とうとう水泳の授業がやってきた。
実は初回の授業は、女の子特有の『アレ』がやってきたと赤面ものの嘘をついて休んでいる。一応、水着は大丈夫という形になったものの、リスクはなるべく避けたいから。
しかし、いつまでもその嘘が適用できるわけもなく、いよいよプールデビューとなった。
アンリにも協力してもらい、身を隠しながらどうにか水着に着替えると、スカートの下が見えないよう抑えながら、できるだけ小股でプールへと向かう。
太陽の日差しは厳しくまさにプール日和ではあるものの、素直には喜べない。
「ふぅ、暑い……」
手で庇を作って太陽光線を遮り、プールサイドへと出ると。
なぜか黄色い歓声が沸き上がった。
これも『アドラブルシスター』となったことの影響かと戸惑っていると、確かにそれもあるが他にも理由があった。
「わ……びっくりした」
「どうしたのかしら?」
「え?」
左右から聞こえた声に、顔を向けてみると。
右にはフリルのワンピース水着姿の由乃が立っていた。
「え、由乃さん、プールとか大丈夫なのっ!?」
水泳の授業は2クラス合同なので由乃がいること自体は不思議ではないが、心臓の悪い由乃が水着姿でいることに驚いたのだ。今まで由乃は、体育の授業は殆ど見学していると聞いている。
「あ、うん、泳いだりしないで、水につかるだけだから。それくらいなら」
水着姿の由乃は驚くほど体が細い。フリルがついているからそれでボリュームがあるようにかろうじて見えているが、腕とか脚とか、それこそ折れてしまいそうなんじゃないかってくらいだ。
お下げはそのままに、白い肌とブルーの水着のコントラストが美しい。
一方で左には、スクール水着姿の志摩子。
なぜ、あえてスクール水着なのかと問いたくなるが、意外と志摩子以外にもスクール水着を選んでいる生徒は多い。まあ、他の2つを選んで似合わないよりも、スクール水着の方が無難なのかもしれないが。
そんな中で志摩子のスク水姿は、他の生徒達とは明らかに異なる輝きを放っていた。なんといっても違いは、そのボリュームのあるバスト。制服のときは意外と分からないが、こうして水着になると良く分かる。体育の時も大きいとは思っていたが、まさかここまでとは。
「うわぁ、さすが由乃さん、可憐よね。深窓のお姫様みたい」
「志摩子さんも、あのスタイル、とても美しくて神々しいわ」
生徒達が歓声をあげていたのは、どうやら由乃と志摩子の水着姿を拝んだせいらしい。
確かに、黄薔薇の妹の蕾である由乃は美少女で、しかもまさか水着姿を見られるなんて思っていなかっただろうから、その衝撃と興奮度も高まるというものだろう。
志摩子は誰の妹にもなっていないが、学園内では祥子と並ぶ美少女と称されているだけあったファンは多い。そんな志摩子の迫力あるスク水姿、沸き立たないわけもない。
「あぁ、でも……やっぱり祐紀さん、とても可愛らしいですわぁ」
「本当に、あの水着はまさに祐紀さんのためにあるといっても過言ではないですわね」
「綺麗なおみ足、細い腰、滑らかな肌、慎ましいお胸……恥じらう姿もまた、こう、なんともいえませんわぁっ!!」
しかし、由乃と志摩子以上に視線が注がれているのは祐麒だった。視線を集められると祐麒としては都合が良くなく、体を腕で隠すようにするのだが、そんな姿がまた女子生徒達の興奮を呼び起こしているようだった。
さらに。
「……あ、あれ? なんか、私と同じ水着を選んでいる人……誰もいない?」
2クラスの生徒がいるというのに、誰一人として祐麒と同じビキニタイプを身に付けている生徒が見当たらない。眺めまわしてみると、多くの子が通常のスクール水着を身に付け、フリルのワンピースを選んでいるのが3割といったところか。
「ああ、それは祐紀ちゃん前にこの水着を選んで試着していたでしょう。その噂が流れてね、祐紀ちゃんと同じ水着なんて選んだら、自分が情けなくなるの目に見えているから誰も選ばなかったんだよ」
フリルのワンピース姿の桂がやってきて告げる。
「ええっ!? そ、そんな馬鹿なっ」
