聖と景という二人の美女と出会ってから一週間後の土曜は、曇り空だった。
先週にゲームセンターで思っていた以上の出費をしてしまったため、この週末は特にどこへ行くでもなく家でゴロゴロしていようと思っていたし、事実、ゴロゴロしていた。
しかし、最後までそううまく行かないのが世の常で。夕方になって父親に呼ばれ、何事かと思って事務所に向かうと、お使いを頼まれてしまった。急ぎの用事で、書類をとある場所まで届けてほしいとのこと。父は仕事で抜け出すことができず、その書類も、どうしても今日中に届けなければならないらしい。
祐巳は友人とどこか出かけてしまっており、また来客があるということで母も家を出るわけにいかず、祐麒が行くしかないというわけであった。
もともと、特にやることもなかったので素直に頷き、書類と、行き先を教えてもらう。お使いとはいえ、最低限の身だしなみはするようにということで、シャツにスラックス、ブレザーという格好に身を包んで家を出て相手先に向かう。
バスに乗って駅まで出て、電車を乗り継ぎ、目的の駅に到着して改札を出て歩きだしたところで、思わず目を見張る。
「あらー、これまたなんか偶然」
相手もまた、驚きの表情を浮かべている。
それもそのはず、先週に会ったばかりの聖と景であったから。この前とは違う場所、違う時間だけど、珍しい偶然。
「どうしたの祐麒、おめかししちゃって。ひょっとしてデートかにゃ?」
「そういうお二人こそ」
祐麒はともかく、聖と景の二人も祐麒の言葉通り、先週とは随分と雰囲気が変わっていた。
ボーダーのシャツにショートパンツはいずれも黒を基調としたモノトーンコーデ。ロングカーディガンにカラータイツをあわせ、沈んだ感じを見せないアクセントを見せている。そんな格好をしているのが聖。
一方の景はというと、オフホワイトのトップスに、コーラルピンクのペチスカートの上に同じ白のペチスカート。白の下からピンクが覗いて見えるのがポイントか。上から淡いオレンジのベスト、そして足元はブーツ。
二人とも、先日のラフな格好に比べてみると随分と雰囲気も違って見える。もっとも、元の素材が良いのでラフな格好であったこの前の時も、充分に眩しいわけだったのだが。
祐麒の、とりあえず身づくろいしました、という格好とは全く次元が異なっている。
「俺は、ちょっと父親の用事で」
と、手にした封筒を見せつつ、向かうべき場所を口にすると。
「――そこって、あんまりガラの良くない場所よね、特に夕方から夜は。変な場所に足を踏み入れなければ、別になんてことはないと思うけれど……」
景が軽く眉をひそめる。
「じゃあ、いいこと思いついた。あたしたちが祐麒についていってあげればいいんじゃない?」
「そんな、大丈夫ですよ、男ですし」
女性である二人についてこられるなんて、それでは立場が逆である。確かに祐麒はまだ高校生で、二人から見れば頼りないのかもしれないが、そこまで情けなく思われたくはなかった。
毅然として断ったつもりだったが、なぜか景が苦笑いしながら聖のことを見ていた。
「そんなこと言って佐藤さん、ちょうどいい言い訳を見つけただけでしょう」
「いやいや、あたしは祐麒のことを心配してだね」
「??」
訳が分からずに首を傾げたが、時計を見ると、あまり油を売っている時間はなかった。取り急ぎ二人に頭を下げ、届け先に行こうと歩き出すと、二人とも後をついてくる。本当に、一緒に来るのだろうかと不思議に思っていると、歩きながら景が説明してくれた。
実は今日はこのあと、本当なら合コンに参加する予定なのだとか。聖は全く乗り気ではないのだが、色々と人間関係やら、都合やらがあって参加することになってしまった。本人は当日である今日になっても渋っていたのを、景が引っ張ってきたということらしい。
