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ノーマルCP マリア様がみてる 志摩子

【マリみてSS(祐麒×志摩子)】私の純情な感情 <前編>

更新日:

 

~ 私の純情な感情 ~
<前編>

 

 

 思い返すだけで恥ずかしくなることは、大なり小なり誰にでもあることではないだろうか。
 今の志摩子にとってそれは、昨日のホワイトデーのこと。
 祐麒と乃梨子とのことを勘違いしたあげく、

『乃梨子ばっかり、ずるい』

『今度、私とも一緒にお買い物に行って下さいね』

 などと言ってしまったことである。
 なぜ、あのようなことを口にしてしまったのか。冷静になった今であれば、いくら乃梨子のことがあったとはいえ、言おうとは思わない。
 しかし昨日のあの瞬間、頭の中で何かを考えるよりも先に口が動いていたのだ。
 あれではまるで、やきもちを焼いていたみたいではないか。
 聞き分けの無い子供のようなことを口走ってしまい、深く考えもせずにおねだりをしてしまったなんて、恥ずかし過ぎて穴があったら入りたいとはこのことかと思う。
 不幸中の幸いなのは、祐麒とはそもそも学校が異なるので顔をあわさずに済むことだ。
 とはいえ、志摩子の昨日の言葉を聞いて、この後なにも連絡がなかったりしたら、それはそれでちょっと腹が立ちそうで、自分の思いがけない我が儘さに内心で驚く。
 まだ肌寒いとはいえ、日差しは春を思わせるような日も多くなってきたというのに、志摩子の心は昨日から曇ったままである。
 ホワイトデーでお返しを貰ったことは嬉しかったが、それ以上に自分自身の言動に落ちこんでいる志摩子であった。
「どうしたの、志摩子さん。元気がないようだけど」
 そんな志摩子に声をかけてきたのは、クラスメイトである桂。
 ショートカットの似合う、明るく活動的な桂は、志摩子とは反対の性格に思えるけれども、だからこそ仲良くなれていた。
「そんなことないわよ、桂さん」
「えー、嘘だね、顔にそう書いてあるもん」
 志摩子の言うことにたいし、真正面から「嘘だね」なんて言ってくるクラスメイト、前までならいなかった。今は山百合会の仲間は気の置けない関係になっているけれど、山百合会を離れたクラスではまだそこまでいかない。例外が、桂だった。
 だからこそ志摩子は、桂には少しながら内面を晒すことが出来た。
「ええと、ちょっと、ね。昨日、ちょっと」
 とはいえ、さすがに今回のことを桂には話せず、言葉を濁す。
「昨日……あ、もしかして」
「え、何、かしら」
 どきっとする。
 まさか、桂が知っているとは思わないのだが。
「祐麒くんの、こととか?」
「っ!?」
「その顔、図星? なるほどねー」
 うんうん、と一人頷く桂。
 一方で志摩子の頭の中は混乱する。
 なぜ、桂が昨日の祐麒とのことを知っているのか。もしかして、近くにいて見られていたのだろうか。
 だとすると恥ずかし過ぎる。頬が急速に熱くなる。
「……さすが志摩子さんよね、うんうん」
 志摩子が一人で悶えているうちに、桂は桂で一人話を進めている。
「分かったわ、あたしが仲を取り持ってあげるわ!」
「え…………えぇっ!?」
 思いがけず大きな声が出てしまい、慌てて手で口を塞ぐが、驚きは消えない。
「と、と、取り持つって、そんなこと」
「大丈夫、志摩子さんからっていうのはバレないようにするから!」
「そ、そんなこと言われても」
「じゃあ、善は急げよっ、それじゃあまた!」
 右手をあげると、桂はお嬢様らしくない駆け足で廊下をあっという間に駆け去ってしまった。
 志摩子は、桂がいなくなった廊下の先を呆然と見つめることしかできなかった。

 

 

