「くっ……」
悔しげな表情を浮かべる瞑子だが、ゆかりはそんな瞑子を見るのが楽しくて仕方ない。
一日一回の瞑子からのキスの約束、学年も違えば行動範囲も異なる二人、広い学園内では意外と会うのも大変だったりする。
今、二人がいる場所は美術室の中。他の部員はまだ来ておらず、キスするなら今なのだが、もしも途中で誰かが入ってきたらと考え、瞑子はなかなか実行できないのだ。
迷っている暇があるならさっさとしてしまえば、とうにノルマはクリアできているのにとゆかりは思うが、迷い、悩む瞑子を見るのも楽しいので何も言わない。
しばし逡巡した挙句、ようやくのことで意を決したのか、瞑子はそっと顔を近づけてきた。相変わらず羞恥に頬を朱に染め、僅かに震えながら迫ってくるのが可愛らしい。
重ねられる唇、すっかり馴染んできた感触をゆかりは堪能する。
どれくらい、キスしていただろうか。
不意に、美術室の扉が開く気配を感じ、慌てて瞑子はゆかりから離れた。
「――あら、もしかしてお邪魔だったかしら?」
入ってきたのは、槙だった。
「別に、そんなことはないわ」
「えー、だって今お二人、キスしていたじゃない」
槙に言われ、一気に真っ赤になる瞑子。
「な、ななっ、何を言って」
「ごめんなさいゆかり、出直しましょうか?」
「お気になさらず、先輩。部活の前の空いた時間、ちょっと逢瀬していただけですから」
「あらあら、ゆかりも言うわね。やっぱり私はお暇したほうが」
「し、失礼するわ」
ゆかりと槙の会話を耳にしていた瞑子は、顔を赤くしたまま美術室から逃げるように足早に去って行ってしまった。
「氷室さんって恥ずかしがり屋さんなの? か~わい~い」
槙がにへにへと笑いながら、瞑子が出て行った入口の方を見つめている。瞑子とのキスを見られてしまったが、学校内でしている以上はその辺のリスクは込みのこと。むしろ、それでもあえて瞑子にキスさせることに意味があるのだ。
今回は、見られた相手が槙だけだったので問題ないだろう。槙が他の人に言いふらすこともないだろうから。
「ゆかり、氷室さんのこと追わなくていいの?」
「部活は部活ですから」
と、改めて部活動の準備をしながらゆかりは考える。いつまで経っても慣れない瞑子にキスをさせるようにして、前に一度し忘れてお仕置きをしたものの、それ以降は続いている。ここらで一度、ご褒美をあげてもいいかなと。
ゆかりは別に、瞑子のことをM奴隷にしたいわけではない。ただ、生まれ持った類まれなるドMの資質を開花させたいのだ。クールで冷徹で見た目どう考えてもSで年上の瞑子。本人はそんなことはないと思っているだろうが、そういう相手を徐々にMの快感に目覚めさせ、本人も知らないうちに求めるようにさせ、「おかしい、私こんなはずじゃないのに、ああ……」というような感じで落としていきたい。そしてそんな瞑子を愛おしく思い、愛したいのだ。
そして翌日。
ゆかりは瞑子を美術室に呼び出した。
「……わざわざ呼び出して、何の用?」
腕を組み、どこか警戒したような感じで様子を窺っている瞑子。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、今日は部長にお願いして、この部屋を貸し切りにしてもらっているから、誰も来ないわ」
更にゆかりは内側から鍵をかけ、誰かが勝手に入ってこられないようにした。瞑子はそれを見て、逆に警戒を強めたようだ。
「内側からの鍵だから、そこまで心配しなくても大丈夫でしょう。それで、今日はお願いがあって、また絵のモデルになって欲しいの」
「嫌よ、そんなの。モデルを引き受ける理由なんて、ないわ」
「そう言わないで、お願い。もちろん、お礼はするし」
「いらないから」
「誰も入ってこないようにしているし、いいでしょう? 描いた絵も、誰にも見せないで私だけのものにしておくから。お願い、私だけが知っている瞑子の姿を描きたいの」
そこまで言うと、瞑子がわずかに反応した。今まで、あまりこんな風に下手に出て懇願したことなどなかったからか、困惑しているようでもあり、微妙に嬉しそうにも見える。
「ね、お願いします、この通り」
と、床に頭がつかんばかりの勢いで、深々と頭を下げる。
「ちょ、ちょっと」
「そうだ、モデルを引き受けてくれたら、毎日のキスの約束、三日間ほど勘弁してあげる」
「えっ」
と、微妙な表情を見せる瞑子。