「……うん、ごめん、そういうわけであたしとカトーさんはいけなくなっちゃった。本当、申し訳ない……ん、代理、大丈夫そう? よかった。それじゃあ、この埋め合わせはそのうちするから」
さっさと断りの連絡を入れている聖。どうやら、代わりの人がつかまったようだけど。
「ええと……加東さんは、よかったんですか。合コン?」
「あー、いいの。実は私も、ただの人数合わせだから。本当は合コンとかそういうの、苦手で」
気にしなくていいと、手をぱたぱたと振る景。
しかし、と祐麒は思う。
こんなに美人の二人が来なくなるなんて、合コンに参加する男子メンバーはさぞかしガッカリするだろうなと。他にどんな女性が参加するのか分からないが、この二人よりレベルの高い女性がそうそう集まるとも思えない。
二人の付き添いを得て、書類の届け先のビルにたどり着く。確かに、繁華街の奥にあって、あまりガラの良くない土地であった。相手先はきちんとしたところらしいが、周囲にサラ金らしき事務所や、風俗の店があったりして、あまり居心地の良い場所とは言えなかった。
無事に目的地にたどり着き、相手に書類を渡し、特に何事もなく終わる。ビルの下で待っていた二人のもとに戻り、頭を下げて礼を言う。あっという間に終わってしまい、ついてきてもらったのが申し訳ないくらいであった。
「だから気にしなくていいのよ、別に。勝手についてきただけだし」
「そうはいっても、祐麒は気にしちゃうよねぇ。それでどうだろう、早く終わったことでもあるし、申し訳ないと思うならあたしたちと一緒に食事でも行かない?」
「でも、合コン行くの、やめたんですよね」
あえて、祐麒と食事に行く必要性があるのだろうかと、訝ってしまう。すると、不意に聖が肩を抱いて祐麒の体を引き寄せた。体が密着し、ほのかな香水と化粧の匂いに、くらくらしそうになる。
昨日とさほど変わらないくらいの化粧だというのに、まるで違って見える。そして、こうして近くで見つめると、整った顔立ちに改めてどぎまぎしてしまう。
「合コンは別に行きたくなかったけれど、祐麒と食事に行くのは嫌だとは言ってないじゃん。それとも何、おねーさんたちとの食事は、嫌?」
「そそっ、そんなこと、ないですけど」
顔が赤くなるのを自覚しながら、反論する。
聖は、すべてお見通しとでもいうように声を出さずに笑い、そんな態度を景にたしなめられた。
結局、祐麒は家に連絡を入れ、無事に書類を届けたことと、道行きで偶然に友人と会ったので、一緒に食事をするとことわりをいれて、二人とともに食事をすることにしたのであった。
店選びは二人に任せ、連れていかれたのは個室居酒屋とでもいう店だろうか。テーブルが個室のように簡単に仕切られていて、他の客と距離が置かれて少人数で入るにはちょうど良いといった感じ。
初めて入る居酒屋に、そして目の前に座る聖と景にやや緊張しながら、おしぼりで手を拭く。
店員さんに、とりあえず生3つと注文した景に、思わず祐麒は文句を言う。
「あの、明日学校があるんですけど、っていうか、そもそも高校生なんですけど」
「あ、そうか」
「まあいいじゃん、頼んじゃったものは。祐麒だって、一杯くらいいけんでしょ、いまどきの高校生なら」
まったく気にした様子もなく、聖はお通しに箸を伸ばす。確かに、自宅ではたまに父親にすすめられて酒を口にすることはあるが、こういう外の場で飲んでしまっていいのだろうか。もし、学校関係者に見られたら問題ごとであるが、いまさら何を言ったところで遅いしどうしようもないし、そこまで堅いことを言って白けさせるつもりもない。そもそも、聖だって未成年のはずだから。運ばれてきたジョッキを各自手に取り、お決まりの乾杯をして泡に口をつけると、まださほど慣れていないし特別に美味しいとも思えない苦みが喉を通り過ぎてゆく。
