祥子は普段、噂話の類には興味を持たない。だがそれは、噂話を聞かないということとイコールではない。近くで噂話がされていればごく自然と耳には入ってくるし、その内容を理解することも、覚えておくこともできる。ただ、嘘か本当かも分からないような噂話を気にする必要性を感じないし、興味も覚えないのだ。
無責任な中傷はもちろんのこと、事実だったとしても、陰でこそこそと言っていることが気に食わない。リリアンの女子とてお年頃、様々な噂に興味津々という気持ちも分からなくはないから、ささいな、可愛らしい噂について、取り立てて諌めようとか、注意しようとかいう気は起きない。ほとんどのものは、笑って済ませられるようなものだから。問題があると判断した時は、山百合会の人間として注意をすればよい。そして祥子個人としては、噂話というものに興味を覚えないのだから、学園内でささいな噂話が流れようと問題はないはずだった。
しかし、さすがに自分自身が話の主題となると、他の噂話の類とは異なり、多少なりとも気になってくることは事実。それでも、いつもは大抵、紅薔薇さまである祥子に憧れる生徒達の、尊敬や憧憬混じりの話であるので、聞き流しているのだが。
その話が祥子の耳に入ったのは、ある日の放課後のことだった。
学園祭も無事に終わり、学園内も落ち着いてきて、日常的な噂が再び流れ始めそうな時期といえば、そうともいえるような頃。
「花寺の生徒会長さん、素敵だったわね」
「ええ、去年の方とはまた異なって、親しみやすそうで、どこか可愛らしくて」
花寺の生徒会長といえば、今は福沢祐麒のことである。その祐麒のことが、女子生徒の話題になっている。毎年、この時期は学園祭のゲストとして花寺の生徒会、特に生徒会長を中心にリリアンを訪れるので、恒例のことといえば恒例なのだが、なんとなく気になって祥子は耳をすませた。
学園祭より前から、ひょんなことから祐麒と触れ合う機会が増え、学園祭の準備期間中から学園祭当日に至るまで、幾つかの出来事が発生し、祐麒との距離感に祥子は少し戸惑っていた。
男性恐怖症の祥子であるが、祐巳の弟で、雰囲気も祐巳に似ているということもあり、祐麒とは比較的、接しやすかった。そして、小笠原家でのパーティ、胡蝶蘭の贈り物、温室でのアクシデント、そういった様々な出来事を経験して今、祥子の心中は自分自身でも把握できないような状態となっていた。
ただ、こうして祐麒のことが話題に上がっているのを知り、つい聞き耳を立ててしまうのは事実。行儀が悪いことと思いつつも、足はその場を動かない。
「誰か、お付き合いされている方とかいるのかしら」
「さあ……でも、山百合会の方たちとは仲良さそうでしたわね」
思わず、息をのむ。
女子生徒たちはすぐ近くに祥子がいることなど気がつく様子もなく、お喋りに話を咲かせている。やはり女の子は、恋愛の話は大好きなのか。
「そういえば、紅薔薇さまと一緒のところをよく見ましたわ」
一際高く、鼓動が跳ねる。
「あ、言われてみれば私も。学園祭の準備のためでしょうけれど、お二人でいられるところをみました」
「とても仲良さそうでしたわ」
まさか、自分と祐麒のことがその様に他の生徒から見られていたなど思っていなかった祥子は、話を聞きながら頭の中が混乱し始める。
確かに、祐麒と一緒にいることは、他の花寺の生徒と比べて多かった。というか、男性嫌いである祥子にとって、祐麒が唯一、近くでまともに話すことのできる相手であった。祐麒との間に色々なことがあったとはいえ、その事実に変わりがあるわけでなく、そうなってしまうのはある意味、当り前のことでもあった。
「……もしかして紅薔薇さまと祐麒さま、お付き合いされているとか」
一人の女子生徒がそのようなことを口にして、祥子の顔に血が昇る。
