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ノーマルCP マリア様がみてる 栄子

【マリみてSS(栄子×祐麒)】新たな目覚め

更新日:

 

~ 新たな目覚め ~

 

 

 週末の休みを前にした夜の街は行きかう人の姿も多い。
 夜遅くまで遊んでも、翌日が休みだと思えば多少の無理も出来る。一週間の仕事や勉学で溜まったストレスを発散させるべく、多くの男女が至る所で夜を楽しんでいる。
 美味しいものを食べ、名酒に喉を震わせ、カラオケやダーツやビリヤードなどに興じ、気の置けない仲間達と好きなことをする。それでまた週明けから頑張れるのなら安いものなのかもしれない。
 栄子もまた、とある個室居酒屋で友人達とささやかな女子会を開いて一週間の疲れを慰労していた。
「……そんなわけで、もうたまったもんじゃないのよ」
 この日は焼酎の気分だったので、霧島のロックをぐびりと喉に流し込んで話を続ける。
 せっかくの楽しい飲みの場で仕事の話はあまりしたくないのだが、それでも愚痴を吐いてしまいたいと思うのは仕方ないところだろう。
「どの子も保健室にやってきて、人に尋ねてくるのよ。保健室は怪我人や病人のためにあるんだから」
 祐麒と栄子の関係が露見してしまったあの日から、飽きること無く女子生徒達は保健室にやってきて、色々なことを栄子に尋ねてくるのだ。

 どのようにして知り合ったのか。
 デートはどこに行くのか。
 どちらから告白したのか。
 いつから交際しているのか。
 学生時代からつきあっていたのか。

「色々気になる年頃なのはわかるが、いい加減に勘弁してくれ!」
 栄子はテーブルに額をつけて唸るように言う。
「いやぁ、あたし達も気になる年頃だけど。ねぇ?」
 頬杖をつき、呆れた表情をして言うのは友人の一人である美月。
 バツイチ、高校生の娘を持つシングルマザー。
「年頃って、何歳だと思っているんだ?」
「その言葉、そっくりそのまま栄子に返すけれど?」
「まあまあ美月ちゃん、栄子ちゃんは今、幸せの真っただ中なんだから。人生初の彼氏だし」
「うん、さりげなく抉るよね、理砂子は」
 凛とした感じの美月と対照的に理砂子はゆるふわな雰囲気、小学生の娘を持つ母親である。栄子としては、理砂子の胸のボリュームが羨ましい相手である。
「まあそもそも、恋に恋する女の子達の目の前でいちゃつく栄子が悪い」
「べ、別に、いちゃついたわけじゃない!」
「でも、お姫様抱っこされてキスしたんでしょう?」
「キスはしていない! 話を膨らませるな!」
「お姫様抱っこはされたんでしょう、羨ましいなぁ」
「ねぇ? 祐麒くんも見せつけてくれるわよね、栄子はオレのものだ、っていうアピールかしらね」
「いやいやアイツ、調子に乗ってちょくちょく迎えに来て、女子高校生に騒がれて鼻の下を伸ばしているんだ。やっぱり若い女の子が良いのよ」
「えー、どうみても栄子ちゃんにメロメロだけど?」
「これも惚気のひとつだから。ああもう、ここじゃ周囲が気になるから、場所を変えてぶっちゃけトークいくわよ」
 美月が宣言するように言うと、その言葉通りに籍を立ち上がる。もともとこの日は一件目の後で宅飲みをする予定だっだので、帰りがけにアルコール類とつまむものを購入して理砂子のマンションに向かった。
「旦那さんは出張だっけ?」
「うん、だから遠慮しないで」
「暁ちゃんはお泊まり会だっけ」
 他の家族がいないとあって、女三人で気を遣うこともなく、周囲の目を気にする必要もなく、飲んで食べてお喋りできるというのは贅沢の一つに違いない。本来なら一人暮らしである栄子の部屋の方が調整の必要もないのだが、理砂子のマンションが使用できるならその方が広くて綺麗で快適である。
 理砂子の家で飲み始めて小一時間、玄関のチャイムが響いだ。
「こんな時間にお客さん?」
「うん、ちょっと待っててね」
 時間は既に21時を過ぎ、宅配便の最後の便も終わっているはずだが、理砂子が不思議がらないことを見ると、予定通りなのだろう。
 玄関の扉が開き、「いらっしゃい、待っていましたよ」という理砂子の声が聞こえ、するとやはり予定通りの来訪者なのだろうが、学生時代の友人とはこの三人以外で最近会ったりはしていない。
 ということは

