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ノーマルCP マリア様がみてる 可南子

【マリみてSS(可南子×祐麒)】祭りのアト <可南子編>

更新日:

~ 祭りのアト <可南子編> ~

 

 例え夜になって日が落ちたとて、真夏は真夏であり、蒸し暑さが解消されるというわけではない。ギラギラと焼き殺さんばかりの太陽が顔を隠しただけマシだが、周囲は徐々に暗くなってきているのに日中とあまり変わらない暑さを感じるので、それはそれで非常に不快な気分になる。
 しかし、これから先のことを考えると、祐麒の気持ちは浮かれてくる。
 今日は夏祭りである。
 結構大きな祭りで、夜店は多く賑やかで、花火も打ち上がるということで人出も多い。もちろん祐麒は、ごく普通に夏祭りが楽しみだというのもあったが、今年の場合は追加要素が非常に大きい。
 何せ女の子と、それも祐巳ではない女の子と一緒に遊びに行くことになっているのだから、テンションだって上がろうかというもの。
 浮かれ気分で自転車を飛ばし、目的地である可南子の住むアパートの前へと到着する。夏祭りの場所へ向かうのに、ちょうど、可南子の家が途中なので待ち合わせ兼、迎えに来たわけである。
 前回のプールの時に約束し、今日までにもバスケの練習の時や、メールでも念押ししているが、ちゃんと浴衣を着てくれているだろうかと期待する。バスケの時は露骨に面倒くさそうな顔をするし、メールの返信でも嫌そうな雰囲気を滲ませているので不安もあるが、きっと大丈夫だと思うことにした。
 細身で長身で綺麗な長い黒髪を持つ可南子は、きっと物凄く浴衣姿が似合うだろうと、何度も想像したが、現実の姿がようやく拝めるのだ。
 自転車を停め、可南子の家のドアの前に立ち、一呼吸置いてから呼び鈴を押す。
「……はーい」
「あの、福沢です」
「はいはい、ちょっと待ってね」
 可南子の母親である美月の声に続いて、扉が開かれる。
「いらっしゃい、もうすぐ可南子、着替え終わるから上がって待っていてくれる?」
 お辞儀をして、室内に上がらせてもらう。
 居間に腰を下ろすと、麦茶を出された。暑くて汗もかいていたので、ありがたくいただくことにする。
「ふふ、期待して待っていてね」
 軽くウィンクして、美月は隣の部屋に消えて行った。
 話しぶりからして、当然、浴衣に着替えているのであろう。でなければ、美月が一緒にいる意味がない。
 期待に胸を膨らませながら待つこと数分、正直、隣の部屋から聞こえてくる衣擦れの音や、母娘の会話にドキドキして仕方なかった。
「ほら可南子、恥ずかしがってないで、早くユウキ君にみせてあげなさいよ」
「別に、そんなんじゃないし」
「じゃあ、はい、お待たせしましたー」
 扉を開いてまず姿を見せたのは、美月。そして続いて登場した可南子。
 白にごくわずかにピンクを混ぜたような優しい色合いの布地に、麻の葉柄をあしらった少しレトロなデザイン。ピンクや薄い紫を基調とした柄の中、白や水色の花が咲き、さらにところどころゴールドが入って華やかさを見せている。
 黒髪はアップにされているが、それも随分と凝っているように見える。両サイドは三つ編みに編み込まれ、その編み込み部分はアップにした部分にねじ込まれている。前髪は左から右に向かってまとめられ、耳下の髪は軽くウェイブをえがいて細く垂れている。
 正直、想像なんかしていたのが失礼だと思うほど、綺麗だった。
「な……何よ、何か言いなさいよ。どうせ、私みたいな無駄にデカい女、似合わないとか思っているんでしょう」
 声もなく見上げているだけの祐麒を見て、可南子は苛立ったように口を開いた。
「いや……すげー、綺麗で見惚れてた。ごめん」
「は、はぁっ!? 何、お世辞なんて似合ってないし」
「お世辞じゃないって、ホント、凄い似合ってる」
「良かったじゃない、可南子。張り切って美容院に行った甲斐があるわね~」
「ちょっ、お母さん!」
 美月に茶々を入れられてムキになる可南子。
 今日も午前中はバスケの練習をしていたから、午後から行ったということだろうか。確かに、かなり手の込んだヘアスタイルになっている。
「さてさて、可南子がせっかく浴衣で決め込んでいるのに、ユウキ君がそんな格好というのは、どうなのかしら?」
 美月の目が、祐麒に注がれる。祐麒はといえば、ごく普通にシャツにジーンズという格好である。
「ふっふっふ、私に任せておいて。さぁユウキくん、覚悟なさい」
「え、ちょっと、ええ!?」

