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【マリみてSS(三奈子×祐麒)】聖夜のメモリー <前編>

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~ 聖夜のメモリー ~
<前編>

 

 

 それは十二月に入ってすぐのこと。
 予備校からの帰り道、まださほど遅い時間ではなかったこともあり、三奈子は特にあてがあるわけではなかったが街をぶらぶらとしていた。
 この時期、既に街はクリスマスモードとなっており、イルミネーションは飾られ、どこのお店も競ったようにクリスマス商品を売り出したり、セールをやったりと賑やかである。クリスマスが終われば、すぐに年末、年始の飾り付けやら売り出しやらが待っているというのに、毎度ご苦労なことである。
「クリスマスか……」
 今年はクリスマスイブが土曜、クリスマスが日曜で、しかもイブイブは祝日だから、その三日間はさぞや賑わうことであろう。
 しかし受験生である三奈子はといえば、予備校での講習に模擬試験という、味も素っ気も無いイベントが待ち構えているだけである。世の中はどうしてこう、受験生には厳しいのか。いや、受験生がクリスマスを楽しんじゃいけないわけではないのだが。
 このままでは高校生活最後のクリスマスが、何の記憶にも残らないようなつまらないものになってしまう。果たしてそれでよいのだろうか。いや、よいはずがない。もっと楽しい何かがあってもよいはずだ。
 しかし、どうすればよいだろう。
 真美は、つい最近ようやくできた妹の日出美ちゃんとどこかに出かけるといっていた。姉である三奈子としては少し寂しいが仕方が無い。自分も、真美を妹にしてしばらくは、やっぱり可愛くて妹優先となってしまうことがしばしばあった。
 真美が駄目となるとどうするべきか。
 クラスメイトやその他の友人の顔を思い浮かべるが、どうもしっくりこない。というか、みんな同じく受験生であるから気が引ける。
 そこまで考えたところで、ふと視界に最近見慣れた人影がよぎった。
 これぞ天啓、と思った三奈子は、さっそく声をかけようとした。
「祐麒く……」
 前のほうを歩いているその人を呼ぼうとしかけたところで、三奈子の動きがぴたりと止まった。
 思わず、息を飲んでまじまじと見つめる。
 その人、福沢祐麒くんは女の子と一緒に歩いていたのだ。それも、とても可愛らしい女の子と一緒に。
 何かを話しながら、時に楽しそうに笑ったりして非常に仲良さそうにしている。
「彼女、いたんだ……」
 別におかしなことではない。
 祐麒くんだって、彼女がいたっておかしくない。
 頭の中では分かっているのに、なぜか、三奈子の気持ちは沈んでいくのであった。

 

 久しぶりに会った三奈子さんはいつにもましてテンションが高かった。年の暮れも迫りつつある中、受験生としたらまさに正念場といってもいい時期に入っているにもかかわらずである。
 しきりに遊びに行こうと誘ってくる三奈子さんに対して、毎度おなじみとなってしまった忠告をする。
「三奈子さん、受験生でしょう。これからが正念場なんだから、勉強に専念した方がいいんじゃないですか」
「それは、何度も聞いた」
 ちょっと不機嫌になる三奈子さん。
 いつもは、どうしても祐麒の方が折れてしまっていたが、さすがに祐麒もそろそろまずいのではないかと真剣に思い始めていた。年が明ければ、本当にすぐに試験が始まってもおかしくない。今は、ラストスパートに入ってもおかしくない時期だ。確かに色々と誘惑の多い時期ではあるが、ここを乗り越えないと先は見えてこない。
 仮に、これで三奈子さんが志望校の受験に失敗でもしてしまったら、三奈子さんはどう思うだろう。きっと、悔やんでも悔やみきれないのではないだろうか。何よりも貴重な時間を、祐麒などと遊ぶことに費やしてしまったことを。
 だから祐麒は、あえてきつい言葉を選び出した。
 三奈子さんのためを思えばこそ、ここで甘くしないほうがいいと考えたから。
「三奈子さん、しばらく、俺と会うのやめた方がいいんじゃないですか?」
「えっ……」
「俺といると遊んじゃうから、しばらくは会わない方がいいんじゃないかなあと思うんだけど」
 祐麒の言葉を聞いた三奈子さんは、最初、ぽかんとしていたけれど、やがて眉をひそめ、少し紅潮した顔して口を開いた。
「な、何よ。私と会いたくないなら、正直にそう言えばいいじゃないっ」
「えっ」
 なぜ、そんな結論に達したのだろうか。祐麒は、ただ受験勉強の妨げになるといけないと思って言ったというのに。
「私と一緒にいるのを彼女に知られたらまずいんでしょう?だったらそう言えばいいじゃない、遠まわしな言い方しないで」
「ちょ、ちょっと待って三奈子さん。いったい、何を言ってんのさ。彼女って?」
「この前、楽しそうに歩いていたの見たんだから。別に隠す必要なんてないでしょう」
「いや、本当になんのことだか……」
「もういいわよ、会わなきゃいいんでしょう、会わなきゃ。ふん、さよならっ」
「み、三奈子さ……」
 呼び止めようとしたが三奈子さんは祐麒の言葉に全く耳を貸そうともせず、身を翻しポニーテールをぶんぶんと揺らしながら大股で歩いていってしまった。
 そして後には、突然の出来事についていけなかった祐麒だけが取り残されていた。