 昨日のホワイトデーのことを思い出すと、つい頬が緩くなってしまいそうで、祐麒は慌てて表情を引き締める。
 志摩子は違うと言っていたが、あれはやはり「やきもち」だったのではないだろうか。
 まあ、この際それはどちらでも良い。重要なのはその後の、『今度、私とも一緒にお買い物に行って下さいね』という言葉。
 あれは間違いなく、デートと考えて良いだろう。
 いや、あまり先走り過ぎてもよくない。志摩子はあくまで『お買い物』と言っただけだ。変に意識してデートだなどと考えず、買い物に付き合うということにしておいた方が緊張しなくてすむ。
 男女二人で買い物に出かければ、それだけで立派なデートだという気もするが、呼び方はどうでも良いのだ。志摩子と出かける口実が出来たことが大切なのだから。
 あとは、どのようにして誘うかである。志摩子があのように言ったのだから、祐麒の方から誘っても不自然ではないと思うが、皆の前で誘うわけにはいかない。やはり緊張するが、自宅に電話をするしかないだろう。
 一日そんなことばかり考えて授業を終えて帰宅しようと校門を出る。
「――あ、祐麒くん、やっと出てきた」
 という声が聞こえて立ち止まる。
「こっち、こっち! もう、待ちくたびれたよーっ」
 声の方に目を向ければ、なんと桂が手をあげて祐麒に向けて振っている。
「え、ちょっと、桂さん?」
 慌てて周囲を見ると、当たり前だが興味深そうに桂と祐麒に視線が向けられている。
 祐麒は生徒会長でそれなりに有名で、桂は美少女ではないけれど可愛らしい女の子である。変な誤解をされるとまずい。
「祐麒くん、なかなか出てこないんだもん」
「か、桂さん、とりあえずこっちに」
「うわっ?」
 桂の腕を掴んで引っ張る。
 周囲がざわつくが、とにかくこの場を離れることが最優先である。どうにか生徒のいない場所まで移動して一息つく。
「祐麒くん、ちょっと痛いよー」
「あ、ご、ごめん」
 手を離すと、桂が少し顔をしかめて腕をさする。
「それより、どうしたのいきなり花寺に。俺に用?」
 特に、桂と接点が多いわけではない。とすると学園絡みの連絡かとも思うが、それなら祐巳を通せば済むことなので、首を傾げざるをえない。
「うん、そう。祐麒くんさあ、昨日のこと、忘れたとは言わないよね?」
「えっ」
 思わずどきっとする。
 昨日といえばホワイトデーである。そして、志摩子との一件。
「リリアンに来てさあ、祐麒くん」
「ちょ、ちょっと待って。なんで、桂さんが」
「ふっふっふ、なぜかといえば、あたしは幸福の使者だから」
 そこで、はっとする。
 そういえば志摩子と桂は確か同じクラスであったはず。桂の性格なら志摩子と仲良くてもおかしくない。
「ああ、違うよ? 誰かに頼まれたとかじゃなくて、昨日のやり取りみちゃったから、ちょっと放っとけなくておせっかいをやこうかなって」
「そ、そうなんだ」
 いつの間にか見られていたのか。
 確かに、隠れてこそこそしていたわけではないから、誰かに聞かれていてもおかしくはないが、少なくとも近くには誰もいないと思っていた。
「とはいえ、祐麒くんが嫌だって言うなら……ううん、嫌だとは言わせないけどね」
 腕を組み、にやりと笑う桂。
 こんな子だったろうかと思うが、ある意味、ありがたくもある。
「嫌なんて言わないよ。ええと、出来れば俺もお願いしたいところだけど、その」
 ぽりぽりと指で頬をかく。
 知られてしまったら仕方ないとはいえ、あまり知る人は増やしたくない。何せ相手はリリアンが誇る美少女である。そもそも、正式に交際をしているわけでもないのだ。
「分かっています、他の人には知らせません。知っているのはあたしだけですから」
 言いたいことはお見通しとでも言わんばかりに、ドヤ顔をして右手の人差指を立てて見せる。
「あたしだって、別に困る姿を見たいわけじゃないですし、お互いの生徒会同士なんて話も大きくなりますからね。大丈夫、そんなことを知っているのがあたし一人だけ! そう思うだけでワクワクしますから」
「そ、そう……」
 心配ではあったが、祐麒にはどうしようもない。あとは桂を信じるのみである。
「ということで、祐麒くんの都合の良い日を教えてくれる?」
「そ、それって」
「もちろん、二人が会う算段をつけてあげるってこと。どう、感謝する?」
「感謝します!」
 ぺこりと頭を下げると、桂は嬉しそうに笑った。
「それじゃあ、向こうの都合も確認して、日時が確定したら連絡するね。あ、連絡先、教えてくれる?」
「いいよ」
 と、さらりと連絡先を交換する。
 祐巳意外で連絡先を手に入れる女の子が桂とは思いもしなかった。
「OK、それじゃ、楽しみにしていてね!」
 手を振り、軽やかな足取りで去っていく桂を見送る。
 想定外の事態ではあるが、これで志摩子と買い物に行く約束がつけられるならば良いだろう。志摩子と仲の良い協力者が先に出来たと考えれば良いのだ。
 自分を納得させるように頷くと、祐麒は改めて帰途についた。