 

「はい、お待たせ、どうかしら可南子? 格好いいでしょう」
 可南子の前に立たされた祐麒もまた、浴衣姿になっていた。綿麻素材の藍色の亀甲絣織り縞柄は、シンプルながらも洒落ている。
「別に」
 素っ気ない反応の可南子。
「またまた、ユウキくん聞いて、この子ったらこの前一緒に買い物に行ったとき、散々に悩んでこの浴衣セットを選んでいたのよ~、可愛いでしょう?」
「お母さん、でまかせばかり言わないで! これは家にあったお古でしょう!?」
「まあ、そうなんだけどね。別れた旦那のなんて嫌かもしれないけれど、寝かせておくだけなのも勿体ないし、せっかくだから貰ってちょうだいよ」
「はあ、しかし……」
 何といったら良い物か、非常に困る。離婚して家を出て行った父親の浴衣など着られて、可南子は嫌な気分にならないだろうか。祐麒のせいでないとはいえ、不安になる。ちらりと、可南子の様子を窺うと。
「……別に、浴衣に罪はないし」
 一応、了承は得られたようだった。
「さ、それじゃ、そろそろ行ってきたら?」
 浴衣姿で並ぶ二人を満足そうに見て、美月が言う。
 そこで祐麒は――

 

A.そのまま可南子とともに祭りに向かった

 