「馬鹿なことないわよ、私だって祐紀さんの水着姿見たら、同じの着ようとは思わないわ」
「私は、学校の水着はスクール水着しかないと思っていたから……でも確かに、祐紀さんの可憐な姿を見たら、躊躇うのも分かるわ」
由乃と志摩子も頷いて言うが、貴女達がどの口で言いますかと抗議したい気分だ。
とにもかくにも見世物の気分だが授業は始まる。
プールは広いので、二つのクラスがレーンを分けて使用することになる。とはいっても本格的な水泳の授業というよりは、水と戯れると言った方が正しいような気がする授業だ。
一応、最後の方の授業では各自好きな泳ぎ方で25mを泳ぐというのが課せられるが、タイムを競うわけでなし、途中で足をついてもよし、というぬるいもの。だから、活動的な子達は水遊びに興じ、大人しい子たちはプールサイドでお喋りをしてたまに水に浸かる、そんな感じの授業でしかなかった。
「えーい、それっ、祐紀ちゃん!」
「わ! 冷たい、やったな桂ちゃん!」
祐麒も、桂と一緒に水かけっこをして楽しむ程度だ。水着のことは色々と心配ではあるものの、水の中に入ってしまえば不安も小さくなる。さすがに、潜水でもする子がいない限り見られることはない。
「さて……と、ん?」
遊ぶことしばし、ふと隣のクラスの方に目を向けてみると。
プールの上、日差しのあたらない物陰で、楽しげに遊んでいるクラスメイトのことを少し寂しそうな笑みで見つめている由乃の姿があった。
祐麒はプールを横切ってプールサイドまで行くと、由乃に手を振った。
「おーい、由乃さーん」
「……え、ゆ、祐紀さん?」
気が付いた由乃がびっくりしている。
「由乃さん、やっぱりプールに入れないの?」
「そんなことは……ないんだけど……」
ゆっくりとプールサイドまでやってくる由乃だが、見た限り水着に濡れた形跡はない。
「それじゃあ、一緒に遊ぼうよ、ほら」
と、プールの中から手をさし延ばす祐麒。
その手を、キョトンと見つめる由乃。
「……あ、だ、大丈夫、手を握って急に引っ張ったりしないから! あと、遊ぶっていっても、水につかるだけでいいし」
さすがに、心臓の悪い由乃に対してそんな悪戯をするつもりはないし、激しい遊びをするつもりもない。ただ、せっかく水着に着替えてきているのだし、一緒にプールに入れればと思っただけだ。
しばらくプールの上から祐麒を見降ろしていた由乃だが、やがて破顔して「……うん」と頷いてくれた。
プールサイドで軽く体に水をかけてならしてから、そろりそろりと足の指先を水面につけ、ゆっくりとプールに入ってくる由乃。
「……大丈夫?」
「うん。冷たくて、気持ちいいね」
太陽の光を浴びてキラキラと輝く水面を眩しそうに見つめ、由乃は微笑む。
「……ありがとう、祐紀さん」
「え、何が?」
「ほら、私、心臓が悪いでしょう? 体育もいつも見学だし、水泳の授業なんて聞いたらみんな私のこと心配して、誘いづらいじゃない。私も、今日は体調もいいし水に入るだけなら、なんて思って来たけれど失敗だったかなーって思っていたの。でも、そんなところで祐紀さんが誘ってくれたから、こうしてプールに入れて嬉しくて。だから、お礼を言わせて欲しくて」
「お、お礼だなんて! ただ、わ、私が無遠慮というか、無神経というか、考えなしなだけだからっ。そ、そうだよね、ごめんね」
「もう、お礼を言っているのにどうして謝るの。嬉しいんだから」
と、由乃は祐麒の肩にそっと手を置くと身を寄せてきた。
細いけれど、確かな由乃の体を感じて血流が激しくなる。
「…………祐紀さん、腰を引いてどうかしたの?」
「い、いえ、なんでも……」
それは貴女のせいですとも言えず、細い腰をつかんでゆっくりと体を引き離す。
「――――こっ、これは美しいわっ!!」
そんな二人を目ざとく見つけ、蔦子がプールサイドに横になりながらカメラを向けてきてシャッターを切る。
一応、教師にも断りを入れて皆が水で戯れるところを写しているのだが、こうして見ると変態盗撮魔にしか見えない。