ああそうか、キス自体は嫌じゃないのかと、にんまりしそうになる。
「それじゃ不服? 一週間とかどうかしら」
「いえ、あの」
「あぁ、じゃあキスを忘れても三回までお仕置きは勘弁してあげるっていうのは」
「そ、そうね……」
またも煮え切らない瞑子。これは、お仕置きされないのは、それはそれで残念ということか。
「じゃあ、これから一週間は瞑子からじゃなくて、私からキスするっていうのはどうかしら? これなら、お互いに損がないでしょう」
「そ、そう……かしら」
そもそもゆかりがお願いし、交換条件として出していたはずなのに、ゆかりには全くデメリットがない内容になったが、瞑子の方はいいくるめられ始めている。あまり考える時間を与えてもいけないと思い、ゆかりはまとめに入る。
「それで決まりでいいですよね? それとも他に何かありますか?」
「ええ……と、いえ」
「はい、決まり。それじゃあ時間勿体ないですから、始めましょうか」
にっこりと笑いかけ、こうして二人の時間はスタートした。
モデルになっている瞑子は、恥じらいにわずかに顔を赤くしながらも、それでも律儀にポーズをとってくれている。
「な、なんでこんな格好なのよ……」
「女性の柔らかな体のラインを描きたいんですよ」
ぶつぶつと文句を言っている瞑子は今、チアガールの格好をしている。モデルの衣装としてゆかりが用意したもので、白とピンクを基調とした上下セパレートのチアセット。モデルをしてもらっているのは本当だが、瞑子にコスプレをさせたいゆかりの趣味でもある。何せ、あの氷室瞑子にチアガールの衣装だ、萌えないわけがない。
今後も、なるべく瞑子が恥ずかしがるような可愛らしい衣装を用意してモデルになってもらうつもりだ。単にコスプレとなると瞑子も頷かないだろうから、モデルという言い訳、免罪符を用意することでコスプレさせようという魂胆である。
絵を描き始めると時間もあっという間にすぎていく。気が付けば、夕方になっていた。
「――もう、こんな時間か。今日はこの辺までにしましょうか」
そう言ってペンをおろすと、瞑子は明らかにホッとした様子を見せた。
「まだ終わりじゃないですから、また今度、モデルの続きお願いしますね」
ゆかりのお願いに答えることなく、無言で立ち上がる瞑子。そのまま、もとの制服に着替えに行こうとするところを、ゆかりは止める。
「何よ、まだ何か?」
「ふふ、実は今日は、瞑子にご褒美をあげようと思って」
「ご褒美?」
「そう、キスの約束をずっと守っているでしょう。だから、偉い偉いって言う意味で、私がご褒美をあげる」
「い……いらないわよ、そんなもの」
不穏なものを感じ取ったのか、拒もうとする瞑子。失礼である。
「もう、ご褒美が何か訊いてから考えてもいいじゃない」
「…………」
「今日のチアの姿見ても思ったけれど、瞑子って胸は大きくないわよね。むしろ、小さい方よね」
「う……うるさいわね。そんなの、どうでもいいわ」
「またまた、本当は大きくなりたいでしょう?」
「……一体、何なの?」
睨みつけてくる瞑子だが、チアガールの格好なので全く怖くはない。むしろ、可愛らしくすら思えてくる。
「だから、今日はご褒美に私が瞑子の胸を大きくしてあげようと思って。ほら、揉まれると大きくなるって言うでしょう」
「なっ……」
と、逃げようとした瞑子よりも素早くゆかりは背後に回り込み、瞑子の腕を押さえて素早く両手首を縛った。
「ちょっ、何を……っ」
「遠慮しなくて、いいから」
背後から抱き着くように腕を体の前に回し、胸を掴む。
「やっ、やめて、ちょっと」
もがこうとするが、腕を後ろ手に拘束され、更にゆかりの体と腕で自由を奪われているために、もぞもぞと動くことしか出来ていない。ゆかりは落ち着きのない瞑子の耳たぶを唇でつまんだ。
「ひゃうっ!?」
ぶるっ、と痙攣して動きが止まる瞑子。
「ふふ、耳、弱いのかしら」
「ち、がぅ……」
瞑子の動きが弱まったところで、胸の愛撫を再開する。チアの衣装の上から手の平で包み込むようにして、軽く揉むが。
「うーん、いまいち、わからないわね」
瞑子の胸のサイズが小さいせいか、衣装の上からでは揉んでいるという感触があまりえられない。
「直接の方がやっぱり効果は高いわよね」
「ちょ、ちょっと染谷さ……」
