書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

ノーマルCP マリア様がみてる 真美

【マリみてSS(真美×祐麒)】ちょこりぃと

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~ ちょこりぃと ~

 

 きた。
 今年もとうとう、この時期がやってきた。

 バレンタインデー

 昨年は、思いがけずお店のアルバイトに一緒に入って、それをきっかけにしてチョコレートを渡すことができた。
 しかし、今年は同じようなことは無い。
 何せ、今年は受験生なのだから。

「……受験かぁ~」
 大きく息を吐き出して、真美は頭を垂れた。
 高校三年生、大学受験の年、まさに本番直前。
 真美はリリアン女子大が本命であるが、推薦を取れるほど成績が良いわけではないので、一般受験組である。
 即ちそれは、受験に失敗して浪人ということもありえるわけで。
 だからこうして夜遅くまで勉強に励んでいるわけなのだが、よりにもよって今年のリリアンの試験日ときたら2月14日、バレンタインデー当日なのだ。
 これでは、受験とバレンタイン、どちらに集中すればよいのかわからないではないか。
「……って、明らかに受験よね」
 分かっている。
 分かっているのだけれど、今年のバレンタインを逃したらどうなるか。
 お互い、同じ大学とか、あるいはリリアンと花寺の大学に行くならばまだ近いけれど、聞いた話では相手は外部の大学を受験するらしいから、現実にはありえない話になってしまった。
 だから、今年。
 このチャンスを逃してしまったら、どうなるか分からない。
「でも」
 去年、色々とあったけれど、それなりに仲良くなれたと思う。相手だって、決して真美のことを嫌がったり、遠ざけたりするようなことはなかった。
 むしろ、真美の独りよがりかもしれないけれど、ちょっと良い雰囲気になったと思えたときすらあった。
 だから、きっと大丈夫。
 むしろ、何も行動しなかったときのほうが、後悔をするはず。
 そうだ、頑張らないと。
 決意を込めて卓上カレンダーを睨みつければ、赤ペンで丸をした14日まであと一週間。運命の日に向けて、ただ一生懸命に突っ走るのみである。
 真美は決意を込めて、ペンを持つ手に力を入れた。
 幸いなことに、今まで新聞部の活動のために取材だ、メモだ、覚書だと色々と使い込んできた右手は、長時間の勉強にも耐えられる強さを誇っている。決して体力があるとはいえない真美であったが、それだけは自信があった。
「よしっ、頑張るぞ……ふあぁ」
 大きな欠伸が漏れる。

 どうやら、長時間の勉強に耐えられる手と、睡魔とは全く別物のようだった。

 

 一週間など、瞬く間に過ぎ去ってしまう。
 本番日間近の受験に専念したいため、学校に足を運ぶこともほとんど無い。ただ受験前日に、神頼みというか、心を落ち着けるためというか、リリアンに足を運んだ。
 三年間、慣れ親しんだ高等部の校舎。
 綺麗とはいえないけれど、なぜか落ち着く新聞部の部室。インクの匂い。紙の匂い。
 部室にくると、どうしてもお姉さま、築山三奈子のことを思い出す。真美を新聞部に入らせるきっかけを作った、強烈な女性。行動だけでなく、記事も非常にインパクトが強かった。
 お金持ちのお嬢様ではないが、真美も幼稚舎からリリアンで育った、いわゆる温室育ちである。
 それだけに、高校一年生になった初めて読んだ『りりあんかわら版』は衝撃的だった。
 記事の内容が、お嬢様学校らしからぬものだったというだけではない。そのインパクトばかりがクローズアップされがちだが、それ以上に文章が、構成が、素晴らしかった。
 見出しで読者の興味をひきつけ、内容でさらに引き込んでゆく。単なるお騒がせ記事ではなく、読者を掴んで離さない魅力があった。
 そのときの興奮を、真美は今も忘れていない。夢中になって、記事を読んだ。ドキドキした胸の鼓動を、あつい気持ちを、忘れていない。
 だから迷わずに新聞部の扉を開けていた。
 気がつけば、三奈子の妹になっていた。
 とんでもない姉だったけれど、間違いなく真美は三奈子に憧れていた。自分には持っていないものを持っている三奈子を、眩しく思っていた。
「本当、手のかかるお姉さまだったけれど」
 自然と、笑いがこぼれる。
 やっぱり、此処に来て正解だった。自然と、心が落ち着いてくるから。