事実は異なるのであるが、周囲からそう見られているのかと考えるだけで、恥ずかしさで頬が熱い。
「でも、紅薔薇さまと祐麒さまでは、失礼ですけれど、つり合いがとれないのではないかしら?」
「そうですね、何と言っても紅薔薇さまは小笠原家の……溢れる気品、身目麗しき立ち姿、非の打ちどころのないお方」
「祐麒さまには、私のような、ごく普通の女の子の方が似合うのではないかしら」
「あらやだ、結局のところ、それが言いたかっただけでしょう。貴女、祐麒さまのことをお慕い申し上げているの?」
「そ、それは、あの」
華やかな小鳥たちの囀りのように、女子生徒達のおしゃべりは続いていく。
しかし、祥子の耳には既に届いていなかった。
週末、祥子は大きな鏡の前で立ち尽くしていた。
「ちょっと、アンリ!」
「はい、なんでしょう、お嬢様」
祥子から少し離れた場所に佇んでいる、メイドの格好をした女性が、かしこまって聞き返す。
「これは、何、どういうこと」
「はい、お嬢様に言われたとおり、色々とリサーチした結果です」
「こ、これが……」
アンリと呼ばれたメイドは、ただ静かに見守っている。
見た目的には祥子よりかは少し年上、20歳前後くらいで、ダークブラウンの髪を肩くらいの長さでそろえている。
「コレが、普通だと?」
一方、祥子の方はといえば。
純白のブラウスに真っ赤なリボン、上からアイボリーホワイトのスクールベスト。更に赤を基調としたチェックのプリーツスカートは太腿も眩しいミニで、脚にはホワイトのハイソックス。更に漆黒の長い髪の毛は、後ろで一つに束ねられている。
そんな自分自身の姿を鏡で見て、祥子は体を震わせていた。
「はい、今どきの、ごく普通の女子高校生のスタイルを研究しました。これであれば間違いなく、普通かと」
アンリはあくまで気真面目な表情で、気真面目に答える。そこまで真剣な表情をして言われてしまうと、祥子としてもそれ以上の疑問を口にすることもできなかった。
何しろ、そもそも命令をしたのが祥子自身なのであるから。
あの、女子生徒達の話を耳にして、祥子は思ったのだ。
祐麒と祥子ではつり合いが取れない? 祐麒にはもっと普通の女の子の方が似合うのではないか? それでは、祥子は普通の女の子ではないとでもいうのか?
もちろん祥子とて、自分が小笠原家の娘であり、他の同年代の女子と異なる部分があることは理解しているつもりだ。だが、それはあくまで立場や環境、家の問題であって、祥子自身は、一人の女子高校生として変わりないと思っている。売春や援助交際などをしているような一部の女の子達はのぞいて。
それだけに、同じリリアンの女子生徒に、祥子が他の生徒たちと違う、というように思われているのは、少なからず衝撃を受けていた。
だから、家に帰って使用人であるアンリに命じたのだ。
今時の普通の女子高校生というものを調べ、祥子を今どきの女子高校生にしろと。
その結果が、これである。
もう一度改めて鏡で姿を見て、羞恥に体を震わす。襟を指でつまみ、わずかに見える、首筋から鎖骨へのラインをなぞる。
「だ、大体、どうして胸元のボタンをきちんととめないの。だらしなくはない?」
「それが、今どきですので」
ミニスカートからのぞく太腿を手でおさえる。
「こんな、短すぎるのではなくて?」
「それが、今どきですので」
後ろで束ねた髪の毛に手をあてる。
「なんで、髪の毛まで、こんな風に?」
「それは、好みです」
「……はぁ?」
こうして、今どき(?)の格好をした女子高校生、小笠原祥子が誕生したわけである。もともと美貌を誇る祥子であるから、そのような格好をしたところでいささかも美しさが損なわれることはなく、むしろ上品さと親しみやすさ、微妙なミスマッチ感からくる普段は感じられない色っぽさなどが醸し出されている。祥子ファンが目にしたなら、卒倒ものではなかろうかと思われるくらいである。