「やー、でもまさか、また祐麒と会うとは思っていなかったね」
「そうね、偶然ってあるものね」
二人が喋り始める。
話をするのは聖の方が多かったが、景も決して話さないというわけではなく、適度に相槌をうったり、突っ込みをいれたり、必要があれば自分から話したりもする。そして年上らしく祐麒にも気を遣い、二人だけしか分からないような会話はしてこない。
適当に頼んだ料理が運ばれてきて、それらをつまみながら、会話は弾む。年上で、異性ともなると、なかなか話す機会もないのだが、意外なほどに話が合った。
ひょっとすると、単に祐麒にあわせてくれているだけなのかもしれないが、それでもこれ程に楽しい会話というのは、なかなか記憶にない。
アルコールを摂取して気分がハイになっていること、相手が美人だということ、それらの相乗効果もあるのだろうが、男の友人と一緒にいるときとは異なる楽しさが、祐麒を心地よく包んでいた。
途中、手洗いに中座した景が戻ってくると、ほんの少しだけ目を見開き、その後にそそくさと祐麒の隣に座った。それまで聖と景が二人で座っていた座席の真ん中に、どっかと聖が腰を下ろしていたからである。
「おー、そうして二人並んで座っていると、なかなかお似合いだよー。ほらほら景さん、お酌してあげないと」
「はいはい。さ、どうぞ、祐麒クン」
「あ、ど、どうも」
と、つい注がれるままに、お猪口で日本酒を受ける。さすがにこれはまずいだろうと思いながらも、「あら、私からのお酒は飲めないの?」とにこやかに景から言われては、飲まないわけにはいかなかった。
楽しい時間というのは瞬く間に過ぎゆくもので、名残惜しくも帰る時間がやってきた。明日、大丈夫だろうかという心配がなくもなかったが、そんなつまらないことを考えるよりも、今を楽しむ方がよほど大切に思える。
今日に会ったのだって偶然のことだし、ひょっとしたらこの先、もう会うこともないかもしれないのだから。
「それじゃあ、私はここで。本当に大丈夫、祐麒くん?」
駅で一人、異なる方向に行く景が心配そうに見つめてくる。
「だいじょーぶだって、あたしがついているから。ねえ祐麒?」
「……ってか、貴女の方が心配なのよ」
酔っ払って少々呂律のあやしくなった聖が、祐麒の首に腕をまわし、絡みついている。祐麒は苦笑して、景に頷いた。
お酒に弱いというわけではないらしいが、飲み方が悪い。今日なんか、ビールにカクテル、ワインに日本酒と、様々なアルコールをちゃんぽんしているのだから、悪酔いだってするものだろう。
足元もふらつき、かなり見ているのも危なっかしい聖を、祐麒が自宅まで送っていくことになった。初めは景が送ると言っていたが、男だからと頑固に言い張った。
「それじゃあ、よろしくお願いするわ。今日は楽しかったわ、またね」
手を振り、ウィンクを寄越してきたのは年上の女性の余裕だろうか。景は黒髪を軽く揺らしながら、消えていった。
残されたのは、祐麒ともう一人の酔っ払い。
「失礼だな、あたしは酔ってないろ」
「はいはい、それじゃあ行きますよ」
あっちにふらふら、こっちにふらふらと、落ち着かない聖の手をどうにか引っ張って、ホームまで連れてゆく。
ちょうど滑り込んできた電車に乗り込み、空いている席に並んで腰を下ろす。土曜の夜ということで、電車が混雑しているかと思ったが、幸いにも座ることができて正直、祐麒としても助かった。
「おっかしいなー、こんなに弱かったかなぁ?」
「だから、飲み方が悪いんですって」
何度交わしたか分からない会話。聖はまだ納得いかないように、首を振っている。
やがて扉が閉まり、ゆっくりと電車が発進する。
ゴトゴトとゆるやかな揺れに揺られていると、途端にぬるま湯のような心地よさが全身を包み込んでくる。どうしてこう、電車の揺れというものはこんなにも気持ちが良いものなのか、これは永遠の命題ではないかとくだらないことを考える。
