マリア様がみてる 中・長編

【マリみてSS(由乃・志摩子)】おもいでが、いっぱい その1

更新日:

 

「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
 澄み切った青空に、乙女達の声がこだまする。
 その中に一人、細身の体に色白の肌、大きな瞳に茶色がかった長い髪の毛をお下げにした少女が、周りの少女達よりも幾分ゆっくりとしたペースで歩いている。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
 自分にかけられた挨拶に対して、少女はその儚げな外見に似合った、細い声で応える。
 スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻さないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。
 しかし彼女は、スカートのプリーツを乱したくても、セーラーカラーを翻したくても、出来なかった。
 たとえ遅刻しそうであっても、急ぐことも出来ない。そして遅れてきた彼女を、担任も厳しく責めたりはしない。
 華憐で儚げ、触れれば壊れてしまいそうな、守ってあげたくなる少女。

 それがその少女、島津由乃に与えられた代名詞だった。

 

~ おもいでが、いっぱい ~
その1

 

 志摩子と由乃が同じクラスになったのは、中学の何年生のときだったか。志摩子にとって、それはさほど記憶に残っているというものではなかった。由乃といえば、病弱ということは知っていたが、それ以外では、クラス内でもほとんど目立つことのない少女だった。
 それがいつの日だったか、ふと、彼女のことを意識したことがあった。

 それは本当に、何気なく彼女の姿が目に入っただけだった。
 島津由乃さん。
 クラスメイトの話によると、由乃さんは心臓に病気を患っているということだった。そう言われれば、体育はいつも見学だし、しばしば学校を休んだり、早退をしている。発作を起こしているところを見たことはないが、聞けば見ているほうが心臓に悪いくらい、とのことだった。

 なんでもない、いつもと変わらないお昼休み。志摩子は近くの席のクラスメイトとお弁当を食べた後だった。周囲では、教室内に残ってお弁当を食べていたクラスメイト達が、思い思いにお喋りの花を咲かせていた。
 こういうとき、志摩子は周りから振られない限り自分から話したりはしない。そもそも、同世代の女の子達が話すようなことに、志摩子は疎かった。
 流行のファッションのこと、昨夜見たドラマの話、好きなアーティストの歌、どれもこれも、志摩子には別世界の話のように聞こえた。それでも、みんなが楽しそうにお喋りしているのを聞いているのは、それほど嫌いではなかったし、優しいクラスメイト達は志摩子をなんとか仲間に入れようとして、志摩子に話を振ったりしていた。
 だけどその日は、なぜか由乃さんに目が行った。教室の一番右端の列で、一人静かに本を読んでいる由乃さんの姿が。
 はじめは本に集中しているのかと思ったが、しばらくすると、そうでもないことに気がついた。時々ちらちらと、視線を横に向ける。時には数秒間、どこかを見つめている。その視線の先を追ってみると、クラスメイト四、五人のグループが話をしていた。話題はどうやら、昨日放送していたドラマについてのようであった。志摩子は見ていなかったが、謎が謎を呼ぶストーリー展開と、実力派の揃った俳優陣で世間を賑わしているらしい。そのドラマについて、昨日の内容はどうだった、今後はどうなるのか、誰がキーパーソンだ、あの役者が素敵……等々で盛り上がっている。
 そして、そんな話の節々で、由乃さんがそのグループに気を取られるように目を向けるのだ。本に目を戻すが、話が盛り上がっているところで、またそちらに顔を少し向ける。そんなことを数回、繰り返した後、由乃さんはどこか少し諦めたような感じで一つ息をつくと、読書に意識を傾けた。それから後は、そのグループがどんなに騒いでも、目を向けることはなかった。
 なんとなくだが、志摩子は彼女の気持ちが分かったような気がした。
 由乃さんは、あの輪に入りたいのだ。
 だけど、入っていかれない。
 だから、入っていかない。
 志摩子も自らの立場や環境を考え、またそれ以上に生来の性格から積極的に友達を作ろうとすることは無く、それゆえに周囲から、見えない壁を作っているとか、距離を取っているとか言われたりすることがある。
 だけど由乃さんは志摩子と異なり、自ら壁を作り出している。それは恐らく、周りにいるクラスメイト達には気づかれていないであろう、ごく薄い壁。だけれども、決して破れることのない壁。
 由乃さんが話の輪に加わろうとすれば、彼女達は快く迎え入れてくれるだろう。だけど、どうしても彼女を気遣うような形になってしまう。それは優しさゆえだが、どこかよそよそしいものになるだろう。おそらく、志摩子が由乃さんと話すとしても、そうなるだろう。
 だけど、それこそをおそらく由乃さんは嫌がるのではないだろうか。友達のようでいて、どこか他人行儀の関係。由乃さんを興奮させるようなことは言えない。由乃さんもまた、そんな級友達に気を使う。自分のせいで、皆の雰囲気を壊したくない。だから、最初から壁を作り、距離を取って関わらないようにする。
 志摩子の勝手な推測ではあるが、それほど外れてはいないのではないか。

 同じようなことは、志摩子もよく思うことだったから。

 

その2へつづく


 

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