 

 十二月も半ばを過ぎて。
 クリスマスは間近、歳が明けるのもあとわずか、そして受験だって目の前に見えている状況にも関わらず、三奈子の気持ちは一向に高まっていかなかった。
 イベントに高揚するわけでもなく、新たな年に向けて意気込むこともなく、受験に向けて気合が入ることもない。
「はぁ~~っ」
 ぐったりと机に伏す。
「ああもう、なんなんですか鬱陶しい」
 隣にいる真美が、冷たい視線を向けてくる。それでも原稿を打つワープロの手は止めないのだから、たくましいというか配慮が無いというか。
 べったりと頬を机にくっつけていると、ひんやりとした感触がまたたまらない。最初は冷たすぎて耐えられなかったが、今ではどこか快感になりつつある……などと言うと、また真美に馬鹿にされるから言わないが。
「なんか、やる気が出ないんだもの」
「だからって、そのやる気の無さを後輩にうつさないでください」
「やる気のなさって、人にうつるものなの?」
「お姉さまのはうつります」
 身も蓋も無い。
 ここは新聞部の部室、冬の部室は大層寒く、皆厚着をしたりひざ掛けを持参したり、毛布にくるまったりして暖を取る。
 暑さには強いが寒さに弱い三奈子は、毛布にくるまることも多々ある。ちなみに真美は暑さにも寒さにも弱い。
「真美、寒いでしょう。私が暖めてあげよっか?」
「おおお、お姉さまっ?!」
 背後に忍び寄り、そっと腕を回して抱きしめるような格好をすると、途端に真美が慌てだした。普段はクールな子だけれど、こういった反応をしてくれるからついつい、嬉しくなってやってしまうのだ。
「……ん」
 そこで、正面から何やら強烈な気を感じて顔を上げてみると。
 物凄い目をして三奈子のことを睨んでくる日出美ちゃんの姿があった。苦笑しながら、真美に絡ませていた腕をほどく。
「ああ、ごめんごめん。今はもう、私だけの真美じゃないんだものね」
 特に、この二人はまだ姉妹になって日も浅いし、二人とも自分から進んでスキンシップを取るようなタイプじゃないから。目の前でべたべたされたら、気分の良いものではないだろう。ひょっとしたら、日出美ちゃんも真美に構って欲しいのかもしれない。
「あ、すみません、三奈子さま。わたし、そんなつもりじゃ」
 恐縮したように顔を伏せる日出美ちゃんだったけれど、ここは身を引こう。
 鞄とスクールコートを手に取って立ち上がる。
「いいからいいから。私も、そろそろ行かないといけないし」
 そして立ち去り際、真美の耳元で囁く。
「真美、もっと日出美ちゃんに構ってあげなさいよ」
「わ、分かってますよ。でも、私はお姉さまと違うから……」
「私の真似する必要は無いのよ。真美らしくすればいいんだから」
 ひらりと身を翻すようにして、戸口に向かう。
「あ、お姉さまは、大丈夫なんですか?」
「ん、何が?」
 声をかけられて振り返ると。真美が、どこか心配するような目で見つめてきていた。日出美ちゃんが、そんな三奈子と真美のことを少し不安そうな表情で追っている。
「何が、って……お姉さま、何かあったのでは」
「妹に心配されるほど落ちぶれちゃいなわよ。それより、日出美ちゃんといちゃいちゃする方法でも考えていなさい」
「おっ……お姉さまっ?!」
 顔を赤くして椅子から立ち上がる真美を横目に、部室から出る。
 しばらく歩いてから後ろを見てみたが、真美が部室から出てくる様子はない。きっと今頃は、照れ隠しをするかのように部室で三奈子の文句でも色々と言っていることだろう。それが、日出美ちゃんの嫉妬心をさらに煽ることになるとも知らずに。
 笑いながらスクールコートを着て外に出る。
 途端に身を切るような冷たい風が吹きつけ、思わず目をつむりそうになる。耳がキーンとして痛みを感じる。
 三奈子は寒いのが苦手だった。だから毎年、冬は辛い。去年の冬も大層寒かったのを憶えているけれど。
「―――はあ――」
 手袋を忘れ冷え切った両手を擦りあわせながら、どんよりと曇った空を見上げ、力なく白い息を吐き出す。
 今は、そのどんな日よりも、寒いような気がするのであった。

 

 

後編に続く

 

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