「それでは、行ってきます」
 美月に頭を下げると、近寄ってきた美月が耳元で囁くように言った。
「……ちなみに可南子、一応一人でも着付けできるから、乱れても脱がせても大丈夫だから、その辺気にしないでいいからね」
「なっ……ちょっ!?」
 体が熱くなる。
 顔を上げると、サムズアップしている美月。
「何しているの、ほら、置いていくわよ」
 一人、さっさと玄関で下駄を履いている可南子が、訝しげな目を向けてくる。祐麒も慌てて追いかけて用意されていた下駄を履き、玄関から外に出る。待っていてくれた可南子と並んで歩き、祭り会場を目指す。
 横目で可南子を見るが、やはり非常に浴衣が似合っていて綺麗だった。普段はバスケの練習で、動きやすく夏らしいラフな格好で汗を流している姿ばかり目にしていたので、こうした浴衣で髪の毛も綺麗にまとめている可南子は、とても新鮮だった。
 惜しむらくは、可南子の方が圧倒的に背が高く、並んで歩いていて祐麒の方が見栄えがしないことだが、こればかりはどうしようもなかった。
「まったく、せっかくのお祭りなのに、なんでユウキと一緒なのかしら」
「まあまあ、約束なんだから守ってもらわないと」
「約束なんてしていないでしょう」
 適当に憎まれ口をたたきあいながら、お祭りの会場を目指していく。バスケ以外で可南子とこうしてともに行動することは多くなく、この前のプールデートが初めてなぐらいである。こうして、今後もっと色んな所に二人で遊びに行けたらいいなと考え、既に自分が可南子に対して一般的な好意以上のものを抱いていることに、改めて気が付く。
「……まだ、ちょっと時間早いのかしら」
「ん? ああ、そうなのかな」
 祭り会場に到着したが、思っていたほど人の数は多くない。可南子の言うとおり、少し時間が早かったようで、盛り上がってくるのはこれからだろう。
「ちょうどいいわ、空いているうちに屋台でも見て回りましょう」
 意外なことに、積極性を見せる可南子。なんだかんだといって楽しそうに見えるし、お祭り好きなのかもしれない。
「あ、じゃあ勝負しよう」
 可南子がそういったのは、射的の屋台の前だった。
 根っからのスポーツ少女体質なのか、祭りでも可南子は勝負を吹っかけてきた。もちろん祐麒としては、受けて立つ以外に選択などない。先に屋台のおっさんに金を払って銃を受け取り、景品を見定める。
「そうねぇ、落ちそうなのを狙ってもつまらないし、アレを狙ってちょうだい」
 そう言って可南子が指定したのは、ペンギンの泥人形だった。可愛いといえなくもない微妙なフォルムだが、小さくて難易度は高そうだった。
「……もしかして可南子ちゃん、欲しいの?」
「は? そんなんじゃないわよ、別に。それよりさっさと撃ちなさいよ」
 これは欲しいんだろうなぁと思い、少しばかり気合いを入れて狙い撃ち。
 しかし。
「うわ、だっさ~」
 見事に全弾、外れ。
 この手の屋台の銃として仕方ないが、思った方向とずれて飛んでいくコルクの弾に手こずり、いいところを見せることも出来なかった。せめて、同じ方向にずれてくれればまだ修正の余地があるのだが、どの方向にずれるかもランダムではどうしようもない。
 頭をかく祐麒をよそに、可南子が屋台のおっさんから新たな銃を受け取る。
「情けないわねー、まあ、見ていなさいよ」
 銃に弾を込めながら、可南子は得意げな顔を見せる。もしかして、得意なのだろうか。
「こういうのはね、こうして……」
 言いながら可南子は、景品が並ぶ棚との間に置かれている台に身を乗り出すようにして体を伸ばし、銃を景品に向ける。長身と長い手を生かした、ダイナミックながらもせこいやり方だ。
 そこまでムキになってまで欲しいのか、いや勝ちたいのかと苦笑しながら見ていた祐麒だが、気が付いてしまった。
 お尻を突き出すような格好になっている可南子だが、思い切り体を伸ばしているせいか浴衣はぴっちりとお尻に張り付くような形になっており、そのため、パンツのラインが浮かび上がって見えていた。浴衣の生地も白を基調としているので、見えやすい。
 祭りの方も徐々に人が増え、周囲に男だって何人もいて、誰に気付かれないとも限らない。そんな、可南子のパンティラインを他人に見せるわけになどいかないと、祐麒は咄嗟に動いて周囲の視線から隠す世に可南子の背後に立って腰を掴んだ。
「きゃっ!? ちょっと、何するのよっ」
 驚いた可南子が、首を曲げて祐麒の方を見る。
「あ、いや、体を押さえていてあげようと思って」
「……ふぅん。ま、いいけど、それならしっかり押さえていてよね。あ、あと変なところ触ったら殺すから」
「わ、わかっているよ」
 可南子は射的の方に集中しているのか、それ以上は言わずに景品の方に向き直って再び銃を構えた。
「兄ちゃん……その手つき、腰つき。相当やり込んでいるねぇ?」
 不意に、射的屋のおっさんがニヤニヤとしながら声をかけてきた。何を言っているんだと思い、ふと我に返ってみて気が付いた。
 今の祐麒は、台の上に腹這いのような格好になってお尻を突き出している可南子を、背後から腰を掴んで可南子のお尻と密着するように立っているわけで、それ即ち、なんというかまずいのではないだろうか、体位的に。
「あぁン!」