しかし、乗っているのは四駅ほど。寝てしまうと怖いので、どうにか眠気を追い出そうと思い、とりあえず隣に座っている聖と話でもして紛らわそうかと口を開きかけたところで、鼻先に清涼感のある匂いがつきつけられてきて、のけぞりそうになる。
何か、と思ったら、聖の頭だった。
「…………」
どうしたのか、なんて聞くまでもなかった。聖は祐麒の肩に頭をのせて、心地よさそうに小さな寝息を立てていた。
頬をくすぐるようにして聖の髪の毛が揺れ、そこから良い香りがしている気がする。本当ならきっと、単に酒臭いだけかもしれないのに、なぜ、そう感じるのか。
電車が揺れると、時折、身を動かすそぶりを見せるが、起きる気配はない。いったい、どんな寝顔をしているのか気になり、顔を覗き込んでみたい衝動に駆られるが、そうすると肩から頭をどかさなくてはならないので、祐麒は動くことが出来ない。
聖はさらに、体重をかけてもたれてくる。聖の重さを、そこに居るという確かな存在感を、肩で、祐麒自身の体で、受け止める。
まさか、聖がそのような隙を見せるとは思わなかった。だからだろうか、急速に聖の存在を強烈に感じ始めていた。肩から伝わってくる熱が祐麒の体を伝播し、祐麒の体温を上昇させてゆく。
聞こえてくる安らかな寝息。
伝わってくる確かな温かさ。
時間にしてみたらほんの十分ほどのことなのに、祐麒にとってはまるで永遠とも思える十分となったのであった。
夜の街、住宅街の中を歩いて行く。隣の聖は、目覚めた後は意識もしっかりしているようだったけれど、足元は微妙にふらついているようで、やっぱり放っておくわけにはいかなかった。
年上の女性で頼りになって、自分なんかが何かできると思っていなかっただけに、こうしてちょっとした弱みというか、違う一面を見せられて、どこか発奮する自分がいるのがわかる。
自分がしっかりとしていなければ、ちゃんと送り届けねば、なんていう小さな責任感がわき上がって来て、アルコールが入っていることもあってか無駄にハイな気分になる。
もちろん、聖は確かに酔ってはいたけれど、背負ったり、肩を貸さなければいけなかったりというほどではないから、単に一緒に帰っているだけ、という図式にしかなっていないのだが、何しろ女性を家まで送り届けるなんて生まれて初めてのこと、少しくらい騎士気分になっても仕方ないではないかと思う。
「ホント、もういいんだけど、祐麒」
歩きながら聖が言うけれど、祐麒はここまできたらと、きちんと家まで送ろうとする。いくら本人が大丈夫といったところで、最後まで送り届けなければ責務を果たしたとはいえない。
そう、思っていたのだがしかし。
「……なに、ひょっとして送り狼さんを狙っている?」
なんてことを聞いてくる。
慌てて否定する。
「あはは、そうだよね。そんな度胸はないかな。ってか、自宅で親もいるから無理だよ」
「だから、違いますって」
「分かった、じゃあ家の場所だけでもおさえとこうってんでしょ」
「だからー」
「ははっ、冗談、冗談」
聖は笑っているけれど、心の中では「そういう考えもあったか」なんて思っていた。確かに、家まで送っていけば、当り前だが住所を知ることができるのだ。
そう考えると、少しドキドキしてくる。
もっとも、それくらいで聖とどうにかなるなんて都合のいいことを考えているわけではないけれど、小林と話したクリスマスのことを考えると、もしかしたら、なんてこともあるんじゃないかと、妄想だって膨らむこともあろう。
だがまあ、想像してみたところで、どうにも聖と二人で並んで立つ姿が想像できないというか。いや、並んで立つだけなら、今だって並んで歩いているわけなんだけど、どこからみても姉と弟以外の何物でもない。恋人同士、なんて絵にはまったくならないのだ。自分の想像なんだから、もっと都合よく考えられるはずなのに、どうしたって、どんな服装をさせてみても、立ち位置やポーズを変えてみても、そのような雰囲気にはならない。