 部室を後にして、帰り際、マリア像の前で手を合わせる。

(マリア様、どうか―――)

 

 そしていよいよ2月14日、試験当日。
 真美は心底、自分自身の愚かさを呪っていた。

(ああ、もう最悪っ)

 昨日、リリアンに出向いて落ち着いたのは良かった。
 家に戻って、最後の仕上げとばかりに勉強机に向かったところも良かったのだが、肝心のバレンタインのチョコレートを用意していないことに気がついたのだ。
 よせばいいのに、そんな時間から買うために外に出た。
 時間も遅いからデパートは多くが閉まりかけで、色々と走り回ってようやく見つけたお店で、閉店間際まで悩んで、悩んで、ようやく購入。
 それで終わっておけばまだ良かったのに、せめて溶かして固めるくらいだけでもしてオリジナリティーを出そう、なんて考えたのが悪かった。
 慣れてないことをやるから、当然のごとく上手くいくわけもなく、チョコレートと悪戦苦闘の連続で、気がつけば深夜の時間帯に軽く突入していた。
 母に声をかけられなければ、それこそどうなっていたか分からない。
 慌ててチョコレートを片付け、勉強しようと思ったけれど、翌日の受験に引きずっては元も子もないな、でも最後にあそこだけでも見直さないと不安だし、でも寝不足で試験中に眠くなったら、などとどうしようもないことを考えて右往左往。
 まともなことも出来ないまま、僅かな睡眠だけをとって朝を迎え、不安を抱えながらも家を出てバスに乗ろうとしたところで、チョコレートを忘れたことを思い出して慌てて家に取ってかえし。
 そんなことをしていたら、試験会場に到着したのは試験が始まる直前で、精神的余裕を持つ間もなくテストに突入。
 寝不足の上、精神的にも不安定状態でどうにかこうにか午前の試験が終了。
 あまり食欲は無かったが、せっかく母が気合を入れて作ってくれたお弁当だし、食べないと力も出ないだろうと食べたら、体調があまりよくなかったせいか余計に気持ちが悪くなった。
 午後の試験は、気持ち悪さと睡魔という、わけのわからない二重苦によって、もうボロボロの出来。
 はっきりいって、これで受かっていたら奇跡としか思えない。
 加えて、せっかくチョコレートを持ってきたというのに、よく考えてみれば会う約束をしているわけでもなく、どうすれば渡せるのかも分からない。

 受験には失敗するし、チョコレートは渡せないし、自分の愚かさ、馬鹿さ加減というものに呆れてものも言えない。
 本当、これではなんのために昨日まで、いや今日まで頑張ってきたのか全く分からない。
 家に帰っても母にどんな顔を見せていいか分からず、真美は一人、ベンチに座って佇んでいた。
 冬のこんな寒い時期に、外のベンチにただ座っているなんて物好きの姿も他にない。だけれども、周囲には沢山の人がいて、バレンタインフェアの賑やかな様子とかも伝わってきて。
 賑やかな冬の街の中、真美は一人、取り残されたような錯覚に陥る。
 あまりの寂しさに、泣きそうになってくる。

 と、そのとき。

「―――真美さん?」

 信じられない、声がした。

「…………え?」

 半信半疑で、俯いていた顔を上げると。
 白い息を吐き出しながら真美の目の前に立っていたのは、間違いなく。

「祐麒……さん?」

 どうして、ここにいるのか。
 会えるはずがないと思っていた人が、すぐ目の前にいるその現実をすぐには受け入れられずに、声もなくただ見上げる。
 だけど、彼の人から発せられる呼吸が、真美に向けられる視線が、独特の優しげな雰囲気が、祐麒さんが其処にいることを真美に実感させる。
「え、ま、真美さんっ!?」
 不意に、祐麒さんが驚きの声をあげた。
「あの、真美さんっ、えと」
 うろたえている祐麒さん。
 どうしたんですか、と言おうとして、声が出ないことに気がついた。
 同時に、熱い滴が頬を伝っていることにも気がついた。
「ゆ、ゆう……き、さ……」
 掠れたような声しか出せない。
 代わりに、胸の奥から溢れ出して来るものがある。真美自身にもよくわからない、色々な気持ちや想いが、ごちゃ混ぜになったもの。
 そして、止め処なく溢れる涙。
「あ、え? 真美さん、どこか痛いの?」
 手の平で顔を覆い、首をふる。
 それでも、嗚咽と、涙は止まらなくて。
 真美自身、混乱してしまって訳が分からなくて。