用意したチア衣装のベストは、体の前面にボタンがついているので、手を拘束していても前を開けるようになっている。一つずつボタンを外して前を広げると、ブラジャーがまだ邪魔をしているので、肩ひもを肩から外してずり下げる。
そうしてようやく表れた瞑子の生乳を、ゆかりはそっと手の平で包み込んだ。
「あっ……ん」
声を漏らす瞑子。
「可愛いおっぱい」
膨らみはほんのささやかなものだが、それでも確かな柔らかさが手の平には伝わってくる。ゆかりはそのまま、円を描くようにしてゆっくりと揉み始める。
「や、やだっ、やめて……く」
「大丈夫、大きくしてあげますから」
「そうじゃなくてっ、う、んっ」
胸を周囲から押し上げるようにして揉みあげる。加えて、今日はご褒美でもあるのでサービスとして乳首を責めてあげることも忘れない。右手のひらで転がすようにして、左手では指と指の間に挟んで揉みながら刺激を与える。別に乳首を責めているわけではない、あくまで胸を揉んでいる中でついでに乳首に刺激を与えてしまっているという形にするのがポイント。
「あっ……んっ、はぁっ、あ」
瞑子の漏らす声も、どこか熱を帯びてくる。
ゆかりは更に指をずらし、人差し指の腹で乳首をこねる。
「ふあぁっ、やぁっ、やめっ……」
既に瞑子の乳首はゆかりの愛撫に反応し、硬く尖ってきている。
「瞑子、こっちを向いて」
「え……んっ」
ゆかりの言葉に首を捻って横を向く瞑子。ゆかりは首を伸ばし、唇を重ねる。
「んっ、ちゅっ……んあ」
苦しい体勢のはずだが、瞑子は口を離そうとしない。上半身を反らすような格好となり、その旨はゆかりの手と指に任せたまま、懸命に唇を吸う。
「……ねえ瞑子、ちょっと前を向いてみて」
「え……?」
口を離し、瞑子は言われるままに顔を前に向けた。
「――――っ!?」
徐々に立ち位置を移動していたのか、いつしか瞑子は窓の真ん前に立っていた。
「ふふ、その位置だと、外から見えちゃうかもね」
「やだ、ちょっと、やめっ……!!」
一気に顔が真っ赤になり、焦りをみせる瞑子だが、ゆかりは容赦なく胸を揉み続ける。
「どう、誰かいる?」
「お願い、離し……」
「じゃあ、こう?」
ゆかりは瞑子の胸から手を離すと同時に、ぐいと体を前に押しやる。
「や、ひゃんっ!?」
瞑子の胸が窓ガラスに強く押し付けられる。形が変わるほどの大きさはないが、それでも苦しいのか瞑子は表情を歪める。
「瞑子のおっぱい、今、窓の向こうからだとどう見えるのかしらね?」
「う……は、あぁっ」
顔も頬っぺたを窓に押し付ける格好になっている瞑子の耳に息を吹きかけながら、ゆかりは話し続ける。
瞑子は羞恥に頬を朱に染め、瞳には涙をためながら、体を震わせている。
チアガールのスカートの下にそっと手を忍ばせてみると、股間に近い内腿の部分がぬるりとした。汗以外の何かが出ていることは、確実に思えた。
「あ、あそこの子、瞑子の方を見ていない?」
「や、やめっ……!!」
懇願するような目を見せるが、その瞬間、内腿を撫でていたゆかりの指に、どっと生暖かい液体が絡みついてきた。
やはり、羞恥プレイにも相当の資質を持っている。ゆかりは嬉しくなったが、今日は普通にご褒美をあげるつもりだったので、その辺に留めておくことにした。
窓際から離れ美術室の中央あたりに戻ると、瞑子はあからさまに安堵の息を漏らした。
「それじゃあ、これからが本当のご褒美よ?」
「え……?」
では、今までのはなんだったのかと怯えを見せる瞑子に構わず、ゆかりは準備を始める。瞑子の後ろにいるため、瞑子はゆかりが何をしているかは分からず不安そうだが、後ろ手に縛られたまま振り返ろうとしないところは偉いと思った。
「お待たせ」
やがてゆかりは、そっと瞑子の前に回った。
「――えっ!? そ、染谷さん!?」
大きく目を見開く瞑子。
なぜかといえば、ゆかりもまた上半身裸になっていたから。
「ご褒美、よ」
余計なことを言わせないよう、キスをして唇を塞ぐ。
瞑子に対するご褒美と言っているが、実はゆかり自身の欲望でもある。瞑子を苛めるのは、それはそれで楽しいのだが、ゆかりだって気持ち良くなりたいと思う。瞑子の恥ずかしい姿を見て一人で興奮するだけでなく、瞑子を直接に感じて、快感に浸りたい。
だけど、それを正直に言ってしまってはよくないので、あくまで瞑子に対するご褒美という形にしたのだ。
「んっ……はぁ、ほら、瞑子」