何度か頭の中で繰り返し、やがて諦めて首をふる。
すると、にやにやと笑って祐麒のことを見ている聖と、目があう。
「な、なんですか」
「いやー、やっぱ姉弟だね。百面相していたよ、何を考えていたのかな~?」
「なっ……んでもないですっ」
ずっと見られていたのかと思うと、急に恥ずかしくなってきた。目をそらすが、その不自然さを見逃す聖ではない。
「なになに、人には言えないようなことを考えていたの?」
「な、なんでもないですよ」
「えー、ケチ、教えてくれたっていいじゃん」
「絶対に、ぜーったいに、言えませんから」
本人を前にして、口にできるわけもない。
「まあいいや、いつか絶対に聞くもんね」
ショートパンツのポケットに手を突っ込み、口の端をあげて祐麒のことを横目で見据えてくる。
その視線を避けるように、祐麒は顔をあげて夜空に視線を投げかける。秋の星空には星座神話の登場人物が多く登場すると聞くが、さして星に詳しくもない身では、ぱっと見ただけではどれが何の星座か分からない。こういうとき、すぐに見つけることができたならば、きっと格好いいのだろうが。
「だいぶ、寒くなってきたね」
「そうですね」
夜になると、いつの間にか寒気が随分と押し寄せてきていることにも気がつく。昼間はまだ、薄手の服装でもさほど問題はないのだが、夜になり、風なんかが吹き抜けたりすれば、思わず首をすくめたくなることもある。昨今の猛暑、暖冬などの異常気象はあれども、秋、冬へと向かうにつれて寒くなっていくことに変わりはないわけで。
今もまた、吹き抜けた風が聖のロングカーディガンの裾をたなびかせた。
「さて、それじゃあ本当にもうこの辺でいいから」
「でも」
言いかけて、止める。
これだけ言うということは、本当に来てほしくない、ということの意思表示なのではないだろうか。あまりしつこくするのも、嫌がられるだけなのか。単なる遠慮なのか。経験のない祐麒には、聖の表情と口調からでは、推し量ることができなかった。
黙ってしまった祐麒を見て、聖はちょっと困ったような表情をして、それから何かを思いついたのか、悪戯っ子のような顔をした。
「わかった、それじゃあここまで送ってくれた良い子の祐麒に、ご褒美をあげるから」
「ご褒美? 別に、そんなののために送って来たわけじゃ」
そこまで言いかけて。
不意に近づいてきた聖の気配に、言葉が固まる。
ふわり、と、まるで綿雪のように気配を感じさせずに近づいたかと思うと、ひんやりと冷たいような、それでいて温かいような、不思議な感触が頬に押し当てられた。
「――え?」
すぐに離れたソレが、聖の唇だということに心は気がついたけれど、気持ちが追い付かない。
「にひひ、今のはホントに貴重かもよ、何せこのあたしだから――んじゃね、送ってくれてありがとう」
してやったり、とでもいうのか、子供のような笑顔を浮かべて、聖は身をひるがえして闇の中に消えてしまった。
あ、と思って後を追いかけたときには既に遅く、聖が曲がった角を覗き込んでみても街灯の光があるだけで、人の姿はどこにも見えなかった。
まるで、最初からいなかったかのように、聖の気配は消えていた。 「えーと……」
立ち尽くす。
ただ、頬に軽くキスされただけ、聖が祐麒に対して何か特別な想いを抱いて実行したわけではないことなんて、理解している。アルコールも入っていたし、祐麒をからかい半分にしたことだと分かっている。
分かっているけれど。
急速に熱を帯びる体は、何も分かっていないかのように、ちっとも言うことをきいてなどくれなかった。
第三話に続く