 

 

 数日後。
 春休みを目前に控えて、生徒達もどこか浮ついた感じが否めない中、志摩子もこのところ地に足が付かない感じであった。
 気にしないようにとは思いつつ、気になってしまい、とうとう我慢できず、帰宅する前に確認してみることにした。
「あ、あの、桂さん」
「なぁに、志摩子さん」
「あの、この前の話、どうなったかと思って……」
 人に頼んで任せておいて自分から尋ねるのはどうかとも思うが、致し方ない。
「この前の話って、ああ、祐麒くんのこと? うん、無事に決まったよ」
 すると桂は、あっけらかんとそう答えた。
「え、決まった、って……」
 志摩子は驚きながら聞き返す。
「うん、日時が」
「ええっ!?」
 ならばなぜ、早く教えてくれないのだろうか。
 いや、桂のことだからうっかりしていただけかもしれない。憤りかけた自分の気持ちを抑え、変わらぬ口調を心がける。
「ええと、だったら、教えてくれないかしら?」
「ん、何を?」
「だから、その日時をっ」
 さすがに口調がちょっと強くなる。
「え、ああ、知りたかった?」
「当たり前じゃない。もう、桂さんの意地悪っ」
「ええ、ごめんごめん、そういうつもりじゃなかったんだ。まあそうだよね、うん、分かった。ええとね、明日の……」
「あしたっ!?」
 悲鳴のような声をあげる志摩子。
 いくらなんでも直前すぎないだろうかと、志摩子も怒りたくなったが、それどころではないことに気が付いた。
 どんな服を着ていこうか、どこに行こうか、何も考えていない。
「ご、ごめんなさい、桂さん。私、もう行かないと。ごきげんよう」
 挨拶もそこそこに、やや早足で歩いて学園を出る。
 バスに乗っている間も、家に続く道を歩いている間も、翌日のことを考えて気が急いていた。
 自宅に辿り着き、母親への帰宅の挨拶もそこそこに自室に入ると、まずは着替えて心を落ち着ける。
「――あら志摩子、具合でも悪いの、もう寝間着なんか着て?」
 全然、落ち着いてなどいなかった。
 とにかく、そんなこんなで夜になり、朝を迎え、父と母にはなぜか生温い目で見られながら家を出た。
 本当に桂ときたらひどい。前日の帰宅するときまで教えてくれないなんて、よほど志摩子が焦る姿を見たかったのだろうか。いやいや、友人を疑っては悪いと頭を振る。桂のことだからやはり度忘れしていただけだろう、そういう感じがある。
 それに考えてみれば、直前に知ったおかげで落ち着かない日々を過ごさずに済んだと考えれば良い。これがもし一週間前に知らされていたら、一週間も落ち着かない日を過ごすことになるのだから。
 とにかく良い方、良い方へと考えているうちに、駅に到着した。
 バスが渋滞にあって少し遅れてしまい、待ち合わせ時間ギリギリになってしまった。志摩子はやや焦りながら歩を進め、やがて待ち合わせ場所が見えるところまでやってくると、背伸びをして祐麒の姿を探す。
 見つけた。
 歩を早め、声をかけようとしたところで目を見開く。そして咄嗟に、志摩子にしては考えられないほど素早く、近くにあったオブジェに身を隠した。
 オブジェからそっと顔を出して覗き見る。
「……お待たせしました」
 その声の方に、祐麒が顔を向ける。
 そこにいたのは。
「――――二条、さん」
(なんで、乃梨子と祐麒さんが……!?)
「すみません、ちょっと電車一本、乗り遅れちゃいました」
「え、あ、いや、うん?」
「なんですか、怒っているんですか? 今、ちょうどじゃないですか。度量がないですね」
 祐麒と話しているのは間違いなく乃梨子だった。
 それも、偶々会ったという感じではなく、明らかに待ち合わせをしている会話だ。それに、乃梨子の格好も、可愛らしい。
(これって……で、デート? な、なんで、乃梨子と祐麒さんが……)
 呆然としつつ、志摩子はオブジェの陰から二人のことを目で追っていた。

 

 

