「……わ、私と……付き合ってみる……?」
自分が口にした言葉が脳裏でリフレインし、真紀は自室のベッドで枕を抱えて身悶えした。
相手は自分の教え子であり、10歳どころか一回り以上も歳が離れているのだ。
そんな相手に対し、なぜ自分の方から阿るような言い方をしてしまったのだ。
そもそも、その前から変だ。
自分の方からキスしてしまうなんて。
「そうだ……キス、したのよね……」
と、指で唇に触れる。
思い出す、あの感触。
驚いた瞳。
「……ふふっ、あの驚いた顔、可愛いんだから……」
くすくすと笑い。
「って、そうじゃないでしょっ」
赤面して転がる。
こんなのおかしい。
キスしたくらいでここまでテンションが変わるなんて、中学生でもあるまいし。
しばらく前まで交際していた牧とは、キスは当然、体を重ねたことだって何度もあったのに。
あったのに、こんな気持ちにはならなかった。
更に思い出す、壁ドン。
腕をついて覆いかぶさってくるような祐麒。
逃げ場を塞がれる圧迫感とともに、目の前の相手しか見えなくなる状況。
気になっている相手にあんあことをされたら、クラッとしてしまうのは仕方ないと思えた。
気になる相手?
それは、祐麒が真紀に好意を向けてくれているから?
それとも?
頭の中では壁ドンをしている祐麒。そこに、真紀の方からしてしまったキスのシーンが重なり、壁ドンしてきた祐麒に強引に唇を奪われる場面が完成する。
しかもこれは妄想、実際に起きていないことまで起こすことが可能。
妄想内の祐麒が真紀の体を抱きしめ、触れて、撫でてくる。
「だ、ダメ……そんな……」
これ以上は駄目と理性では思っても、手が、指が、体をまさぐるのを止められない。
「…………ぁ……っ」
ぐったりとベッドに体を横たえたまま、真紀は荒い呼吸を整えながら考える。
特に性欲が強いと思ったことはなく、特定の恋人がいないときにすることもなかったのに。
キスしてしまった昨日に引き続き二日連続でしてしまうなんて。
もう、認めるしかなかった。
「やばい、これ……私もう、大好きだわ……」
生徒とか。
年の差とか。
関係ない。
というかむしろ、そういう状況であり関係性が気持ちを昂らせていることに気が付いた。
だって女教師と教え子って、これはまるで、AVやエロ漫画の世界のようだから。
「……周囲には、私よりずっと若くてお肌もぴちぴちな可愛い女の子が沢山いるのに、福沢くんが選んだのは30過ぎの私……っ」
その事実もまた、真紀を歓喜させた。
「あんな可愛い男の子が……私のこと……を……っ」
一度認めると、もう止められなかった。
自然と指がまた動き出す。
しかも、先ほどまでは罪悪感が強くそれにより抑えている部分があったのだが、今はその罪悪感すらもが真紀の感度を高める材料になっているし、真紀もそれを分かっていて活用していた。
さっきと全然違う。
そう思いながら真紀は没頭していった。
そうして翌日。
授業で教壇に立った真紀は、そこからちらと祐麒を見た。
祐麒は頬を赤くして真紀に視線を向けている。
くすっ、と生徒達に気取られないよう口の端を緩める。
昨日のことを思い出し下腹部が熱くなるのを感じながら、真紀は授業に入るのであった。
おしまい