書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

ノーマルCP マリア様がみてる 克美

【マリみてSS(克美×祐麒)】きっとそうだから

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~ きっとそうだから ~

 

 

 このところ毎週たてつづけに祐麒と休日を過ごしていた。断ればいいのかもしれないが、予定があるのかと聞かれると、実際のところ特に決まった予定があるわけではないし、一緒に行くのが嫌なのかと問われると、別に嫌というほどのことではない。だからつい、断る理由も見つからなくて許諾をしてしまうのだ。
 まあ、一緒にどこかに出かけるのは百歩譲ってよしとしよう。問題は、そのときの克美の格好である。
 さすがに二度目のとき、なんでまた自分はミニスカートなど履いてしまったのか、後で疑問を抱いたのだが時既に遅く。二回目以降はどうにか拒否をしているのだが、それでも短めのスカートをチョイスしているのは、克美自身ではなく妹の笙子が関わっているからである。
 ミニはもういいと言っているのに、勝手に選んでくるのは、最初の二回に連続して貸して欲しいと頼んでしまったからだろう。
 断りたいところではあるが、自分から借りたいと頼んでいる身とあっては、なかなか断りづらいところである。
 ということで、今日、笙子がチョイスしたコーディネートはといえば、オフホワイトのタートルネックカットソーの上に、花の刺繍があしらわれた飾りボタンのついたニットカーディガン。ピンクを基調にしたチェック柄のフレアスカートは、ウエストの無地の部分が全体を引き締めている感じ。これにアイボリーのブーツをあわせていけというのが、笙子セレクト。淡く明るい色調で、春らしさが出ていて可愛いよ、とのこと。
 高校時代まで、あまりファッションには興味を持っていなかったので、言われてみれば確かに可愛いかな、とは思うけれど、自分に似合うかとなると全く自信がない。こういう服は、笙子みたいな女の子が着てこそ、可愛く見えるものではないだろうか。
 そうだと思いながらも、結局のところ着てしまうのは、思いのほかの笙子の押しの強さ。どうにか言い訳をして、もっと地味な格好にしようとするのだが、どうしても笙子が折れないのだ。
 最終的には克美の方が折れて、妹の用意してくれた服に袖を通して出かけることになる。
「お姉ちゃん、お化粧とか、髪型とかも綺麗にしていった方がいいんじゃないの?」
「そんなことしないでいいのよ」
「でも、せっかくのデートなんだし、綺麗にしていった方が相手の人も喜ぶと思うよ?」
「だから、そういうのではないし」
 何度言ったところで、笙子は全くわかろうとしない。それどころか、「大丈夫、すべて分かっているから。私はお姉ちゃんの味方だから任せて!」なんて、意味不明なことを言い出す始末。
 これ以上言い合うのも不毛だし、疲れるだけだしと割り切って、克美は諦めた。これが勉強なんかのことであれば、いくらでも反論することができるのだが。
「ほらほらお姉ちゃん、せっかくのデートなんだから、そんな暗い顔していないで。いってらっしゃーい、帰ったらまた話、聞かせてね」
 笙子の声を背に受けて、家を出る。
 こうやって出かける度に、帰宅するとその日の出来事を聞かせろとせがまれるので、これまた面倒なのだが、放っておいても、いつまでも言い続けるし、服を貸してあげたじゃないと言われると無下に断るわけにもいかず、仕方なくかいつまんで話して聞かせるのだ。
 一体、何が面白いのか分からない。
「……と、いけない。待ち合わせに遅れちゃう」
 腕時計で時間を確かめ、少し足をはやめる。
 なんだかんだ言っても、約束は約束。時間に遅れるなんてことは、したくない。
 生真面目さを忘れることなく、克美は目的地に向けて足を動かすのであった。

 

 

