書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

ノーマルCP マリア様がみてる 三奈子

【マリみてSS(三奈子×祐麒)】こんなリスタート

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~ こんなリスタート ~

 

 新しい学年となって少しばかり日にちが経って。新しい学校に進学した人たちはそろそろ新しい環境に慣れた頃か、はたまた五月病におちいりがちな時期だろうか。
 祐麒自身、新しい年度となり最上級生となって、いよいよ花寺学院高等部における最後の一年が始まり。生徒会長としても充実した日々を過ごしている、はずなのだが。
 なぜか祐麒は、気持ちの乗らない毎日を送っていた。
「おーい、ユキチ?どうしたん?」
 小林が、席で力なくぐったりしている祐麒を覗き込むようにして聞いてきた。
「べつにー」
 覇気無く返答する祐麒。
 小林は、顎に手をそえて考え込む。
「なんだ、三奈子さんと喧嘩でもしたのか?」
「ぶっ?!」
 思わず、バランスを崩して椅子から転げ落ちそうになる。
「な、なんでここで三奈子さんが出てくるんだよ?」
「そうじゃないのか?でも、他に考えられる理由なんか……」
「別に、そんなんじゃないよ。じゃあな、今日はもう帰るわ」
「あ、おい。ユキチ」
 小林の声を無視して立ち上がり、鞄を手に取る。今はまだ、生徒会の仕事もそれほど忙しくは無い。
 校庭から聞こえてくる部活動の掛け声を背に、祐麒は学院を後にする。

 学校を出ても真っ直ぐ家に帰る気にもならず、街をぶらついていた。
「ったく、小林のやつ……」
 先ほどの言葉を思い出す。
 なぜ、ちょっと覇気がなかったというだけで三奈子さんと喧嘩したなんてことになるのだろうか。誰だって、一年中気合が入っているなんてことはないだろう。確かに、ここしばらく三奈子さんと会っていない。この前、会ったのは三月の下旬だったから、かれこれ一ヶ月くらい顔を会わせていないことになる。三奈子さんと知り合って以来、これだけの期間、会っていないというのは初めてかもしれなかった。
 大学生になって、新しい友人やサークル等、付き合いも増えて忙しくなっているのはわかっている。メールは来るし、そんな三奈子さんの状況は理解しているつもりである。
 でも、それにしても。
「……メールじゃなく、せめて電話くらいしてくれたっていいのに」
 と、そんなことを考えて。
 祐麒は、ハッとして頭を振った。
「―――いや、なんだ?」
 自分は一体、何を考えていたのだろうかと、自分自身の心の内に驚いた。三奈子さんと会えないことが、寂しいと思っていたのだろうか。三奈子さんの声が聴けないことが、物足りないと感じていたのだろうか。
 だからといって、自分から電話をすることもできない。今まで、自分から電話をかけたことなど一度もないのだ。
 携帯電話を取り出して、メールの履歴を開く。
 画面の上から下まで、三奈子さんからのメールの履歴で埋め尽くされていた。画面をスクロールさせて過去に遡っても、三奈子さんのメールばかりだった。ときたま、生徒会メンバーの名前が出たりするけれど、すぐに"築山三奈子"の名前に隠されてしまう。

"やっほー、ただいま新歓コンパ真っ最中。みんなテンション高すぎ!"

"うーー、ねむいよー。5限目の講義って、ツライ……(T¬T)/"

"今日はいいお天気!大学仲間とお花見だよo(⌒0⌒)o"

 どのメールを読んでいても、三奈子さんの姿が目に浮かぶようだった。喜怒哀楽がすぐに体全体に出て、いつも祐麒を振り回す、一学年上なだけで年上ぶって、でも子供みたいに危なっかしくて目が離せない。
 不思議な魅力の女の子。
 一体、三奈子さんは祐麒のことをどのように思っているのか。
 そして、祐麒自身は三奈子さんのことをどのように思っているのだろうか……