 すると、いきなり可南子から色っぽい喘ぎ声が聞こえてきてびっくりする。
「外れた、惜しいっ!」
 別に喘ぎ声ではなく、単に悔し声をあげただけらしい。
「もう少し前に……ちょっと祐麒、しっかり押さえていてよ!?」
「わ、ちょっと、可南子ちゃんっ」
 更に身を乗り出す可南子。必然的に、可南子の体が倒れないように強く押さえる必要があり、可南子のお尻との密着度が上がる。
「くっ……また駄目、次っ」
「か、可南子ちゃん、暴れないで」
「仕方ないでしょう、我慢しなさい、男でしょう」
 男だからまずいのだ。可南子が体を揺すり、お尻を振るたびに、下半身が危険な状態になっていくのだ。
「おう……お嬢ちゃんもいい腰つきしているね、自らそんなに動くとは、好き者かい?」
 やらしいことを言うおっさんをどうにかしたかったが、手を離すわけにもいかず、早く終わってくれと願うしかない。心なしか、周囲の客の視線も、好奇とエロさが入りまじっているように感じる。
「か、可南子ちゃん、まだ? 俺、その、そろそろヤバいかも」
 色々な意味で。
「も、もうちょっと待って、あと少し……んっ」
 何とも微妙な台詞を、微妙に色っぽい息遣いで言う可南子。
 ああもう、勘弁してくれと心の中で泣きそうになる。
「――――っ、やった!」
 可南子の、そんな喜びの声が響いてきた。
 見ると、景品の置かれている棚から例のペンギンが消えていた。可南子の執念により、見事に落とすことに成功したようだ。
「ほーら、みなさい、私の勝ちね」
 得意げな顔を見せつけてくる可南子。
「あぁ、うん、参りました」
「ほらよ兄ちゃん、持ってきな」
 頷くしかない祐麒に、おっさんが景品を手渡してくれた。ついでに肩に手を置き、耳元で告げてきた。
「……今夜は兄ちゃんの銃で彼女を打ち抜いて百発百中か? おっと、的中させちまうにはまだ若いか?」
 下品な冗談に、祐麒はため息をつくしかなかった。
 射的の屋台を離れて、また適当にぶらつきながら見て回り、りんご飴、たこ焼きを購入して食べ歩き、一つの屋台の前で立ち止まる。
「そういえば、ご馳走する約束していたね」
 それは、チョコバナナの屋台だった。
 ノーマルな茶色のチョコレートからホワイトチョコレート、ピンクや水色など色付チョコレートを使用されたものまであり、非常にカラフルだ。ナッツやチョコチップなどもトッピングされていて、子供に人気があるのも頷ける。
 可南子はノーマルなタイプを選択し、祐麒がお金を払う。
「ユウキは食べないの?」
「あ、うん、俺は他に食べたいものがあるから、可南子ちゃんは遠慮せずにどうぞ」
「ふーん。それじゃあ、いただきます」
 可南子は嬉々としてチョコバナナに向けてその小さな口を開いた。
 屋台の灯りを浴びて黒光りするチョコバナナに、可南子の小さく可憐な唇が接近する。薄くリップのひかれた唇はどこか艶めかしく、そっと口づけするかのように先端を口に含む。"ちゅっ"という音が、聞こえたような気がした。
 一気に齧るのではなく、味を楽しむタイプのようだった。小さな口からピンク色の舌を出し、チョコバナナのトッピングとして付着している生クリームをぺろりと舐めとる。
「ん~~、美味しい~」
 幸せそうな表情をする可南子。
 更に舌でコーティングされたチョコレートをぴちゃぴちゃと舐め、やがて今度は少し大胆に口の中にバナナを含む。
「んっ……」
 落ちかかってくる髪の毛を、空いている方の手で掬い上げる。
 口からゆっくりと引き抜かれるバナナ。可南子が口に含んだ部分までが、ぬらりと濡れて光って見えるのは、可南子の唾液がまぶされているからか。
 バナナの先端は齧られたのか、欠けてなくなっていた。可南子は口の中のバナナを咀嚼し、唇についた生クリームを舌で舐めとり、さらに零れ落ちかけたクリームを人差し指で拭うと、指にくっついた白いのをついばむようにして口に含む。
「ん、勿体ない……」
 最初の一口を飲み込んだ可南子は、もう一度バナナにかぶりつく。先端がなくなっているため、今度は更にバナナの根元に近い部分まで咥え込む形になる。
 と、祭りで混雑している中、誰かにぶつかられたのか可南子のバランスが崩れ、口にしていたバナナが口の奥まで一気に押し込まれた。バナナを持つ割り箸の近くまで、可南子の口の中に入った。
「んんっ……!! ん、けほっ、はっ……やだ、もう……喉に……」
 慌ててバナナを引き抜き、咳き込む可南子。
 口元を拭いながら、ふと可南子の視線は下を向いた。
 そこには蹲っている祐麒がいた。
「……どうしたの? お腹でも痛いの?」
「い……いや……その、予想を遥かに上回っていて……」
「???」
 祐麒の言っていることの意味が分からず、首を傾げる可南子だが、その顔のすぐ脇に可南子の唾液に濡れたチョコバナナがあるので、それでまたも祐麒は体を縮こまらせる。
「よく、分からないけれど、具合が悪いならさっさと移動しましょうか……」
 そう言うと可南子は、急ぐためにか、先ほどまでゆっくりと食べていたチョコバナナに向けて口を開くと、思い切りよく噛みついて半分近くを齧り取った。
「っっ!!!!!!」
 その瞬間を見て祐麒は、声にならない悲鳴を上げるのであった……