 このところ、毎週のように克美を誘っている。この気持ちが本当の恋なのかどうかというのはまだ確信がなかったが、克美に徐々に惹かれていることだけは確かだった。
 だから、こうして家庭教師以外の日にも会うようにして、克美の色々な面を見つけたいと思っている。
 不思議だった。
 祐麒が好きなタイプは、明るくて優しい子という、まあ、よくありがちだけれど具体的イメージの分かりづらいものだった。照らし合わせてみて、克美は明るいとは言えないし、優しくないとは言わないが、とっつきにくいところがあるのは確か。
 それでも、気になるのだ。
 いつも真面目な顔して、あまり表情も崩さず、流行なんかにも殆ど興味がないらしく、会話だってどこかズレているし、化粧っ気はないし、髪型だっていつも無頓着な感じだし。
 だけど。
「お待たせ、福沢君」
 振り向けば、言ったとおりに化粧っ気のない顔に黒ぶち眼鏡、無造作に結んだだけの髪の毛、抑揚のない口調にクールともとれる怜悧な表情。
 だけど服装は、家庭教師のときとは違って随分と可愛らしい。
「いえ、そんな待ってませんから。その服、いいですね、春らしくて」
「そ、そう?」
 祐麒が褒めると、ほんのわずかにだけ、注意してみないと分からないくらいだけれど、頬を赤くして視線をそらす。
 これである。
 この反応が、なんともいえず祐麒の琴線に触れるのだ。
 おそらく本人に言ったら怒るだろうし、帰ってしまうかもしれないから口には出さないが、可愛いのだ。
 普段の克美は、とにかく真面目で武骨な印象であるが、二人で外出の時は可愛らしい服装をする。それは、祐麒の方から仕掛けた、ちょっとしたことがきっかけで着てくれるようになったわけだが、この普段とのギャップが良いのだ。
 そして、服装とは対照的に首から上は今までと同じ、無造作な感じで、それがまたなぜか良いというか、アンバランスさが可愛いというか。あるいは、これでメイクや髪型まできちんとしたら、他の人の目にも沢山とどまってしまうのでは、という独占欲があるのかもしれない。
「それじゃ、行きましょうか」
「ええ。今日は、博物館だったわね」
「はい」
 二人並んで歩きだす。
 デートは嬉しいが、ほんの少しだけれども、不満がないわけではない。
 そう、デートと言いつつも、初回の映画を除けば、遊ぶようなスポットには行ったことがないのだ。
 今日の博物館もそうだが、その前の美術館、図書館、国立公園と、公園はまだしも真面目な場所ばかり。決してそれがつまらないとか、嫌だとかいうわけではないし、克美に合うとも思うのだが、時には遊園地なり、娯楽施設なりに行って楽しんでみたいとも思ってしまうのである。
 まあ、それらの場所に誘って克美が素直に首を縦に振るとも思えないので、まずは一緒に出かけることが優先と考える。それに、この前の美術館もそうだったが、克美から色々なことを教えてもらうこと自体は楽しかった。
 単に数学や英語といったことだけでなく、美術であったり、音楽であったり、その他の知識についても克美は豊富だった。
「別に、好きだったわけじゃないけれど、必要だと思ったから覚えただけ……ある人に負けたくない、って思っていたのもあるけれど」
 克美は自身の知識について、そう語った。
 好きだったわけではない、とは言っていたが、祐麒に教えるときの克美は結構、楽しんでいるようにも見えた。あまり表情などは変わらないが、ここ数カ月で微妙な変化を感じ取れるようになっていたのだ。そして分かったことは、どうも克美は、教えることそのものが好きなのではないか、ということ。
 なので、博物館とかそういう場所に行けば克美が色々と教えてくれるわけだし、克美も勉強の一環と感じて外出にも比較的素直に応じてくれて、且つ楽しんでくれてもいるようで、結局のところ現時点ではベストチョイスになるわけだった。
「――なんだ、今のところ不満なんかないのか」
「ん? 何が?」
「いえ、なんでもないです」
 思わず口に出てしまったようで、取り繕うように笑ってみせる。
 どうやら、こうして一緒にいるだけでもかなり満足している自分に改めて気がつき、遊園地などは今後の楽しみにとっておけばいいかと一人、納得するのであった。