「……やだー、こんな街中で女の子泣かせちゃって」
「喧嘩? 別れ話かしら」
「バレンタインのチョコを拒絶したんじゃない」
「そりゃー、男の方が悪い」

 周囲から、そんな声が聞こえてきて、余計に祐麒さんは困惑しているようだった。
「ま、真美さん。とりあえず、落ち着けるところに行こうか」
 祐麒さんの手が、肩に触れる。
 私は頷き、祐麒さんに支えられるようにして立ち上がった。

 

 そんな状態でどこかの店に入れるわけもなく、真美と祐麒さんは人気の無い、小さな公園に足を向けた。
 この寒さの中、外で遊ぶような子は少ないのか、二人以外に人の姿はないが、今はそれが丁度よかった。
 祐麒さんから手渡された、暖かい紅茶を飲んで、ようやく真美も落ち着いてきた。
「……ご、ごめんなさい、いきなりわけもわからず泣き出しちゃって」
「いや、別にいいんだ。ただ、俺が真美さんに何か悪いことをしたのかなって、そのことの方が心配で」
 真美に気を遣っているのか、ベンチに座っている真美から少し離れたところに立って、祐麒さんは言う。
 慌てて、真美は首を横にふった。
「ち、違います。ちょっと色々あって、色々とたまっていたものが、祐麒さんの顔を見たら何か、ばぁーって出ちゃって」
 きっと今、真美の顔はひどいことになっているだろう。
 寝不足、体調不良のところに泣きはらしてしまって。
「……何か、あったの?」
 聞いていいのか悪いのか迷った挙句、祐麒さんは聞いてきた。
 真美は腫れぼったい目を撫でながら、軽く笑って頷いた。