しかしながら祥子自身は、満足している様子はなかった。
「こ、こんな短くてひらひらしたスカートでは、階段とか上っているとき、下着が見えてしまうではないの」
顔を赤くして憤慨する祥子。
「そういうときは、鞄でガードをするのです」
「だ、だとしても、こんな格好をして外を出歩けるわけないじゃないっ」
自分の格好が気になるのか、もじもじと体を動かし、落ち着かない様子の祥子。特に、短いスカートの裾と、そこから伸びる脚を気にしているようだった。
「はい、そう言われると思いまして、その辺はぬかりありません」
「? どういうことかしら」
「こちらにいらしてください」
アンリが先に立って歩き出す。
不審に思いながらも、祥子は後をついていく。着替えの部屋から出るとき、つい、廊下に誰かいないか確認をしてしまう。今日は父も母も外出していないことは分かっていたし、他の使用人もしばらくは立ち入るなと言ってあるから、大丈夫ではあるはずなのだけど、それでも警戒をしないわけにはいかない。こんな姿を見られたら、なんと言われるかわかったものではない。
目の前を歩くアンリにだって、本当は頼みたくなかったが、使用人の中で一番、年齢が近いのがアンリだったのだ。
「こちらです」
「こちらって……私の部屋じゃない」
連れてこられたのは、祥子自身の私室だった。
どういうことかと首を傾げるが、アンリはすました表情で、何を考えているのか読み取ることは出来なかった。
「どうぞ、お入りください」
「……分かったわ。どうせ、私の部屋ですもの、着替えるのにもちょうどいいわ」
今の格好に着替えるのだって、別に自分の部屋でよかったのだが、アンリに連れられて別室で着替えていたのだ。
アンリには申し訳ないが、やはり今の格好を続けるということは考えられなかった。部屋で、さっさと着替えてしまおうと扉を開いて中に足を踏み入れると。
「――え?」
思わず、立ちすくむ。
「お嬢様でしたら、きっとあのように言われるだろうと思いまして、先にお呼びしておきました」
背後からアンリの声が聞こえたが、耳を素通りしていく。
何せ、部屋の中、中央のローテーブルの前に座っていて、扉が開くと腰を浮かせて祥子の方を見つめてきたのは。
「ゆ、ゆゆ、祐麒さんっ!?」
なぜ、どうして、いつの間に部屋に、そんな言葉が渦巻く。
「え、あれ、あの、祥子さん?」
祐麒の方も、驚いている。
「ああああアンリ、どういうことなの!?」
くるりと後方に向き直って部屋の外に出ると、メイドの両肩を掴んで詰め寄る。アンリは相変わらず表情も変えず――いや、ほんのわずかに頬笑みを浮かべ――口を開いた。
「本日の朝、お迎えに上がり、来ていただきました。お嬢様、祐麒さまにそのお姿をお見せしたかったのでしょう?」
「な、な、ななっ――」
口をぱくぱくさせつつ、一気に顔が真っ赤になる。
そうこうしているうちに、今度は逆にアンリに両肩をつかまれると、くるんと反回転させられ、背中を押される。
「ちょ、な、何を、アンリっ」
文句を言うが、お構いなしにぐいぐい押され、部屋の中に戻されそうになる。懸命に足を踏ん張って抵抗しようとするが、何せ体勢がよくない。
「お嬢様、あまり暴れると、裾が乱れますよ」
耳元でささやかれ、思わず両手でスカートの裾をおさえる。その、力の抜けた瞬間を見逃さずにアンリが最後の一押しをすると、祥子はよろけるようにして部屋の中に入っていく。背後で、すぐに扉が閉ざされる。
「ちょっとアンリ……え、なんで開かないのっ!?」
室内からかける鍵なのに、扉が開かないのだ。間違いなく、外でアンリが何かをしかけたのだろう。
焦りながら、何度も試してみたけれど、どうしたって開く気配は見えない。
そして、そんな祥子の背中に声がかけられる。