 

 科学博物館に到着すると、その広さと思いの他の人の多さに、少し驚く。博物館なんて、小学生の頃に学校の行事か何かで行って以来で、しかも、その時のことなどあまり覚えていない。
「うわ、これ、けっこう凄いですね。面白そう」
「どこから見ていく?」
 案内板を前に相談して、まずは『地球館』から見ていくことに決める。
 生物の進化ということで、恐竜をはじめとするさまざまな生物についての展示がされていたり、あるいは科学技術の発展についての展示や実験の場があったり、さらには宇宙に関する物理法則について紹介されていたりと、幅広く展示が行われている。
 これは、かなり克美の教え欲を刺激するだろうと思い、祐麒自身もそんな克美を見たいと思い、率先して質問をするようにした。
「どうして、生物はこういう進化の道を辿ったんでしょうね。考えると不思議ですよね」
「そうね。でも、今考えれば、なるべくしてなった部分も多々あるはずよ。知っているとは思うけれど、いかにして環境に適するか、環境に適合するべく生物は進化してきた。滅びた生物は滅びるべくして滅び、生き残った生物は生き残るべくして生き残ったのよ」
「この骨格とかも、その時代、環境にあってこそのものだったんでしょうね」
「ええ、今見れば変でも、意味があった。意味があったと考えた方が、楽しい」
「そっか。人間も、この先は変わらないと思っていたけど、こうして歴史を見てみれば今の人の姿なんてごく短い期間のことだし、この先どうなるか分かんないんですね。宇宙とか行ったら、宇宙に適した形に進化していくのかな」
「そうかもしれないわね」
 楽しかった。
 話していることは一般論を出るものではないだろうけど、それでも考えて、想像して、想いを馳せて、話をすることは楽しかった。それとも、相手が克美だから楽しいと感じられるのだろうか。
 人類の歩み、生物の歩み、科学の発展、展示を通して追いかけてみれば、改めて生物の凄さというものを感じ受ける。今まで、ほとんど考えたことなんかないのに、克美と出会ったことによって、気づく機会を得ることができた。
 ほんのちょっとしたことで、人の気持ちや考えというものは影響を受けるものだと、改めて感じる。
「そのうち、人の気持ちや感情なんてのも、時代にあわせて進化するんですかね」
「――え? ふーん、祐麒って、面白いこと考えるのね」
 何気なく口にしただけなのだが、思いのほか克美が反応してきた。顎にほっそりとした指をあてて、考える仕種をする。
「気持ちや感情の進化、か」
「あ、いや、なんか深い意味はなくて。でも、むしろ、複雑な感情に支配されて、シンプルな気持ちを逆に出せなくなっているかも」
「シンプルな気持ちって?」
 顔だけを祐麒の方に向け、眼鏡の下から真剣な眼差しを送ってくる克美を見て、祐麒の心臓が一つ大きく跳ねる。
「それは、その……」
 思いがけない動揺がおとずれて、しどろもどろになる。そんな祐麒を救ったのは、祐麒自身の腹の音だった。
 結構な音が響き、克美が相好を崩す。
「ふふ、とりあえずは、『お腹が空いた』とか?」
「そうですね、ははっ」
 祐麒も笑って誤魔化す。顔が赤くなっているかもしれないが、腹が鳴ったことを恥じていると思ってくれるだろう。
 シンプルな気持ち、それは、『好き』だという気持ちを連想した。そして自然と、祐麒自身が克美のことを『好き』なのではないかと思い、克美と二人でデートしている現実が急速に迫ってきて動揺してしまった。
 克美と二人で出掛けている時点で、嫌いだなんてことはあり得ない。では、恋愛対象として好きになっているのか。
 複雑になりすぎて退化してしまったのか、祐麒には判断がつかないのであった。

 