乳房を押し付け、お互いの乳首同士を擦りつけると、電流が流れたような、痺れるような快感が駆け昇ってくる。
「ど……う、瞑子。気持ち、いいかしら?」
真っ赤になり、身を捩る瞑子だが、逃げるというよりかはむしろもっと触れ合わせるよう、胸を張るようにしている。
もう一度キスをして、舌で瞑子の口内を蹂躙しながら、押し付けた胸も動かして刺激を与え刺激を受ける。
もどかしくなり、自分の手で胸を掴んで瞑子の乳首にくっつけ、上下左右に動かして乳首同士を激しく愛撫しあう。
「ふあぁっ、あ、んっ……はぁっ」
瞑子の口がだらしなく開き、端から涎が垂れ落ちる。
ゆかりも人のことはいえず、垂れた唾液を胸に擦りつけて滑りをよくして続ける。
「瞑子……可愛い」
快感に頭の中が白くなりかけても、忘れてはいけないことがある。ゆかりは瞑子の胸に手を伸ばすと、乳首を指で強めにつまんだ。
「ひっ!! い、痛いっ!」
「本当に? そんなこと、ないんじゃないの?」
更に力を入れ、引っ張る。
「ちょ、や、やめ、くっ!」
一方で反対側の乳首については、優しく転がすように指先で撫でる。
「くぁっ、あ……ふ、うぅっ……」
痛みと快感、両方に耐えるようにしている瞑子。
やがてゆかりは、片方は強くつまんで引っ張り、もう片方は指で強く中に押し込み、逆の刺激を与え続けるようにした。
声を殺し、荒い呼吸で耐える瞑子。
初めに悲鳴こそあげたものの、その後は声を押し殺すように耐えているのはさすが瞑子といったところだが、そういった我慢強いところがまた嗜虐心をそそるのだ。どこまで耐えられるのかと。
「ねえ瞑子、どう、気持ち良いんでしょう?」
「そ、そんなわけ……」
痛みに歯を食いしばる瞑子だが、同時に頬が上気しているのも見逃さない。
「いいのよ別に、だってこれはご褒美なんだもの、だから気持ち良くていいの」
「なっ……??」
つまんでいる指を捻り、捩じるようにする。
瞑子が痙攣したようにビクビクと体を震わせる。
「ね、おかしなことじゃないのよ、ご褒美だから気持ち良くて当然なの」
「うぅっ……あっ、くあぁ」
耳たぶを噛む。
「遠慮なく、気持ちよくなってね」
押し込んでいる乳首の方に、爪を立てる。
「ひぎっ……!?」
瞑子の息は切れ切れになり、視線もどこかをさまよっている。
「――さ、受け取って、私からのご褒美」
止めとばかりに瞑子は思い切り両方の乳首を引っ張った。乳首に引っ張られるようにして胸が前に出て、背中を大きくそらす瞑子。そして、耳の中に舌を差し入れる。同時に、限界まで引っ張った乳首が、指から弾ける。
「―――――――っっっっ!!!!!」
次の瞬間、瞑子は激しく体を痙攣させた。
「――――――っ、ふ、あっ、はぁっ、あっはぁっ……!」
ぷるぷると更に小さく体を震わせたまま力を失い、膝から崩れて床にぐったりと倒れ込む瞑子。
「あらあら、そんなに気に入ってくれた? 私のご褒美」
乱れたチアガール姿で倒れている姿を、ゆかりは満足そうに見下ろすのであった。
片づけて学校を出ると、周囲は暗くなっていた。
隣を歩く瞑子は、先ほどから一言も話そうとしないし、ゆかりが話しかけても答えようともしない。まあ、胸だけをいじられてあのようなことになってしまったのだから、恥ずかしくて拗ねているのだろうが、そんな瞑子が可愛くて仕方ない。
それに、本気で怒っているなら一緒に帰るなどしないはずだが、なんだかんだ言いつつこうして並んで帰るのだから。
「どうしたの瞑子、さっきから黙って」
「……もう、今日みたいなことはしないから」
「え、なんで? 継続しないと意味ないわよ、こういうのは。今日だけで胸が大きくなんてなるわけないんだから、定期的に揉んであげないと」
「だから、いらないって言っているでしょう」
あくまで否定する瞑子を見て笑いをこらえながら、ゆかりは瞑子の腕に抱き着いた。
「なっ、何よ、いきなり」
「どう? あててるのよ」
自分の胸を、瞑子の腕に押しつける。けっして巨乳ではないが、適度なサイズだと思っている。
「だ、だからどうだってのよ」
「瞑子にも、これくらいなって欲しいかなって」
「…………ふん」
目を反らしながらも、腕を解こうとはしない。
まあ、たまにはこういう甘いのも良いだろう。
飴と鞭。
次はどのようなお仕置きをしてあげようか楽しみに考えながら、二人、腕を組んで寄り添いながら寮へと戻るのであった。
おしまい