「あの、祥子さん? ええと」
状況を理解できていないのであろう、なんともいえない表情で、祐麒が祥子のことを見つめていた。
「えっと、なんか祥子さんから緊急で用事があると言われて、来たんですけれど……」
「は、は、はいっ」
とは言われても、実際にはそんなつもり全くなかったのだから、どうしたら良いのか祥子自身、分からない。
「あ……と、そういえば、その格好」
「はっ!? い、いえ、あの、これはですね違うんですっ、その、近々開催される予定の仮装パーティの」
「すごく、可愛いですね。似合っていますよ」
「予行演習として着させられ……えっ? な、な、何かっ!?」
「いえ、だから、可愛いなって……あ」
言った後、自分の言葉が恥ずかしくなったのか、赤くなって口を閉じる祐麒。
一方の祥子はといえば、耳まで赤くして、湯気でも立ち昇らんばかり。逃げてしまいたいくらいなのだが、ドアは外から封鎖され、室内で祐麒のいる中で着替えるわけにもいかず、慣れない服装にもじもじするだけ。
それでもようやく、二人とも立ったままであることに気が付き、どうにか腰を下ろすことを勧める。
祥子もクッションの上に座るが、短いスカートの裾が気になって仕方がなく、手で太腿の上をおさえこむ。
「でも、仮装パーティで、そういう格好するんですね。仮装パーティというと、仮面舞踏会のようなものを想像しちゃいました」
「は、はあ、そうですよね。私もやはり、この格好はどうかと……」
「髪型も、いつもと違って、印象が随分と違って見えました」
「こ、これも、私は」
「だけど俺、好きですよ」
「すっ――――」
突然のその言葉に、頭の中が真っ白になる。
脳裏で繰り返される、祐麒の声。
"好きですよ"
"好きですよ"
"好きです"
"祥子さんのことが、好きです……"
心臓が倍速で動き出し、変な汗が額に浮き上がる。
「ポニーテールって、何か惹かれるものがあって」
いやいや、簡単にのみこまれるなと、心の中で警鐘を鳴らす。大体、胡蝶蘭の花言葉だって、行き違いがあっての誤解だったではないか。
でも、今の言葉は祥子の目の前で、祐麒本人の口から出たことだし、いくらなんでも、それで人をからかうなんてことしないだろう。
「そ、それは、本心からのことですか?」
「え? は、はい。嘘とか、お世辞ではないです」
「そ、そそっ、そう、ですか」
祥子は完全にテンパっていた。何せ、目の前で告白された(と、思いこんでいる)のだから。
様々な名家の子息から求婚をされたことなら、今までに何度かあるが、それについては現実味などまったくなかったし、そもそも祥子自身にその気もなかったので、なんとも思わなかった。優の存在を口実に、適当にあしらってくればよかった。
しかし今、目の前の祐麒からの言葉には、本人が驚くほどに動揺していた。なぜ、自分はこんなにも慌て、心が揺れ、落ち着かないのか。
「あ、そういえば」
「は、はいっ!?」
祐麒の一言、一動作に、過剰に反応してしまう。
どこかおどおどと、祐麒を横目で見る。
「あの、そういえば急ぎの用事って」
「は? …………あ、あの」
一瞬、何のことかと思ったが、アンリがそのように偽って呼び出してきたのだと思いだす。しかし、そのような用事などなかった祥子は、焦る。どのようにしたらうまく言い繕うことが出来るか、色々と考えるものの、ろくな案が出てこない。
「そ……その…………そう、か、仮装ですっ」
「え?」
「か、仮装パーティの相手を、祐麒さんにお願いしたくて」
「相手、ですか?」
「は、はいっ。今度のパーティは男女ペアでの仮装となるので、その相手が必要なのです。す、優さんとはちょっと組めなくて、それで祐麒さんにお願いしようと」
「そうだったんですか。そんなわざわざ、電話とか祐巳を伝ってくださればよかったのに」
