がんばれゴエモンからくり道中』でも夜通しプレイするか、と思いかけていたところに、彼女はやってきた。
リビングに鳴り響く、電話のコール音。既に日付も変わったこんな時間に誰からだろうと思いながら、両親が目を覚まさないように素早く受話器を手にする。
「…………お姉さま……ですか?」
震え、消え入りそうな声は、間違いなく江利子の声だった。
私の家にやってきたとき、江利子の体は冷え切っていた。おまけに、まだリリアンの制服のままである。この寒空の下、何時間も何をやっていたのだろうかと聞きたくもなるが、そこは自制して、とりあえず自室に招き入れる。
キッチンで素早くお湯を沸かし、出涸らしのお茶を江利子に飲ませる。この際、味などよりもスピードが大切だったから。
お茶を口にしてからしばらくして、ようやく江利子の顔色が少しまともになった。最初に見たときは驚くほど真っ白だったが、今は青白いというところだ。
江利子をベッドに座らせ、私は勉強机の椅子に腰を下ろし、斜めの角度から江利子の様子を見つめる。さらさらの髪の毛はぐちゃぐちゃに絡まり、誰よりも美しい制服のタイも乱れていた。
明らかに、憔悴しきっていた。
肉体的にも、精神的にも。
「江利子……」
一体、何があったのか問いただしたい。でもそれは、今の江利子には厳しいかもしれない。
こういうとき、私は悔しくなる。
私は出来た人間じゃないから、紅薔薇さまや白薔薇さまのように、自分の妹が何を考えているかとか、どんなことがあったのかとか、分かってやることができない。江利子が喋ってくれない限り、分からない。
私は江利子という人間の本質には興味があるが、江利子の交友関係だとか恋愛関係、日常生活にはさして興味はなかった。
「江利子、あなた一体、何があったというの……」
それでも。
想像することはできる。
「……蓉子ちゃんか、聖ちゃんに関係あるのかしら?」
二人の名前を私が口にした途端、まるで死人のように力なくうなだれていた江利子の体がわずかに、震えた。
「お姉さま……私、わたし…………」
小さな声で、私の方を見上げてくる江利子。表情は、今まで見たことがないような、弱弱しいものだった。誰かが側にいてあげないと、支えてあげないと今にも消えてなくなってしまいそうな、儚さを伴っていた。
江利子のそんな表情が、私の心を大きく動かす。
私は、江利子を力づけるかのようにそっと手を握った。江利子の手は、恐ろしいほどに冷たかった。お茶を飲んだくらいでは、温まってなどいなかったのだ。
「お姉さま、わたしっ……」
先は、言わせなかった。
冷えた江利子の体を、私は抱きしめる。
「お姉さま……?」
「いいのよ江利子、今は無理に言わなくても。それよりも今は、あなたの冷え切った体と心を戻すことが先決」
ずるい、ということは分かっていた。
何があったかは分からないけれど、大きなダメージを受けて弱っている江利子。私を頼ってきてくれた江利子。
でも、そんな江利子の姿が、私の心に火をつけてしまったのだ。
「……これから、あなたを、抱くわ」
宣言する。
弱っていながらも、驚きに目を見開く江利子。
でも、何も言わせずに唇をふさぐ。
「――――っ?!」
軽く震える江利子の体。わずかに抵抗しようとしてくる腕を抑えて、私は江利子をベッドに押し倒した。
「……私が、あなたを、あたためてあげる」
離した唇から唾液が糸をひく。
「ずるい、ってことは分かっているわ。弱っているあなたにつけ込んでいるっていう自覚もある。でも、私はあなたを、江利子を抱きたいの。私でも、あなたの体なら温めてあげられる。一瞬でも、全てを忘れさせてあげられる。それに今夜は―――特別な夜だから」
最後の一言で、江利子の抵抗する力が弱まった。
「江利子……」
再び私は、口づける。
今度は先ほどと違い、きちんと、時間をかけて。紫色に変色し、カサカサになっていた江利子の唇に、私の唾液を塗りつけるようにして何度も、何度も唇をつけ、舌で舐めてあげる。
なされるがままの、江利子。
私は引き続き、江利子の額に、頬に、目元に、耳たぶに、首筋にキスをふらせる。キスをしながら、手のひらで軽く江利子の体を撫でる。冷たくなってはいるが、制服の上からでも江利子の体の柔らかさは十分に伝わってきた。
「おねえ、さ……ま……んっ」
私は興奮していた。
江利子の体に、そして声に。
やがて、制服越しでは飽き足らなくなった私は、そっと手を制服の中に忍び込ませた。途端、江利子が激しく身を動かし逃げようとした。
「お、おねえさまっ?!」
「何よ、どうしたの」
表情を見ると、明らかに江利子は怖気づいていた。本当にそこまでするとは、思っていなかったのだろうか。
「そ、その……わ、私、今日はずっと走り回っていて汗、かいているんです……ですから、その」
「ああ、大丈夫。江利子の汗の匂い、すごい興奮する。むしろ、その方が好き」
「なっ……ななっ?!」
驚く江利子を無視して制服を脱がせにかかる。ワンピースの制服が脱がせづらく、このときばかりは制服が恨めしかった。
抵抗しようとする江利子の力を奪うべく、耳の穴に舌を入れ、左手でわき腹を撫でる。「ひゃうっ」という可愛い声を出して、江利子の力が弱まる。私は間髪入れずに江利子の胸を手のひらにおさめながら、右手で太ももを撫で上げる。そしてそのまま、スカートもたくし上げていく。
「うあっ、あ、あ……お、おねっ」
暴れた江利子の首筋に一粒の汗が光った。
私はそっとその汗を、舌ですくいとり、口の中で転がすように味わった。
「……すっぱくて美味しい、江利子の汗」
「へ、ヘンタイですかお姉さまっ?!」
「だから、姉妹になる前、最初に言ったでしょう?」
「そ、それによく考えたらお姉さまのご両親もご在宅……」
「私の部屋、ピアノ置いてあるの見えるでしょう?防音は完璧だから」
「も、門限が。家に連絡しないと両親が心配……」
「何よいまさら、電話かけてきた時点ですでに日付もかわっていたじゃない。それに江利子が来る前に、今日はウチに泊まるってお母様に連絡しておいたから大丈夫。さすがに、心配されていたわよ」
「え、え~と、あと……」
「なにかしら?」
にっこりと、私が笑ってみせると。
「……いえ」
諦めたように、江利子は目を閉じて息を吐き出した。
「あの、自分で脱げますから……せめて、電気、消していただけないでしょうか……」
「えー、脱がすのが楽しみなのに。それに、暗くしたら見えないじゃない」
「……お願いします」
不安そうに言う江利子に、私はそっと口付けた。
その6へつづく