「実は受験、失敗しちゃって」

 それから真美は、失敗談を話した。もちろん、チョコレートのことは隠して。
 祐麒さんはただ、聞いてくれた。何も言わずに。それがどこか、心地よかった。人に話すと気が楽というのは、本当だなと思った。
「そうなんだ」
 話し終えると、祐麒さんはそう頷いた。
 今度は、真美が尋ねる番だった。
「それで、祐麒さんは、なぜあそこに?」
 不思議だった。
 偶然というには、出来すぎというように感じていた。
 祐麒さんは、どこか言いづらそうに頭をかいていたけれど、やがて、観念したかのように口を開いた。
「ええと、今日がリリアンの受験日だって、祐巳から聞いていたから」
 確かに、祐巳さんもリリアンを普通に受験するから、祐麒さんが知っていても不思議ではないけれど。
 それと、真美と出会えたことはつながるのか。
 小首を傾げて、見上げてみると。
 なぜか祐麒さんは、顔を赤くした。
「だ、だから……リリアンからの帰り道だったら、あそこを通るかなと」
「はあ」
 それは、どういうことかと考えてみると。
「…………」
 やっぱり、分からない。
 考えてみたところで分からないことは、本人に聞いてみるしかない。
「あっと……ここまできて、今さらながら自分で言うのも恥しいんだけれど」
 あさっての方向を見て、手の平で顔を撫でる。
「実は、俺も受験、失敗しちゃって」
「ええっ!?」
 照れくさそうに笑っているけれど、笑っている場合ではないのではないか。そういえば祐麒さんも受験生なわけで、こんなところで油を売っていていいのだろうか。
「俺の場合は、完全に実力不足でさ。やっぱり甘くなかったっていうか、試験が終わって、自分が全然出来ていないことが自分で分かるくらいで。さすがに、少し落ち込んでいたわけなんだけど」
 試験自体は、数日前に終わっているとのこと。
 しかし、今日のことには繋がらないではないか、と思っていると。
「落ち込んで、更に今日はバレンタインじゃない。男子校の俺にとって、家族以外から貰える期待なんて殆ど持てないけれど、もしも可愛い女の子から貰えたら、落ち込んでいた気分も上向くかなって。それで、昨年、チョコレートを貰ったことを思い出して」
 聞いているうちに、ドキドキしてきた。
 まさか、まさかと思う。
「でも、こうして改めて言葉にしてみると凄く情けなくて恥しくて。真美さんだって受験生で、しかも今日は試験日。無神経な自分が物凄く嫌だ」
 本当に、自分自身を恥じるように表情を歪める祐麒さん。
「だけど、その、バレンタインとか関係なく、良かったらどこかでお茶でも飲みに行かない? ええと、受験の慰労会というか、バレンタインとか関係なく、本当は、それを口実に真美さんに会いたいって思っただけなんだ」
「え、え」
 今、何と言ったのか。
 真美は戸惑う。
「あーっ、違う! いまさら取り繕うのも男らしくないし。本当の本音をいえば、真美さんのチョコレートが欲しくて帰り道にいました! もう、ホントにごめん。凄く情けないけれど、それが真実でした」
 勢いよく、深々と頭を下げる祐麒さん。
 その姿を見て真美は、呆れるというか、むしろおかしくなってしまった。
 だから笑いながら立ち上がり、一歩、祐麒さんに近づいて。
「分かりました、それじゃあ、どこかお店に行きましょうか。受験に失敗したもの同士、残念会ということで」
「―――はい」
 顔を上げた祐麒さんも、真美が笑っていることで安堵したようだ。
 真美はベンチに置いてあった鞄を手に取る。紅茶はまだ半分ほど残っているけれど、どうしようか。
「でも、残念会は早くないですか? 真美さんだって、まだ決まったわけじゃないでしょう?」
「でも、絶対に無理ですぅ。あーあ」
 やっぱり、落ち込む。
 いくらなんでも今日の今で、すぐに立ち直れるわけもない。
「きちんと最後まで試験受けたなら、分からないですって。よく覚えていなくても、ちゃんと答案用紙は埋めたんでしょう?」
「そうですけれど、本当、何を書いたのか……」
「後は結果を待ちましょう。それでも、もし駄目だったら」
「駄目だったら……?」
 真美は、祐麒さんを見つめた。
 すると祐麒さんは、晴れやかな笑顔で。
「一緒に仲良く浪人生活を送りましょう。独りじゃ寂しくても、二人だったらきっと、心強いですよ」
 と、宣言した。
 受験に失敗した人とは思えないくらい、なぜか胸を張り、あまりに堂々と言うものだから、真美は呆れてしまった。
 だけれども。
 ふと、想像する。
 二人で一緒に通う予備校。同じ授業を受けて、隣の席に座って、お昼を食べて、休みの日には図書館や自習室で勉強して、時には分からないところを教えあい、模擬試験の結果を見せ合ったり、予備校帰りにコンビニで寄り道したり、息抜きだといってたまには遊びに行ったりと、そんな日々を想像してしまう。
 それはそれで悪くないというか、むしろ心が浮かれてしまいそうというか。
「って、だ、駄目ですよ、まだ浪人と決まったわけじゃないのに、なんでそんな笑いながら言うんですかっ」
「そう言う真美さんだって、笑っているじゃないですか」
「こ、これは、祐麒さんにつられちゃって」
 いつの間にか、暗い気持ちはどこかに消えてしまった。
「―――あ、そうだ」
 大切な物を鞄に入れていることを思い出した。というか、祐麒さんを前にしたらまず、真っ先に思い出さなければいけないはずだったのに。
「あ、あ、あの、祐麒さんっ」
「はい?」