「ちょ……蔦子さん?」
「あははっ、でも私、プールなんて入るの久しぶりだし、写真に撮ってもらえると嬉しいな」
「任せてください、はい、もっと寄り添って……見つめ合って……顔近づけて口づけを」
「もー、蔦子さんったら!!」
と、そんな風に由乃と少しばかり戯れる。
さすがに長時間は無理なので、由乃はすぐにプールからあがると日陰にいって休んでしまった。
祐麒も疲れてきたので、慎重にスカートおさえながらプールから上がり、少しばかり休憩を取ることにした。
「ふーっ、やっぱり水泳の授業は楽しいね」
「う、うん、そうだね」
自分のこと、また他の水着姿の女子生徒のこと、気を遣わなければいけないことは多々あるけれど、炎天下の中でのプールは確かに最高だ。
日陰に退避して、プールで賑やかに遊んでいる皆を見ているだけでも楽しい気分になる(本来の男の姿でにやにや見つめていたらただの変態だが……)
ふと眺めていると、皆が集まっているプールの入口側から反対側の一番遠い25m地点にいた集団が泳いで戻ってくるのが見える。その最後尾に志摩子の姿があった。他の生徒から遅れて離れていて、懸命に追いつこうとしているのが何だか見ていて可愛らしい。
思わず笑みが浮かぶ。
「んー、どうしたの祐紀ちゃん。何か面白いことでもあったの?」
「あ、うん、ほらあれ――」
言いかけたところで、不意に志摩子の姿が水面から消えた。
「えっ!?」
びっくりして見つめると、また水面に志摩子の顔が出る。しかし、しばし泳いでいたかと思うとまた沈む。
「いや、あれは泳いでいるんじゃなくて……まさか」
「え…………え、て、あれって志摩子さんもしかして……って、祐紀ちゃん!?」
桂が全てを言い終える前に祐麒は駆け出し、そのまま勢いを殺さずプールへと飛び込んだ。見事な曲線を描いて水面に没した後は、全力のクロールで志摩子を一直線に目指す。
辿り着く前に、苦しそうな表情の志摩子が水面から消える。祐麒は追いかけるようにして潜り、沈んでいる志摩子に向かってゆく。足をおさえているのは、痙攣したのか攣ったのか、いずれにしても溺れていることに間違いはない。
ぼこっ、と志摩子の口から大きな気泡がこぼれる。
志摩子さん――!
水中で叫ぶことも出来ないが、想いを込めて腕を伸ばして志摩子の体に触れる。柔らかいとかどうとか考えている暇もない、とにかく抱きかかえるようにして水面目指して浮上する。
「――――――ぶはぁっ!!」
「けふっ! あはぁっ、あっ、はぁっ」
とりあえず、志摩子が苦しげながらも呼吸をしていることに安堵する。少し水を飲んでしまったようだが、大事には至っていないようだ。祐麒も限界まで呼吸を止めていたので苦しくて息が荒いが、こんなのは少し経てば落ち着く。
「はぁっ、はぁっ、はっ…………だ、大丈夫、志摩子さん?」
「けふっ…………は、はい、ありがとうございます……けほっ」
返事もしてくれて、意識の方も問題ないようだ。
「ああ、びっくりした。でも良かったぁ……」
ようやく肩の力を抜き、そこでようやく志摩子の体の柔らかさを意識し始める。というか、右手が触れているのはもしかしたら志摩子の乳ではなかろうか。抱っこする格好になっているのだが、背中をまわして志摩子のボリュームのある胸を右手が見事に掴んでいた。
「う、う、うわっ……」
頭に血が上り出すが、だからといって手を離すというわけにもいかない。ここは左手の方に意識を向けようと思って見てみると。
左手の方は当然、志摩子の脚を抱きかかえる形になっているのだが、左足だけを持ち上げていて、要は脚の間に手を入れていたというか、脚の付け根のほぼ股間に近い部分を掴んでいる。
「はぅ……は、はぅぅっ」
頭に血が上り、一方で下半身にも血が集まっていく。
「ごご、ごめん、志摩子さん……えと、手、離しても大丈夫かな?」
尋ねる祐麒だが、志摩子は抱かれたままうっとりとした表情で祐麒のことを見上げている。
「ああ……女神さま? いえ、天使さま……?」
「は?」