「おー、祐麒くん、待っていたよー」
「なんで、そうなる!?」
 理砂子に続いて姿を見せた祐麒に対し、美月が手を挙げながら声をかける。栄子はテーブルに突っ伏す。
「サプライズよ、栄子ちゃん」
「女三人も良いけれど、やっぱり華がないとねぇ」
「いやいや、三十代の言い年した女が十代の男を呼んで、どうする!?」
「えぇ~、栄子がそれを言う?」
「それはそうだが、ええい、祐麒も祐麒だ、簡単に誘われてくるな」
 腹立ちまぎれに、祐麒に向けて文句を言う。
「まあまあ、私達が無理に読んだんだから、祐麒くんを怒らないで」
「そうそう、ほら、飲み直しましょう」
 半ば強引に宴会に再突入する。
 祐麒が一緒にいてもちろん嫌なわけではないが、そうなると栄子と祐麒に対するからかいや、栄子の学生時代の過去の話などになるのが嫌なのだ。
 どうにか変な方向に話がいかないようにする栄子だったが、美月と理砂子が相手ではなかなかそうもいかない。
「そういえば祐麒くん、リリアンの女の子に鼻の下をのばしているんだって? 栄子が怒っていたわよ」
「の、のばしてなんかいませんよ」
「やっぱり若い子の方が良いんですか?」
「こら美月、理砂子、変に絡むな酔っぱらいが」
 アルコールが入って気分も浮かれているのか、美月と理砂子のテンションが上がっていくのが分かる。
 反対に栄子は、二人が余計なことをしないか気が気でなく、おちおち酔ってもいられなかった。
「……そうだ、美月ちゃぁん」
「おっと、理砂子、飲みすぎ? 大丈夫?」
「大丈夫よ、ほら」
「あー、ごめん、ちょっと席を外すね」
 美月が理砂子を抱えるようにしてリビングを出ていくと、栄子も少しホッとした。できることならば、そのまま眠ってくれるとありがたい。
 そしてリビングに二人きりで残されたことで、ようやく祐麒に向けて口を開く。
「まったく、なぜ教えてくれなかった」
「すみません、サプライズだからってお二人に止められていて」
「ほーう、なるほど。祐麒は私よりも美月と理砂子を優先するというわけだな、なるほど」
 ちょっとわざとらしく拗ねてみせるが、半分くらいは本気でもある。
 いくらサプライズと言われても、殆ど交流などないはずの美月や理砂子より恋人である栄子を優先すべきであろう。
 そもそもサプライズといっても別に誕生日でもなんでもないただの飲み会なのだ。
「いや、そういうわけじゃ。だって、サプライズすれば栄子ちゃんに会わせてくれるって言われたもので」
「そんなこと言われなくても、言えばいつでも会ってやるのに」
「すみません」
「ま、まあ、本気で怒っているわけじゃない」
 祐麒の手がのびてきて、栄子の手に重ねられる。
 ちらと美月たちが消えていった方に目を向け、まだ戻ってくる様子がないことを確認すると、栄子も軽く指を動かして絡ませる。
 周囲に内緒にしているような、なんだか気恥ずかしい感じがする。
 祐麒がじっと見つめてくる。
「な、なんだ?」
「いえ、友達と会う時の栄子ちゃんはそういう感じなんだなーと思って」
「別に、いつもと変わらんだろう」
「なんかちょっと違うような気がします」
「そ、そうか? まあ、祐麒と会う時の方がが少し気合を入れて……って、変なことを言わせるな」
「え、俺と合う時の方がなんですか?」
「なにも言っていない」
 誤魔化すように、つまみのチーズを口にする。
「いや、言いましたよね」
「言っていない」
 などと無為なやり取りをしていると。
「お待たせ、いやちょっと手間取っちゃって」
 美月の声が聞こえ、慌てて祐麒と絡ませていた指を解く。
「理砂子は大丈夫だったか……って……」
 美月の方に顔を向けて、栄子は絶句した。