 と、そんなことを考え始めた瞬間。
「うわっ?!」
 突然、手にしていた携帯電話から軽快なメロディが流れ出してきた。画面を見て確認するまでもない、これは三奈子さん用で登録していた着信メロディ。
「も、もしもし?」
『あ、祐麒くん?』
 耳に飛び込んでくる、少しノイズ交じりの声。それでも、三奈子さんの声に間違いはなかった。
「何か用ですか?」
『んー、別に?なんとなく、ぴぴっときてかけてみただけ』
「なんなんですか、それは……今、どこにいるんですか?」
 久しぶりに会話をしたというのに、なぜか素っ気無い口調で相対してしまう。
『大学だよ。いやー、今日も疲れたわ』
「何言ってるんですか。ちゃんと勉強していますか?」
『なによー。祐麒くんこそ受験生でしょう?勉強しなさいよー』
 ほんのちょっとしたやり取りであるけれど、なぜかさっきまで苛々としていた心が解れていく。
 だからだろうか。いつもだったら、自身の口からは出ないような言葉が自然と浮かんで、電話の向こうの相手に対して投げそうになった。
「そうだ三奈子さん。よかったら今日、この後――」
(あ、ミナ、ほらもう行くよー)
『あ、うん、ちょっと待って。ん、何、祐麒くん?』
 祐麒が言いかけたところで受話器の向こう側から、友人だろうか、三奈子さんを呼ぶ声が聞こえてきた。
「いや……これからどこか行くの?」
『ああ、うん、友達が美味しいインド料理のお店を見つけたから、行ってみるの。今度、祐麒くんも連れていってあげるよ』
「ああ……楽しみにしていますよ」
『うん、じゃあまたねー』
 通話が終わる。
「またね、って……いつだろうな」
 ため息が出る。
 今まで、こんな気持ちになることはなかった。
 自分自身、戸惑いながら意味も無く街の中をさまよい続けるのであった。

 

 そして、数日が過ぎ去った。
 三奈子さんが口にした「また」が訪れることも無く、祐麒はやはり、もやもやとした気分のまま、どこかやる気の出ない日々を過ごしていた。
 相変わらず、携帯電話にはメールだけが届けられてゆく。

"元気してる?今日は飲み会でK駅の方に行きます。美味しいお店だといいんだけどねー♪"

 大学生活を楽しんでいるのだから、それは良いことだ。そう思いながらも、どこか納得のできない自分がいる。
 だからだろうか、小林たちと遊んでいたのだが途中で別れ、気が付くと祐麒はK駅までやってきていた。
 春は始まりの季節。
 学生も、社会人も、それは同じ。新しい場所で新しい仲間を得た人々が、至る所で楽しげな歓声を上げていた。
(―――なにやってんだろ、俺。K駅の方で飲み会やっているからって、分かるはずもないのに)
 見渡せば、数え切れないほどの飲み屋、食事処、バーなどなど。どこの店にいつ入ったのかだって分かるわけもなく、祐麒はただ夜の街を徘徊する。
「どこ行くの坊や?カワイイ、ね、私たちとイイところに遊びに行かない?」
 時々、そんな風にして声をかけられたりすると、慌てて逃げる。
 酔っ払った中年男性、露出度の高い服を着て身体を見せびらかしているかのような女性、同じ高校生くらいにしか見えないのにやたら化粧をしている女の子、ホストのような身なりで通りかかる女性に声をかけている若い男。
 まるで、異次元世界に迷いこんでしまったかのようだった。
 そんな異空間をふらふらと歩き続けること小一時間。
 一軒の飲み屋から出てくる、若い男女の集団が目に入った。

「お疲れさまー、って、まだまだこれからが本番!二次会へ行きまーす!」
「お、幹事!どこへ行こうっての」
「オレはこの子と二人っきりの二次会に突入したいなー」
「あたしはお断り~」
 陽気で、上機嫌な声が周囲に響くが、それも他の喧騒に巻き込まれてしまい、目立たなくなる。どこにでもある、大学生らしき男女の集まり。
 そんな中に。

 三奈子さんの姿があった。
 いつもと同じポニーテールで、いつもと同じ笑顔を浮かべて。
 でもいつもと違うのは、隣に知らない男が立っていることで。少し大人っぽく見えるから先輩か何かだろうか、随分と親しげに三奈子さんに話しかけている。応じる三奈子さんも、笑顔でその男と話している。
 同じ大学の仲間たちと思しき集団の中、三奈子さんの姿はすぐに目に入ってくるけれど、祐麒自身の姿は夜の街に溶け込んで向こうからは見えない。
 なぜ、自分はこんなところにいるのだろう。

(―――帰るか)

 踵を返す。
 こんなところにいても虚しくなるだけだった。家に帰って、ゲームでもするか、それとも本でも読むか、さっさと寝てしまうか。
 人波の間を縫うようにして歩き出す。
(何やってんだかなぁ……)
 気分転換に空を見上げてみたが、雲に覆われた夜空からは星の光も見えなくて。ただ、街の明かりだけが煌びやかに、無駄に眩しかった。