ちょうど太陽を背にした祐麒は、水の滴が太陽の光線を反射していて、見上げる志摩子からすると神々しく光り輝いて見えたのだ。
「ああ……」
「ええええええっ、なななな何事っ!?」
いきなり祐麒の首に腕を回して抱きついてきて、胸が押し付けられる。あの、素晴らしいボリュームの胸が。
「ゆ、祐紀ちゃん、志摩子さん、大丈夫っ!?」
そこで桂を始めとするクラスメイト、そして先生がやってきて心配そうに二人に声をかけてきた。
「う、うん、とりあえずは大丈夫みたい……」
志摩子もとりあえず足の痛みもなさそうなので、ゆっくりと手を離して水中に降ろしてやる。
「平気だよね、志摩子さん」
「ええ、ありがとう祐紀さん…………あら」
「ん、どうかした?」
「祐紀さん、胸が」
「胸がどうし……って、うわあああああああああっ!?」
飛び込んだ衝撃で緩んでしまったのか分からないが、いつの間にか水着のブラが外れてしまっていたのだ。当たり前だけど膨らみのない胸に志摩子の手の平が添えられて隠れているが、そういう問題ではない。
「お約束ぅうぅうぅぅぅっ!?」
ざぷん、と咄嗟に水中に体を隠し、顔だけ出して周囲の様子を窺う。見られたとすると、大きな問題なのだが。
「――――っ!!!」
プールサイドでは、多くの女子生徒が蹲って鼻をおさえていた。一部には鼻血を噴出させている生徒もいる。
中には寮生の子もいて一緒にお風呂に入っていたりもするはずなのだが、ハプニングでのポロリにやられたということか。いや、そもそもポロリも何も、何もない胸なのだが。
こうして、大騒ぎはあったもののどうにか水泳の授業は終わった。
水着から苦労して制服に着替えて更衣室を出ると、外には志摩子が立っていた。
「志摩子さん?」
「祐紀さん、さっきは助けてくれてありがとう。改めて、お礼を言いたくて」
「そ、そんな、気にしないで。あの、そ、それより、私の胸のことなんだけど……」
直接触れられてしまった志摩子にはバレてしまったのではないだろうか。とにかく、それが気になって仕方がないのだ。
果たして志摩子は。
「……大丈夫です、誰にも言いませんから」
ぽっ、と頬を赤く染めてそんなことを口にする。やはりバレてしまったのかと、がっくりと肩を落とす祐麒だったが。
「気を落とさないでください、パッドで底上げの胸がつるぺたなことくらいで、祐紀さんの魅力は損なわれませんから!」
拳をぎゅーっと握り締め、可愛らしく迫ってくる志摩子。
「…………はい?」
「あんなに水着にパッドを重ねて……確かに祐紀さんの胸は平らだったけれど、中心に咲く蕾はとても可憐に」
「ちょ、ちょ、何言ってるの志摩子さん!?」
「二人の秘密……ですね」
秘密も何も、寮生ならお風呂で見られているのだが……いや、あれは偽乳だったか。とにかく、志摩子は何やら桃色の吐息をつき、どこか憧憬の目で祐麒のことを見つめてくる。
「ふふ、いずれにしても私の命を助けてくれた祐紀さんは、私にとっての女神さまみたいなものだわ」
「お、大げさだなぁ」
「そんなことないよー、祐紀ちゃん、颯爽とプールに飛び込んですんごいスピードで泳ぐ姿は格好良かったぁ。またファンが増えたよ、絶対に」
いつの間にやってきた桂が、興奮気味に拳を振り上げる。
「志摩子さんを助けた時も、凄かったし……それに引き替え、あたしは何にもできなくてごめんね、志摩子さん」
「そ、そんな。私が勝手に溺れただけだもの、桂さんが謝ることなんてないわ」
しょんぼりする桂を慰める志摩子。
桂が来てくれたおかげで志摩子との妙な雰囲気も払拭されて安堵する祐麒であったが、これから先、志摩子には少し注意した方が良いかもしれない。とりあえずバレはしなかったようだが、胸に触れられてしまったことは事実だし、そのうち山百合会に入って触れ合う機会も増えることになるはずだから。
「はぁ……私も寮に入れば良かったわ。そうすれば、祐紀さんともっとお近づきになれたのに」
「で、でも、同じクラスなんだし、ねぇ?」
「そーだよ、あたしももっと志摩子さんと仲良くなりたいなっ」