 館内のレストランで食事を摂り、引き続き色々と見て回る。じっくり見ていっても飽きることなく、むしろ時間が足りなく思えてくる。
 映像施設で、地球内部に入り込んでいく映像を鑑賞し、特別展示されていたインカ帝国のルーツに圧倒される。
 そうして気がつけば、既に夕方となっていた。
 夏が近づき日も延びているから、すっかり堪能した博物館から外に出ても、まだ明るい。
「この時間でも、随分と明るいわね」
 同じことを思ったのか、克美が言う。
 さて、今までであればこの後は別れて帰途に就くだけである。克美にしてみたら、デートという意識はあまりないのだろう、特に何を言うでもなく普通に別れていた。
 しかし今日はいつもと違う気持ちでいた。祐麒は夕食に誘おうと思っていた。そのためにお金も少し多めに持ってきたし、親に対しても、食べてくるかもしれないとほのめかしている。
 果たして、克美はどのように応じるだろうか。いつもの克美であれば断られる可能性が高いだろうが、何事もやってみなければわからないし、前に比べれば随分と距離も縮まったと感じているし、頷いてくれるかもしれない。
 そのためには、まず時間を稼がねばならない。さすがに、食事をするにはまだ少し時間的に早い。
「じゃあ、そろそろ……」
「あ、そうだ克美先生」
 克美が何かを言うより先に、祐麒の方から話しかける。どうにか、帰る方向にはいかせないようにしなければならない。
「あの、そうだ、買い物につきあってくれませんか?」
「買い物? 何を」
「実は、母の誕生日が近くて、そのプレゼントに何がいいかなって。ええと、女性に何を贈ればいいのかって困って」
「でも、それなら祐巳さんが」
「祐巳はダメです。だって、そう、今年は別々に送ることになっているから。それに、祐巳に頼るっていうのもなんか」
 さすがに、無理があるかとも思ったが。
「そうねえ……まあ、いいわ。でも、あんまり期待しないでよ。私だって、あまりそういうのは得意ではないから」
 意外と素直に、克美は頷いてくれた。母親への誕生日プレゼントというのが、理由的によかったのだろうか。偶然にも誕生日が近い母親に感謝する。父親の誕生日が近くて、女性である克美に一緒に選んでくれというのも、なんとなく不自然だし。
 内心の嬉しさをどうにか押し隠し、いつもと変わらない様子を装って買い物に向かう。時間をもう少し延ばすためにも、あえて電車に乗って場所を移動した。

 デパートの中では、克美と一緒に色々と見て回った。実際、母に贈り物をするとなると迷うし、気の利いたものをうまく買えるか分からなかったので、克美がいてくれるのはありがたかった。
 もっとも、今日、買ってしまうと手持ちが少なくなってしまうので、あくまで下見というまでにとどめ、目ぼしい品物を記憶して店を後にすることとした。母の誕生日プレゼントとは想定外の出費が発生してしまいそうだが、克美と食事のことを考えれば安いものとも考えられる。それに、母にプレゼントするのは良いことだし、あとで祐巳と割り勘にするのもよい。
 そうして買い物を終えると、食事をするにはちょうどよい時間になっていた。ぐずぐずしていると、克美がすぐに帰ろうと言い出しかねないので、祐麒は機先を制することにした。
「あの、克美先生」
「ん?」
 克美の目が、祐麒を向く。
 電飾に彩られた夜の街を背景に、眼鏡の下の克美の瞳が光る。
 思わず、言葉に詰まる。だけど、いつまでも黙っているわけにはいかない、今日は夕食に誘うのだと、前から決めていたし、店だって色々と探したのだ。チープすぎず、かといって豪華にならず、祐麒の持っている小遣いでもどうにかなり、それでいて適度にお洒落そうな店。
 断られることだって、もちろんシミュレーションしている。真面目な克美だから、断わられても仕方ない部分はあると思うが、それでも拒絶されるのは怖い。
 でも、言わなければ何もならない。
「……あ、あの、これから、その」
 どもりつつも、どうにか言葉を吐き出しかけたその時。