 ―――と、そのとき突然、視界が真っ暗になった。

 そして。

「……だ~れだ?」
 すぐ後ろから聞こえてくる耳をくすぐる声。目に当てられたやわらかくて暖かい手の平の感触。……あと、背中にあたる弾力のある二つの膨らみ。
「み、三奈子さんっ?!」
 驚いて、祐麒の眼を隠していた手を振りほどくようにして振り向いた。
「わっ、と。ありゃ、すぐに分かっちゃった?」
 そこには間違いようもなく三奈子さんがいて、ちょっとびっくりしたような表情で祐麒のことを見ていた。
 なぜ、ここに?言いたい言葉を飲み込んで、祐麒は彼女のことを半ば呆然としながら見つめていた。
「三奈子さん、な、なんで……?」
 飲み会の仲間と一緒にいたのでは?というつもりだったのだが、三奈子さんは違う解釈をしたようで。
「あれー、メール見なかった?今日、飲み会でこっち来るって言ったじゃない」
「あ、うん」
「いやー、そしたら何と偶然!お店を出てさ、なんとなーくこう、祐麒くんの気配が感じられてさ。見回してみると、やっぱり、祐麒くんらしき男の子の後ろ姿が。こんなこともあるものよねー」
 実は、三奈子さんのことが気になってここまで来てしまった、などと言うことができるはずもなく。
「の、飲み会の方はどうしたんですか?いいんですか、ほったらかして」
 興味ないような振りをして、どうしてもこんな口の利き方をしてしまう。だけど三奈子さんは、祐麒のそんな口調だとか内心だとかは全く気にした様子も無い。アルコールが入っているのだろうか、ほんのりと上気した顔と潤んだ瞳でハイテンションに話を続ける。
「あー、いいのいいの。そりゃ付き合いは大事だけど、とりあえず一次会は出たしね」
 笑いながら、ひらひらと手を振ってみせる。
 本当だろうか。さっき隣で楽しげに話していた男性は一体どうしたのだろうか。ここしばらく会っていなかったこともあり、色々と聞きたいことは頭の中を駆け巡るけれど、どれ一つとして言葉にならない。
「それに、さ」
 手を後ろで組んで、身体をちょいと傾けて。ポニーテールをふわふわと揺らしながら、三奈子さんは無邪気に続ける。
「飲み会より、祐麒くんと一緒にいるほうが楽しいしねっ」
「な―――――っ」
 笑いながらあっけらかんと言い放つ三奈子さんであったが、言われたほうの祐麒はなかなか平静ではいられなくて。
「それって……」
「あー、そういや大学入ってからクラスの友達やサークルの皆と遊びに行ってばかりで、祐麒くんと久しく会ってなかったね」
「そう―――でしたっけ?」
「そうだよ、あーっひどいな祐麒くん。ひょっとして私がいないから静かになった、なんて思っていたんじゃないでしょうね?」
「そりゃ、ちょっとばかりは思っていましたけど」
 本当は思っていなかったけれど、自然と三奈子さんをからかうような言葉を放ってしまう。
「ふふーん、残念でした。私は、大学に入って新たな情報を色々と仕入れていたわけですよ。むふふ、これから祐麒くんにもいーっぱい、教えてあげるからね」
「いいですけど……無茶するのだけはやめてくださいよ」
「ちょっとくらい無茶しないと、斬新な情報なんて入手できないのよ。ま、それはさておき、今日はせっかくだからいいお店に連れて行ってあげるよ」
「……ちなみに、アルコールはダメなんですよ」
「えー、大学生は飲んでもいいのよ」
「誰が決めたんですか、そんなこと!」
 軽い応酬がすらすらと交わされる。都合がよいもので、数週間前からもやもやとしていた気持ちが、この数分間のやり取りですっかりどこかに消えうせてしまっていた。
「いいから、ほらこっちこっち。大丈夫、甘くて口当たりの良いカクテルだから、祐麒くんでも飲めるよ」
「そういうお酒が危険なんですって。調子に乗って量を飲んじゃって、大変なことになったらどうするんですか。もう、仕方ないなあ。三奈子さんは俺が見ていないと本当に危なっかしくて……」
「なによー、私の方がお姉さんなんだからね」
「はいはい、そうでした」
「うわーっ、むかつくー。もう、ほら、早く来なさいってば」
 酔っているせいだろうか、三奈子さんは気さくに祐麒の腕を取り、引っ張るようにして歩き出す。ちょっとだけ抵抗するように、それでも素直に引っ張られるままに後をついていく祐麒。

 

 くもっていたはずの夜空にはいつの間にか月がその姿を見せ、二人のことを静かに見下ろしていた―――

 

 ……ちなみに翌日、祐麒はひどい二日酔いで丸一日ダウンしていた……

 

おしまい

 

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