「い、いえ、お願いする以上、そのような失礼なことはできません。やはり、こうして直接、お願いするのが礼儀ですから」
信じられないような嘘が、自身の口から紡ぎだされていくのを、祥子はまるで他人のような気持ちで感じていた。嘘をつくことなど嫌いなはずなのに、どうして、すらすらと出てしまうのか。分からないけれど、止めることもできない。
「返事は、急ぐんですよね」
「はい、その、実は今日が締め切りで」
何の締め切りだと、内心では自分に突っ込みをいれるが、祐麒は疑う様子もない。心苦しくも思うが、それ以上に、祐麒の返答が気になった。
「ちなみに、いつ、開催されるんですか?」
「えっ?」
「いえ、ですから、そのパーティ。日程が分からないと、すぐには」
「そ、そうですよね。ええと、そう、クリスマスイブです」
咄嗟に、開催されるパーティを思い浮かべて口にする。
「……でも、俺なんかで良いんでしょうか? なんか場違いじゃ」
「そんなことありません! だって……祐麒さんも、私も、何も変わらないじゃないですか。同じ、普通の高校生、ですよね」
思いがけず、強い勢いでそう言っていた。祐麒も、驚いた表情で祥子を見ている。数秒ほど、息が苦しくなるような時間が続いた後、穏やかな表情で祐麒は口を開いた。
「はい、分かりました。俺で祥子さんのお役に立つのなら」
「それは、もちろん」
「それで、あの……」
何か言いにくそうにしている祐麒の視線を追ってみると。
知らぬ間に、祐麒の手を強く握っていた、自身の両手。
「すす、すみませんっ、痛っ!?」
慌てて両手を離したら、右手をローテーブルにぶつけてしまい、あまりの痛みに思わず涙目になる。
その後も、祐麒が小笠原家を辞すまでの小一時間ほど、まったく落ち着きのない祥子であった。
祐麒が帰って行ったのを見届けた後、祥子は困り果てていた。
どうにか乗り切ったものの、思い切り嘘をついてしまった。クリスマスイブにパーティが開催されるのは事実だが、普通のパーティで、仮装の趣向などなければ、カップルでの参加義務もない。そもそも、仮装パーティ自体、今までに経験がない。
素直に嘘だったと謝るべきか、だけどそうすると、家に呼んだ理由を説明できない。使用人が勝手にやったことだと言っても、それでは責任をなすりつけているだけのこと。使用人の行動には、主人が責任を持つべきなのだ。
「ああ、どうしましょう」
妙案もなく、うろうろしていると。
「ご安心ください、お嬢様」
いつの間にか、アンリが側に来ていた。
「あ、アンリ、貴女ね、どういうつもりで」
「ご安心ください、今年のクリスマスパーティは、仮装パーティと相成りましたので。さすがに、男女ペア限定まではしませんでしたが」
「……え?」
「変更しておきました。招待状もこれからですので、充分に間に合います」
「そ、そう……それは良かったわ」
胸をなでおろす。
「はい、これでお嬢様も、晴れて祐麒さまと参加することができます」
「ええ……って、アンリ!」
「でも、さすがにその格好での参加は、控えた方がよろしいかもしれませんね、ふふっ」
悪戯っぽい笑みを浮かべるアンリ。
怒ろうとしたところで出鼻をくじかれ、あまつさえ服装に突っ込みをいれられ、またしても全身を赤くする祥子。果たして今日、何度目か。
「あ、あ、アンリ――――っ!」
そう、口にした時には、いつの間にか姿を消しているメイド。
怒り先を失い、もやもやの晴れない祥子。
だが、とにもかくにも。
「クリスマスイブのパーティに、祐麒さんと……」
それは、なし崩し的に決まってしまった。
どのようなパーティになるのか、それは予測もつかない。
だけれども。
この、胸の鼓動は、それを楽しみにしているのか、不安に感じているのか。
不思議な感情を持て余している今の祥子には、まだ、わからないのであった。
おしまい