ぎゅっ、と志摩子の手を握りしめて笑顔を振りまく桂。そんな桂の行動に驚いたのか、目を丸くする志摩子。
「あ……う、うん、ありがとう。私なんかと仲良くしてくれるの……?」
「えーっ、当たり前だよっ。てゆうかあたし、ずっと志摩子さんと仲良くなりたいって思っていたんだもん」
「ど、どうして……? 私、そんな面白い話もできないし、一緒にいてもきっと楽しくないと思うし」
やたらとネガティブな発言ばかりする志摩子に、桂はきょとんとする。
「えっ、なんで? そんなの一緒に居てみないと分からないじゃない」
「え……」
まだ、信じられないというような顔をしている志摩子。志摩子は今まで、自分の居場所というものを見つけられないでいた。それは家庭環境であったり、そもそもの性格であったり、幾つかの要素が絡まり合ってのものだったが、自分が異分子である気がしていた。そんな志摩子の雰囲気が表に出ていたのか、周囲のクラスメイト達も必要以上に近寄ってこようとはしなかった。それがより一層、志摩子の気持ちに拍車をかけていたわけだが。
「大丈夫だよぅ、こうして話しているだけでもあたし、楽しいもん。あ、でも、志摩子さんが楽しいかは別か……あ、じゃあ、こう考えたらどう? あたしみたいに冴えない子が隣にいれば、志摩子さんの美貌が更に際立つとか!」
「桂ちゃんは冴えなくなんかないよ、すっごく可愛いよ!」
「そ、そうよ、桂さんは可愛いわ!」
ほぼ同時に、桂の言葉に強く反論する祐麒と志摩子。
「う、うわ、そんなにあたしのこと、持ち上げないでよー」
照れて顔を赤くした桂は、気恥ずかしさを隠すかのように手を振って顔を隠し、体をくねらせる。
そんな桂を見て、祐麒と志摩子は顔を見合わせて軽く笑い。
「本当だよ、桂ちゃんは私が知り合ったどの女の子よりも可愛いと思うけれど」
「私も。桂さんみたいな魅力的な女の子、初めてだわ」
「ちょ、ちょっとやめてよ二人ともー、なんでそんなこと言うのよ~~~っ」
ますます顔を赤くする桂を見て、思わず声をあげて笑ってしまう祐麒と志摩子。
そこで志摩子は気が付いた。
自分が、こんな風に大きく口を開けて笑ってしまうなんて、果たしていつ以来だろうかと。深く考えることなく、ごく自然とお腹の奥からこみあげてきた笑いは慣れないものだったけれど、とても気持ちが良い。
もたらしてくれたのは桂だけれど、きっと、『祐紀』という太陽がいるからこそ桂が輝き、そしてまた志摩子にも笑みをもたらしてくれたのだろう。
ちらりと『祐紀』に目を向ける志摩子。
桂とじゃれあっている姿はごく普通の女子高校生にしか見えないが、他の誰も持っていない何かを持ち合わせているように、眩しく輝いて志摩子には見えた。
この人と一緒にいれば、自分も変わることができるのではないか。
志摩子は、強くそう思ったのであった。
とある一室。 壁一面が巨大なモニターとなっている中、優雅にソファに腰を下ろして画面を鑑賞している一人の女性。
写されているのは、青空のもとで健康的な水着姿を晒している女子高校生の集団。その中でも、一人の生徒にスコープがあてられている。
映像は進み、やがて。
『胸がどうし……って、うわあああああああああっ!?』
祐麒の水着のブラが外れてしまい、慌てて胸を腕でおさえるシーンが再生された。角度のために露わになった胸は見えていないが、恥じらう祐麒の姿は十分に撮れている。
「――っ!? ふ…………ふふ、GJよ、アンリ」
映像を巻き戻し、再生させ、一時停止して凝視しながら鼻にティッシュを詰め込んでいる祥子。
「こ、これは盗撮などではないわよ。ゆ、祐紀は可愛いから、誰に狙われるとも分からないので、こうして不審者がいないか確かめているのよ……あぁ、祐紀、恥じらう姿もなんて可愛らしいのでしょう……」
鼻血どころか涎まで垂れ流さんばかりの痴態を晒す祥子を見て、アンリはため息をつくのであったが。
(……あたしも後でダビングしよ…………)
考えることは同レベルであった。
第四話 ③につづく