 

 適当に食べたり、屋台で遊んだりしながら祭りを楽しんで、そろそろ花火の時間が近づいてきたので見やすい場所へと移動し始める。花火を見るために広場のような場所があるのだが、考えることはみんな同じで、人の流れが広場の方へと向かって行く。かなりの人数で、広場に到着したらぎゅうぎゅうで身動きが取れなくなるのでは、と思うくらいだ。
「これ、ちょっと人多すぎない?」
「仕方ないじゃん、そういっても」
「私、こんな人ごみの中、嫌。少し人の少ない方に行きましょうよ」
「え、でもそれじゃあ花火が……って、ちょっと、可南子ちゃん」
 祐麒の返事も聞かず、可南子は人の流れを無視するようにして脇へと外れていくので、仕方なく祐麒はその後を追いかける。
 祭り会場から外れたその場所は、祭りの灯りこそさし込むものの薄暗く、人気の感じられない林のような場所。可南子は祐麒に背を向けたままで立ち止まった。
「……あぁもう、人ごみのせいで浴衣、ちょっと崩れちゃった。直すから、少し待ってて」
 どうやら、人ごみから抜け出した本当の理由はこちらのようだ。見た感じ、崩れたようには感じられなかったが、可南子が言うからそうなのであろう。着崩れた浴衣の可南子というのも、色っぽくていいよなぁと妄想しながら待つ。
「…………」
 見たい気持ちはあるが、そこはさすがに紳士として抑制する。
「………………っ、きゃ、きゃあああっ!?」
「な、何っ、どうしかしたっ!?」
 いきなりの悲鳴に慌てて振り返る。
「な、なんか、虫、虫みたいなのが入ってきた!!」
 今いる場所は林のような場所で、夏ともあれば虫くらいいくらでもいるであろう。
「ゆ、ゆゆっ、ユウキなんとかして、と、取って!」
「え、でも、その、取るとなると浴衣の中に……」
「見ずに、触らずに取れっ!」
「んなの、無理に決まっているじゃん!」
 パニックになっているのか、無茶苦茶なことを口にする可南子。
「わ、分かった、触ってもいいから、早くなんとかしてっ!」
「え、ほ、本当に?」
「いいから、早くっ!」
 可南子はぎゅっと目を瞑って顔を横に背け、上半身を祐麒に突き出すようにしてきた。既に浴衣の前が少しはだけており、スポーツブラが覗いて見える。
 祐麒はゴクリと唾をのみ込むと、ゆっくりと手を浴衣の中に差し入れ、そのまま両手で可南子の胸を包み込んだ。スポーツブラ越しとはいえ、柔らかくしっとりと吸い付いてくるような感触は、やみつきになりそうだった。
「んっ……ふぅっ……」
 悩ましげな息を漏らす可南子。
 決して大きくはないが、小さすぎもしない可南子のバストは、祐麒の手の中で踊るように形を変える。初めて触れる女の子の胸に、祐麒の興奮はいやがうえにも高まっていく。
「ね、ねぇ……ま、まだ、見つからないの?」
「えっ!? あ、ああ、ちょ、ちょっと待ってくれ、暗くてよく見えないからさっ」
 可南子の言葉を聞いて、我に返った。虫を探すはずが、完全に邪な方向にはしっていた自分自身に反省する。幸い、可南子は胸を揉まれていたことも気にならないほど、虫の方にばかり意識がいっているようだった。
 よく見えないので、可南子には悪いがもう少し浴衣の前を開けさせてもらうことにした。月明かりに浮かび上がる、少し汗ばんだ肌とピンク色のスポーツブラ。そのブラに包まれた胸の盛り上がり部分に、黒い塊が止まっていた。
「こいつか……」
「痛っ……」
 つまんで、遠くに投げ捨てる。
「と、取れた?」
「ああ、うん…………って、う、わ」
「え、何よ、どうしたって……!?」
 可南子も祐麒も、声をなくす。
 虫を探すために浴衣を捲ったわけだが、それまでに着崩れていた浴衣は更に乱れ、帯は緩くなって落ちかけ、開いてしまった浴衣からは可南子の細く引き締まった太腿が外に出て、ちらちらとパンツが見えそうになっていた。
「ゆ、ユウキ~……」
「いやっ、これは不可抗力だから! わざとじゃないし!」
「問答無用、言い訳無用! この、エロ魔人ーーーー!!!」
「はぐぅっ!!!」
 可南子の綺麗なおみ足が、見事に祐麒の股間に突き刺さった。