 ――話は遡る。
「やっほー、乃梨子ちゃん!」
「はい? えっと、桂さま?」
 いきなり名前を呼ばれて身をすくませつつ、相手の顔を確認してどうにか名前を呼ぶ。
 志摩子のクラスメイトにして友人ということで、脳内ハードディスクには記録されていた。
 とはいえ、こんな風に気さくに話しかけられるような仲ではない。むしろ、今まで会話したことがない。志摩子と一緒にいるとき、会釈をするくらいだ。
「ねえねえ乃梨子ちゃん、この日とこの日とこの日だったら、いつが都合がよい?」
 だから、このようなことを尋ねられる間柄でもない。
「……ええと、失礼ですが、何を企んでいるんですか?」
 表情に出さないようにするのが精いっぱいで、かなり失礼無いことを言ってしまった。
「やだなぁ、企んでいるなんて。乃梨子ちゃんにとっては朗報なのに」
「朗報?」
「ほら、ホワイトデーの時のこと」
「ホワイトデーの時のこと?」
 はて、何のことだろうかと訝しがると。
「ほらほら、祐麒くんと……って、あ、言っちゃった」
 桂は慌てて口を抑えるも、乃梨子の耳には入ってしまった。
「祐麒さま…………って、桂さま、まさか、見ていたんですか?」
 かぁっと、顔が熱を帯びる。
「ふっふっふ、バレちゃあもう仕方ないか。そう、乃梨子ちゃんと祐麒くんのこと、あたしは知っているの。だから、お姉さんに任せて」
「任せてって、何がですか?」
「分からない? その日程、祐麒くんの都合の良い日なの」
「はぁ……それが何か……って、え、まさか」
「その通り。祐麒くんから、是が非でも乃梨子ちゃんと会いたいって、仲を取り持つようお願いされてね。こうして乃梨子ちゃんの所にきたの」
「嘘、ですよね?」
「志摩子さんの大事な妹に嘘なんかつかないよ。志摩子さんは、あたしにとって大事なお友達なんだから。だから信じていいよ、祐麒くんは本気だから。お願いするときにね、あたしに深々と頭を下げて『お願いします』って言ってきたんだから。だから、祐麒くんの気持ちを汲み取ってあげてくれないかな」
「祐麒さんの気持ちって……」
 何もない。
 たまたまショッピングモールで会い、ホワイトデーのお返しに何が良いかアドバイスしただけで、別に何もない。そりゃあ、ホワイトデーにマカロンは貰ったが。
 そう考えつつ、心臓の動きが少しずつ速くなってくる。
 それともまさか、あのお返しの買い物の時も、乃梨子と会いたくて待っていたなんてことあるだろうか。そういえば、あの前日に薔薇の館で、志摩子が来る前に祐巳と由乃に言っていたかもしれない。あのお店に買いに行くということを。
「……ほらぁ、その表情は心当たりがあるって顔ね」
「……っ!? そ、そんなこと」
 微笑む桂の視線を避けるように、顔を横に向ける。
「とにかく、祐麒くんも冗談なんかじゃないしさ、他の人には知られないようにって言われているし、会って話だけでも聞いてあげてよ」
「そんなこと、言われても……こ、困ります……」
「照れてる乃梨子ちゃんも可愛いなぁ。じゃあ、分かった、無理は言わないから、この日の内どこがいいかだけ教えて、ね、ほら、はい!」
「え、あ、じゃあこの日で」
「OK! それで祐麒くんには伝えておくからね!」
「ええっ!? あの、桂さまっ!?」
「頑張れ、青春!」
 グッ、とサムズアップすると、桂は駆けていってしまった。
 呆気にとられている乃梨子だが、しばらくしてようやく我に返る。
「……え、えっ、うそっ、だよね。ちょ、祐麒さんが……っ?」
 いや、我に返ってなどいなかった。

 

 ――そして、今に至る。
「なんですか、怒っているんですか? 今、ちょうどじゃないですか。度量がないですね」
 来ただけでもありがたいと思って欲しい。
 いや、あの後で桂も捕まらなかったし、祐巳に言うわけにもいかないし、断る機会がなく仕方なく来ただけなのだ。
 そう言い聞かせて祐麒に相対する乃梨子。

 

 そんな二人を、陰で呆然と見つめる志摩子。

 

 更に。
「…………あれぇ、祐麒くんと乃梨子ちゃんが心配で身に来てみたら、志摩子さんまで? ああ、可愛い妹だもんねぇ、そりゃ心配になるよねぇ」
 と、複雑な状態を作り出した張本人の桂もいて。

 

 混沌めいたデート(?)が、ここに開幕した。

 

 

中編に続く

 

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