「じゃじゃーん、どう?」
「ど、どうって、な、なんだその格好は」
「ふふ、これもサプライズよ」
「理砂子までっ?」
 美月の後ろから現れた理砂子を見て、栄子はまた驚きの声をあげた。
「祐麒くんが、女子高校生に鼻の下をのばしているって聞いたから」
「私達も女子高校生になってみました~」
 そう、美月も理砂子も学生時代の制服を着ていたのだ。
 栄子たちはリリアンではなかったのでワンピースではなくセパレートタイプ、ブラウスとブレザーの組み合わせである。
 胸元はリボンかボータイを選べるようになっており、美月はボータイ、理砂子はリボンにしている。
 スカートはチェック柄で二人とも膝が見えるかどうかくらいの長さにしている。
「お、お前たち、何を考えているんだいい年をして」
「あはは、まあ、お酒の勢いはあるけどね。たまにはこういうのも良いじゃない、ね、どう、祐麒くん?」
 言いながら二人が祐麒の両脇に腰を下ろすと、祐麒は見た目にも狼狽しはじめた。
「さすがにいい歳して似合っていないかしら」
「当たり前だろう、どこの風俗店だ」
「栄子には聞いていません、祐麒くんの感想は?」
「え、あの、似合っています」
「ほらぁ」
「馬鹿か、祐麒としたらそう言うしかないだろう」
「ブラウス、縮んじゃったかしら。胸がきついわ」
「理砂子の胸がでかくなったんだ、ていうか胸のボタンを外すな!」
 美月と比べたら理砂子は遥かに理性的であり、まともな貞操観念を持っているはずなのだが、今の理砂子はどうやら許容量以上のアルコールを摂取して少々箍が外れているようだった。
 豊満な胸を強調するように祐麒に身を寄せており、祐麒の視線が泳いでいる。
「こら、二人とも祐麒から離れろ!」
「ダメ、祐麒くんを奪いたいなら、栄子も着替えてこないと」
「なに?」
「予備の制服が私の部屋に置いてあるから」
「そんなこと、出来るわけないだろうっ」
「だったら駄目よ。今日は制服Dayだから」
「だから、そういう風俗的なことを言うな」
「祐麒くんも、栄子ちゃんの制服姿、見たいわよね」
「え……そ、それは、見たいです、けれど」
「ほら」
「ゆ、祐麒、おまえ……」
 拳を握りしめて体を震わせる栄子。
 祐麒の左右両脇に座る美月と理砂子を見る。
 さすがに抱き着いたりはしていないが、距離はかなり近い。そして祐麒は顔を赤くして、話しかけてくる二人に応対している。
 祐麒の視線は、やや乱れたスカートから覗く美月の太もも、あるいはボタンが外され緩められた理砂子のブラウスの胸元に、ちらちらと向けられているのが分かる。
 二人に比べれば栄子の体の凹凸は少なく、男性の目から見て魅力に欠けることを栄子は自分で理解している。
 祐麒の気持ちを疑うつもりはないが、男というのは特定の女性がいても下半身は別物だとも聞く。悪ふざけとはいえ、目の前で見せられる光景に落ち着いていられるはずもない。
「ほら栄子、祐麒くんも見たいって言っているわよ?」
 意地悪そうな笑みを向けてくる美月。
 どうやらこの日の宅飲み、サプライズは、最初からコレを狙っていたようだと理解する。
 祐麒は聞いていなかったようだが、その表情、視線からは訴えてくるものを感じる。
「そ、そんな風俗みたいなこと……」
「風俗だったら、浮気にはならないわよね。どお祐麒くん、サービスしてあげるわよ?」
「――ちょ、ちょっと待っていろ!」
 栄子は思わず立ち上がっていた。

