いつの間にか、祐麒の目の前には三奈子さんがいた。どうしたのだろう、と思って目をぱちくりしていると、
「祐麒くん、誕生日、おめでとう!!」
両手を広げて、満開の笑顔で祝いの言葉を口にした。
そう言われてみると、今日は祐麒の誕生日であったか。よく、三奈子さんは知っていたなと感心する。と同時に、嬉しさも感じる。
「祐麒くんの誕生日を祝って、プレゼントを用意したの。受け取ってくれる?」
「え、本当ですか?もちろん、ありがたく受け取りますよ」
「うん。じゃあ、はい、どうぞ」
そう言って三奈子さんは、ベッドの上に座っていた祐麒の隣に腰を下ろした。そしてそのまま、じっと祐麒のことを見つめている。
しばらく待っていたのだが、何かプレゼントを出す様子もなく、痺れを切らした祐麒は困惑する。
「えーと、あれ、プレゼント、くれるんですよね?」
「うん」
「あの、え?」
「もう、分からないの?」
なぜか三奈子さんは、頬を膨らませて怒っている模様。何がなんだか分からない祐麒は素直に頷いた。
すると三奈子さんは、少し眉をひそめた後、人差し指を自分自身に向けて。
「しようがないなあ。だから、プレゼントは、わ・た・し」
「…………え、えええっ?!ちょ、ちょっとやだなあ。からかわないでくださいよ、三奈子さん」
ちょっとびっくりしたが、いつもの調子で祐麒を振り回しているのだろうと思い、軽く流そうとした。
しかし。
「からかってなんかないわよ。私は、本気よ」
「ほ、本気って……」
「だから、プレゼントとして、私をあげるって言っているの」
言いながら、三奈子さんは祐麒の方に身を寄せるように前屈みの姿勢になり、下から見上げてくる。
その瞳は、いつもと微妙に異なる光を放っているように感じられた。
「じょ、冗談、でしょ?」
「冗談、でこんなこと出来ないわよ」
「で、でも、え、なんで」
「だって祐麒くん、鈍いし優柔不断だし臆病だし。いつまでたっても、何もしようとしてくれないんだもの」
拗ねたように口をとがらす三奈子さんが、とてつもなく可愛く見えた。
「ねえ祐麒くん、もらってくれるんでしょう?」
言いながら、体重をかけるようにして寄りかかってくる三奈子さん。
ちょっと待て、やはりこれは何かの間違いではないか?どう考えてもおかしいし、夢でも見ているのではないだろうか。
しかし、おかまいなしに三奈子さんは迫ってきて。
「ねえ、祐麒くん……」
密着してくる体。
魅惑的な声。
祐麒とて健全な若い男、ここまでされてしまったら、ブレーキなんてそうそうきくはずもない。
「み、三奈子さんっ」
「きゃっ!」
力強く抱き寄せる。抱きしめる。
ほっそりとしていて、それでいてふわふわとしている体。そう、そしてこの柔らかいのは紛うことなき胸の感触で……と、そこで首を傾げる。
三奈子さんの胸はこんなにささやかだっただろうかと。確か、もっとこうボリュームがあって、こんな物足りないような感じではなかったような。
「いったい、どうした……痛っ?!イタタタタ!」
いきなり、強烈な衝撃が頬に走った。引っ叩かれた。
『…………っ!』
何を叫んでいるのか。
『……麒っ!祐麒ったら、離しなさいってば!!』
「――――――え?」
聞きなれたいつもの声が耳に響いてきた。
そして目を開けると、至近距離に顔を真っ赤にして、目を吊り上げて何やら喚いている祐巳の顔があった。
「あれ、祐巳?」
「何、寝ぼけているのよ!それからいい加減離しなさいよこの手!」
「―――え」
言われて気がついたが、手が祐巳の尻にあった。
「え、ちょっと、何しているんだよ祐巳?!」
「あんたがいきなり抱きついてきたんでしょうが!小林くん達と遊びに行くって言っていたから、せっかく起こしにきてあげたのに!」
「え、あ、いや」
確かに、仰向けに寝ている祐麒の上に祐巳が乗っかっていて、祐麒が抱きしめる格好となっている。祐巳は逃れようとじたばた暴れたり、手でぽかぽか叩いたりしているが、そんなことをしていると余計に妙な体勢になったりして。
本当に夢か!
いや、そんなこと言っている場合ではなく、なんかとんでもない状況だ。
さらに。
「祐麒、祐巳ちゃん、いい加減に朝ごはん――」
「あ―――」
「お母さん」
扉を開けた部屋の入り口で立ちすくむ母。その目は、ベッドの上で重なり合って抱き合う姉弟に注がれていた。
「な、ななななな、なんてことをしているのあなた達!!」
「違う、誤解だって!!」
「駄目よそんなの!あなた達まだ高校生でしょう、まだ早いわ!」
突っ込みどころはそこか?!母もかなり動揺しているようだった。
「ああ、まさかこんな、二人が不純姉弟交遊をしていたなんて!おとうさーん!」
「わー、ちょっと待った母さん!」
「勘違いだって!」
部屋を出て行く母を、慌てて追いかける姉と弟。
賑やかで騒がしい、いつもと同じような光景。
そんな祐麒たちが部屋を出て行った後、机の上に置かれた祐麒の携帯電話が、メール着信を知らせるメロディをそっと奏でていた。
"Happy Birthday!! 誕生日おめでとう!(*'∇')/
今度一緒に、美味しいものでも食べに行こうか?奢ってあげちゃうよー。
これからまた新しい一年、色々とよろしく ☆ヽ(▽⌒*)
じゃ、また連絡するねー (≧∇≦)ノ"*** By みなこ "
おしまい