「――あれー、ひょっとして内藤さんじゃないの?」

 いきなり、甲高い声が割り込んできた。
 何かと思い、声がした方を見てみると、少し派手な格好をした、克美と同い年くらいの女性が三人、克美と祐麒のことを見ていた。
 茶色い髪、適度に施されたメイク、洗練された服装とスタイル。露出度は少し高め。三人とも系統は異なるが、美人、綺麗、といえる容姿である。そしておそらく、本人たちもそのことを自覚しているのだろう。昔から、異性からも人気があったに違いなく、なんとはなしに、全身からそういうオーラが出ているように感じられる気がした。
 想像するに、おそらく、克美と同じ大学に通っている同級生なのだろう。
「なになにー、内藤さん、ひょっとしてデート? へー」
 じろじろと、物珍しそうに克美、そして祐麒へと交互に視線をうつしてくる。
「別に、そんなんじゃないわ。家庭教師をしている子」
「へえええ、やるぅ。なに、じゃあ高校生? かわいー」
「教え子と付き合うなんて、格好いいじゃん」
 今度は祐麒に注目が集まり、居心地が悪くなる。克美も気まずそうだが、邪険にもできずに困っている様子。まあ、明らかに克美とは合わなさそうな女性たちではある。友達というほどの関係ではないのだろう。
「だから、そんなんじゃないわよ」
 話を打ち切りたがっているが、相手が離してくれない。
「内藤さんも、やっぱり女の子なんだ。学校に来るときの服とは全然違うものね」
 一人が、褒めるようでいて貶すようなことを口にする。
「うん、でもそれなら、髪の毛とメイクも、服にあわせたほうがいいと思うけれど」
「そうだねー」
 にこやかに笑いながらも、どこか棘のある言葉。
 克美はうつむき、何もこたえようとしない。暗くなってわかりづらいが、顔が赤くなっているような気がする。それは果たして、羞恥のせいか、それとも怒りのせいか。
「ねえねえ内藤さん、もしよかったらこれから私たちと一緒に遊びにいかない?」
「あ、それいいかも。私たちにも可愛い彼氏、紹介してよー」
「ねえ、キミもいいでしょ? お姉さんたちと遊ぼうよ」
 女性たちが、祐麒に話しかけてくる。しかもなぜか、身を寄せるように、ボディラインを強調するかのように。まるで、祐麒を誘惑するかのように。
 祐麒も若い男、綺麗でスタイルの良い女性に色気たっぷりに迫られたら、ドキドキだってするものである。
 しかし、彼女たちの表情と雰囲気を見て、なんとなく分かった。
 彼女たちは、(おそらく)普段は冴えなくて地味な克美が、年下の高校生の彼氏(と勘違いしている)の祐麒がいるのが、気に食わないのではなかろうかと。
 三人の性格はよく分からないが、それでも今まで女性としての克美を見下していたであろうことは、今の雰囲気から感じ取れる。そして三人は、自分たちの魅力を理解している。だから、迫れば簡単に祐麒など落ちると思っている。家庭教師としてやってきた女子大生に、経験のない高校生がふらふらと連れられているだけだ、だから克美より美人で可愛い自分たちが誘いをかければ、乗ってくるだろうと。
 なぜ、克美は何も言わないのか。下を向いているだけで、祐麒を取り囲むようにしている三人の女子大生に、まるで存在しないかのように扱われているのに。
 随分と軽く見られたものだ。
「いいお店知っているんだ、ご馳走してあげるからさ」
 と言いながら、祐麒の腕を取ろうとしてきた一番胸の大きそうな女の手を避ける。「あれ?」といった表情をしている女をよそに、祐麒は自分でも上出来だと思えるくらい、満面の笑みで三人の女子大生を見る。
 女子大生も、つられるようにして笑顔を見せる。どこか、勝ち誇ったように見えるのは、気のせいだろうか。
 しかし。