 途端に、恥しさがこみ上げてくる。せっかく気分も良くなって、優しい空気に包まれかけていたというのに、体が硬化して声もうまく出せない。
 唾を飲み込み、一息つく。
「ちょ、ちょ、ちょこ、ちょこりぃと、貰ってくれますかっ??」
「えっ?」
 大事なところで、噛んでしまった。
 今すぐ公園の砂場に穴を掘って入ってしまいたかったが、できるわけもなく。あとはただ、勢いを持って渡してしまうしかないと鞄を開けてみると。
 朝、慌てて持ってきたものだから、白い箱がむき出しでラッピングも何もされていない状態。
(ど、ど、どうしよう、どうしよう)
 何度、鞄の中を見直したところで現実が変わるはずもなく。
「どうしたの?」
「うわぁ、あの、いえっ、それがごめんなさい、準備する時間もなくてきちんと包装することができなくて、すみません、ちゃんとしてまた明日にでもお渡ししますのでっ」
 と、鞄を閉じようとしたのだけれど、その手を掴まれた。
 見れば、祐麒さんが真美の腕を掴んでいた。
「俺、そのままで全然構わないから。明日より、バレンタインの今日に、貰いたい」
 間近で言われて、みるみるうちに顔が熱くなってゆく。
 こうなると逆らうこともできず、真美は手にした箱を鞄から出して渡そうとして、でも直前でやっぱり思いとどまった。
「ま、真美さん?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ」
 背を向け、箱の蓋を開けると、中に並んでいるのは歪な形のチョコレート。形はまだよい、問題は味である。
 ろくに味見もせずに持ってきたが、睡眠不足の中作成したチョコレートが、果たしてどんなものに仕上がっているか不安で、素早く一つをつまんで口に放り込んでみると。
(――――っ!!! ま、不味っ!?)
 何を入れたのか自分でも記憶がないが、とてもじゃないけれど食べられたものではない。甘さと辛さと苦さと酸っぱさが絡み合ったような、世にも不思議な味がする。
「ご、ごめんなさいっ。やっぱりこれ、失敗作だから、とても渡せませんっ」
 不味いチョコレートを無理矢理に飲み下し、真美は再びしまおうとしたけれど、そこでまたもや祐麒さんに止められる。
「だ、駄目ですっ。本当にこれ、不味くて食べられたものじゃ」
「待って、一つだけ聞かせて真美さん。そのチョコレート、俺のために用意してくれたんですか?」
 真剣な目で見つめられ、真美は、口をキュッと結んで、頷いた。
 すると、祐麒さんは。
「それじゃあやっぱり、そのチョコレートください。包装とか、味とか、いいんです。真美さんが今日、俺のために用意してくれたチョコレートが欲しいんです」
「――――――――っっっ!!!」
 顔が、真っ赤になるのが分かる。
 祐麒さんの顔も、赤い。
 体の力が抜ける。持っていた箱が、祐麒さんに取られる。
「いただいても、いいですか?」
「…………うぅ、は、はい」
 返事をすると、祐麒さんは不細工なチョコレートをつまんで、躊躇うことなく口の中に入れた。
 この場から逃げ出したい思いに駆られたが、祐麒さんの反応も見たい気がして、結局は動けないままでいた。
「不味い……ですよね?」
「いや、ははっ、確かにミラクルな味がしますね」
「無理しないでいいですよ」
「無理はしていないですよ、本当に。だって、生まれて二度目のバレンタインチョコレートですから、嬉しくて」
「あ……」
 去年は、初めてだといっていた。
 そして、今年。
 真美は、息をのみ、そして思い切って口を開いた。
「あの、それじゃあ来年は、さ、三度目のバレンタインチョコレートをあげますねっ」
 すると、二個目のチョコレートを口に入れようとしていた祐麒さんは、照れたように、でも嬉しそうに微笑みながらチョコレートを食べて。
「そのときは二人とも、大学が決まっているといいですね」
 と、言った。
「あーっ、なんですか、私も祐麒さんも、もう浪人確定みたいなその言い方はー」
「すみません。でも、真美さんだってさっき」
「知りませーん」
 そっぽを向いて、ベンチに置いておいた紅茶の缶を取って残りを口に含む。
「あれ……? 紅茶飲むと、意外とこのチョコ、合うかも」
「えー、まさか」
「ほ、ホントですよー」
「ホントですかー?」
 笑いながら、祐麒さんは真美が手にしていた缶を受け取り、紅茶を飲んだ。
「…………あ」
「ほらーっ、やっぱり、そう思いますよね?」
「不思議だ……」
「ふふ、面白いですね」
 言いながら、驚いている祐麒さんの手から缶を取り戻して、真美もまた一口喉に流し込む。
(……あ…………これって、間接……!?)
 飲んだ後に気がついた。
 そして気がついたときにはもう遅く、唇が、一気に、熱くなる。
 祐麒さんは気がついていないのか、いまだに不思議そうな顔をしてチョコレートを見つめている。
「真美さん? どうか、したんですか」
「っ!? な、なんでもないですっ。そ、そろそろ行きましょうか」
 慌てて紅茶を飲み干し、空き缶をゴミ箱に捨てる。
 並んで歩き、小さな公園を後にする。

 寒さはまだ厳しいけれど、もうすぐ春がやってくる。
 果たしてどんな春になるのかはまだわからないけれど、それでもきっと、素敵な春になるに違いない。

 

 熱をもった唇が、そう確証させてくれるような気がした。

 

おしまい

 

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