 

 結局、花火はろくに見ることが出来ずに帰ることとなった。
「ユウキがいつまでも大げさに悶絶しているからよ」
「おおげさじゃない! 本当に辛いんだからな男は!」
「知りません」
 ぷいと横を向いて口を尖らす可南子。その浴衣は、随分と乱れてしまっている。
「……可南子ちゃん、着付けできるんじゃなかったの?」
「は? そんなこと言った覚えないけれど。出来ないわよ、一人でなんて。あぁもう、早く帰らないと」
 崩れてしまった浴衣を手でおさえながら歩き、文句をぶつぶつと垂れる可南子。美月の言っていたことは、完全に祐麒ののせるための嘘だったようで、今の可南子の状態を見たらどんな風に思われるか、想像するだけで憂鬱になる。

「――あらあら、随分と乱れちゃって、どうしたの一体?」
 案の定、帰るなりやたらと嬉しそうな美月がそう問いかけてきた。
「人ごみで崩れちゃって……もうサイアクよ」
「へえ、人ごみで……ねぇ」
 ちらりと、美月が祐麒に視線を向けてくるので、慌てて首を振ってみせる。美月はそのまま可南子の浴衣に目を落とす。
「……あら、なんだかここ、汚れているけれど。少しべとべとしているような」
「え? やだ、口から溢れた奴が、垂れてついちゃったのかしら」
 浴衣の胸のあたりを指差す美月に対し、可南子が答える。おそらく、チョコバナナのときにの生クリームか何かだと思われる。
「あと、お尻の方もなんか」
「ホント? なすりつけられたのかも」
 しゃがみこんで後ろを見る美月に、またも応じる可南子。人ごみに紛れた際に、他の人が持っていた食べ物か何かが付着してしまったのだろう。
「やだ可南子、胸のところ、赤くなっているけど」
「嘘、痕になっちゃってる? 噛まれたみたいで……ユウキがさっさとすまさないから」
「なるほど、ユウキくんがね……なんだ可南子、あんたもヤルことはヤルんだね。まー確かに、祭りで浴衣で野外でってのはお約束だからね、ユウキくん、可愛い顔して君もヤルもんね」
 可南子の胸の、虫に噛まれて赤くなった箇所を見て、ほくそ笑む美月。
「美月さん、絶対に今、見当違いの勘違いしていますから!! ……って、痛タタ」
 声を上げたが、可南子の強烈な膝蹴りによってダメージを受けた股間がまた痛みだし、思わず前かがみになってしまう。
 すると、それを見て美月がほんのりと赤くなる。
「……やだ、そんな痛くなるくらい出したの? 若いわねぇ」
「いや、そうじゃなくて、これは可南子ちゃんに」
「何よ、人のせいにする気? 男らしくないわね」
「あーもーっ、いいからその辺で。おばさん、羨ましくなっちゃうからやめて。可南子、若いから仕方ないけれど、あんまり羽目外しすぎないようにね」
「???」
 首を傾げる可南子。
 今更、説明するのも面倒くさいし、美月に認められていること自体は嬉しいことでもあるので何も言わないが。
「――ねえユウキ、うちのお母さん、何を言っていたのか分かる?」
「頼むから俺に説明を求めないでくださいっ!」
「はぁ? 何よソレ、ちょっと、教えなさいよー!」
 にやにやと笑って見ている美月。
 微妙に着崩れた浴衣姿のままで迫ってくる可南子に、思わず圧倒されて後ろ手をつく。
「だから、そういうのがいけないんだってば、可南子ちゃんはっ!」
「なっ、何よ、私の何がいけないっていうのよー!?」
 目を吊り上げながら迫ってくる可南子。
 と、乱れた浴衣の裾を踏んづけてしまい、ずるりと浴衣がはだけてしまった。
「ちょっ、な、なっ、何するのよっ!?」
「うぇ、お、俺ぇっ!?」
 容赦ない平手が炸裂する。
「傍から見たら、可南子が積極的に跨って迫っているようにしか見えないけれどねぇ」
「もーっ、ユウキ、サイテー!!」
 可南子の叫びを耳にし、可南子のパウンド攻撃をくらいながらも、どこか幸せを感じている祐麒なのであった。

 

おしまい

 

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