 そして。

「…………」
「わぁ、栄子ちゃん、かわいい~っ」
 理砂子が無邪気に手を叩いて喜んでいる。
 理砂子の部屋に用意されていた制服に着替えて栄子はリビングに戻ってきた。
「やっぱり栄子が一番似合うわよね」
「それはなんだ、皮肉か」
「若いってことじゃない。ねえ、祐麒くん?」
 栄子は祐麒のことをまともに見られなかった。
 三十も半ばを過ぎた良い歳をした女が、二十年も昔の高校の制服に身を包んでいるのだから。
「ほら、着替えてきたぞ、二人とも祐麒から離れろっ」
 美月と理砂子を祐麒から引き剥がす。
「……いい」
「ん、なんだ」
 何かを呟いた祐麒にちらりと目を向けると。
 祐麒は今まで以上に頬を赤くし、目を大きくして栄子を見ていた。
「あ、あまりジロジロ見るな」
「……栄子ちゃん」
「な、なんだ、って、おい?」
 いきなり立ち上がった祐麒が栄子の手を掴んで引っ張ってきた。
「ちょ、ちょ、祐麒、おいっ、こら??」
 あわあわとしている栄子を無視するようにして、祐麒は栄子の手を引いて部屋を出て行った。
 残された美月と理砂子は顔を見合わせる。
「……あれは祐麒くん、スイッチ入っちゃったわね」
「もしかして、これから?」
「あー、羨ましいっ!」
 栄子たちが消えていったドアを見つめて声を上げるのであった。

 一方、栄子は。
「おい祐麒、いい加減に手を離せ、ちょっと、痛い」
「あ、す、すみません」
 栄子に言われてようやく掴んでいた腕を離す祐麒。見てみると、祐麒に掴まれていた部分が少し赤くなっており、栄子は恨みがましい目を祐麒に向けた。
「まったく……なんなんだ、いきなり」
「えと、それは」
「それよりどんな罰ゲームだこれは、滅茶苦茶恥ずかしいぞ」
 言いながら栄子は祐麒に身を寄せて自分の体を隠すようにする。
 何せ、先ほど着替えた高校時代の制服姿で電車に乗り込んでいるのだから、周囲の視線が気になって仕方がない。
「ああ、ごめんなさい。でも大丈夫です、違和感ないですから」
「そんなわけないだろう、無理ありまくりだっ」
 と、栄子は小声で怒るという器用なことをしてみせる。
「とにかく、ちょっと、我慢できなくて」
「そ、そんなに、みっともないか?」
「逆です」
「ん? と……」
「ヤバいっす、栄子ちゃん」
「何がだ?」
 首を傾げる栄子だったが、その「ヤバい」の意味を知るのは自室に戻った後だった。

 

 翌日。
『栄子ちゃん、昨日はごめんなさい』
 理砂子に電話をかけると、理砂子がすぐさま謝ってきた。
「いやぁ、なかなか面白いものを見せてもらったわ」
『わ、忘れて欲しいわ』
「忘れるわけないだろう、ったく、美月にそそのかされたのか知らないが」
 苦々しげに呟く栄子。対して理砂子は申し訳なさそうな声をしている。昨夜の痴態を大いに反省しているのだろう。
「……でも、まあ、その、一応、礼は言っておく」
『礼?』
「いや、まあ……」
 昨夜のことを思い出す栄子。
 制服姿の栄子に対する祐麒は、一言でいえばまあ、凄かった。
 たまには良いかなと、栄子も思ったくらいに。
「それで、借りた制服だが、ちゃんとクリーニングに出して返すから、ちょっと待ってくれ」
『別にそこまで気にしなくていいわよ?』
「いや、そういうわけにもいかないだろう。その辺はちゃんとしないとな」
『……ああ、うん、あの、いいわよ、栄子ちゃんにあげるから、今後も役に立ててくれれば』
「や、ちょっと待て、変なことを想像していないか?」
『間違っていた?』
「…………間違っては、いないが」
 答えながら赤面する。
 はっきりいえば、ブラウスもスカートも人に見せられる状態になかった。というか、本来的にはクリーニングに出したとして、人に渡して良いものでもないだろう。
 それはそうだ、脱いでしまったら"制服プレイ"、"女子高校生プレイ"にならないのだから。
『遠慮しなくていいわよ?』
「いや遠慮とかじゃなく、ちゃんと自分のを用意するから」
『あ、なるほど……』
「……や、その」
『今度、詳しい事聞かせてくれるわよね?』
「…………はい……」
 電話を切る。
「……ああ、もうっ!」
 頭を抱える栄子だったが。

「……でも、凄かったし……」
 そう言いながら、次はどうしようか、なんて考えている自分に気が付き、一人で頭を抱えるのであった。

 

 

おしまい

 

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