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ノーマルCP マリア様がみてる 由乃

【マリみてSS(由乃×祐麒)】メッセージ 2

更新日:

 

~ メッセージ ~

 

 

 

 福沢邸に向かう途中、三人は他愛のない会話を交わしながら歩いていた。
「今日、祐麒は小林君の家に泊まるから、好都合だったね」
「ところで祐巳さま? 今年は瞳子さまと二人で祥子さまの別荘に行かれるんですよね?」
「うん、そうだよ。それがどうかしたの?」
「いえ、もしかしたら夏休み明けから薔薇の館が賑や――」
「菜々! 後で詳し……コホン……瞳子ちゃんの面目も考えなさい」
 祐巳がそんな黄薔薇姉妹のやり取りに苦笑を浮かべていたら、自宅の目の前に着いていた。

 ――ちなみに6月頃から瞳子が菜々のクラスメイト・西園寺のご令嬢と頻繁に会っていた事はまた別の話――

 

 リビングに招かれ、アイスティーを頂きながら由乃は口を開いた
「あの……小母さま。実は、祐麒くんの事で相談があるのですが……」
「あら、私も混ざって良いのかしら」
 言いながらも、祐巳の母――みきはソファに腰を下ろし、ごく自然と由乃たちの話の輪に加わってきた。
「はい、ご家族の事でもありますし、小母さまにも聞いてもらった方が良いと思って……」
「まだ、具体的な事は何も決めてないんですけど、だからこそ聞いていただいた方が、私達も助かります」
 菜々も隣からサポートするように言葉を添える。
 頼もしい妹に感謝しつつも、思い浮かべるのは祐麒のこと。

 ――祐麒くんは、野球の事に触れられると、何処か寂しげな表情を見せる。

 それはきっと、断ち切れない想いがあるからだと思う。
 今年は高校最後の夏……甲子園が熱くなるこの時期だからこそ辛い記憶を良い思い出に変えてあげたい。
 いや、そんな図々しい事まで望まない。
 祐麒がどれだけ辛いのか、どんな思いを胸に抱いているのか、誰にも分かることではない。それを他人がどうにか出来るなんて、思い上がりかもしれない。
 実際、由乃だって身をもって経験してきたではないか。思い通りにならない体、他人から気遣われることによって逆に受ける心苦しさ、安易な同情、外野からの無責任な応援。その人たちにとってみれば純粋な厚意なのかもしれないけれど、受ける本人も同じように感じるわけではない。
 でも。
 由乃は、手術から逃げなければ、諦めずに済んだ。
 そして身をもって知った、自分が望んでいたことを思っていたように出来ることの素晴らしさを、喜びを。思い通りに動かなくても、心臓を気にせず出来るだけで世界が180度反転した。
 だけど、祐麒は……もしかしたら余計なお世話かもしれない。
 逆に傷つけてしまうかもしれない。
 動くことが怖い。
 それでも、何かをしてあげたいと思う。
 そんな想いを吐き出していく内に、由乃の目はうっすらと潤んでいた。
「そう……由乃ちゃん、祐麒の事をそこまで大切に……」
「由乃さん、ありがとうね……でも、ここに菜々ちゃんがいてくれたのはラッキーだね」
 沈みそうになる空気を変えるかのように、祐巳がわざと明るい声で言う。
「……ふむん、つまり、祐麒さまの事となるとネガティブになりがちなお姉さまの為にプランを立てればいいんですね?」
 菜々も、あえていつも通りのノリで祐巳の言葉に応じる。
「さすが菜々ちゃん! 察しがいい♪」
「まあ、将来は女探偵を目指していますから、これくらいは」
 暗く重くならないように明るく言いながら、決してふざけているわけでもない、そんな二人の気遣いが有難く、そして僅かにこそばゆい。
「では、イベントプランナーとして考えますと」
「――いや、女探偵はどこいったのよ」
 と、由乃も感謝の意を込めてツッコミをいれはしたものの、実際のところ菜々は、現・山百合会の中で企画能力がずば抜けていた。アイディアという点では由乃も負けずと色々出すのだが、いざ実行というか、実現性のあるアイディア、プランとなると圧倒的に菜々に軍配が上がる。
「まず、祐麒さまの主治医に現在の肩の状態、ならびに投球をする場合は何球程度まで投球可能かの確認が必要ですね。あと、出身校の野球部の顧問の方に……」
 すらすらと喋る妹の姿に、空恐ろしさすら覚えはするものの、味方でいると頼もしいことに変わりはない。
 しかし、本当に二学年下で良かった。これが一学年しか違わなかったら、逆転姉妹なんて笑えない状況にだってなりかねない。ただでさえ、剣道の腕では最初から大きく負けているのに。

 ――準備段階の話がまとまったタイミングで、小母さまが祐麒くんのユニフォームを出してきた。
「あの時、捨てるように言われていたんだけど……どうしても捨てられなかったのよね……これは、由乃ちゃんに預けておくわね」
 背中に縫いつけられたエースナンバー、『1』を見た由乃は、手渡されたユニフォームに触れて動きを止める。
 綺麗に洗濯されたユニフォームだけど、本当はこのユニフォームはもっとずっと汗や埃で汚れていた筈なのだ。
 新しくて汚れがないことが良いわけではない。
 祐麒は悔しかったことだろう。この背番号を身にまとい、汗と砂と誇りにまみれていられないことを。
 ユニフォームも、きっと寂しがっている。
 だって、誰にも着てもらえず、汚れることのないユニフォームになんの価値があるだろう。押し入れの奥で綺麗なままでいたって、嬉しいわけがない。もっと自分を汚してくれ、努力の汗と、悔しい涙と、全力でグラウンドを駆けまわって付着する土と、強烈な日差しと、身に染みる雨と、そして歓喜の思いと。そういったものを存分にぶつけて欲しかったに違いない。
 様々な思いが心のうちを千々に駆け巡り。
 由乃はただ無言で、ユニフォームを抱きしめていた。

 

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