「すみません、俺、実は超~面食いなんで。お姉さんたちと遊びに行くのは、ちょっと勘弁してください」
 瞬間、彼女たちの周囲を包む空気が入れ替わったような気がした。しばらく、三人は何を言われたのか分からない、とでもいう感じだったが、やがて祐麒の言葉を理解したのか、それとも何かの聞き間違えなのか、戸惑ったように顔を引きつらせる。
「それに今、克美先生とデート中で、これから二人で食事に行くところなんです。そういうわけなんで、失礼します。さ、行きましょう克美先生」
 祐麒は、三人の女子が何かを言い出す前に次の台詞を吐き出し、やはり唖然としている克美の二の腕を握って引っ張る。
 背後から、何か文句でもいうような甲高い声が聞こえたが、とにかく無視して見えない場所まで足を動かした。ここまでくれば大丈夫だろう、というところまでやってきて克美の腕を離し、振り返って様子を見る。誰も追ってきていないことを確認し、息をつく。
「……まったく、余計なことを」
 苦々しげな表情をする克美。
「別に、私のことは気にしなくて良かったのに。あの人たちと遊んできて良かったのよ」
 目をつむり、深い息を吐き出す。
「克美先生までそんな、俺のこと見くびるんですか。やめてくださいよ」
「見くびるって、何が? ああ……まあそんなことより、少しは考えてよね。私、学校であの人たちに会うんだから」
「あ」
 言われて初めて、気がつかされる。先ほどは頭にきていたから、特に後先考えずに口走ってしまったが、確かに、同じ大学ならキャンパス内で出会うだろう。お互いが知り合いということは、学部や学科が同じ可能性が非常に高く、それだけ顔を会わせる機会も多いだろう。
「あの人たちにいじめにでもあったら、祐麒のせいだからね」
「ええっ、すみません、そうか、でもそうだ、それならもし、いじめられたら」
「いじめられたら?」
 腕を組み、口をとがらす克美。
「そしたら、俺を呼んでください。助けに飛んでいきますから」
 その祐麒の言葉を聞いて、克美は目を見張り、そして次に笑いだした。
「な、なんで笑うんですか。俺、本気ですけど」
「だとしたら、尚更おかしいわよ。呼んだって、すぐに来てくれるわけじゃないでしょう。大体、学校の授業だってあるし」
「抜け出していきます。そっちの方が大事だし」
「はいはい、分かりました、ありがとう。ふふ、でも大丈夫、たとえ何かやられたとしても、そんなのたいしたことないもの。負けたりしないわ」
 半分以上は本気だったのだが、克美はそうは受け取らなかったらしい。でもまあ、克美が笑ったから、良かったのかもしれない。
 それでも、本当に何かあったら連絡しろとしつこく言うと、苦笑しながら克美も頷いた。
「まったく、変なところで心配性ね」
「備えあれば憂いなし、ですよ。さて、じゃあ行きましょうか」
「え、どこへ?」
 歩きだそうとすると、不思議そうに克美が首を傾げた。
 祐麒は当たり前のように口を開く。内心では、結構緊張していたが。
「食事ですよ。さっき、言ったでしょう」
「え、でもあれは」
 あの三人を巻くための方便でしょう? と、目で問いかけてくる。祐麒はあえてそれを無視して、続ける。
「ちゃんと行っておかないと、後であの三人から聞かれた時に答えられないじゃないですか。嘘じゃなくて、本当に行けばいいんですよ、ね」
「そう言われても……だけど、ま、いいか」
 何かを言いかけて、途中でやめて、克美は諦めたように肩をすくめた。
「え、本当にいいんですか?」
「何よ、祐麒の方から言ったんじゃない」
「そうですけど、いや、なんでもないです、じゃあ行きましょう!」
 克美の気が変わらないうちにと、勇んで店に向かう。
 後をついてきながら、呆れたような克美の声。
「祐麒って、変わっているわね」
「そうですか?」
「そうよ」
 変わっていようと変わっていまいと、そんなことはどうでもいい。
 ただ確実なのは、祐麒は克美という女性に確実に惹かれているということ。なぜ、どうして、なんていうのは分からない。

 だって、きっとそれが、『恋』、だから。

 

 

おしまい

 

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